トラブルメーカー
続きです。
今回は繋ぎ回ですね。
◇◆◇
ここで、話は一旦過去に遡る。
突然だが、ティオネロとディアーナに余計なお節介を焼いていた、“お節介おじさん”こと現・『ブルーム同盟』の議長たるマルセルムの功績は多岐に渡るのだが、その中でも取り分け大きい功績と言えるのが、後進の育成に力を注いだ点である。
人材が重要な事など今更議論するまでもない事であるが、しかし実際にはこれを軽んじるトップの者達は意外なほど多い。
実際、ロマリア王国にてマルセルムと権力を二分したフロレンツは、こうした事を軽んじていた傾向が強い。
これは言わば、見据えていたモノの違いに寄るところが大きいからかもしれない。
以前にも言及したかもしれないが、フロレンツ率いる旧・『貴族派閥』は、ロマリア王国の権力の掌握を最終的な目標に掲げていた。
しかし、残念ながら『貴族派閥』の目的はあくまで“権力”だけに集中しており、ロマリア王国の将来、未来を慮る気持ちなどこれっぽっちもなかったのである。
もちろん、立身出世を志す事自体は別に悪い事ではないだろう。
更には、ロマリア王家に権力が一極集中する事は、独裁的な政治を許す結果にもなるから、それを貴族達で牽制するのもある意味では自然な流れであろう。
だが、結局は『貴族派閥』の思惑は、ロマリア王家に成り代わって、自分達が更にはデカイ顔をしたい、贅沢をしたいという事が大半を占めており、そこには“世の為人の為”という信念があった訳ではないのである。
故に『貴族派閥』は、協力や情報の共有、計略を巡らせる事はあっても、誰かを育てようという意識がそもそも薄かったのである。
一方のマルセルムら『王派閥』は、ロマリア王国の将来、未来を見据えて組織された派閥であって、フロレンツと権力を二分したのも、何処かに、誰かに権力が集中する事によって、ロマリア王国内の権力バランスが崩れ、引いてはロマリア王国そのものの国力が低下する事を危惧した上での事である。
一応『王派閥』とは名乗っているが、実際にはロマリア王家に権力が集中する事を懸念しており、ある意味では『貴族派閥』以上にロマリア王家の暴走を牽制するストッパー役を担っていた側面もあった。
『王派閥』にとって重要なのは、ロマリア王国そのものであって、ロマリア王家が一番重要ではない事が大きなポイントとなるだろう。
実際、マルセルムら『王派閥』は、ロマリア王国の統治に関して『貴族派閥』の台頭を許したマルクに、『政権交代』という名の引導を渡している。
ロマリア王家を最優先に考えた場合は、この選択肢は出てこなかった事だろう。
つまりは、意外かもしれないが、実はフロレンツ率いる旧・『貴族派閥』の方が(もちろん、自分達の権利を守る上での都合もあったのだが)どちらかと言えば保守的な考え方を持っており、実はマルセルム率いる『王派閥』の方がどちらかと言えば革新的な考え方を持っていたのである。
こうした考え方の違いが、後進の育成にも現れていたのであった。
もちろん、フロレンツとて、自身の後継者たるジュリアンにはそれなりに教育熱心であった。
だがこれは、『ノヴェール家』の次期当主として相応しい人物を育成する事に終始しており、言ってしまえば、自分の意に沿う人形が欲しかっただけの事なのである。
故に、ジュリアンが自分の思惑から外れて、むしろロマリア王国にとっては有用な人物として成長してしまうと、失望をあらわにしていたのである。
更には、そうした姿勢であるから、もちろん他者、他家の者達に己の知識や経験などを伝授する事などありえない事であった訳である。
もちろん、自分に心酔する者達にはその限りではなかったのであるが。
一方のマルセルムらは、もちろんある程度の選別はあったものの、来る者は拒まずに己の知識や経験を伝授する姿勢を貫いていた。
これは、先程も述べた通り、ロマリア王国にとって有用であるならば、マルセルムらにとっては派閥など関係ないからであった。
実際、マルセルムらは、政敵の息子であるジュリアンにも教えを説いている。
もっとも、そこには多かれ少なかれ思惑は存在していたし、一番は、やはりアキトら旧・『リベラシオン同盟』の存在により、マルセルムとジュリアンが近付くキッカケを作った事が大きかったが。
さて、長々と語ってきたが、そうしたマルセルムらの教えを受けた優秀な教え子達は、今現在のロマリア王国の様々な場所にて活躍していた訳である。
言ってしまえば、現国王であるティオネロも、『ブルーム同盟』のロマリア代表(大使)であるジュリアンもマルセルムらの教え子であるし、以前にアキトからヒーバラエウス公国の外交使節団を引き継いだ(実は彼は、そのままヒーバラエウス公国の駐在大使となっているが)ケント・スピーゲルもマルセルムの懐刀の一人でもあり、もちろんマルセルムらの優秀な教え子の一人である。
そして、今回の『ロフォ戦争』の即時停止を求めて、『ブルーム同盟』よりロンベリダム帝国へと派遣される事となった特使であるオーウェン・ターフルという人物も、そんなマルセルムらの教えを受けた一人だったのであるーーー。
・・・
みなさん、ご無沙汰しております。
アキト・ストレリチアです。
さて、『ブルーム同盟』の決定によって、特使であるオーウェンさんを代表とした使節団、ロンベリダム帝国の縁者であり、ロンベリダム帝国側との仲立ちを請け負って貰う予定のティアさんらと共に、僕ら冒険者パーティー・『アレーテイア』もロンベリダム帝国方面へと順調に旅を続けて来ました。
もちろん、オーウェンさんら一般人(?)がいるので、無茶な移動速度は期待出来ない事もあって、かなりの長い旅になってはいるのですがね・・・。
もっとも、僕らとティアさんらが一緒にいるので、この世界における一番の旅の障害である盗賊団、魔獣、モンスターなどの脅威に時間を取られる事もないので、他の旅人に比べれば、非常にスムーズに事が運んでいる事もまた事実でしょう。
ただ、それでも一番の難所は、今現在、絶賛戦闘地帯の真っ只中になっている“大地の裂け目”である事は間違いないでしょうね。
ここで、簡単に地理を纏めておきましょう。
以前にも言及したかもしれませんが、ロマリア王国はハレシオン大陸の南東部に存在する国家であり、その西側にヒーバラエウス公国、北側に(僕が住んでいた『魔獣の森』を抜けた先に)トロニア共和国、北西部にドワーフ族の地下国家が点在する場所です。
言うなれば、ロンベリダム帝国とは、ハレシオン大陸の北側と南側で、ある意味一番離れた場所にあるのですね。
そんな、正反対の場所にあるロンベリダム帝国に向かうルートは様々存在するのですが、大まかに分けると三つのルートが考えられます。
一つは、一番遠回りではありますが、もっとも安全なルートであり、ハレシオン大陸を大きく西側に迂回して、ロンベリダム帝国の西側に点在する周辺国家群からロンベリダム帝国入りする、言わば“西ルート”ですね。
聞けば、ティアさんらはこちらのルートを通ってロマリア王国入りした様ですね。
一つは、ハレシオン大陸の中央部を突っ切って、ロンベリダム帝国の南側からロンベリダム帝国入りする“南ルート”。
こちらは、“西ルート”に比べれば、広大な砂漠を踏破しなければならない関係上かなりハードルが上がりますが、“西ルート”に比べて移動期間を短縮出来る事もあって、旅慣れた冒険者や商人達には結構選ばれるルートでもあるそうです。
まぁ、広大な砂漠地帯にはオアシスを中心とした国家もあるそうですし、ロマリア王国側にはドワーフ族の地下国家も存在しますから、特に交易を生業とする商人にとっては、ハードルが高い分実入りも大いに期待出来る、なんて事情もある様ですがね。
この世界でも向こうの世界でも、商人(商売人)は逞しくないとやっていけない職業なのかもしれませんねぇ~。
まぁ、それはともかく。
そして、最後にもっとも最短距離とはなりますが、もっとも危険性の高いルートが“東ルート”。
この“東ルート”は、どうしても“大地の裂け目”を抜けなければならない関係上非常に危険性が高いのです。
一般的にも大森林地帯を突っ切るのは、盗賊団、魔獣、モンスターが存在するこの世界では非常に危険なのは今更言うまでもない事ですし、“大地の裂け目”の地形は、他の大森林地帯よりも更に複雑であり、下手をすれば一度入ると二度と抜け出せない、なんて事も往々にしてある様です。
更には、人間族を敵視している獣人族も存在しますし、他に比べても非常に危険性の高い魔獣、モンスターなんかも生息している地域でもあり、地形、生息する生命の分布などを総合的に鑑みた結果、このルートを選ぶ者達はほとんど存在しません。
このルートを選ぶ者達は、よほどの向こう見ずか、よほどの命知らずでしょうね。
しかも、今現在は、絶賛『ロフォ戦争』の真っ只中ですから、尚更こんなルートを選択する酔狂な者達はいないのです。
まぁ、僕らは、そんな危険性の高いルートを絶賛移動中の酔狂な者達の筆頭なんですがね・・・。
ただ、先程も述べた通り、僕らやティアさんらにとっては、大した脅威ではありませんし、僕らの用事は“大地の裂け目”にありますので、ある意味では効率的とも言える選択肢だった、なんて事情も存在します。
もっとも、オーウェンさんらの存在もあるので、オーウェンさんら、ティアさんらとは“大地の裂け目”入りする前に別れ、彼らはここから“南ルート”、広大な砂漠地帯を突っ切るルートに切り替えて貰う予定です。
まぁ、旅慣れた者達でも、“南ルート”は過酷なので、一般人に近いオーウェンさんらにはかなり酷な旅を強いていますが、そこはそれ、『生活魔法』の恩恵もありますので、多少はマシでしょう。
ちなみに余談ですが、近年はこの“南ルート”と“東ルート”を合わせた様なルートの開拓が進んでいるそうです。
それもこれも、『生活魔法』の(もちろん、正規品、非正規品問わずですが)普及によるモノだそうですね。
広大な砂漠地帯で、水を確保出来る『生活魔法』があれば、それだけで旅のハードルは下がりますからね。
更にちなみに、“大地の裂け目”を迂回して、ロマリア王国方面への最短ルートとなる“南ルート”と“東ルート”を合わせたルートの開拓がこれまで行われなかった理由としては、もちろん行きたい方向にも寄るのですが、一つは経済的理由もある様です。
冒険者はともかくとして、商人が旅をする目的は当然交易の為ですから、そこには当然損得勘定が存在します。
物資や人材を移動させる関係上、商人達は荷馬車を扱うのが一般的な訳ですが、当然、それを引く動力源が必要になってきます。
以前にも言及したかもしれませんが、この世界にも、向こうの世界に類似した家畜動物が存在し、馬の様な動物が(便宜上、“ウマ”と表記する)運搬用として利用されている訳ですが、当然ながら、気候によって使い分ける必要があります。
“南ルート”は乾燥した砂漠地帯ですから、寒冷地などでも生息可能な一方、高温多湿な気候に弱い“ウマ”は、逆に利用出来ません。
熱中症などの病気になってしまうからですね。
逆に、乾燥した砂漠地帯に適した動物も存在しており、向こうの世界におけるラクダ(便宜上、“ラクダ”と表記)の様な動物もいますので、“南ルート”を選択した場合は、この“ラクダ”を利用するのですね。
しかし、逆にこの“ラクダ”は、湿潤環境に弱い性質を持っている為、もし仮に、“南ルート”→“大地の裂け目”地域を迂回→“東ルート”と進む場合、途中で“ラクダ”→“ウマ”に切り替える必要が出てきます。
そして、当然ながら、“ラクダ”→“ウマ”、あるいは“ウマ”→“ラクダ”に切り替える時には、お金が掛かってしまいます。
一般的に商人達は、この旅の相棒である“ウマ”や“ラクダ”を、自分達で管理しています。
一々現地調達していると、コストが余計に掛かってしまいますからね。
それ故に、“南ルート”なら“南ルート”、“東ルート”なら“東ルート”一本に絞った方が、コストが安く済む訳なんです。
そんな訳もあって、“南ルート”→“大地の裂け目”を迂回→“東ルート”、というルートの開拓がこれまで進んで来なかった、なんて事情もあるそうです。
もっとも、ちょうど乾燥地帯と湿潤環境の中間地点で交易を行う事で、これまでも物流が回っていた、なんて事情も存在するので、とりあえず困った事にはならなかった様ですが、仮に一社で別部門、“南ルート”専門の部隊、“東ルート”専門の部隊を持つ事が出来れば、もっとコストが安く済む事になります。
それは、引いては市民生活にも恩恵を与える訳で、故に、『生活魔法』によって浮いたコストをそちらに割く事で、これまでは同業他社に頼っていた物流網を、自社だけで完結しようとする商人達が現れ始めた、というのが正確なところの様ですね。
まぁ、いずれにせよ、そうした新たなる物流網が開拓される一方で、“大地の裂け目”を開拓し、街道の整備などをして安全なルートが開通出来ればそれに越した事はありませんから、地下資源の事を併せて鑑みても、ロンベリダム帝国が“大地の裂け目”の通行権、ないしは占有権を求めて、“大地の裂け目”に侵攻した事は不自然な話ではないのですが。
まぁ、それにともかく。
さて、そんな訳で、“大地の裂け目”と面する南東部の国家、ボガーノ王国にて僕らは、オーウェンさんら、ティアさんらと別れる事となったのですがーーー。
・・・
「それではアキトさん。俺らは、これから“南ルート”でロンベリダム帝国へと向かうっスよ。」
「了解です、オーウェンさん。わざわざ僕達の事情に付き合わせて申し訳ありませんでした。もう少し、安全な“西ルート”もあったでしょうに・・・。」
「いやいや、そんな事はないっスよ。・・・ここだけの話なんですが、今回の『ブルーム同盟』からの特使派遣の裏側には、ついでに各国に対する挨拶回り、なんて思惑も存在するっスよ。そんな訳で、いずれにせよ、ボガーノ王国に立ち寄れたのはこちらにとってもありがたい事なんっスよ。(ヒソヒソ)」
「ふむ、なるほど・・・。(ヒソヒソ)」
確かに向こうの世界においても、政権のトップクラスの者達が各国を歴訪する事も多い。
考えてみれば、航空技術の発達していない、しかも、水棲モンスターの影響によって、航路なんかも限定的なこちらの世界では、せっかく使節団を派遣、しかも隣国とかではない遠い国に赴くのであれば、ついでではないが、途中の各国にも挨拶回りする方が効率が良いわな。
マルセルム公かダールトンさんか誰が発案したかは知らないが、やはり『ブルーム同盟』の上層部は優秀な人材が揃っている様だ。
ちなみに、およそ貴族らしからぬ言葉遣いをするこのオーウェンさんも、歴とした貴族であるし、マルセルム公やダールトンさんから特使に任命されるだけあって、中々のやり手の様である。
親しみやすい雰囲気があるので、所謂平民の方々への心証も良いし、当然、貴族としての立ち居振舞いも心得ている。
しかも、今のところ今回の旅による疲労を感じさせない事から、体力や気力に関しても、一般的な貴族のそれを軽く凌駕している様である。
まぁ、使節団に任命される様な人材は、旅をする関係上、本来頑強な人々でないと務まらないからなぁ~。
まぁ、それにともかく。
僕らとしても、旅には同行している訳だが、流石に四六時中一緒という訳ではもちろんない。
特に、村や街なんかの、宿泊施設の整った場所では、当然各々に自由時間が設けられていた。
故に、その時にいそいそとオーウェンさん達が何処かに出掛けていた事は知っていたが、まさか各国のトップクラスの者達に挨拶回りしているとは想像が付かなかったのである。
まぁ、言い訳をすると、正直それどころではなかった事情も存在するのだが・・・。
「ところで、アキトさん。彼らは本当に大丈夫なんっスかね?(ヒソヒソ)」
「ハハハハハ。・・・さぁ?(ヒソヒソ)」
そうなのだ。
この旅の道中で、この旅に同行しているもう一組の集団、もちろん『異世界人』達の事であるが、の特にアーロスくんが、度々要らぬトラブルを引き起こしていたのであった。
まぁ、百歩譲って正義感からの行動である事は認めるが、それでも、特に『ブルーム同盟』の特使、使節団と同行している事実はしっかり認識しておいて欲しいモノである。
具体的には、まぁ、残念な事にこの世界には、何処に行っても、国は違っても、盗賊団の様な連中がいる事が問題となっていた。
それを、何処で聞き付けて来たのか、そうした連中を討伐しようと主張し始めるのである。
もちろん、僕らも自身に火の粉が降り掛かるのであれば、または、その光景を目撃したのであれば、それをどうにかする事は分からんでもない話だが、自分達に関係のない事にまで首を突っ込もうとするのはどうなんだろうか?
もちろん、先程も述べた通り、百歩譲って正義感からの主張であると理解は出来るが、現実的な話としては、そうした連中は、いくら頑張っても駆逐する事は不可能である。
実際に、向こうの世界においても、いくら治安当局が取り締まりを厳しくしたとしても、所謂“反社会的勢力”はいまだに台頭している。
これは残念ながら、ある種の社会構造の問題であるから、そうした存在がいなくなる事はそもそもないからである。
しかし、アーロスくんは、おそらく人智を越えた力を突然授かった事で、自分達にはそれが可能なんじゃないかと錯覚しているのかもしれない。
まぁ、何を信じるか、何をするかは個人の自由であるから、悪人退治をしたい、世直しをしたい、と言うのであれば、僕も止めはしないのだが、少なくとも、それは一人の時、もしくは同じ思想を持つ者同士だけでやって貰いたいモノである。
先程も述べた通り、少なくともオーウェンさんらという、ある種の要人が同行している時にする事ではないだろう。
それももう一点。
僕らは確かに“レベル500”というとんでもない力を持つに至っているが、そんな事は関係なく、その地域の治安当局や冒険者などもそうした勢力に対抗するべく活動している訳だ。
場合によっては、アーロスくんの行動は、そうした人々の仕事を邪魔しているだけかもしれないのである。
実際、今回の旅でもそうした事でトラブルに発展し、その度にティアさんや僕が尻拭いをするハメになっているのである。
そりゃ、オーウェンさんが不安になるのも無理からぬ話なのであった。
そもそも、これはこの世界でも向こうの世界でも同様であるが、火種ってのは何処にでもあるモノなのである。
その果てに争いがあったとして、それを一々僕らの様な存在が解決していたのではあまり意味がないのである。
ー「・・・アキトさん、それは思い違いですよ?彼らも『この世界』に生きているのです。『この世界』に生きている以上、自分達の文化や思想、自由などは自らで勝ち取るべきなのです。意見の対立や、文化の違い、人種の違いによる『価値観』の違いで、人々は常に『争いの種』を持っています。その全ては、『誰か』が解決する事では無く、自分達一人一人が考え行動する事でしか解決し得ない事です。『貴方』一人で背負い込む事ではありませんよ?」ー
かつて自惚れていた僕自身に、アルメリア様が伝えてくれた言葉である。
もしかしたらアーロスくんは、かつての僕が選択した先の未来の姿なのかもしれない。
・・・だから気が合わないのかもしれない。
所謂、同族嫌悪じゃないけど。
「さぁ?って、それじゃ困るっスよ、アキトさぁ~ん!」
「まあまあ。・・・しかし、考え様によっては、逆によかったのかもしれませんよ?」
「・・・はい?」
「あくまでも、彼らに求めているモノはロンベリダム帝国との仲介役であって、それ以上、ロンベリダム帝国の説得に協力して貰う事については難しいと思われた事です。それが、今回の一連の行動で、まぁ、ティアさんはまた別ですけど、ほぼ期待出来ない事が確定した訳ですからね。」
「・・・まぁ、それはそうですね。もっとも、『ブルーム同盟』としても、今回の訪問によってロンベリダム帝国側に懸念を伝える事は出来るでしょうが、ロンベリダム帝国側の行動を変える事は難しいと考えていましたが、ね。ロンベリダム帝国側にとっては『ブルーム同盟』は、あくまで遠い異国の土地の数ヵ国からなる同盟組織であって、わざわざ自分達の政策を改めるべき相手ではありませんし、しかも、すでに戦争状態に突入してからの方針転換など、それこそ彼らが頼りになったとしても、それ相応の交渉材料でもなければ不可能な話ですもんねぇ~。」
「まぁ、普通に考えればそうでしょうねぇ~。」
それに関しては、すでに結論が出ていた事だ。
当初の方針では、オーウェンさんら『ブルーム同盟』の使節団が、ティアさんらの仲介によってロンベリダム帝国側と接触し、何とか説得を試みる一方で、僕らが独自に武力介入する予定であった。
その先のプランは色々あったのだが、まぁ、一番のプランは、一連の動きが仕組まれていた事であった事をお互いに理解させ、ある種共通の敵であるライアド教(ハイドラス派)に対抗すべく、一時休戦させるプランだった訳だが。
・・・しかし。
「・・・その言い回しですと、アキトさんには何か策がおありなんっスか?」
「ええ、まぁ。これについては、僕も思わぬ拾い物をした結果、出来る様になった事なんですけどね。」
「ほぉ~。」
だが、いずれにせよ、ライアド教(ハイドラス派)と深い関係にあるロンベリダム帝国側の動きは出来る事であれば封じ込めておきたいところである。
場合によっては、ロンベリダム帝国がライアド教(ハイドラス派)に協力する可能性も否定出来ないからな。
「まぁ、いずれにせよ、事はオーウェンさん達がロンベリダム帝国側と接触してからですね。また、追って連絡しますよ。」
「ふむ。例の、『通信石』で、ですね?」
「そうです。」
先程も述べた通り、僕らはこれから“大地の裂け目”側に、オーウェンさんらはロンベリダム帝国側に向かう関係上、お互いに離ればなれになる事となる。
故に、連絡を取る手段として、僕らが重宝している『通信石』を、オーウェンさんにも持たせているのであった。
「了解しました。では、連絡をお待ちしております。と、言っても、まずは無事にロンベリダム帝国に到着出来るか、ってトコっスけどね。」
「ハハハハハ・・・。まぁ、そこは、皆さんの実力とティアさんの抑止があれば何とかなると思いますよ。・・・多分。」
「・・・。」
元々、ロンベリダム帝国に着いた後は、ティアさん達もどう動くか分からない事もあるし、そもそも使節団としてこの世界で活動する以上は、護衛を着けるのはある種当たり前の話である。
故に、もちろん僕らやティアさんら以外にも、オーウェンさんら使節団には、荒事を担当する人材が同行している。
まぁ、これまでの旅では、主にオーウェンさんらの防衛に当たって貰っていたのであまり目立った活躍はしていないのだが、特にアーロスくんの件もあって、彼らには、それなりに訓練を施していたりする。
まぁ、一種の保険である。
それ故に、僕らが離脱しても問題はない筈である。
まぁ、その分負担は増えるだろうけど、ね。
「ハァ~、気が重いっスよ。」
「・・・まぁ、頑張って下さいね。」
「・・・ええ。」
こうして、オーウェンさんら使節団と、ティアさんら『異世界人』達と別れた僕らは、“大地の裂け目”の捜索を開始する事となったのである。
余談だが、オーウェンさんには申し訳ないが、“トラブルメーカー”と離れる事が出来て、僕らの足取りが軽くなったのは内緒であるーーー。
誤字・脱字がありましたら、御指摘頂けると幸いです。
いつも読んで頂いてありがとうございます。
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