そのおじさん達はお節介を焼く 6
続きです。
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「・・・では、ヒーバラエウス公国側からは『魔素結界炉』の一部技術の提供を。エルフ族側からは『植林技術』の提供を。という事で、問題ありませんね?」
「ええ、結構ですわ。」
一方その頃、自分を狙っていた“ネオ・テオス”が、この世界から人知れず姿を消していた事実を知らないディアーナは、己の職務を全うすべくグレンとの外交会談に臨んでいたのだったーーー。
『ブルーム同盟』の同盟国、参加国とは言え、やはりそれぞれが独立した国家である以上、当然ながら各国との交渉事は個別に行う必要があった。
ディアーナも、『ブルーム同盟』のヒーバラエウス公国からの代表(大使)である立場と同時に、ヒーバラエウス公国の大公家の者としての立場(外交官的立場)も同時に持ち合わせている訳で、ヒーバラエウス公国の国益の為にも、各国の者達と交渉するのも彼女の仕事の一つなのである。
もちろん、これはある種の契約である以上は、お互いの合意が必要だ。
相手の持つ技術や資源、知識を得る為に、こちら側も何かしらの対価を支払う必要があるからである。
もっとも、それをせずに相手の持つ物を奪い取ろうと画策する者達も多いのだが。
国家間で行う場合、人はそれを“戦争”と呼ぶが、そもそも力による現状変更は、これは歴史的にもよくある現象でもあるのだが、最終的にはこれはことごとく失敗に終わっている。
何故ならば、永遠に力を持ち続ける事は、人類には不可能な話だからである。
栄枯盛衰は世の常である。
例えば、向こうの世界のかつての絶対的支配者であったとされる恐竜達でさえ、もちろんその要因となったとされる説は様々あるだろうが、何らかの要因による“時代の変化”、あるいは“環境の変化”に対応出来ずに地上から姿を消したのはまず間違いない事実であろう。
それと同様に、かつての栄華を誇った文明や大国なども、そのことごとくが姿を消している。
こちらも、巨大な組織故に“時代の変化”、“環境の変化”に対応出来なかったからであり、どれだけ優れた支配者が統治をしようとも、あるいはシステム的に磐石な体制を築き上げようとも、未来永劫人を支配する力など人類にはある筈がないのである。
その末で、せっかく人材や資金を投入して拡大した領土などを、後に奪還される事もよくある事であり、言葉を選ばずに言うのであれば、“骨折り損のくたびれ儲け”、初めから話し合いや交渉で解決した方が良かったのに、と後の歴史家に鼻で笑われてしまう事も多いのである(もちろん、それも歴史的見解の一つに過ぎず、結果としてはそうするのがベストだとしても、当時の情勢などを鑑みれば、そうせざるを得なかった事情も考慮しなければならないが)。
もっとも、真に不幸なのは、己の愚かしさを歴史に刻んだ為政者達ではなく、そんな者達に振り回された一般市民な訳だが。
まぁ、それはともかく。
さて、で、ヒーバラエウス公国は、以前にも言及した通り、領土的な問題によって、地下資源は豊富に存在するのだが、その一方で農地に向いた土壌が少なかった事もあり、食糧生産に関しての問題点を抱えていた訳である。
もっとも、これに関しては、アキトとリリアンヌが共同開発した『農作業用大型重機』によって解決の兆しが見えた訳であるが、当然ながら、農地を開拓する、という事は、自然破壊をする、という事でもある。
また、地下資源を採掘するのも同様の話であるから、ヒーバラエウス公国では環境破壊が新たなる問題として浮上してしまったのである。
もっとも、本来ならば、現時点ではそんな事を気にする者達は殆ど存在しなかった。
実際、向こうの世界においても、環境保全に対する考え方や、エコロジー運動が活発化したのも近年に入ってからであり、それまでは資源を得る為に、多くの森やそこに暮らしていた生態系を多数破壊していた経緯が存在し、それに対する危機感を持っていた者達は極少数、いる事にはいただろうが、そうした声は封殺された経緯が存在するのである。
しかし、そこはそれ、『前世』の知識を有するアキトの存在によって、ディアーナは環境破壊に対する懸念を、正しく理解していたのであった。
もちろん、ヒーバラエウス公国の『食糧自給率』の問題点から、農地の開拓、あるいは交易の観点から地下資源の採掘はヒーバラエウス公国の国家プロジェクトとして必要な事なのであるが、そこで終わってしまったら、利益と引き換えに自国の自然環境は破壊するだけになってしまう。
そこで、ディアーナは、エルフ族の持つ『植林技術』に目を付けた訳であった。
以前にも言及した通り、この世界におけるエルフ族は、“森の民”の異名を持ち、自然と共生して生きている種族ではあるのだが、一方で、生活を営む為にその自然を切り崩す事自体を否定はしていない。
エルフ族自身も、森を切り開き、集落を形成し、森の恵みや生き物を糧としているし、『精霊魔法』という種族的能力を持ち合わせていても、資材としてや燃料などのエネルギー源としては、やはり木材の方が優れているので、森林伐採なども普通に行っている。
ただ、もちろん、一部の人間族も同様の考え方や技術を持っているが、エルフ族は種族全体としてそこで終わるのではなく、『植林技術』による再生までのプロセスも含めているので、そうした異名を持つに至っているのである。
まぁ、実際にはこれは当然と言えば当然の事なのであるが。
自分が使った物なのだから、後片付けまで含めて責任を負う必要がある。
やったらやりっ放し。
誰かが何とかしてくれる。
なんて事は、本来ありえない事なのだから。
まぁ、それはともかく。
もちろん、自然を再生する事は一朝一夕で出来る事ではないが、開拓、あるいは地下資源の採掘と同時進行で緑化を進める事は、自然破壊が大分進んだ上で慌てて始めるよりも遥かにマシであるし、先程も言及した通り、魔法技術、魔道具が存在するこの世界においても、資材としてやエネルギー源としても木材は重要な素材であるから、自然環境を考える上でも、将来的な自国の利益を考える上でも、この時点で『植林技術』を取り入れる事で、持続可能な社会を実現しようとするディアーナの判断は的確であると言えるのだった。
そして、一方のグレン達エルフ族としても、その見返りに『魔素結界炉』の技術を得る事は国家として必要な事でもある。
先程も言及した通り、自然と共生、調和して生きるのがエルフ族の基本姿勢であるが、そうなると、文明的・技術的に他の国家に遅れを取ってしまう懸念も存在する。
先程も言及したが、“時代の変化”、“環境の変化”に対応出来てこそ生き残る事が出来る訳で、一つの考えに固執するのではなく、物事を柔軟に考える事も時に必要なのである。
『魔素結界炉』は、リリアンヌが古代魔道文明時代の遺産から着想を得た技術であり、そこにアキトの知識が加わる事で完成に至った代物である。
アキトとリリアンヌが共同で開発した『農作業用大型重機』のキモとなる部分でもあり、向こうの世界における『原動機』を、魔法技術的に再現した代物とも言える。
で、当たり前だが、『魔素結界炉』=『原動機』とするのであれば、当然ながらそこには様々な応用が可能となる訳だ。
現時点では、アキトとリリアンヌが共同開発した『農作業用大型重機』が代表的な代物であるが、例えば船などの推進力としても、この『魔素結界炉』は活用出来る可能性が極めて高い。
以前にも言及したが、この世界におけるエルフ族は、“森の民”の異名を持つ一方で、“海の民”としての側面も持ち合わせており、『海洋技術』、特に『航海術』や『造船技術』においては人間族を上回る技術力を持っていた。
それ故に、ハレシオン大陸から逃れ、エルギア列島にて国家を築くに至っており、海上における技術は、エルフ族の大きな強みになっている訳だ。
そこに、更に『魔素結界炉』の技術が加われば、エルフ族は強力な船を造る事が可能となる訳で、エルフ族として国家としての海上における優位性を更に磐石なモノと出来る可能性が極めて高いのである。
もちろん、最終的には、この技術を他国に対する交易の道具とする事も視野に入ってくるが、現時点ではその段階ではない。
もっとも、優れた海上における技術を人間族に提供した結果、エルフ族の優位性が失われる懸念も存在するのだが、そこはそれ、元々『原動機』代わりに駆使していた『精霊魔法』がエルフ族にはある訳で、海上における優位性が損なわれる事はないのである。
もちろん、“魔法銃”の存在により、そこにも多少の変化はあるのだろうが。
まぁ、それはともかく。
そんな訳で、今回の交渉は、ディアーナにとってもグレンにとっても、お互いに利のある話となっており、無事に交渉成立と相成っていた訳であったがーーー。
・・・
「いやはや、今回はお互い良い話し合いになりましたな。」
「そうですわね。・・・出来れば他の国の方々とも、円滑に事が進められれば良いのですけれど・・・。」
「まぁ、『ブルーム同盟』の同盟国、参加国であれば、お互いに悪い様にはなりますまい。そうした意味では、我々としても、『ブルーム同盟』に合流出来た事は僥倖であったと言えますな。」
「そうですわね。流石はアキト様、と言ったところでしょうか?」
「・・・ですな。」
交渉が一段落つき、ディアーナとグレンは穏やかな雰囲気で会話を交わしていた。
つい数年前なら、こうしてヒーバラエウス公国の大公家の人間と、人間族から迫害を受けてきたエルフ族のグレンが、ロマリア王国の中心地である王都・ヘドスでこうした会談を開催する事などありえなかった事態である。
しかし、そこにそれ、アキト(もちろん、彼だけの力ではないが)の存在によって状況が一変し、こうして犬猿の仲だったヒーバラエウス公国とロマリア王国が手を取り合ったり、迫害を受けてきた異種族、他種族であるエルフ族とも穏やかに交流する事が出来る様になっていた訳である。
特に、人間族に比べたら長い時を生きているグレンにとっては、そこに感慨深いモノがあるのかもしれなかった。
「そういえば、それに絡めた話になるかもしれませんが、ロマリア王家が“宮廷舞踏会”を開催する運びとなっている様ですね。」
「ええ。私も御招待を受けておりますわ。もちろん出席させて頂く予定です。嫌らしい話、顔を売っておく良い機会ですからね。」
「ハハハッ、それは私も同様ですよ。もちろん私も御招待を受けておりますし、出席させて頂く予定です。エルフ族の代表者としては、人間族の方々とより交流を深める良い機会ですからな。」
ふと、何気なく話題を切り換えるグレン。
もちろん、ヒーバラエウス公国との交渉も大事であったが、実はグレンとしてはこちらの方がメインの話だったりするからである。
しかし、その返答に、ディアーナは少し暗い表情を浮かべていた。
「そうですわよね。グレン様はエルフ族。つい数年前までは、我々人間族から迫害を受けていた身。皆さんを見ていると、つい忘れてしまいそうになりますが・・・。」
「・・・過去の事ですよ、ディアーナ殿。もちろん、残念ながら、我がエルフ族の中にも、人間族を快く思わない者達も確かに存在しますし、それは恐らく、人間族側もそうなのでしょう。しかし、アキト殿達が新たなる可能性を示されたのに、過去にこだわっていては、これからの未来に影を落としてしまうでしょう。過去は変えられませんが、未来はこれから選び取る事が出来ます。であるならば、私としては、人間族も我々エルフ族はもちろんの事、他の異種族、他種族とも、手に手を取り合える、そんな未来を選び取りたいモノです。これからの若者、子供達の為にも、ね。」
「・・・グレン様・・・。」
当然ながら、差別や偏見は一朝一夕ではなくす事は出来ない。
人間族が持っている、異種族、他種族を何処か見下した様な考え方(裏を返すと、実は異種族、他種族が持つ優れた資質を妬む心理なのだが)、はそう簡単にはなくならないし、差別や迫害を受けた側の恨み、エルフ族が人間族に対して持っている敵意や敵愾心もなくなった訳ではない。
だが、これからの若者、そしてこれから生まれてくる子供達にまで、そんな事情に付き合わせる必要はないのである。
戦争や紛争は、結局は誰かの理論だ。
いがみ合っているのは、いつも愚かな大人達なのである。
しかし、それによって被害を被るのは、いつも社会的弱者、すなわち、女性や子供達なのである。
これは、ハッキリ言ってナンセンスな事である。
女性や子供達とは、すなわち未来の象徴だ。
それを、自分達の勝手な理論によって巻き込むという事は、同時に自分達の未来も奪っているという事だからである。
まぁ、そんな簡単な事にも気付かない愚か者達も多いのであるが。
で、あるならば、自分達の事情はこの際置いておくとして、未来の為にも、建設的な行動を起こす方がよりマシであるだろう。
少なくとも、グレンはそう考えていた訳である。
もちろん、過去の因縁に終止符を打つ事は生半可な事ではないだろう。
歴史的にも、人間族がエルフ族を含めた異種族、他種族に対して行ってきた愚行は擁護出来るモノではないし、それに対して反感を持つ異種族、他種族の者達の心理ももっともな反応なのだから。
だが、そこで思考を停止してはいけないのである。
何処かで、禍根を断つ必要があるのだから。
それが困難な道である事はグレンも分かっているだろうが、そこはそれ、アキトらがそのキッカケを与えてくれた訳である。
それを活かすか殺すかは、選択肢を委ねられた側次第である。
そしてグレンは、その選択肢から最善の解を導き出せる人物であった。
多少困った部分も存在するが、グレンやマルセルム、そしてアキトの周辺の大人達は、本当の意味で“立派な大人達”なのである。
グレンの姿勢や覚悟に、ディアーナも何かを感じ入るモノがあった様である。
「グレン様っ!及ばすながらも、私を御協力させて頂きますわっ!!」
「おおっ、有難い!未来の為に、これからも力を合わせて参りましょう。」
「ええっ!」
そう言って、固い握手を交わすディアーナとグレン。
各々立場は違えど、こうした者達が為政者側に存在するのならば、ヒーバラエウス公国やエルフ族の国、そして『ブルーム同盟』の未来は明るいモノであるかもしれなかったーーー。
・・・
「お若いと言えば、ディアーナ殿もお若くていらっしゃいますよね?確か、アキト殿と同世代くらいではありませんでしたかな?」
「ええ。まぁ、私の方が少し年上ではありますが・・・。」
ディアーナとグレンの雑談は続いていた。
グレン的には、少し話が逸れてしまっていた為に、その軌道修正をしたに過ぎないのであるが、それにディアーナは快く応じてくれていた。
ディアーナとしては、自身よりも遥かに経験の豊富な先達であり、なおかつ、何処か自分の祖父母の様な雰囲気を持つグレン(実際には、ディアーナとグレンでは、年齢的には祖父母よりも遥かに離れていたが。それに、グレンは、人間換算でいうと、まだ50代半ばほどであるが、ティーネという孫娘が存在する、実際におじいさんでもある。)との会話を楽しんでいた節もあったが。
「ほうほう。まぁ、アキト殿は多少規格外の存在ではありますが、貴女の様な若い人が活躍する土壌があるのは素晴らしい事だと思います。こう言っては何ですが、年寄り達だけだと考えが凝り固まってしまいますからなぁ~。我がエルフ族も、そろそろ世代交代の時期に入ったのかもしれませんな。」
「まぁ、私の様な若輩者が活躍出来るのも、ひとえにアキト様のお陰ですけれど。それに、エルフ族にはティーネ様達の様な素晴らしい人材をお持ちではありませんか。グレン様もまだまだお若くていらっしゃいますし。」
「いやいや、私はもうかなりの年寄りですよ。これでも、すでに300年近く生きておりますからな。まぁ、人間族換算でいくと、50代半ばぐらいですが。」
「300年っ!?・・・改めて、エルフ族の方々は長命なのですねぇ~。」
改めて、エルフ族の長命ぶりを目の当たりにしたディアーナは、目を丸くして驚いていた。
ちなみに、ディアーナ、それとリリアンヌ、レティシアらは、アキトよりも年上であり、17、8歳くらいである。
以前にも言及したが、ロマリア王国では、13歳で成人と見なされており、そうでなくとも、他の国でも15歳くらいで成人の仲間入りを果たすのが一般的であった。
これは、この世界の平均寿命的な問題もあるのだが、ぶっちゃけると労働力の観点からも、長々と教育を施している時間がない事もあるのである。
故に、第二次性徴に至るくらいの年齢、もちろん、これは個人差があるのだが、男女共に子供を作る事が可能になる年齢、すなわち、13歳前後、15歳前後を目安として、成人として扱う様になっていたのである。
ヒーバラエウス公国は、元々ロマリア王国から独立(分裂)した国であるから、そうした細かい点で、ロマリア王国が持っていた制度を踏襲しており、ヒーバラエウス公国においても、13歳成人制が採用されていたのである。
もちろん、本来ならば、いくら身体は大人に近付いていても、精神的に未熟な事には変わりがないし、それはこの世界においても同様であるから、10代から活躍する事は、それこそ実力主義を掲げている冒険者であっても難しい。
大抵の場合は、20代に入ってから、ようやく一端として認められるのが本当のところであるから、そうした意味では、公女という立場は持ってはいても、お飾りでもなんでもなくディアーナが活躍しているのは、ひとえに彼女の優秀さが故の事である。
そして、特に政治的な場においては、誰かの息子、あるいは娘としてではなく、しっかりとした立場を背負って立つ10代というのは、非常に珍しい事なのである。
そして、それこそが、グレンの狙いでもあった訳であった。
「まぁ、我々エルフ族と人間族とでは、時間の感覚も多少違いますからね。それに、長く生きていれば良いという訳でもありません。その中で、何を感じ、何を学び、何を成すか、なのですからな。その点では、寿命に違いがあれど、我々エルフ族と人間族に、そう差違はないのですよ。」
「はぁ~、そういうモノですか?」
「ええ。まぁ、貴女にもその内に分かるかもしれませんね。・・・そういえば、お若いと言えば、ロマリア王国のティオネロ王も随分お若かったと記憶しておりますが。」
「そうですね。確か、15、6歳だったかと。実際にお顔を拝見した機会は少ししか御座いませんが、まだ幼い印象を持った事を記憶しています。それなのに、一国を背負う王の立場を持つのは、私には分からない御苦労があるのでしょうねぇ~。」
「そうですなぁ~。年を取っていれば良いという訳ではありませんが、さりとて、若ければ良いという訳でもありますまい。もちろん、若者の感性を取り入れる事は必要な事ですが、ね。もっとも、ロマリア王国は、実際には先王であるマルク殿や、頼れる御歴々の方々が脇を固めておりますから心配はないでしょうが、ティオネロ王には、さぞ御苦労が多い事でしょうなぁ~。」
「・・・そうですわね。」
先程も言及したが、特に政治の場にて活躍するディアーナと同世代の者は限られている。
故に、グレンやマルセルムの見立てでは、少なくともディアーナとティオネロが意気投合する可能性は極めて高いと見ていた。
彼らの狙いから言えば、それがそのまま恋愛感情に発展すれば文句はないのだが、少なくとも似た様な境遇、似た様な立場を持つディアーナとティオネロが、お互いに同調や共感をする事で、ロマリア王国とヒーバラエウス公国の関係もより友好的なモノとなれば良いと考えていたのである。
“まぁ、後は実際に会って話してからだな・・・。”
そう、グレンは心の中で呟いた。
現時点では、ディアーナにティオネロの事を少し意識される程度の事だが、それが上手く行ったと見ると、グレンはそろそろ、と言葉を続けた。
「おっと、少し話し込んでしまいましたな。私も次の会談がありますので、そろそろお暇させて頂きましょう。」
「あら、そうですか。長々と引き留めてしまいまして、申し訳御座いませんでしたわ。」
「いえ、お気になさらずに。私としても、若い方々とお話するのは楽しい事ですからな。・・・では、次は、その“宮廷舞踏会”の席にて、になりますかな?」
「そうですわね。私も、次にグレン様と御会いする機会を楽しみにしておきますわ。」
「私もです。」
お節介なおじさんではあるが、変にディアーナにティオネロの事を売り込まないだけ、グレンも良識を持っている様だった。
こうして場面は、いよいよ“宮廷舞踏会”へと進むのであったーーー。
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