対策会議
続きです。
今回から新章となります。
◇◆◇
「皆様、お忙しい中、よくお集まり頂きました。」
「我々がこうして一同に介する事など、いつぶりですかねぇ~。」
「そうねぇ~。ルキウスちゃんの大粛清のお手伝いをした時だと思うから、多分、10年ぶりくらいじゃないかしら?まぁ、あの時とは顔触れも大分変わっているんだけど。」
「私もォ~、その時にはまだいなかったと思うわァ~。」
「私もデス。」
「『血の盟約』のメンバー入りは、中々難しき事ゆえ、それも致し方あるまい。少なくとも、主のお眼鏡にかなう実力をともなわぬ事には、お呼びも掛からぬであろうからな。」
「然り。」
ロンベリダム帝国と“大地の裂け目”勢力との間で『ロフォ戦争』が勃発してから数ヶ月。
当初の予測を外れ、長らく膠着状態に陥っていた。
そこへ来て、アキトの介入をキッカケとして“大地の裂け目”勢力が反転攻勢を強めており、更にはその状況を打開しようとしたロンベリダム帝国側の『魔戦車』量産化計画がアキトに察知され、それを阻止すべくアキトがロンベリダム帝国内の(一部)魔法技術使用不可状態を作った後の話である。
密かに“大地の裂け目”入りしていたハイドラス派が『聖域』を占拠(と、言うよりも、そもそも“大地の裂け目”勢力にとってもここは大事な場所であると同時に、非常に危険度の高い領域であった為、“誰かが管理する”、という様な場所ではなかった事も大きいが。)し、発掘作業を推し進めていた。
以前にも言及したかもしれないが、ハイドラス派はライアド教内においても一番大きな宗派・一派である。
それ故に、『聖域』の発掘作業には、大量の人員が投入されていた訳であるが、しかし、働き手は多いものの、彼らの強さは一般人(レベル200未満)の域を出ない者達が大半であった。
それに対して、『聖域』周辺の推奨レベル(所謂、冒険者ギルドなどで危険度の目安として設定している数値)は、上級~S級、具体的には最低でもレベル300以上でなければ、立ち入らない事をオススメするレベルであった。
当然ながら、ここにいるほとんどの者達はそのレベルに達しておらず、故にそこに住んでいる魔獣やモンスターの襲撃によって、発掘作業は思うように進んでいなかった、と言うよりも、被害ばかり多くなる始末だったのである。
もちろん、作業員と化した一般信者達の護衛役として、ウルカやトリア、エネアを始めとした護衛部隊もいた事にはいたのだが、彼女らがいくら強いと言っても、大人数を護衛するには数が少なすぎるのである。
具体的には、作業員の総数の一割にも満たないのが護衛部隊の人数である。
当たり前だが、それでは守りきれるモノも守りきれないだろう。
そんな劣悪を通り越して、もはや地獄の様な環境ではあったが、作業員達は妄信的な者達が多く、また、仮に脱走しようにも、護衛部隊から離れた瞬間、まず100%死んでしまう環境もあって、亀の歩みの如くではあったが、発掘作業は進んでいったのである。
そうして、遂に目的の遺跡らしきモノに辿り着いた訳であるが、しかし、そこでまた新たなる問題が発生してしまったのであったーーー。
・・・
古代魔道文明時代の遺産である『失われし神器』は、所謂“現代魔法”より数段優れた技術であるとされている。
実際、“現代魔法”では再現不可能な『防御結界発生装置』やら、『召還者の軍勢』、『魔道人形』の存在が確認されている以上、これを否定する事は出来ないだろう。
いや、場合によっては、古代魔道文明時代のテクノロジーは向こうの世界の現代技術すら凌駕するかもしれない。
つまり何が言いたいかと言うと、『失われし神器』をより多く手に入れた者は、他者に対する大きなアドバンテージを得る事が出来る、という訳である。
場合によっては、この世界の支配者となる事すら可能かもしれない。
そうした事実もあり、特にハイドラス派は以前から『失われし神器』獲得の為に動いていたりするのである。
もっとも、これは以前にも言及したかもしれないが、歴史的資料が少なかった事もあり(ライアド教の前身となった組織が意図的に封印していた事もあるのだが、元々発見されていた物も多くなかった。)、更には数少ない資料からここら辺に存在するのではないかと当たりをつけたとしても、大規模な発掘作業が必要な為に一朝一夕で発見出来る様な代物ではなかったのであった。
仮に首尾よく『失われし神器』らしき物を発見出来たとしても(ここら辺は、以前にもアキトが言及していたが、それが『失われし神器』だと気付かないまま放置してしまう可能性もあったのであるが。)、今度はそれがどんな物なのか、どんな効果があるのかの解析・研究をする必要もあり、つまりは大量の人員や資金が必要なだけでなく、高度な魔法技術や専門知識、それも“現代魔法”だけでなく、古代魔道文明の知識にも明るい必要があり、それらの条件をクリアするとなると非常にハードルが高いのである。
事実、各国政府も『失われし神器』の有用性には気付いていたが、前提条件が非常に厳しい事もあって、あまり『失われし神器』発掘には積極的ではなかったのである。
何故ならば、確かに『失われし神器』が首尾よく手に入ればまだ良いが、仮に手に入らなかった場合は、ただ単に時間と資金の無駄遣いになりかねないからである。
それは、場合によっては国を大きく傾ける事にもなりかねないので、為政者側からしたら、確実性に欠ける事業に注力する事など愚の骨頂、な訳である。
しかも、『失われし神器』の発掘作業を難しくしている要因はそれだけでなく、ほとんどの場合、そうした遺跡群は魔獣やモンスターのテリトリーの中に存在している点であった。
おそらく永い年月放置された結果、彼らの様な存在のちょうど良い棲みかとなってしまった事が主な要因だと考えられる。
言うまでもなく、魔獣やモンスターは危険な存在である。
という事は、ただでさえ条件の厳しい『失われし神器』の捜索、発掘作業のハードルが更に高まってしまう訳である。
こうした事情もあって、各国政府はもちろん、少なくともハレシオン大陸において一大宗教団体となっていたライアド教でさえ、『失われし神器』の新規取得はほとんどの収穫のない事だったのであった(『召還者の軍勢』はかなり有用だったが、すでに壊れてしまったし、ニコラウスが偶発的に発見した『魔道人形』も、すったもんだの挙げ句アキトに奪われてしまっていた。)。
だが、そんなライアド教・ハイドラス派は、ついに『失われし神器』・『エストレヤの船』が眠る(らしき)遺跡へと辿り着いていたのであった。
しかし、ここには(他の遺跡類にも罠などはあったが)、これまで確認された事のない『門番』が存在していたのであるーーー。
・・・
「それで?その『門番』とやらは相当強力なのですか?」
「ええ、間違いありません。遺跡発見当時、偶然現場にウルカ様、トリアさん、エネアさんが居合わせていたにも関わらず、作業員を退避させ、敗走するしか出来なかったほどです。残念ながら、その時に少なくない数の犠牲者も出ています。」
「それはそれは・・・。トリアちゃんやエネアちゃんはともかく、『神の代行者』たるウルカ様まで一緒に居てそれって事は、かなりマズい事態ねぇ~。」
「ちょっとォ、エナちゃ~ん。私達ならともかく、ってどういう意味よォ~!」
「まあまあ、エネアさん。エナさんの仰る事はもっともデスよ?ウルカ様は、確かに御本人が仰るには戦闘能力は高くない、との事ですが、それでも私達よりかは数段お強い事は事実デス。しかし、そんなウルカ様ですら、お一人では『門番』に打ち勝つ事が出来なかったのデスから、多少の強弱はあれど、『血の盟約』メンバーは同程度の強さデスから、私達が束になっても、『門番』には通用しない可能性もありうるのデス。」
「それはそうだけどォ~・・・。」
ハイドラスの神託の巫女であるプリメーラが現状を説明する。
『血の盟約』は、ハイドラスの声を直接聞ける存在が集まっているので、本来はハイドラス直属の部隊とも言えるのだが、そうなるとハイドラス派、つまり組織との関係が薄くなってしまうと恐れもあった。
まぁ、彼らの存在事由は、ある種、ライアド教の汚れ仕事担当であるから、彼らが公式的にライアド教に所属している事を周知徹底する必要はないのであるが、それでも、上の者達まで彼らの存在を認知していないと混乱をきてしてしまう恐れもある。
それ故に、ハイドラス派の実質的なトップであるプリメーラ(まぁ、彼女も、ハイドラスの傀儡ではあるのだが)が、彼らの表向きの上司に当たる訳であった。
「それは・・・、困った事態であるな。ウルカ様でも歯が立たないとなると、我々程度では足手まといになりかねない。」
「然り。さりとて、主の御所望の遺跡を目の前にして何も出来ぬのは、歯痒いモノであるが・・・。」
「そうですねぇ~・・・。それで、プリメーラ様。その『門番』の詳しい情報はあるのですかな?」
「はい、一応。とは言え、正確な事はまだ何とも・・・。斥候を送ろうにも、ある程度の距離に近寄った瞬間に、件の『門番』が襲い掛かって来てしまうので、情報を持ち帰る事すら困難な状況なのですよ。」
「なるほど・・・。おそらく、古代人が設置した遺跡を守る守護者、なのでしょうな。」
「と、なれば、それを解除する方法もあるんじゃないかしら~?問答無用で襲われたら、古代人だって堪ったもんじゃないだろうしねぇ~?」
「確かに。しかし、そもそも情報が一切ないとなるとな・・・。」
「主からも新たなる神託はありません。おそらく、この程度の事は、我々で何とか出来るとお思いなのでしょう。」
「我等の信仰を試されている、のかもしんぬな・・・。」
ハイドラスの狂信者である彼らは、ハイドラスからの追加の神託がない事を、その様に好意的に解釈していた。
まぁ、本当はハイドラスにもただ単に有用な情報がないだけかもしれないが。
「とりあえずまとめると、今分かる事は、『門番』はおそらく一体である事。ある程度の距離に近寄ると襲い掛かってくる事。その強さは、戦闘特化ではないにしても、あなた方を大きく上回るレベルの『神の代行者』であるウルカ様でも、お一人では太刀打ち出来ない事。でしょうか?」
「解除方法についても、おそらくあるのでしょうが、あるとしても遺跡の中でしょうから、それを調べる事も困難でしょうな。どちらにせよ、その『門番』をどうにかしない事には、我々は遺跡に近寄る事すら出来ない訳ですからな。」
「古代人も、厄介な置き土産を置いていったモノねぇ~。」
「逆に言えば、それほどこの遺跡が重要な施設か貴重な『失われし神器』の保管場所となっていた可能性が更に高まった、という事でもある訳だな。」
「それは確かに。」
先程も言及したが、状況的に古代魔道文明時代の遺跡群だったり、『失われし神器』の調査・発掘はそうは多く実施されている訳ではないが、その中では比較的そうした事業を多く取り扱った事のあるライアド教にとっても、これほど強力な守護者に遭遇した事はこれまでなかったのである。
本当は今まで手掛けた遺跡なんかにも守護者と呼べる存在がいた可能性も否定出来ないが、単純に、これまでは経年劣化などの理由によって、防衛システム的なモノが動かなかっただけかもしれないが。
しかし、やはりハイドラスが“世界”を手に入れられるほどの力がこの遺跡に眠っていると豪語し、実際に今まで出会った事もない超強力な守護者が存在する以上、この先に眠る『失われし神器』に対する期待が、いやが上にも高まる、というモノである。
しかし、それでも、現状、その『門番』に対抗出来る有力な手立てがない事が、彼らの心に重くのし掛かった。
「いっそ、私達で協力してその『門番』を倒すのはどうだろうか?」
「いやいや。先程も説明しましたが、ウルカ様でさえ、お一人では敵わなかったのですよ?レベルとしては、彼女に劣るあなた方ではとても・・・。」
「それは分かっておる。しかし、こちらは頭数はそれなりに揃っているのだ。しかも我々は、各々がS級冒険者相当の手練ればかりであるぞ?単独で立ち向かうならばともかく、複数人で一斉にかかれば、まだ勝機はあるのではないかな?」
「う~む。しかし、私達に連携を期待するのはどうかと。私達は、基本的に単独任務が主ですからなぁ~。」
「下手な連携行動は、返ってお互いの足を引っ張る事にもなりかねないモノねぇ~。」
「仮にその案を採用するにしてもォ、今度は時間が足りないと思うわァ。おそらくゥ、時間を掛ければ私達の連携機能が高まる可能性が高いけどォ、いつまでェ、ここに居座れるかも分からないだものォ~。」
「そうデスね。ニルさんの話では、ロンベリダム帝国の崩壊は時間の問題だそうデスから、『ロフォ戦争』もいつまで続くか分かりません。仮に明日『ロフォ戦争』が終結した場合、“大地の裂け目”勢力は、我々の排除に乗り出す可能性もありえマスからね。」
「・・・なるほど。」
この世界においても、レベル差は大きな壁とはなるが、当然絶対でもない。
個人では敵わない魔獣やモンスターでも、パーティーを組めば討伐する事が可能となる冒険者などや、部隊を整えた騎士団などががその良い例だ。
しかし、当然ながらそれには連携行動が絶対条件となる。
チームの連携が取れている集団は、その相乗効果により、個人の力を数倍に高める事が出来るからである。
逆を返せば、ろくにチームワークも取れない集団など、ただの有象無象と何ら変わらないのである。
先程も、ニルも指摘していたが、『血の盟約』には、チームワークなど皆無なのであった。
もちろん、個人個人が一流の使い手ではあるが、それとチームワークはまた別の話だ。
無論、ある一定の訓練期間を経れば、チームワークを育む事も出来るだろうが、それも先程トリアが指摘した通り時間の問題もあった。
「「「「「ふぅ~む・・・。」」」」」
そんな感じに、有力な手段が思い浮かばず、彼らは頭を抱えていたのであるが。
「話は聞かせて貰ったぜっ!」
「「「「「なっ・・・!?」」」」」
「あ、貴方、いえ、あなた方はっ・・・!!!」
「ウルカ様のお仲間の皆さんっ!?」
「ちょいとこっちにも都合があってね。もし良ければ、アンタらが抱えてる問題に、俺らが手を貸してやってもいいぜ?」
と、そこへ突然現れたのは、アキトらには空気が読めない、トラブルメーカーと散々揶揄されたアーロスと、ドリュース、N2の三人だったのである。
その後ろには、若干気まずそうなウルカの姿もあったがーーー。
◇◆◇
方針を変更する前のプロスの誘導により、“大地の裂け目”入りを果たしていたアーロス達は、プロスの部下を名乗る者の手引きによって、ウルカのもとへと向かっていた。
当然、今現在ウルカが滞在している場所は、『ロフォ戦争』の戦場の真っ只中であり、なおかつただでさえ危険度の高いエリアである“大地の裂け目”内部の、更に危険なエリアである中心地、『聖域』なのであるが、彼らのその未熟な精神性はともかくとして、実力は“レベル500”の折り紙付きであるから、そんな場所でも難なくクリアしていたのである。
「ラクショーラクショー!」
「や、やはり皆様の実力は凄まじいモノがありますな・・・。」
「いえいえ。」
「僕らは結構長く一緒にいますからねぇ~。お互いに連携が自然と出来てしまうんですよ。」
「なるほど。」
プロスの部下は、危なげなく魔獣やモンスターを撃退していくアーロス達に賛辞を贈る。
それにドリュースらは、謙遜しつつ、そう自慢気に付け加えた。
元・『LOL』であるアーロスらは、『TLW』時はパーティーを組む事も多かった。
それ故に、お互いの役割分担をしっかり把握していたのである。
アーロスは完全に物理特化型の前衛職であるし、N2は、所謂弓使い系の遠距離からの狙撃や支援、牽制をこなせる遊撃タイプである。
更には、ドリュースは、『魔物使い』、『召還士』としての能力によって、索敵や情報収集、戦闘時においても、同士討ちを誘発させる事が出来るなど、実はこの三人組はかなりバランスが良かったのである。
本音を言えば、ここに魔法特化型のタイプと回復役がいれば、更に言う事はなかったのであるが。
「この分ですと、結構早めにウルカ様のところへ辿り着けるかもしれませんな。」
「よっしゃぁっ!さっさと行こうぜ、みんなっ!」
「うんっ!」
「ええ。」
・・・
こうして、全く何の問題もなく『聖域』に到達したアーロス達は、その惨状に思わず言葉を失っていた。
「な、何だ、こりゃっ・・・!」
「これは、ひどいですね・・・。」
「・・・。」
「これが現実ですよ、皆様。この場所は、我々人類の進入を拒んでいるのです。これでも、ウルカ様を中心とした献身的な看護によって、まだマシな方ではあるんですがね・・・。」
「「「・・・!」」」
そこは、前線の野戦病院さながらの地獄絵図であったのである。
まぁ、ぶっちゃけてしまうと、これはハイドラスや現場を指揮している者達の責任である。
彼らがこの場所に居る事は、ハッキリ言って無謀以外の何物でもない事は分かりきった事なのだ。
それを、ハイドラスへの信仰を利用して、無茶苦茶な発掘作業に従事させ、それに加え十分な護衛もつけなければ、魔獣やモンスターによる被害者が続出するのは当たり前の話だったのである。
しかし、そんな裏事情を知らないアーロス達は、またこの世界や向こうの世界の現実を知らない彼らは、そこに変な正義感を発揮させてしまう。
「と、とりあえず、ここら辺の敵を一掃しちまおうぜっ!そうすりゃ、しばらくは安全だろうし、ウルカさんや他の回復役達で、負傷者の救護が出来んだろっ!?」
「ええ、そうですね。」
「うん。」
そもそも、本来の“侵入者”は彼らの方なのである。
魔獣やモンスターは、この場所に住み着いている者達であるから、生活拠点にいきなりやって来たハイドラス派の者達を攻撃するのは、むしろ当然の事である。
だが、彼らは何処までも人間本位で物事を考えてしまう傾向があった。
こうして、“侵入者”による魔獣やモンスターの“虐殺”が行われる事となったのであるがーーー。
◇◆◇
一方のウルカは、その時ひどく気落ちしていた。
曲がりなりにも自身が“レベル500”という圧倒的な強者で、なおかつ他に類をみないほどの回復魔法の使い手である事が彼女の増長に拍車をかけていたのである。
しかも、ハイドラスからの信頼も厚く、自分の承認欲求を十分に満たせたところも大きかった。
しかし、当然ながら、現実は彼女一人で何とかなるほど甘くはない。
彼女が圧倒的な強者である事は事実ではあるが、しかし、彼女の手の届く範囲は限られている訳で、どれだけ彼女が奮闘しようとも、『聖域』ではどんどん被害者が続出していったのである。
その結果、自分は役立たずであると思い込んでしまう。
しかも、ハイドラスからの神託が途切れていた事(ハイドラスの目的はあくまでこの遺跡群と『エストレヤの船』であるから、今更追加の命令を下すまでもない、という理由もあったのだが)が、更にそれに拍車をかけていた。
自分は、ハイドラスからも見限られているのではないか、と。
それ故に、自分の存在意義を認めさせる為にも、更に孤軍奮闘する、という負のスパイラルにはまりこんでいたのであった。
そこへ来て、ようやく目的の遺跡らしきモノが見つかり、明るい兆しが見え掛けたところに、強力な守護者の存在である。
彼女の活躍があった為に、何とか被害が最小で食い止められたとは言え、そんな精神状態だった彼女が、更に気落ちしたとしても無理からぬ話なのである。
当然、誰も彼女を責めてはいないのだが、そこはそれ、人間と言うのは、自分でそうだと思わない限り、どれだけ素晴らしい金言だろうと名言だろうとその人の心には届かないモノなのだ。
それ故、その失態(と、勝手に彼女の中で思い込んでいるだけの事なのだが)の穴埋めとして、負傷者達の救護に全力で当たっていた訳である。
「も、申し訳ありません、ウルカ様・・・。」
「いえ、ご無事で何よりでした。」
「ウルカ様。献身的な救護活動はありがたいのですが、少しは御自愛頂きませんと、貴女様の方が倒れられてしまいますよ?」
「いえ、私は大丈夫ですから・・・。」
「・・・。」
ウルカにそう苦言を呈する者もいたが、彼女は聞く耳を持たなかった。
その者の言う事は道理である。
言ってしまえば、医療従事者が一番最初に倒れてしまったら、誰が患者を診るのか、という話である。
それに、ここにいる者達は、ハイドラス派、つまりは回復魔法を独占しているライアド教の関係者であるから、回復魔法の使い手は何も彼女だけではないのである。
それ故、現実的かつ建設的かつ効率を考えれば、彼女一人で頑張るのは逆に無意味とも言える訳だ。
しかし、彼女自身の焦りとも言える心情によって、視野狭窄を自ら作り出しているのであった。
「み、皆の者っ!朗報だ、朗報っ!!ウルカ様のお仲間が、救援に駆け付けて下さったぞぉーーー!!」
「えっ・・・?」
「「「「っ!!!」」」」」
「そ、それはまことかっ!?」
「ああ、間違いないっ!今も、この辺のモンスター共を殲滅しておいでだっ!」
「おおっ!」
「主よ。感謝しますっ・・・!」
だが、そこへ新たなる救世主達の登場によって、状況はまた変わって行くのだったーーー。
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