表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
ロンベリダム革命
221/383

終わりの始まり 3

続きです。



◇◆◇



昨今のRPG系ゲームでは、“役割分担”がしっかりと明確化しているケースが多い。

“役割分担”、すなわち、攻撃役、回復役、支援役、そして防御役である。


そもそもRPG系ゲームでは、某かの問題が発生し、それを特別な役割を与えられた主人公(=プレイヤー)が、仲間達と協力して、問題解決へと立ち向かっていく話が多い。

その過程で、脅威となる存在と戦う必要が生じる事も多く、主人公(=プレイヤー)達は、己を鍛え上げ、あるいは装備品などで強化したりして、脅威に立ち向かっていく訳である。


つまり、そもそも戦う事が前提となる事が多いので、そうした攻略の過程で、自身、あるいはパーティーメンバーの最適化を推し進めれば、必然的にこの“役割分担”がされていく事となる訳である。


当たり前だが、敵対する相手も無抵抗ではない。

故に、何も考えずに全員でボコスカ殴っていたら、手痛い反撃を食らい、パーティーが半壊、あるいは全滅する事もありえる。

その対策として、仲間達を攻撃役、回復役、支援役、防御役へと振り分けて、しっかりとした安全性を確保するのがある種のセオリーとなっていったのである。


ここまでは、通常のシングルプレイのRPG系ゲームの話であるが、向こうの世界(地球)初のフルダイブ型のVRMMORPGである“The Lost World~虚ろなる神々~”は、王道の“剣と魔法のファンタジー”をコンセプトに設計されている世界観であるから、この往年のRPG系ゲームの要素がふんだんに踏襲されていたのである。


ただ、通常のシングルプレイのRPG系ゲームと違う点は、様々な特性を持つ仲間達を集め、その中から役割分担を考えて(まぁ、ほぼ決まっていた事も多いが)、それを主人公(=プレイヤー)が指揮する(まぁ、AIにお任せ、という者もいただろうが)、という構図ではなく、プレイヤーそれぞれが独立した思考を持ち、その役割分担を担う点であろう。


もちろん、これは運営側の配慮なのか信条なのかは知らないが、全てのプレイヤーに『TLW』の基本ストーリーはしっかり体験して欲しいのか、プレイヤーが自身のアバターをどの『職業(クラス)』へと振り分けたとしても、他の役割分担を担うNPCの助けを借りるなどして、クリア自体は通常のRPG系ゲームの様に可能であった。

つまり、ある程度はソロプレイでも楽しめる様に設計されていたのである。

むしろ、プレイヤー達が各々役割分担をするのは、MMORPG独特の要素から、という背景が強かったのである。


MMORPGの醍醐味は、何と言っても、他プレイヤーとの交流や協力であろう。

それまでのRPG系ゲームは、当然ながらプレイヤー一人だけがゲーム世界を体感する構図となっていたので、まぁ、それでも同じゲームをやっている友人とはある程度の思い出の共有なんかは出来た訳であるが、それでもあくまでソロプレイで楽しむモノ、という認識が強かった。


しかし、他の協力ゲームならば、放課後、友達とああでもないこうでもない、と共に攻略し、苦労の末にクリアをして、共に達成感を感じる、なんて事もあった訳である。

それを、MMORPGでは可能としたのである。


先程、『TLW』は、ある程度はソロプレイでも楽しめる様に設計されている、と述べたが、せっかくのフルダイブ型のVRMMORPGであるならば、当然それだけでは勿体ない訳である。

そこで、他プレイヤーと協力して挑めるコンテンツとして、もはやオンラインゲームでは定番となっていた“レイドバトル”が『TLW』でも実装されていた訳である。


“レイドバトル”は、そのコンテンツやタイトルによっては、PvEだったり、PvPだったりと定まってはいないのであるが、『TLW』においては、超強敵である“レイドボス”に挑む事を指している。

もちろん、比較的自由度の高い『TLW』では、カルマシステムの事もあって、PvPも普通にあるのだが、それに『光の軍勢』・『闇の軍勢』・『人間種の軍勢』という背景があるだけに、プレイヤー同士で争うコンテンツもあるのだが、こちらは“デュエル”・“ウォーゲーム”として分けて考えられていたりもする。

まぁ、ここでは関係ない話なので割愛するが。


で、この“レイドボス”は、これは他のコンテンツやタイトルでも同様かもしれないが、とんでもない強敵であり、いくら頭数が揃っていても、役割分担がしっかりしていなかったり、戦略がお粗末であった場合は、すぐに瞬殺されてしまうほどの存在であった。

ただし、これらを倒す旨味ももちろん存在する訳で、課金でも手に入らない超貴重なアイテムや素材が手に入ったり、一部の『職業(クラス)』獲得に必要不可欠だったり、一部のクエストクリアには必須の条件だったり、あるいはギルド創設に必要だったりと、挑戦する意義のある、ある意味ゲーマー魂を刺激するものばかりだったのである。


それ故に、これらレイドボスを攻略する目的で創設されたのが、『Lord of The Lost World』などの、所謂『攻略系ギルド』だったのであるーーー。



・・・



さて、ではここで、簡単に『TLW』のバトルの流れを解説しておこう。

『TLW』では、基本的に雑魚モンスターとの戦闘は、フィールドの移動や探索中にシームレスに発生する。

つまり、往年のRPG系ゲームとは違い、敵とエンカウントした場合に戦闘画面に切り替わるのではなく、そのまま戦闘に入るのである。

これによって、仮に他プレイヤーが戦闘をしているところに、助太刀、あるいは横槍を入れる事が可能となっていた。

もしくは、自分達が引き連れてきたモンスターを、わざと他プレイヤーに押し付ける、などの行為も可能である。


もちろん、これらはマナーの悪い迷惑行為ではあるが、『TLW』では、カルマシステムの事もあって、こうした行為はある程度容認されていたりもする。

もっとも、流石に度が過ぎると、他プレイヤー達からの評判が悪くなるし、運営からもアカウントの停止を含めた対応をされてしまう事もあるので、カルマ値を『Dark(悪性)』へと持っていく為に、わざと他プレイヤーと揉め事を起こす事は、中期頃には鳴りを潜めていった。

そんな事をしなくとも、カルマ値を調整する方法が見付かった、という事もあるのだが。

まぁ、それはともかく。


ただし、一部のボスや、特に“レイドボス”に関しては、通常の戦闘時とは違い、他プレイヤーの介入出来ない所謂“インスタンスエリア”へと移行するので、大事な局面では迷惑行為をする事が出来ない仕様となっている。


では、具体的な戦闘についてであるが、先程も述べた通り『TLW』では往年のRPG系ゲームを踏襲している部分もあるので、もはや定番ともなっている、所謂“ターン制バトル”の要素は含みつつ、それがよりリアルに設計された感じとなっている。

先程も述べた通り、プレイヤーは、自身のアバターを移動させる事は何時でも可能だし(ボスや“レイドボス”を除いて、逃げ出す事も可能)、通常攻撃も何時でも可能であるが、その一方で、スキルや魔法などの強力な攻撃などを発動させるには、“詠唱時間(キャストタイム)”、“再詠唱時間(リキャストタイム)”を必要としている。

(ただし、『職業(クラス)』によって獲得しているパッシブスキルや、一部のアクティブスキルに関しては、その対象外なモノも存在する。

また、名称的には魔法的な効果の様な印象を受けるが、要は各スキルや魔法を発動出来る“ゲージ”の溜まる速度を表しているので、特に『TLW』では、スキルだろうと魔法だろうと、一律に“詠唱時間(キャストタイム)”・“再詠唱時間(リキャストタイム)”と呼称しているプレイヤーがほとんどであった。)

この、特に“再詠唱時間(リキャストタイム)”が戦闘のキモとなってくるのである。


『TLW』では、“レイドボス”も含めて、雑魚モンスターもそうであるが、敵の攻撃に関しては、“予兆”の様なモノがプレイヤーには見る事が可能であった。

それが見えたら、示された範囲から逃れる事で、相手の攻撃をやり過ごす事が可能なのである。


ただし、一部の雑魚モンスターやボス、“レイドボス”には、全体攻撃的な、回避が不能な攻撃方法を持つ者達もいる。

そこで支援役のバフ効果によるダメージの軽減、あるいは回復役によるダメージの回復、もしくはカチカチに固めた防御役によるダメージの肩代わりなんかが重要になってくるのである。


しかし、ここで問題となるのが、先程も述べた“再詠唱時間(リキャストタイム)”なのである。

特にボスや“レイドボス”に関しては、相手のダメージ量が一定程度(『TLW』では、相手の体力(HP)もプレイヤーが見る事が出来る仕様であった)を越えると行動パターンが変化する。

その状態になると、それまでも、ボスらしくかなり手痛い攻撃を繰り出してきていたのに、更にそれが激しくなる。

そして、その中には、全体攻撃、かつ食らったら問答無用で即死させられてしまう超強力な攻撃なんかもある。


もはや、運営がクリアさせるつもりがないのではないかと疑うほどのチートっぷりであるが、もちろんその対応策として、プレイヤー側にもそれに対応出来るぶっ壊れスキルが存在していたのである。

それが、防御役、所謂“タンク”が持つ、『パラディンガード』というスキルであった。


『パラディンガード』は『聖騎士(パラディン)』が取れるスキルである。

聖騎士(パラディン)』自体は、順調に行けば序盤の後半~中盤の前半には取れる『職業(クラス)』であるが、その当時は、あまり『パラディンガード』の重要性に気付いていない事も多い。

何故ならば、その当時のボスは、全体攻撃はしてくるが、問答無用でプレイヤー側を全滅させる様な攻撃はしてこないからである。

(“レイドボス”に関しては、規定レベル以上、かつ基本ストーリーをクリアして初めて解放されるコンテンツである為に、まだ挑める段階にはない。)

このスキルが輝きを見せるのは、終盤や“レイドボス”攻略時である。


『パラディンガード』の効果は、パーティーを組んでいる味方(“レイドボス”攻略時は、複数のパーティーで挑むのが一般的。パーティーの上限は10人くらいだが、一般的には“物理アタッカー”・“魔法アタッカー”・“ヒーラー”・“バフ・デバフ要員”・“タンク”の5人で一つのパーティーとなる。“レイドボス”攻略時は、3~4パーティーで挑むのが一般的。)のダメージを肩代わりする、というモノ。

しかし、それではタンクにダメージが集中してしまうだけに思えるが、この『パラディンガード』がぶっ壊れなのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という点である。


つまり、このスキルを発現さえしてしまえば実質的にはノーダメージでやり過ごす事が出来るので、先程述べたボスや“レイドボス”の凶悪な攻撃への対抗策となるのである。

ただし、一度発動させると効果時間や“再詠唱(リキャスト)”の問題もあって、下手なタイミングで発動させると無意味に終わってしまう、どころかボスや“レイドボス”の凶悪な攻撃が来るタイミングで発動出来ない、なんて事にもなりかねないので、結構使いどころの見極めがシビアであったりする。

まぁ、ここら辺は、他の役割においても言える事であるが、敵の行動パターンをしっかりと把握し、適切なタイミングで各々のスキルや魔法を発動出来る判断力、あるいは、全体の指揮を取れるティアの様な指揮官が必須だったりするのであるが。


もっとも、これはあくまで『TLW(ゲーム)』に限定した話だったのだが、既に述べた通り、『異世界人(地球人)』達は『異能力』によって、細かい仕様変更(と、言うよりも、この世界(アクエラ)に合わせて最適化した、と言った方が正確かもしれないが)はあるものの、この世界(アクエラ)においても『TLW(ゲーム)』時に習得したスキルや魔法を使用する事が可能であった。


故に、『TLW』時は主に“タンク”を担っていたタリスマンは、それでも()の存在を明確に把握していた訳ではなかったのだが、強烈な“嫌な予感”に襲われて、咄嗟にこの『パラディンガード』を展開していたのであった。

そして、それを介してルキウスが攻撃された事が分かったので、“レベル500(カンスト)”のデタラメな身体能力を駆使して、こうしてルキウスのもとに駆けつけた、という流れだったのであるーーー。



◇◆◇



「【ソニックブロウ】っ!!」

「くっ!!!」


ガキンッ、ガキンッーーー!!!


「なっ・・・!?」


ルキウス(と、ついでにようやく目覚めた美女)を背にした位置取りに移動したタリスマンは、刺客である()に強烈な斬撃をお見舞いした。

しかし、()も流石は凄腕と呼ばれているだけあって、動きの制限された室内であったり、護衛対象が側にいる事などを考慮して、やや手加減していたとは言え、“レベル500(カンスト)”という、とんでもない身体能力を持つタリスマンの攻撃を防いで見せた。

が、そんな()とは言えど、一回の斬撃で二回の斬撃が来る、などというデタラメな攻撃には対処出来ずに、愛用の得物が意味不明な二回目の斬撃で、その手から弾き飛ばされてしまう。


(【ソニックブロウ】は、戦士(ファイター)職業(クラス)が最初期に覚えながらも、その使い勝手の良さから最終盤までお世話になるスキルである。

その効果は、“攻撃を一度に二回行う”、というもので、『TLW(ゲーム)』時には“タンク”として攻撃する事はほとんどなくなってしまったタリスマンであるが、彼も戦士(ファイター)職業(クラス)であるから、当然そのスキルは習得していた訳である。)


「くそっ!!!」


ボンッーーー!!!


「チッ!!!」

「な、なんだっ!!??」

「キャアァァァッーーー!!!」


一瞬困惑した()であるが、そこは流石に凄腕である。

イレギュラーな事態が発生した、と素早く判断し、隠し持っていた煙幕を使ってタリスマン達の視界を奪い、即座に撤退する、という行動に打って出る。


今度は、タリスマンがわずかな焦りを見せる番だったが、彼は彼で、自分に出来る事をしっかりと把握していたので、下手に追う様な真似は見せず、ルキウス達の安全確保を最優先にしていた。


「御無事ですか、陛下!?」

「ケホケホッ!・・・ああ、何とかな。」

「ゴホンゴホンッ!!!」


素早く室内の煙を外に追い出すべく窓を開けながら、ルキウスらの安否を確認するタリスマン。


「そうだっ!奴はっ!?」

「・・・逃げられましたなぁ~。」


それで少しは落ち着いたのか、ルキウスは刺客の存在に言及した。

それに対して、タリスマンは、ありのままの状況を伝える。


「いやいや、そんなノンキなっ・・・!お主も奴を追うのだっ!!」


流石に、その異変を護衛部隊の者達も気付いていた。

彼らは、逃げたらしき()を捜索している様で、“いたかっ!?”、“いや、こっちにはいないっ!!”、などの声が響き渡っていた。

ルキウスにしてみれば自身を狙った刺客である。

その背景を詳しく調べる上でも、可能ならば捕らえておきたいと思ったとしても不思議な話ではなかった。


しかし、タリスマンの意見は違った様だ。


「それは出来かねますな。」

「っ!?な、何故だっ!!??」


思わぬタリスマンの反対意見に、ルキウスはタリスマンが裏切ったのかと早合点しそうになった。


「落ち着いて下さい、陛下。それは、陛下をお一人にしない為です。それに、『パラディンガード』の効果もすでに切れていますからな(ボソッ)。」

「・・・っ!!!」


ルキウスは思わず目を見開いた。

先程まで、刺客と対等に渡り合っていた印象のルキウスではあるが、流石のルキウスとて、()()()()命を狙われる状況、所謂“修羅場”には慣れていないのか、何時もの冷静さが鳴りを潜めていた様である。


落ち着いて考えれば分かりそうなモノである。

逃げた、と思わせておいて、その場に留まっている、あるいは、もう一度現場に戻ってくる、なんて事は、かなり使い古された手である。

仮にタリスマンが、あの場で即座に刺客を追っていたならば、彼の怪しげな“呪術”によってタリスマンを振り切り、あるいはその目を誤魔化して、再度ルキウスを狙ってきた可能性もある。


先程は、タリスマンの『パラディンガード』によって事なきを得たが、色々な変更点はあるものの、『TLW(ゲーム)』時と同様に、一度使ったスキルを再度使用する為には、ある程度のインターバルが必要になってくる。

『パラディンガード』がない、タリスマンも側にいない状況で、再び刺客に狙われたとしたら、今度こそルキウスの命運は尽きていたかもしれないのである。


そうでなくとも、態勢が整っていない中での深追いは禁物である。

()()にとっては、どれほどの犠牲を払ってでも、ルキウスさえ仕留めればそれで目的は達せられる訳であるが、逆に、タリスマンら護衛側から言えば、絶対にルキウスを守り抜くのが前提条件となる。

たった一度の判断ミスで、ルキウスを亡き者とされればそれで敗北な訳だから、慎重に慎重を重ねるのは、むしろ当然の判断なのである。


「それに、私は護衛向きのスキルは習得していますが、探索系のスキルはほとんどありませんしね。ですから、私が追っていったところで、足手まといにしかならない可能性もあります。まぁ、陛下からしたら、御自身のお命を狙われた訳ですから、下手人を捕まえられないのは腹立たしいとは思いますが・・・。」

「・・・いや、すまん。少々取り乱した。お主の判断は間違っていない。これは、余の方が冷静ではなかったな。」

「いえ、それも致し方ありますまい。しかし、残念ではありますが、おそらく奴は逃げおおせる事でしょうな。索敵スキルは大した事はないとは言え、私にすらその存在を悟らせなかったほどの使い手です。こう言っては何ですが、護衛部隊の皆さんでは取り押さえる事は不可能でしょう。ですが、全く収穫がない、という訳でもありますまい?」

「・・・何?」


一旦言葉を区切ったタリスマンは、床に落ちていた刺客の()()()を、布にくるんで持ち上げた見せた。


「見たところ、これは特殊な装飾が施された一品です。まぁ、私は物の価値を鑑定する眼は持ち合わせていませんが、それでもこれが特別な物である事は理解出来ます。おそらく、下手人が非常に大事にしていた物かもしれませんな。」

「それがどうしたのだ?」

「と、言う事は、おそらく、そこら辺で流通している代物ではないでしょう。逆に、それが故に、下手人に迫る貴重な証拠となりえます。」

「っ!!・・・なるほど。」

「それでなくとも、奴は顔を晒しておりましたし、“蛮人(バルバロイ)”と繋がりのある()()、という線から考えてみるのも有りかもしれません。陛下の持つ情報網ならば、もしかしたら何かに引っ掛かるかもしれませんしな。」

「ふむ・・・。」


ルキウスは、タリスマンの言葉を吟味していた。

確かに、この二つから、かなりの事が割り出せる可能性は高い。


もちろん、ピンポイントで刺客に届く事はないかもしれないが、()と繋がっている組織なり、貴族なりへと辿り着ける可能はあり、それらに対して圧力を掛けるなりすれば、それ相応の抑止力となるだろう。


当たり前だが、()はプロであった。

つまり逆を返すと、依頼されて金で動いている訳であるから(100%私怨で動いている訳ではないから)、そのバックボーンを潰す事によって、再び狙われる可能性を低くする事も可能であった。


よほどの恨みでもない限り、強国であるロンベリダム帝国の独裁者を、それも、タリスマンという強力なガードマンがいる状況で再び狙うのは自殺行為である。

ルキウスの心証でも、()がそんな愚かな判断をするとは思えなかった。


まぁ、ルキウスとしては下手人を直接捕らえる事がかなわないのは不本意ではあるが、世の中にはスッキリとしない事も多い訳だから、その事を熟知しているルキウスは、それで納得する事とした。


「うむ、了解した。タリスマン、今回は御苦労であったな。」

「いえ、勿体なき御言葉。では陛下、今宵は私が御守りいたしますので、落ち着かないかもしれませんが、どうぞお休み下さい。護衛部隊の者達も、ある程度この辺りの捜索が済んだら呼び戻します故。」

「うむ。」



・・・



「くそっ!何だっ、あのバケモノはっ!!」


一方、ルキウスを狙った()は、どうにか護衛部隊の追跡を振り切りルキウスの別荘から既に離れていた。

本来ならば、タリスマンが追ってくる事も考慮して、再び襲撃するプランもあったのだが、タリスマンがそれをせずにルキウスにべったりくっついてしまったので、()はあえなくルキウスの暗殺を諦めて、すごすごと撤退を余儀なくされた訳である。

これは、完全なる任務失敗であった。


一度追い詰めておきながら、仕事に失敗した事を()は苦々しく思っていたが、それで殺られてしまってはそれこそ無意味に終わってしまう。

まぁ、それによって、依頼人から叱責を受ける可能性も高いのであるが、そんな事より命を落としてしまう事の方が、()としては何より恐れていたのである。


これは、もちろん死ぬのが怖い、という単純な理由もあるのだが、何よりも、死んでしまっては、()の目的が果たせなくなってしまうからである。


「姉さん・・・。」


()は、懐から後生大事にしていた、小さな肖像画の様な羊皮紙を取り出し、そこに描かれていた女性を眺めた。


「待っててね、姉さん・・・。必ず、見つけ出してみせるからっ・・・!」


どうやら()には、生き別れた姉が存在する様である。

しかし、以前にも言及したが、今現在のこの世界(アクエラ)で、特定の探し人を見つけ出すのは、非常に困難な事である。

それに()には、凄腕でありながら自由に動けない事情も存在していた。


「この忌々しい『隷属の首輪(腕輪)』さえなければっ・・・!」


そう、それは劣化版ではあったが、『隷属の首輪』(“首輪”と言いながらも、()の場合はその腕に装着されていたが。以前にも言及した通り、名称自体は“首輪”だが、実際にはその形状は様々存在するのであった。)の効果によって、()は自身の自由意思はある程度持っていたが、その一方で自由な行動は制限されていたのである。


これを解除する為の条件として、()は“暗殺”などの裏家業に身をやつしてしまったのであった。


「おっと、“擬態”をしたままだったな。とりあえず、今後の事はともかくとして、この場を逃げおおせる事に集中しなければっ・・・。」


簡単に言えば、“擬態”は、特定の物に化ける事(様に見える事)である。

であるならば、周囲の風景に溶け込む事で、光学迷彩的な使用方法も可能であり、その一方で、姿自体を別のモノに変化させる事も可能であった。


ある意味、“変身能力”に近い。

また、獣人族の持つ“獣化”に近いが、これは、おそらく()の部族が獣人族と交流があった、あるいは、彼らの特殊能力を参考としたからかもしれない。


で、当然ながら、そんな術義が可能であるならば、何時も見せている姿が本物でない可能性も高い。

ルキウスらが()が姿を晒している事に対して、ある程度違和感を持っていたが、それはこの事が理由なのである。


「ふぅ・・・。さて、ここは下手に動かない方が良いな。陽が出るまで待つとするか。」


そこには、ルキウスらが目撃した先住民族の男性の姿はなく、多少目付きは鋭いものの、見目麗しい()()の姿があった。

そう、()は、彼ではなく、()()だったのである。


姿に加えて、性別さえ違えば、()=()()と結び付ける事は中々出来ないだろう。

こうした思い込みを利用して、()()は仕事時や普段の生活では男性に“擬態”していたのであった。


狙われたルキウスも、中々眠れない夜を過ごす事となったが、狙った側の()()も、下手に夜間に女がうろうろしていたら怪しまれるという事で、中々に長い夜を過ごす事となったのであったーーー。











「なるほどねぇ~。そういう事かぁ~。」



◇◆◇



「おはようございます、陛下。夕べはしっかり休めましたかな?」

「ああ、タリスマンか。まぁ、多少神経が高ぶっていたのか寝付きは悪かったが、お主の存在に安心したのか、それでも眠れはしたよ。」

「ふぁ~ぁ。・・・アッ・・・!」

「ハッハッハ、それはよう御座いました。」


ルキウス暗殺未遂事件から一夜開け、ルキウスらはそんな会話を交わしていた。


ルキウスが言った通り、自身の命を狙われた状況だったというのに、タリスマンの不思議な安心感からか、ルキウスは多少なりとも休む事が出来ていた。

まぁ、共にいた美女が寝不足っぽいのは、こちらはご愛敬であるが。


「お主は徹夜か?しかし、そうは見えぬな。」

「ええ、まぁ、この程度、何の問題もありませんよ。この肉体はかなり頑強な様ですからな。」

「ふむ・・・。」


いくら“レベル500(カンスト)”とは言え、やはり睡眠は普通に必要になってくるのであるが、しかし、多少の無理は効くのも事実であった。

タリスマン自身、普段と変わらぬ動きが可能であるし、頭がボッーとする事もない。

ルキウスから見ても、タリスマンは、とても徹夜したとは思えないほど普段通りであった。


「しかし、いずれにせよ休息は必要だろう。護衛部隊の者達も、徹夜で刺客の捜索に当たっていた様だし、交代で仮眠を取るが良い。流石の奴とて、真っ昼間から仕掛ける事もあるまい。」

「ハッ、了解しました。」


ルキウスを狙った()()は、色々と非常識な相手ではあったが、その実、襲撃のセオリーはしっかりと守っている。

と、いうのも、()()はあくまで単独で動いているからであり、であるならば、もっとも成功率の高い深夜帯に動くのがむしろ当たり前だったからである。


まぁ、そうした事がルキウスらが知っていたかは分からないが、タリスマンも、今度はルキウスの意見を否定しなかった。


と、まぁ、ようやくそんな感じに、ルキウス暗殺未遂事件が落ち着きを見せた中、矢継ぎ早にまた新たな問題が発生する事となった訳であるが。


「へ、陛下っ!大変に御座いますっ!!!」

「ええい、騒々しいっ!朝っぱらからどうしたと言うのだ?まさか、昨夜の奴を捕らえられたのかっ!?」

「い、いえ、そちらは全く音沙汰は御座いません。おそらく、既に逃げおおせたものと思われます。」

「ふむ・・・。まぁ、口惜しいが、致し方あるまい。中々厄介な奴ではあったが、奴とてタリスマンの存在を認識した訳だから、再び仕掛けるにしても、更に慎重にならざるを得ないだろうからな。とりあえずは、脅威は去ったと見て良いか・・・。で、そうではないのならば、一体何だと言うのだ?」

「そ、それがっ・・・、わ、私も実はよく分かってはいないのですが、どうやら、ロンベリダム帝国(我が国)の魔法技術が、使い物にならなくなった様なのですっ・・・!!!」

「なんだとっ・・・!!!???」

「何っ・・・!?」

「はいっ・・・?」



どうやら、せっかくの休暇だと言うのに、ルキウスに心休まる時間は全くない様であったーーー。



誤字・脱字がありましたら、御指摘頂けると幸いです。


いつも御覧頂いてありがとうございます。

よろしければ、ブクマ登録、評価、感想、いいね、等頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ