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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
幕間話 お見合い大作戦
200/383

そのおじさん達はお節介を焼く 3

続きです。



◇◆◇



突然だが、『英雄の因子』が持つ、最大にして最強の(チカラ)とは、()()()()()()()()()()()、という特性である。


例えば、この世界(アクエラ)における『英雄の因子』所持者は今現在のところ確認されているのはアキト一人ではあるのだが、その影響を受けたアイシャ、ティーネ、リサ、エイル、ヴィーシャはもちろんの事、元・従者であるジーク、ハンス、ユストゥス、メルヒ、イーナも英雄の領域を飛び越して、神話や伝承レベル(レベル500、すなわちカンスト。ただし、ヴィーシャだけは微妙に届いていないが、すでにレベル400はゆうに越えている。)の存在へと到達している。

更にはアキトの幼馴染みであるレイナード、バネッサ、テオ、リベルト、ケイアなども英雄の領域(S級冒険者相当。およそレベル400前後。)に到達しているし、ダールトンやドロテオなどといった、それまでもそれなりに活躍してはいたものの、アキトと関わる事となった結果、ただの平民としてはありえない立場や職務を持つに至っている。


つまり何が言いたいかと言うと、以前にも言及したが、世に“英雄”、あるいは“偉人”と呼ばれる存在になる為には、必ずしもこの『英雄の因子』が必要な訳ではないという事である。


アイシャ達は、もちろん『英雄の因子』所持者ではない。

しかし、アキトに関わった事で彼の影響を色濃く受けて、彼女達自身も、アキトに近しい存在になっている。

つまり、『英雄の因子』のもっとも恐ろしい、あるいは優れた能力とは、その『()()()』、誤解を恐れずに言うのであればある種の『()()()』であり、それに伴う他者の『()()()』というモノなのである。


実際に、向こうの世界(地球)における“英雄”や“偉人”達の中には、前提として他の“英雄”や“偉人”に見出だされた者達も多い。

逆を返すと、その先人がいなければ、その者も普通の人生を送っていた可能性もある、という事である。


現代風に解釈すると、スポーツやその他の分野で活躍する人物を、メディアなどを介して見たり聞いたりして、その影響によって同じ事を始めた子供が、将来的にその分野を代表するスターになる、という感じに似ているかもしれない。

つまり、他者の人生や生き方に多大な影響を与える、という現象自体は、特に珍しい話ではないのである。

まぁ、アキトの場合は、その影響力が極端に強いのであるが。


さて、そんな感じにアキトに影響を受けたユストゥス達は、実はアキトほどでないにしても、彼の持つ『英雄の因子』の能力の様なモノを継承しつつあるのである。

まぁ、それ故に、彼らが望むと望まざるとに関わらず、何かしらの厄介事も引き寄せてしまう為に、今回の様な事に巻き込まれる事にもなるのであるが、まぁ、“英雄”や“偉人”には試練は付き物であるから、それも致し方ない事なのであったーーー。



◇◆◇



当たり前の話だが、人々の主義・主張は全く同じではない。

それは、同じ勢力・派閥であっても変わらないのである。


ロマリア王国では、かつては王派閥と貴族派閥とに二分されていたが、今現在ではアキトらの活躍によって、貴族派閥は衰退の一途を辿っている。

これは、ヒーバラエウス公国における、主戦派と同様である。


では、ロマリア王国の王派閥の、あるいはヒーバラエウス公国の反戦派の者達が、何の野心も抱いていなかったかと言うと、答えはNOである。

ここら辺は、一口に“味方”と言っても、その経緯が異なる為に、そうした現象が起こるのである。(例えば、最初から味方である場合はあまり考えなくても良いが、元々は敵対していた者、あるいは、どちら側にも付かずに様子を見ていた者などは、つまりは勝ち馬に乗る為に寝返った、あるいは鞍替えした可能性が高い訳だから、やはりそれ相応に警戒が必要であろう。)


実際、ロマリア王国における元・貴族派閥であり、その後王派閥に鞍替えしたフィーエル伯爵の様な人物も相当数存在するのである。

まぁ、彼の場合は、下手に動き回った結果、アキトの『事象起点(フラグメイカー)』の能力に巻き込まれて自滅してしまったが、そんな事はおくびにも出さず、虎視眈々と自身の勢力を増強させようと画策している者達も存在していたのであるーーー。



・・・



「・・・首尾はどうだね?」

「は、はいっ!思いの外時間が掛かってしまいましたが、上手く事が運べそうです。」

「・・・うむ。まぁ、時間が掛かるのは構わんさ。急いては事を仕損じる。・・・私はマイレンやフィーエルとは違うのだよ。」

「・・・ホッ。」

「・・・それに、ティオネロ王はお忙しい方だ。あまり邪魔立てするのも心証がよろしくはないだろう。むしろ、それを考えると早いくらいだよ。」

「え、ええ、そうなのですよ。いえ、逆にその事を突いてみたのですがね?何かとお忙しいお立場であるならば、やはり伴侶がいた方が色々と良いだろう、と説いてみたのですよ。」

「・・・ふむ、なるほどな。」


ロマリア王国、王都・ヘドスの貴族街の一画にて、そんな会話を交わす貴族達の姿があった。


一般論として、婚姻によって男が得られるモノは、社会的ステータスと“家”を守る妻の存在である。

実際、この世界(アクエラ)の各家庭では、女性が専業主婦になる事も珍しくない。

まぁ、その一方で、農業従事者や商家などでは共働き(と言うか、家業の手伝い、と言った方が適切かもしれないが)も普通にあるのだが。


一方で、貴族の妻の役割は、家を取り仕切る、というモノで、所謂“家事”をこなす一般的な主婦像とはかけはなれたモノなのである。

まぁ、そもそも、貴族の住む屋敷は、もちろんピンからキリまであるが、掃除一つとったところで、とてもではないが一人でこなせる広さではない事が大半である。

故に、執事や侍女(メイド)、すなわち“お手伝いさん”を雇わない事には、“家事”が滞ってしまう、なんて事情もあるのである。

まぁ、それはともかく。


それ故に、外で仕事をする夫に成り代わって、家の事を取り仕切るのが貴族の妻の仕事であり、そんな事もあって、これは一般的な家庭でも同様かもしれないが、家の中での妻の権力はかなり大きかったりするのである。

実際、フロレンツの妻にして、ジュリアンの母でもあるオレリーヌは、『ノヴェール家』内では大きな発言力を有していたし、『ノヴェール家』ほどの大きな貴族家であると、その影響力は家の中だけに留まらず、他家にも及ぶ為、夫側にとってはプラスの面もあるし、またマイナスの面もあるのである。

まぁ、それもともかく。


いずれにせよ、夫側にとっては、妻を得る事で、精神的にも肉体的にもサポートを得られる訳である。


また、貴族の妻の役割はそれだけに留まらず、夫に成り代わって名代を務める事もある。

有能な人物であればあるほど、回ってくる仕事の量や接触してくる人物も多い。

つまり、単純に時間的制限を掛けられてしまうのである。


実際、上位の貴族ともなると、スケジュールがパンパンに詰まっている事も珍しくない。

当たり前の話だが、どれほど有能な人物であっても、時間は有限であるから、それによって取り零される事も多い。

その穴を埋めてくれるのが、貴族の妻の役割であり、また、後継者である息子や娘の役割でもあった訳である。


さて、こうした観点からも、今現在は多忙を極めるティオネロも、婚姻をする事の重要性を身に染みて実感していた訳である。

もちろん、ティオネロは王であるから、彼にしか出来ない事も多いのだが(それに、先王であるマルクのサポートもあるのだが、『政権交代』の経緯を鑑みれば、マルクが表立って動く事は憚られる訳だ。)、それでも、先程述べた通り、妻、王妃に担って貰える事も多い訳である。


こうした点を、この貴族達はティオネロに示した、という訳であった。


「・・・しかし、大きな機会が巡ってきましたな、パッフル伯爵。」

「・・・うむ。長きに渡って、網を張り巡らせておいた甲斐があったわ。我がアイゼングラード家の者が王家に食い込めれば、我々の権力も増大する。以前には考えられなかった事態ではあるが、フフフ、まさに英雄様々ってところだな。」

「・・・ですな。」


パッフル伯爵は、元から王派閥に属していた貴族ではあったが、以前はそれほど目立つ存在ではなかった。

だが、先の『政権交代』の折に、王派閥・貴族派閥問わず多数の貴族達が失脚、あるいは降格した事で、彼にもチャンスが巡ってきた訳であった。


先程も言及した通り、味方だからと言って、必ずしもティオネロにとって有益な存在である訳ではない。

そもそもパッフル伯爵が王派閥に属していたのも、自身、あるいはアイゼングラード家の権力を増大させる事が狙いであって、ロマリア王家に対する純粋な忠誠心からの行動ではなかった。


まぁ、とは言え、これは王派閥・貴族派閥問わず、そうした勢力に属していた大半の貴族達は、所謂おこぼれに(あずか)る事が狙いであった訳だし、曲がりなりにも仕事をこなすのであれば、報酬を期待するのは当たり前の話ではあるのだが。


そして、パッフル伯爵の今現在の狙いは、アイゼングラード家の女性をティオネロの伴侶とする、すなわちアイゼングラード家からロマリア王国の王妃を輩出しよう、というモノであったのだ。


まぁ、本来ならば(ここら辺はその国にも寄るのだが)、いくら貴族とは言え、公爵や侯爵の下の序列である伯爵家には、そもそもそのチャンスが巡ってくる事などありえない事だったのであるが(やはり、王の伴侶ともなると、マルセルムやグレンも言及していた通り、それ相応の家柄が必要になってくる。)、そこはそれ、アキトの巻き起こした『政権交代』と、それに伴う意識改革によって、そのチャンスが巡ってきたのであった。

まぁ、多分に、パッフル伯爵やアイゼングラード家の“売り込み”もあったのかもしれないが。


そんな事から、パッフル伯爵にとっては、アキトの影響は、良い方向に作用した様である。

・・・もっとも。


「上手くすれば、ティオネロ王とパッフル卿のご息女との子供が、次期国王となる訳ですな。そうなれば、必然的にパッフル卿も、次期国王の祖父、という肩書きを得られる事になりますな。」

「うむ。表向きの序列を気にするなど、二流のする事よ。王家の懐に入り込む。そうなれば、権力など思いのままなのだからなっ!!」


結局は、彼らもまた、己の権力や私腹を肥やす事に終始していた訳である。

まぁ、アキトの不在の今は、彼らにとっては最大のチャンスな訳だが、先程言及した通り、アキトに近い人々の『()()()』現象を、彼らは計算に全く入れていなかったのであったーーー。



・・・



「と、まぁ、こんな感じですわ。」

「う~む・・・。」


そんなパッフル伯爵ら、アイゼングラード家の者達の油断した会話は、マルクにバッチリ聞かれていたのであるがーーー。



以前にも言及したが、ヨーゼフは『ブルーム同盟』、ならびに『リベラシオン同盟』における諜報部門の統括である。


“諜報”とはすなわち、秘密や機密情報を、正当な所有者の許可を得る事なく取得する行為の事である。

その性質から、諜報行為はあまり良いイメージを持たれないのだが、その重要性は今更議論するまでもないだろう。


言い方を変えると、諜報とは、すなわち情報を取得する行為(それが合法か非合法かは、この際置いておくとして)でもあるから、大きな組織であればあるほど、より多くの情報を取得する必要がある。

何故ならば、そうしなければ、己の属する組織に不利益が生じる可能性が高いからである。


アキトの発案により、ヨーゼフ率いる『ブルーム同盟』、ならびに『リベラシオン同盟』の諜報部門は、実は各国に網を張り巡らせている。

実際、ヨーゼフ率いる諜報部門は、ロンベリダム帝国にも網を張り巡らせており、つい先日も、その情報をアキトに知らせたばかりである。


各国の情勢を詳しく知る事が出来れば、当然だが素早い対応が可能となる。

そうした事から、ヨーゼフ率いる諜報部門の重要度は極めて高いと言えるのである。


そして、そんな情報のスペシャリストであるヨーゼフ率いる諜報部門は、ロマリア王国におけるキナ臭い情報に関しても入手していたのである。

それが、今回のパッフル伯爵とアイゼングラード家の動向であった訳である。


話は少し変わるが、今現在のロマリア王国では、ティオネロをトップとして、組織の再編が行われている最中なのだが、ここにもアキトの知識が反映されていたりする。


フロレンツ率いる貴族派閥が衰退した事により、王派閥の天下となった事は以前にも言及した通りだが、当たり前の話として、権力が一極に集中する事は、リスクも大きいのである。


よくある話が、政治の腐敗である。

政権が長期になればなるほど、増長し、独裁的な政治を行う様になる傾向にある。

これは、どれだけ公明正大な人物であろうとも、権力の持つ魔力には(あらが)えない事を如実に表しているのである。


実際に、向こうの世界(地球)における現代社会においても、こうした人物や政権は存在する。

そして、それと同時に、それが如何に愚かであるかも、現代人は理解している、()()()()()()

何故ならば、歴史を学べば、自ずとその答えが見えてくるからである。


栄枯盛衰は世の常である。

当たり前だが、どれだけ隆盛を誇った組織、家、人物であろうとも、いずれは衰え、滅んでいく。

それは、歴史が証明しているのである。

で、あるならば、権力の一極集中がどれほど愚かな行為かは言わずもがなであろう。


実際に、向こうの世界(地球)の国や組織に寄っては、トップの任期を制限する事により、上層部の暴走を未然に防ぐ方策を取っているところもある。

結局は、組織の長期化における動脈硬化と、上層部が刷新されない事のデメリットは大きいのである。

その末で、“クーデター”や“革命”といった現象が起こってしまう可能性を鑑みれば、そうした制限は効果的な手法と言えるであろう。(まぁ、一方で、先程も述べた通り、そんな事も分からない愚か者も残念ながら多いのであるが。)


それと同様に、今現在はティオネロも若く、理想に燃えている青年であるし、混乱した情勢を落ち着かせる為に精力的に活動しているから良いのだが、将来的に、この“敵がいない”状況は、彼の増長を招く危険性がある。


それ故に、アキトは、国内のティオネロの()であるところの、“貴族党”と、そして国民の中から有志を募り、“国民党”を打ち立てる事を提案していたりするのである。

まぁ、()と言っても、要はティオネロや王派閥が暴走しない様に、苦言を呈したり、監視したりするストッパー役である側面が強いが。

それと同時に、貴族や国民の側に立つ人物や組織を正式に立てる事で、貴族や国民が持つ不満の受け皿とする狙いもあるのである。


己を律するのが難しいのであれば、他者にその役割を持たせれば良い。

これは、アキトが『前世』にて学んだ事であった。


そして、その応用ではないが、そうした勢力に干渉する事で、自ずと情報網の形成にも一役買う事になる訳だ。

また、敵性勢力を作り上げる事で、先程述べたティオネロに対する牽制や抑制と、王派閥の中にいる不穏分子の炙り出しにも期待が出来る訳だ。

この事から分かる通り、実は形骸化した貴族派閥、改めて“貴族党”や、国民の有志による“国民党”を立ち上げる為に、裏で『ブルーム同盟』、ならびに『リベラシオン同盟』が関与していたりするのであった。

まぁ、それはともかく。


そして、それにものの見事に引っ掛かったのが、今回のパッフル伯爵とアイゼングラード家であった訳である。

パッフル伯爵は、自分はフィーエルとは違う、などとのたまっているが、やはり敵性勢力の存在が明るみに出てくる事に対して危機感を持った事は否めない。

その末で、慌てて元々温めていた策を実行に移した訳である。

それがヨーゼフ率いる諜報部門の仕掛けた罠である事も知らないで。


で、それをヨーゼフから知らされたユストゥス達が、その対応に当たっていた訳であったがーーー。



目の前に映し出された“動画”を、渋い顔をして見ていたマルクとエリス。

更にその対面には、イーナが鎮座していた。


ロマリア王家に接触する為のチーム分けは、ユストゥスとイーナとなっていた。

で、そのユストゥスであるが、彼はこの場にはおらず、パッフル伯爵がいるアイゼングラード家に潜入しており、この“動画”をイーナ達に送る役割を担っていたのである。


“動画”の送受信に関しては、アキトが再発見・再開発した『精霊の眼』を利用しており、これによって、遠く離れた場所の状況をリアルタイムで確認する事が可能なのである。

もっとも、以前にも言及した通り、本来ならば貴族の屋敷などというセキュリティの極めて高い施設に()()()()()()()()()潜入する事など通常は不可能に近いのであるが、“レベル500(カンスト)”に至っており、なおかつアキトと共に、様々な潜入活動をこなしてきたユストゥス達にとっては、もはや手慣れたモノであった。

まぁ、それはともかく。


ちなみに、普段は子供っぽい言動が目立つイーナであるが、これは演技であり、本来の彼女は、ユストゥス達の中でも極めて高い精神性と知性を持った才媛である。

故に、まぁ、ユストゥス自身もこれまでかなりの場数を踏んできてはいたが、交渉事に関しては、イーナの方が適任であると判断し、彼は裏方に徹する事にした訳である。

まぁ、マルク達と会話する事の方が疲れるとユストゥスが判断した可能性も否定しないが。

まぁ、それもともかく。


「まぁ、いずれにせよ、(わたくし)達には、彼らを処罰する権限は御座いませんので、彼らの今後の処遇については、マルク様方にお任せ致しますわ。」

「ああ、すまんな、イーナ殿。情報提供、非常に助かった。・・・まさか、アイゼングラード家の者達が、この様な考えを抱いていようとは・・・。我がロマリア王国も、情報収集に(チカラ)を入れた方が良いかもしれんな・・・。」

「そうですね・・・。」


マルクの意見にエリスが同調する。

この事から、マルク達には、パッフル伯爵やアイゼングラード家の動向に関する情報が入手出来ていなかった事が窺える。


「・・・それなのですが・・・、その点に関しては我々『ブルーム同盟』の諜報部門が、少しばかり異常なだけですわ。もちろん、ロマリア王国にも諜報部などといった機関は存在するかと思いますが、いえ、もちろん詮索するつもりはありませんが、しかし、それにも限界はあるでしょう。」

「うむ・・・。確かに、我々には貴殿達の様な凄腕の間諜は持っておらんからなぁ・・・。」

「もちろん、それもあるでしょうが、単純にノウハウや技術的な問題もあるかと思います。『ブルーム同盟』や『リベラシオン同盟』における諜報部門も、我が(あるじ)、アキト・ストレリチアがそこにもっとも(チカラ)を注いでおりました。(あるじ)の口癖は、“情報を制する者が世界を制す”、ですわ。彼は、一見その場の閃きで突拍子もない行動をしている様に見えますが、実際にはこうした情報を地道に収集しており、それらを分析し、次なる最善の一手を繰り出しているだけなのですわ。もちろん、その“分析力”に関しては、目を見張るモノはありますけれど。」

「ふむ・・・。」


向こうの世界(現代地球)の情報化社会に生きていたアキトは、当然情報の重要性を理解していた。

故に、『リベラシオン同盟』を発足するに当たって、この情報分野に、資金や技術を注ぎ込んでいたりするのである。


まぁ、これは、『リベラシオン同盟』発足前までは、“世界”に関わる事を面倒くさがった結果として、情報弱者になった事に対する反動、なんて側面も多分にあるのだが。

当たり前だが、アキトとて、完璧な人物ではないのである。


だが、いくら情報強者になったとしても、それを活かせるかどうかはその人物にも寄るだろう。

そうした意味では、やはりアキトの思考能力や応用力は、ずば抜けて高いと言えるかもしれない。


「当然ですが、掛けた資金に差があれば、その分野に対する差が出てくる事も当たり前の話です。つまり、ロマリア王国の諜報部のレベルは、他の国に劣っている訳ではないのですよ。・・・まぁ、他の国に比べて、優れている訳でもありませんけれど。」

「・・・フッ、耳が痛いな・・・。」


極論を言えば、国のトップの仕事とは、何処に人材や資金を割くかを決める事である。

軍事力や防衛に(チカラ)を入れるのであれば、そこに人材や資金が投入され、結果軍が強力になる訳だが、その一方で、その他の分野に関しては、その分おそろかになってしまうのである。

結局はバランスが重要である、という訳である。


もちろん、ロンベリダム帝国の例にもあるとおり、経済的大国であれば、その資金や人材も豊富になる訳だから、その分、様々なところに割く余裕が出来る分だけ、情報に関しても強くなれたりするのであるが、残念ながら、ロマリア王国では、つい以前まで、フロレンツ率いる貴族派閥が幅を効かせていた事もあり、様々な点で制限があった訳である。

ロンベリダム帝国の例は、あくまでルキウスが独裁者であるから実現出来ている、という側面もある。


「ですが、御安心下さい。我々『ブルーム同盟』の諜報部門は、ロマリア王国に対して、情報収集に関するノウハウや技術提供の用意があります。」

「なんとっ・・・!?」


もっとも、資金面や人材的に劣っているとは言え、これは他の分野でも同様であるが、技術力でそれをカバーする事も可能である。

『リベラシオン同盟』時代は、当然マンパワーにおいて、国などの大きな勢力に対しては劣っていたものの、アキトら、高い実力を誇る個人の存在も大きかったが、やはりこの高い技術力が大きなアドバンテージを占めていたのである。


「・・・しかし、そうなると、あなた方に利があるとは思えないのだが・・・?」

「そんな事はありませんよ。同盟国が(チカラ)をつける事によって、『ブルーム同盟』にも良い影響をもたらします。単純に、資金提供に期待出来る、とかね。」

「ふむ・・・。」


『ブルーム同盟』は、国の枠組みを越える組織ではあるが、その運営には各国の資金提供が必要になってくる。

まぁ、アキトの持つ膨大な『パテント料』、言うなれば『特許』があれば、それを丸々カバーする事も可能なのであるが、そうすると、『ブルーム同盟』の意義が薄れる事もあり、『リベラシオン同盟』から『ブルーム同盟』に移行するタイミングで、アキトからの資金提供は縮小される事となっている。

これは、最大の『出資者(スポンサー)』となる事で、『ブルーム同盟』が事実上アキトの私物化となる事を避けた、アキト自身と『ブルーム同盟』側の思惑が一致した結果であるのだが。


「・・・それともう一点。その代わりではありませんが、マルク様方には御協力頂きたい事があるのですわ。」

「・・・ふむ。何かね?」


こうした交渉事においては、交換条件はある種当然の事でもある。

そうした事から、マルクはイーナの言葉に不快感を示す事なく、先を促した。

まぁ、警戒はするのであるが。


「もちろん、悪い話ではありませんわ。これは、今回の件にも通じる事なのですが・・・、やはりティオネロ王が年若く、独身であられる事が問題の一つになるかと思われます。いえ、当然、これは内政干渉に当たるかもしれませんが・・・。」

「・・・続けてくれたまえ。」


イーナは、いよいよ話の本題へと切り込んだ。

ただ、これに関しては、イーナも言及した通り、本来は他から口出しする事ではないのである。

その末で、内政干渉に当たるとして、『ブルーム同盟』とロマリア王国の間に亀裂が入る事を恐れて、先に断りの言葉を入れたのであった。


「・・・では。ティオネロ王とディアーナ公女殿下のお見合い、という話なのですが・・・。」

「なんとっ・・・!!!???」

「まぁっ・・・!!!」


イーナの口から出た言葉に、マルクとエリスは、目を丸くして驚くのだったーーー。



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