女神の怒り
続きです。
今回は、いつもの“なんちゃって科学理論”が展開されておりますが、本気にしないで下さい。恥をかきます(笑)。
一旦、今回でこの章を区切ろうと思います。
またいつもの様に幕間話を挟んで、新章に突入する予定です。
早く、主人公達の活躍を描きたいですねぇ~(笑)。
◇◆◇
「っ!!!何か動きがありましたなっ?」
「そのようですね・・・。どうしたっ!?」
「ハッ、御報告しますっ!“大地の裂け目”勢力が展開している部隊の方面から、こ、『コモドドラゴン』の群れが我が方に突っ込んで来ておりますっ!!!」
「こ、『コモドドラゴン』だとっ!!!???」
「・・・『コモドドラゴン』、か。魔法士部隊にとって、いや、歩兵や弓矢部隊にとっても天敵ですな。奴らの外皮は非常に硬く、魔法攻撃や物理攻撃がことごとく通用しないとか・・・。しかし、『コモドドラゴン』の、それも群れを操る事が出来るとはっ・・・!!!噂には聞き及んだ事がありますが、獣人族の中には、モンスターや魔獣を意のままに操る事が出来る種族があるとか・・・。どうやら、噂は本当だったようですな。」
「いやいや、そんな冷静に分析している場合ではありませんぞ、ランジェロ殿っ!!!」
しばらくののち、部隊の展開準備を眺めていた指揮官の男とランジェロは、物見の兵士からそんな衝撃の報告を受けていたのだった。
以前にも言及したが、一言に“獣人族”と言っても、その種類は様々である。
外見上は、ほとんど“人間族”と変わらない(まぁ、どちらかと言えば『エルフ族』に近しい容貌ではあるが)ダルケネス族や、獣耳や尻尾という外見的特徴のあるトロニア共和国においても人口の多い“人狼族”、“獣人族”の中でも稀少性の高い“妖狐族”などが、これまで登場してきている。
そして、その中には『竜人族』と呼ばれる種族も存在していたのであったーーー。
・・・
以前にも言及したが、『竜種』は、この世界においても最強種の一角を担うモンスターである。
実際に、アキトが以前対峙したノーレン山の『山の神』・エキドラスは、『竜種』の名に恥じない恐ろしいほどの強者であった。
“レベル500”に至っていたアキトでさえ、何とかギリギリ勝てたくらいであり、しかも当時のアキトの力量では、本気の殺し会いだった場合は(あれはあくまで『限界突破』の試練であり、エキドラスには、そもそもアキトを殺そうとする意図がなかったのである。)、負けていた可能性すらあったほどである。
もっとも、一言に『竜種』と言えども、そのクラスの猛者は実は数が限られており、また人間族の領域に現れる事などほぼないのである。
故に、人間族が一般的に知っている『竜種』は、“ワイバーン”などの所謂『亜竜種』・『下位種』の事であって、実際には純粋な『竜種』とは異なる存在だったりするのであった。
とは言え、曲がりなりとも『竜』の名前を冠している以上は、そこら辺の魔獣やモンスターとは一線を画した強さを誇り、今日においても、人間族の間では絶対に出会いたくないモンスターの代表格であり、認識に多少の齟齬があれど(一般の人々は『亜竜種』・『下位種』=『竜種』と認識しているが、実際にはその更に『上位種』が存在している事は知らなかったのである。)、『竜種』が極めて強力なモンスターであるという事はしっかり認知されていた訳である。
さて、そんな『竜種』であるが、この『コモドドラゴン』と呼ばれたモンスターも、『竜種』、正確には『亜竜種』・『下位種』に分類されるモンスターの一種であった。
もっとも、『コモドドラゴン』は、その見た目的にもどちらかと言えば大型の爬虫類に近く、『上位種』や“ワイバーン”とは異なり、空を飛ぶ事は出来なかった。
その代わりではないが、地上を移動する速度に優れ、その鱗は極めて硬く(というよりかは、特殊な粘膜に覆われている、と言った方が正しいかもしれないが)、ある一定の物理攻撃や魔法攻撃を受け付けないほどの防御性能を誇る、かなり厄介なモンスターだった訳である。
(この世界における魔法技術は、最終的には“物理現象”に即した形となるので、この『コモドドラゴン』の様に、火に耐性を持つ、氷を弾くほどの硬い防御力を持つ、電気も通さないなどの特徴を持つ魔獣やモンスターは、『魔法使い』や『魔術師』・『魔法士』との相性が極めて悪かったのである。
これを討伐する為には、純粋な物理攻撃力において、彼らの防御力を上回る必要があり、冒険者の中でも、上位のクラスの者達でしか対処が不可能なモンスターなのであった。
余談だが、アキトが戦った事のあるエキドラスも、その『コモドドラゴン』すらも軽く凌駕するほどの高い防御性能を有しており、当時“レベル500”であったアキトの物理攻撃も魔法攻撃ですらほとんど通用しなかったほどである。
しかも、様々な戦術を駆使して、更には『結界術』すら用いても、なお届き得なかった。
まぁ、アキトの場合は、土壇場で『竜語言語』を習得し、エキドラスの内側に『電撃』を喰らわせるという離れ業をやってのけた結果、何とか勝利をもぎ取る事が出来たが、一般的な『魔法使い』や『魔術師』・『魔法士』に同じ事をせよ、と言われても真似出来ない事は想像に難くないだろう。)
もっとも、『上位種』はもちろんの事、『亜竜種』や『下位種』である“ワイバーン”も、この『コモドドラゴン』も、普段は人里を遠く離れた森などの奥地に生息している事から、エンカウントする事は滅多にない。
故に、それが群れ、しかも人間族の領域に出没する事など、人為的にそうしない限り、ほとんどあり得ない事態だった訳である。
そこに、『竜人族』が関係してくるのであった。
『竜人族』は“獣人族”の一種であり、外見的には他の獣人族と同様に、人間族と近しい外見をしている。
が、その身体の一部が『竜種』に見られる様な外皮を持っており、なおかつ『竜種』(先程も言及した通り、実際には知能に低い『亜竜種』や『下位種』に限定されるのであるが)を従える特殊能力を持っていた。
更には、“獣人族”の特色の一つとして(と、言うか、“獣人族”と呼ばれる様になった由来にもなるのだが)、『獣化』、所謂『変身能力』に類似した特殊能力も持つ。
この『竜種』を従える特殊能力によって、『コモドドラゴン』の群れを操っていたのであった。
一応、アキトの幼馴染みであるテオが発現しているスキル・『魔物の心』も、ある種これに類似した能力であるが、こちらはどちらかと言うと“意思疏通”がメインであり、“使役”はある意味副次的な効果であって、結果的にそうなる可能性があるスキルに過ぎない。
一方の『竜人族』の特殊能力は、『竜種』に限定されるものの、“使役”をメインにする能力であり、こちらは逆に“意思疏通”が副次的な効果に過ぎない能力なのであった。
更に余談だが、厳密には『魔物の心』も『竜種』を従える能力も持たないアキトだが、クロやヤミの様に、“意思疏通”による信頼関係の構築によって、ある種の“使役”状態に近い関係性を築いている例もある。
つまりは、魔獣やモンスターを従える為には、必ずしも特殊な能力は必要ではないという事である。
ここら辺は、向こうの世界における、人間と動物の関係性に似通っているのである。
まぁ、以前から言及している通り、この世界における魔獣やモンスターは非常に危険視されているので(実際に危険でもあるが)、偶発的にアキトと似た様な状況(何らかの要因で、親とはぐれる事となった魔獣やモンスターの幼体を保護する事となった)により魔獣やモンスターとの信頼関係を築いた例も存在するのだが、それが一般に認知される事は今日までなかったのであった。
(仮に、周りの者達にその事を知られたとしたら、危険性の問題から、駆除される可能性が高い。
故に、そうした境遇にあった者達は、それらを秘匿するか、ある程度経った頃に森などに帰すなどしていた為である。
つまりは、そうした環境故に、そうした事例に関する研究資料などが、ほとんど残されていなかったのである。)
そうした事もあり、今日においても、魔獣やモンスターを従える為には何かに特殊な能力が必要なのだという勘違いが、まるで真実であるかの様に誤解されたままだった訳である。
まぁ、それはともかく。
だが、いずれにせよ、この場のおいて、『コモドドラゴン』を操っているのは『竜人族』である事には変わりがない。
そして、本来は、この『コモドドラゴン』に騎乗して戦うのが、『竜人族』の得意スタイルだったのである。
しかし今回は、アスタルテからの要望を受けて、『コモドドラゴン』のみを解き放つ戦法に打って出ていた訳であったがーーー。
・・・
「ど、どうすればいいっ!?このままでは、我が軍が瓦解する恐れがあるっ・・・!!!」
指揮官の男は、必死になってそう頭を悩ませていた。
実際には、ロンベリダム帝国軍に向かってくる『コモドドラゴン』の数は、実はそれほど大した数ではなかった。
それと言うのも、そもそも『コモドドラゴン』自体それほど数の多い種ではないし、ダルケネス族に加担した他部族の数も、それほど大人数ではなかった事が理由として挙げられる。
だが、先程も言及した通り、とにかく『コモドドラゴン』の防御性能が高過ぎる故に、ロンベリダム帝国御自慢の魔法士部隊では対処出来ず、弓矢や歩兵、騎兵による物理的な攻撃でも、彼らの歩みを止めるほどのダメージが期待出来ないのである。
もっとも、それでも数に任せて集中攻撃を続ければ、『コモドドラゴン』の驚異的な防御性能と言えど、いずれは突破する事も可能なのだが、一見すれば無敵とも言える頑強さを持つ生物が部隊の中に突っ込んで来たとしたら、まず間違いなくパニックが起こるのが人間の心理というモノであろう。
そうなれば冷静な判断力は期待出来ずに、逃げ惑う者、無茶苦茶に攻撃する者、絶叫を上げる者など、とにかく大混乱が起こる事は否定出来ないのである。
様々な部隊に分けられてはいるが、結局は“軍隊”という存在は、お互いに連携してこそ意味のある組織である。
その一つが機能停止に追い込まれれば、必然的に全体にも影響が出てくる訳である。
その混乱に乗じて、“大地の裂け目”勢力の別部隊が進攻して来たとしたら、最悪の結果に終わる可能性もあった。
すなわち、大敗。
ボロ負けである。
指揮官の男が危惧していたのは、まさにその事なのであった。
よく戦は数だと言うが、それ自体は間違った考え方ではないが、大きな集団になればなるほど、逆にその利点は弱点とも成り得るのである。
故に作戦、すなわち戦略や戦術が重要になってくるのである。
まぁ、今回の場合は、アスタルテやアラニグラ、サイファスらが意図的に仕組んだ戦略ではなく、本当に偶然の産物ではあったのだが、それはロンベリダム帝国軍の指揮官には分からぬ事実であったが。
「・・・、問題ありますまい。こちらには、“魔法銃”と『銃士隊』がおりますからなっ!」
「・・・・・・・・・はっ?」
だが、混乱する指揮官の男とは裏腹に、ランジェロは自信満々に断言した。
「確かに、『コモドドラゴン』の防御力は脅威ですが、上位の冒険者の中には、奴らを討ち取れる猛者もいるとか・・・。つまりは、その防御力を上回るほどの攻撃力があれば良い、という事ですな。」
「り、理屈は分かりますが、それは本当に一部の猛者に限定された話でしょうっ!?我が軍は精強ではありますが、それでも上位の冒険者、それこそ、S級レベルの者達に比べたら、やはり見劣りしてしまいますっ!そんな攻撃力など、それこそ魔法技術無しでは期待出来ないっ・・・!」
「そこで、“魔法銃”ですぞ、指揮官殿っ!!!」
「っ!!!」
よく勘違いされがちなのであるが、騎士や兵士達は必ずしも圧倒的な強者ではなかったりする。
これは、先程の話と重複する部分なのだが、“軍隊”とは、すなわち一つの大きな集団である事に理由がある。
神話や伝承、あるいは歴史書などにおいては、“一騎当千の猛者”が登場する事も多いが、実はこうした存在は、味方となれば頼もしいが、必ずしも味方にとって有益な存在ではなかったりする側面も持っていた。
ここら辺は、サッカーなどのスポーツにおける、所謂『ワンマンチーム』にも見られる現象であった。
当然だが、その一人のスタープレイヤー以外が平凡ならば、チームとしての力は、その一人に依存する事になる。
故に、その一人が封じられてしまえば、結局は“総合力”で勝る方が有利となるのだ。
逆に言えば、圧倒的なスタープレイヤーが存在しないチームであれど、全体的に平均を遥かに越える実力を持つチームはやはり強いのである。
なんと言っても、代わりが効く事が大きな強みなのである。
先程も言及したが、時に弱点とも成り得るが、やはり戦いは数であるから、その“総合力”が重要になってくる。
故に、“軍隊”という組織においては、騎士や兵士達の“総合力”を重視しており、もちろん彼らは一般的な人々よりも遥かに高いレベルを持っているが、突出した存在は生まれにくい環境になっているのである。
(余談ではあるが、冒険者はあくまで少数の集団で活動するのがメインであるから、逆に突出した存在が生まれやすい環境になっているのであった。)
だが、そうなった場合、今回の『コモドドラゴン』の様な、突出した存在でなければ対処出来ない事態には弱かったりする。
ここら辺は、所謂“新兵器”が登場した場合の、既存の考え方が通用しなくなるケースに似通っているかもしれない。
だが、ここで“魔法銃”が大きな意味を持ってくるのであった。
「とにかく、このままではジリ貧になってしまいますぞ?そうなれば、貴方の責任は免れますまい?騙されたと思って、『銃士隊』を使ってみてはいかがかな?」
「・・・・・・・・・っ!!!で、伝令っ!『銃士隊』に攻撃命令っ!!目標は、『コモドドラゴン』の群れだっ!!!」
「り、了解しましたっ!」
もし仮に、この場で大敗を喫してしまえば、現場のトップであるこの指揮官の男の責任は免れない。
そうした打算的な考えもあって、指揮官の男はランジェロの助言に従い、『銃士隊』の投入を決めるのであったーーー。
・・・
「アハハハハッ!奴ら、慌てふためいてやがるぜっ!」
「当然だろうっ!『コモドドラゴン』は、奴らにとっての、言わば天敵なんだからなっ!」
「・・・これだけで勝敗が決してしまいそうですな?わざわざアスタルテ様方に御足労頂かなくても良いのではないですかな?」
「・・・・・・・・いや、すぐに『コモドドラゴン』達を退かせるが良い。」
「「「・・・・・・・・・へっ???」」」
一方のアスタルテ達は、『コモドドラゴン』の突撃に一歩遅れて、戦場の真ん中に歩を進めていた。
これは、射程の問題による物理的な制限の為である。
強大な力を有するアスタルテ、ついでにアラニグラではあるが、それでも様々な制限は存在する。
その中には、“射程距離”の問題もあった。
当然ながら、いくらアスタルテとアラニグラと言えど、見えない場所に攻撃を届かせる事は不可能である。
(もっとも、アラニグラはともかく、アスタルテの場合は、非実体化すれば、その制限もなくなるのだが、その場合は、今度は『制約』による制限が掛かる事となるが。
まぁ、それはともかく。)
そうでなくとも、魔法における“効果範囲”という概念が存在する以上、やはりこの“距離感”というのは重要になってくるのである。
そうした事もあり、広域殲滅魔法を使用する為には、もっとも危険な戦場の真っ只中に移動する必要があったのである。
だが、当たり前の話として、無防備に戦場の真っ只中を移動していれば、弓矢の格好の的になる事は想像に難くないだろう。
まぁ、アスタルテにとってはそれを防ぐ事など朝飯前なのであるが、アラニグラは【物理障壁】を使えないし、他の獣人族達にとっては、そんな方法がある事すら常識の埒外である。
故に、獣人族達はアスタルテの護衛(壁役)を名乗り出て、更には『コモドドラゴン』を先行させる事で、ロンベリダム帝国軍の注意が彼女に向かない様に画策した訳である。
が、それが予想以上に功を奏し、目に見えてロンベリダム帝国軍は混乱しており、『コモドドラゴン』達だけで、ロンベリダム帝国軍を追い払う事すら可能なのではないかと彼らは考え始めた訳である。
だが、『銃士隊』を展開させたロンベリダム帝国軍の反応を見て、アスタルテは『コモドドラゴン』を退かせる様に指示を出した。
彼女が何を言っているのか理解出来なかった彼らは、反応が一拍遅れる事となったのである。
それは致命的な遅れとなった。
ドパンッーーー!!!!!
ドパンッーーー!!!!!ドパンッーーー!!!!!
ドパンッーーー!!!!!ドパンッーーー!!!!!ドパンッーーー!!!!!
「「「「「「「「「「ガギャッーーー!!!」」」」」」」」」」
「「「っ!!!???」」」
耳をつんざく様な轟音と共に、『コモドドラゴン』達の断末魔がその場に響き渡った。
獣人族達は、一瞬何が起こっているのか理解出来なかった。
だが、彼らが思考停止しようとも、現実は変わらない。
ロンベリダム帝国軍が展開した不可思議な物を持つ部隊から放たれた“何か”が、間違いなく『コモドドラゴン』達を屠っているのである。
「何を呆けておるっ!さっさと退かせんかっ!!このままでは、彼らは全滅だぞっ!!!???」
「「「・・・はっ!!!???」」」
ピィーーー!!!
アスタルテが、更に強めにそう指示を出すと、ようやく獣人族達は再起動し、その内の『竜人族』の男が指笛を吹き鳴らした。
その事から、どうやら『竜人族』達は、“音”によって『コモドドラゴン』達を操っている事が窺い知れた。
指示が届いたのか、動ける『コモドドラゴン』達は、一斉に引き返してくる。
だが、その数は、明らかに投入した数より少なかった。
そう、残りの『コモドドラゴン』達は、動かぬ屍になってしまったのである。
「な、なんというっ・・・!」
「な、何だっ、あの武器(?)はっ・・・!!??」
「『コモドドラゴン』を易々と葬ってしまったぞっ・・・!!」
ようやく獣人族達にも、目の前の現実が脳に浸透したのか、慌てふためき始める。
先程までの楽勝ムードが、一転して状況が変わったのだからそれも無理はないが。
・・・
「おおっ・・・!!これほどとはっ・・・!!!」
「ええ、私の言った通りでしょうともっ!」
「ああっ!ああっ、ランジェロ殿っ!!素晴らしいっ!素晴らしいぞっ、“魔法銃”とやらの威力はっ!!!」
一方のロンベリダム帝国軍の指揮官の男は、初めて目の当たりにする“魔法銃”の威力に、興奮気味にそう叫んでいた。
こちらは、先程までの敗戦ムードから状況が引っくり返ったのだから、それも無理はない話だろう。
ただ、それに自信満々に答えを返したランジェロは、内心ホッとしていたのだったが。
ランジェロらが開発したこの世界の銃である“魔法銃”は、向こうの世界における『アンチマテリアルライフル』、すなわち『対物・対戦車ライフル』に近い威力を誇っていた(もっともこれは、砲身の長さなどによって幾分変わるのであるが)。
これは、魔法技術による応用によってもたらされたものである。
魔法技術が発展した弊害ではないが、この世界では『火薬』・『爆薬』は一般的な物ではなかった。
もちろん、そうした物質は存在するし、それを利用する部族、種族も存在するのであるが、それらは秘匿されていたし、逆に言えば、魔法技術の利便性が高過ぎる故に、それらを追い求める意欲の様なモノが希薄であった事もある。
となれば、“魔法銃”において飛翔体(弾丸)を射出する方法は、当然ながら『魔法』によって実現している訳であった。
具体的には、“風”の力を込めた魔石を組み込む事で、そうした機構を完成したのである。
向こうの世界においても、『火薬』や『爆薬』を用いる一般的な銃とは別に、所謂『空気銃』、空気や不燃性ガスを利用して弾丸を発射する方式の銃が存在する。
こちらは、一般的には子供のオモチャの様な物を想像しがちであるが、実際には狩猟、すなわち実働に耐えうる歴とした実銃も存在しているのであった。
この世界においては、その威力は向こうの世界の『空気銃』の威力の比ではない。
これは、“風”、すなわち空気を操る術が、魔法技術によって確立しているからである。
“風”と言うと、何だか穏やかなイメージを持つかもしれないが、実際にはその力は凄まじい。
強烈な台風や竜巻、ハリケーンなどを想像すれば、その恐ろしさが分かるだろう。
時に“風”の力は、相当な重量を持つ車や家すらも破壊するほどの威力を持っているのである。
その力が、もし十全に飛翔体(弾丸)に伝わるとしたらどうだろうか?
当然それは、恐ろしい威力を秘めている事は想像に難くないだろう。
とは言え、その威力に反比例する様に、実はこの“魔法銃”の射程距離はそう大した距離ではなかった。
具体的には、せいぜい500~300mが限界だったのである。
これは、“魔法銃”はともかく、弾丸自体の最適な形、すなわち空気抵抗と流線型の関係における概念が、この世界ではまだ確立していなかったからである。
まぁ、そもそも、魔法自体の力が優れていた事もあり、魔法技術を利用した武器の概念が、この“魔法銃”がある意味初の試みであるから、それも致し方ない事だろうが。
故に、今現在の“魔法銃”は、ある意味“風”の力で丸い飛翔体(弾丸)を強引に射出しているだけに過ぎない物であったのである。
故に、威力はともかく、実は命中率は空気抵抗の関係からそこまで高くなく、その事を知っていたランジェロは、それを臆面にも出さなかったが、内心はホッしていた、という訳であったのである。
「ハハハッ、見ろ、ランジェロ殿っ!奴ら、『コモドドラゴン』共を退かせておるわ!!追撃させるかね?」
「いえ、それには及びません。・・・実は、“魔法銃”は、威力はあるのですが、その、射程距離に難がありましてな。あそこまで退かれては、おそらく届きますまい。」
「・・・そうか、残念だ。しかし、それを補って余りある力であるなっ!!」
「そうでしょうともっ!“魔法銃”は私、いえ、我等『メイザース魔道研究所』が開発した自信作ですぞっ!」
「うむうむ。ランジェロ殿や、陛下が自信満々で現場に投入するだけの事はありますなっ!!!」
もはや、勝った気でいる指揮官の男とランジェロだったが、実際には、どちらが有利でも不利でもない状況に戻っただけの事。
言うなれば、仕切り直しになっただけなのである。
故に、次の一手によっては戦況が大きく変わる可能性もあった。
そしてその準備を、アスタルテ達は着実に済ませており、一方のロンベリダム帝国軍は、今の戦果に気を取られそれを怠ってしまっていたのである。
「っ!指揮官殿っ、ランジェロ殿っ!!あれを御覧下さいっ!!!」
「「・・・むっ(んっ)???」」
そんな指揮官とランジェロに、その場に残っていた物見の兵士の男が、何かを発見した様に慌てた様子で戦場のど真ん中を指差した。
それに、浮かれ気分に水を差された様で内心ムッとした二人だったが、とりあえず面倒くさそうにそちらに目をやった。
「・・・・・・・・・な、なんだ、ありゃ・・・。」
「・・・も、もしや、ま、“魔素の発光現象”だとっ!?い、いかんっ!!!」
「ど、どうされたのですかっ、ランジェロ殿っ!!!???」
しかし、その場で起こっていた事を正確に理解したランジェロは、次の瞬間には脱兎の如くその場から逃げ出していた。
それに、指揮官の男は、ランジェロの行動が理解出来ず、慌てふためき始める。
まぁ、本来、戦場において、敵前逃亡は重罪となるのだが、ランジェロはあくまで軍人ではなく、“魔法銃”や『銃士隊』の扱いをレクチャーする助言者としてこの場に来ている。
それに、ある意味ではランジェロの選択が、この場における最適解でもあった。
何故ならば、今、この瞬間、ロンベリダム帝国軍が展開している場所は、安全地帯ではなくなっていたからである。
以前にも言及したが、上位・奥義系の魔法使用の際にのみ、“魔素の発光現象”と呼ばれる現象が観測される。
つまりは、それが観測される=極大魔法が展開されるのと同義なのである。
今、この場において使用される魔法が、何の害もない魔法なハズがないので、知識のある者達ならば、これが攻撃系の極大魔法が発生する前兆である事を瞬時に理解する訳である。
ならば、ノンキにその場に留まるハズもなく、即座に安全圏まで離脱するのは理にかなった判断だった訳である。
もっとも、それを説明している時間もなかった事もあって、ある意味ランジェロが突然逃げ出してしまって指揮官の男が困惑する、という事態になってしまっていたが。
もちろん、これを巻き起こしているのは、アスタルテである。
後、ついでにアラニグラも、アスタルテと共に極大魔法の用意をしていた。
アスタルテは、神々の一柱ではあるが、現時点ではあくまで人間族の姿を取っているので、使用する力は、あくまでこの世界における魔法技術を基準にしている。
一方のアラニグラが使用する魔法は、以前にも言及した通り、この世界とは異なる体系の魔法技術ではあるが、『TLW』時も、所謂“演出”の一環として、この“魔素の発光現象”と似通った“エフェクト”が発生していた様に、特に極大魔法を使用する際には、同じ様な現象が起こっていたのであった。
「『死神の暴風』っ!!!」
「【地獄の業火】っ!!!」
その後の展開は、一方的かつ呆気ないモノであった。
突如としてその場には黒い炎とハリケーンが発生し、ロンベリダム帝国軍を半壊させる事となったからである。
運良く極大魔法の効果範囲外であった為には生き残った騎士や兵士達も、その恐ろしい現象にただただ怯え、散り散りに敗走していく事となる。
後に、誰が言い出したのか、その場で起こった現象と、“大地の裂け目”勢力の実質的指導者であったアスタルテとを絡めて、その日の出来事は『女神の怒り』などと呼ばれる様になる。
それと共に、アスタルテの名と、ロンベリダム帝国では英雄と名高い『神の代行者』の一人であるアラニグラが“大地の裂け目”勢力に付いた事が、一般的な帝国民の間でも噂される事となっていくのであったーーー。
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