激闘 1
続きです。
◇◆◇
山の神・エキドラスが“生物”だったのに対し、セシルは所謂“機械”である。
もっとも、同じ様な存在である『魔道人形』であるエイルが、アキトの影響を受けて、完成されつつある“アストラル”、言わば『人工霊魂』を持つに至ったのに対して、セシルはあくまで『人工知能』を有する“機械”という枠組みを出ない存在であった。
とは言え、これは両者のコンセプトの違いもあった。
セシルは、ただ単純に遺跡群を守る守護者である。
それ故に、セシルに求められるモノは、命令を正確に遂行する事であるから、そこに複雑な行程は必要ない。
認証コードなり、パスワードなり、言わば“カギ”を持たない者を排除するだけの存在。
命令に忠実なロボット。
それが、セシル創造のコンセプトであった。
一方のエイルは、彼女の役割は“神々”に対抗する兵器であり、基本的に“アストラル”として存在する神々へと対処する為には、彼女達にも“アストラル”が必要であるとの結論から、人工的な“アストラル”を持たせようとした実験機である。
最終的には、それは失敗に終わった訳であるが、時を経て、紆余曲折を経てアキトの手に渡った結果、彼の影響を受けて“アストラル”が完成しつつあり、いうなれば、“機械”の身体を持ちつつ、人間種と同じ様な自由意志を持つ存在、“機械生命体”へと進化を遂げつつあったのである。
こうしたコンセプトの違いよって、似た様な存在でありながら、あくまで“機械”としての域を出ないセシルと、ほとんど人間種と変わらない存在となったエイルという差が出来たのであった。
もちろん、どちらが優れているとは一概には言えない。
当然ながら、その時々で条件が変わってくる訳で、単純に外敵を排除するだけならセシルの方が適任だし、神々も含めた敵に対処するとしたら、エイルの方が適任かもしれない。
もっとも、いくら神々とは言えど、物質界に干渉する為には自身も物質化する必要がある訳で、そうした意味ではただ撃退するだけならば、セシルでも神々に対抗する事は一応は出来る。
まぁ、勝てるかどうかはまた別の話なのであるが。
もっとも、この地の正確な情報を持っていた神々は限られる為に、これまでセシルは神々と争う機会もなく、こうして無事に残されてきたのであった。
さて、そんなセシルであるが、エイルより優れている点が実はいくつかあった。
その内の一つが、ほぼ完璧な“自己修復機能”である。
エイルが、ニコラウスに偶然発見された当初は、彼女は経年劣化により随分弱体化していた。
今現在は、エイルが持つ“自己修復機能”と共に、アキトによるメンテナンスを受けているので、ほぼ100%回復しているが、それに対してセシルは、誰のメンテナンスも受ける事なく現代に生き続けてきている。
これは、以前にも言及した通り、造り手側の技術力の差であった。
この世界の現代を生きる者達には全く見分けがつかないのであるが、エイルや他の『魔道人形』達が、所謂“古代人”達によって造り出されたのに対して、セシルを造り出したのは“古き神々”である。
まぁ、これに関しては、エイルの製造目的をしっかりと理解していれば至極当然の事なのであるが(先程も言及した通り、エイルの役割は“神々に対抗する兵器”である。)、これは以前にも言及した通り、それらの正確な歴史書なり資料があまり残されていない事もあって、現代に生きる人々には、『失われし神器』、つまり古代人が残した遺跡類と、『神代の息吹』、つまり古代の神々が残した遺跡類との区別が全くついていないのである。
まぁ、これに関しては、様々な知識に明るいアキトでさえ、エキドラスに会うまでは知らなかった事実であるから、その他の一般市民が知る由もない事なのであるが。
こうした事もあって、単純な“機械”としての性能面、あるいはメンテナンス不要という意味では、エイルよりセシルの方が優れていたのであった。
さて、そんな驚異の性能を有するセシルであったが、その日は、彼、あるいは彼女の守る遺跡類に近付く者達を感知していた。
セシルは、プログラムされた通り、侵入者に対して警告を発するのであったがーーー。
・・・
〈警告します。この地は、第一級の特別機密区画です。正規の手段以外で侵入を試みる者は、誰であろうと排除します。これを解除する為には、速やかに認証コードの送信か、通行許可証の提示をお願い致します。繰り返します・・・。〉
「・・・何言ってやがんだ?」
「・・・おそらく、警告を発してるんじゃないかな?ウーウーと警報音も鳴り響いているし、ほら、SFモノとかだとよくあるじゃん。」
「・・・しかし、残念ながら私達には理解出来ない言語で言われても・・・。」
「まぁ、理解出来たとしても、あまり意味があるとは思えませんけどね。」
ウルカらが遺跡類に近付くと、人々の注意を引き付ける様な警報音が鳴り響いていた。
それに続いて、見た目、完全にロボットであるセシルから音声データがつらつらと流れたのであるが、残念ながらウルカらにはその言語を理解する事が出来なかったのである。
もっとも、ウルカの言う通り、仮にこの言語を理解出来たとしても、セシルが求める認証コードなり通行許可証を彼女達は持っていないので、結局は意味のない事である。
ウルカらの侵入を阻止したいセシルと、何としても遺跡類を手に入れたいウルカらが激突するのは、これは始めから分かりきった事だったのである。
「ウルカ様ァ。気を付けて下さいねェ。」
「ウルカ様。ご武運をお祈りしておりマス。」
その場には、アーロス、ドリュース、ウルカ、N2の『異世界人』組の他に、見届人&サポート要員としてエネアとトリアも同行していた。
彼女達は、ウルカらがセシルと戦っている間、他の魔獣やモンスターの横やりがあった場合、それに対処すべくこの場に待機するのである。
そして、今まさにセシルに挑もうとしているウルカに、そう声を掛けたのであった。
「エネアさんとトリアさんもサポートよろしくお願いいたしますね。ご心配なく。私達は、必ず勝ちますよ。」
「「・・・、は、はい!」」
自信に満ち溢れた表情のウルカに、女性でありながら彼女に見惚れていた両名は、セシルの恐ろしさも一瞬忘れてそう返事を返した。
それに、穏やかに頷くと、ウルカはアーロスらに向き直った。
「では、改めて段取りを確認しておきましょう。まず、前提条件として、敵の情報はほとんどありません。故に、どのような攻撃手段を持っているのか、どのようなパターンで行動を起こすのかのデータは全くないのです。ですから、それは戦いながら集めるしかないでしょう。」
「こちらの主軸は、近接戦闘に特化したアーロスになるけど、開幕はそうした状況もあって、あまり突っ込み過ぎない様に注意する必要があるね。焦らず慎重に、一撃離脱を心掛けてくれ。」
「了解。」
「遊撃担当の私とドリュースさんで、敵の情報を集めます。ウルカさんは、とにかく、バフの効果時間に注意して下さい。万一ダメージを負った場合は、速やかに後退し、回復をお願いすると思います。」
「了解です。」
「ま、ダメージなんて貰うつもりはねぇ〜けどな。もしかしたら即死攻撃もあるかもしれねぇ〜し。元・『TLW』プレイヤーならジョーシキだぜ。」
「それでも、こっちの世界では体力低下があるから、回復は大事だよ。アーロスの腕は信頼してるけど、くれぐれも油断すんなよ。今のパーティーにタンク役はいないんだからさ。」
「分かってるよ。慎重に大胆に、だろ?俺の得意分野だぜ。」
アーロスの言葉に、ウルカらはコクリと頷いた。
これでもアーロスは、『TLW』時はトッププレイヤーの一人だったのだ。
しっかりと、己の役割についても理解しており、なおかつ、パーティーの状況を踏まえた、柔軟な対応力もある事は皆分かっていたのである。
「では、行動を開始しましょう。」
「「「了解。」」」
〈これが最後通告です。警告します。この地は、第一級の特別機密区画です。正規の手段以外で侵入を試みる者は、誰であろうと排除します。これを解除する為には、速やかに認証コードの送信か、通行許可証の提示をお願い致します。
・・・認証コードの送信、および通行許可証の提示は確認出来ず。
“侵入者”達の更なる接近を感知。
これより、通常迎撃モードに移行。
“侵入者”達の排除を開始。〉
言語が分からないから仕方ない部分も存在するが、セシルのその警告を無視してアーロスらは接近を止めなかった。
それに対して、セシルも最後の警告の後、排除行動を開始した。
〈【霊子弾】展開。威嚇射撃を開始。〉
セシルがそう発すると、複数の“弾丸”がセシルの周囲に突如として現れた。
それを目にしたアーロスらは、
「散開っ!」
即座に散らばり、その攻撃に備える。
バラララララッ!
まるで、マシンガンの様な轟音と共に、“弾丸”の雨が降り注ぐ。
しかし、威嚇であった事もあるが、人並み外れた反応速度を持つアーロスらにはかすりもしなかった。
もっとも、いくら“レベル500”とは言えど、音速を超える、あるいはそれらに迫る速度で射出される弾丸の雨を“見て避ける”事などは出来ないが、逆に言えば、狙いを定めさせなければ良いだけの話だ。
“レベル500”の驚異的な身体能力は、常人とはまさしくレベルが違うので、遮蔽物のない開けた場所であろうと、縦横無尽に駆け回られると、狙いを定める事は難しい。
それに、万一跳弾や砂や砂利などが当たったとしても、彼らには【物理障壁】があるので、実質的にはノーダメージでやり過ごす事が可能なのである。
〈威嚇射撃終了。“侵入者”達の健在を確認。データ解析・・・。危険度Sと認定。モードを、最高迎撃モードに移行。・・・“侵入者”一人の突出を感知。〉
「うおりゃあぁぁぁーーー!
喰らえ、【ソニックブロウ】!」
〈【霊子防壁】展開。〉
ガキンッ!
パリンッ!
ガキンッ!
〈っ!?被弾を確認。ダメージは軽微。しかし、原因は不明。〉
「ちっ、浅いなっ!」
〈反撃開始!【霊子剣】発動!〉
「おわっ!?光る剣かよっ!?まるでSFだなっ!!!」
「アーロス、下がってっ!」
「わぁーってるよっ!」
一瞬にして間合いを詰めたアーロスに、セシルは防御壁を展開して対処する。
しかし、【ソニックブロウ】は、一度の攻撃で二回の斬撃が来るスキルである。
一度目の斬撃は防御壁で防げたが、と、同時に防御壁が崩壊。
その間に、二度目の斬撃がセシルを捉えたのである。
もっとも、セシル自身の防御性能も人知を超えるレベルである事もあって、いくらアーロスと言えど大したダメージは与えられなかったのである。
まぁ、そもそも二度目の斬撃は一度目に比べるとダメージ量が下がる仕様であり、それはこの世界でも同様であった為だが。
しかし、セシルを困惑させるには十分な攻撃であった事だろう。
〈突出していた“侵入者”一人の後退を確認。遠距離攻撃を再開・・・、いや、高エネルギー反応感知。【霊子障壁】緊急展開!〉
続けて、アーロスに対するカウンターの近距離攻撃を加えようとすると、当初の予定通り、アーロスはヒット&アウェイで即座に後退し、それは空振りに終わる。
それを察してセシルは遠距離攻撃で追撃しようとすると、その曖昧を縫うようにN2の『魔砲』攻撃が降り注ぐ。
キンキンキンッ!
パリンッ!
「っしゃ、もういっちょっ!」
〈っ!?【霊子障壁】展開!〉
もちろん、その程度は障壁を張る事によって容易に防げるのだが、その隙に再びアーロスが接近してくる。
もっとも、セシルは“機械”であるから、人には不可能な領域でマルチタスクが可能だ。
更には、セシルに搭載された『人工知能』には高度な学習プログラムが備わっているので、こうした波状攻撃にも徐々に対応する事も出来るのである。
だが、やはり“レベル500”の身体能力、+ウルカによるバフで各種ステータスが更に高まっているアーロスらに完全に対応する事は不可能であった。
これは、人間種も同様であるが、見て、考えて、行動する、という基本原則から逸脱は出来ないので、どうしても行動までには多少のタイムラグが発生してしまう為である。
もちろん、それはほとんど一瞬の出来事であるから、常人やかなりの強者であろうとも見分ける事すら出来ないタイムラグなのだが、アーロスらほどのレベルの者達にとっては十分に付け入る隙となる。
「おせぇっ!」
〈っ!?被弾を確認。損傷は軽微。〉
「召喚!こい、シルフィードッ!」
〈・・・。〉
〈っ!?高エネルギー体を確認。該当データ、存在せず。〉
「【ウインドカッター】発射!」
〈了解〉
〈【霊子障壁】展開!〉
アーロスらの波状攻撃に防戦一方のセシル。
攻撃を加えようにも、体勢を整える前にアーロスらの誰かがセシルに攻撃を加えるので、それも難しかった。
しかも、アーロスらは、セシルのデータにはない攻撃を次々と加えてくる。
それもその筈、彼らはこの世界の住人ではなく、それ故にこの世界のどの技術体系とも違う方法で攻撃を繰り出してくる為だ。
幅広い知識を蓄えているセシルと言えど、やはり初見では対処は難しく、それ故に一方的な展開となった、様に見える。
「おいおい、ラクショーじゃねっ!?」
「油断しちゃダメだよ、アーロス。“レイドボス”なんかと同じで、ある程度のダメージを受けると行動パターンが変わる事もあるかもしれないじゃん。」
「そうですね。今はこちらが優位ですが、敵も徐々に対応してきています。それに、何よりも硬い。今現在の私達の攻撃では、ほとんどダメージを与える事が出来ていない様に見えます。」
「おそらく、この敵は長丁場となります。こちらも、徐々に連携スピードを上げていく必要があるかもしれません。それに、ある程度のリスクを覚悟してでも、ダメージを通す工夫が必要かも。」
戦闘の合間に、アーロスらは短く打ち合わせをする。
一方的な展開にアーロスはお得意の油断を発動させるが、ドリュース、N2、ウルカは慎重であった。
確かに、彼らの言う通り、今のところセシルに対する攻撃は有効打にはほど遠い。
これは、セシルが脅威の防御性能を備えている為である。
これは、セシルの役割が『神代の息吹』を守る“守護者”だからである。
当然ながら、相手に倒されなければ勝負は決まらない訳で、とにかくセシルには硬い防御性能を与えられている。
更には、先程も言及した通り、ほぼ完璧な“自己修復機能”も備えているので、生半可な攻撃ではセシルを倒す事は不可能なのである。
そして、当然ながら“機械”であるセシルには、疲れる、という概念は存在しないが、驚異の身体能力を有するアーロスらと言えど、あくまで人間種である彼らには、身体的、精神的疲労は徐々に蓄積される。
それらは、集中力を低下させるし、疲れは攻撃パターンを単調にしてしまうリスクがある。
単調な攻撃は、当然ながら反撃の機会を相手に与えかねない。
当たり前だが、油断して良い様な場面ではないのである。
そして、アーロスらには最悪な事に、セシルはまだその性能を十全に発揮していなかった。
〈“侵入者”達のデータを分析。
身体能力、個々にバラつきはあるものの、人間種としては最高レベルであると認定。
攻撃力、現状ではそこまでの脅威ではない。
防御力、及び回避能力、極めて高い、が、エネルギー力場の存在を確認。おそらく、高出力の攻撃で貫く事が可能だと判定。
結論。
広範囲攻撃が有効だと判断。
【霊子砲】射出準備。〉
「お、おいおい、マジかよっ!」
「マズいですね。こちらはには、現状、タンク役がいないと言うのにっ・・・!」
短い打ち合わせの間に、セシルもアーロスらの戦闘能力の分析を済ませたのである。
そして、先程とは比べ物にならない、更には先程の“弾丸”とは違い、所謂“光弾”の様なモノがセシルの周りを無数に取り囲んでいたのである。
それを見たアーロスらは、流石に危機感を覚えた。
もちろん、アーロスらに施されている【物理障壁】と【対魔障壁】でそれらはある程度防げるかもしれないが、“シールド”には耐久値があるので、一定以上のダメージを受けると崩壊してしまう。
そして、仮にその“光弾”に、何らかの追加効果、あるいは即死効果が付与されていた場合、彼らの敗北が確定してしまうのである。
もっとも、全て避け切れればその懸念もただの杞憂に終わるのだが、セシルはそれも見越して、避けようがない様な広範囲攻撃でそれを封じていたのである。
この場面に、もし仮にタリスマンが存在すれば、彼のスキル【パラディンガード】で、難なく対処する事が可能だったが、残念ながらその場にはタリスマンは存在していないのである。
「ウ、ウルカ様ァッ!!!」
「ウルカ様ッ、お逃げ下サイッ!!!」
それを見て、絶望感からエネアとトリアもそう叫ぶが、すでに逃げ場はどこにも存在しないのである。
・・・詰んだ。
そう、誰もが思っていた。
〈一斉発射!〉
「くそがぁーーー!!!」
「任せて、アーロスっ!召喚!こい、ノームッ!」
〈お呼びでしょうか?〉
「ノームッ、【土壁】発動!」
〈御意〉
ところが、ドリュースの機転によって、そのピンチはアッサリと回避される事となった。
彼の職業は『召喚士』であり(一応、『魔物使い』の職業も獲得しているので、この世界でも魔獣やモンスターなどを操り、あるいは感覚を同調させる事によって感知や情報収集も出来るのだが)、所謂『四大精霊』や『召喚獣』を召喚する事が出来るのだ。
そして、今回召喚したのはノーム、つまりは“土”の精霊である。
地属性や土属性は、ゲームや物語などではかなり不遇な扱いを受ける事も多いが、現実的に考えると、もっとも恐ろしい力の一つである。
何故ならば、土、すなわち一つの基盤である“大地”に影響を与える事が出来る訳だから、相手の足場を崩す事も出来れば、大きな土壁を形成し、相手の攻撃を防ぐ事も出来るからである。
実際に、アキトやリベルトなどの機転の効く者達はこれを巧みに利用している。
アキトは、逆にそれを応用して土木作業なんかに活用していたりもするし、リベルトは純粋な魔法使いではないものの、アキトを幼い頃より見ていた結果として、とある事件によって貴族の子女を助ける為に、襲ってきた無法者達の足場を地属性の『生活魔法』によって崩し、簡単に相手の行動をコントロールして見せている。
もっとも、リベルトはともかくアキトならば、地属性や土属性の魔法によって、集団を丸ごと生き埋めにする事も、そもそも所謂“拠点”を丸ごと崩壊させる事すら可能である。
まぁ、流石にそれは、人道に反するという事でアキトは今まで使っていないが、いざとなれば容赦はしないだろう。
とまぁ、この様に、地属性や土属性は、本来は他の属性に劣らない優秀な属性なのである。
そして、先程のアキトやリベルトの例にもある通り、機転の効く者が扱えば、かなり応用範囲の広い属性でもあった。
〈っ!?地面の大規模な隆起を確認。目標をロスト。〉
ノームの力によって、セシルから放たれた“光弾”は突如隆起した土壁によって阻まれた。
と、同時に、セシルは広範囲攻撃としてその“光弾”をバラまいた結果、アーロスらを見失う事となってしまったのである。
もちろんセシルには、所謂“視界”だけでなく熱源などを感知する各種センサーが備え付けられているのだが(これによって、例え“侵入者”が様々な方法で侵入を試みたとしてもセシルにはそれらを察知する事が可能となっている。)、自身がバラ巻いた“光弾”によって、視界はもちろん、各種センサーも一時的に使用不能な状況へと陥ってしまった為である。
ここら辺は、アーロスらの力をセシルが見誤った結果でもあるが、あくまで“機械”であるセシルが、論理だけで判断した結果起きた事でもある。
セシルは、そのあまりの性能面の高さ故に、これまでは敵無しで“侵入者”達を撃退してきた事が、返って学習を妨げる要因となったのであった。
つまり、セシルの一番の弱点は、応用力の無さなのであった。
〈・・・行動選択の失敗と認定。視界と各種センサー回復の為、【霊子砲】を一時中止。と、同時に、土煙を晴らす為、【ウィンドストーム】を使用。〉
あくまで“機械”であるセシルであるが、その声色はどこか自身の行いを恥じてる様にも、反省している様にも聞こえた。
もっとも、この場にはセシルの言語を真に理解出来る者はいなかったが。
自身で巻き起こしてしまった土煙を晴らす為、セシルは風を巻き起こした。
徐々に晴れてくる視界によって、自身の行動の結果を目撃する事となる。
〈土壁の崩落を確認。“侵入者”達の姿は確認出来ず。・・・土砂崩落に巻き込まれた可能性有り。〉
そう、“光弾”をバラ巻いた為に、土壁は“光弾”の熱エネルギーによって崩れ去っていたのである。
普通に考えれば、アーロスらはそれに巻き込まれて生き埋めになっている可能性が高かったのである。
もっとも、自身で巻き起こしてしまった熱エネルギーや土煙などによる弊害として、各種センサーが正確に機能していなかった事によって、その情報を確定する事は出来なかったのであるが。
と、
ズガアァァァーーーンッ!!!
ダンダンダンッ!!!
〈っ!?緊急回避っ!!被弾。ダメージは軽微。しかし、各種センサーにダメージを確認。復旧までには多少の時間を要すると思われる。“侵入者”達は生存していると推定。〉
突如として土砂が吹き飛び、お返しとばかりにN2からの強力な『魔砲』攻撃がセシルに降り注いだのである。
完全に油断していたセシルは、障壁を張る事も出来ずに、その攻撃をモロに食らった。
もっとも、本体への被害はさほどでもなかったが、各種センサーなどの計器類に損傷を受けてしまったのである。
・・・だが、アーロスらの反撃はこれで終わらなかった。
「っしゃ、もらったぜっ!“竜闘気”・全開っ!!“二刀流”・【ソニックブロウ】っ!!!」
〈っ!?〉
突如としてセシルの足元の土砂が吹き飛び、そこから現れたアーロスの最大火力の攻撃が、マトモにセシルを捉えたのであるーーー。
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