裏取引 3
続きです。
◇◆◇
「・・・まさかライアド教の方が、現時点で私に接触してくるとは予想外でしたよ。」
「恐れ入ります。しかし、我々にも少々複雑な事情が存在しましてね。打てる手は、なるべく打っておく必要があったのですよ。」
「・・・ふむ。」
聖マルコフらとの会合から数日後の後、一度方向性を決めたプロスの行動は早かった。
と、言っても、以前にも言及した通り、表向きの立場である大商人としてのジャンはただでさえ忙しい身であるから、面会のアポを取るだけでも一苦労なのである。
故にプロスらとしても、そこら辺も鑑みて早めにアポと取っていたのだが、これは完全にプロスらの予想外であったが、ジャンが商人としての仕事をセーブした結果として、プロスらとしても予想外に早い面会へと漕ぎ着けていた、という裏事情も存在していたのである。
まぁ、反政府活動に注力すると決めたジャンとしては、他の仕事にまで手が回らない事もあって、そうなるのはある種必然だったのであるが。
そんな事もあって、比較的早い段階で、こうしてジャンとプロスとの会談が実現していた、という流れであった。
「では、早速ですが、本日のご用向きをお聞かせ頂いても?」
「もちろんです。」
・・・
「なるほど・・・。あなた方のお考えはおおよそ理解しました。」
「恐れ入ります。」
プロスは、聖マルコフらに語った様な狙いをジャンにも語って聞かせる。
それに、納得の表情を浮かべたジャンはしばし黙考していた。
もっとも、プロスの真の狙いである、ヴァニタスに語った様なロンベリダム帝国の崩壊、に関してはこちらはだんまりを決め込んでいたが。
どちらにせよ、わざわざ語らずとも反政府活動が上手く進めば、結果としてはそうなるのだから、わざわざ語る必要もなかったのである。
プロスが一種の破滅主義者である事を相手に悟らせて、ジャン側に警戒感を持たせる必要もない訳であるし。
「・・・当然ながら、ライアド教のお墨付きを頂けると、我々としても大変有難い限りですが、あなた方としてはそれでよろしいので?」
「もちろん、この行為は、現政権側にとってはある種の裏切り行為でしょうが、しかし、我々はロンベリダム帝国に組み込まれた組織ではなく、あくまで独立した宗教団体です。それ故に、独自の裁量で動く権利がありますし、わざわざロンベリダム帝国と命運を共にする義理もありません。我々も、多くの仲間や信者さん、そしてその家族を抱えている以上、良くも悪くも状況は見極めて動かねばなりませんからな。」
「・・・なるほど。」
「・・・それに、嫌らしい話、貴方に会っていた事実が発覚しても、我々には何の痛痒もないのですよ。先程も述べた通り、我々は独立した宗教団体ですし、今回の事を危惧した我々は、反政府側との橋渡しに尽力していた、という言い訳もまかり通りますからな。」
「・・・ほぅ。」
ジャンは、プロスのしたたかな発言に目を細めていた。
と、言うのも、宗教家が、所謂“政治家”や“商人”の様に、細かい計算の上で立ち回っている事自体は驚くべき事ではなかったが、それをあえて包み隠さず伝えた事に驚いていたのである。
商人としては、もっとも警戒しなければならない相手というのは、一見何の打算も計算もない、というフリをして近付いてくる相手である。
こうした相手は、最終的にはおいしいところを全部持っていこうとするからである。
逆に言えば、己の思惑を包み隠さずに伝えてくる相手の方が、むしろ信用出来る訳だ。
それが分かった上で、目の前の男は、あえて自分達の思惑を伝えてきた事で、言わば誠意や本気度を暗に伝えてきた訳である。
ジャンは、ライアド教への評価を、己の中で上方修正していた。
「逆に言えば、あなた方にとっても、我々は十分に利用価値が高いと愚行致します。我々は、現政権側とも近い関係にある。そして、現政権側にも、あわよくばこちら側に寝返る機会を窺っている者達も多い事でしょう。」
「・・・もしや、あなた方がその仲介を担うおつもりで?」
続くプロスの言葉に、再び目を細めたジャン。
目の前の男が、かなりの切れ者だと理解したからである。
「そうです。あなた方にとっても、なるべくならば対立や衝突は少ない方が良いでしょう?それに、いきなりあなた方が交渉に臨むより、我々の言葉の方が口説き落とし易いと思われます。」
「・・・確かに。」
当然ながら、ジャンとしても、現政権側の切り崩しは考えていた。
当たり前だが、混乱しているとは言え、現時点での現政権側と反政府側とでは、その勢力に圧倒的な開きがあるからである。
それでも、先住民族達の協力を取り付け、既に一部貴族達も取り込んでいるが(そこに更には国民も味方につけつつあるが)、もし仮にライアド教の協力を得られれば、そうした工作活動が加速度的に早まる可能性が高い。
瞬時にそう計算したジャンは、しかし、商人としては一つどうしても確認しておく事があった。
「・・・それで、あなた方は私達に何をお求めなのでしょうか?」
そう、つまりは報酬の話である。
もちろん善意だけで行動を起こす者達も存在するが、先程もプロス自身が述べていた通り、彼らはライアド教という組織なのである。
故に、何の利益も計算もせずに動く筈もなく、というか、そんな慈善活動ばかりしていたら食いっぱぐれてしまう。
だからこそ、ライアド教としては、この活動を通して反政府側に某かの要求があってしかるべきなのである。
そう切り出したジャンに、しかしプロスは言いよどむでもなく、ハッキリと答える。
「それは結構単純ですよ。現政権側にもお認め頂きましたが、仮にあなた方が政権を取った暁には、我々の活動を正式に認可して頂きたいのです。嫌らしい話、あなた方に協力するのも、我々の更なる布教の間口を広げる事が出来る可能性が高いからでもありますからね。」
「・・・ふむ、なるほど。」
ジャンは納得していた。
先程の話とも重複するが、商人としては己の利害があって協力する、という方が信用出来る訳だ。
そして、ライアド教にとっても、現政権側、反政府側双方に顔を繋いでおく事で、どちらに転んでもどうとでもなる様に根回しをしている、ってところであろう。
瞬時にジャンはそう看破した。
「・・・いかがでしょうか?」
「ええ、分かりました。もちろん、絶対に約束する事は出来ませんが、何故なら、我々が倒される可能性もありますからね。それに、仮に反政府活動が上手く事が運んだとしても、今のところ代表は私ですが、別の者が立つ事も大いにありえますからね。ですが、まぁ、私個人としては異論はありません。嫌らしい話、あなた方の権威は、反政府活動をするにしても、新政権を運営するにしても大いに役立ちますからな。」
「ハッハッハ。中々正直な方ですな。・・・しかし、それはこちらも同様ですよ。どうやら、利害は一致している、と受け取っても良い様ですな?」
「ええ。こちらとしては、あなた方のご協力を心より歓迎致します。」
「おお、有り難き幸せ。」
もっとも、現時点では、表向きな合意文書や調印、といった段階ではない事はお互いに理解していたので、あくまでジャン個人との裏取引としての合意であったが、正式に反政府活動に参入さえしてしまえば、先程ジャンが語ったリスクなど、プロスらにはあってない様なものだった。
こうして反政府側と、ライアド教が正式に繋がる事となったのであるがーーー。
◇◆◇
「政府は何をやっているんだっ!一向に状況が改善せんではないかっ!」
「このままでは冬を越せんぞっ・・・!」
「しかし・・・、どうする?我々が抗議の声を挙げたところで、政府が聞き入れるとも考えられんが。」
「むしろ、逆に聞きたいのだが、『魔道具』の使用制限をわざと政府がかけている、というのは根拠のある話なのか?」
「正確な証拠がある訳ではないが、しかし、貴族の連中は相変わらず『魔道具』を使用可能だそうだし、もちろん魔法技術も使えるそうだぞ?貴族の屋敷で働く知人が言っていたのだ。間違いないと思う。」
「それが本当だとしても、何故我々を苦しめる様な真似をわざわざ政府がする必要があるのだ?今は、『ロフォ戦争』の真っ最中だろう?軍隊にとっても、我々の食糧生産はある種の生命線だ。むしろ、生産性を高める方が急務だと思われるが・・・?」
「そんな事は俺に聞かれても分からんよ。しかし、重要なのは、結果として我々は現時点で『魔道具』の一切が使えない、という事実の方だろう。」
「それはそうなのだが・・・。」
一方その頃、とある地方では、ある程度力のある豪農を中心とした農業従事者達が会合を行っていた。
議題は、当たり前だが今現在のロンベリダム帝国内でホットな話題であるところの、“魔法技術使用不可状態”についてだった。
何度となく言及している通り、もちろん地方によっては格差はあるものの、ロンベリダム帝国内では魔法技術の恩恵によって食糧生産が活発化している。
食糧生産が活発化すれば、その分農業従事者達にとっては収入が増える訳だから、魔法技術の普及は歓迎すべき事態であるのだが、その一方で、仮に魔法技術が使えなくなると、以前の魔法技術が普及する以前の食糧生産量に戻ってしまう。
いや、むしろ、魔法技術を前提とした生産活動を推進した結果、ここら辺は効率化の有無もあるのだが、それが無かった以前よりも生産量が減少してしまう、なんて事態にもなりかねないのである。
人間は、良くも悪くも慣れる生き物である。
そして、一度慣れてしまうともう元の生活には戻れない事もよくある話だ。
例えば、向こうの世界の現代社会では、インターネットや通信技術が加速度的に普及している。
しかし、ほんの数十年前までは、それらが無かったのが普通なのだが、今ではそれらが無いと何も出来ないのである。
それ故、通信事業者の責任はとてつもなく重くなっており、場合によっては政府が介入する事態にまでなっている。
そして、それはロンベリダム帝国内の農業従事者達、だけでなく、国民にとっても同じ事が言えた。
他国や一昔前のロンベリダム帝国では、魔法技術が普及しておらず、と言うか、これも再三述べている通り、魔法技術はある種危険な側面もあるので、国民にまで普及してしまうと、支配者層や魔術師ギルドとしても、自分達の優位性を損なってしまう恐れが高い為、それらを制限していた訳であるが、ルキウスは合理主義者として、また己の野望の為にも、それらを撤廃していた訳である。
もっとも、流石にある程度の抑制は必要であると理解していた為、『魔道具』としての普及に留めておいたのだが、それが功を奏して、結果ロンベリダム帝国は強国、大国としての地位を確立するに至った訳である。
ただ、これはむしろ当然の話でもあるのだが、先程の例の様に、仮に某かのトラブルが発生した結果、テクノロジーの使用が制限されてしまう事態を想定しておかないと、国民生活、だけでなく、場合によっては経済活動にまで混乱をもたらしてしまう恐れもある。
まぁ、とは言え、ルキウスもランジェロも、流石にその辺は考慮していたのであるが、しかし、残念ながらアキトが介入した時点で、復旧がどうこうというレベルの話ではなくなってしまったので、結果、ルキウスらはこの事態の収拾を図る事が出来ずにいたのである。
先程も述べた通り、とりあえず以前の農法や生活で対処してはいるのだが、それはもはや慣れた作業ではなくなってしまったので、結果として生産活動は鈍化。
そうなれば、否応なく国民の不満は高まってしまうのである。
そうすると、何が起こるかと言えば、反乱である。
もちろん、即座にそうなる事はないかもしれないが、とりあえずその地方の領主家などに陳情をするなり、デモ的な活動を通して、自分達の窮状を訴える訳である。
もっとも、それに応えられない様ならば、その時はまさしく反乱、一揆の勃発となってしまう訳だが。
この集まりにしても、それらを含めた相談事だったのである。
「だいたい、俺は『ロフォ戦争』には初めから反対だったんだっ!わざわざ、“大地の裂け目”に攻めいる必要もなかっただろうっ!!」
「・・・アンタ、本気でそんな事言ってんのか?奴らは、俺らの同胞を拐ってたんだぞっ!?」
「お前こそ、本気でそんな話を信じてんのかっ!?そんなモン、嘘に決まってんだろっ!あの皇帝だぞっ!?大方、自分の息のかかっている奴らを送り込んで、そんな風に仕向けたんだよっ!!」
「そんな訳あるかっ!」
「まあまあ、二人とも落ち着け!」
「「・・・。」」
「こやつの言い分も理解出来る。お主はまだ若いからあまり覚えていないかもしれないが、彼の皇帝は、かつては陰で“虐殺帝”などと揶揄されていたのじゃよ。」
「そうなのかっ!?」
「自分の意に沿わない貴族達を山ほど処刑しておるからのぅ。今では物分かりの良いフリをしているが、その事実を知っているワシらからしたら、そっちの方が不気味なんじゃよ。何か裏があるのではないか、とな。」
「・・・そういえば、親父やお袋は、皇帝を嫌っていたな・・・。」
世代によってその人のイメージが変わる事は、これもよくある話である。
比較的上の世代は、ルキウスの大粛清をリアルタイムで伝え聞いているので、ルキウスに悪いイメージを持っている者達も多い。
しかし、それをリアルタイムでは知らない世代は、むしろ昨今の政策や外交姿勢などから、逆に良いイメージを持っている者が大半を占めていた。
故に、『ロフォ戦争』にしても、比較的若い世代からの支持は高かったのだが、上の世代からは懐疑的な目を向けられていた訳である。
まぁ、それもある種の決め付けや憶測でしかなかったが、しかし、実際にこの人物の語った話は事実なのであるが。
「だが、重要なのはそこではない。ワシらは今後、どう対応すべきか、という話じゃ。」
「「・・・確かに。」」
だが、ルキウスが、現政権が気に食う気に食わん、という話ではなく、今後自分達の生活や行動をどうするか、というのは、両者とも共通認識として持っていた。
すでに、自分達の生活が困窮しつつあるのだから、それも当たり前なのだが。
「・・・俺は、現政権に反抗するべきだと思う。少なくとも、圧力をかける事によって、俺達が追い詰められている事を奴らに知らしめる必要があるからな。」
「・・・ふむ。」
豪農の言葉に、ようやく、具体的な話し合いの体になってきた。
「いや、しかし・・・、それはどうなのだ?言い方は悪いが、それでは、俺達は軽く叩き潰されて終わりだろう?」
「・・・確かに。」
「では、どうすると言うのだっ!?このまま何もせぬままだったら、先程も誰かが言っていたが、我々は確実に冬を越せんぞっ!!??少なくとも、かなりの数の餓死者が出る事だろう。」
「それなのよな・・・。」
「「「「「・・・。」」」」」
ここら辺が、現状のロンベリダム帝国の複雑なところであった。
もちろん、『魔道具』の恩恵によって、食糧生産が活発になった結果、それなりの備蓄がある筈なのだが、それも『ロフォ戦争』に伴い吹っ飛びつつあるからである。
当たり前だが、戦争には費用がかかる。
そして、長引けば長引くほど、費用を垂れ流しにするのである。
実際、向こうの世界でも、戦争の為に自国の領土を売り払って戦費の足しにした皇帝などもいる。
戦争は金食い虫なのである。
もちろん、その戦争に勝利する事が出来れば、費用の回収をする事が出来るかもしれないが、戦争の真っ最中にそれは不可能である。
こうした事もあり、強国、大国として名高いロンベリダム帝国と言えど、これまで蓄えていた備蓄や費用が、徐々に失われつつあったのである。
むしろ、余剰分の食糧などは、他国との貿易に使われた事もあって、また戦地に運ばれた事などもあって、ロンベリダム帝国内には思った以上に備蓄が少なくなっていたのである。
それでも、ルキウスが国庫を解放すれば、少なくとも国民の生命は守られる程度ではあったが、戦争を抱えている彼がそれをするというのは、戦況を更に悪化させる可能性も高い為に、難しい判断なのである。
もっとも、あくまでそれはルキウスのエゴであるし、彼の当初の見積りでは、“魔法技術使用不可状態”がここまで長引くとは考えていなかった事もあるのだが。
まぁ、そんな事もあって、地方の備蓄は、貿易に使ったり戦争による増税によって徴収された事なども手伝って、ほとんどない状態に近かった訳である。
もっとも、通常の様に魔法技術が使用可能であったら、それでもどうにかなった話なのであるが。
長い沈黙がその場を支配していた。
集まった者達も、現政権への反抗しか方法がない事を理解していたが、しかし、それは同時に危険な賭けでもあったから、いまいち決断出来ないのも無理はないのだが。
「・・・皆さん、お困りの様ですな。」
「「「「「っ!?」」」」」
しかし、そこに場の雰囲気を変える者が突如として現れる。
「アンタはっ・・・?」
「お話し中、失礼します。私はライアド教の者です。」
「おおっ・・・!」
「ライアド教のっ・・・?」
そこに現れたのは、法衣姿の男性の姿であった。
「ライアド教の方が、我々に何のご用でしょうかな?」
「そう警戒しないで頂きたい。我々は、あなた方に朗報をもたらしにやって来たのですから。」
「朗報・・・?」
「ええ。」
訝しげな表情の豪農が、皆を代表して法衣姿の男と会話を交わし始める。
「皆さん、食糧の備蓄が底を尽きそうでお困りなのでしょう?しかし、流石に現政権に反抗するのには躊躇われる。それはそうでしょう。あなた方程度の勢力では、ロンベリダム帝国にとっては敵ではありませんからな。即座に鎮圧されて終わり。むしろ、食い扶持を減らす事が出来る訳ですから、ロンベリダム帝国としても願ったり叶ったりかもしれません。」
「「「「「・・・。」」」」」
あまり考えたくなかった事実をズバリと突き付けられて、豪農達は押し黙ってしまう。
「しかし、このまま何もせぬままであれば、それはそれで終わりですな。ロンベリダム帝国の冬はかなり厳しい。十分な食糧もないままでは、餓死者が続発する可能性が極めて高いからです。まぁ、こちらも、先程述べた通り、ロンベリダム帝国にとっては悪い話ではないかもしれませんが、な。」
「・・・何が仰りたいのですかな?」
法衣姿の男の言いたい事が分からずに、豪農は訝しげにそう問い掛ける。
「いえ、私はあくまで現状の確認をしただけですよ。それを踏まえた上で、あなた方に一つのご提案をお持ちしたのです。」
「・・・提案?」
「ええ。・・・あなた方も、反政府側についてみてはいかがでしょうか?」
「何っ・・・!?」
「「「「っ!!!」」」」
「もしかしたら御存知かもしれませんが、ロンベリダム帝国では今現在、反政府勢力が台頭しつつあります。その規模は中々のものですよ?そして、それにあなた方も参画すれば、少なくともあなた方だけで行動を起こすよりかは、遥かにマシであると言えるでしょう。少なくとも、いきなり叩き潰される可能性はかなり低くなる。」
「それはっ・・・!」
「・・・まぁ、そうなるな・・・。」
現政権側とてバカではない。
仮に、この豪農達が反政府勢力と合流したとなれば、彼ら自体の勢力はそう大した事はないのだが、しかし、彼らを叩く事によって、そのバックである反政府勢力とも全面的に争うキッカケを作ってしまう訳である。
いくら、今現在は現政権側の方が圧倒的に優位であると言っても、『ロフォ戦争』も抱えている中での内部争いは悪手でしかない。
場合によっては、『ロフォ戦争』の敗北、どころか、ロンベリダム帝国の崩壊に繋がる可能性があるからである。
故に、この豪農達が反政府勢力へと参画すれば、現政権側が彼らに手を出す可能性はかなり低くなるのである。
「それに、反政府側は物資の援助もしてくれますよ?もちろん、食糧も、ね。」
「「「「「っ!!!」」」」」
「どうやら、他国が介入しているのでしょう。ロンベリダム帝国の台頭をこころよく思わない勢力も存在していますからね。彼らにとってみれば、ロンベリダム帝国の内部分裂は歓迎すべき事態だ。その為には、資金や物資を援助する事も厭わないのでしょう。しかし、そんな思惑はあなた方には関係ない。重要なのは、この冬を越せるかどうかだ。・・・違いますかな?」
「それはっ・・・!」
「・・・その通りだと思うぜ、ライアド教の旦那。俺らは、正直上の首がすげ変わろうがどうだっていいんだ。他国がどんな思惑を抱えていようとも、な。」
「・・・だが、やはり皇帝に逆らうのはかなり危険だぞっ!」
「そりゃ分かってる。だが、このままじゃ、ライアド教の旦那が言う通り、俺らはこの冬でかなりの数が壊滅する事になる。悪いが俺んトコにはまだ小さえガキを抱えているんだ。家族の為なら、俺ぁ、何だってするぜ?」
「「「「っ・・・!!!」」」」」
一人の男の言葉に、その場の雰囲気が一変する。
そうなのだ。
彼らからしてみれば、ロンベリダム帝国の上の連中がどうなろうが知った事ではなく、あくまで自分達の生活が最優先事項なのである。
まぁ、今まではロンベリダム帝国がどんなに無茶をしようとも、自分達の生活を安定させてくれていたから反抗する必要もなかったのだが、今は状況が違う。
何度となく言及しているが、残念ながら、現政権側は状況を改善する事が出来ずに、しかも『ロフォ戦争』を抱えている状況もあって国民の生活を蔑ろにしている、様に見える。
少なくとも、国庫を解放するなり、増税を即座に撤回するなり、減税をするなりし、国民の不満、つまりは差し迫った食糧危機に対応すれば良かったのだが、残念ながらいくらルキウスが天才とは言えど、見積りが甘過ぎた結果、その初動が遅れに遅れていた。
当たり前だが、今からでもそれらの対策を打つ事も出来なくはないが、しかし、物事にはタイミングというものがある。
残念ながら、今更それらをしたとしても、遅きに失したと言わざるを得ない状況なのである。
「・・・やろう。」
「・・・それしか、ない、か。」
「やろうぜっ!家族の命を守る為だっ!!」
「応っ!やらいでかっ!!!」
「決まり、ですかな?」
「「「「ああっ!!!」」」
一度覚悟が決まると、決断は早かった。
少なくとも、目の前にエサがぶら下がっている状況では、そうせざるを得ない、という事情もあるのだが。
皆のまとめ役である豪農も、その意見には反対しなかった。
と、言うか、もはやここまで盛り上がっている状況では、止めるに止められない、という事もあるのだが。
「・・・しかし、何でまたライアド教の方がこの様な活動を?」
しかし、比較的冷静であったが故に、豪農は密かにそんな疑問を法衣姿の男性に問い掛ける。
「まぁ、我々にも事情がありましてね・・・。」
「・・・ふむ。」
「・・・それに、多くの人命が失われる事態は、我々としても見過ごす事は出来ませんよ。ライアド教は、市民の皆さんの味方、ですからな。」
「・・・。」
こうして、思惑は何であれ、ライアド教上層部一派は、反政府側の活動を後押しする活動を活発化させていったのであるーーー。
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