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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
ロフォ戦争
217/383

ファーストコンタクト

続きです。



◇◆◇



「ようこそロンベリダム帝国へ、異国の使者殿。余が、ロンベリダム帝国の皇帝、ルキウス・ユリウス・エル=クリフ・アウグストゥスである。」

「御初に御目にかかります、皇帝陛下。私は、『ブルーム同盟』から派遣されました、特命全権大使のオーウェン・ターフルと申します。御尊顔を拝する機会を頂きまして、恐悦至極に御座います。」

「・・・うむ。」


イグレッド城にある他国の要人などと公式に面会する為の広間、所謂『謁見の間』にて、豪華絢爛な衣装に身を飾ったルキウスと、ロマリア王国における正装であるシックな宮廷服に身を包んだオーウェンがそんな言葉を交わしていた。


出会い頭のジャブは、まぁ、ルキウスの圧勝であろう。

それもそれ筈、ここはルキウスのホームであるし、曲がりなりにも彼はロンベリダム帝国の皇帝(トップ)であるから、いくらロマリア王国ではそれなりの地位に就いているオーウェンとは言え、一貴族と皇帝では、その権威に比べ物にならない隔たりがあるからである。


故に、その場の立ち位置は明確であり、ルキウスが上、オーウェンが下、という構図が出来上がっていた。

多少大人気ない部分も存在するが、一国の代表者としては他国の者にナメられる訳にもいかないので、表面上は尊大なスタンスで存分に自身の持つ権威を見せ付けて相手を威圧しつつ、その実、裏では相手をしっかり値踏みもしていた。


もちろん、オーウェンもその事は理解しているので、飾り立てた挨拶で下手に出る立ち回りを演じつつも、強国と名高いロンベリダム帝国の皇帝(トップ)を目の前にしてもそこに変な緊張感はなく、意外なほどサラリと受け流した印象であった。


そのオーウェンの様子に、ルキウスは素早く彼の人物評価をする。


ー・・・中々のやり手だな。ー


それが、ルキウスのオーウェンに対する初見での評価であった。


「それと・・・、ティア殿も御一緒だったのだな?まぁ、アーロス殿からある程度の報告は受けていたのだが・・・、まぁ、何だ。あまり要領を得られなかったモノでな。」


と、そこへ、急にこの場にいるティアに話題を移すルキウス。

本題に入る前に、その事はクリアにしておきたかった様である。

すなわち、ティアがオーウェンらと共に居るという事は、彼女が『ブルーム同盟』と協力関係、手を組んだのではないか、という懸念が存在したのである。


まぁ、今のルキウスにとっては、今更『異邦人(地球人)』の一人や二人が敵対関係になったとしてもそこまでの脅威ではないのだが、しかし、別に好き好んで敵対したい訳でもないのである。


遠回しにアーロスらの仕事の甘さを指摘したルキウスに、ティアは苦笑しながら答える。


「いや、皇帝。儂らは彼らとはたまたまロマリア王国へ赴いた際に知り合っただけだ。彼らは、当時ロンベリダム帝国などへの外遊を計画していたらしく、それでちょうどロンベリダム帝国とは浅からぬ関係を持っておった儂らに、皇帝との謁見の仲介を依頼してきた、という流れじゃ。その時には儂らの諸国漫遊の旅も一段落ついておったからな。それ故、その依頼に乗っかってこうしてロンベリダム帝国に戻ってきた感じじゃな。」

「ふむ、なるほど・・・。」


遠回しなルキウスの牽制に、ティアも当然その裏の意味を正確に見向いて自身の立場や、ここに至った経緯を説明する。

まぁ、当然、ティアは『ブルーム同盟』やアキトとは、それなりに深く関わっているが、別段彼らと合流した(仲間になった)訳ではないから、そこは自信を持ってそう答える。

もっとも、ティア個人としては、『ブルーム同盟』、ないしはアキトの正式な仲間になる事も悪くはない選択肢なのだが、アーロス達の手前、それはする事が出来なかった、という裏事情も存在するのだが。


素知らぬ顔でそう答えるティアを一瞥し、ルキウスは納得した様に頷く。

この頭の切れる厄介な女が、自身の立場を危うくする事、ボロを出す様な真似はしないだろう、と考えたからである。


ルキウスにとって、もっともやりにくい存在とは、やはり頭の切れる人物だ。

いくら(チカラ)に優れた人物であったとしても、やはり考えなしな者ほど扱いやすい訳で、そうした意味だと、ルキウスは特にティアとエイボン、ククルカンやアラニグラなどの、所謂“頭脳派”に警戒感を向けていた。


逆に言うと、既に自身の傘下に収まっているタリスマンはともかくとして、また、裏で繋がりのあるキドオカも油断ならぬ相手ではあったが、その他の『異邦人(地球人)』は一歩劣った存在として見ていたのである。

まぁ、それはともかく。


「失礼。話が逸れてしまったな。して、はるばるロンベリダム帝国(我が国)まで赴いた理由を聞かせて頂いてもよろしいか、オーウェン殿?」

「もちろんです、陛下。」


一旦話が脇道に逸れた事を軽く謝罪し、ルキウスは話題の軌道修正をする。

それに、オーウェンも打てば響く様に答えた。


「その目的、の前に、簡単に我が『ブルーム同盟』の概要を御説明致しましょう。『ブルーム同盟』とは、ハレシオン大陸東南側に位置する、ロマリア王国、ヒーバラエウス公国、トロニア共和国の三国からなる、軍事的・経済的な連携を推進する同盟関係の事です。お恥ずかしながら、この三国は、一国一国がそこまで大きくないものですから、もちろん、それなりの軍事力は持っているのですが、やはりモンスターや魔獣などの脅威に対応する為には弱い部分が存在しました。その代表的な事例が、陛下もお聞き及びかもしれませんが、ロマリア王国のとある地方で起こった未曾有の『パンデミック(モンスター災害)』であり、まぁ、そちらに関しては、『ロマリアの英雄』として名高い青年を筆頭とした憲兵や冒険者、果ては市民達の活躍により事なきを得たのですが、それを切っ掛けとして、各々の国が抱える軍事的な穴、つまり自国の持つ防衛力に対する不安が高まってしまったのですよ。」

「ふむ・・・。」

「とは言え、陛下も御承知の通り、当然ながらいきなり兵士を増やす事も、防衛費を増やす事も簡単な話ではありません。先程も申し上げた通り、この三国は、ロンベリダム帝国に比べたら小さな国ですからな。当然、国が持つ資金力も、それに見合ったモノとなります。そこで、この三国が手を組む事により、各々が持つ軍事力の連携を容易にする協定を結び、その防衛力の穴を埋めようとした、というのが『ブルーム同盟』設立の経緯で御座います。」

「・・・なるほどな。」


もちろん、これは()()()の設立事由であって、その裏の目的は、着実に拡大路線を突き進んでいたロンベリダム帝国に対する対抗組織とする為であった。

しかし、この()()()の理由はかなり重要であり、単純に三国(まぁ、本来はここに『エルフ族の国』や鬼人族の部族が加わるのだが、他種族に対しては否定的な意見を持つロンベリダム帝国内にて、その事を(おおやけ)に明言する事は避けた狙いがある。もっとも、ルキウスの情報網ならば、既にその事についても調べがついているかもしれないが。)で軍事的な同盟を結んだだけならば、それこそロンベリダム帝国のハレシオン大陸統一の最大の障害となり得るので、ある種の政治的圧力を掛ける事も可能なのだが(他国を侵略する為には軍備を増強しているのではないか、と難癖をつけて牽制する事も出来るのだが)、この()()()の理由も事実この世界(アクエラ)の抱える問題点であるから、それを理由とした三国の強化をする事に対してよその者達が文句を言う事は、内政干渉にも当たるので口出し出来ない部分なのである。


しかも、ロマリア王国にて『パンデミック(モンスター災害)』が起こった事は、これも間違い様のない事実であるから、それを切っ掛けとして安全保障上の観点から、自国の防衛力に不安が高まったとしても不自然な話でなく、こちらも筋も通っている。

まぁ、ここら辺は、ハイドラス派が引き起こした惨事を、逆に上手く利用したアキトやマルセルム、ダールトンらの作戦勝ちであろう。


「もっとも、当時のこの三国は、特に歴史的経緯から、ロマリア王国とヒーバラエウス公国の仲が悪く、それも一筋縄ではいかなかったのですが・・・、そこで、軍事的な事に加えて経済的な繋がりを持つ事で、その問題点は解決した訳ですな。トロニア共和国は、ロマリア王国とヒーバラエウス公国の争いに巻き込まれない様に静観していた立場ですから、この二国の関係が修復された結果、合流する事に同意した、という流れであります。」

「・・・ふむ。そなたら、『ブルーム同盟』の存在事由は分かった。では何故、そんなそなたらが、遠く離れたロンベリダム帝国(我が国)にまで赴いたのだ?・・・同盟を増やそうとする狙いかな?」


しばらく黙ってオーウェンの言葉に耳を傾けていたルキウスは、ここでカウンターに打って出た。


あくまで、『ブルーム同盟』は、魔獣やモンスターという脅威に対抗する為に設立したというのならば、既に話は完結している筈である。

少なくとも、その三国の軍事力を統合すれば、そうした脅威に対応する事は十分に可能だからである。


しかしそうではなく、ロンベリダム帝国を含めた他国への外遊を計画していたという事は、すなわち同盟に参加する国を増やして、ロンベリダム帝国に対抗する新たな勢力、枠組みを作り上げるつもりなのではないか、と暗に牽制したのである。


もちろん、『ブルーム同盟』にそうした思惑が存在しない訳ではない。

事実、ロンベリダム帝国に至るまでの道中の国々にオーウェンは挨拶回りをしていた事から、同盟の拡大、その下地作りを行っていた事は明らかである。


当然ながら、それはロンベリダム帝国としては面白い話ではない。

ロンベリダム帝国、そしてルキウスの野望は、ハレシオン大陸(この大陸)の統一、ハレシオン大陸(この大陸)の覇者となる事であるから、『ブルーム同盟』が拡大する事は、当然その野望の最大の障害となるからである。


しかし、そんなカウンターも何のその、オーウェンは涼しい顔でそれを否定した。


「いえいえ陛下。それは誤解で御座います。我々の外遊の目的は、()()()()()()()()()であります。もちろん、その副産物として、他国と正式に国交を結ぶなどの思惑が存在しない訳ではありませんがね?」

「・・・む?」


肩透かしを喰らったルキウスは、微妙な表情をうかべていた。


“外遊”とは、そもそも留学や研究、視察などを目的として外国を訪問することを指す。

特に政治家など公人が外交目的で諸外国を歴訪することに対して使われることが多いが、オーウェンは前者の方が主な目的であると明言したのである。


当たり前だが、知識の幅を広げるならば、他者が築き上げたモノを積極的に取り入れる方が効率的である。

特に、最近のロマリア王国、ヒーバラエウス公国、トロニア共和国は独自の魔法技術を持つに至っているが、流石に魔法技術先進国であるロンベリダム帝国には劣る、というのが世間的な常識だ。


この世界(アクエラ)における魔法技術は、経済的な分野と共に、軍事技術としても重要な立ち位置であるから、軍事力・防衛力を高める為には、ここを強化するのがもっとも効率的である。

もちろん、そうした技術は自国の切り札となり得るから、そう易々と機密情報を他国の者達に開示する事など出来よう筈もないが、とは言え、市民生活に用いている魔法技術まで隠し通す事は出来ない。


実際、向こうの世界(地球)でも、他国へと使節団を派遣し、他国の持つ優れた文化や技術を取り入れる事によって、自国の発展を推し進めようとした政策もある。

逆に、自国の持つ独自の技術を売り込む事で、相手国に対して牽制を入れつつ、経済的な繋がりを持つ事で、自分達の必要性を相手に知らしめる、といった外交手法もある。


「先程も申し上げた通り、魔獣やモンスターに対抗する為の『ブルーム同盟』ですが、それをより磐石にモノとする為には、魔法技術の強化はもっとも効果的です。極論を言えば、魔法士部隊は一軍に匹敵する(チカラ)を発揮しますからね。同盟によって、単純な人員の補充は可能となりましたが、しかしそれだけでは、究極的には軍事力・防衛力の強化とは言えません。ならば、魔法技術に(チカラ)を注ぐのが自然な流れであり、なおかつ、三国で独自に発展した魔法技術とは別に、他国の良いところを学ぼうとするのも、これは自然な流れでしょう。もちろん、一方的に吸収するだけでは、その国にとっては不利益な事ですが、そこで私の出番、という訳です。」

「ふむ・・・。」

「どうでしょう?出来る事、出来ない事がおありでしょうが、しばらくの間、魔法技術を学ぶ為に『ブルーム同盟(我々)』がロンベリダム帝国に滞在する事をお許し頂けないでしょうか?もちろん、()()でとは申しません。代わりに三国の持つ独自の魔法技術、あるいは()()()()()()()()()()()、でどうでしょうか?」

「・・・なにっ?」


オーウェンは、先程の趣旨返しとして、ここでカウンターで返した。


今回、ここではオーウェンは、魔法技術先進国であるロンベリダム帝国の技術力を学びに来たと言っている。

もちろん、これは目的の一つであって、その裏側には拡大路線を推し進めるロンベリダム帝国に対する牽制(“大地の裂け目(フォッサマグナ)”勢力との戦争も、それに含まれている)もあるのだが、と同時に、『ブルーム同盟』の持つ独自の魔法技術や、食糧、鉱石などの資源の供給国としての価値もプラスする事で、ロンベリダム帝国をして無視出来ない存在である事をアピールしているのである。

これは、『ブルーム同盟』、引いてはロマリア王国、ヒーバラエウス公国、トロニア共和国が、ロンベリダム帝国最大の貿易相手国となる事で、簡単には潰させない様にする狙いもあった。


そして、絶賛『ロフォ戦争』の真っ最中であるロンベリダム帝国にとっては、『ブルーム同盟』の持つ魔法技術はともかく、食糧や鉱石などの資源の供給は、これは喉から手が出るほど欲しいモノでもあった。


兵士の持つ武器や防具、あるいは“魔法銃”。

そして、絶賛量産化を急いでいる『魔戦車(マジックパンツァー)』には、貴金属や魔法的な鉱石は必要不可欠だからである。


もちろん、ロンベリダム帝国内部、実質的な属国化に至っている周辺国家群、そして、そもそも多くの地下資源が豊富に存在するだろう“大地の裂け目(フォッサマグナ)”という供給源が近くに存在している訳だが、ロンベリダム帝国内部はともかくとして、周辺国家群は、いまだにロンベリダム帝国に対する反発も根強く、なおかつ、魔法技術先進国たるロンベリダム帝国とは違い、まだそうした物を発掘する下地を作っている最中であるから、現時点での供給量は微々たるモノであるし、“大地の裂け目(フォッサマグナ)”に関しては、まだロンベリダム帝国が手中に収めた訳ではないのでこちらは言わずもがなである。


実質的に『ロフォ戦争』で使われている大量の資源は、自国でどうにかやりくりしているのが現状であり、もちろん、ロンベリダム帝国と取引のある国もある事にはあるが、そちらに関しても、『ロフォ戦争』勃発に伴い資源の供給量を制限されていたのである。


まぁ、ここら辺は判断が難しいところだ。

本来ならば、戦争に伴う需要の高まりから、取引のある国にとってはある意味一攫千金を狙えるチャンスでもあるが、しかし、仮にロンベリダム帝国との取引を強化して『ロフォ戦争』が終結した場合、今度はそんな頑強な状態のロンベリダム帝国の矛先が自国に向く恐れもある。


先程の『パンデミック(モンスター災害)』を切っ掛けとして安全保障上の不安が高まった話と似通った話となるが、自国のすぐ周辺国が戦争をしていた場合も当然安全保障上の不安が高まる訳で、もちろん、ロンベリダム帝国を刺激しない様に一方的に取引を中止する訳ではないのだが、採掘量が減ってしまった、などの言い訳をしつつ、軍事転用の可能な資源を制限し、その浮いた分の資源で自国の強化に回してしまっていたのである。

儲かったとしても、国が滅んでは元も子もない。

そうした事もあって、ロンベリダム帝国は、今現在、絶賛資源不足に陥りつつあったのである。


そこへ来ての、『ブルーム同盟』からの提案は、まさに渡りに船だったのである。

しかし・・・。


ー・・・中々どうして食えん男の様だな。しかし、どうも解せんな。いや、こやつの言っている事を額面通り捉えるのならば、こやつらの狙いはロンベリダム帝国(我が国)の魔法技術だ。そして、その見返りとしての三国からの資源の供給。それを足掛かりとした、ロンベリダム帝国(我が国)と友好関係を結ぶ腹積もりか?三国は、立地的にロンベリダム帝国(我が国)より遠く離れた地であるから、ロンベリダム帝国(我が国)の軍事力強化は現時点では脅威ではない、と判断したのかもしれん。いや、ここでロンベリダム帝国(我が国)に媚びを売る事により、『ブルーム同盟』はロンベリダム帝国(我が国)と敵対する意思はない、と暗に伝えたいのかもしれん、か・・・。しかし。しかし、だ。果たして、素直にそう捉えても良いだろうか?こやつらはともかく、噂に聞く『ロマリアの英雄』は、ライアド教に敵愾心を持っておる様だし、ライアド教と関係の深いロンベリダム帝国(我が国)の行動を、見て見ぬフリはしない様にも思う。少なくとも、『ロフォ戦争』の行く末、ロンベリダム帝国(我が国)、ないしはライアド教の勢力が拡大する恐れの高いこの紛争を、どうにか止めたいと思うのが自然な流れだろう・・・。しかしどうやって?事、ここに至れば、その『ロマリアの英雄』がどれほどの(チカラ)を持っていようと、『ロフォ戦争(この戦争)』を止める事は不可能に近いだろう。ありうるとすれば、余の命を狙う事くらいだが・・・、それもタリスマンがいれば、極めて難しいだろう・・・。

さて、どうするか・・・・・・・・・。ー


天才的な頭脳を持ち、極めて柔軟な価値観を併せ持っているルキウスであったが、オーウェン、そして、その裏に存在するアキトの思惑を読む事が出来ないでいた。


しかし、それも当然の事。

アキトが考えていたのは、まさにルキウスの常識、想像の埒外の事だったからである。


いずれにせよ、『ブルーム同盟』と繋がりを持っておく事は、以前にもルキウスが考えていた通り、上記の理由の他にも、ハレシオン大陸(この大陸)統一の布石とする上でも、また、ハレシオン大陸(この大陸)南側に一定の影響力を持つ意味でも悪い選択肢ではなかった。


故に、ルキウスの答えは一つしかなかったのである。


「あい分かった。もちろん、ロンベリダム帝国(我が国)の機密情報を漏らす事は出来んが、ロンベリダム帝国(我が国)の持つ高水準の魔法技術を大いに学ぶが良い。」

「おおっ・・・!寛大な御判断、大いに感謝申し上げます。・・・やはり、様々な魔法技術を知る事は、危険を回避する上では重要な事ですからな。(ボソボソ)では、陛下。先程申し上げた資源の事はすぐに三国に伝えると致しまして、微々たる量ではありますが、我々が持ち込んだ物資をどうぞお納め下さい。」

「ほう・・・。」


とりあえずルキウスは、オーウェンの提案を受け入れる事にした様である。

いざとなれば、約束を破る事などいくらでも出来るからである。


そして、そんなルキウスの思惑を知ってか知らずか、オーウェンは喜びをあらわにして、他国に対する“贈り物”として持ち込んでいた魔道具(マジックアイテム)や鉱石などの資源を、この場面で差し出した。


「有り難く頂戴しよう。まぁ、量に関しては仕方のない部分だろうが、素人の余の目から見ても、中々に純度の高い物の様だな?」

「お褒めに預かり光栄に御座います、陛下。しかし、量に関しては申し訳ありません。やはり、我々の運搬能力では、1()0()()()()()を持ち込むのが限度で御座いました。」

「な、なにっ・・・!?」

「流石にこの場には入りきりませんので、別の場所に預けてありますが、この程度では陛下も御満足頂けない量でしょう。しかし御安心下さい。正式に三国との交易が成り立てば、すぐに御満足頂ける量をお送り出来る事でしょう。」

「そ、そうか・・・。」


素知らぬ顔でオーウェンは会話を進めているが、本来10トンなど、大型トラックなどないこの世界(アクエラ)においては、運ぶのは難儀する物量である。

もちろん、大きな隊商(キャラバン)ならばそれも可能ではあるが、オーウェンらの使節団としての規模は、流石にそこまでではない。


故に、これほどの量を持ち込む事は、本来ならば不可能に近い筈なのだが、しかし、オーウェンはさも当然の様に会話を推し進めている訳だから、ナメられる訳にはいかないルキウスとしては、どうやってそんな量を持ち込んだのかを問い質したいところを、グッと堪えるしかなかったのである。


まぁ、そのカラクリは至って単純である。

基本的にオーウェンらは馬車を使って移動して来たが、物資などはアキトとリリアンヌが共同で開発した『農作業用大型重機』を応用した()()()の荷車で運んで来ただけなのである。

先程も言及したが、他国に赴く場合は、自分達の持つ技術力や文化をアピールする上でも、また、単純に相手の心証を良くする上でも、“贈り物”を用意する事がままある。

こうした事情もあって、すでにヒーバラエウス公国を中心として実用化されている『農作業用大型重機』の応用で試験的に作っていた『運搬用自走式荷車』の試験走行を兼ねて、今回の旅での運用を始めたのである。


以前にも言及したが、今現在のハレシオン大陸(この大陸)は、水棲モンスターの影響もあって航路が限定的であるし、航空技術に至っては存在すらしていないのが現状である。

故に、ハレシオン大陸(この大陸)を移動するには、もっぱら陸路を使用するしかないのだが、もし仮に、その移動の負担が軽くなれば、交易などはもっと活性化するであろう。


先程も述べたが、すでにヒーバラエウス公国にて実用化している『農作業用大型重機』ではあるが、こちらはあくまで“農作業”をメインとしているから、長距離を長時間、それなりのスピードで走り続ける事は想定していない。

逆に、『運搬用自走式荷車』の運用はそちらがメインとなるから、実用化する上でも、そうした試験データを取って起きたい思惑がアキトにはあったのである。

ロマリア王国方面からロンベリダム帝国周辺までは、それこそかなりの距離を移動する事になるので、まさにうってつけの機会だったのである。


もっとも、同行していたティアらも、そうした事実は知らされていない事であった。

ティアもルキウスに明言していたが、彼女達はあくまで現時点では協力者であって、『ブルーム同盟』やアキトらに正式に合流した訳ではないので、機密情報を漏らすのはデメリットでしかない。

故に、“ウマ”や“ラクダ”もカモフラージュに使っていた事もあって、彼女達もその事は知らなかったのである。


逆に、こうした背景もあって、ロンベリダム帝国で新たに開発された『魔戦車(マジックパンツァー)』は、アキトとしては認める訳にはいかなかったのである。

いや、アキトも明言していたが、テクノロジーの発展の上では、他者の技術を参考にする、まぁ、身も蓋もない言い方をするとパクられる事も想定の範囲内であったし、一般市民の生活が豊かになるのならば、所謂“コピー品”が出回ったとしても(もちろん、それで一般市民を騙し、自身の私腹を肥やす事に終始した者にはその限りではないが)、そこら辺はあえて黙認していた。

しかし、もしそれが、他者の生活や生命を脅かすモノとなったのならば、それは自身やリリアンヌの名誉の為にも、見過ごない部分なのである。


「それと、最後にはなりましたが、三国の長より、陛下宛の書簡を預かっておりました。こちらも、あわせてお納め下さい。」

「うむ、頂戴しよう。」

「まぁ、中身は、流石に私も勝手に読んだ訳ではありませんが、おそらく『ロフォ戦争』の終結を嘆願する内容でしょうな。」

「・・・それは、流石に内政干渉に当たるのではないかな?」

「もちろん、私も含めてそれは存じ上げておりますが、特にトロニア共和国は他種族とも共存する国ですから、“大地の裂け目(フォッサマグナ)”勢力、つまりは獣人族に極めて近しいモノを感じているのですよ。国民の手前、とりあえず我々は動いたぞ、という証明が欲しいのかもしれません。他の二国は、同盟関係として、トロニア共和国に歩調を合わせた、と言ったところでしょう。それに、戦争が長引けば長引くほど、一時的に儲かる事もありますが、長期的に見れば交易に悪影響が出る恐れもありますので、そちらも考慮したのかもしれませんな。」

「・・・ふむ。」

「どちらにせよ、ロンベリダム帝国の事をお決めになるのは陛下をおいて他にはおりません。しかし出来る事ならば、なるべく穏便に済ませて頂ければ幸いで御座います。もし、彼らとの間に仲介が必要でしたら、『ブルーム同盟(我々)』が間に立つ事も(やぶさ)かでは御座いません故・・・。」

「・・・(ふん、やはりそれが狙いか?)うむ、考えておこう。では、話は以上かな、オーウェン殿?」

「はい。以上に御座います。」

「では、誰かオーウェン殿らを『迎賓館』へと御案内しろ。良い出会いであったぞ、オーウェン殿。」

「ハッ、ありがたき幸せ。御前失礼致します。」

「うむ。」


一通りの謁見が済むと、ルキウスは案内の者を呼びつけ、他国の要人が滞在する為の貴族街にある施設、『迎賓館』へとオーウェンらを送り届ける様に言った。

それに、終始ペコペコした雰囲気で、しかし、あくまでルキウスのペースに呑み込まれない様な立ち回りで見事にルキウスとの謁見を終えたオーウェンが後に続いた。


残された物資を眺めながら、今の会談の内容を反芻していたルキウスは、ふと独り言を呟いた。


「・・・さて、奴らをどう評価すべきか・・・。」



誤字・脱字がありましたら、御指摘頂けると幸いです。


いつも御一読頂き、ありがとうございます。

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