帝都・ツィオーネへ
続きです。
祝30万PV!
これもひとえに、皆さんのおかげでございます。
今後もゆる~く続けて参りますので、引き続きゆる~くお付き合い頂ければ幸いです。
◇◆◇
アラニグラとエイボンの関係がひそかに変化していた頃、オーウェン率いる『ブルーム同盟』の使節団と、ティアら『異世界人』達は順調にロンベリダム帝国近辺に到着していた。
これは、アキトらが離脱した後のアーロスが何故か急に大人しくなったからなのだが、その事に関してオーウェンとティアも多少なりとも不思議に思いながらも、旅がスムーズに運ぶ事は歓迎すべき事態であったので、その件については深く追及しなかった。
いや、正直それどころではない事情も存在していたのであったが。
まず、前提条件として、この世界の国境は非常に曖昧なモノである。
少なくとも、国境を完全に何らかの施設によって区別している訳ではなく(例えば、国境線に沿って壁やらフェンスで完全に区切られている訳ではないのである。)、もちろん、所謂『関所』みたいな施設は存在するのだが、それ以外は天然の構造物を利用している程度であり、その気になれば不法入国する事自体は不可能ではない造りになっていたのである。
もちろん、これは非常にリスクが高い事でもある。
単純に、この世界は、一歩正規ルートから外れた場合は、盗賊団や魔獣やモンスターの跳梁跋扈する世界であるから、よっぽど腕っぷしに自信がない限りは生き残るのは非常に困難であり、それに加えて、意外にも身分証が普及している世界でもあるからである。
(例えば、“冒険者カード”や、商人の“通行許可証”などがそれに当たる。一般市民が旅をする事は滅多にないが、そんな彼らも、“市民証”を持っているのが普通であるし、そこに記載されている『ステイタス』は、ある種の履歴書代わりとなるので、管理する側としても効率が良かった事もあってか、普及率は極めて高かったのである。)
故に、不法入国をするという事は、身分証を必要とする各種行政機関でのサービスを受ける事が出来ない訳だから(もっとも、所謂“偽造”という抜け道を存在する為に、それも絶対ではないのだが)、よほどの事情がない限りは一般的にはデメリットの方が圧倒的に多い。
それ故、そんなガバガバな管理体制ながらも、不法入国者はさほど多くないのであった。
まぁ、逆に、こうした事情もあって、周辺国家群の部族の者達や、“大地の裂け目”の『獣人族』達がロンベリダム帝国から脱出する事が比較的容易となっていたり、様々な事情のもと、表の社会からつま弾きにあってしまった『掃除人』などの裏社会に生きる者達も、比較的簡単に不法入国出来る環境が整っている訳でもあるのだが。
まぁ、それはともかく。
とは言え、普通の人々は、所謂正規ルートを通るのが一般的であり、当然国、ないしは『ブルーム同盟』の看板を背負っているオーウェン率いる使節団が不法入国する訳にもいかないので、正規ルートから入国する予定であった。
だが、もちろん事前に訪問する旨を伝えていたのであるが、『ロフォ戦争』が勃発していた影響もあってか、オーウェンらは関所にて足止めを食らう事になってしまっていたのであったーーー。
・・・
「ありがとうございました、ティアさん。わざわざ仲介して貰ってしまい、大変申し訳ありませんでした。」
「あ、いや、困った時はお互い様じゃ。それに、儂らは、一応あなた方を皇帝に紹介するところまでの契約を結んでおる。これも、こちらの任務の一環じゃしの。」
一悶着ありつつも、オーウェンら『ブルーム同盟』の使節団は、ティアの仲介のもと、無事にロンベリダム帝国内へと入国を果たしていた。
これは、先程も述べた通り、『ロフォ戦争』が勃発した事によって、ロンベリダム帝国側の関所の警戒レベルが上がっていたからではあるのだが、単純に情報の行き違いもあったのである。
当然ながら、『ブルーム同盟』は一種の国際機関であるから、ただの冒険者や商人の様な旅人とは違い、事前に訪問の通達をしていたのである。
国、ないしは、それに準ずる組織の一団が、連絡もなく他国を訪問したら、それは相手国に迷惑がかかるし、場合によっては相手国を刺激する事にも成りかねないからである。
しかし、その情報が、昨今の混乱もあってか現場には降りてなかった様なのである。
それ故に、国境警備隊としては、急に現れた一団に対して警戒感をあらわにし、オーウェンらを入国させる事を拒んだのである。
これについては、国境警備隊の判断の方が正しいだろう。
当然、オーウェンらも、これこれこういう理由でロンベリダム帝国を訪問したのだと説明はしたのだが、それを“はい、そうですか。それではどうぞ。”と、鵜呑みにするのは国境を預かる人間としてありえない訳で、
“事情は分かったが、我々には話が来ていない。
本国に問い合わせをするので、しばらく待つように。”
という事になってしまった訳である。
流石にこうなる事は想定しておらず、オーウェンは途方に暮れてしまった訳である。
まぁ、とは言え、中々やり手なオーウェンは、これがロンベリダム帝国側の失点である事から、期せずして交渉カードを一つ増やせた事に内心ほくそ笑んでいた訳であるが。
しかし、待てど暮らせど、ロンベリダム帝国側からの回答はなかった。
まぁ、これは、この世界の通信技術が進んでいなかった為に、ある意味普通の事でもあるのだが(帝都・ツィオーネから関所までは、かなりの距離が離れているので、場合によっては数日を要する可能性もあるのだ。)、しかし実際には、ロンベリダム帝国にはアキトらの様な『通信石』がない事は本当の事ではあるが、それでもルキウスの命によって、独自の情報網、伝達網は整備されているので、ここまで待たされるのは、ある意味『ブルーム同盟』がナメられているからでもあった。
大国であるロンベリダム帝国からしたら、ロマリア王国(や、その周辺国)など、ハレシオン大陸の南東の小国群に過ぎない。
もちろん、独自の情報網に加えて、ニルらの情報からアキトの存在を認識していたルキウスの耳にこの事が伝わっていたらこんな事にはなっていない。
何故ならば、ルキウスにとってはアキトは、『異世界人』達やアスタルテに並んでもっとも警戒すべき相手の一人であるから、その関連機関である『ブルーム同盟』をナメてかかる事などありえない愚行だからである。
しかし、残念ながら、ロンベリダム帝国ほどの大国ともなると、独裁者たるルキウスのもとにまで話が行かないで処理されてしまう事も実は非常に多いのである。
そして更に残念な事に、アキトや『ブルーム同盟』に関する情報がロンベリダム帝国の殆どの者達へと共有されていなかったのである。
これは、独裁者たるルキウスが、言い方はアレだが、アキトや『ブルーム同盟』に対してビビっていると周囲の者達に伝わってしまったら少なからず動揺するだろうし、最悪ルキウスの求心力低下にも繋がりかねないからなのだが、こうした事情も重なって、行き違いが発生してしまった訳であった。
もっとも、先程も述べた通り、入国に関する一悶着は、結局ティアの介入によって事なきを得た訳であるが。
「しかし、アーロスさん達を先に行かせてよろしかったのですか?」
「うむ、まぁ、この先もまたトラブルがあっては敵わんからのぅ。最近は大人しくしておるし、流石の彼らも、伝令の役割くらいは果たせるだろうしの。」
「ふむ・・・。」
そうなのだ。
ティア達は問題なく入国出来たのだが、オーウェンらが足止めを食らってしまった事により、彼らに同行していたティア達も同時に足止めを食らう事となった。
で、まだ年若いアーロスらが、その事に対して痺れを切らせてしまったのである。
そこでティアは、
“この場には自分が残るので、アーロス達は先に帝都に向かって良い。
その代わり、オーウェン率いる『ブルーム同盟』の使節団がやって来た事、皇帝に謁見を求めている事をしっかりと伝えておいて欲しい。”
と、言い含め、彼らを一足先に帝国に送り出していたのであった。
既にロンベリダム帝国近辺に来ている以上、アーロスらの護衛の必要性が低い事もあっての判断だったが、
「それに、儂も少々子守りに疲れてしまったのだよ。ロンベリダム帝国内ならば、彼らも無茶な事はせんだろうし、少しは儂の負担も減るというものよ。」
「・・・心中、御察しします。」
単純に彼らと離れたかった本音が、ティアにはあった様であるーーー。
・・・
一方、オーウェンらに先行して帝都に向かっていたアーロス達は、久々の自由を満喫していた。
成り行きでオーウェンらに同行する事になってしまい、特にアーロスはストレスが溜まっていたのである。
まぁ、とは言え、端から見た分には、まるで子供の様に本筋から脱線する自由奔放っぷりを発揮していた様に見えるが、一応彼らも、保護者、ないしは引率者の手前、行動をセーブしていた(つもり)なのであった。
それに、期せずしてティアと離れた事で、アーロスは前に考えていた案を、今こそ実行に移せるチャンスととらえていたのである。
「こうして見ると、やっぱりロンベリダム帝国は都会だよねぇ~。」
「だな。まぁ、俺らからしたら、ロンベリダム帝国でさえ田舎なんだけどさ。」
「まぁ、向こうの世界に比べたり、そりゃ、ね。」
関所からほど近い街にて買い食いを堪能しながら、アーロスとドリュースはそんな会話を交わしていた。
もう一人、同行者としてN2が側にいたのだが、彼は自身の見た目の影響を考慮して、フードを目深に被っており、買い食いには参加していなかった。
「なぁ、ドリュース。前に話した事、覚えているか?(ヒソヒソ)」
「あぁ、向こうの世界に帰還する方法について、カミサマに頼むってヤツだね?(ヒソヒソ)」
「そうそう。で、今がその絶好のチャンスじゃね?(ヒソヒソ)」
「あぁっ!それは確かに。(ヒソヒソ)」
「まぁ、一応、ティアの姐さんから言われた事はしっかりこなしておくにしても、その後は完全にフリーじゃん。そしたら、そのままライアド教に向かってみようぜ。(ヒソヒソ)」
「う~ん。それはいいんだけど、さ。その、N2さんはどうするの?流石に急に姿を消したら、不審に思われちゃうかもしれないよ?(ヒソヒソ)」
「あぁ~、それはそうだよなぁ~。(ヒソヒソ)」
「・・・それで思ったんだけどさ。N2さんも、誘ったらどうかな?彼の姿だと、この世界は居心地悪そうだしさ。(ヒソヒソ)」
「・・・いや、別にそれは構わないが、けど、N2さんはウルカさんとの事があんだろ?(ヒソヒソ)」
「うぅ~ん、それは確かにそうなんだけど、一応聞いてみるだけ聞いてみたら?N2さんなら、仮に僕らの話に乗らなかったとしても、ティアさんに告げ口する事もないだろうし、さ。それに、場合によっては、ククルカンさんに仲介して貰う、って手もあるし。(ヒソヒソ)」
「・・・なるほど。(ヒソヒソ)」
「・・・?どうかされましたか?」
一通り内緒話を済ませたアーロスとドリュースは、不意にN2の方を見やる。
その視線に気付いたN2は、不思議そうな顔をして二人に何かあったのかと尋ねる。
「あぁ~、N2さん。その、実は・・・。」
「・・・なるほど。確かに、その可能性もありましたね・・・。」
「そうなんっすよ。で、俺はやっぱり向こうの世界に帰りたいんで、ティアの姐さんから言付けられた用事が済んだら、その後、とりあえずライアド教に行ってみるか、って話をしてたんですよねぇ~。」
「いやいやアーロス、僕も出来る事なら帰りたいよ?だって、こっちの世界には、テレビもマンガもゲームも、インターネットもないんだからさぁ~。」
「あ、やっぱそう思うよなぁ~?」
「・・・ふむ。」
しばらくして、アーロスとドリュースは、カミサマの力によって、向こうの世界に帰れるのではないか、と考えていた事をN2に伝えていた。
N2も、その可能性があったかと納得している。
「・・・しかし、仮に首尾よく事が運んだとしても、その為には某かの要求があるのではないですか?カミサマとて、私達の力は重宝するものでしょうし。」
「「・・・あっ。」」
だが、二人よりも多少年上であるN2は、そんな当たり前の考えに辿り着いていた。
仮にそれが可能だとしても、それをタダで請け負ってくれる筈もないからである。
その考えを失念していた二人は、思わず取り乱してしまっていた。
「い、言われてみたら確かなその通りだっ!」
「そ、そうだね。何で、そんな簡単な事に気付かなかったんだろう?」
「まあまあ、落ち着いて下さい。これは仮の話ですし、とりあえず、聞くだけ聞いてみては?仮に、その対価としてとんでもない要求をされたのならばまた考え直せば良いだけの事ですし、他にも方法があるかもしれませんしね。」
「そ、そうっすよね?」
「聞くだけならタダだよね、・・・多分。」
一瞬取り乱した二人だったが、N2の言葉を受けて、とりあえず落ち着いた様だ。
ふぅ、とN2は一息吐く。
自分の事は棚上げにして、二人を子供だなぁ~、と思いながらも、ふと疑問に思った事を呟いた。
「しかし、何だってそんな事を私に教えてくれたのですか?アーロスさん達にとっては、内緒にしておきたかった話でしょう?」
「あ、いや、N2さんなら、ティアの姐さんにチクったりしないかと思って。それに急に俺らの姿が見えなくなったら、N2さんも不審に思うじゃないっすか。」
「・・・それに、N2さんも、僕らも同じ気持ちなんじゃないかなぁ~、って思って。まぁ、あくまで勝手な想像ですけどね。」
「・・・ふむ。」
確かに、N2にとっては、現状、見た目の問題もあってこの世界は居心地の良い場所ではなかった。
故に、帰りたいか?、と問われたら、間違いなくYESと答えるだろう。
それに、アーロスの言う通り、仮にこの話に乗っからなかったからと言って、わざわざティアにその事を告げるつもりもなかった。
何故ならば、それは各々の自由だと考えていたからである。
ただ、以前はアーロスらの提案に、一も二もなく飛び付いていただろうが、今現在の彼の心には、何か引っ掛かるモノを感じていたのも、また事実であった。
それは、おそらくウルカの事である。
「けど、まぁ、その、ウルカさんとの事もありますし、N2さんとしては、ちょっと複雑ではあると思うんっすけどねぇ~。」
「ちょ、おい、バカッ!」
「あっ・・・!その、すいませんっ!」
「・・・。」
“彼らにもバレているのか・・・。”、と内心恥ずかしい思いをしていたN2だったが、続く二人の会話に、目を見開く事になる。
「・・・しかし、以前から不思議に思ってたんだけど、何でウルカさんはライアド教なんかにドップリのめり込んじゃったのかなぁ~?まぁ、ククルカンさんは、ライアド教の内部調査の為、って分かってるんだけど・・・。」
「・・・そんなの、俺らと理由は一緒じゃね?」
「えっ?」
「・・・えっ?」
ふと、何気なく呟いてみたアーロスに視線が集まると、彼は所在無さげに続ける。
「いや、もちろん本当のところは分からんけどさ。ウルカさんも、向こうの世界に帰りたがってたじゃん?で、もし、その気持ちが変わってなかったとしたら、何かカミサマと約束したんじゃね?向こうの世界に帰す代わりに、ライアド教に協力しろ、とか何とか・・・。」
「・・・そうかっ!」
「・・・ありえない話ではありませんね・・・。」
ドリュースと顔を見合わせて、N2はそう呟いた。
以前の彼らならば、“カミサマ”なんて存在が関わる話を真に受ける事はなかっただろう。
しかし、実際にルドベキアという存在を目の当たりにした彼らは、そういう存在が“居る”事を、今現在はハッキリと認識している。
そして、その人知を越えた力についても。
また、N2の事もあり、ウルカの話題を出す事を彼らは意図的に避けていた面もあった。
それ故に、ただ単純に帰れる方法がなく、その代償行為として宗教にドップリのめり込んだのではなく、ウルカには、ハイドラスとの契約によって、帰れるアテがあったのではないか?と、ここに来てようやく思い至ったのである。
「仮にそうだとしたら、俄然アーロスの案は信憑性が増した事になるよねぇ~。」
「だ、だろ?俺もそう考えたからこそ、こんな提案をしたんだよっ!」
ドヤ顔でそうのたまうアーロスではあったが、これは嘘である。
彼は、良くも悪くも直感的に生きている側面があるので、カミサマの力を借りて向こうの世界に帰る案と、ウルカも同じ事を考えていたのではないか、という事は、イコールで結び付いていなかったのである。
二人と話している最中に、急に思い付いた、というのが実際のところなのである。
しかし、今はそんな事はさして重要ではなかった。
「少し気が変わりました。よろしければ、私も二人に同行してもよろしいですか?」
「「・・・えっ???」」
先程まで、あまり乗り気ではなかったN2のこの発言に、アーロスとドリュースは一瞬、顔を見合わせた。
しかし、共犯が多い方が、何かと都合が良かった事もあって、二人は一も二もなく歓迎する。
「ええ、もちろんっすよっ!」
「まぁ、実際どうなるかは分かりませんが、とりあえず動いてみて損はないと思いますしね。」
「・・・ありがとう。」
こうして、ティアの居ぬ間にアーロスとドリュース、それに加えて、ティアにとってはある種のストッパー役を期待していたN2も、一緒になって暴走する事となった。
その事が、今後にどの様な影響があるのかを、考えもしないでーーー。
◇◆◇
「・・・ちぇっ!どうせなら、僕が彼らを唆したかったのになぁ~!!」
一方、ロンベリダム帝国のとある場所にて、そんなアーロス達の動向を、テレビよろしく、『神の眼』にて監視していた一柱の神性の存在があった。
誰あろう、ヴァニタスである。
「・・・何をなさっておいでなのですか、ヴァニタス様?」
そんなヴァニタスに声をかける青年が一人。
今しがた、拠点としてるこの場所に戻ってきたばかりの『セレスティアの慈悲』のエルファスである。
「おや、エルファス。お帰りぃ~!首尾はどうだい?」
「・・・あまり思わしくありませんな。最近は、戦況も膠着状態ですからね。」
「だよねぇ~?思ったより、ルキウスは慎重だし、お母様も大人しいしねぇ~。」
「ええ。まぁ、この先どうなるかは分かりませんがな。」
「確かに。どうやらアキトくんも介入しに来た様だし、状況は一変すると思うよ。・・・まぁ、僕らの望む方向ではないかもしれないけどね?」
「ふむ、英雄が・・・。それでヴァニタス様は、また何か企んでいたところ、という事でしょうか?」
「人聞きの悪い事言わないでよねぇ~、エルファス。けど、まぁ、何か“テコ入れ”は出来ないかとは思っていたけれどねぇ~。」
「ほぅ・・・。ああ、なるほど。『異邦人』を利用しようとお考えで?」
「と、思ってたんだけど、どうやら彼らは彼らで、勝手に動くつもりの様なんだよねぇ~。まぁ、面白そうだし、それはそれでいいんだけど、もう少し面白い方向に転がせないモンかなぁ~、ってね。まぁ、末次くんには僕の顔がバレてるから、僕が直接介入したところで警戒されるだけだろうけど。・・・あっ、そうだっ!僕の代わりにエルファス、ちょっと行ってきて、いい感じに場を乱して来てよ。」
「いやいや、ヴァニタス様。これでも私、結構忙しい身なのですが・・・。」
気まぐれな神性のその発言に、エルファスは軽く頭を抱えてそう答えた。
と言うのも、エルファスは、今現在ロンベリダム帝国、“大地の裂け目”勢力双方の一部組織と接触し、密かに武器や物資などの横流しをしながら、この戦争を長引かせるべく工作活動の真っ最中なのである。
それ故、この暇そうな神性とは違い、多忙を極める立場にある。
「そうだよねぇ~。けど、末次くんの事はともかくとしても、今回に関しては僕が直接動くのは何かと都合が悪いし・・・。」
今現在の『異世界人』達は、他の神性からの注目度も高い。
故に、ヴァニタスが直接アーロスらに接触するのは、そんな彼らの警戒感を高めるだけの結果になってしまう。
場合によっては、せっかく『ロフォ戦争』を引き起こせたのに、それが終息してしまう恐れもあった。
少なくとも、アスタルテにその事がバレれば、ヴァニタスとしては厄介な事になる。
「・・・でしたら、他の眷属を使ってはどうですか?」
「・・・・・・・・・あっ。」
エルファスの発言に、ヴァニタスはそれがあったか、という表情を浮かべていた。
「・・・まさか、忘れていた訳では・・・?」
「そ、そんな事ないよぉ~。僕も、ちょうどその事を考えていたところさっ!」
「・・・・・・・・・。」
訝しげな目を向けるエルファスに、ヴァニタスは誤魔化した様に目を泳がせる。
正直言うと、忘れていたのである。
ヴァニタスにとっては、己の眷属など、ただの駒に過ぎないし、彼の性質的にも、自身で動く事を好む傾向にあったので、今の今までその存在は頭の片隅に置き忘れていたのであった。
じとっー、とした目を見ない様にしながら、ヴァニタスは一人呟く。
「えぇ~と、そうなると、アーロスくん達の目的はライアド教だから・・・、プロスくんなんかが適任かなっ?」
「ふむ・・・、確かに彼はライアド教に潜入しておりますからな。」
「“真の平和”を望んでいる彼なら、アーロスくん達の存在は希望足りうるだろうし、上手く動いてくれるだろうねっ!」
「うぅ~む、そう上手く行くかどうか・・・。」
エルファスは、自身とは別ベクトルで壊れている話題に出た人物を想像し、そんな感想を呟いた。
「まぁ、別に思惑通り動いてくれなくっても良いさ。さっきも言ったけど、膠着状態を解消する“テコ入れ”になれば良いだけだからね。場合によっては、ハイドラスに嫌がらせも出来るだろうし、ねっ!」
「・・・まぁ、ヴァニタス様のお好きになさって下さい。」
「うんうん、もちろん僕の好きにするよっ!」
一瞬、ゾクッとした背筋を誤魔化す様に、エルファスはヴァニタスに丸投げする。
結局のところ、この気まぐれな神性をコントロールする事など、エルファスとて不可能な事であるから、そう判断せざるを得なかっただけなのだがーーー。
こうして、アキトやその仲間達、ティアら『異世界人』達が舞台に上がった事で、物語は新たなる局面へと向かって行くのだったーーー。
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