見えているもの
皆様、新年明けましておめでとうございます。
今年も、ゆる〜く投稿して参りますので、引き続きお付き合い頂けると幸いです。
さて、今回は説明回です。
読み飛ばしても問題ありませんが、一応、今後の伏線になっておりますので、読んでおくと、今後の展開が理解しやすいかもしれません。
◇◆◇
当然であるが、永遠に戦いに勝ち続ける事など出来ない。
となれば、戦争の裏には革命が起こるのがある種必然なのである。
実際、勝っていた頃は良いまでも、敗戦が濃厚となった頃、あるいは戦争によって自国の経済が疲弊した事により、国民が決起して革命が起こる事は歴史的にもしばしば起こり得る事である。
また、こちらも当たり前の話だが、自分の人生の主役は自分自身しかなく、誰かに手助けして貰う事はあるかもしれないが、全ておんぶにだっこという訳にいかないのが当然なのである。
それと同様に、国家や政府の言いなりになると言う事は、ある意味楽かもしれないが、そこには自身の自由とか意思は存在し得ない。
何故ならばそれは、他人に自分の生殺与奪の権を握らせてるのと同義であるからだ。
本来、国家とは人々の集合体であり、国民一人一人が主権者なのである。
で、あるならば、上層部が暴走したのならこれを是正しないのは国民の怠慢であり、極論を言えば国民も上層部と同罪であると言えるのである。
まぁ、ここら辺は、後にやらかした国家や企業の事例を見れば明らかであるが、そうしたある種の牽制機能が上手く機能しておらず、結果全てが台無しになる事もしばしばある。
つまり何が言いたいのかと言うと、本当の意味で自分や家族などを守りたいのならば、時として自分自身が諸悪の根源と戦わなければならない場面がある、という事である。
例え、自分にはさして力がないと分かっていたとしても。
時として物語やゲーム、アニメなんかでは、ヒーローやヒロインが力ない人々を守る、などという展開があるが、それは一見立派な行為にも見えるが、実際にはこれは、無力な人々を量産する行為でしかない。
先程も述べた通り、自分の人生を守れるのは、究極的には自分しかいないのだから、助けられるだけの存在で終わるのではなく、ヒーローやヒロインと並び立って戦う存在にならなければ、それこそ、生殺与奪の権をその誰かからヒーローやヒロインに移動するだけの事なのだから。
そして、アキトはその事を熟知していた。
それは、これまでの彼の行動からも垣間見えるだろう。
少なくとも、エルフ族の開放についても、ヒーバラエウス公国の件についても、ロマリア王国の件についても、彼が“正義の味方”を気取って一人で事を成した事ではなく、もちろん彼が大きな役割を果たした事は事実だが、最終的にはそれに触発された人々が自ら考えて、行動した結果なのである。
これによって、彼らにはある種の自覚が芽生えている。
すなわち、自分達の行動に対する責任感や義務感、つまりは自立心である。
逆に言えば、アキト、すなわちヒーローやヒロインが、その力をフル活用して全部一人で事を成したとしたら、人々にそうした意識が芽生える事はなかったであろう。
与えられたモノは、結局は自ら勝ち得たモノではないから大事に思えないものなのである。
逆に言えば、自らが必死で勝ち得たモノには、誰かに与えられたモノとは比較にならないほど価値があるし、重みがあるものなのである。
ここら辺の考え方が、アキトが一般的な“英雄”像とは異なる点であり、ある意味では分かりにくい点でもあった。
例えるならば、これは以前にも例に挙げた“飢えている者を助ける方法”として考えた場合、アーロスらは単純に魚を代わりに取ってあげる事しか考えていない訳だ。
これは、一時的に飢えをしのげるので人々を助ける事には繋がるが、ではそれを食べてしまった後の事はどうするのかを全く考えていない訳である。
言うなれば、それは一時的な自己満足の行動に過ぎず、今後の事も一切考えておらず、この先ずっと代わりに魚を取り続ける覚悟もないのである。
では、ティアはと言うと、流石にアーロスらほど短慮ではないので、代わりに魚を取って上げるのではなく、飢えた人々に魚の取り方を教えて自立を促すという行動に出る訳だ。
これは、ある程度人々に負担を掛ける事ではあるが、逆に言えば、自分がいなくなった後の事まで考えた行動なので、アーロスらに比べたらまだ配慮があるという考え方も出来るが、しかしまだ甘かったりする。
では、人々が魚を乱獲してしまったらどうするのか?
当然ながら、魚も無限に生息している訳ではないから、何も考えずに取りまくってしまったら、いつかは枯渇してしまう事だろう。
そうなれば、これが食糧を奪い合う争いのキッカケとなりかねない。
そこまでするのであれば、漁獲制限なり養殖なんかも視野に入れなければならない訳であり、アキトの指摘した通り、ある意味もっとも中途半端な行動とも言える訳である。
では、アキトはそうした場合、どうした選択肢を取るのか?
まず、前提条件として、彼の場合は基本的にそうした人々に極力関わらない様にする。
冷たい様だが、それは自分達で解決すべき事であるとの基本の考え方があるし、彼らの今後の人生まで面倒見きれない、責任を負えない事も理解しているからである。
ここら辺は、一見彼が面倒くさがりに見える所以である。
しかし、一度関わると決めたら、あらゆる状況を想定した行動を起こす事だろう。
魚の取り方はもちろん、漁獲制限や養殖、果ては、魚以外の獣の狩りの方法や、畜産や農耕を教えたりするのである。
つまりは、彼の場合、やると決めたら“システム”まで含めて全てやり尽くすのである。
当然ながら、一つの事に偏ってしまうとリスクがある訳だから、リスク管理やリスク分散が重要になってくる。
ならば、魚だけ取っていたら危険な事などすぐに分かる訳であり、そうした場合、他の方法、狩りや農耕や畜産などの方法をすぐに思い至る訳なのである。
もう少し具体例を挙げるとするならば、例えばこの世界の脅威であるところの、魔獣やモンスター、盗賊団などに力なき人々が襲われた場合、アーロスらもティアも、そしてアキトも、なんのかんの言いながら、確かに助けはするだろう。
しかし、その後の対応が全く異なるのである。
アーロスらは、助けた事に満足し、そこで話が終わってしまう訳だ。
彼らが何故襲われたのか、などという事は考えもしない。
何故ならば、彼らには圧倒的に想像力と人生経験が不足しているからである。
実際には、アーロスらぐらいの対応が、この世界でももっとも一般的かもしれない。
例えば、冒険者などは、何か困った事になった時に呼ばれる存在であり、目の前の事象に対応するのが彼らの仕事だからである。
故に、その根本的な原因を特定する事までは契約に含まれておらず、追加で依頼された場合以外は基本的に放置である。
まぁ、ここら辺は、アーロスらとは違い、冒険者にとってはある種のメシの種が無くなってしまう可能性もあるので、あえて言わない事も多いのだが。
ティアはもう少し踏み込んで、何故襲われる様な事態となるのかを聞いたり考えたりする。
例えば、魔獣やモンスターならば、それらの人々の生活圏と魔獣やモンスターの生活圏が重複している可能性もあるし、何らかの要因によって個体数が増えた事によって、生息域を拡大している可能性もある。
ならば、魔獣やモンスターを間引けば済む話かもしれないし、人々の生活圏を移動する事によって解決するかもしれない。
盗賊団の場合は、彼らの根城としている場所を特定し、叩き潰す事によって解決が可能だろう。
これで、無辜の民達が被害に遭う事はないだろう。
当分の間は。
これは、冒険者ギルドとか国家が考えるレベルである。
先程も述べた通り、冒険者個人は職業として仕事をこなしている訳であって、もちろん、ある程度の善意はあれど、基本的に損得勘定を計算に入れているので、根本的な解決はハッキリ言って赤字でしかなく、あえてその事を指摘する事もないのである。
もちろん、そうして事も踏まえて交渉をする者達もいるかもしれないが、小さな集落や少数の人々では、それに見合う報酬を用意出来ない可能性も高い。
しかし当然ながら、被害が深刻になってしまうと、冒険者ギルドや国家の面子として問題となってしまうので、ある程度の時機が来ると、彼らが動き出す訳だ。
例えば、冒険者ギルドによる魔獣やモンスターの生態調査、軍隊による間引きとか、盗賊団に懸賞金を懸けるとかである。
これは、ある意味根本的な問題解決方法、に見えるので、これで終いとするケースが大半であるが、実際にはもっと根源的な問題が更には奥に潜んでいる。
魔獣やモンスターなどはその対応が適切かもしれないが、
(と言うより、もちろん、本気で襲われない様な環境作りをするとしたならば、危険度の高い魔獣やモンスターを絶滅させる方法もあるが、これはひいては生態系を崩す行いであるから、表面上危険な魔獣やモンスターを絶滅させた結果、彼らの手によって今まで表面化しなかった新たなる問題を誘発させる可能性もある。
例えば、近年の日本においては、これは以前にも言及した通り、野生のシカなどによる食害が増えている。
これは、シカなどの天敵となっていたニホンオオカミなどを人間が駆逐してしまった事が原因であると考えられている。
もちろん、他にも、明治以降、西洋犬が大量に輸入された事による狂犬病などの蔓延や、環境の変化なども挙げられているが、どちらにせよ、人間の勝手な行いによって、生態系に影響を与えてしまった事が要因なのである。)
盗賊団が発生する理由は、多くの場合は貧困と教育不足が原因であると考えられるので、盗賊団を叩き潰したとしても、それ自体をどうにかしない事には、また新たなる盗賊団が生まれるだけなのである。
実際、統計的にも教育水準の低さ、失業率の高さは、治安の悪さと直結している。
高い水準の教育を受けられれば、それだけ高い収入の職業に就ける訳だし、職業選択の幅も広がる。
それは、ひいては失業率を抑える事に繋がり、結果、食うに困って犯罪に走るケースを抑える事が出来る訳である。
逆に言えば、そこを改善しない事には、先程も述べた通り元の木阿弥である。
危険な犯罪組織を潰したから解決、とはならず、また新たなる犯罪組織が台頭するだけの事なのである。
と、この様に、ここまでやってようやく解決、と言える展開にまで持っていけるのだ。
そして残念ながら、ティアはその事を全く理解していなかったのである。
いや、もしかしたら、頭では理解しているかもしれない。
しかし、彼女には、具体的にはそれを実現するプランを発案し、行動するスキルが圧倒的に不足していた。
当然の事ながら、そうした事をする為には膨大な人員や資金が必要となる。
それこそ、先程も述べた通り、地方の豪族や国家単位の力が必須であるから、やろうと思ってもなかなか難しい話なのも当然の事だろう。
しかし、アキトは実際にそれを実現している。
これは、一度やると決めたら、彼が人々を巻き込む事を躊躇しない為である。
当たり前だが、何かを成し遂げる為には、様々な人々の力が必要となるし、場合によっては、それによって迷惑を被る人々も発生するだろう。
しかし、それはある種の“必要経費”であって、誰にも迷惑をかけずに平和をもたらそうとするのは理想ではあるが、ハッキリ言って現実の見えていない愚か者の戯言でしかない。
今回、アキトがロンベリダム帝国に干渉した件を改めて確認しておこう。
元々彼は、覇権主義的な行動を起こしていたロンベリダム帝国を危険視していたが、とは言え、真正面からそれを指摘してり、ぶつかる事は避けていた。
まぁ、ぶっちゃけると、今現在の彼の力量、持っている手札を鑑みれば、彼単独でロンベリダム帝国そのものを叩き潰す事も可能である。
しかし、それは、単純に暴力に暴力で対抗しているだけなので、根本的な解決にはなり得ない事も理解していた。
仮にアキトがそうした選択をした場合、それこそ、何も知らないロンベリダム帝国の一般市民達は、いきなりやってきて暴虐の限りを尽くすアキトに強い憎悪を抱く事だろう。
例え、そこにいかなる“大義名分”があろうとも、やられた方としてはそうなるのが人情というモノである。
故に、アキトも言及した通り、間接的に干渉する事で、ロンベリダム帝国の“大地の裂け目”侵攻を阻害し、『ロフォ戦争』の戦力バランスを調整、戦況を膠着状態にまで持っていったのである。
彼も言及した通り、これは、その裏で暗躍していたハイドラス派に対する牽制(嫌がらせ)にもなるし、戦闘が長引けば長引くほど、当然戦費もかさむ事となるから、いずれそれに疑問を抱いた者達が、ロンベリダム帝国の内側から声を上げる可能性を計算に入れた上での事であった。
ちなみに、同じ理由なら“大地の裂け目”勢力も同様に戦費がかさむ事となるが、謎の勢力が彼らを支援しているので、実際にはロンベリダム帝国よりもずっと長丁場を戦い抜く土壌が出来上がっていた。
まぁ、これに関しては、ぶっちゃけるとヴァニタス達の仕業である。
彼らの目的は、“世界”に混沌や混乱を起こす事、そしてそれをなるべく長引かせる事であるから、アキトとは別の理由で一方的な展開では困ってしまう訳である。
その為、アスタルテへの支援、という体で“大地の裂け目”勢力に武器や防具、食糧などの物資を支援していたのである。
そして、アキトはそれをしっかりと把握していた。
もちろん、ヴァニタス達が正体を隠していたので、相手が誰かまでは分かっていないかもしれないが、それでも情報を入手する手段などいくらでもある。
実際に、資金や物資の流れがある訳だから、それを辿れば謎の勢力が“大地の裂け目”勢力に肩入れしている事などすぐに分かる訳で、もちろん、これはセージの持つ高い情報収集能力があって初めて実現出来る事でもあるが、それを持っているアキトからしたら簡単に分かる事でもあった。
こうした背景もあり、つまり、初めからロンベリダム帝国そのものを破壊しようなどとは考えてもいなかった訳である。
これは、基本的に自分達の事は自分達で何とかするのが良い、というアキトの考え方が存在していた為である。
ところが、これはアキトも言及していたが、『ロフォ戦争』を膠着状態にまで持っていった事により、ルキウスらが暴走を始める。
まぁ、ルキウスらからした、膠着状態を打開する為の一手、戦争に勝つ為には導き出した答えであったが、しかしそれは、言わばアキトの逆鱗に触れる行為だったのである。
アキトらも言及した通り、『農作業用大型重機』を一旦世に送り出した以上、その技術を他者が研究したり解析したりする可能性は当然あったし、場合によってはそれが悪用されるケースもある事は分かり切っていた。
特に歴史的にも、戦争時には他国の技術を鹵獲し、自国の技術として取り入れるケースは枚挙に暇がない訳であるし。
故に、始めからその可能性を考慮して、『農作業用大型重機』のキモとなる部分(『魔素結界炉』)はブラックボックス化していたのだが、もちろん、いくら魔法技術先進国であるロンベリダム帝国と言えど、それ自体を解析出来た訳ではないのだが、彼らはその資金力に物を言わせて、それなりの数の『農作業用大型重機』を確保し、それを改造して『魔戦車』の開発に踏み切ってしまったのであった。
その先に、どの様な悲劇が生まれるかも考えもしないで。
アキト自身が言及した通り、彼は基本的に“争い”自体は否定していない。
より正確に言うのならば、どれだけ言葉を尽くしても、相手に伝わらない事がある。
つまり、すでに自分の中で結論が出ている場合は、どれだけ正しい情報であろうとそうした相手には意味をなさない事を理解しているのである。
それ故に、場合によってはそれを止める為には暴力が必要となる場面もあるし、無抵抗主義でもない限り、襲われたのなら自衛の為に暴力で対抗する場面も必要だと考えている為だ。
しかし、だからと言って、一方的な虐殺を容認している訳ではないのである。
こうして、アキトはそれまでの方針を180度転換し、ロンベリダム帝国を潰す事としたのである。
これは、彼が述べた通り、ルキウスらに対するペナルティであると同時に、実はロンベリダム帝国民に対する恩情でもあった。
何故ならば、先程も述べた通り、手段を選ばないのであれば、ロンベリダム帝国そのものを文字通り消し去る事も、今現在の彼の力量と手札ならば可能であるが、それではあまりに酷であるし、一度は国民に選ばせるべきだと考えていたからである。
そこで彼は、今現在のロンベリダム帝国の生命線とも言える(一部)魔法技術を使用不可にしたのである。
再三述べている通り、これは、ロンベリダム帝国民にとって生活を直撃する事である。
そして、“戦争”というどこか遠くの話の様に感じる事象とは違い、まさに今目の前で起こっている自分達の問題であるから、その危機感や深刻さはそれまでの比ではない。
そうなれば、当然、ロンベリダム帝国民は立ち上がるしかないのである。
戦争反対とか、反戦運動とか、そうした社会的な行動ではなく、自分達の死活問題をどうにかする為に。
当然ながら、国民からしたら、これは戦争どころの話ではないのである。
戦争に資金を割いている余裕があるのなら、自分達の生活を保障する方が先だろう、と言う話だからだ。
こうして、これまでは権威に逆らう事が難しかった事もあって表面化しなかった問題が一気に噴出する事となった訳である。
もちろん、政府が適切に対応していれば防げた問題でもあるのだが、残念ながらルキウスらは、この問題を軽く見た結果、政策を見誤ってしまったのであったが。
こうして、ロンベリダム帝国は、自分達の生活を守る為とは言えど、結果として反戦運動の機運が高まり、そして、現政権の対応の不備などもあって、現政権を打ち倒すべく、反政府運動にまで発展してしまったのである。
そして、これは、アキトが介入したとは言えど、ロンベリダム帝国民が自ら選択した事でもあった。
ティアは、一見無関係に見えるロンベリダム帝国民まで巻き込んだ事を快くは思わなかったのかもしれないが、しかし仮にアキトが『魔戦車』の開発・量産阻止だけに動いたとしても、結果としては戦争が長期化するだけで、後に国内の経済が疲弊、同じ様な流れになった可能性は極めて高い。
仮に、途中で上層部が戦争そのものを見直す事となれば結果はまた変わるかもしれないが。
つまり、遅かれ早かれ、ロンベリダム帝国民が巻き込まれる事は確定していた事なのである。
何故ならば、これは他国が行った事ではなく、自国が行っている事なのだから。
そうなってから行動するのと、それよりも前の段階で行動するのでは、当然早い段階の対応の方が傷口が軽く済む。
それ故の恩情なのである。
と、この様に、アキトが打った手は、一見すると酷い行いの様に映るが、実は最悪の未来を回避出来る選択肢を用意していたのである。
少なくとも、大量虐殺兵器が世に出回る事を防ぎ、戦争の長期化により、ロンベリダム帝国の経済が疲弊し、内乱へと発展。
泥沼の内戦の後に、他国に侵略され、国内が蹂躙される事態を防いだのだから。
まぁ、ロンベリダム帝国民の選択によっては、そうなっていた可能性もあるのだが。
つまり、代替案もなくアキトを批判する権利は、少なくともティアにはない訳なのであった。
もちろん、彼女の場合は、所謂“感情論”となっていた可能性が高いのだが、アキトはそうした非合理的な意見はナンセンスだと考えている。
アキトは、少なくとも『前世』において、かなりの社会経験を積んだオッサンであり、地方公務員、つまり役人として社会的活動にもそれなりに関わっていた。
故に、世の中綺麗事だけでない事も熟知しているし、現実的に話を進める為には、様々な人々をも巻き込む必要がある事を理解していたのであった。
一方、アーロスらは論外として、ティアも頭は良いのだが、その実、社会的経験は浅く、世の中の流れも真には理解していなかったので、アキトに対して不快感を持つに至ったのである。
これは、“見えているもの”の違い、あるいは、覚悟の違いが生み出した不幸なすれ違いなのだが、はたしてこの事が、今後どの様な影響を与えるのかーーー。
誤字・脱字がありましたら御指摘頂けると幸いです。
いつも御覧頂いてありがとうございます。
よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね等頂けると嬉しく思います。