反転攻勢
続きです。
連日連夜、異常な猛暑が続いていますね。
皆さんも、熱中症には十分気を付けて下さい。
◇◆◇
以前にも言及したかもしれないが、ロンベリダム帝国はハレシオン大陸(向こうの世界で言うところの、ユーラシア大陸に該当する世界最大の大陸)の北側に広大な国土を持っている。
具体的には、向こうの世界で言えば、オーストラリア大陸よりやや小さい程度の面積が、ロンベリダム帝国の国土なのである。
(余談だが、ロンベリダム帝国は大陸北側という事で、それなりに寒冷地ではあるものの、アクエラは全体的に温暖な惑星であるから、向こうの世界ほど生命にとって厳しい環境ではなかったりする。
まぁ、その分、アクエラには魔獣やモンスターといった脅威が存在するので、向こうの世界に比べて住みやすいかどうかはまた話が別なのであるが。)
もっとも、これは向こうの世界でも同様ではあるのだが、その国土にびっしりと人口が分布している訳ではなく、人が集まる土地、物が集まる土地に人口は集中する傾向にあり、人が全く寄り付かない土地、開拓が全く進んでいない手付かずの自然も、国土の中のそれなりの面積を占めていたりするのである。
まぁ、それでも、魔法技術先進国であるロンベリダム帝国は、他の国に比べれば、国土の開拓、地下資源などの発掘などはかなり進んではいるのだが。
一方の西側の周辺国家群は、多数の小国が集まった地域であり(もっとも、小国とは言っても、それはロンベリダム帝国から見た基準であり、流石にロマリア王国、ヒーバラエウス公国、トロニア共和国ほどの国土は有していないものの、それなりの広さの国土を個々に持っていたりする。)、向こうの世界で言うとところのヨーロッパ地域の様な感じをイメージすると分かりやすいかもしれない。
そして最後に、ロンベリダム帝国の東側に広がる“大地の裂け目”と呼ばれる土地は、実はロンベリダム帝国の国土よりも更に大きかったりするのである。
具体的には、向こうの世界で言うところの、アメリカ合衆国ほどの面積が“大地の裂け目”と呼ばれる土地の広さであり(もちろん、明確な線引きはかなり曖昧ではあるものの)、その中に、獣人族が種族や部族、氏族ごとに分かれて各地に点在しているのであった。
そして、ロンベリダム帝国ほどの魔法技術を持たない獣人族達であるから、そのほぼ全ての土地が、手付かずのままの自然を残しているのである。
見る人から見れば、なるほど、“大地の裂け目”は“地下資源の宝庫”と言えるだろう。
そして、それ以上に、これは調査が進んでいなかった為に殆ど知られてはいない事なのだが、古代魔道文明時代の遺跡などが、それこそ無数に残されている土地でもあったのであるーーー。
・・・
「『聖域』、ですか・・・。それは、具体的にはどの辺に存在するのでしょうか?」
「いえ、実際には我々も具体的な場所までは知らないのですが・・・、この“大地の裂け目”中心部に存在する、と言われております。昔からの言い伝えによりますと、その場所には無数の遺跡が存在しており、それと同時に、不用意に近寄れば災いが起こると言われております・・・。儂らも行った事はありませんので、本当のところは分かりかねるのですが、しかし、確かに中心部に向かえば向かうほど、強力な魔獣やモンスターが生息している様ですから、あながち迷信という事もありますまい。」
「ふぅ~む・・・。」
ロンベリダム帝国の部隊が占領していた『猫人族』の集落を解放した僕らは、長老であるウーラさんからそんな情報を得ていた。
これは、かなり有益な情報であった。
と、言うのも、“大地の裂け目”自体の広さは広大であり、また、その内部の情報は、あまり他には知られていなかったからである。
故に、何のアテもなく遺跡群の調査を進めようとすると、それこそ膨大な時間が掛かってしまう事だろう。
逆に、ある程度“当たり”をつける事が出来れば、その分、かなりの時間は省略する事が出来るのである。
ハイドラス派も狙っているであろうその遺跡群であるが、この情報が彼らの手にもあるかどうかは定かではないが、仮に情報を持っていると仮定したとしても、それらしき遺跡をすでに発見していたとしても、今度はその遺跡の詳しい調査、解析にもかなりの時間を要する事だろう。
その事から考えると、現状では彼らに大きく水をあけられている状況とは言え、追い付く事はまだまだ十分に可能だと思われる。
「なるほど、分かりました。情報提供に感謝します。」
「い、いえ、助けて頂いたのは我々の方ですからな。この程度の情報では釣り合いが取れないと思われますが・・・。」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。何に価値があるのかは、その人によってマチマチですからね。僕にとっては、その情報は、十分な見返りとなりますよ。」
「そ、そうですか・・・?」
ウーラさんは、多少困惑した様に頷いた。
まぁ、彼らを助けたのはほぼ偶然みたいなモノだし、そんな彼らが僕らの求める情報を持っていたのも偶然の様なモノである。
しかし、僕の持つ『事象起点』の力を鑑みれば、これはある種の必然であったのかもしれないが。
「さて、そうと分かればのんびりとはしていられないな。皆、早速中心部に向かおう。」
「はぁ~い。」
「主様の御心のままに。」
「りょうか~い。」
「了解デス。」
「了解や。」
「も、もう行かれるのですか?“連合軍”と距離を置いている我らが言うのは何ですが、彼らが到着するのを待ってからでも遅くはないのでは?それに、もう日暮れも近い事ですし・・・。」
僕らがそんな会話を交わしていると、ウーラさんが待ったをかける。
確かに、ロンベリダム帝国の部隊に占領されていたこの地が解放されたと分かれば、“大地の裂け目連合軍”がその確認をする為にもこの地を訪れる事は想像に難くない。
それに、広大なエリア、かつ危険度の高いエリアである“大地の裂け目”を、陽の沈んだ時間帯に活動する事は、本来は自殺行為である。
故に、ウーラさんの発言も分からんではないのだが・・・。
しかし、僕らとしては、なるべくなら“大地の裂け目”勢力とは距離を置いておきたい事情も存在する。
僕らの最優先目標は、古代魔道文明時代の遺跡や『失われし神器』などの強力な力が(『エストレヤの船』も含めて)、ハイドラス派の手に落ちるのを防ぐ事にある。
もちろん、その為には『ロフォ戦争』を早期に終結させる事も視野に入ってくるが、現時点では僕らとしてはそちらに割ける余力はないし(一応布石は打っているが)、一方の“大地の裂け目”勢力にとってはそちらの方が優先度が高い訳であるから、仮に僕らと接触した場合、彼らは僕らの力を取り込もうとする可能性が極めて高いのである。
協力関係を築く事自体は吝かではないのだが、目的が極めて近いとは言え、最終的な目的の違いから、後に揉め事になっても面倒なだけである。
ならば、最初から距離を置いておいた方が無難だと僕は考えているのである。
とは言え、“大地の裂け目”勢力に僕ら第三勢力が介入している事実は、この先の布石とする上でも伝えておいても良いとは思う。
故に、ウーラさんを介して、僕らの存在を“大地の裂け目”勢力に伝える事は問題ないが、先の懸念もある為に、彼らと直接接触する事は現時点では避けるべきと判断していたのである。
「いえ、御心配なさらずに。己の力を過信している訳ではありませんが、僕らにとってはこのエリアはさほど危険度は高くありませんからね。それに、少々急ぎの用もありますので、のんびりしている時間はあまりないのですよ。故に、“大地の裂け目連合軍”の到着を待っている時間もありません。ですが・・・、そうですね。彼らにとっては、正体不明の一団が介入している事は不安要素となるでしょうから、ある程度、情報を開示しておいても良いとは思います。」
「は、はぁ・・・?」
故に、困惑するウーラさんには悪いのだが、彼を一種のメッセンジャー役にしておこうと僕は考えていたのであったーーー。
◇◆◇
一方、最近膠着状態の続いていた“大地の裂け目連合軍”は不可思議な情報を得ていた。
各地を監視していた諜報部隊からの情報により、ロンベリダム帝国側に占拠されていた筈の『猫人族』の集落が、どうやら解放された様だとの情報が上がってきたのである。
ウーラも言及していた通り、『猫人族』は“大地の裂け目連合軍”とは距離を置いていたものの、それでも“大地の裂け目”勢力の一員である事に変わりがなく、連合軍からしたら、自分達の領土の一部、仲間をロンベリダム帝国側に盗られた形であった。
それが、突然解放されたとなれば、連合軍からしたら摩訶不思議な話なのである。
まさか、ロンベリダム帝国側の罠かとも疑っていた訳であるが、どちらにせよその詳細を確認すべく、連合軍から『猫人族』の集落へと部隊が派遣される事と相成った訳である。
「・・・な、なんだこりゃ・・・?」
しかし、現場を目撃した連合軍の隊長は、更に困惑する事となる。
それはそうだろう。
解放されたと聞いていた彼からしたら、ロンベリダム帝国側は既に『猫人族』の集落から撤退した後であろうと判断するのは至極当然の流れなのだが、実際には彼らは撤退しておらず、しかも、敵対どころか、『猫人族』の集落の復興の為に尽力しており、連合軍に対しても敵意を示さなかったのだから。
いや、端から見ればその力関係は逆転している様に見えた。
その、ロンベリダム帝国側の元・占領部隊の者達は、『猫人族』達の指示に素直に従っており、武器を農作業用具や建築用具に持ち替えて、ひたすら労働に勤しんでいたのだから。
先の隊長の男の困惑のセリフも、致し方ない事であろう。
「ようこそ御越し下さいました。“大地の裂け目連合軍”の方ですな?儂は、『猫人族』の長を務めております、ウーラと申す者です。」
「え、あ、あぁ、これは御丁寧に。私は、この部隊の隊長を務めております、ダンテと申します。・・・で、早速ですが一体何がこの地で起きたのですか・・・?」
困惑するダンテのもとにウーラが現れてそう切り出した。
『猫人族』は排他的な種族であると聞いていたダンテからしたら、妙にフレンドリーなウーラに違和感を覚えつつも、それでもしっかりと情報の確認をしようとする点は、部隊の隊長としては及第点であろう。
「実は・・・。」
・・・
「・・・で、その『猫人族』の集落を解放した一団は、自分達を“ただの冒険者パーティー”と名乗っていた、と言うのか?」
「はい、自分はそう聞いております。」
「ふぅ~む・・・。皆の者、今の話、どう思われる?」
ところ変わって、ここは“大地の裂け目連合軍”の中央司令部となる場所。
『猫人族』と接触し、情報を持ち帰ったダンテの報告を、アスタルテと各部族の代表者達は受けていた。
「まず、前提条件としては、これが平時であった場合は、“ただの冒険者パーティー”がこの地に居たとしても何ら不自然な事ではない。冒険者は報酬と引き換えに、普通の者達では到底立ち入らない様な危険な場所にも入って来る者達であるし、この地は冒険者にとっては、貴重な薬草やら鉱物、魔獣やモンスターも多数存在している、ある種の“仕事場”だからな。私の部族も、冒険者とは何度か取引をした事があるが・・・、しかし今は戦時だ。冒険者は基本的に国とは距離を置いている様だし、これは付き合いのあった冒険者に限った話かもしれないが、面倒事は避ける傾向にあった。故に、その者達が、“ただの冒険者パーティー”であろう筈がない、というのが私の見解だ。」
「まぁ、難しいこたぁ俺には分からねぇ~けど、俺らでさえ手を焼いた、一部隊とは言え、ロンベリダム帝国軍を相手取って『猫人族』の集落を無傷で奪還した連中が、“ただの冒険者パーティー”な筈はねぇ~よなぁ?」
「・・・それに、『猫人族』の者からの証言と、ダンテ殿の報告にもあった、その地を占領していたロンベリダム帝国軍が、何故か『猫人族』の指揮下に入っている事も不可解な点だな。これが、ロンベリダム帝国側の罠、という線は考えられんか?」
「その点につきましては、もちろん、絶対の保証は出来ませんが、おそらくその線は薄いかと思われます。と、言うのも、元・占領部隊は、我々に対して敵意を一切見せませんでした。我々は鼻が効きますので、特に人間の悪感情には敏感なのですが、その我々に一切気取られる事なく悪意を潜めていたとは考えられません。もしそうであるならば、よほどの演技力を部隊全体が持っている事になりますからな。」
「ふむ・・・、人狼の感知力か。確かに、だからこそあなた方に諜報や斥候をお任せしている訳だからな・・・。」
「・・・と、なると、ますます分かりませんな。その者達が何者で、何を目的にこの地を訪れたのか・・・。更には、ロンベリダム帝国軍の部隊を、どの様な手段で懐柔したのか・・・。」
「「「ふぅ~む・・・。」」」
話題は、当然アキト達の事である。
膠着した局面で突如として現れて、一部とは言え、占領されていた獣人族を解放。
と、ここまでなら良いのだが、謎の力によって、占領部隊を退けたのでも、殲滅した訳でもなく、彼らを丸々改心させて、『猫人族』の指揮下に入ったと言われれば、彼らが混乱するのも無理からぬ話であろう。
故に、罠を疑うのがむしろ当然の意見なのだが、それすらも否定されてはもはや訳が分からない。
しかも、それを成した者達は、さっさと姿を消したと言うのだから、彼らにとっては敵か味方かも分からない一団が“大地の裂け目”内部に入り込んでいる訳で、非常に不気味な話なのである。
「・・・他には、何か情報はないのかしら?」
と、ここで、今までムッツリと黙り込んでいたアスタルテが口を開いた。
「は、ハッ!え、えぇ~と、『猫人族』の長老の発言から、当該のパーティーのリーダーと思わしき青年の名と、『聖域』の場所を聞いてきたとの証言が得られております。」
「ふむ。で、名を何と?」
「た、確か、アキト・・・、アキト・ストレリチア、だったかと・・・。」
「アキト・・・?・・・ああっ、あの子ねっ!まあまあ、と、言う事は、あの御方も御一緒という事ねっ!!!」
「「「「・・・・・・・・・へっ???」」」
ここ最近では、可愛い我が子らの要望を受けて、仕方なしに置物同然で大人しくしていたアスタルテであったが、アキトの名を聞き、そしてそこからセレウスの事を連想し、急にテンションがぶち上がっていた。
「あ、アスタルテ様。差し出がましい様ですが、何かお心当たりがおありなのでしょうか?」
「ええ、ええ、よぉ~く知っておりますわよっ!彼は、『ルダ村の英雄』、いえ、今現在では『ロマリアの英雄』とさえ呼ばれる人物であり、ロンベリダム帝国、正確にはその背後にいるライアド教とは敵対関係にありますわ。故に、少なくとも私達の敵ではないでしょう。」
「おお、それほどの人物がっ・・・!」
「・・・では、何故その様な人物が、我々に合流して下さらないのでしょうか?ロンベリダム帝国は、共通の敵では御座いませんか?」
「それは、私にも分かりかねますが、おそらく先程の『聖域』が一つのキーワードとなるでしょう。確かに考えてみれば、この地には無数に古代魔道文明時代の遺跡群が眠っている様ですわね。ロンベリダム帝国と私達が争っている隙に、ライアド教がそれを狙ったとしても不思議な話ではない。彼はそちらの阻止に動いているとしたら、私達との合流を嫌った意味も分かってきますわね。」
「な、何故でしょうか?仲間は多ければ多いほど良いと思われますが・・・。」
「では聞きますが、仮に彼と手を組んだとして、お前達は彼が独自にライアド教を追うのを全面的に認められますか?」
「・・・そ、それはっ・・・!」
「無理、でしょうな・・・。」
「だな。少なくとも、アスタルテ様がお認めになるほどの力をその人物が持っているのならば、どうしても戦力として期待しちまいますからね。」
「そうであろう?」
これは致し方ない事であろう。
アキトも懸念していたが、『ロフォ戦争』序盤であったなら、アスタルテやアラニグラの存在によって、“大地の裂け目”勢力にもまだ余裕もあったのだが、逆に今現在は、ルキウスの策略によって、連合軍は劣勢に立たされている。
そんな折に、現状を打開する術を持った存在が現れたとしたら、当然連合軍側としては、是非とも仲間に引き入れたいと思うのが自然の流れであろう。
しかし、アキトらの最優先事項は、ハイドラス派に『失われし神器』や『エストレヤの船』が渡らない様にする事であり、身も蓋もない事を言ってしまえば、『ロフォ戦争』を終結させる事は二の次なのである。
そこに、両者には意見の隔たりがある訳であり、要らぬトラブルを避けるべく、連合軍との直接的な接触を避けた、というのがアキト側の事情なのである。
もっとも、アキトも言及していたが、自分達が敵対勢力でない事を連合軍側に伝える為に、ウーラを介してある程度情報を開示した訳である。
それを、アスタルテは正しく理解していた。
「しかし、そうなると、結局は元の木阿弥ですな。そのアキトなる人物の助力を得られないのであれば、現状を打開する術がなくなってしまいます。」
「いえ、そんな事はありませんわよ?」
「「「「・・・えっ???」」」」
アスタルテの発言に納得した幹部の一人がそう呟くと、アスタルテはそれを否定した。
「確かに、あの子の助力を得られないのは残念な事ですが、元々今回の件はあの子とは関わりのない事。それ故、本来は戦力を期待する事自体おこがましい事なのですが、しかしあの子は、あえて私達に贈り物を与えてくれましたわ。」
「と、申しますと?」
「これは想像でしかありませんし、私は『精神干渉系魔法』、いえ、『情報改変系魔法』は専門分野ではないので再現は出来ませんけれど(・・・そう言えば、あの娘がそちらの専門でしたわね・・・。あの娘はあの子の内に宿っている様ですから、何らかの方法により、その技術やスキルがあの子に受け継がれている可能性がありますわね・・・。なるほど、辻褄が合いますわ。)、メカニズムは理解出来ます。あの子がロンベリダム帝国の占領部隊を改心させた方法は、おそらく人格そのものを書き換えたのでしょう。」
「そ、そんな事が出来るのですかっ!?」
「まぁ、先程も申し上げましたけれど、私には出来ませんが、そうした事を得意としていた者に心当たりはあります。そして、その者とあの子に接点がある事も分かっていますから、おそらくその者からそうした技術やスキルを受け継いだのだと思われます。」
「・・・しかし、アスタルテ様にも無理となると、あまり意味がない様に思われますが・・・。まぁ、その人格を書き換えた?、者達からの助力を得られる事には、ある程度意味がありそうですが・・・。」
「あら、中々いい線行ってますわね。でも、まだまだですわ。そもそも改心させたロンベリダム側の占領部隊の人数など、たかが知れているでしょう。故に、戦力としては見た場合は微々たるモノと言わざるを得ません。しかし、彼らが持っていた装備類はどうでしょう?」
「「「「・・・あっ!!!!」」」」
「敵の中に味方を紛れ込ませるのはよくある戦略の一つですわよね?幸い、獣人族は、身体の一部を除いて人間族とほとんど見分けがつかない容姿をしておりますし、そこに更にそれを覆い隠す様な装備類を身に付けていれば、よほどの事がない限りは相手に看破される恐れもありません。ロンベリダム帝国側は大きな組織ですから、よほど親しい相手でなければ、兵士同士がお互いの顔と名前を全て覚えているとは考えづらい。」
「・・・つまり、その装備類を身に付けて近付けば、容易に相手の懐に潜り込む事が可能、という訳ですか?」
「そうです。しかも、お前達の身体能力は人間族に比べて優れております。故に、仮に他の場所の占領部隊も、今回改心した者達と同じくらいの頭数であった場合は、マトモにやり合えば容易に殲滅する事すら可能でしょう。」
「更には、ロンベリダム帝国側の占領部隊を殲滅すればするほど、そうした装備類を更に鹵獲出来る、という訳ですか・・・。」
「それだけじゃねぇ~ぜ?さっきの話から考えると、あの未知の武器すらその部隊が持っている可能性もある。しかも、人格を書き換えたって話だから、その扱い方をそいつらから容易に聞き出す事すら可能かもしれないんだぜ?」
「確かにっ!・・・なるほど、アスタルテ様が贈り物とおっしゃった意味がようやく分かりました。アキトなる人物は、そこまで考えて、わざわざ面倒な手続きを踏んでいた可能性がありますね。おそらく、我らに対して、直接的に手を組むは難しいが、少なくとも敵対する意思はない。その証明として、情報と贈り物を残しておいた、という風にも捉える事が可能な訳ですね?」
「おそらく、そんな様なところでしょう。」
「「「「ほぉ~・・・!!!」」」」
アキトの残したメッセージは、正しくアスタルテや連合軍の者達に伝わった様である。
そして、それは、膠着状態の続いていた連合軍側からしたら、まさしく朗報であった。
もちろん、一気に形勢逆転とまでは行かないまでも、アキトらの介入を切っ掛けとして、連合軍の反転攻勢が現実味を帯びた話となったからである。
更には、上手くロンベリダム帝国側の占領部隊を駆逐する事が出来れば、装備類、そして“魔法銃”の鹵獲も倍々で増えていく事となる。
以前にも言及した通り、“魔法銃”の利点はその扱いやすさにある。
逆を返すと、扱い方さえ分かってしまえば、獣人族達にも容易に扱う事が可能という事でもある。
その為の(まぁ、ウーラに話した事情もあったのだが)、人格改変なのである。
まぁ、ロンベリダム帝国側、ルキウス側としては、まさしく悪夢の様な出来事ではあったが、しかし逆に、この事によって、アスタルテが癇癪を引き起こす可能性も低くなったので、見方によっては幸運でもあったのだが。
まぁ、それはともかく。
「では早速ですが、反撃を開始致しましょう。まずは、ロンベリダム帝国側をこの地から追い出すのです!」
「「「「ハッ!!!」」」」
かくして、ロンベリダム帝国側に各地を実効支配されつつあった“大地の裂け目”勢力は、その勢いを取り戻す事となったのであるーーー。
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いつも御一読頂いてありがとうございます。
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