機械少女は人間(アキト)を理解したい
続きです。
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歴史を紐解けば、貧困がもたらす影響は為政者にとって無視出来ないものである。
何せ、貧困によって厳しい生活を強いられた者達が結集して、最終的には国家をも打ち倒す、なんて現象が度々起こっているからである。
だが、いざその場面になると、人はその現実を直視出来ないものでもある。
あるいは、自分だけは大丈夫、と勝手に思い込んでいるのかもしれない。
そうでなければ、その古来より存在し、しかも何度も同じ様な事が繰り返されてきたのに、再び同じ様な末路を辿る者達が頻発する訳がないからである。
この様に、歴史は非常に大きな教訓を与えてくれる道標となり得る一方で、それを活かせるかどうかは結局はその受け取り手次第という事であり、そして、人は知能が発達した割には、学んだ事をすぐ忘れる生き物でもある。
今回の事に関しても、実はルキウスはそこまで事態を重く受け止めてはいなかった。
これは、アキトの仕掛けた罠でもあるのだが(まぁ、その本当のところは、アキトの想定では貴族以上の者達と平民層との対立を煽る為に仕掛けたに過ぎない事ではあり、結果として現れた諸々の事柄は、副次的なモノに過ぎないのであるが)、平民層に起こっている現実が見えていなかったからである。
何故ならば、話としては魔法技術が使えなくなった、と報告は受けていたが、ルキウス自身や宮廷、あるいは貴族などの彼の近しい者達は、依然として魔法技術が普通に扱えるからである。
当たり前だが、皇帝たるルキウスが、国民と同じ目線で生活したりする訳もないので、そこにはどれだけ情報があったとしても、認識に齟齬が発生する事となる。
ならば、平民層に起こっている現実がルキウスに見える訳もなく、それを回避するにはそれ相応の想像力や発想力を必要となるが、残念ながら、いくら天才とは言えど、彼の能力にも限界があった。
故に、今回の件も、誰かによる妨害工作か何かと判断していた為に、復旧は時間の問題と見ていたのであった。
しかし、実際にはアキトが仕掛けた術儀は、魔素そのものに干渉する事であるから、根本的な解決方法など、それこそアキトと同じステージに上がらない事には、絶対にあり得ない事だった訳であるが。
まぁ、そんな事を知るよしもないルキウスは、もちろん、問題に対して即座に解決に向かって動き出した訳であるが、アキトに一手を打たれた時点で既に詰んでいる、なんて事は想像だにしていなかったのであるーーー。
・・・
「どう見る、ランジェロ?」
「そうですな・・・。陛下の仰る通り、“反転術式”の可能性は大いにあり得ます。まぁ、これが、極小規模で起こった事でしたら、『魔道具』のただの故障や経年劣化の可能性もありましたが、これだけの規模で起こったとなると、流石に誰かしらの思惑が働いている、と考えるのが自然ですからな。」
「うむ・・・。」
慌ただしい休暇を早々に切り上げたルキウスは、とんぼ返りでイグレッド城に戻り、早速ロンベリダム帝国における魔法技術の第一人者たるランジェロと協議を行っていた。
ちなみに、“反転術式”とは、要はカウンターやジャミングの様な概念である。
と、言っても、これは古来から存在する考え方ではあるが、例えば通常の魔法戦闘などの場合には使用出来ない方法でもあった。
何故ならば、これは以前から言及しているが、この世界の魔法技術は、発動してからは通常の物理法則に従う事となるからである。
故に、例えば火系術式によって炎の攻撃を受けたので、それを打ち消す術式、つまり火系術式の反転術式で対処する、といった事が不可能なのである。
先程も言及した通り、発動してからは通常の物理法則に則っているので、周りから酸素を無くすとか、水で消化するとか、あるいは土系術式で壁を作って避難する、などの対処法を取るしかないのである。
まぁ、理論的には相手がどの様な手札を持っているかを瞬時に見分ける事が出来れば、つまり、相手がどんな術式を発動させるつもりかを瞬時に理解し、それに合わせた反転術式を発動させる事が出来れば、術式そのものを無効化する事自体は可能なのだが、これはあまり現実的な話ではなかったのである。
当たり前だが、それをするには相手の思考を完全に読み切る必要がある訳で、特に『刻印魔法』、ロマリア王国における、所謂“オートマチック方式”の様な発動スピードが驚異的に向上した技術が普及してからは、それは不可能に近かったのである。
しかし、通常の戦闘時には不可能だったとしても、『魔道具』には効果が見込める技術でもある。
何故ならば、『魔道具』は、その効果がある程度決まっているからである。
例えば、水系術式が刻まれた『魔道具』であれば、もちろんそれは水を生み出す為の道具であるから、水を生み出そうとするプロセスが働く。
しかし、それに対して、“反転術式”を施しておけば、そもそも水が生まれない状況となるので、物理法則云々は関係なくなる訳だ。
この様に、“反転術式”は概念としては存在していた技術であり、そして実際『魔道具』を多く扱うロンベリダム帝国においては、もっとも警戒すべき点でもあった。
ルキウスとて、ロンベリダム帝国の今現在の繁栄が、魔法技術を上手く利用した上で成り立っているモノである事をしっかりと認識していた。
つまり、逆に、もしそれを快く思わない者達が、『魔道具』などにそうした細工を施したとしたら、こうした問題が発生する事をある程度は想定していた訳である。
もっとも、簡単に“反転術式”と言ってはいるが、これを扱う為には、魔法技術に関して相当な知識や技術を必要とするし、まぁ、ロンベリダム帝国内においては、ある程度は統一化された術式構成をしているが、そもそも術式はコンピュータープログラムの様なモノなので、実は使い手によって、そのロジックがマチマチだったりするので、それも併せて解読出来る知識が必要となる。
そのレベルの魔法使い、魔術師となると、それこそランジェロ並にあらゆる魔法技術に精通している者でなければ不可能である為、そんな者がゴロゴロいる筈もない、とルキウスも考えていた訳であるがーーー。
「そうなると、それを施した者は相当な術者であるな・・・。」
「そうですなぁ~。私と同程度、いや、もしかしたらそれを軽く越える膨大な魔法技術における知識などに精通しておる猛者でしょうな。出来る事なら、一度お話を伺ってみたいほどでっ、・・・あっ、こ、これは失礼っ!」
「・・・フッ、良い。」
ランジェロは、常々魔法技術の深遠に到達したいと願っていた。
しかし、ロンベリダム帝国においては、自分以上の魔法技術の使い手が存在しなかった事もあって、それは叶わぬ願いだった訳だが、今回の犯人は、もしかしたら自分以上の魔法技術の使い手である可能性が高い事もあって、ランジェロは密かに興奮していたのである。
とは言え、現在進行形でロンベリダム帝国内における混乱が発生している中でのその発言は、些か不謹慎ではあったと気付いて即座にルキウスに対して謝罪をするが、対するルキウスは、そんなランジェロの心境を知っていただけに、苦笑しながら、それは聞き流す事としたのである。
「まぁ、どちらにせよ、もう少し具体的な調査が必要だろう。そこで、ランジェロには専門の調査部隊の指揮を命じる。出来るだけ早期に原因を究明し、『魔道具』の復旧に努めて貰いたい。」
「ハッ!かしこまりましたっ!」
「それと、マルクスはランジェロと協議し、調査部隊の人選を決めてほしい。主には技術者が主流となるが、調査の過程で下手人と接触する可能性もあり得るからな。」
「ハッ!了解しました。」
もちろん、ロンベリダム帝国の魔法技術者達は、同時に魔法の使い手でもあるから、強力な魔法を操る事自体は可能なのだが、とは言え、それイコール荒事に慣れている、という訳ではない。
それ故に(実際にはその犯人であるアキトは、ロンベリダム帝国の各地で反転術式を直接施して回っている訳ではないのでかち合う可能性は全くないのだが)、犯人とかち合う可能性がある以上、技術者とそれを護衛する兵士の混合部隊を派遣するのは、彼らに取っては当たり前の判断だったのである。
この様に、全く見当違い(まぁ、魔素そのものをどうこうするとかいう、チートも良いところである手法をアキトが用いた事など想像する事すら難しいので致し方ない部分も存在するが)な判断をルキウスがしていた一方、その仕掛けた側の当の本人はというとーーー。
◇◆◇
「・・・オ父様ハ案外冷酷ナ方ナノデスネ。」
「何だい、藪から棒に?」
アキトとエイルは、ヴィーシャに断りを入れて、今現在ロンベリダム帝国のとある場所を目指して、絶賛空の旅の途中であった。
エイル自身には空を飛ぶ機能は備わっていなかったが、エイルが習得している古代魔道文明時代の魔法技術、通称『古代語魔法』の中には、今現在アキトが使用している飛翔魔法に類似したモノがあったので、実は独力で空を飛ぶ事自体は可能であった。
しかし、長期間飛び続けるのには向いていなかった事もあり、それならば、アキトの専属鍛冶職人にして、表向きにはその称号を与えられている訳ではなかったが、既に歴代の『偉大なる達人』達を軽く越える実力を持ったリサお手製の、『ルラスィオン』の持つ高い魔素収束性により、アキト曰く“一日中でも飛び回っていられる”アキトの後ろに乗る方が効率的だった訳である。
故に、今現在アキトとエイルは密着状態での空のランデブーと相成った訳だが、やはり向こうの世界の旅客機、どころか、戦闘機に迫るスピードを誇るアキトだったが、目的地に着くまでにはそれなりに暇な時間が出来てしまった訳である。
そこでエイルは、折角ならば今回の件で疑問に思っていた事を、この機会にアキトに尋ねてみたい、と思ったのである。
まぁ、これはある種、エイルが“人”らしい感情などを持つに至ったからこその疑問だったのかもしれないが。
「ダッテ、今回ノ件デハ、市民?、国民?、平民?、マァ呼ビ方ハドウデモ良イノデスガ、ノ方々ニ、多大ナ迷惑ヲ掛ケル行イデショウ?」
「ああ、そういう事ね・・・。まぁ、エイルの疑問も分からなくはないし、僕自身、少しは一般市民の皆さんには悪いなぁ~、とも思うけど、実はこれが一番最小のダメージですむ方法なんだよねぇ~。」
「・・・ハイ?」
アキト自身も暇だった事もあり、また、本来はただの『魔道人形』にしか過ぎなかったエイルが、アキトのアストラルの影響を受けて、どんどん人間らしい思考や感情を持ち始めている事に妙な嬉しさを感じていた事もあり、エイルの疑問に答える事とした様である。
キョトンとしたエイルに、アキトは改めて言葉を繋いだ。
「まず始めに、今現在のロンベリダム帝国は、確かに強国、大国と呼ぶにふさわしい国家である事は僕自身も否定はしない。しかし、その実、彼の国が破綻するのは、もはや時間の問題でもあるんだ。」
「ハァッ?・・・トウトウ“ボケタ”ノデスカ、オ父様?」
「ボケとらんわっ!っつか、とうとう、って何だよ・・・。」
相変わらず、どんな時にもアキトをイジる事は忘れないエイルの発言にブチブチと文句を呟くアキト。
「ダッテ今現在ノロンベリダム帝国ハ、軍事的ニモ強固デ、経済的ニモ発展シテオリ、ナオカツ優秀ナ皇帝ガ統治シテイマス。シカモ、政治システム的ニモ磐石デアリ、ソレコソ破綻スル可能性ガ極メテ低イト言ワザルヲ得ナイデショウ?」
「おや、しっかりと勉強しているね、エイル。確かに理論的にはその通りなんだけど・・・、残念ながらまだまだだね。人の感情や心理ってモノを、お前はまだ理解出来ていない。」
「・・・ドウイウ事デショウカ?」
若干、ムッとした声色になったエイルに、何だかよく分からない親心の様なモノを感じていたアキトは、続けてエイルの疑問に答える。
「人ってのは、お前やセージの様に、完全な論理では動いていない生き物なんだ。だから、時として理屈に合わない判断もする。では、ここでエイルに質問だ。確かに一見上手くいっている、様に見える今現在のロンベリダム帝国だけど、この繁栄が未来永劫続くと思うかい?」
「イ、イエ、流石ニソレハ無インジャナイカト・・・。」
「どうしてそう思うんだい?だって、これまでそれで上手くいっていた訳だよね?」
「ソレハ・・・、マ、マァ、様々ナ要因ガ考エラレマスガ、一番ハ、人間ニハ“寿命”ガ有リマスカラ。」
「ふむ、なるほどね・・・。今現在の為政者、つまり、現皇帝が変われば状況も変わってくる、と言いたい訳だね?」
「ソノ通リデス。」
「それも、ある意味では正解だけど、実際には、既にロンベリダム帝国はシステム的に崩壊しかかっているんだよ。」
「・・・ハ?」
「何故ならば、単純にキャパオーバー、なんだよねぇ~。」
「・・・ドウイウ事デスカ?」
怪訝な声色のエイルに、アキトは淀み無く答える。
「当たり前だけど、人一人の仕事量には限界がある。これは、どれだけ優れた人でも当てはまる法則だ。そしてそれは、お前達の様な存在も当てはまる法則だろう?」
「確カニソウデスネ。流石ニ私モセージ・サンモ、自身ノ“スペック”ヲ越エル活動ハ出来マセン。」
エイルの肯定に、アキトもコクリッと頷いた。
「それと同様に、現皇帝の仕事量は、既に彼のキャパシティを越えているんだ。だと言うのに、ロンベリダム帝国は拡大路線を続けている。現に彼は、“大地の裂け目”勢力に対して戦争を吹っ掛けているよね?これが上手く事が運んだ場合、更にロンベリダム帝国は“大地の裂け目”の地を傘下に収める事となる訳だ。そうなれば、益々仕事量は増す事となり、その内に綻びが生じる事となる。」
「ナルホド・・・。仰リタイ事ハ何トナク分カリマシタ。デスガ、オ父様。ソレハ、現皇帝一人ニ限定シタ話デショウ?ナラバ、他ノ人ニ仕事ヲ割リ振ルナリシテ対処スレバ良イト思ワレマスガ?」
「当然その通りだ。一人で間に合わなければ、他者の力を借りるのが正解だろう。それが、国だろうと、企業だろうと、“組織”の強みだからね。現にロンベリダム帝国においても、任せられる事は他者に任せている様だからね。統治システムとしては、一見磐石なモノの様に見える。ところがここで、人間の感情や心理が悪い影響を与えてしまうんだ。」
「・・・???」
アキトの発言に、エイルはよく分からない様に、キョトンとした仕草を示した。
「機械系の存在であるエイルには中々想像が付かないかもしれないが、当たり前の話として、人間の“スペック”は、人によってマチマチだ。中には、ある部分では現皇帝を越える“スペック”を持つ人材もいる様だが、現皇帝は、かなりの天才の様だからね。大半の人間は、彼以上の力は有していない。となれば、大半の者達は、与えられた仕事を粛々とこなす事しか出来ない訳だ。つまり、結局は、現皇帝の仕事量が減る訳じゃないのさ。一々方針を示してあげないとならないからね。もちろん、組織を円滑に進める上で、ある程度のビジョンを示してあげる必要はあるが、現場で判断しなきゃならない事も往々にしてある。何故ならば、状況は、その土地によっても異なるからだ。」
「・・・。」(フムフム)
「例えば、ロンベリダム帝国内部でも、帝都と地方では、それだけでも状況が全然違う。当たり前だけど、帝都の方が発展していて、地方の方がそれにかなり遅れている。それなのに、画一的な政策で良いと思うかい?」
「ソレハ・・・、当然流動的ニ考エルベキデショウネ。」
「その通りだね。ところが、そんな当たり前の判断が出来ないんだよ。少なくとも、そう考えたとしても、一々上に判断を仰がなければ動く事が出来ないんだ。」
「???何故デス?ソノ程度ノ権限ハ与エラレテイルノデハナイデスカ?」
「そうなんだけど、彼らは彼らで、粛清されたくないからねぇ~。」
「???」
益々分からない、という風なエイルにアキトは苦笑する。
「もちろん、その情報の伝達速度が早ければ、そして判断から命令までが迅速であれば、これらの問題もあってない様なモノだけど、これが結構難しいんだよ。通信技術の発達した向こうの世界でも、これは同様だ。ここら辺は、人間の非常に悪い点だろうね。」
「ハァ・・・?」
「つまりさ。自分の評価や立場なんかを気にして、正常に動けない、なんて事が起こり得るのさ。」
「・・・ハ?」
やはり、まだ感情を獲得して間もないエイルには、人間の機微を理解するのは難しい様である。
しかし、これは案外、単純な話でもあった。
以前にも言及したかもしれないが、ロンベリダム帝国はルキウスが一代で築き上げた国家ではない。
しかし、ここまで発展したのは、確かにルキウスの手腕に寄るところが大きいだろう。
しかし、その手法に問題があった。
もっとも、為政者側からしたら、ある意味当然の事をしたまでなので、その問題点に気付かない事が往々にして起こるのだが。
その問題点とは、ルキウスが敵性貴族を粛清してしまった事にある。
まぁ、ルキウスからしたら、彼らはロンベリダム帝国を蝕む害悪な存在であったから、先程も述べた通り、ロンベリダム帝国を更に発展させる為には、彼らの排除は当然の措置だった訳である。
もちろん、彼らの中には、権力を好き勝手に使い、自らの私腹を肥やすだけに終始した、まさしく害悪な存在も多く存在していたが、しかし、また中には、自分に従わなかったから、という理由で粛清されてしまった貴族なんかもいる。
ここら辺は中々バランスが難しいのであるが、敵対的な存在だからといって、それが完全にマイナスになるかと言われると、実はそうでもない。
何故ならば、彼らは、ある種の抑止力となり得る存在だからである。
例えば、向こうの世界の現代日本においては、今現在はとある政党の一強状態が続いている。
これは、その政党にとっては非常に有利な状況である。
何せ、もちろん、一応ポーズとして議論をする事はするのだが、いざとなれば、自分達の意向を強引に押し通す事が出来る状態だからである。
しかし、他方から見たら、これは非常に危険な状態でもある。
何故ならば、もし仮に、その政党が暴走する様な事があれば、それを具体的に止められる手立てがないからである。
権力の一極集中は、時としてスムーズな国政が可能となる一方で、常に暴走の危険性も孕んでいる。
そして人は、自らを強く律する事は中々出来ない生き物でもある。
ならば、自分が誤った方向に向かってしまった時に、それを指摘してくれる存在、親だったり、友人だったり、恋人だったり、つまりは第三者的な立場で物事を考えられる人、“敵対者”の存在は必要不可欠なのである。
では、今現在のロンベリダム帝国はどうか?
元々独裁国家という事もあったが、ルキウスの敵性貴族の粛清によって、彼の暴走を食い止めてくれる存在は不在となっていた。
もちろん、宰相たるルドルフなんかは、政治的なアドバイスをルキウスにする事もあるが、彼も結局はルキウス寄りの立場である。
マルクスを見れば分かりやすいが、結果としてルキウスの周りにはイエスマンしかおらず、組織としては、完全に悪い方向へと向かっている。
それでもマルコの様に、ルキウスに対抗出来る人材もいたのであるが、彼に関しては、ヴァニタスの策略によってその尊い命を落としてしまっていたし、他の現役貴族達は、粛清された貴族達の二の舞にならない様にと、表向きはルキウスに対する恭順を示していた。
「こんな状態だと、仕事をマトモにやろう、なんて気持ちも萎えてしまうモノさ。目立ったら目立ったで、マークされてしまうし、手を抜けば手を抜いたで、無能として粛清されてしまう。なら、一番良い方法は、上から示された方針を粛々とこなす事になっちゃうんだね。」
「ナントマァ・・・。人間ハ、コウ言ッテハ何デスガ、意外ト“アホ”ナノデスネ・・・。」
「機械系の存在であるお前から見ればそうだろうね。けど、これが感情を持つ人間の本質なのさ。好きや嫌いで物事を判断してしまう事なんかもあるんだ。で、そんな感じに、既に破綻しつつあるロンベリダム帝国なんだけど、今はそれが微妙なバランスで成り立っているので、一見すると上手く事が運んでいる、様に見える。けど、そのままズルズルと突き進んでしまうと、傷口が広がってしまうだけなんだよ。例えば、先程の例で言えば、『ロフォ戦争』なんかは、分かりやすく現皇帝が暴走した事例だ。確かに、短期的に見れば、仮に勝つ見込みがあるのならば、豊富な地下資源やらが眠っている“大地の裂け目”の地を手に入れる事は意味のある事でもある。しかし、その結果、その地に住まう者達の恨みを買うだけの事であり、仮に表面上は支配下に置いたとしても、先程の話の様に、根っこの部分では彼らの怒りは消える事はない。そんな折に、仮に現皇帝が崩御するとか、あるいは単純に内乱へと発展したとしたら、彼らにとっては長年の恨みを晴らすチャンスだよね?で、当然ながら、彼らにとっては、現皇帝も一般市民も、区別なく自分達を苦しめた“ロンベリダム人”な訳だ。その結果起こり得る事と言ったら、まぁ、虐殺だよね。自分達がやられた事を、そっくりそのままやり返すのはよくある話だ。もちろん、一般市民には良い迷惑な訳だけど、ね。」
「ナルホド・・・。ダカラ“最小ノダメージ”ト言ッタノデスネ?」
「その通りさ。将来的な災難を回避したいならば、自分達の手で現皇帝を討ち、その首で持って『ロフォ戦争』を手打ちとするしかない。もちろん、それだけでは済まないかもしれないから、損害賠償とか復興の手伝いとかは必要かもしれないけど、それならば、“大地の裂け目”勢力の者達も、ある程度は納得するだろう。上手く立ち回れば、友好関係を結ぶ事すら可能だろうしね。まぁ、それは交渉次第だけど、しかしどっちにしても、その為には、まず一般市民の皆さんが決起する必要がある。その為の介入、って訳さ。」
「ナルホドォ~。」
「独裁政権に逆らう事は難しいが、流石に自分達の生活がかかっていれば動かざるを得ないだろう。そして、今現在のロンベリダム帝国は、魔法技術に大きく依存している訳だから、これを使い物にならなくすれば、その不満は現政権に向く事となる。当たり前だけど、一般市民の皆さんからしたら、魔法技術の事はよく分からなくとも、早々にそれを解決出来ない政権に対して懐疑的な目を向ける事となるからね。しかも、表面には出ていないだけで、現政権に対する不満は、これは旧・貴族の者達を中心に根強く残っている訳だから、少し後押ししてやれば、内乱状態にするのは難しい話じゃない。僕としても、そうなればロンベリダム帝国は『ロフォ戦争』どころではないだろうし、後ろ楯であるロンベリダム帝国が混乱すれば、ハイドラス派に対する嫌がらせにもなるし、更には『魔戦車』量産化を阻止する事も出来る訳だから、まぁ、やらない手はないよねぇ~。」
「フムフム。」
「それに、僕は“正義の味方”じゃないからねぇ~。基本的に、自分の事は自分でしてくれ、ってスタンスだし。ロンベリダム帝国は、僕の出身国でもないから、特に思い入れもないしね。そういう意味では、冷酷と言えばそうかもだけど、どちらかと言うと、“無関心”、ってのが正解かもねぇ~。」
「イヤイヤ・・・。」
最後の最後で、最初のエイルの発言に対して、笑いながら意趣返しをするアキト。
しかし、全てを理解した今となっては、エイルは先程の自分の発言を反省していた。
「・・・前言撤回デス。オ父様ハ、オソラク厳シクモ優シイ方ナノデショウ。非常ニ分カリヅライデスガ・・・。」
「ハッハッハ、何だいそれ?」
人間とは複雑怪奇な生き物である。
底抜けの優しさが、時に人を傷付ける事がある一方で、厳しい言葉の方が人を救う事もある。
何だかんだ言っても、マシな選択肢を与えるだけに、アキトは分かりづらいが人に対する思いやりは持っている。
もっとも、結局は自分の事は自分でどうにかしてくれ、って考え方は変わらないので、人によっては厳しいと見る者もいるだろうが。
それをエイルは、朧気ながらに理解したのかもしれないーーー。
「トコロデオ父様。ドチラニ向カッテイルノデスカ?」
「ああ、そういえば言ってなかったね。本来は、これ以上ロンベリダム帝国に踏む込むつもりはなかったんだけど、ちょっと野暮用が出来たんでね。人を助けるついでに、ちょっと革命の後押しを、ね。」
「・・・・・・・・・ハ?」
前言撤回デス。
ヤッパリオ父様ハ、結構オ節介ナ人ナノカモシレマセンーーー。
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