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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
幕間話 お見合い大作戦
205/383

そのおじさん達はお節介を焼く 8

続きです。


今回で、長くなった幕間話もひとまず終わりです。

次回からは、本編の新章に突入します。


思いの外長い物語となっておりますが、引き続きお付き合い頂けると幸いです。



◇◆◇



「お集まりの紳士淑女の皆様っ!御歓談中、大変恐縮ではありますが、これより、本日の“宮廷舞踏会”の主催者であります、ティオネロ王より、皆様に御挨拶をさせて頂きますっ!!」


ガヤガヤと賑やかな大広間にて、そんな良く通る声が響き渡ったのだったーーー。



これは、以前先王であるマルクが、『泥人形(ゴーレム)』騒動を迅速に解決に導いたアキトや旧・『リベラシオン同盟』に褒賞として褒賞金と盾の授与をした祭事の際に(まぁ、結果的には、アキトをロマリア王国に取り込もうと画策した一部貴族のせいで、その祭事は一転して先王マルクを退陣に追い込んだ『政権交代』劇へと変わってしまったのだが)、その場を取り仕切っていた近衛騎士団団長の声と同様のモノであった。


彼は、マルクが退陣した後も、新たなる王であるティオネロに引き続き仕えており、何故か、引き続きこうした場を取り仕切る役割を与えられる事が多くなっていた。


まぁ、とは言え、向こうの世界(地球)においても、儀式などの際に“儀丈兵”をつける事もあり、また、その役割を近衛兵(ロイヤルガード)が務める事もあり、これはあまり不自然な事ではなかったりする。

現代地球では、軍だけに限らず、所謂“広報・報道”を担当する部署が設けられる事も多いが、それでも軍の司令官などの代表者が矢面に立ち、情報発信をする事も割と珍しい事ではない。

故に、先の祭事を取り仕切った実績もあり、ティオネロは、引き続きこの近衛騎士団団長をある種の広報担当として重用しており、彼自身は、少し複雑な心境を持ちながらも、こうして職務に勤しんでいた訳である。


ちなみに、団長以外の近衛騎士団は、一部は“儀丈兵”として大広間に詰めていたが、それ以外は、しっかりと会場内や周辺の警備を務めているので、近衛騎士団としての役割はキッチリ果たしている事になる訳であるが。


更にちなみに、今回の“宮廷舞踏会”は、表向きはロマリア王家が主催している事になってはいるのだが、ロマリア王家から出席しているのはティオネロだけであった。


これは、先の『政権交代』の影響もあっての事である。

マルクは、表向きティオネロに王位を譲り渡し、退陣、引退した身であるから、それなのに公式の場に出てきてしまうと何かとややこしい事になってしまう。

結局は傀儡政権であり、実権はまだマルクが握っていると思われて、再びマルクにすり寄る貴族が現れないとも限らないからである。

先の『政権交代』が、実はそうした貴族達を一掃する為に画策された事であるのに、それでは意味がなくなってしまう。

故に、マルクとエリスが出席していないのは、事情を知っている者達からすれば至極当然の流れなのである。


更に、ティオネロの兄弟であり、今現在は王位継承権第一位になった第二皇太子のギルバートはまだ10歳くらいであるし、第一王女のノエルに至ってはまだ6歳くらいの幼女であり、当然ながらこちらの世界(アクエラ)の基準に照らし合わせてもまだまだ子供である。


これが、もう少し身内寄りのパーティーならば、ロマリア王家総出で出席する事もあったかもしれないが、今回の“宮廷舞踏会”は他国の要人や異種族、他種族の者達を迎えた、やや政治色の強い会であるから、必然的にティオネロ一人がホスト役としてロマリア王家を代表してこの場に立っていた訳であった。

まぁ、それはともかく。



近衛騎士団団長の紹介のもと、大広間に設置された舞台の様な場所にティオネロが現れた。

ティオネロは、ロマリア王国の権威を示す様に多少派手な格好をしているが、それでも“宮廷()()()”という事もあり、比較的動き易い格好であった。

具体的には、以前、アキトがヒーバラエウス公国のグーディメル子爵家の夜会に参加した際に着用していた正装、所謂『宮廷服』と呼ばれる、スーツやタキシードの原形となった様な服装であった(もちろん、王族らしく、その豪華絢爛さはアキトの比ではないのだが)。


そうした効果もあったのか、はたまたティオネロが見目麗しい“少年王”であった事もあったのか(この世界(アクエラ)には写真技術に類する技術が進歩していない為、ティオネロに直接会った者達、あるいは遠目からでも見た事のある者達でなければ、彼の容貌に関しての情報は、似顔絵やら噂話からしか得られない。故に、この場に集まった者達の中にも、彼の姿を確認したのが、今が初めてである者達もいたのである。)、大広間のあちこちから感嘆の声が漏れ聞こえていた。


第一印象は、まずまずの成果である。

もっとも、これから語る内容によっては、その評価も上下するのであるが。


ティオネロに注目が集まる中、彼は少し緊張した様な面持ちで、ややあって第一声を発した。


「お集まりの紳士淑女の皆様。ロマリア王家が主催する“宮廷舞踏会”にようこそ御越し下さいました。私がロマリア王国の現国王、ティオネロ・ド・ロマリアです。」


大広間は、それなりの広さを誇っている。

曲がりなりにも騎士として日頃訓練している近衛騎士団団長はともかくとしても、どちらかと言えばインドア派なティオネロの声量では、反響などを鑑みても、その場にいる者達全員に声を届ける事は不可能の様に思えた。


だが、そこはそれ、ルキウスの例にもある通り、魔法技術を応用すればその点はカバーが可能だ。

故に、語り掛ける様なティオネロの言葉は、間違いなくこの大広間の者達全員に届いていた。


「さて、ご存知の方々もいらっしゃると思いますが、私には兄弟がおります。第二皇太子であるギルバート。第一王女であるノエルです。まぁ、両名共、まだ成人を迎えておりませんので、この場にて皆様に御紹介出来ないのが残念ではあるのですが。」


この歳若き王が何を語るのか、この場に集まった者達が固唾を飲んで見守る中、ティオネロは突然そんな事を言い出した。

この場に集まった者達の頭には、盛大に疑問符が乱立している事だろう。


もっとも、流石に公式の場で、しかも一国の王の挨拶(演説)にヤジを飛ばす様な不心得者はこの場には存在しなかった訳であるが。


「当たり前ですが、私達兄弟も、性格や趣味・嗜好がそれぞれ異なっておりまして、どちらかと言えば私は内向的な性質、趣味・嗜好を持っております。もちろん、運動もそれなりにこなしますが、どちらかと言えば、書物を読んだり、室内で過ごす事を好む傾向にあるのです。」


故に、ティオネロが何を言いたいのか理解に努めようと、この場に集まった者達は静かにティオネロの言葉に耳を傾けていた。


「対して弟のギルバートは、これは完全に外交的な性格、趣味・嗜好を持っております。身体を動かす事を好み、勉学よりも武芸、魔法実技に興味を示しており、本気か冗談かは分かりませんが、将来は騎士団に入るんだと息巻いているほどです。」


そんなギルバートの情報に、この場に集まった者達からも笑いが巻き起こる。

当然ながら、王族であるギルバートが騎士団に入る事は不可能である。

まぁ、ティオネロの名代として、軍を率いる事はあるかもしれないが、それはあくまで司令官としての立場であり、一兵士や騎士としての従軍などあろう筈がないのである。


そこら辺の事情がまだ分かっていない子供らしさに、この場に集まった者達も何処か微笑ましく思ったのであろう。


「妹のノエルに関しましても、これは彼女の今後に響いてしまいますのでここだけの話にして欲しいのですが、中々の御転婆で御座いまして、ギルバートに引っ付いてよく外で遊んでおります。まぁ、身内の贔屓目から見ても可愛らしく、自然や動植物を愛する心を持っているのでそこまで心配しておりませんが、彼女の伴侶となる人物は、多少寛容な心を持った人物でなければ務まらないかもしれませんね。」


続くノエルの情報に、再びこの場に集まった者達から笑いが巻き起こる。

彼女にとっては不名誉な事ではあるが、この場に集まった淑女達も、ノエルと似た様な御転婆娘も多いので、ある種の共感を得られたのかもしれない。

また、ティオネロのフォローが単に面白かっただけかもしれないが。


「そんな私達兄弟は、よくケンカする事もあります。まぁ、どちらかと言えば、私が二人に対して、王族らしい振る舞いを求めた結果、二人に反発される事が大半なのですが、一方で、自由に伸び伸び育っている二人に対して、正直羨ましいと思う側面もあります。」


この場に集まっている者達のティオネロのイメージは、良い意味で覆されていた。

歴代でも最年少で王に即位した“少年王”、ではなく、身内の心配をするお兄ちゃんとしての側面。

普通なら、この様な場所で語るべき内容でもないので、ある意味では当たり前なのだが、王族とは言え、やはり一人の人間なのだと改めて思い至る内容となっていたからである。


「さて、親子、兄弟、身内でもこれなのですから、立場の違い、国の違い、種族の違いを越えて理解し合うのは、もっと難しい事だと思います。」


だが、続くティオネロの言葉に、この場に集まっていた者達は、ティオネロの言いたい事が朧気に見えて来ていた。


「残念ながら、ロマリア王国(我が国)では、もちろん、今現在は違いますが、異種族、他種族の皆様を迫害していた過去がありますし、今現在においても、その差別意識がハッキリとなくなった訳ではありません。それに加えて、他国と距離を置いていたり、反目していた事もまた事実でありましょう。」


そうなのだ。

しれっとこの場に集まってはいるが、数年前までは、こんな状況になる事すら困難な情勢であった訳である。

この場でその事に触れる事により、ティオネロが、それらを無かった事にはせず、真正面からその事実と向き合っている事を印象付けた。


「もっとも、我々には、様々な人々の尽力により、本日、この様な席を設ける事が出来ました。そして、その今後の展望は、我々の双肩に掛かっていると言っても過言ではないのです。」


明言こそ避けたが、アキトや旧・『リベラシオン同盟』、また、各国、各種族の外交関係者の尽力を暗に褒め称えるティオネロ。

それと同時に、ここが終着点ではなく、出発点なのだと彼は言う。


「我々は、理解し合う事が出来ます。もちろん、意見が対立する事もあるでしょう。お互いに相容れない事もあるでしょう。ですが、そこでケンカ別れする事なく、更なる議論を重ねる事が重要だと私は考えております。相手がどの様な事を考えているのか。自分がどの様な事を考えているのか。それを見極めて、相互理解を深める事で、その関係性は更に深まるものと私は確信しております。そう、私と兄弟達の様にっ!」

「「「「「「「「「「おおっ!!!」」」」」」」」」」


主張としては、特に珍しいモノではない。

今までは、友好的ではなかったり、そもそも国交すら結んでなかった者達であったが、これからはお互いに仲良くしましょう、という事だからである。


しかし、それは、今現在の情勢にマッチした主張であるし、更には、自身の経験を織り混ぜて語る事によって、もちろん、多少青臭く、理想論である印象は否めないが、シンプルながらも説得力のある言葉となって、この場に集まっていた者達の心に響き渡っていた。


向こうの世界(現代地球)、特に先進国によく見られる傾向であるが、情勢が安定しているからこそ、所謂“トップ”が代わったからと言って自分達の生活が変わる訳ではない、と考える人々も多い。

これが、特に若者を中心とした政治離れに繋がるのであるが、実際にはこれは誤った考え方である。

何故ならば、“トップ”の考え方次第では、国の方向性も180度変わってしまうからである。


極論を言えば、“トップ”が過激な思想を持っていた場合、国もそちらの方向に向かっていってしまう事となる。

もちろん、向こうの世界(現代地球)、特に先進国においては、“トップ”が暴走する事態を抑制する機能が設けられているが、そこはそれ、どんな事にも抜け道はあるもので、実際にそうした人物が“トップ”となっている事例も数多く存在している。

これは、もちろんその国の有り様を国民が選んだ結果ではあるかもしれないが、そもそも論として、国民が政治に無関心である隙を突かれた結果、そうなってしまったケースも多いのである。


遠い話の様に思われるかもしれないが、政治とは国民の生活に直結しているモノである。

故に、国民一人一人は、“トップ”、あるいは政権政党の性質や資質を見極めて、慎重に一票を投じなければならないのである。

まぁ、それはともかく。


つまりは、極論を言えば“トップ”の意向によって国の方向性が決まってしまうのである。

しかも、この世界(アクエラ)、特にハレシオン大陸(この大陸)においては、所謂『君主制』を採用している国が大半を占めているので(もちろん、実態としては君主に全権が認められていないケースも多いが。これは、以前にも言及した通り、君主一人では、国家に関わる仕事を全てこなす事が出来ない為であり、必然的に権力が分割され、その一部が他者や組織に委譲される為である。故に、主権者は君主であったとしても、実際の権力の大半は、他の者、あるいは組織が握っている事もあり、国内の権力争いが激化するケースも存在しうるのである。)、その影響力は向こうの世界(現代地球)よりも遥かに大きい。


故に、ティオネロが明言した主張、他国や異種族、他種族に対して平和的・友好的な姿勢は、ロマリア王国全体の総意であると言っても過言ではないのである。

もちろん、ロマリア王国国内にも様々な意見がある事は重々承知しているのだが。


「さて、長々と語ってしまいましたが、本日の“宮廷舞踏会”が、皆様との相互理解、相互交流の良き機会となればと思っております。そして、願わくば、こうした機会が今後も続く事を祈っております。では、ここに、“宮廷舞踏会”の開催を宣言致しますっ!皆様、大いに楽しんでいって下さいっ!!」


ティオネロがそう締め括ると、ちょうどそのタイミングで、舞台にて待機していた音楽隊の演奏が始まる。


効果的な演出と建設的な演説によって、万雷の拍手が大きく頭を下げ舞台を降りていくティオネロに惜しみなく向けられたのだったーーー。



・・・



「・・・青年の成長は早いものですなぁ~。」

「・・・確かに。」


ティオネロの演説を舞台袖で聞いていたマルセルムとグレンは、何処か感慨深げにそんな感想を述べるのだった。


人の成長というのは、究極的には生涯通じて可能である。

もっとも、やはり身体的にも精神的にも、もっとも大きな成長期と言えば当然思春期頃が顕著であるから、10代の成長は、時に驚くべき変化をもたらす事もしばしばある。


当然ながらティオネロは、政治家としても男としてもまだまだ半人前なのだが、それでも、様々な葛藤がありながらも、様々な障害にぶつかりながらも、一人前に、大人になろうとしている様は、見る者にある種の感動を与える存在に映る事だろう。


ティオネロを生まれた時から知っているマルセルムとしては、そこにやはりいくばくかの親心の様な心境も相まって、軽く目頭に熱いものがこみ上げてきたとしても無理からぬ話なのである。


そのティオネロはというと、舞台を降りてほっとしたのも束の間、今の演説に感化された者達に囲まれる事となっていた。

『ブルーム同盟』という組織が存在したとしても、それでもまだロマリア王国だけではないが、他国や他勢力に対して懐疑的な目を向けていた者達も多いのであるが、衆人環視の中で一国の王から示された姿勢というのは、やはり大きな意味を持つのである。


内心驚き、戸惑っていたティオネロであったが、それらの者達とにこやかに挨拶を交わし、議論に花を咲かせていた。


「フフフッ、大人気ですな。」

「ええ。まぁ、あの中の何人が、ティオネロ陛下の真の味方となるか分かりませんが、(さと)い者達ならば、今の内に彼に取り入ろうとするのは分かっていた事ですからな。陛下には今の内から、そうした事柄を見極める眼力を養って貰いたいものですが・・・、まだまだ陛下には早すぎますかな?」

「そうですなぁ~。まぁ、ティオネロ王の周囲には、王を補佐する者達が付き従っておりますが、彼らもまだまだ若い者達の様ですからねぇ~。」

「ふむ。『政権交代』を機に、そこら辺も刷新したのですが、まだ時期尚早だったでしょうか?」

「そんな事はないと思いますよ?普段であれば、マルク殿などがそこら辺は補えますからな。しかし、この場には彼はいらっしゃいませんので、ある程度の牽制は必要かもしれませんな。」

「ふむ・・・。」


これからの時代を担うのは、間違いなくティオネロや、若い世代の者達である。

しかし、そうは言っても、政治の世界は、海千山千の狸親父(たぬきおやじ)達が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)する世界である事には変わりない。

そんな者達と対等に渡り合うには、残念ながらティオネロ達だけでは、まだまだ心許ないのもまた事実であった。


ティオネロらの成長を感じ取りながらも、まだ自分達のサポートが必要な事もしっかり認識したマルセルムとグレンは、そんな会話を交わしながら、ティオネロ達のもとに向かうのだったーーー。



・・・



「では、ティオネロ陛下。また改めて、意見交換の機会を持てればと思います。」

「ええ、もちろんですダグラス殿。こちらとしましても、トロニア共和国の政策は大いに参考になると思いますからね。」


怒涛の如くティオネロに殺到していた人波も、今の人物、ヴィーシャの代わりに『ブルーム同盟』のトロニア共和国からの代表(大使)となったダグラス・オリバーで最後となっていた。

何だかんだ言っても、ティオネロから“宮廷舞踏会”の開催が宣言された事により、本格的に他国や異種族、他種族の者達と交流を深めるべく、この場に集まった者達としてもティオネロ一人だけに集中する訳にも行かないのである。


ふう、とティオネロは一息吐いた。

ティオネロの取り巻き、ジュリアンと親交の厚い若手貴族の優良株達や、さりげなく露払いをしていたマルセルムやグレンのサポートがあったとは言え、やはりティオネロの負担は大きかったのである。


もっとも、彼としては、何処か清々しい気分ではあったので、嫌な感じではなかったのであるが。


「大人気ですわね、ティオネロ陛下。」


と、そこへ、ヒーバラエウス公国では主流となっている、シンプルなワンピースタイプのシックなドレスに身を飾ったディアーナがティオネロに声を掛ける。

元々人目を惹く美貌の持ち主である彼女は、あまり派手さはないドレスとは言え、上品で落ち着いた雰囲気がマッチしており、高貴な人々が集っているこの場においても、より一層人々を魅了する存在としてこの“宮廷舞踏会”に彩りを添えていた。


「こ、これはディアーナ公女殿下。」


ティオネロも彼女の美しさに一瞬見惚れていたが、そこはそれ、一国の代表者としてしっかりと挨拶を返した。


「フフフッ。本日はお招き頂きまして、大変嬉しく思いますわ。」

「い、いえ、とんでもありません。こちらこそ、わざわざ御越し頂きまして、大変喜ばしく存じます。」


二人が直に顔を合わせた機会は、実はそう多くない。


そもそも、ロマリア王国とヒーバラエウス公国は、以前にも言及した通り、歴史的にもあまり仲が良くなかった事もあって、お互いに王家、大公家の人間とは言え、これまで交流がなかった為である。

故に、二人が初めて顔を合わせたのは、両国の国交が回復したつい最近の事であるし、その後も二人の立場もあって、直接会ったのは数回くらいしかないのである。


そんな二人であるが、実はティオネロの方は、ディアーナに対して淡い想いを抱いていたりする。

それはそうだろう。

先程も言及した通り、ディアーナは外見的にも高い美貌の持ち主であるし、ティオネロと同世代でありながらも、アンブリオの名代として、ヒーバラエウス公国を代表する立場を持っているからである。

そんな同世代の女性に憧れを抱く事は、むしろ青少年としては健全な反応と言えるだろう。


一方のディアーナは、もちろん、若くして一国の王となったティオネロには少なからず興味を抱いていたが、しかし彼女は、アキトという規格外の存在にすでに出会っている為に、知らず知らずの内に男性を見るハードルが高くなっていた。

故に、ティオネロに対する気持ちは恋愛的なそれではなかったのであるが、しかし、先程のティオネロの、何処か拙いながらもまっすぐな演説を聞いてそれも良い意味で覆されていた。


「生意気な事を申しますが、先程の演説は大変素晴らしかったですわ。ティオネロ陛下は、先を見通す目をお持ちなのだと、(わたくし)は確信致しました。」

「はい、その、恐縮です・・・。ですが、これは私が始めた主張ではありませんよ。私を支えてくださる人々や、様々な先達からの受け売りに過ぎませんし。」

「いえいえ、そんな事はありませんわ。もちろん、ティオネロ陛下の主張は、陛下御自身が発案したモノではないのかもしれませんが、しかし、それを御自身のモノとしてしっかり身についておいででしょう?でなければ、御自身の経験をもとにお話される事は不可能でしょうし。」

「っ!!!」


先程も言及した通り、ティオネロの語った内容は、さして珍しいモノではない。

おそらくティオネロ以外の人物が演説したとしても、昨今の情勢を鑑みれば、似た様な演説内容となった事であろう。


しかし、ティオネロはそこに自身の経験も含めて語っている。

故に、そこにはリアルな説得力があり、それ故に、演説後に彼は取り囲まれる事となったのである。

その主張が、()()であると思われたからである。


以前にも言及した通り、ティオネロは、何処かでまだ自分に自信が持てないところがあった。

マルクを始め、マルセルムやジュリアンなど、自身より遥かな高みに到達している人物が周囲には沢山いる訳だし、更にはアキトという規格外の存在も彼は知っているからである。


しかし、誰が何を言おうとも、今は彼がロマリア王国の君主であり、それは先王であるマルクも、マルセルムやジュリアン、アキトでさえ、その立場に成り代わる事は出来ないのである。

そして、他者の(チカラ)も、ある意味では彼自身の(チカラ)なのである。

彼は、ロマリア王国の国王なのだから。


気付いてしまえば、案外簡単な事だ。

当たり前だが、人は一人で出来る事などたかが知れている。

一人で出来ないのであれば、様々な人々の(チカラ)を借りれば良い。

それが、集団を形成する利点なのだから。

何でもかんでも、超一流にこなせるアキトらが異常なだけなのである。


政策でも、経済対策でも、軍事関係にしても、トップは出来る人々に任せて良いのだ。

もちろん、最終的な国家の責任者は、ロマリア王国ではティオネロな訳だから、やはりそれらを理解する(チカラ)は必要でろうが。


しかし、ディアーナの言葉を借りるならば、すでにティオネロはそれが出来ている事になる。

そのディアーナの何気ない言葉は、ティオネロにとっては、目から鱗が落ちるほどの衝撃だったのである。


「そう、であるならば、私としても喜ばしい限りですね・・・。」

「ええっ!」


ドキンッ!

屈託のないディアーナの微笑みに、ティオネロは心臓が跳び跳ねるのを感じていた。


と、そこへ、何処かのお節介おじさんがタイミングを見計らったのか、しっとりした音楽が流れ始めてくる。


「・・・。」

「・・・?」


しばし無言で見つめ合うディアーナとティオネロ。

だが、ティオネロは、何故急にディアーナが黙ったのか理解出来ず、内心ドギマギしていた。


「・・・ティオネロ王。こういう場合は、男性から女性へ、ダンスのお誘いをするものですぞ。(ボソボソ)」

「・・・・・・・・・はっ?」


聞き覚えのある声が聞こえたと思い、ティオネロが周囲を見渡すと、そこにはすでに誰もいなくなっていた。

その場には、ティオネロとディアーナのみ。

ティオネロの取り巻きも、ディアーナの取り巻きも、いつの間にか周囲にはいなかったのである。


「・・・どうかなさいました?」


キョロキョロと辺りを見渡すティオネロに、不思議そうな顔をしたディアーナが尋ねる。


「い、いえ、べ、別に・・・。」

「そうですか・・・?」


一々魅力的なディアーナの仕草に、すでにテンパっていたティオネロだったが、ややあって、意を決した様にディアーナに申し出る。


「そ、その、ディアーナ公女殿下っ!わ、私と踊っていただけないでしょうかっ!?い、いえ、その、もう少しゆっくりお話をしたいと思うのですが、やはり“宮廷舞踏会”ですからダンスの一つもしないと格好がつかないかと思いまして・・・。」


自分でもよく分からない事を話しながらも、勢いのまま何とかディアーナにダンスのお誘いをするティオネロ。

そんなティオネロの様子に、一瞬ビックリした表情を浮かべた後、すぐにクスリッと微笑み、ディアーナはハッキリと答える。


「ええ、(わたくし)でよければ、喜んで。」

「っ!!!で、では、お手を・・・。」

「はい。」



その後、ロマリア王国の若き国王と、その隣国の麗しき姫が優雅に踊る姿がその大広間には見られた。

その姿は、周囲の者達に、ロマリア王国、ヒーバラエウス公国、両国だけでなく、『ブルーム同盟』に参加する国や勢力の、輝かしき未来を暗示している様に映ったのであったーーー。





















ーその後の二人がどうなっていくのかは、それはまた別のお話。ー



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