足元注意
続きです。
いくら有能な人物であろうとも、一生“正解”を引き当てるのは難しいものです。
◇◆◇
20世紀はまさしく狂気の時代であった。
それは、世界的な戦争を切っ掛けとした劇的な科学技術の進歩と共に、核、生物、化学兵器などの、所謂“大量殺戮(破壊)兵器”などの負の遺産を多数生み出してしまったからである。
一説によると、戦争によって人類のテクノロジーは劇的に進化を遂げた、と言われている。
“戦争”という非日常的な現象は、相手国に対する優位性を確保する為に軍事技術の開発競争へと激化していき、それによって、通常ならば数十年は掛かると言われた新技術開発が極短期間で行われる事も珍しくないので、それも間違った考え方ではないだろう。
もっとも、それには国家の号令のもと、莫大な資金と共に人材も大量投入されているので、むしろそれも当然の事とも言えるのだろうが。
とは言え、それが人類にとって必ずしもプラスに働いたかと言われれば、答えはNOであろう。
テクノロジーは便利な反面、人類に対して容易に牙を剥く。
その代表的な例が、所謂“原子力”である。
“原子力”は非常にリスキーな技術である。
もちろん、それも賛否両論あるだろうが、軍事利用され、実際には使われた“原爆”の破壊力、その悲惨さを知っていれば、擁護する方が難しい話でもある。
実際、それに関わった多くの科学者達は、自らが生み出してしまったその狂気の発明を、生涯に渡り深く後悔したそうだ。
もちろん、原子力発電に利用されるなど負の側面だけではないのだが、こちらについても、一度扱い方を間違えれば、あるいは某かの事故によって、チェルノブイリ原発事故の様に、“原爆”同様に長期に渡る悪影響を与え続ける例もある、ハイリスクハイリターンな技術なのである。
そして、そのもっとも厄介な点が、それほどリスキーな技術であるにも関わらず、一度技術が普及してしまうと、なかった事には出来ない点であろう。
また、人というのは、一度手に入れた“オモチャ”は、どうしても使ってみたくなる悪癖も存在する。
今現在の向こうの世界においても、“原子力”はエネルギーの問題だけに留まらず、所謂“核抑止論”の考え方に基づき、核軍縮を声高に叫ぶ一方で、自国の安全保障上の観点から、核保有国となるべく新興国による核開発などが活発に行われるに至っている。
そうした背景もあって、様々な議論はありつつも、想像を絶するリスクがあるにも関わらず、“原子力”は軍事的・経済的に利用され続けているのが現状なのである。
そもそも、“原子力”は、客観的に見ても、今現在の人類が手にするには早すぎた技術・過ぎた力であると言わざるを得ないだろう。
少なくとも、それを完璧にコントロール出来ないにも関わらず使用すべき技術ではない、と僕個人としては思っている。
と、この様に、戦争によって生み出されたテクノロジーというのは、もちろん、その後平和利用される事もあるのだが、と同時に問題点も多く、自らの身を滅ぼす危険性も多く孕んでいるのである。
この度ロンベリダム帝国が開発した『魔戦車』なる物は、もちろん“原子力”ほどの脅威ではないものの、客観的に今現在のこの世界の技術力を鑑みれば、どう考えてもオーバーテクノロジーだし、ロンベリダム帝国がそれを実戦投入したあかつきには、多くの獣人族達が殺戮される事は想像に難くない。
それに、その『魔戦車』の一部には、僕も絡んでいる技術が使われているだけに、それが悪用される事、拡散される事は僕個人としても見過ごせなかったのであるーーー。
・・・
「・・・うん。完全にアウトだねぇ~。」
「・・・またとんでもないモンをロンベリダム帝国は造り出したモンやなぁ~。」
「そうだねぇ~。流石は魔法技術先進国、ってところかな?」
“大地の裂け目”の中心部にあるとされる『聖域』を目指していた僕らは、その道中に築いた簡易的な拠点にて、ロンベリダム帝国が開発した『魔戦車』なる物を眺めながら、そんな感想を言い合っていた。
何度となく言及しているが、“レベル500”かつ『限界突破』を果たしている僕は神性へと片足を突っ込んでおり、その恩恵(?)によって限定的ではあるが『世界の記憶』にアクセスする権限を有している。
これは、使い方次第では破格の性能を発揮する。
少なくとも、今現在のこの世界に生きる全ての人々の“情報”を知る事が可能である事から、情報分野に限定しても、とんでもない力であると言わざるを得ないだろう。
(正確には『世界の記憶』とは、アルメリア様曰く、知的生命体同士がそうとは知らずに共有している“普遍的無意識”の事を指す様だ。ある一定程度の知性を有していないと“普遍的無意識”を作り出すほどの複雑な精神構造を持たない様なので、ここでは“今現在この世界に生きる全ての人間種の記憶”、と限定しておく事とする。)
もっとも、これにも当然リスクが存在する。
今現在のこの世界に生きる全ての人々の情報となると、それこそ想像を絶する情報量となるので、それを一人の人間の脳で処理する事はとてもじゃないが不可能なのである。
実際、僕も興味本位で試した事があるが、数日間は酷い頭痛に悩まされたモノである。
もっとも、その程度で済んでいるのは、僕が無意識に『精神障壁』を張って防いだ為であり、本来は一発廃人確定コースらしい。
だが、発想を変えればそれを活用する事も可能なのである。
その情報の選別や取捨選択を、機械に代用して貰えば良いのである。
近い発想としては、所謂“インターネットの検索機能”などが当てはまるだろう。
流石に『世界の記憶』ほどではないにしても、“インターネット”に転がっている情報量は膨大である。
その膨大な量の情報の中から、自分が必要な情報だけをピックアップする方法が検索機能である。
こうすれば、全く関係のない人の秘密を覗き見る必要もなくなり、僕自身も頭が破裂する事を心配する必要もなくなる。
とは言え、所謂“コンピューター”、“演算装置”のない今現在のこの世界においては実現不可能な事、だった。
しかし、今の僕には、向こうの世界のスーパーコンピューターすら凌駕する“演算装置”が味方についているのである。
それが、アルメリア様より譲り受けた例の施設と、それを管理・統括する人工知能であった。
アルメリア様より譲り受けたので、仮称として『アルメリアの遺産』とするが、は、セージも語っていた通り情報収集・分析能力に優れている。
仮にも、今現在のこの世界の技術力では認識も出来ない『エストレヤの船』を正確にトレースし続けていた事からも、それは明らかであろう。
更には、そこに僕の持つ『世界の記憶』へのアクセス権限をプラスすれば、今見ている光景の出来上がりである。
セージが授けてくれた『端末』を介して、とある人々の記憶の映像化と再生、それを映像を介して仲間と情報共有する事が可能となったのであった。
これにより、今現在の僕の持つ情報収集能力は、まず間違いなくこの世界最強となった事は言うまでもないだろう。
まぁ、実際には神々などの例外的な存在も居るんだけどね・・・。
まぁ、それはともかく。
「フ、フンッ!アノ程度、私一人ノ力ニハ及ビマセンシ。ソレニ、私ノ情報処理能力モ、セージ・サンヨリ優レテイマスシ。」(不機嫌)
「急にどうしたん、エイル?いや、確かに古代魔道文明時代の技術の結晶たるお前の力は理解しているけど、方向性が全く違うだろうに・・・。それに、お前の持つ情報処理能力は自身の制御に特化したモノで、他者のサポートに特化したセージとは、これまた方向性が全く異なるし・・・。」
「嫌デスゥ~、私ガ一番ナンデスゥ~!」(駄々っ子)
ええっ・・・?
マジでどないしたん、エイルはん?
と、思わずヴィーシャさんの口調が移ってしまうほどの駄々っ子っぷりを発揮するエイル。
僕がそれに困惑していると、セージが訳知り顔でヒソヒソと助言をしてくる。
【マイマスター。おそらくエイル嬢は、同じ機械系の存在である我々に嫉妬心を抱いているのですよ。マイマスターが他の機械にうつつを抜かすのではないか、とね。(ヒソヒソ)】
「な、何じゃそりゃっ!?」
【まぁ、彼女はまだまだ幼いですからな。ほら、人間の子供も、他の子供が生まれると幼児退行を引き起こす事があるでしょう?アレと一緒ですよ。(ヒソヒソ)】
・・・いや、人工知能界隈の常識か何か知らんが、至極当然の様に申されましても・・・。( ̄▽ ̄;)
それに、こちとら、前世でも子供を持った事がない身だっちゅーねんっ!
【ともかく、ほどよく構ってあげて下さい。(ヒソヒソ)】
「・・・はぁ。」
何やら面倒くさい事になったが、一先ず彼女のご機嫌を取る事が、僕に課せられた仕事である様だ。
さて、どうしたモンかね・・・。
「ムフゥー。」(満足)
「「「ハハハッ・・・。」」」
「そ、それで、どないするんや、旦那はん?」
撫でたり誉めたりを繰り返して、ようやく機嫌の回復した様子のエイルを余所に、ヴィーシャさんは改めて話題を軌道修正する。
うん、マジで彼女の存在には助けられるわ。
ウチのメンバーは、他にはあまりツッコミ役がおらんからなぁ~。
「そ、そうですねぇ~・・・。当初は、ロンベリダム帝国側に直接関与するつもりはありませんでしたが、流石に『魔戦車』を放置する事は出来ませんね。アレには、リリさんと僕が共同開発した『農作業用大型重機』、正確には『魔素結界炉』の技術を流用している様ですから、間接的に僕は、殺戮兵器の生みの親にされかねないですからねぇ~。」
酷く個人的な理由ではあるが、これが今の僕の正直な意見であった。
もちろん、一度生み出してしまったテクノロジーが、他の技術に流用される事を止める事は出来ないのであるが(それに、テクノロジーの発展の為には、技術の模倣や改良なんかは当然起こり得る事だからね。)、とは言え、それが軍事利用される事を黙って見過ごすほど、僕は人でなしではないつもりである。
まぁ、じゃあ、最初からそんなモン造るんじゃねぇ~よと言われるかもしれないが、『魔素結界炉』の理論自体は、リリさんが古代魔道文明の研究から着想を得て出来上がっていたから、どちらにせよ『農作業用大型重機』が登場するのは、発想や人材次第ではあったが、時間の問題でもあったのである。
それが、軍事転用される可能性が高い事を見越して、また、当時のヒーバラエウス公国の食糧問題を解決する思惑もあって、あえて僕も関与する事にした、という背景がある。
先程も述べたが、一度生み出されてしまったテクノロジーが進化していくのは、これはもはや誰にも止められない訳だから、逆に積極的に関与する事によって、それをある程度コントロールしようとしたのである。
「ほな、ロンベリダム帝国に向かうんか?」
「うぅ~ん、そうですねぇ~・・・。」
実際には、先程も述べた懸念から、すでに『魔素結界炉』の術式の一部に細工を施しているので、『魔戦車』自体をどうこうする事は可能である。
故に、一々ロンベリダム帝国に向かう必要はないのだが、それも彼らの選択次第となるだろう。
「いえ、今のところはそのつもりはありません。それに、そちらはあくまでオーウェンさんの管轄になりますから、彼のお邪魔をする事もないでしょう。もちろん、その交渉の結果次第では、関与する可能性もあり得ますけどね。『世界の記憶』から引き出した情報によれば、ロンベリダム帝国の行動は目に余るモノがあります。故に、ある程度のペナルティは必要ではないかと、個人的には思っていますからね。」
「さ、さよか。」
「自分達で追放しておいた癖に、国民すら騙してそれを利用するなんて最低だよねぇ~。しかも、自分達の見下している種族に頭を下げたくない、欲しい土地を力付くで奪いたい、っていう身勝手な理由でさぁ~。ああいうところが、私達の先祖が人間族を見限った理由だよねぇ~。」
「まったくですっ!人間族のあの他者を騙そうとする性質には困ったモノですよっ!!・・・あ、いえ、もちろん主様は別ですけどね?」
「まぁ、人間族って、他種族に比べたら身体能力には一歩劣っているからねぇ~。そんな身で他種族に対抗する為には、どうしても頭を使わざるを得なかったんだよ。」
「リサさんの言う通りですね。もちろん、僕も人間族を擁護するつもりはありませんが、それが人間族の生きる術だった事は否定しません。もっとも、それが行き過ぎた結果、全てを騙し合いで解決しようとする癖が身に付いてしまった事も、また事実でしょうね。今回のケースも、争いを回避する選択肢はいくらでもあったにも関わらず、一部の者達の都合によって、それらを全て歪めてしまった。まぁ、それに巻き込まれてしまった人々には不運な面もありますが、これも広義の意味では同罪でもあります。本来、自身の仲間の暴走は、仲間内で処理すべき事ですからね。それをしないのは、ハッキリと言って怠慢です。まぁ、一般の人々にそれを求めるのは、些か酷ではありますがね。」
「旦那はんは厳しいなぁ~。普通の人らにとったら、自分らの生活にいっぱいいっぱいで、そんなん気にしてる余裕ないやろ。」
「もちろん、それも分かっていますが、ね。」
先程も述べた通り、『世界の記憶』から情報を引き出しているお陰で、僕らはロンベリダム帝国が仕出かした事を、おおよそ理解していた。
まぁ、その背景となったロンベリダム帝国側と“大地の裂け目”勢力の不仲は致し方ない部分も存在するだろうが、それもお互いに話し合って解決する道筋もあった筈である。
にも関わらず、自身の利益の為だけに自国民すら騙し、戦争へと導いたロンベリダム帝国上層部の行いはとても擁護出来るモノではないだろう。
もっとも、いくら目に余るからといって、じゃあ僕らでロンベリダム帝国を潰そう、って事にはならない。
もちろん、ぶっちゃけて言うと今現在の僕らの力ならば、それもやってやれない事はないのだろうが、それではあまり意味がないのである。
個人的な見解ではあるが、暴走した政権を打ち倒すのは、これは国民が担うべき役割であると考えている。
身内の不始末は、身内がつけるべきだ。
もちろん、それが難しい事も分かっているのだが、仮に僕にロンベリダム帝国を乗っ取る思惑があったのならば、それも悪い選択肢ではないのだろうが、当然そんな面倒な事をするつもりは僕にはない。
故に、出来る事ならば自分達の手で解決して欲しい、ってのが僕の本音なのである。
それに、自分達で勝ち得たモノでないと、ありがたみを感じないのが人間だからねぇ~。
「まぁ、セージの力を借りれば、ここからでもロンベリダム帝国に対する“おしおき”は可能ですし、国民の皆さんを煽る事も出来るでしょう。それに、ロンベリダム帝国はハイドラス派への最大の出資者でもありますから、奴らにダメージを与える上でも、これも悪くはない選択肢ですよねぇ~?」
「・・・何をしようとしてはるのん?」
「それは、まぁ、今はナイショということで・・・。」
「オオッ!オ父様ガ悪イ顔ヲシテラッシャルッ!!」(歓喜)
【ふむ・・・。マイマスターの手腕、いかなるモノか見せて頂きましょう。】
「「「「ハハハッ・・・。」」」」
・・・うん、何でエイルがはしゃいでいるのかは良く分からんが、“僕流の戦い方”ってのをご覧頂こうーーー。
「っつーか、『聖域』の方はいいのん?」
「そっちもセージに監視して貰ってますよ。どうやら、今しばらく発掘には時間が掛かりそうですし、現実問題として、ハイドラス派を全て叩き潰すよりも、何かしらの物が手に入った時点で横からかっさらっていった方が、妨害としては効果的だと思います。」
「さ、さよか・・・。」
正直メッチャ嫌なヤツだろうが、こっちは手数が多くないからね。
故に、もっとも効率的な打撃を与えるには、嫌がらせの様な手段になるのであるが、流石にその発言にはヴィーシャさんも軽く引いていた。
ま、まぁ、気を取り直して、オーウェンさんの様子を見てみよっかなぁ~?
◇◆◇
「陛下。その、大変申し上げにくいのですが、やはり例の兵器をそれなりの数製造する為には、新たなる財源が必要、との事です。」
「・・・何故だ?ロンベリダム帝国の国庫は、それなりに潤沢だったと記憶しているが?」
『魔戦車』御披露目から一週間ほど過ぎたある日、ルキウスはルドルフからそんな報告を受けていた。
国庫というのは、ここではロンベリダム帝国が持つ貯金の総称であると捉えておいてまず間違いない。
そして、もちろんロンベリダム帝国はハレシオン大陸一の大国・強国であるから、当然他の国に比べて国として扱える資金は豊富に存在する、筈なのである。
それ故に、いくら超高額とは言え、流石に千とか万ならばともかく、『魔戦車』を数十造り出したからと言って、国庫が空になる訳がないのである。
「もちろんその通りで御座いますが・・・、今は戦時で御座いましょう?すでに、軍に対してかなりの軍備費が投入されておりますし、『魔戦車』ほどではないにしても、“魔法銃”の大量生産、それを専門に扱う銃士隊を新たに雇用、教育する上でも、かなりの額が使われております。それとは別に、『宥和政策』の一環としまして、周辺国家群に対する多額の借款も御座いますし、出来なくはないのですが、新たに『魔戦車』をそれなりに造り出すとなると、国庫を磨り減らす事となります。国庫は、言わば有事の際の切り札でありますから、どうも財務担当の者達が難色を示しましてな・・・。」
「ああ、なるほどな・・・。」
まぁ、分からんではない、とルキウスも理解を示した。
いくら潤沢な資金があるとは言え、そこに手を出すのは国力の低下を招きかねないからである。
そもそもの話として、この世界における軍備費・防衛費は、平時であったとしても、向こうの世界のそうした費用に重点をおいている国家より、率としては遥かに上回っているのである。
これが何故かと言うと、もちろん、他国に対する対策もあるのだが、この世界の特殊な事情として、魔獣やモンスターに対抗する為でもあった。
もちろん、この世界には“冒険者ギルド”・“冒険者”という、そうした脅威に対抗する為の組織、職種が存在する訳だが、当然、彼らだけで対処出来ない事態も往々にしてある。
その代表的な例が、所謂『パンデミック』である。
と、この様に、平時においても、常に有事を想定しておかなければならない訳で、当然ながら、その為には軍備費や防衛費がかさむ訳なのである。
しかも、先程の話とも重複する部分もあるが、こうした有事の事態に対応する上でも、国の貯金、国庫は常に一定程度確保しておく必要がある。
そうでなければ、仮に悪い考えを持つ者がいたとしたならば、『パンデミック』によって疲弊しているところに、追い討ちを掛ける様に侵攻し、結果として国を滅ぼされかねないからである。
故に、財務を司る者達からしたら、もちろん、今は戦時であるから、所謂“有事の際”には当てはまる状況ではあるが、しかし、すでにその為の追加費用として、“大地の裂け目”攻略に際する諸々の費用、“魔法銃”を大量生産する為に発生した費用、それを専門に扱う銃士隊を新たに雇用、教育する費用を捻出している状況であるから、
“すまん、金が足りなくなった。もう少しちょうだい?”
“・・・ふざけんなっ!!!”
って感じなのである。
せっかく苦労してルキウスらのわがままにどうにか対応したと言うのにそれでは、“また始まったよ。”って感じに、財務担当の者達がさじを投げてしまったとしてもおかしな話ではないのである。
ここら辺は、各家庭、あるいは企業などでもよく見受けられる現象であろう。
もちろんこれは、ルキウスの号令一つで解決する事でもあるのだが、特に財務を担っている(握っている)者達の、その遠回しな抗議、忠告はルキウスとて無視は出来ない。
強引な手段に打って出た結果、彼らにストライキでも起こされようモノなら、ロンベリダム帝国の内政に深刻なダメージを与えかねない。
故に、ルドルフの報告を受けて、ルキウスはどうするべきかを素早く思考した。
当然、ルキウスとしては『魔戦車』量産を諦めた訳ではないが、それには新たに財源が必要(自分達でその費用を捻出しろ)、と言われてしまえば、そうするしかないからである。
まぁ、ぶっちゃけると、彼の個人資産によって賄う事も可能なのであるが、当然そんな事をする訳もない。
「ふむ、いや、しかし・・・。いや、それしかない、か・・・?」
「それで、どうされるので?」
「ふむ・・・。あまり使いたい手ではないが、税を少し引き上げるしかないな。」
「それは・・・、危険では?」
「いや、もちろん、お主の言わんとする事も分かる。帝国民の生活を圧迫する事は、彼らに不満を抱かせる事になるからな。しかし、幸い今現在の帝国民は、『拉致被害者救出』の御題目があるので比較的協力的だ。故に、多少の増税には目を瞑ってくれるだろう。それに、“大地の裂け目”を手に入れば、彼らの生活は更に豊かになる訳だから、言わば時限的な増税に過ぎない。」
「・・・と、その様に納得させるのですな?」
「うむ。」
以前にも言及したが、ルキウスは独裁者でありながら、その実、かなり帝国民には気を使っていた。
これは、むしろ為政者として見た場合は当たり前の話であり、国民の反乱は為政者がもっとも恐れるモノだからである。
(実際、向こうの世界の歴史においても、国民が蜂起した事によって国家に多大なダメージを与えた例もあるし、革命という形で国家が倒された例もある。
故に、有能な為政者ほど、そうした事態を引き起こさせない為にも、ある程度国民に対して気を使っているのである。)
しかし、先程述べた通り、財務担当の者達が難色を示している以上、強引に国庫から捻出するのも悪手である訳だ。
ならば、様々な事を天秤にかけた結果、結局帝国民にツケを払って貰う事にした様である。
もちろん、これも、勝算あっての事である。
戦争においては、所謂“特需”が発生する事も珍しくないのである。
主な要因が、
1、戦争に関係する物資の需要の高まり(戦争特需)によってもたらされる直接的なもの。
2、戦争に関わる物資を生産する上で必要とする原材料の需要の高騰でもたらされる間接的なもの。
3、勝戦国が敗戦国から獲得した戦時賠償による消費の拡大。
などであり、実際、『ロフォ戦争』勃発に伴って、様々な分野で需要が高まった事により、ロンベリダム帝国内、また、実質的な属国となっている周辺国家群も好景気となっている。
故に、帝国民や周辺国家群の国民の懐が潤っている状況であるから、多少の増税は大きなダメージにならないだろうし、ルキウスの頭の中では、『魔戦車』量産のあかつきには、『ロフォ戦争』終結(もちろん、ロンベリダム帝国側の勝利という形で)も現実味帯びた話となるから、その後の消費の拡大も期待が持てる訳だ。
まぁ、多少見積りが甘いところがあるが、しかし、何者かが介入しない限り、このルキウスの思惑は上手く行った、かもしれない。
「・・・分かりました。その様に取り計らいましょう。」
「うむ、頼む。」
ルドルフも、素早く計算し、ルキウスと同じ結論に至った様だ。
ルドルフも反対しなかった事で、ルキウスは内心ホッとしていたが、もちろんその事は表情には出さなかった。
「ところで陛下。話は変わりますが、例の『ブルーム同盟』なる組織の使者との謁見が本日ではありませんでしたかな?」
「・・・む?そうであったか?・・・いかんな。最近忙しくて、ろくに予定も覚えておらんかったわ。」
「ハハハッ、まぁ、それも致し方ありますまい。正直、最近は色々ありましたからな。それに、以前ならば彼の組織も、彼の英雄の事もあって警戒すべき相手でしたが、それも今となっては昔の話です。」
「うむ、そうだな。彼の女指導者にすら対抗出来る可能性の高い『魔戦車』を持つ今の我らならば、『ロマリアの英雄』なる者とて相手ではないだろう。まぁ、軽くあしらっておこう。・・・いや、いっそ彼の組織を介して、ハレシオン大陸南側を間接的に牛耳るのも一つの手か?・・・まぁ、いずれにせよ、向こうの出方次第だがな。」
「そこら辺は、陛下の手腕にお任せしますよ。それと、その謁見が終わりましたら、話も一段落ですので、少しばかり休暇を挟んではいかがですかな?」
「・・・いや、しかし、今は戦時であるぞ?」
「いえいえ陛下。だからこそですよ。陛下に倒れられるのが一番問題ですぞ?今は戦況も大きく動かないでしょうし、資金についても、すぐには集まりません。資金がなければ『魔戦車』量産にも着手出来ませんし、いずれにせよ、少しの空白期間が存在するでしょう。もちろん、何かあればお知らせするでしょうが、やはり休息も必要ですからな。」
「ふむ・・・。考えておこう。」
「そうして下さい。では・・・。」
この時のルキウスは、チート染みた『魔戦車』を手に入れて、完全に浮かれていたのである。
それが、アキト、あるいは『ブルーム同盟』を軽んじる様になっていた大きな要因となっていたが・・・。
一通りの相談事が済むと、ルドルフはその場を辞していった。
おそらく、増税に関する事を詰めに行ったのであろう。
それを見送ったルキウスも、『ブルーム同盟』のオーウェンとの謁見が待っていた。
「さて、余も行くか。」
そう軽い調子で腰を上げたルキウスであったが、慎重かつ狡猾なルキウスとしては珍しく、彼は初歩的な判断ミスを犯していた。
『ブルーム同盟』、いや、アキトを甘く見るととんでもない目に遭う、という事に。
いや、このルキウスの普段は見れない油断も、もしかしたらアキトの持つ『事象起点』による影響かもしれないーーー。
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