暗雲
続きです。
今年最後の投稿です。
あいかわらず、ゆっくりとした投稿頻度ですが、来年も無理のないペースで続けてまいりますので、引き続きお付き合い頂けると幸いです。
では、良いお年を。
◇◆◇
アーロスらがセシルと激突し、そして自爆され、それをキドオカに助けられて、衝撃の事実を聞かされていた頃、アキトはマルセルム公らに詰め寄られていたのだった。
これは、主にロンベリダム帝国に(勝手に)干渉した事が原因であるが、はたしてーーー。
・・・
〈・・・さて、アキト殿。詳しく事情を説明して欲しいんだけどね?〉
「は、はぁ・・・。」
皆さん御無沙汰しております。
アキト・ストレリチアです。
さて、僕は、今現在ロンベリダム帝国のとある高級宿の一室にいたりします。
そこには、オーフェンさん、ティアさん、そしてセージの力を借りて、今現在ロマリアの地にいるマルセルム公、ダールトンさん、ドロテオさん、ジュリアンさん、ディアーナさん、グレンさん、ダグラスさんなどの、主だった『ブルーム同盟』の幹部の面々も、画面越しに顔を揃えていました。
所謂、“リモート会議”の状態ですね。
で、当然ながら議題は、僕が(勝手に)推し進めたロンベリダム帝国への干渉についてです。
まぁ、彼らからしたら、これは寝耳に水な訳ですから、説明を求めるのは当然と言えば当然でしょう。
何せ、当初は、今回の訪問で積極的にロンベリダム帝国に干渉する事はない、と明言していた訳ですし。
「時間がなかったとは言え、独断専行で事を推し進めたのは謝罪致します。ですが、これには色々と複雑な事情が存在していまして・・・。」
〈・・・詳しい話をお聞きしましょうか。〉
「ええ。もちろんです。」
皆さんも、僕が勝手な事をしたのは何某かの事情がある事は察していた様だ。
僕がそう謝罪すると、どこか諦めた様な表情を浮かべつつ、先を促してきた。
・・・うん、皆さんには本当にご心労をおかけするなぁ〜。
「まず、大前提として、本来は『ロフォ戦争』が巻き起こる前にどうにかするのが当初の予定でした。僕らがこちらに来る前の段階では、まだ戦争状態には突入しておりませんでしたからね。しかし、事態は僕らの想定を遥かに越える速度で進行してしまい、結果、僕らがこの地に辿り着く前に『ロフォ戦争』が勃発してしまった。で、一度始まってしまった“戦争”を止める事は一筋縄ではいきません。何故ならば、これは落としどころが難しいからです。当然ながら、ロンベリダム帝国側としても、“大地の裂け目”側からしても、その戦争によって何某かの成果が得られない事には、市民や国民を納得させる事が出来ないからですね。もっとも、これに関してはあくまで二国間の問題ですから、軍事的・経済的に僕らにも影響があるとは言え、僕らの側からは停戦を呼びかける程度が関の山です。強く干渉するのは、所謂内政干渉に当たる訳ですから当然と言えば当然ですけどね。」
〈それは承知しております。当初はそういうスタンスで行くつもりでしたからな・・・。では何故、そうと知りながらアキト殿はロンベリダム帝国に干渉したのでしょうか?〉
「こちらは、すでに御説明したかもしれませんが、初めは裏から干渉する事によって、双方の均衡を保つ事としたのです。僕らがこちらに来た当初は、“大地の裂け目”側が劣勢でしたからね。この状態は、ロンベリダム帝国側には有利な訳ですから、勝てる見込みがあるのに戦争を止める理由がなく、逆に劣勢に立たされた“大地の裂け目”側からしたら、より一層ロンベリダム帝国側に対する敵愾心・反抗心が高まっている状態ですから、これまた戦争を止める理由がない訳です。どこかで折り合いを付けるにしても、双方のバランスは重要ですからね。」
〈・・・ふむ。〉
「更には、そうする事によって、この戦争の裏で暗躍しているライアド教ハイドラス派に対する嫌がらせ、牽制にもなります。ロンベリダム帝国が優勢ならば、それだけハイドラス派は“大地の裂け目”内で活動するのが容易となる。逆に言えば、双方の均衡が取れている状況ならば、“大地の裂け目”勢力にも余力が出来る訳ですから、“大地の裂け目”内部に侵入している勢力の対応、追い出しをする事も出来る訳です。」
〈なるほど・・・。〉
「後は、戦争が膠着状態となれば、停戦交渉も進めやすくなります。まぁ、これに関してはあまり急な進展は望めませんが、どちらの勢力も一枚岩ではありませんから、反戦派や穏健派が台頭する下地にはなります。どちらも、内部からの圧力は無視出来ませんから、それだけである程度の時間稼ぎにはなるでしょう。上手くすれば、最終的には話し合いで解決する可能性もありました。」
〈・・・しかし、そうではなかった?〉
「ええ。ロンベリダム帝国側が、その猶予を使って更なる“新兵器”の開発に踏み切ったのですよ。まぁ、これに関してはある程度予測が出来た事ではありましたが、その“新兵器”の性能が問題でした。」
〈・・・一体、それはどの様な物だったのですかな?〉
「それは、『魔戦車』と呼ばれる兵器です。これは、僕とリリアンヌさんが共同開発した『農作業用大型重機』を軍事用に転用した代物の様で、自走し、頑強な防御性能を備え、更には“魔法銃”の技術を応用した大口径の重火器を備えた恐るべき兵器でした。」
〈な、なんですってっ・・・!!??〉
僕の言葉に、ディアーナさんが強く反応を示した。
まぁ、それはそうだろう。
先程も述べた通り、『農作業用大型重機』は僕とリリアンヌさんで共同開発した代物だ。
そして、ディアーナさんはリリアンヌさんの親友であり、グーディメル家の支援者として『農作業用大型重機』開発にも間接的に関与しており、せっかく親友が苦労して開発した代物、しかも自身も開発に関与した代物を悪用されたとなれば聞き捨てならない事だろう。
「ああ、御安心下さい、ディアーナさん。それに関しては、世に出る前に潰しておきましたので。」
〈あ、そ、そうですか・・・。〉
「まぁ、僕もその開発に関わっていますし、僕はともかくリリアンヌさんを、大量破壊兵器の母、などという汚名を着せたくはありませんからね。」
〈・・・。〉
〈・・・もしや、その事がアキト殿がロンベリダム帝国に強く干渉したキッカケ、ですか?〉
「ええ、その通りです。まず始めに断っておきますが、僕は個人的には“争い”自体を否定するつもりはありません。自然界でも、その“争い”は日常的に起こっている事ですからね。生きる為に戦う。これは、生物の持つ、生存本能であり防御機能でもあります。そして、その為に策を弄する事を否定しませんし、技術やテクノロジーを研究・開発するのを止める事は出来ないでしょう。ですから、今回の干渉は、至極個人的な理由からなのですよ。」
「「〈〈〈〈〈〈〈・・・。〉〉〉〉〉〉〉」」
「先程は“争い”自体を否定しないとは申しましたが、それは、自身もそれ相応のリスクを背負っている事が絶対条件です。皆さんはすでに御承知の事とは存じますが、案外人間は愚かな生き物です。中には、何の代償も支払わずに何かを得ようとする愚かな者も存在します。そして僕は、そうした人種が好きではないのですよ。まぁ、有り体に言えば、嫌悪している、と言っても過言ではありません。何故ならば、彼らは、何の努力も過程も存在せず、ただ結果だけを享受しようとする、人の物を横取りする事しか出来ない生き物だからです。例えば、詐欺師とかがそれに該当する存在ですよね。で、ロンベリダム帝国の現皇帝も、その愚かな選択をしようとした者の一人です。彼は、己の野望の為だけに、“大地の裂け目”の地を奪おうとしたゲス野郎です。もちろん、それ自体は、先程申し上げた通り否定しません。覇権を狙っての事でしょうし、それが結果として国民にとっても何某かの恩恵がある事でしょうからね。一国の長として、組織の長としては倫理観がどうとか、他者の迷惑がどうとかは二の次にして、市民や国民の為になる事ならそういう選択も有りでしょう。しかし、それは自身も“負ける”というリスクを背負ってこそ肯定されるべき事です。ところが『魔戦車』の存在は、その“負ける”リスクを極限まで低下させてしまいます。言ってしまえば、それは現代の技術力的には過ぎた力と言わざるを得ないからですね。となれば、そこから先は“戦争”ですらない、一方的な“虐殺”の始まりですよ。しかも、これは自分達のオリジナルの代物でもなく、他者が開発した物を研究・解析し、応用した代物ですから、そこには“長年の苦労”などの過程が存在しません。それはちょっとズルいと思いませんか?特に、『農作業用大型重機』を苦労して世に送り出した者の一人としては、これは看過出来ない事でした。」
〈し、しかし、先程アキト殿御自身も仰っていた通り、一度世に出てしまった物を、そうした技術やテクノロジーが他国に研究・解析されるのはある意味当然の流れなのでは?〉
「ええ、もちろんその通りです。ですから僕は、最初から『農作業用大型重機』を悪用されるケースを想定して、それらに実は仕込みを施していました。『農作業用大型重機』はあくまで不毛な土地を開拓する事、農作業を便利にする代物として世に送り出した代物ですが、それを応用すれば兵器に転用出来る事も分かっていましたからね。ですから、そうした本来の使用目的から外れた使われ方をした場合、僕に報せが入る様にしていたのですよ。当たり前ですが、現在の技術では、データだけで研究・解析、あるいは再構築する事は困難ですから、実物を取り寄せる必要がある事も分かりきっていましたからね。逆に言えば、それを模倣して、僕らが開発した『農作業用大型重機』とは別の『農作業用大型重機』を開発する事自体は止めるつもりはありませんでした。当然ながら、僕らだけの生産能力では、ハレシオン大陸全土をカバーする事は不可能ですから、『農作業用大型重機』の恩恵を享受する人々が増えるのならば、その模造品を製造・販売する事には目を瞑る事としていたのですよ。まぁ、どちらにせよ、『農作業用大型重機』のキモとなる技術はブラックボックス化していますので、どちらに転んでも、僕らに損はありませんでしたからね。」
〈さ、流石はアキト殿・・・。用意周到な事ですな・・・。〉
「まぁ、これに関しては僕個人だけの問題ではありませんからね。で、先程も申し上げた通り、『農作業用大型重機』を悪用された場合は、それが僕に分かる様になっていましたので、ロンベリダム帝国が何かしようとしていた事も分かっていました。しかし、それを使って、まさか『魔戦車』なる代物を生み出そうとするなんてね・・・。それは、これまでの常識を覆します。言うなれば、“戦い”の規模を変えてしまいます。それは、開発者の一人としては看過出来ない事でした。そこで、僕はロンベリダム帝国にペナルティを与える事としたのです。『魔戦車』自体のデータなどを破棄するだけで済ませる事も出来ましたが、少し彼らの行動は目に余ったモノですからね。」
〈それで、ロンベリダム帝国の魔法技術を使い物にならなくしたのですか・・・。〉
「そうです。そもそも魔法技術が使い物にならなければ、研究も開発も出来ませんからね。もっとも、本来ならばその範囲を、『魔戦車』の研究なり生産拠点に限定する事も出来ましたが、今回はカモフラージュも兼ねてその範囲をロンベリダム帝国全土まで広げたのですがね。」
「し、しかし待ってください、アキト殿っ!ロンベリダム帝国が暴挙に及んだ事は私も理解出来ます。それに、アキト殿が、自らが開発された代物を悪用されて怒り心頭になるお気持ちも。ですが、それはロンベリダム帝国の一部上層部が推し進めた事であって、国民や市民には関係のない話ではありませんかっ!なのに何故、アキト殿は彼らをも巻き込んで制裁を加えられているのでしょうかっ!?」
そこへ、これまで黙り込んでいたティアさんが、若干敵意を含んだ鋭い視線で僕を睨み付けながら、そう僕の行動を糾弾する。
まぁ、ロンベリダム帝国はティアさんがこちらの世界で一番長い時間を過ごしてきた土地だ。
故に、ロンベリダム帝国の上層部はともかく、その土地に住まう人々にはそれなりに思い入れもあるだろうから、国民をも巻き込んだ今回の僕の対応に不快感を持ったとしても何ら不思議な話ではないだろう。
「仰りたい事は分かりますが、これはあくまで僕の持論ではありますが、上層部の暴走を許したのは国民にも一定の責任があると考えています。もちろん、ロンベリダム帝国は独裁国家ですから、一般の方々が上層部に刃向かうのは困難な事情が存在するでしょうが、しかし一方では、それをしないのは彼らの事情でしかない。少なくとも、“大地の裂け目”勢力にとっては、上層部だろうと国民だろうと、自分達の住まう土地に不当に侵略した者達である事には変わりありません。つまり、彼らにとってはロンベリダム帝国そのものが敵対者なのです。ならば、反撃としてロンベリダム帝国の国民達が被害を受けたとしても、それに文句を言われる筋合いはない訳ですね。何故ならば、“大地の裂け目”勢力の人々も同じ思いを強いられているのですから。それが嫌ならば、自分達は敵ではないと示さなければなりません。そしてその場合、それが出来る唯一の手段は、己の手で上層部を打ち倒す事だけなのです。」
「し、しかし、ロンベリダム帝国の国民は、何の力もありません。そんな事出来る筈がっ・・・!」
「ティアさん。それはあまりに平和ボケした考え方ですよ。少なくともこの世界ではね。力がないからと言って、では魔獣やモンスターが見逃してくれるとでも?そんな事はありえない。ならば、力はなくとも生き残りたいのならば、戦うしかないでしょう。力がないならないなりに、戦いようはある。すなわち、出来る・出来ないの話ではなく、やるか・やらないかでしかないのですよ。」
「ぼ、暴論ですよっ、それはっ!!」
「はたしてそうでしょうか?では、トロニア共和国はどの様にして建国されたのかはご存知で?確かに、“建国の英雄”かつ“指導者”たるアルス=マグナ・トロニアが存在し、主導した事は事実ですが、しかし同時に、彼一人の力で建国を成し得た訳ではありません。貴女が先程仰っていた“何の力もない一般市民”がアルスさんに協力したからであり、結果として彼らは、自分達の力で独立を勝ち取るに至りました。そして、こうした話は特段珍しい事ではないのです。実際、こちらの世界でも向こうの世界でも、市民や国民が決起して国を打ち倒す事はよくある話ですよね?では、彼らは全員が全員、特別な力を持っていたとでも?そんな事はありえない。もちろん、一部の指導者などには優秀な存在がいたかもしれませんが、大部分の人々は“何の力もない一般市民”なんですよ。しかし、一般市民だって、時には戦士にもなれる。だが、もちろん、何のキッカケもなければ一般市民は一般市民のままだ。では、彼らは、自分達には力がないから、力ある者達の言いなりで良いのでしょうか?しかも、力ある者が、勝手に自分達の生活や人生にも影響のある事をやっているのに、知らぬ存ぜぬが通用するのでしょうか?僕から言わせればそれはナンセンスです。少なくとも、自らの主張があるのならば、他者に自分の生き方を決められたくないのなら、戦うしかないのですよ。特に、この世界では、ね。」
「っ・・・!!!」
・・・ふむ。
やはりティアさんは頭は良いが現実が見えていない側面があるなぁ〜。
ここら辺は、案外アーロスくんらと同じなのかもしれない。
残念ながら僕は、理想論を語ったり夢見たりするほど幼くはない。
誰も傷付かなくて済む方法があればそれは理想的だが、実際にはそんな事はありえないし、ありえたとしても、もっともやってはいけない事でもある。
何故ならば、人は痛みの伴わない教訓はすぐ忘れるからである。
例えば、人間は自身が体験した事でない事象であっても伝え聞いたりする事が出来る。
そして、そうした知識の中には、生きる上で大切な事や、ある種の極意なんかも多く存在するのだが、しかし結局はそれは自らが学び得た教訓ではないので、それが身に付く事はあまりないのである。
実際、事件や事故、災害などの教訓は、それを経験していない世代には活かされない事が大半である。
つまりは、究極的には人間とは、自身の体験でしか物事を判断出来ない生き物なのである。
で、あるならば、真の平和な生活を勝ち取りたいのならば、ロンベリダム帝国の国民達も、痛みを伴う経験が必要だろう。
その為の“魔法技術使用不可状態”である。
自分達の生活が懸かっているのなら、人は間違いなく戦う選択肢を取る。
逆に言えば、危機感を感じなければ、どれだけよそで他者が迷惑を被っていても、上手く目を逸らすのが人という生き物なのである。
残念ながら、“世界”は繋がっているので、自分に関係ない、なんて事は本来ありえないのであるが。
〈失礼、ティア殿。貴女のお気持ちは分かりますが、これは我々の問題であって貴女が口出しする事ではないと思われますが?〉
「なっ、わ、私は無関係ではありませんよっ!?これでも、私はロンベリダム帝国の関係者ですからっ・・・!」
〈だとしても、ですよ。貴女は『ブルーム同盟』に所属している身ではありませんから、協力は出来ても決定権がある訳ではない。それに、ロンベリダム帝国の関係者である事は理解出来ますが、ロンベリダム帝国側の正式な窓口、という訳でもありますまい?〉
「そ、それは、そうですが・・・。」
それまで無言で話を聞いていたマルセルム公が、そう重い口を開いた。
確かに、ティアさんはロンベリダム帝国側からの正式な交渉者ではないから、どれだけ不満があったとしても僕がやった事をどうこうする事は出来ない。
本当に不満があるのならば、ロンベリダム帝国側を説得するなり、何なりして、正式に抗議すべき案件であろう。
マルセルム公の鋭い指摘にティアさんは口を閉ざした。
それを見たマルセルム公は頷き、まとめに入った。
〈では皆さん。今回のアキト殿の対応に何か意見はありますかな?〉
〈私は特に・・・。そもそもアキトくんは、我々『ブルーム同盟』の協力者という立ち位置にいますが、公式には『ブルーム同盟』から独立していますから、我々が彼の行動に口出しする権利も義務もありませんからね。〉
〈同感ですな。ま、些かやり過ぎな感はありますが、アキトも何か考えあっての事でしょうしな〜。〉
初めに、ダールトンさんとドロテオさんがそう表明した。
この二人とは長い付き合いだ。
それ故に、僕がやらかす事には慣れているのである。
それに、僕のやり口にも慣れているのか、ある種の方便もしっかりと理解している。
〈ダールトン殿とドロテオ殿の意見に私も賛成です。流石にアキト殿が予想外の対応を取った事には驚いておりますが、我々としては『ロフォ戦争』が終結するのならばそれに越した事はありますまい。まぁ、その為に、ロンベリダム帝国そのものがなくなる可能性が出てきた事にも驚愕しておりますが、まぁ、アキト殿ですからな。〉
〈・・・確かに。第一、ロンベリダム帝国を擁護する事も、するつもりも私はない。戦争をするならば、それ相応のリスクが発生するのは当然の事だ。今回の場合はアキト殿がそのキッカケを作ったかもしれないが、そうでなくとも戦争によって疲弊した国民が立ち、内側から崩壊する事はよくある話だからな。そのリスク管理を甘く見ていたのが、そもそものロンベリダム帝国上層部の落ち度だろう。〉
ジュリアンさんとグレンさんの発言である。
〈私も、個人的にアキト殿の行動を支持します。『農作業用大型重機』はヒーバラエウス公国発祥の技術です。それを悪用されるとなれば、当然黙ってはおれませんわ。〉
ディアーナさんの意見だ。
まぁ、先程も述べた通り、『農作業用大型重機』は僕とリリアンヌさんが共同で開発した物だが、公式的にはグーディメル家が統括している事業であるから、ヒーバラエウス公国発祥と言うのは間違っていない。
自国の技術が悪用される事態となれば、当然それなりの対応をすべき案件であろう。
〈トロニア共和国としても問題ありません。言ってしまえば、これは対外的にはロンベリダム帝国が勝手に自滅した、という事ですよね?アキト殿が明確な証拠を残すとも考えられませんし、そもそも証明する事すら困難でしょう。誰が信じますか?たった一人の手によって、魔法技術そのものを使用出来ない様にされた、などと。むしろ、ここでアキト殿を処罰する事の方が、ロンベリダム帝国側に何某かの疑惑を持たれかねない。故に、我々としては、アキト殿の行動は不問とし、我々独自の先を見据えた一手を打つ事を協議した方が合理的であり建設的だと愚行致します。〉
ダグラスさんの発言である。
彼とはあまり関わり合いがなかったのだが、流石はヴィーシャさんの腹心を務めていただけあって頭の回る人の様だ。
一通りの意見が出揃い(現場責任者であるオーウェンさんの発言がなかったが、マルセルム公ら幹部よりかは立場が下であるから、ここではあえて口を挟まなかったのだと思われる。)、マルセルム公はしばし黙考しながら結論を述べた。
〈よろしい。ならば、今回の件のアキト殿の行動は不問とする。それと、我々『ブルーム同盟』としては、反ロンベリダム政府を支援する方向で調整を進めようと思う。まぁ、これに関してはまた我々の側で協議するが、オーウェン殿はそのつもりでいてくれ。〉
「了解しました。」
〈うむ。では、本件はこれまで。・・・アキト殿。今後は、なるべく事前に報せてくれると助かる。〉
「ええ、申し訳ありませんでした。」
一応これでもある程度は反省している。
素直に謝罪した僕に、マルセルム公は苦笑しながら通信が切れた。
残されたのは、僕とオーウェンさん、そして、若干気まずい雰囲気を醸し出していたティアさんのみとなった。
「不問となって良かったですな、アキト殿。」
そんな雰囲気の中、務めていた明るい口調でオーウェンさんはそう切り出した。
「そうですね。まぁ、ダールトンさんも仰っていましたが、『ブルーム同盟』には僕らに対する直接的な命令権がある訳ではありませんから、そもそも罰する権利も義務もないのですが、その一方で一応は雇用関係ではありますから、僕の行動に対して文句を言う事は出来ますからね。」
「皆さん、甘いですよ・・・。」
「・・・えっ?」
「アキト殿。私は貴方の事を買い被っていたのかもしれません。もっとも、私は貴方をどうこうする権利はないのかもしれませんが、認めませんよ。貴方のした事は。」
「ええ、御理解頂けなかったのは残念ですが、貴女は貴女の思うように行動されれば良いでしょう。ですが、前にも言いましたが、それで僕と敵対するつもりならば、僕は容赦するつもりはありません。」
「っ!!!」
「それと、最後にご忠告までに。中途半端な行動や優しさは、返って人を不幸にしますよ?ゆめゆめお忘れなき様に。」
「・・・・・・・・・。」
しばし無言のまま、どこか戸惑った様な視線を僕に向けたティアさんだったが、その後、一礼してその場を辞していった。
「・・・よろしいので、アキト殿?」
「まぁ、仕方ありませんよ。彼女にとってはロンベリダム帝国はそれなりに思い入れのある場所でしょうからね。そこをメチャクチャにされたのならば、僕に対して思うところはあるでしょうから。」
「そうですか・・・。」
こうして、ハッキリと明言こそしなかったが、ティアさんと僕の道がこの時に別れたのを僕は感じていたーーー。
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