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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
ロンベリダム革命
225/383

奇妙な二人

何度かありがたい御指摘を頂いておりますが、舞台設定や背景の説明が多く、ストーリーが中々進まないのが中々悩みの種です。

ここら辺は、バランスが難しいですね。

まぁ、単に作者の力量不足もあるのですが。


少しずつ改善に務める所存ですので、今後も長い目でお付き合い頂けると幸いです。


それでは、続きをどうぞ。



◇◆◇



ロンベリダム帝国南西部、ロンベリダム帝国側から言えば“蛮人(バルバロイ)”、一般的には元々この地域に住んでいた先住民族達がロンベリダム帝国に追いやられて周辺国家群を形成した場所の国境付近には、インペリア領という領地が存在した。

ここには、先のカウコネス人達が一斉蜂起した、通称『テポルヴァ事変』の主な舞台となったテポルヴァの街が存在し、これからも分かる通り、ロンベリダム帝国側から言っても、先住民族達から言っても、戦略的に西部(東部)方面の要所となる土地であった。


ここら辺は、“大地の裂け目(フォッサマグナ)”の地と面している領地、今亡きマルコ率いるソラルド領と類似した土地柄である。

で、当然、そんな危険度の高い領地を治める領主が無能である筈もなかった。

先程も言及したが、元々対立していた先住民族達が近くに存在すている訳で、歴史的背景もあって、何時なんどき、この地が戦火に巻き込まれるか分からないからである。


それを回避する為には、マルコの例にもあったが、一般的なロンベリダム帝国側の立場とはまた違い、独自のルートで相手側、ソラルド領ならば“大地の裂け目(フォッサマグナ)”勢力と、インペリア領ならば先住民族勢力との関係性を構築する必要がある。


もちろん、某かの異変があった場合、ロンベリダム帝国の主力軍が派遣される事とはなるだろうが、それまでの間、自分達の力で生き残らねばならないのだから、自衛の事も含めて諸々の事を考えるのはむしろ当たり前の話だろう。


もっとも、こうした独自色を打ち出した外交を展開した結果、ルキウスからの悪評を買い、結果インペリア領を統治していたかつての領主家は、先住民族側のスパイである、というある種言いがかりにも等しい疑惑を掛けられて、粛清の波に飲み込まれる事となってしまったのである。

ここら辺は、インペリア領を統治していたかつての領主家が(チカラ)を持ち、自身に反抗するかもしれない可能性を事前に潰した結果であろう。

当時のルキウスは、国内の支配体制を磐石にする事に躍起になっていたので、こうしたかつての領主家から見れば理不尽な政策なんかも行っていたのである。


(余談だが、これも以前から言及している通り、それまでは周辺国家群に対して、対等な交渉を拒んでいたロンベリダム帝国側であったが、『テポルヴァ事変』を経て、『異邦人(地球人)』達の台頭なんかもあって、周辺国家群を(チカラ)でねじ伏せる方針から転換して、経済的な支配下に置く事で、実質的な属国化を推し進める政策、『宥和政策(ゆうわせいさく)』に切り換える事によって、表面上は先住民族側との和解に漕ぎ着けていた。


もっとも、だからと言って、過去の出来事が全て水に流される訳ではないので、実際には自身の行った事のツケを、ルキウスは支払わなければならないのであるが。)


ルキウスの粛清は熾烈を極めた。

かつての領主家は一族郎党根絶やしにされ、インペリア領に置ける影響力を完全に排除したのである。

そしてそれが済むと、自身の息の掛かった貴族を新たな領主に据え、この地は完全にルキウスの支配下となってしまったのであった。


余談だが、こうした粛清を目の当たりにした当時のマルコの家は、インペリア領の元・領主家とは違い、“大地の裂け目(フォッサマグナ)”勢力と独自に交渉するプランを先送りにし、粛清の憂き目を乗り越えた経緯があった。

物事にはタイミングがあるものだ。

そうした意味では、インペリア領の元・領主家は、非常に優秀だったのかもしれないが、タイミングを見誤ってしまったのかもしれない。

まぁ、それはともかく。


しかし、元・領主家が全て滅んだ訳ではなかった。

彼の領主家、ブルック家にはかなり珍しい風習があり、元々ブルック家は、商家から成り上がった貴族家だった事もあり(ここら辺が、他の国家と違い、既にロンベリダム帝国がある程度出来上がっていた事も影響する。国家が成立する過程で台頭する貴族家は、一般的には武家が多いのであるが、国が安定してくると、武家より商家の方が台頭してくる事もよくある話だ。)、そうした関係もあり、次期領主となる後継者には、繋がりのあった他家の商家に修行に出される決まりがあったのである。

商いを通じて、物流の流れや市民の生活、果ては他部族とも共存する重要性を次期領主に学ばせる狙いだったのかもしれない。


何も、戦いだけが物事を上手く進める手段ではない。

元・商家だからこそ、ブルック家はその事をよく理解していたのかもしれない。


こうした事もあり、ブルック家次期領主となる筈だったジャンは、偶然にも粛清を免れたのであった。

いくら頭の切れるルキウスと言えど、また、ルキウスから実際に命令を受けて粛清を行っていた部隊の者達と言えど、その家独自の風習までは調べがつかなかったのである。


で、当然ながら、そんな事をされたジャンが、ルキウスやロンベリダム帝国に対して恨みを持つ様になるのは、これは当然の流れであろう。

何せ、自分以外の一族が根絶やしにされたのだから。


しかし、そこはそれ、ジャンには商人らしい冷静な損得勘定なんかも身に付いていた事もあり、いきなりルキウスに対して反撃に転じた訳でもなかった。

そんな事をすれば、当然即座に叩き潰されるだけであり、それでは無意味だった訳である。


また、わざわざリスクを犯して自分をかくまってくれた商家に対する配慮もあった。

故にジャンは、表向きはその商家の養子となり、一商人として独立を果たしてから、改めて(チカラ)を蓄え、虎視眈々とルキウスに対して反撃する機会を窺う事にしたのである。


余談だが、ジャンは商売を通じて、マルコなどの反ルキウス派とも裏で繋がりを持っていたりする。

そうして、“ルキウス包囲網”を着実に積み上げて行ったのであるが、そこに先程も述べた、ルキウスの方針転換やら、マルコの死去などが重なり、ジャンの思惑は少しずつズレていってしまったのであった。


そこで、焦った彼が打ち出した手段が、ルキウス暗殺計画であったのだがーーー。



・・・



「何をやってるんだ、お前はっ!!!」

「ぐっ・・・!!!」


インペリア領の中心都市、コルサンスのとある屋敷の一室にて、まだ年若い男が怒りをあらわにしていた。

彼こそ、かつてのインペリア領の次期領主となる筈だった、ジャン=ピエール・ブルック、改めて、ジャン=ピエール・マドライ(ビジネスネーム、ジャック・ニコライ)その人であった。


対して、叱責、と言うか、もはや暴力をふるわれていたのは、ルキウス暗殺の実行役であった、先住民族の()、もとい()()であった。

もちろん、()()は“擬態”を施しているので、この場においても、先住民族の男性、に映っているのだが。


「嗚呼っ・・・!帝都を離れていたこの時こそ、千載一遇の機会だったものをっ・・・!!!」

「申し訳、ございません・・・!」


()()は、対して痛くもない一撃だったとは言え、暴力をふるったジャンに対して思うところはあったが、今回の件に関しては、自分の落ち度もあると認め、再度謝罪の言葉を述べていた。


その()()の態度に、またもや激昂するかと思いきや、ジャンは多少脱力気味に、自分の今の態度を謝罪する。


「・・・いや、こちらこそすまなかった。奴を仕留めるのはそんな簡単な話ではなかったな・・・。暴力をふるった事は謝罪する。」

「いえ・・・。」

「だが、お前ほどの使い手を退けるとはっ・・・。向こうにも、やはり相当な使い手がいた、という事か、()()()()?」

「・・・はい。不可解な技を使い、私の一撃を防いでみせました。正確に確認した訳ではありませんが、おそらく彼が、昨今ロンベリダム帝国(この国)に現れた『神の代行者(アバター)』と呼ばれた者の一人ではないかと・・・。」

「『神の代行者(アバター)』だとっ・・・!?『テポルヴァ事変』の英雄かっ!・・・なるほど、それならばお前を退けるのも不可能な話ではないか・・・。」



以前から言及している通り、タリスマンら『異世界人(地球人)』達は、『テポルヴァ事変』の折に一躍有名となっていた。

通信技術、情報網の発達していないこの世界(アクエラ)においても、こうした英雄譚は人々の興味をそそるモノだ。

それ故に、噂として、少なくともロンベリダム帝国の間においては、彼らの名は一般市民にも伝わっていたのである。


もっとも、こうした噂話には何かと尾ひれが付くモノだが、『異世界人(地球人)』の場合はむしろそうした噂話すら誇張でもなんでもなく事実、どころか、それすらまだ過小評価されている、なんていう極めて珍しい事例だったりする。

まぁ、彼らは“レベル500(カンスト)”、かつ『異能力』により、現代魔法とは異なる体系のスキルや魔法なんかを扱えたりする事から、見る人によっては『神々の奇跡』を再現している様にも見えるので、『神の代行者』という異名も、あながち的外れな表現ではなかったりする。


で、ジャンは、商人のネットワークを駆使した独自の情報網を持っていた事もあり、かなり正確に『異世界人(地球人)』達の(チカラ)を理解していたのである。

故に、彼らが出張(でば)ってきた以上、いくら凄腕として有名な()、もといメルヴィと呼ばれた者であったとしても、失敗する可能性が高い事を即座に理解したのであった。


ちなみに、表向きは商人であるジャンと、裏の住人で暗殺なんかを請け負うメルヴィが繋がりがある事は些か不自然な話ではあるが、実は彼らは古くからの知人同士であった。

先程も述べた通り、ジャンの元・生家、旧・領主家であるブルック家は、先住民族側と友好的な関係を構築しており、そうした関係もありよく知っている、というほどではなかったモノの、お互い顔は知っている程度の間柄だったのである。(もっとも、メルヴィに関しては、今現在の()()()姿()が表向きな姿である事には変わらないが、本来は女性であり、それはジャンも知らなかった。)


それが、ルキウスによる粛清によって状況は変化し、ブルック家は解体され、インペリア領は先住民族との繋がりが断ち切られてしまっていた。

いや、むしろ新たなる領主は、その当時のルキウスの意向を受けて、先住民族勢力に対して迫害をより一層強めていった経緯がある。


そして、これは致し方ない部分も存在するかもしれないが、ロンベリダム帝国に対する対応策も先住民族の間でも意見が分かれる事となり、仲の良い部族、仲の悪い部族、なんかに分裂していってしまったのである。

こうして先住民族達は、小さな国が乱立する事となり、“周辺国家群”と呼ばれる状態となり、実質的に内乱状態へと突入してしまう事となったのであった。


共通の敵がいるのだから、協力すれば良いと思われるかもしれないが、これはかなり難しい事である。

先程も述べたが、その考え方にも温度差がある訳で、ロンベリダム帝国に対して徹底抗戦を主張する者もいれば、ロンベリダム帝国側と交渉し、不可侵条約を締結させるべきであると主張する者もいた。

また、争いには加わらず、静かに細々と暮らす事を選択した者など、まとまりに欠ける状態となってしまったのである。


ここに、所謂“カリスマ”を持った指導者でも現れれば、また状況は変わったかもしれないが、残念ながらそうした都合の良い人材がそうポンポンと現れる訳もなく、先住民族達の足並みは徐々に乱れていったのである。


そして、ここら辺は業が深い話なのであるが、一部の過激な先住民族達は、自分達の(チカラ)を蓄える為に、同じ先住民族を捕らえ、()()として売り飛ばしてしまったのである。

同族に対する極めて不当な扱い方であるが、こうした話は実は珍しい話ではなかったりする。


例えば、向こうの世界(地球)の歴史における“奴隷”という存在にしても、もちろん、他人種、他民族からの侵略を受け、結果捕虜として捕らえられた者達が奴隷化した事も多いのだが、実は同じ民族、同じ人種の手によって奴隷化したケースなんかも存在する。


有名な話で言えば、もちろん、これは対立を煽ったなどの裏事情もあるのだが、主にイギリスが行っていた大西洋貿易(三角貿易、別名“奴隷貿易”)は、ヨーロッパ人が無理やりアフリカの住人を捕まえた訳ではなく、同じアフリカの住人が、対立していたグループを捕らえて売り払った、つまりある種“正当な取引”として行っていた事が分かっている。(もちろん、人権を無視している以上、現代ではありえない取引な訳であるが、当時はそれがまかり通ったのである。)


アフリカの住人は、ヨーロッパ人から武器などを手に入れられて満足、ヨーロッパ人は労働力を手に入れられて満足、更にはその労働力と引き換えに、別の地で砂糖や綿などと交換し、それを本国に持ち帰って儲けるのである。

そして、また武器などを積み込み、アフリカ大陸へと向かう、という流れだったのである。


この様に、自分達と考えがそぐわない者達を、同族→邪魔者となり、最終的には自分達の(チカラ)を蓄える為の“道具”として見なしていったのである。


また、ロンベリダム帝国側からしても、労働力はいくらあっても良かったのである。


表向きは“魔法技術先進国”として知られているロンベリダム帝国ではあるが、実際には都市部と地方では魔法技術の普及にかなりの差があった。

つまり、地方によっては、今現在においても魔法技術の恩恵を受けられていない土地なんかも多かったりするのである。


魔法技術によって近代化の進んだ土地と、旧来の土地では、当然ながら作物の生産量に大きな違いが出る。

にも関わらず、税金は一律して徴収されるシステムとなっていたので(と、言うよりも、その地方の事情によって、流動的に税率を変える事はある種良心的に見えるのだが、ここら辺は人間の心理であるが、同じ税率でないと不公平感を感じてしまう訳だから、国内の不満を危険視しているルキウスが、そんな政策を用いる筈もなかったのである。)、当然旧来の土地は、財政的に苦しくなってしまう訳である。


もちろん、上に対して魔法技術の導入を上申したりするのだが、それもすぐには進む訳ではないので、近代化の進んだ土地と肩を並べる為には、より多くの労働力が必要だった訳である。


こうした需要もあり、多少思うところはあったものの、手っ取り早く稼ぐ為にジャンは、奴隷商として先住民族達を売買する商人となったのであった。

ここら辺は、こちらの世界(アクエラ)の住人の倫理観が、向こうの世界(地球)の現代社会とは異なっている事もある。


いずれにせよ、ジャンにとっては、(チカラ)を付けない事にはルキウスに一矢報いる事も出来ない訳だ。

(チカラ)にも色々と種類がある訳で、単純に身体能力や魔法技術が優れているのも“(チカラ)”だが、権力なんかも“(チカラ)”足り得る訳で、ジャンは、現実的な話として、彼自身がアキトらの様な使い手にはなれないと理解した上で、“金”という(チカラ)を持つ事を選択した訳であった。


で、先程も述べた通り、ロンベリダム帝国内の事情もあって商売は大当たりし、ジャンは巨万の富を築く事に成功した訳である。

その富を駆使して、先程も述べた通り、ジャンはルキウス包囲網を展開した訳である。

まぁ、こちらも先程も述べた通り、ある種失敗に終わった訳であるが。


さて、そうした商売に従事していた事もあり、まぁ、ある程度奴隷商が軌道に乗ると、流石にかつて先住民族達と友好的に接していた元・領主家の人間としての罪悪感もあり、また、別の事業なんかも立ち上げた関係で、現場で()()を扱うのは部下に任せていたのだが、偶然か必然か、メルヴィがジャンのもとに売られて来た時に彼は珍しく現場に足を運んでいたのであった。

そこで、全く感動的ではない再会を果たしたのである。


メルヴィは、とある国の王族の一人であった。

と、言っても、先程も述べた通り、先住民族達は小国が乱立した状態であったから、王族と言っても、一部族の代表者の血族、程度の地位でしかないが。

ここら辺は、アキトの仲間で言えば、アイシャがそれに近い立場だろう。


そうした関係もあり、先程も述べた通りよく知っている、というほどではなかったものの、お互いに顔は知っていたのである。

ジャンとしてはかなり気まずかったのだが、ここでメルヴィから思ってもみなかった提案があったのである。


“自分を自由にして欲しい。”

“もちろん、タダでとは言わない。”

“自分を自由にしてくれる代わりに、仕事は何でも請け負う。”、と。


当然ながら、奴隷化した先住民族達に反抗されてしまっては困った事になるので、彼らは『隷属の首輪』で縛られている。

もっとも、これは以前にも述べたかもしれないが、『隷属の首輪』もピンからキリまであるので、当時ジャンが扱っていたそれは、行動は制限出来ても、流石に言動まで抑制する事は出来なかったのである。

しかし、これがジャンにとってもメルヴィにとっても、良い結果となったのであった。


当たり前だが、世の中は綺麗事だけでは渡り歩いて行けない。

特に、ジャンが行おうとしているのは、ルキウスに対する復讐、つまりは、ロンベリダム帝国そのものに反抗する事であるから、とても一筋縄では行かないだろう。

そこで、“商人”としての仕事を拡大する事で、様々な方面に影響力を強めようとしたのである。

そしてそれには、“始末屋”が必須だったのである。


商売をするに当たっては、競合する商人がいるのがある種当たり前であろう。

本来ならば、そうした商売敵とも上手く付き合いつつ、時に協力したり、時に出し抜いたりするのが商人の世界だが、そうした商売敵が初めから存在しなければどうだろうか?

当然ながら、そうすると、その商売はジャンの独占とする事も可能だ。


そして、残念ながら、ジャンには悠長に事を構えている時間はなかった。

何故ならば、ジャンの成長以上に、ロンベリダム帝国は更には早く成長している訳だから、時間を掛ければ掛けるほど、ジャンとルキウスの差は圧倒的に開いてしまう事となるからである。


また、元々“奴隷”として、本来は存在しない筈のメルヴィは、そうした汚れ仕事をするにはうってつけの人材であった。

こうした利害の一致もあって、ジャンとメルヴィは、裏で密かに繋がる事となったのである。


表向きは、新進気鋭のやり手の商人としてジャンは台頭しつつ、裏では、メルヴィに命じて、商売敵の妨害工作なんかを行ったのである。

(もっとも、メルヴィは裏の世界では『殺し屋』の様に扱われるが、もちろん、そうした事を全くした事がないと言うと嘘になるが、実際には、彼女の得意な“擬態”を駆使して罠に嵌める事の方が多かった。

つまりは、どちらかと言えばメルヴィは、『殺し屋』と言うよりかは『工作員』と言った方が適切だったのである。)


こうした事もあり、途中で奴隷商から足を洗ったり(当たり前だが、ある程度してしまうと()()が枯渇してしまう事となるので、持続的に稼ぐ為には、他の商売にシフトする方が効率的だった訳である。)なんかの変化がありつつ、ジャンは確実にロンベリダム帝国内における地盤を固めていったのである。


もっとも、先程も述べた通り、反ルキウス派の急先鋒だったマルコが死去したりして、着実に準備を積み重ねていた“ルキウス包囲網”が崩れ去った事により、焦ったジャンは、もっとも単純な手段である“ルキウス暗殺”に打って出た訳であったが、こちらも失敗に終わった訳である。


ジャンにしてみれば、長年の努力が、全て水の泡と消えた訳である。

それは、脱力感に苛まれたとしても無理からぬ話であろう。



「・・・やはり、この世に“英雄”などいないのだな・・・。いや、私がそう成れなかっただけかもしれんがな・・・。」

「ジャン殿・・・。」


自嘲気味に呟くジャンに、メルヴィは同情的な声色を発した。

利害の一致から始まった二人の関係だが、それなりに長い時を共に過ごしてきた事で、メルヴィも多少はジャンに同情するくらいの関係ではあった。

もっとも、メルヴィにとって最優先なのは、あくまで自身の自由ではあったが。


「・・・まだ諦めるのは早いと思いますよ、ジャック・ニコライさん。・・・いえ、ここでは、本名であるジャン=ピエール・ブルックさん、とお呼びした方がよろしいかもしれませんかね?」

「っ!?だ、誰だっ!!??」

「っ!!!???」


何となく、諦めるムードの満ちていたその空間に、そんな雰囲気をぶち壊す声がその場に響き渡った。


当然ながら、二人の関係性を鑑みれば、ジャンとメルヴィが繋がっている事は(おおやけ)にすべき事ではないので、しっかりと人払いをしており、この場には二人以外誰もいない筈であった。


また、強引な経営、急速な台頭なんかもあって、ジャンを妬んだり恨んだりする者も多い為に、彼もまた自身の身の回りを守る私兵を持っている。


しかも、この場には凄腕として裏の世界でも有名なメルヴィがいる事もあって、誰にも気付かれずにこの場に侵入者が現れる筈もないのである。


もっとも、残念ながら、この侵入者()には、彼らの常識は一切通用しないのだが。


二人が慌てて見回すと、まるで勝手知ったる我が家かの様に、備え付けられたソファーに腰を下ろした影と、その傍らに侍る様に、直立不動で突っ立っている影があった。


「これは失礼。僕は、冒険者パーティー・『アレーテイア』のリーダーを務めています、アキト・ストレリチアと申します。以後お見知りおきを。」


驚いた様子の二人とは対照的に、アキトは何時もの調子で立ち上がり、あっけらかんと自己紹介をするのだったーーー。



誤字・脱字がありましたら、御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

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