そのおじさん達はお節介を焼く 5
続きです。
◇◆◇
「まさか、あの貴族家が謀反を企てていようとはな・・・。」
「元々あの貴族家は、『反戦派』の中でも『主戦派』寄りの立場でしたからねぇ・・・。やはり、それ相応に警戒しておいて正解でしたね。・・・まぁ、まさか謀反まで企てているとは思いも寄りませんでしたが。」
「うむ・・・。いくら何でも、流石に大きく出過ぎではある、か・・・。裏で何者かが関与している可能性もあるな・・・。」
「・・・ですな。焦りにつけ込んで、甘言に騙されていた可能性もありますね。彼の貴族家は、先の政変から、中央から切り離されていますからね。」
「・・・あまり人を疑うのは好きではないが、『主戦派』寄りの立場を取っていたのだ。当然の判断だと言えよう。まぁ、そのままにしておいて、泳がせる策もあった事にはあったが・・・。」
「・・・当時の我々に、そこまでの余裕はありますまい?まぁ、現状でも難しい事ですが。」
「そうであろう?・・・まぁ、いずれにせよ、彼の貴族家の処遇については考えねばなるまい。しかし、それよりも、その何者かによる関与の方が気になるところだが・・・。」
「・・・でしたら、一旦処分については保留し、動きを見るのも良いのかもしれませんね。“賊”に入られた事は向こうも分かっているのですから。」
「・・・だが、そうなると下手に動かないのではないか?」
「いえ、それがそうでもありますまい。彼の貴族家は、“賊”の正体にまでは気付いておりません。そもそも、ヒーバラエウス情報局は、ヒーバラエウス公国内においても、知る者達は限られておりますからね。それに、今回に関しては、アキト殿のお知り合いが御協力下さったのです。万が一もありませんよ。」
「ふむ・・・。」
「御相談中申し訳ありません。恐らくですが、今話に出ていた件の貴族家に関与したのは、“ネオ・テオス”かと思われます。」
「ネ、“ネオ・テオス”だとっ!?」
「・・・メルヒ殿。それは確かな情報かな?」
「・・・さあ?我々は、『ブルーム同盟』・諜報機関の統括から、そう聞かされただけですからね・・・。」
「・・・ふむ、『ブルーム同盟』の・・・。」
「『ブルーム同盟』の諜報機関からの情報であるならば、信憑性は高いですね。今回の件でも、ヒーバラエウス情報局が内々に調査していた件に関しても、『ブルーム同盟』には筒抜けだった様ですし・・・。」
「そう考えると、『ブルーム同盟』が味方であって本当に良かったと思うぞ。まぁ、アキト殿が関与している時点で、もはや驚きもないがな。」
「・・・違いありません。」
苦笑気味にそう感想をもらしたアンブリオ。
それに、ドルフォロも同調した。
「・・・して、その“ネオ・テオス”がどの様に関与していたのかの情報も、『ブルーム同盟』は持っているのかね?」
「ええ、もちろんです。もっとも、先程も申し上げた通り、その貴族家と“ネオ・テオス”が繋がっている、と仮定した話にはなりますが・・・。」
「・・・ふむ。『ブルーム同盟』の調査力を持ってしても、尻尾を掴ませんか・・・。やはり厄介だな、“ネオ・テオス”は・・・。」
「・・・ですな。」
そして、そんな大公家の者達と会談しているのは、元・アキトの従者であったエルフ族のメルヒであったーーー。
・・・
マルセルムとグレンの思い付きから始まった今回の騒動だが、それに便乗したヨーゼフの策略によって、メルヒ達は更に要らぬ厄介事に巻き込まれる事となっていた。
そして、イーナとユストゥスがロマリア王家と接触していた一方で、メルヒ・ハンス・ジークは、ヒーバラエウス公国方面を担当する事となっていたのである。
以前にも言及した通り、『タルブ政変』を経て、ヒーバラエウス公国は、ロマリア王国とは違い、『政権交代』をするほど大きな政局の変化が起こった訳ではないのだが、所謂『主戦派』と呼ばれた者達の大粛清が巻き起こり、政情が不安定になっていた。
もちろん、アンブリオやドルフォロ、ディアーナの尽力により、その混乱は早期に抑え込められたのだが、そうは言っても、そうした事に対する不安や不満が現政権に向かうのは、これは致し方ない事であろう。
ここら辺は、向こうの世界でもよくある話である。
そうした社会的不平不満につけ込んで、何かを画策する者達が出るのは、これもよくある話である。
そして、それに他国や他勢力が関与する事も。
ヒーバラエウス情報局(HIA)は、新設したばかりの機関である。
もちろん、その前身となっていたザルティス元伯爵家自体は、包括的に国内・国外を問わず、ヒーバラエウス公国、あるいは大公家に仇なす者達の情報を広く収集していたのだが、『公女暗殺未遂』を経て、“御家取り潰し”からヒーバラエウス情報局(HIA)への移行に伴い、実質的に活動が出来ていなかった期間が存在するのである。
いくら優秀な人材が多く集まっているとは言っても、人材には限りがある訳で、すなわち調査力にも制限が掛かる。
何だかんだ言っても、やはり日々の積み重ね、情報の更新も重要になってくるのである。
それ故、ヒーバラエウス情報局はまずは足下からと言う事で、手始めに国内の調査に力を注いだ結果として、他国や他勢力の関与を与える隙を作ってしまったのであった。
で、そんな他国や他勢力の中に、先程のアンブリオ達の話に出てきていた“ネオ・テオス”という組織があったのである。
以前から言及している通り、この世界、特にハレシオン大陸における一大宗教団体はライアド教なのだが、現ライアド教においても、実際には大まかに『ハイドラス派』と『セレスティア派』に分かれていたりする。
そして、こちらも言及したかもしれないが、ライアド教の元となった『ラ・イアード教会』の更に元となった宗教団体は、ハイドラスを唯一神としたモノではなく、ソラテスやアスタルテ、更には他の様々な神々を包括的に信仰する多神教だったのであった。
宗教団体が、様々な宗派や分派に分かれる事はよくある事であり、その中には独立し、全く別の神を信仰する(同一である可能性もあるが)宗教であると主張する宗教団体も多いものだ。
ここら辺は、向こうの世界における『アブラハムの宗教』、すなわち、『ユダヤ教』・『キリスト教』・『イスラム教』(イスラーム)の関係に似通っているもしれない。
まぁ、それはともかく。
で、そうした様々な宗派や分派が存在するライアド教の親類みたいな宗教団体の中には、中々過激な思想を持っている宗教団体も存在したのである。
その一つが、“ネオ・テオス”だったのである。
現ライアド教の、特に『ハイドラス派』も、ある種の選民思想を持っていたが、これが社会体制にマッチしていた事もあり、広く受け入れられるに至っていた。
“選ばれた民”、すなわち、“貴族”達によって、“選ばれなかった民”、すなわち、“非貴族”達を支配する社会構造。
なるほど、特に体制側としては、現ライアド教(『ハイドラス派』)は都合の良い宗教団体だった訳である。
まぁ、それに反発した“非貴族”達、すなわち一般市民の間では、それに対して『セレスティア派』が横行するキッカケともなっているのだが。
一方の“ネオ・テオス”はもっと極端であり、“ネオ・テオス”を信仰する者達、すなわち自分達が特別であり、それ以外は彼らに支配(管理)されるべき存在である、という思想を持っていたのである。
そこには、王候貴族も関係なく、ある意味では皆平等である。
皆平等に、“ネオ・テオス”の奴隷、という訳である。
中々に過激な思想であるが、特にハレシオン大陸の現体制に不満を抱く者達にとっては、ある意味では自分達の希望にマッチングした宗教団体だった訳であった。
とは言え、実際には“ネオ・テオス”は、貴族という、ある意味この世界における金持ち達を取り込めなかった事が災いし、その規模は現ライアド教には遠く及ばない小規模なモノに過ぎなかったのである。
当たり前だが、何をするにしても資金と人材が重要なのだ。
それ故に、もちろん体制側としては警戒すべき相手ではあったのだが、リソースの観点から言えば、そこまで大袈裟に資金を割くべき相手でもなかったので、一応監視だけさせて、半ば放置されていたのであった。
が、そんな“ネオ・テオス”が、今回、ヒーバラエウス公国に干渉してきた、という訳であった。
・・・
「なんと言うか・・・、我が娘ながら不憫な事よな・・・。」
「ですねぇ~・・・。」
「まぁ、裏を返せば、それだけディアーナ公女殿下の持つ影響力が大きい、という事でしょう。ヒーバラエウス公国内においては、彼女は国民から絶大な支持を得ていますからね。」
「・・・まぁ、それは否定せんが・・・。」
「・・・ですね。我々としても、ディアーナの持つ影響力を考慮して、『ブルーム同盟』の代表(大使)に起用した思惑も存在しますからな。まぁ、もちろん、彼女の政治的手腕もあったのですが。」
「うむ・・・。ディアーナが他国に対して肯定的は立場を取れば、自ずと国民もその考えを受け入れていくからな。」
「これからの時代は、国内だけに終始するのは、ヒーバラエウス公国の為にもならない。そうした考えもあったのですが・・・。」
「“神の花嫁”、とはなぁ~・・・。」
以前にも言及したかもしれないが、ディアーナはその見た目の美貌もさることながら、知性と慈愛を持った才媛でもあり、ヒーバラエウス公国の国民から絶大な支持を集めていた。
それに、いやらしい話、彼女の推し進めた政策によって、経済的にも豊かになった訳で、人々の心と懐を温めてくれる存在である彼女が支持されない筈もないのである。
そんな、特にヒーバラエウス国民に多大な影響を与える存在である彼女が、『ブルーム同盟』の代表(大使)に就任したのは、これはドルフォロの発言にもある通り、ヒーバラエウス国民に対する影響を考慮した結果である。
以前のロマリア王国とヒーバラエウス公国は、ある意味犬猿の仲であった訳だが、アキトらの介入によって国交が再開される事となった訳で、そうなれば、以前のわだかまりは捨て、積極的に交易や交流を推し進める必要がある。
そうでなければ、単純にヒーバラエウス公国の経済が他国に劣る様になってしまうからである。
それ故、ヒーバラエウス公国の国民に絶大な支持を集めるディアーナが『ブルーム同盟』の代表(大使)、あるいは外交を務める事で、ヒーバラエウス公国の国民達にも他国に対する感心を高め、あるいは肯定的な意見を持つキッカケとしようと画策したのである。
そんな思惑もあって、『ブルーム同盟』の代表(大使)に就任したディアーナであるのだが、裏を返すと、それほどの影響力を有する彼女を狙った者達もまた多い訳である。
もっとも、ディアーナは現時点ではロマリア王国に滞在しており、更には『ブルーム同盟』の代表(大使)として、ヒーバラエウス公国の代表であるという立場と同時に、『ブルーム同盟』の所属ともなっている訳で、アキトの影響を色濃く受けている『ブルーム同盟』に守られる形になっており、ハッキリ言って、現在の彼女を直接どうこうする事は不可能に近い訳だ。
であるならば、間接的にディアーナに干渉すれば良いだけの話である。
仮に、今ヒーバラエウス公国にて何かしらの異変が巻き起こったとしたら、大公家の一員でもあるディアーナが、一時的にでもロマリア王国を離れ、ヒーバラエウス公国に帰国する可能性は高い。
いくら『ブルーム同盟』とは言え、先程も言及した通り、人材には限りがある訳で、更には他国に対する干渉にも当たるので、ヒーバラエウス公国内における彼女の防衛力は、ロマリア王国に居る頃よりかは格段に弱くなる。
それを“ネオ・テオス”は狙ったのである。
筋書きはこうだ。
先の『タルブ政変』を経て、ヒーバラエウス公国の中央から引き離された件の貴族家に接触し、その焦りにつけ込んで、色々と動く事を提案する“ネオ・テオス”。
もちろん、自身の破滅を危惧して、その話に一旦は難色を示すだろうが、一度ある程度の立場を持っていた貴族家が、それに返り咲きたいと思うのは、これは致し方ない事であろう。
人は、一度引き上げた生活水準を、引き下げる事は中々困難なモノだからである。
それに、ある種の自尊心もある。
その末で、その貴族家は、“ネオ・テオス”の話に乗ってしまったのである。
その後、その貴族家がヒーバラエウス公国に対して謀反を起こす算段であった。
もちろん、それが上手く行く事はないだろう。
多少混乱したとは言え、現在の大公家は磐石な体制を敷いているし、『政変』を起こしたところで、他の貴族家からの支持を得られる可能性は極めて低い。
もちろん、利があればどう転ぶか分からないのが貴族なのだが。
だが、当然ヒーバラエウス公国が再び混乱する事は間違いない。
そして、そうなれば、大公家の一員であるディアーナが、再びヒーバラエウス公国に戻ってくる事は、これはある種規定路線である。
そして、そこでディアーナを確保するのが、“ネオ・テオス”の真の狙いだった訳である。
先程も言及したが、ディアーナはヒーバラエウス公国の国民から絶大な支持を集める存在である。
その上、現君主であるアンブリオよりも、アンブリオの後継者であり、今現在は宰相の様な立場を持つドルフォロよりも影響力を持つ存在であると同時に、そんな彼らよりも、ヒーバラエウス公国内では防衛が手薄でもあるのだ。
であるならば、彼女を狙うのがもっとも効率的、かつ成功率が高いのも道理である。
もちろん、ディアーナの護衛の名誉の為に明言しておくが、彼らのレベルが特段低い訳ではない。
だが、攻める方に対して守る方が難しいのは、これは当たり前の話であるし、そもそも情報の観点から、ヒーバラエウス情報局でさえ“ネオ・テオス”の動向を掴んでいなかった事もある。
襲われる事が事前に分かっていれば、まだ対策のしようもあるだろうが、いつ襲われるかも分からない状況の中では、対応が後手後手に回るのも道理である。
情報が如何に大事かが、この事からも分かるというモノである。
その後は、ディアーナを人質にするなり洗脳するなり、使い様はいくらでもある。
もっとも、“ネオ・テオス”の計画では、秘密裏に拉致したディアーナと“ネオ・テオス”の教祖を無理矢理婚姻させて、彼女を選ばれた“神の花嫁”であるとし、徐々にヒーバラエウス公国を乗っ取る算段であった訳だが・・・。
「ですが、御安心下さい。件の貴族家の機密文書から、“ネオ・テオス”の居場所は分かっています。ツブそうと思えば、何時でもツブせますので・・・。」
「「・・・・・・・・・。」」( ̄▽ ̄;)
それが、『ブルーム同盟』の諜報機関に察知されていた事、更にはその情報が、アキトと並ぶほどの現代の英雄たるメルヒ・ハンス・ジークに伝わってしまっていた事が、“ネオ・テオス”にとっては運の尽きである。
また、メルヒは、同じ女性として、今回の“ネオ・テオス”のやり口に個人的な嫌悪感を抱いていた。
正に、“ネオ・テオス”の命運はすでに風前の灯であった訳である。
「し、しかし、『ブルーム同盟』にそこまでやって頂く訳には・・・。」
「もちろん、タダで、とは申しません。こちらにも、交換条件が御座いますので・・・。」
「・・・ふむ。」
メルヒの発言に、アンブリオとドルフォロは目配せして頷いた。
「では、その交換条件とやらをお聞かせて頂いても?」
「いえ、まぁ、そこまで難しい話ではありませんが・・・。それに、結局は本人達次第ですからね・・・。」
「「???」」
メルヒは、その段になって初めて、何かを言い淀む様な素振りを見せた。
まぁ、彼女からしてみたら、思惑は理解出来るのだが、そこまで大袈裟な話にしなくても・・・、という思いもあったのだが。
「お話は簡単です。ロマリア王国のティオネロ王と、ディアーナ公女殿下のお見合いを、ヒーバラエウス大公家として了承して頂きたいのですよ。」
「「・・・・・・・・・はっ???」」
メルヒの発言に、今度こそアンブリオとドルフォロは、ポカーンとした表情になった。
うん、やっぱりそうなるよねぇ~、とメルヒも思いながらも、一度口に出してしまった以上、彼女ももはや後には引けなかったのだが・・・。
先程も言及したが、今回の件は、マルセルムとグレンのただの思い付きから始まった騒動である。
しかし、それを聞いていたヨーゼフが、この件は使えると判断し、具体的な策を用いて、あれよあれよという間に現実的な話にしてしまったのである。
当然ながら、ロマリア王家やヒーバラエウス大公家と交渉をするに当たって、『ブルーム同盟』としてもタダで、という訳にはいかなかった。
特に、ティオネロとディアーナの婚姻に関係する話、まぁ、実際にはまだまだ“お見合い”の段階でしかないが、仮に上手く行った場合は、両家、両国の将来に関わる話にもなるので、いずれにせよ両家の了承を得るのは最低条件であった訳である。
そんな重要な案件で両家を訪れる以上、“手土産”は必要だろう、とヨーゼフは考えた訳である。
もちろん、ヨーゼフにとってもこれはメリットのある話だった訳である。
『ブルーム同盟』の諜報機関が優秀なのはこれまで述べた通りだが、そうは言っても、資金や人材の観点から当然限界は存在する。
ならば、足りないリソースは、他から調達すれば良いだけの話である。
ロマリア王家とヒーバラエウス大公家が良好な関係を築く事で、その両家が持つそれぞれの諜報機関とも良好な関係を構築し、『ブルーム同盟』の持つ情報収集のノウハウや技術を提供し、その末で、各国の諜報機関と連携し、今よりも更には強大なネットワークを築く事が可能となる訳だ。
もちろん、各国の諜報機関には各々の機密に関わる事もあるだろうから、全面的な協力体制と言う訳にはいかないだろうが、それでも、それによって得られるメリットは大きい。
そんな訳もあって、マルセルムとグレンから無茶ぶりをされたメルヒ達に、ヨーゼフは仕事と称して情報という手土産を持たせ、交渉をスムーズに行える様に取り計らったのである。
まぁ、お陰で、メルヒ達には余計な負担も増してしまった訳であるが。
この様に、ヨーゼフの様な情報のスペシャリスト、かつ優秀な作戦立案者が存在し、メルヒ達という規格外の実行役が存在すれば、ただの思い付きを実現してしまう事も可能なのである。
ここら辺は、向こうの世界においても、よく見られる現象であるが。
「な、なるほど・・・。」
「ま、まぁ、経緯は、こう言っては何ですが、非常に馬鹿馬鹿し、もとい、ゆ、愉快な感じですが、確かに、マルセルム公やグレン殿のお考えも、あながち間違ってはおりませんね・・・。」
「・・・恐縮です。」
国を左右するほどの話が、実はマルセルムとグレンのただの思い付きと言われて、アンブリオとドルフォロもただただ苦笑していた。
まぁ、それにヨーゼフやメルヒ達が関わった事で、その規模は更にグレードアップした訳であるが。
さて、とアンブリオとドルフォロは、再び目配せをする。
多少気になる点もある事だが、彼らも大人である。
それに、彼らはヒーバラエウス公国を背負って立つ政治家でもあるのだ。
故に、その損得勘定を素早く計算した訳である。
「どう思う、ドルフォロ?」
「私は良いと思います。もちろん、メルヒ殿も言及した通り、最終的には当人達の気持ち次第ですが、大公家としては、今更反対する理由はありますまい。」
「・・・私と同じ考えか。」
以前のロマリア王国とヒーバラエウス公国の関係から言えば、そんな話はありえない事だった訳だが、今現在の両国の関係を鑑みれば、この話は非常に良い話なのである。
もちろん、メルヒやドルフォロも言及した通り、最終的にはティオネロとディアーナの気持ちが重要なのは間違いない事だが、政略的に見れば、この話は両国の関係をより強固なモノとする話なのだから。
それに加えて、仮に上手く行かなかったとしても、すでに『ブルーム同盟』の諜報機関からの情報提供にノウハウや技術提供の確約、“ネオ・テオス”の問題解決、と、彼らにとっては十分過ぎるメリットが提示されている。
故に、ここでアンブリオとドルフォロが乗らない筈がないのである。
「・・・承知した。大公家としては、ティオネロ王と我が娘ディアーナがお見合いをする事を了承するモノとする。」
「ハッ!ありがとうございます。」
「・・・うむ。むしろ、お礼を言うのはこちらの方の様な気がするが・・・、まぁ、良いか。」
「・・・ですね。」
メルヒにとっては、非常にくだらない、もとい、少しばかり納得いかない事であるが、これも仕事である。
故に、相手の了承を得られた事に対して、率直にお礼を言っただけに過ぎないのである。
「・・・それで、“ネオ・テオス”の件はいかが致しますか?こちらは、何時でも動けますが?」
「ああ、そうであったな。」
「色々衝撃的過ぎて忘れておりましたねぇ~。」
最後に、件の貴族家は、ヒーバラエウス公国の所属であるから、そこはヒーバラエウス公国が判断なり処分を下すべき事柄であるが、ヒーバラエウス公国とは直接的な関わりのない“ネオ・テオス”に関してはどうするかを、メルヒは確認した。
別に彼女達が介入すべき事でもないのだが、そこは乗りかかった船である。
まぁ、彼女達にしてみれば、ライアド教(『ハイドラス派』)に遠くと及ばない規模の組織など、それこそツブす事など造作もない事である事情もあったのだが。
「ついで、と言うのも何だが、頼んでもよろしいかな?個人的には、件の貴族家にちょっかい掛ける程度なら、まぁ、見逃しても良かったのだが、我が娘を狙われた以上、少々腹立たしいのでね。」
「ハハハ・・・。」
「承知致しました。」
以前にも言及したが、アンブリオは特にディアーナを可愛がっていた。
もちろん、今は子離れが出来ているが、それでも親としては、妙な事を企んだ“ネオ・テオス”に対して腹に据えかねていたのであるーーー。
◇◆◇
「教主様。いよいよですな。」
「ムヒョヒョヒョ、そうであるなぁ~。」
一方、何にも知らない“ネオ・テオス”の教祖は、とある場所にあった“ネオ・テオス”の本部施設にてそんな会話を交わしていた。
“ネオ・テオス”の教祖は、ハッキリと言ってしまうと何か特別な力を有している訳でも、高度な教育を受けてきた訳でもない普通の男であった。
いや、正確に言うと、悪知恵だけは働く下衆で好色な男、と表現した方が良いかもしれないが。
そんな男が、ヨーゼフ率いる『ブルーム同盟』の諜報機関に尻尾を掴ませなかったのは違和感があるかもしれないが、そこはそれ、先程も言及した通り、ヨーゼフ達の情報収集能力にも限界が存在するし、トップが無能だからと言っても、“ネオ・テオス”の組織自体は優秀な人材がかなり揃っていたのである。
ここら辺は、向こうの世界でもよくある話であるが、頭脳や技術に優れているにも関わらず、カルト的団体に傾倒してしまう人々も多いモノなのだ。
優秀さと精神的な強さは、必ずしも比例しないモノだからである。
故に、盲目的に教祖に付き従い、その優れた能力を間違った方向に発揮してしまうケースも存在する。
“ネオ・テオス”は、正にそうしたケースに該当するカルト的団体だった訳であった。
教祖は、一部で“ヒーバラエウス公国の至宝”とさえ呼ばれるディアーナを、ようやく自らの手中に収める事が出来ると暗い喜びを爆発させていた。
非常に頭の悪い話ではあるが、“ネオ・テオス”の教義の中には、教祖の寵愛、すなわち神の寵愛を受ける事が、最高の栄誉、至上の浄化である、とする考えが存在していたりする。
もっとも、ディアーナの場合は教祖のハーレムに加える事だけでなく、彼女を“神の花嫁”として特別視して、彼女の持つ立場や影響力を利用しようとする思惑も存在したのであるが。
正に、ディアーナの貞操の危機であり、マトモな感性を持つ女性にしてみれば、嫌悪感すら抱く企みが密かに進行していた訳であるが、そこはそれ、ハンス達にその企みがバレてしまった時点で彼らの命運は尽きていた訳であるが。
「・・・大体権力を持った者達の考える事は似通ってるモンだねぇ~。」
「そうだなぁ~。」
「なっ、だ、誰だっ!!!」
「っ!!!???」
しれっと現れるハンスとジーク。
教祖と幹部信者は驚愕の表情をあらわにするが、いくら優秀な人材が揃っているからと言っても、アキトに並ぶ現代の英雄たるハンスやジークからしたら、この程度の事は造作もない事であったが。
「知る必要はないでしょ?」
「どっちみちアンタ達は、今日で終わりだしな。」
「クッ、教主様のお命を狙った賊かっ!?誰か、誰かいないかっ!!!」
「ヒ、ヒィィィィッ~!!!」
幹部信者は大声で助けを呼び、教祖は震えて部屋のすみにうずくまる。
が、助けが現れる気配は一向になかった。
「あぁ~、残念だけど、皆さんには眠って貰ってるからねぇ~。」
「助けは来ないモノと思ってくれ。さて、後アンタ達だけだ。」
「なっ・・・!!!」
「ば、バカなっ・・・!わ、ワシの夢がっ・・・!!」
その日、非常に呆気なく、一部ではカルト的団体として警戒されていた組織がこの世界から姿を消したのだった。
余談だが、その一部を目撃していた元・“ネオ・テオス”の信者達は、不意に現れたハンスとジークの姿を、本物の神々の怒りであると誤解し、フードからこぼれた姿形から、エルフ族、他種族を信仰する新たな宗教が生まれる事となるが、それはまた別のお話ーーー。
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