観測者達の対話
続きです。
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
◇◆◇
アキトとエイルが、『猫人族』の集落を理不尽に占拠した者達に対して、それを更には上回る理不尽で解決を図っていた頃、広大な“大地の裂け目”地域のとある場所にて、それを眺めていた一柱の神性と一人の人間が存在していた。
ソラテスとキドオカである。
まぁ、キドオカとしては、一度尻尾を掴まされそうになった(実際には、既にアキトにはキドオカの情報がある程度掴まれていた訳であるが)アキトに対する警戒感は強かったのだが、自身を遥かに越える力を持ったソラテスが大丈夫だと請け負っていたし、キドオカ自身も、アキトには並々ならぬ興味があったので、アキトの観察を容認していた、どころか、彼自身もそれに便乗して一緒に観察していた、という状況であった。
「ハッハッハッハッ!アキトとやらは、中々に面白い人物ではないかっ!!目的の為ならば、苛烈な手段を厭わないとはな。まぁ、ある種、非常に合理的ではあるし、また、ある意味では非常に納得出来る事でもあるがなっ!」
「・・・彼は、本当に元・一般人ですかね?向こうの世界においても、それなりの組織に属していたとしても不思議ではないですよ。少なくとも、他の『異世界人』達に比べても、明らかに異常な『精神性』を持っている様に見えますが・・・。」
自身も裏に関わる事の多かったキドオカとしては、アキトのやっている事自体は否定しないのだが、それが、いくら異世界転生を果たしたとしても、元々普通の人間であった者が、その境地に到達出来るのかは、キドオカとしては甚だ疑問であったのである。
「ふむ・・・。存外、其方はかなり常識的な考え方に凝り固まってしまっておる様だのぉ~。其方自身、『霊能力』などという、非常識な力を操る事が出来るにも関わらず、の?」
だが、ソラテスの意見は違った様だ。
その顕在化した幼い顔をニヤリと歪め、そんな挑発的なセリフをキドオカに向けていた。
「・・・どういう事でしょうか?」
挑発された事には気付きつつ、キドオカは努めて冷静に反応を返した。
「いや、其方の意見ももっともだと我も思うぞ?アキトとやらは、確かに一般人とは一線を画した精神性を持っておる様だからの。しかし、“常識”というのは時代や地域、世界によっても大きく異なる。では、世に“偉人”とか“英雄”と呼ばれる存在が、果たして“常識的な存在”であったと其方は思うかの?」
「・・・・・・・・・あっ。」
「・・・ふむ、どうやら気付いた様だの。そうじゃ、彼らは、“常識”という枠には囚われない。だからこそ、“偉人”や“英雄”足り得る。一般の者達、普通の人々では考え付かなかった事、“常識的”判断を覆す判断力や思考力、行動力や発想力を持っているからな。」
「・・・なるほど。」
「そういう意味では、彼は非常に“英雄的”と言えるだろう。だが、その一方で、非常に一般的な感覚も持ち合わせている様にも見える。矛盾する様だが、それ故に、一般人のフリをして過ごす事も特に意識する事なく可能なのじゃろう。まぁ、おそらくこれは、彼の特殊な生い立ちが起因しておるのだろうが、の。」
「・・・ふむ。」
以前にも言及した通り、アキトは少々異常な『精神性』を持っていた。
ともすれば、所謂“サイコパス”と呼ばれても致し方ない部分も存在するのだが(とは言え、それイコール即犯罪者という訳でもない。実際、そうしたパーソナリティーを持ちつつも、優秀な者達、社会に貢献している者達も数多い。そうした素養を持っていて、なおかつ重大犯罪に手を染める者の方が実際には稀なのである)、と同時に、実際には非常に常識的な判断を下す事も可能であった。
これは、彼の『英雄の因子』の能力が、少なくとも向こうの世界では極々基本的な能力しか発現していなかった影響であった。
ここで話は一端逸れるが、ソラテスの発言通り、“偉人”や“英雄”と呼ばれた存在が、果たして一般的な人々と同じ様な感覚を持っていたかと言うと、答えはおそらくNOであろう。
何故ならば、仮にそうした者達が所謂“常識”に凝り固まっていたとしたのならば、彼らを“偉人”や“英雄”足らしめる偉業を成し遂げる事が不可能だと考えられるからである。
“常識”とは、すなわち客観的に見て当たり前と思われる行為、その他物事の事である。
社会通念とも言う。
対義語は非常識である。
大抵の場合、“偉人”や“英雄”と呼ばれる存在は、この非常識と呼ばれる様な行いによって、それまで当たり前と思われた事、すなわち“常識”の壁を突破している。
例えば、今現在では“常識”となっている事柄も、過去には非常識であった事も数多く存在する。
地球が動いてる訳ないだろ。→現代では、地動説(太陽中心説)がむしろ一般常識である。しかし過去には、天動説(地球中心説)の方がむしろ一般常識であった。
遠く離れた人と会話出来る訳ないだろう。→現代では、通信機器の発達により、例え地球の裏側であっても、送受信する環境さえ整っていれば、会話を交わす事が可能である。
その他、過去には非常識であるとされた事も、現代では常識となった事は多数存在する。
そして、それを覆してきた者達は、言うなればその時の常識からは逸脱した人々であり、言葉を選ばずに述べるのであれば、頭がおかしいと思われていたのである。
だが、現代人から見れば、むしろその人々の方が正しい訳であり、頭がおかしいのはむしろ“常識”に凝り固まっていた人々の方なのである。
この様に、“常識”とは時代や地域、世界によっても大きく異なる。
何を持って常識か非常識か、正常か異常かの判断を下す事は、実際にはは極めて難しい、と言い換えても良いだろう。
キドオカは、『霊能力』という、向こうの世界においても極めて特殊な力を持っている一方で、現代社会に生きる社会人としての一般常識も持ち合わせている人物であった。
彼の年齢的にも、ある程度確立した見識を持ち合わせている訳で、それ故に知らず知らずの内に“常識”という枠に囚われていたのである。
そして、それは実はアキトも同様である。
彼自身も、地球時代から『英雄の因子』を持ちつつも、その時には最低限の能力しか発現していなかった影響で自分が特殊な存在である事を自覚しておらず、それ故にそうした片鱗はありつつも、普通の社会人、普通のおっさんとして過ごしていた訳である。
しかし、この世界への転生をキッカケとして、彼は自身のこれまでの価値観から脱却を果たしており、そうした事もあり、常識に囚われない柔軟な思考力を持つに至った一方で、向こうの世界で経験として培ってきた常識的判断も下せるという、ある種ハイブリッドな存在に仕上がった訳なのである。
「と、まぁ、何を持って常識か非常識か、正常か異常かは、結局は他者が決める事なのだ。そもそも、世に“偉人”とか“英雄”と呼ばれる者達を、真に理解する事は中々難しいであろう。そうした意味では、我ら神々は、もっと非常識の塊であるぞ?」
「・・・確かに。」
「彼を異常と断ずるのは簡単な話だが、そんな事では其方は、“偉人”にも“英雄”にも、“神”にも成れんと思うぞ?」
「・・・フッ。お戯れを。」
内心キドオカは、ギクリッとしながらも、何かを見透かした様なソラテスの言葉をサラリッとかわしてみせる。
と、言うのも、キドオカの目的は、“神”と呼ばれる高次の存在にあったからである。
キドオカが操る力、“陰陽道”の術義の中には、それこそ伝説や伝承の中だけの話であるが、“神”と呼ばれた存在すら使役する技も存在したらしい。
もちろん、キドオカにもその真似事までは出来るのだが、長い年月の中で失伝した技術までは再現不可能だったのである。
しかし、過去の人々が出来た事であるならば、自分にも出来るのではないかと、そうした技の研究を彼は人生のテーマにしていた訳である。
そうした事もあり、一見すれば“神霊”と呼ばれる存在を使役していたアキト(もちろん、アルメリアとセレウスの事である。もっとも、彼らは、アキトの心の中に勝手に住み着いているので、使役というと多少語弊があるのだが、端から見る分にはそこに大した違いは存在しない。少なくとも、アキトの要請を受けて、力を貸してくれる存在には違いないからである。もちろん、力を貸す事が出来ないケースも存在するのだが。)に対して、非常に興味を惹かれた一方で、自分にも出来なかった事をやってのけたアキトに対して、少なからず嫉妬の様な感情を持ち合わせていたのであった。
まぁ、それはともかく。
「・・・まぁ、今は久々の現世だし、面白い男も見れたから、これ以上は追及はせんがの。そもそも、我に害が及ばぬ限り、其方が何をしようとも、何も求めていようとも、我の関知するところではないしの。」
「・・・。」
そうなのだ。
長らく『アストラル体』だけの存在であったソラテスは、今回の件によって『神霊力』がある程度回復し、本当の意味で現世への帰還を果たしていたのだった。
以前にも言及したかもしれないが、キドオカがソラテスと接触した目的は、ハイドラスに対抗する為であった。
また、これは裏の目的であり、上記にも記した事であるが、あわよくば“神”と呼ばれる存在を手中に収め、使役する事も彼の目的の一つではあったのだが、ここではとりあえず関係ない話なので割愛しておこう。
で、その為の方策として用いたのが、“エネルギー結晶”と呼ばれる物質であったのである。
“エネルギー結晶”とは、プラスでもマイナスでもない純粋なエネルギーを取り込む事が出来る特殊な鉱物である。
そもそも、“神”と呼ばれる存在は、“信仰”というプラスのエネルギーを得る事により存在している。
逆に、“畏れ”などのマイナスのエネルギーを糧に存在しているのが、荒御魂であったり妖怪と呼ばれる存在であった。
今現在のこの世界では、ソラテスへの信仰は途絶えて久しい。
もっとも、彼の場合は、所謂『始祖神』と呼ばれる特殊な存在である事から、他の神々と違いない、例え信仰が存在しなくとも彼自身の存在が消える事はないのだが、逆を返すと信仰がないと『神霊力』を回復する手段もなくなる為に、彼自身の『神霊力』が尽きてしまった場合、“根源”と呼ばれる場所へ還ってしまう可能性が極めて高かったのである。
だが、逆に“畏れ”を用いて『神霊力』の回復を図った場合、彼の“属性”に変化が生じてしまい、荒御魂、あるいは悪神と呼ばれる存在に成ってしまう。
まぁ、ハイドラスに対抗出来るならばそれも有りなのだろうが、その場合、新たなる役割を持たされる可能性もあるし、キドオカの裏の目的も併せると、それでは不都合だった訳である。
そこで、“エネルギー結晶”という、プラスでもマイナスでもない純粋なエネルギーを取り込める鉱石を利用して、“属性”へと影響の出ない『神霊力』の回復手段を用いたのである。
具体的には、ヴァニタスが引き起こした『ロフォ戦争』を利用して、それに巻き込まれた人々の負の感情、怒りや憎しみ、恨みなどを純粋なエネルギーとして変換して取り込み、それによって『神霊力』の回復を図ったのである。
この方法自体は、理論的には可能であると分かっていたが、実際に試した訳ではないので、どういう結果に終わるかは不透明であった訳であるが、ソラテスの現状を見る限り、これは成功の様であった。
こうして、無事に『神霊力』を回復したソラテスであったが、彼自身の存在力が大きかった事に加え、失われた力も大きかったので、まだまだ全快にはほど遠かった。
だが、そんな折に、アキトが“大地の裂け目”入りを果たしてしまう。
アキトらの活躍によって、少なくとも『猫人族』から供給されていた負の感情は途絶えてしまったのだが、まだまだ“大地の裂け目”のあちこちではロンベリダム帝国軍による略奪や殺戮が巻き起こっている訳で、現時点ではソラテスとキドオカには、そこまでの焦りはなかったのである。
むしろ、元々ソラテスは、所謂“知識欲”に飢えている部分が存在しており、久々の現世、なおかつ、イレギュラーな“英雄”と呼ばれる存在を目の当たりにし、その“知識欲”を大いに刺激されており、アキトの活躍を興味津々に眺めている、という余裕っぷりであったのである。
まぁ、下手にアキトに手を出して、手痛いしっぺ返しを食らうのは割に合わない、といった計算もあったのだろうが。
「そうじゃ、『隠』よ。戯れついでに少し聞いておきたい。」
「・・・何でしょう?」
アキトらの活躍が一段落ついた頃、ソラテスが改めてキドオカにそう水を向ける。
「いや、別に我の興味本位からなので答えずとも良いのだが、其方らをこの世界に導いた要因に少し興味があっての。」
「はぁ・・・。」
急に何の話かと身構えたキドオカは、何だそんな事かと肩透かしを食らった。
と、言うのも、ソラテスはキドオカらが『異世界人』である事を知っており、その要因となった出来事についても、おおよそではあるが説明していたからである。
まぁ、そんな事をせずともソラテスは、アキトの前世での立ち居振舞いを知っている素振りだったので、何らかの手段により、向こうの世界の情報を入手する手段を持っていた様であるが。
ここら辺は、ヴァニタスも同様であろう。
「いや、もちろん其方らが『TLW』なるげいむ、言わば『仮想世界』で過ごしておるところを、こちらの世界側からの干渉によって、こちらの世界に引っ張り込まれた事までは知っておる。しかし、我が聞きたいのは、他の『異世界人』はともかくとして、何故『霊能力者』たる其方が、その様な娯楽に興じていたのかが少し分からんのだよ。いや、もちろん、個人の趣味であると言われてしまえば、それまでの話なのだがな。」
「ふむ・・・。」
・・・さて、どうしたものか。
キドオカは一瞬考えたが、特に隠す事でもないので、そこは素直に答える事にした様である。
まぁ、もしかしたら彼も、誰かに語っておきたかった心理が存在するのかもしれないが。
「実はですね・・・。」
まず前提条件として、向こうの世界における社会の基盤となっているのはあくまで“科学”である。
それ故、当然ながらキドオカの様な『霊能力者』、あるいは『超能力者』、『神通力』や『法力』などと呼ばれる不可思議な力を持つ者達は、一般的にはマンガやアニメ、ゲームなどのフィクションの中だけの存在として認識されていた。
しかし、そうは言っても、“科学”でもいまだ解き明かせていない現象などそれこそ無数にある訳で、一般的には認知されていなくとも、そうした特殊な力を持つ者達は、確実に存在していたのであるーーー。
キドオカこと、本名“倉橋紀彰”は、日本のとある神社の子供として生をうけた。
これは、現代日本においては、一般的な所謂“サラリーマン家庭”の方が多い中では少々珍しい事ではあるが、とは言え、神社仏閣などはかなりの数が現存している訳で、その子供として生をうけた者達も当然ながら一定数存在する訳である。
しかし、紀彰が特殊だったのは、生来から極めて高い『霊能力』を有していた点である。
もっとも、紀彰の家族達も、神々に仕える役職を持っていた事もあってか、一般人とは一線を画した“霊感”を有していたので、紀彰の才能は受け入れられ、少々風変わりな幼少期ではあったが、それなりに幸せに暮らしていた訳であった。
ところが、彼の力は成長するごとに強力になっていき、それに伴って様々な霊障に見舞われる様になってしまう。
どんなモノでもそうであろうが、強力過ぎる力というのは、時に本人や周りの者達にも悪影響を与えてしまうものなのである。
特にこの『霊能力』というのは、しっかりとした制御が出来ないと、雑霊や動物霊、果ては悪霊と呼ばれる存在すらも引き寄せてしまう為に、紀彰ほどの『霊能力』を持っていない、そして知識もない彼の家族では、ついには手に負えなくなってしまったのである。
もっとも、幸か不幸か、紀彰の生家が神道系であった事もあってか、横の繋がりによって、それを解決出来る術が見つかったのであったが。
それが、“倉橋家”。
倉橋家は彼の有名な“陰陽師”、安倍晴明を遠い先祖に持つ家であった。
もっとも、安倍氏嫡流である土御門家とは違い、江戸時代にそこから分家したのが倉橋家であるのだが、とは言え、その血筋と共に、その技を現代まで残している数少ない家であったのである。
そうした事もあり、土御門家、倉橋家両家は、『霊能力』、その他特異な力を有する者達の数少ない受け皿となっていたのである。
(もっとも、両家の門下生として技術を学んだ者達が独立する事もあった様だ。『霊能力者』や、その他特異な力を有する者達の絶対数はそう多くはなかったのだが、とは言え、両家の持つキャパシティにも限界があった為に、その様な構造になっていった様である。
ちなみに、紀彰の生家も、元々はその両家の門下生だった家らしく、その関係もあり、彼の件がスムーズに倉橋家に伝わる様になった様である。)
紀彰の家族と倉橋家が接触した後、彼は倉橋家へと養子に出される事となった。
これは、先程も述べた通り、紀彰の家族では、彼の力をこれ以上受け入れるのは困難となった末での苦渋の決断であり、一方の倉橋家も、代を重ねるごとにその“血”が薄れてしまった事もあってか、高い『霊能力』を有する人材を欲していた事もあったのである。
ある意味、渡りに船。
少なくとも、歴史のある倉橋家へと赴けば、紀彰の力をコントロールする術が見付かるだろうし、結果として紀彰の家族の目論見通り、彼は自身の『霊能力』をコントロールする術を身に付け、それ以降は霊障に悩まされる事もなくなったのだが、しかし、その事が後の彼の人生に、大きな“しこり”を残す事にも繋がったのである。
幼い彼はこう思ったのであった。
自分は、家族に捨てられたのだ、と。
それ故に、紀彰にとっては、自身の『霊能力』は、ある種のアイデンティティーの一つであると同時に、強いコンプレックスともなっていったのである。
さて、そんなこんながあって、生きていく為には自身の才能を伸ばすしかなかった紀彰は倉橋家でメキメキと頭角を現していき、様々な軋轢などとも戦いながら成長していった。
そして成人し、内閣の特務機関、『超常現象対策本部』に勤める様になったのである。
先程も述べた通り、現在社会の基盤はあくまで“科学”ではあるが、“科学”では対処出来ない事もある訳で、特にオカルト関連の事は非常に危険性が高い。
キドオカこと紀彰も得意としていた“呪”などはその典型的な例であり、物質的証拠を残す事なく人を呪い殺すが可能な訳である事から、その危険性がよく分かる事だろう。
もし、悪しき『霊能力』の使い手が要人などにそうした手段を用いた場合、当然ながら通常のSPや捜査当局などでは対処不可能である。
そこで、紀彰などの様な『霊能力者』の出番、という訳であった。
そうでなくとも、元々“陰陽師”は、暦や天文などの編纂を司っていた事から、後に時の帝や国家の為に吉凶を占ったり、厄災を避ける為の方策を考える事も仕事の一つとなっていった歴史などもあって、この『超常現象対策本部』は、現代版の“陰陽寮”みたいなモノだったのである。
そこに、紀彰の様な特殊な力を操る者達が詰めているのも、ある意味では至極当然の流れなのであった。
そして、その対策本部で若手のホープとして活躍していた紀彰が、特に専門的に扱っていた案件が、『サイバーオカルト』関連であった訳である。
先程から再三述べている通り、現在社会の基盤はあくまで“科学”であり、それに伴って技術も変化していくモノである。
それは、社会も、犯罪者も、そして“陰陽師”とて例外ではないのである。
特に、現在社会では高度な情報化社会となっている。
それに伴い、インターネットを利用したオカルト関連の犯罪や霊障も増えていたのであった。
「一般的な社会の中では、オカルト関連の事は眉唾なモノとして認知される事はありませんでしたが、そうは言っても、特に日本という国においては、独自の文化や風習を通じて、オカルト関連の事柄は社会に根付いておりました。年中行事にもその名残が見て取れますし、遊び程度のモノでしたが、“おまじない”などや、様々な情報媒体を発信源として、新たなる“怪異”が生まれる事もありました。中には、偶然なのか社会に強烈な悪影響を与える“まじない”が発生する事もありましたし、新たなる“怪異”が悪さをする事もあったのですよ。」
「ふむ・・・。とすると、其方がげいむとやらに興じていたのは、そうした仕事の一環であった訳だな?」
「まぁ、半分はそうです。一般の人々は、オカルト関連に無知故に滅茶苦茶な事をする事も多々ありましたからね。特に、『TLW』は、リアルな世界観を売り物にしたゲームでしたから、古今東西のあらゆるオカルト関連、呪術なども再現しており、それが変に悪さをする事を防いでいたのですよ。」
「ふむ、なるほどの・・・。」
一般の者達は、信じていないと言いながらも、占いや“おまじない”などには一喜一憂する事もある。
そうした事もあり、中には、愉快犯的な犯行によってオカルト関連の専門知識を悪用するケースも存在したし、所謂『霊感商法』による詐欺被害もあった。
国家に関わる厄災、霊的災害であった場合は、それこそ土御門家や倉橋家の重鎮などが政府に協力する手筈となっていたが、当然、その規模の話はそうは多くない。
故に、『超常現象対策本部』の役割としては、そうした細々とした案件に対処したり防ぐ事が主な任務であり、その中でも、紀彰は特に『サイバーオカルト』関連を主に担当していた訳であった。
(ちなみに、そうした職業柄、情報収集能力にも優れる様になったキドオカこと紀彰は、『TLW』時にロールの一環として情報のエキスパートを名乗っていたのである。)
「・・・では、残り半分はなんじゃ?」
「そうですね。まぁ、単純に私がゲーム好きだった事もあるのですが、私個人の興味もありました。何せ、『TLW』はその特殊性から、オカルト関連でもある種の奥義であった“幽体離脱”を科学的に再現しておりましたからね。」
「ふむ・・・?」
以前にも言及した通り、『TLW』の一番の売りは、世界初の『仮想世界』への『フルダイブ』技術であった。
これは、言い方を変えると、全く別の人物(まぁ、ここでは『アバター』なのだが)へと魂を移し変える事でもある。
つまりこれは、科学的に“幽体離脱”を再現していると言い換える事も出来るのであった。
さて、“幽体離脱”は結構耳馴染みのある言葉だと思うが、しかしその反面、実際には非常に危険性の高い現象であった。
何故ならば、一度肉体から離れてしまった魂は、戻れる保証は何処にもないので、最悪肉体的な死を迎え、魂は輪廻転生のシステムへと組み込まれてしまう可能性があるからである。
故に危険性は非常に高い反面、特に『霊能』関連の使い手においては、夢の技術でもあった。
何故ならば、霊魂や魂を、肉体的制限のない状態で鍛え上げる事が可能であったからである。
「肉体と違い、霊魂や魂には年齢制限がありません。もちろん、その鍛え上げる事の出来る限界はあるでしょうが、それ故に、肉体とは違い、生涯をかけて伸ばす事が可能なのです。“幽体離脱”は、非常に危険性の高い一方で、霊魂を直接的に鍛え上げる事が可能な技術ですから、我々の様な使い手からしたら夢の技術なんですよ。肉体と精神、霊魂は密接に関わっていますから、霊魂を鍛え上げる事は、精神や肉体を活性化する事にも繋がり、若々しさを保つ事にも繋がります。そして、それが非常に危険性の低い方法で実現が可能だとしたら・・・。」
「ふむ、なるほどの。別アプローチからそれが可能であるかもしれないのならば、其方の様な使い手が興味を惹かれるのも分かる気がするわ。」
「そうでしょう?もっとも、これはあくまで私独自の理論であって、向こうの世界の仲間達からも誇大妄想を疑われましたがね。あくまでフルダイブ技術は、『仮想世界』をリアルに体験出来る技術でしかないと認識されていましたので、むしろその反応の方が普通なのですが、結果として、我々が『アバター』に紐付けされていた魂を持った状態でこちらの世界に召還された事によって、私の持論は最悪の形で証明された訳ですけどね。まぁ、心残りがあるとすれば、それを仲間達に伝えられなかった事が残念ではありますが、それも今更詮無き事ですがね。」
「まぁ、当初の想定にはなかった仕様が発覚する事もある。ここら辺が、技術の面白いところでもあるのぅ・・・。ふむ、中々興味深い話であったわ。そんなアプローチの方法があるとはのぅ~。」
「・・・御満足頂けましたか?」
「うむ。正直、そこまで有意義な話が聞けるとは思っておらんかったわ。出来る事ならば、其方の世界の“科学”とやらも、もう少し詳しく知りたいところではあるが・・・。」
「残念ながら、私はそちらは専門ではありませんからねぇ~。それこそ、一般的な知識以上のモノは持ち合わせておりませんよ。」
「・・・で、あるか。では、他の『異世界人』達はどうだ?」
「さあ・・・?私の知る限り、中々頭のキレる人物も何人かおりますが、科学的知識に明るいかまでは分かりかねますな。」
「ふむ・・・。ならば、少し彼らを観察してみる事にするか。」
「ふむ・・・。」
一通り話終えると、ソラテスの興味は他の『異世界人』達へと向かったらしい。
こうして、今現在『ロフォ戦争』の裏で暗躍している『異世界人』達の動向を観察する事にしたソラテス達であったがーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
いつも御一読頂いてありがとうございます。
ブクマ登録、評価、感想、いいね、等頂けると幸いです。
よろしくお願いいたします。