そのおじさん達はお節介を焼く 1
続きです。
予告通り、今回は幕間話です。
◇◆◇
「グレン様。ハンス、ジーク、ユストゥス、メルヒ、イーナ、お召しによりまして参上致しました。」
「・・・うむ。」
「俺らを呼ぶなんてなぁ~。・・・何か、重要な案件なのか?」
「・・・うむ。そうであるとも言えるし、そうでないとも言えるな・・・。」
「なんだかー、どっちつかずの発言だねぇー?どんな厄介事なのかなぁー?」
「まあまあ、ユストゥス、イーナ。とりあえず、グレン様からのお話を聞こうではないか。」
アキトらが、『ブルーム同盟』の特使とティアらを伴ってロンベリダム帝国へと旅立ってから数週間の後、王都・ヘドスにある元・『リベラシオン同盟』、現・『ブルーム同盟』の本部施設の一角に用意された、エルフ族の国の臨時大使館となっている区画の一部屋(一応大使の部屋)に、そうそうたる顔触れが呼び出されていたのであった。
以前にも言及した通り、エルフ族の国の大使は、ロマリア王国との外交交渉に訪れていたティーネの祖父であり、エルフ族の国の最高意思決定機関である、通称『十賢者』の一人でもあるグレンが引き続きその任に就いていた。
ついでに、ロマリア王国、ヒーバラエウス公国、トロニア共和国、そしてエルフ族の国と鬼人族の部族から成る『ブルーム同盟』のエルフ族の代表も務めているが。
まぁ、有能な人材が様々な役職を兼務する事はよくある事である。
そうでなくとも、エルフ族の国は人口の観点からも人材不足な感は否めないのだ。
それもあって、まぁ、婚姻などの要素もあったのだが、あくまでエルフ族の国の所属であった為に、アキトの従者を長年務めてきたハンス達もアキトと別れ、エルフ族の国の臨時大使館にて今度はグレンの下で働く様になった、といった流れもあるのだが。
ちなみに余談ではあるが、ハンス達がアキトらと並ぶ強者である事はすでに周知の事実ではあるが、その一方で、アキトと共に過ごしてきた事の影響もあってか、実際には、武官的な“強さ”のみならず、文官としての“知識”や“技能”に関しても抜きん出ていた。
当たり前の話だが、大使や外交官の仕事は、荒事ではなく交渉事がメインとなる。
故に、事務仕事に始まり、各方面への根回しや交渉、あるいは連絡、場合によっては実弾(ここでは、金品などの事)を用いた裏取引や、情報を駆使した知能戦などをこなす必要がある場面もある。
そうした事を得意とするアキトにある種鍛えられたハンス達は、そうした方面でもそつなく仕事をこなしていたのであった。
だが、その弊害ではないが、ハンス達は以前とは違い、それぞれに与えられた仕事を個人個人でこなしていき、こうして顔を揃えるのは実に久々の事であった。
それに、このそうそうたる面々が必要な場面と言えば相当な厄介事である訳で、ユストゥスとイーナの発言ではないが、極めて重要な案件があったのではないか、と思ったとしても無理はない話なのである。
メルヒからそう水を向けられたグレンは、重々しい表情を浮かべたまま、その口を開いた。
「お主達は、今回の件をどう見る?」
「「「「「っ!!!」」」」」
今回の件。
それが意味するところは、今現在では一つの事しかなかった。
「それは・・・、もちろん、大変な事態であると理解しております。」
「うむ、そうだな。この件は、一筋縄では行かぬだろう。」
ハンス達は、ロンベリダム帝国と“大地の裂け目”勢力が本格的な軍事衝突を引き起こした事、カランの街の周辺地域で起こった、通称『女神の怒り』を思い浮かべて、そう感想を述べ上げた。
本来ならば、そうなる前に、『ブルーム同盟』からの特使とティアらによるロンベリダム帝国の説得を試みるのが『ブルーム同盟』のシナリオであった訳だ。
しかし、事は思いの外素早く進行してしまい、現状はより一層厳しくなったと言わざるを得ない。
何故ならば、すでに“賽は投げられた”からである。
そうなってから説得したとしても、聞き入れられない可能性は高く、あるいは、止めたくとも止められない、なんて事情も考慮する必要がある。
だが・・・。
「しかし、グレン様。向こうには、主様がおいでです。ならば、我々が心配せずとも、何時もの様に何とかしてしまうのではないでしょうか?」
「そうだよなぁ~。主さんの奇想天外さなら、誰もが思いも寄らない方法で解決しちまいそうだよなぁ~。」
「「「(コクコクっ)」」」
アキトと長い事付き合ってきたハンス達は、それを何処か楽観視していた。
本来ならば、それはあまりよろしくない傾向ではあるのだが、事アキトが絡む件に関しては、心配するだけ無駄である、というのがハンス達の共通認識であり、そしてそれがある意味正解であった。
実際アキトは、これまで常識では不可能とされる事をことごとく覆してきた実績がある。
まぁ、アキト自身が狙ってそうした場面も多いのだが、たまたま彼の『事象起点』の能力によって上手くいった場面もまた多いのだが。
しかし、大事なのはやはり実績なのである。
ならば、ハンス達がすべき事は、あまり意味のないアキトの心配をする事ではなく、アキトを信じて、己の職務を全うする事だけであろう。
アキトらが、これから立ち向かうのは、ハレシオン大陸、あるいはこの世界の命運を揺るがすほどの大きな出来事かもしれないが、規模は違えどハンス達の仕事も重要な事だ。
彼らの成果如何では、エルフ族の国の立場も大きく変わる。
それに、エルフ族の国だけでなく、彼らの活躍は『ブルーム同盟』を介して、ロマリア王国、ヒーバラエウス公国、トロニア共和国などの国々が、軍事的にも政治的にも経済的にも強化される可能性がある。
それは、回り回ってアキトの助けにも成り得る事だ。
以前とは立場が変わってしまったが、ハンス達は、やはり何処までもアキトの従者なのであろう。
故に、アキトが気持ち良く活動出来る様にサポートするのが、自分達の務めであると理解していたのかもしれない。
しかし・・・。
「・・・ん?アキト殿?・・・アキト殿はロンベリダム帝国へと赴いたであろう?今回の件とは、あまり関わりがないと思うが・・・?」
「「「「「・・・・・・・・・え?」」」」」
「・・・・・・・・・え?」
彼らの会話は、噛み合っている様で噛み合っていなかった。
やはり、“主語”というのは非常に大事なのであるーーー。
・・・
「え、え~とっ、つまり要約すると、グレン様が仰っているのは、ティオネロ王の今後について、って事ですか?」
「っつか、いくら『ブルーム同盟』の同盟国とは言え、他国の事じゃねぇ~かっ!ジジイが心配するこっちゃねぇ~だろっ!?」
「誰がジジイだっ!私はまだまだ若いわっ!!!」
それからしばらくの後。
グレンの話を聞いたハンス達は、脱力気味にグレンの話をそうまとめていた。
「まーまー、おじいちゃんもユストゥスも落ち着いてー。」
「そ、そうそう。グレン様にも、きっと何か深い思惑があるに違いありませんよ。」
思わずツッコミを入れてしまったユストゥスと、それにキレ気味に反応したグレンの間を取り持った(?)イーナとメルヒによって、脱線しかかっていた話をまた元に戻した。
しかし、メルヒの期待とは裏腹に、そう水を向けられたグレンは、明後日の方向を眺めながら、ゴニョゴニョと言い淀んだ。
「あ~、え~、お~・・・。ふ、深い思惑、っつーか、何と言うか・・・。暇だったから?とか・・・。」
「ふざけんなぁっーーー!!!」
流石にその言葉には、思わず叫んでしまったユストゥスの反応の方が正しいだろう。
ティーネの祖父にして、エルフ族の国の最高意思決定機関、通称『十賢者』の一人、多くのエルフ族の尊敬を集める立場のグレンではあるが、その言葉には、ハンス達も若干白い目で見てしまったほどである。
世の大使や外交官の名誉の為に明言しておくが、当然ながら、そうしたお仕事が暇はハズはない。
だが、一方で、グレンの擁護をすると、彼の発言も致し方ない側面もある。
何せ、先程述べた通り、とにかくハンス達が優秀過ぎるからである。
もちろんグレンも、“武”に関しても、“文”に関しても、そうした立場を務めるに相応しい才覚や経験値を併せ持っているが、それもあくまで一般的なレベルから見たら、という前提条件が付く。
アキトという、規格外の存在に鍛えられたハンス達が、そんな一般的なレベルなハズもない。
もちろん、ハンス達が合流するまでは、グレンもバリバリと仕事をこなしていたのだが、ハンス達が合流してからは、そのあまりの有能ぶり故に、グレンにまで回ってくる仕事は、決裁のハンコを押す事とエルフ族の代表としての挨拶回りがメインになってしまっていたのである。
まぁ、平たく言うと、グレンは暇をもて余す様になってしまったのである。
そして人は、暇になると、余計な事を考えたり仕出かしたりする生き物でもあった。
まぁ、そうした心理に陥る要因は、人の役に立ちたい、という純粋な善意から来るモノが大半であるから、それまた厄介な話ではあるのだが。
白い目で見られている事に気付き、若干肩身の狭い思いをしていたグレンだったが、更にそこに、場を混乱させる人物が登場する。
「ーーーお話は聞かせて頂きましたぞっ、グレン殿っ!!!」
「あ、貴方はっ!!!」
「「「「「マルセルム公っ!!!???」」」」」
「皆、ごねんねぇー。私も止めたんだけどさぁー。」
そう、そこに乱入してきたのは、『ブルーム同盟』の実質的トップである、議長のマルセルムだったのである。
ついでに、以前アキトに置いてきぼりを喰らっていた、トーラス家の侍女であるヘルヴィも、申し訳なさそうな顔をして、その場に入って来ていたが。
「こ、これは申し訳ありません、マルセルム公っ!仕事もせんと、年寄の与太話にお付き合いさせてしまって・・・。グレン様は、こちらでキッチリしめ、もとい、言い含めておきますので・・・。」
「・・・。」
それに、何か文句を言われるのではと危惧したメルヒが、機先を制してそう謝罪(一部、気になる表現はあったが)する。
しかし、マルセルムの反応は、彼女らの予想だにしないモノであった。
「いやいや、素晴らしい、素晴らしいお考えですぞ、グレン殿っ!まさか貴方も、私と同じお考えだとはっーーー!!!」
「「「「「「・・・・・・・・・へっ???」」」」」」
「はぁっー・・・。」
・・・どうやら、ここにも一人、暇人がいたようであったーーー。
◇◆◇
『ブルーム同盟』の議長に就任するに当たってロマリア王国の政界から引退したマルセルムは、実に忙しく飛び回っていた。
(『ブルーム同盟』は、言うなれば“国”の枠組みを飛び越えた組織であるから、もちろん、何処かの国の出身者である、という、本人にはどうしようもない純然たる事実はあれど、やはりそのトップには中立性を求められる訳だ。
故に、その議長たるマルセルムには、少なくとも現役でのロマリア王国との繋がりを色濃く残す“ロマリア王国の政治家”としての立場からは足を洗ってもらう必要があったのである。
まぁ、だからと言って、彼とロマリア王国との繋がりがなくなった訳ではないが、対外的には、ロマリア王国、ヒーバラエウス公国、トロニア共和国、エルフ族の国、鬼人族、どの陣営に対しても、中立の立場となっていたのである。)
何故ならば、各国の代表、大使がロマリア王国に集まって来てはいても、やはり各国のトップとの協議や『ブルーム同盟』への理解、あるいは協力要請は重要だったからである。
とは言え、それが可能となったのも、ダールトン、ついでにドロテオもだが、が、『リベラシオン同盟』を実質的に『ブルーム同盟』へと併合した事により、そのままNo.2、No.3へと就いた事によって、実務面で議長たるマルセルムのサポートが可能となったからでもあったのだが。
ここら辺は、立場は違えど、グレンと似た様な状況であった訳である。
(余談だが、そうした事もあり、アキトやティアらが、『ブルーム同盟』の特使と共にロンベリダム帝国へと赴く決定が成される際にマルセルムが不在だったのも、ちょうどその頃、彼はヒーバラエウス公国へと赴き、アンブリオやドルフォロといった、ヒーバラエウス公国の『大公家』の者達との会合を行っていたからであった。)
さて、大使や外交官の仕事の中には、特に大使みたいな立場を持つ者達は、他国の催事、有力な貴族や商会などの“パーティー”に赴く機会も多い。
どの組織であろうと各方面との関係は重要であるから、義理や顔繋ぎの意味も含めて、円滑に事を進める上でも、そうした人付き合いはやはり必要な活動なのである。
これは、マルセルムもグレンも同様であった。
そうした事を通して、マルセルムには、一つの懸案事項が存在していたのである。
それが、マルクに成り代わって、ロマリア王国の新しい王となった、ティオネロに関する事であったのであるーーー。
・・・
以前にも言及したが、この世界の、特に王候貴族ともなると、国の問題、家の問題もあって、結婚相手が生まれる前から決まっている、なんて事も珍しくなかった。
所謂『政略結婚』であり、ある種、個人の自由や主義・主張を無視する行いではあるが、それによって国や家の繁栄が約束されている側面もあるので、そうした立場を持つ者達は、それらを至極当然の事と捉えていた。
で、当然ながら、ロマリア王家に連なるティオネロに関しても、そうした話は当然あったのである。
実際には、“王”になる前の、所謂“王子”の段階で婚姻を結ぶ事も珍しくない。
しかし、ティオネロに関しては、そうした話は、全てご破算になってしまっていた。
何故ならば、ここにアキトが関わってきてしまったからである。
以前にも語った通り、ロマリア王国では『政権交代』があったのである。
それによって、ティオネロは、本当に若くして“王”へと即位する事となった。
で、今現在、15、6歳のティオネロは、絶賛独身状態だった訳である。
この世界、特にロマリア王国では、15、6歳はすでに成人であるから、結婚していても不思議ではない年齢である。
実際に、王候貴族、また平民の中には、ティオネロと同世代の者達が、すでに婚姻を結んでいる例も少なくない。
まぁ、もちろん、経済的な事情もあって、実際には20代になってから結婚する者達の方が圧倒的に多かったりもするのであるが。
そして、ティオネロの場合も、王となる準備期間が必要な事もあり、彼の『婚約者』との正式な婚姻関係が結ばれていなかったのである。
そこへ来ての『政権交代』である。
以前にも言及した通り、この『政権交代』は、マルクを蹴落とす事が狙いなのではなく、マルクに寄生していた無能な貴族達を排除する為のある種の茶番劇ではあったのだが、その弊害ではないが、ティオネロの『婚約者』との婚姻も白紙に戻ってしまっていたのである。
残念ながら、その『婚約者』の出身家は、マルクに寄生していた無能な貴族家の一つだったのである。
故に、マルクの(表向き)失脚と共に、その家も力を失ってしまい、婚姻に関しても全てご破算となったのである。
それでも、当然ながら“王”となったティオネロに対して、婚姻話は、それこそ無数に舞い込んで来ていた。
ロマリア王国は、所謂『世襲制』であるから、ティオネロの子が次代の王となる可能性が極めて高い。
つまりは、所謂『お世継ぎ』の関連からも、やはり彼には早めに身を固めて欲しい、といった声もあったのである。
だが、今度は、その選考に難儀する事となってしまっていたのである。
ティオネロ本人は、慣れない政務や貴族達がこれまで好き勝手した“ツケ”を支払う為に奔走しており、正直それどころではなかったし、これまでの経緯から、ロマリア王国内の貴族家から妃を迎える事に関しても、やはり懸念の声があった訳だ。
となれば、今後の事も考えると、やはり他国の者を迎え入れるのが良いのではないか、などの意見もあった。
そして、それに関しては何も進展しないまま、今日まで来てしまっていた。
一番の問題は、ティオネロにその気がない事であった。
いや、より正確に言うと、先程言及した通り、彼は正直それどころではなかったのである。
ティオネロには、まず『政権交代』によって混乱した国内をまとめ上げる必要があったし、それだけに留まらず、アキトによって改善した他国との関係を考える必要もあった。
更には、アキトによってもたらした技術的・経済的な新たなる変革の波に関しても、早急に対応する必要があったのである。
つまり、政治・経済・軍事・外交と、幅広い方面の仕事をこなす必要があり(もちろん、先王であるマルクもサポートしていたが)、マルセルムやグレンとは違い、彼には暇などありはしなかったのである。
しかも、曲がりなりにも“王”たる者の婚姻に関係する話を、彼の意向を無視して勝手に進める事も出来ない。
故に、その話は、一旦お蔵入りとなっていたのであった。
で、そんな状況を憂慮していたのがマルセルムだった訳である。
何故ならば、ティオネロがそんな状況になったのは、これまで述べてきた通り、彼にも少なからず要因があったからである。
そうでなくとも、ロマリア王国の政界から引退したとは言え、マルセルムにはロマリア王家に対する忠義の心は残っていたし、幼い頃より見守ってきたティオネロに対する親心、みたいなモノも持ち合わせていた訳だ。
それ故に、“ティオネロ王の今後について”というのは、マルセルムがまさに危惧していた事であった訳であるーーー。
・・・
「いやいや。しかしそうなると、結局はティオネロ王が一息吐けない事には決められない事でしょう?周囲が勝手に決める訳にも行きませんし。」
「だよなぁ~。まぁ、俺らと違って一国の王様なんだから、自由恋愛、とまでは行かないだろうけど、彼にももちろん決定権はあるだろ?」
「それは、もちろん私も承知しておる。だが、忙しい王に成り代わって“候補”を挙げる事くらいは出来よう?」
「そうですなぁ~。結局はある程度の家柄は必要ですから、勝手に決める、という事にはなりますまい。それをティオネロ王が、“候補”の中からお決めになる、という事であれば、問題はないかと思いますぞ。」
「おおっ、グレン殿もそう思われますかっ!」
「ええっ!!!」
ティオネロの事を慮り、やんわりと反対意見を述べるメルヒとユストゥスだったが、暴走したマルセルムとグレンは聞く耳持たず、何か変な感じに意気投合していた。
「あー、こりゃもう止まりそうにないですねー。」
「ねー。まぁ、面白そーだけどねー。」
そんなマルセルムとグレンの様子に、ヘルヴィとイーナは諦めつつ、何処か面白そうな声色でこちらも変な感じに意気投合していた。
「で、実は私は、その中でも最有力のお妃候補を知っておりましてな・・・。」
「ふむ、奇遇ですな。実は私も、前々から気になっている御方がおりましてな・・・。」
「ほうほう。・・・もしかしたら、私達は、同じ御方を思い浮かべているかもしれませんな。」
「ふふふ、私も同じ事を思っておりましたぞ、マルセルム公・・・。」
「・・・なあ、僕達、もう帰ってもいいよな?」
「・・・諦めろ、ハンス。主様で散々経験しているだろう?こうなっては、私達が巻き込まれる事は確定事項だ。」
「・・・だよね。はぁ~、僕、まだ新婚なんだけどなぁ~・・・。」
「それは私も同じだろ?ついでに、ユストゥスも、だかな。」
妙にイキイキとした表情で悪巧みをするかの様に相談し合うマルセルムとグレンを眺めながら、ハンスとジークがそんな諦めの境地に立った会話を交わすのだったーーー。
「ところで、ヘルヴィさんは、何故マルセルム公と御一緒だったので?」
「あれー?聞いてないですかー?今の私は、マルセルム様付きの身ですよー?まぁ、あくまで、トーラス家から出向している、という名目ですけどねー。ほら、どこも人材不足なんですよー。」
「あぁ~、なるほど。」
「まぁ、ヘルヴィさんならー、秘書みたいな仕事も可能だもんねー。ヨーゼフさんは『ブルーム同盟』の諜報部門の統括だしー、ロマリア王国にはー、ヘルヴィさん達以上の人材はそうはいないもんねー。」
「私はあくまで一侍女なんですけどねー?」
「またまたー。」
「はははは・・・。」
ヨーゼフとヘルヴィがただ者ではない事をすでに知っていたメルヒとイーナは、のほほんとそうのたまうヘルヴィに、やんわりとツッコミを入れるのだったーーー。
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