エストレヤの船
続きです。
祝25万PV越え。
今後も頑張って参りますので、引き続きゆる~くお付き合い頂けると幸いです。
では、本編をどうぞ。
□■□
その後、アルメリア様に促されるまま、僕とエイルは、『地下室』の奥へと歩を進める。
シューン。
「「っ!!!」」
すると、扉らしき物がひとりでに開いた。
・・・うむ、自動ドアか。
向こうの世界では珍しくもなかった技術であるが、この世界の生活が長くなっていた僕は、一瞬ビックリしながらそう思い至った。
「「おおっ(オオッ)!!!」」
その中に入ると、今度こそ僕も、素で驚きの表情を浮かべていた。
何せ、そこには近未来的な空間が広がっており、様々なスクリーンやモニターが所狭しと並んでいたからである。
場所こそ近未来っぽいが、マンガやドラマ、アニメ、ゲームなんかにおける、中央指令室とか、コントロールセンターみたいな雰囲気だなぁ~。
などと考えながら、僕はそれをマジマジと眺めていた。
【ようこそ、マム。それに、新たなるマイマスターと、人外の娘よ。】
〈セージ、御無沙汰しておりますわ。〉
「「っ!!!」」
すると今度は、先程の機械音声が話し掛けてきた。
・・・う~ん、次から次へと色々と起こって、逆に僕は冷静になってしまう。
この機械音声は、この場を管理・支配する人工知能か何かなのかな?
【御無沙汰しております、マム。・・・して、御用件は何でしょうか?】
〈貴方も分かっているでしょう?例の映像を、二人にも分かる様にモニターに出して下さいますか?〉
【了解しました。】
「「・・・?」」
訳知り顔で“セージ”と呼ばれた人工知能(?)にアルメリア様がそう指示を出した。
すると、機械音声は了解の意を示し、この場に並んでいたスクリーンやモニターに、一つの映像が映し出された。
「こ、これはっ・・・!!!」
「・・・何デスカ?」
それを見るやいなや、僕は思わず驚愕した声を上げてしまった。
一方、興奮する僕の反応とは裏腹に、エイルは薄い反応を示した。
まぁ、分からんではない。
彼女にとっては、これは特別な思いがあるモノではないだろうからな。
しかし、僕にとっては違う。
幼い頃より憧れてきて、この世界には実際に“有る”と言われてずっと追い求めて来たモノなのだからっ!!!
だから僕は、万感の思いを込めてこう叫んだ。
「すごいぞっ!!ラ○ュタは本当にあったんだっ!!!」
「・・・・・・・・・?」(困惑)
〈・・・・・・・・・はははっ。〉
【・・・・・・・・・。】
シーンッ。
・・・うん、一度は言ってみたいセリフが言えて、僕としては満足であったが、その場の空気は死んでいた。
「アノ、オ父様。“ラ○ュタ”ッテ何デスカ?」(疑問)
〈シッー、エイちゃんっ!聞かないでおいてあげてっス。〉
【新たなるマイマスターは、中々ユニークな方の様ですねぇ~。】
その後、再起動を果たしたエイル、アルメリア様、セージから、三者三様の反応を貰う。
・・・べ、別に恥ずかしくなんかないぞっ!
〈あぁ~、アキトさん。盛り上がってるところ、大変申し訳ないのですが、これはラ○ュタではないっスよ。まぁ、空に浮かんでいる、って意味では、似た様なモノではあるっスけどね?〉
「わ、分かってますよ、それくらいっ!」
が、冷静な突っ込みを入れられると、流石に僕もいたたまれなくなる。
・・・いいじゃん、いいじゃん、ロマンを追い求めたってさぁ~。
〈これは『エストレヤの船』。現在進行形で、この世界の上空を漂っている古代魔道文明時代の技術の結晶っス。〉
多少いじけている僕を軽く無視して、アルメリア様は話を進めていた。
『エストレヤの船』、か・・・。
やはり、古代魔道文明時代の技術はとんでもないな・・・。
・・・っつか、現在進行形で上空を漂っているって凄くね?
まぁ、古代魔道文明があった時代から現代まで、どれ程の期間が経っているかは正確には分からないが、流石に100年や200年って事はないだろう。
って事は、その期間も浮かび続けていたと考えると、その為には膨大なエネルギーが必要であり、なおかつ、構造物である以上、経年劣化や損耗なども修復せねばならない筈だ。
そこから考えると、この構造物が、何らかの再生可能エネルギーを産み出し続けている事になるだろうし、SFなんかでお馴染みである、“ナノマシン”などの、自己修復機能も搭載されている可能性もある。
・・・まぁ、よく考えれば、エイルも現代に残る古代魔道文明時代の遺産だ。
彼女とは状況は違うまでも、この『エストレヤの船』が現代に生き残っているのも、そこまで不自然ではない、のかな?
などと考察しながら、僕もアルメリア様に疑問を返した。
「・・・で、今ここで、『エストレヤの船』の話題に触れるって事は、先程アルメリア様が仰っていた“ヤバめの事態”と『エストレヤの船』が関係しているって捉えても良いんですかね?」
〈ええ、その通りっス。〉
・・・
〈さて、どこからお話するっスかねぇ~。〉
その後、(僕的には)衝撃的な映像を映し出した先程の部屋の中央にあったテーブルと席に(多分、会議なんかをする為のモノだろう)に僕とエイルが腰掛けると、半実体化したアルメリア様がそう思案顔をしていた。
〈え~と、アキトさんは、以前私が、ハイドラスが『覚醒』を果たして『二級管理神』に成った、と言った事を覚えていますか?〉
「・・・あぁ~、そういえば、初めて『失われし神器』の力を目の当たりにした直後に、そんな事を仰っていた様な・・・。」
・・・正直、すっかり忘れていた。
というのも、それがどういう意味を持つかも、僕は正確には知らんからである。
まぁ、アルメリア様やルドベキヤ様が『一級管理神』である事や、土着の神様も『三級管理神』である事は何となく覚えているのだがね。
〈もちろん、詳しい事はお教え出来ませんが、簡単に言うと、この“階級”は、『世界の記憶』や『アクエラの記憶』にアクセス出来る権限の強弱を意味するっス。一級ならば全て、二級ならば限定的に、三級ならばほとんどアクセス出来ない、といった具合ですね。〉
「・・・なるほど。」
ここら辺は、向こうの世界のコンピュータ関連と似た様なモンだろうか?
当然ながら、“管理”する側としては、より上位の、より深い情報のアクセス権限が与えられる訳だ。
逆に、一般の、“管理”される側に近ければ近いほど、この権限も弱くなる。
まぁ、機密情報なんかが、そこら辺の人々にも閲覧可能であったら大問題だからな。
故に、セキュリティ的な視点から見れば、アクセス制限の取捨選択は当然の措置であろう。
それと同様に、『世界の記憶』や『アクエラの記憶』は、言うなればこの世界における巨大なデータベースだ。
それを、“高次の存在”とは言え、そこら辺の神様まで閲覧可能ならば、大混乱のもととなるだろう。
ふとした切っ掛けで、それが人間種に伝わりでもしたら悪用されかねないし、まぁ、その為に『制約』なんてモノがある訳だろうが、それもどの程度まで機能するかは不透明だからな。
ちなみに、僕自身も『限界突破』をし、人の身でありながら神性の仲間入りを果たしている関係で、この『世界の記憶』や『アクエラの記憶』にアクセスする事は可能となっているが、ハッキリ言って人の身には過ぎた力である。
まぁ、今現在の身体能力や特殊能力なんかを鑑みれば、もはや人間種を超越している自覚はあるものの、そういった事とは別に、これらのデータベースの情報量は多すぎるのである。
アルメリア様曰く、『世界の記憶』は、人々の『普遍的無意識』の事であり、こちらは、かなり乱暴に要約すると今現在生きている人々の全記憶の事なのだそうだ。
更に『アクエラの記憶』の方は、この惑星の過去から現在にかけての全記憶の事。
この惑星の今現在の総人口がどの程度かは分からないが、少なくとも億は越えているだろう。
考えても見て欲しい。
それほどの数の人々の情報が、それらにアクセスした瞬間に一気に流れ込んでくるのである。
常人ならば、それを脳が処理仕切れずに、廃人確定コースであろう。
僕も好奇心や知識欲によって、少しだけ試した事があり、まぁ、僕の場合は、これも『限界突破』の恩恵か、はたまた『霊能力』によるモノかは不明だが、無意識的に『精神防壁』を張る事で最悪の事態は回避出来たが、数日間は重度の頭痛に悩まされたモノである。
まぁ、その程度で済んでいるのが奇跡的なのだが。
これが、この惑星の過去から現在にかけての全記憶など、それよりも更に凄い情報量である事は間違いない。
こちらは、怖すぎて試してすらいない。
流石の僕も、そこまで無謀ではないのだ。
一方で、肉体という“器”から逸脱した“高次の存在”ならば、その情報量に耐える事が出来る訳だ。
故に、上位存在である彼らならば、それらにアクセスしたところでノーダメージであるが、逆にそれ故に、アクセス制限が掛けられている、と見る事も出来る。
先程述べた通り、それらが内包する情報は様々な活用方法がある訳で、万が一悪用される事があれば、この惑星の秩序はメチャクチャになってしまうからな。
〈それと同時に、こちらも以前にお話しましたが、ハイドラスには『世界の記憶』や『アクエラの記憶』とは別の特別な情報源がある様で、その関連からか、ついに『エストレヤの船』の存在に気が付いてしまった様なんっスよ。〉
「・・・ふむ。」
・・・少しだけ、話が見えてきたぞ。
「つまり、今回のロンベリダム帝国周辺の混乱は、『エストレヤの船』を手に入れる為に、ハイドラスが仕組んだ可能性がある・・・?」
〈流石に察しが良いっスね、アキトさん。まさにその通りっス。この『エストレヤの船』自体は、先程述べた通り、今現在もこの世界の上空に浮かび続けていますから、今現在のこの世界の航空技術では、そこに至る事は不可能っス。まぁ、空を飛べるアキトさんならば到達は可能かもしれないっスけど、そもそもこの世界の人々が『エストレヤの船』の存在を知らない以上、すでに察していると思いますが、『エストレヤの船』の姿は見えません。強力なステルス機能を持っているっスね。故に、その座標を知らない限り、いくら空を飛べても『エストレヤの船』を見付ける事は困難でしょうね。・・・まぁ、アキトさんの『事象起点』の力なら、偶然発見してしまう事もあるかもしれないっスけどね。(ボソッ)〉
まぁ、こんな目立つモンが空に浮かんでいたら、この世界の人々にとっては双月と並んで、一般的な常識になっていないとおかしいわな。
けど、それを僕もこれまで聞いて来なかった事から、『エストレヤの船』に強力なステルス機能が搭載されている事は至極納得である。
だが、逆に『エストレヤの船』が存在するのならば、当然ながら『エストレヤの船』にアクセスする方法もある筈なのである。
まぁ、完全にオートで動いている可能性もあるが、それでもメンテナンスや仕様変更など、管理や保守点検が必要なシーンはいくらでもあるからな。
「なるほど・・・。って事は、その発着ステーションなのかアクセスポイントなのかは分かりませんが、それが“大地の裂け目”にあるんですね?それを手に入れる為に、ハイドラスがロンベリダム帝国周辺の混乱を扇動させた・・・。」
〈そうっス。当然ながら、いくらライアド教と言えど、密かに広大な“大地の裂け目”を捜索する事は困難っス。ただでさえ、獣人族達が暮らしていますし、彼の地には強力な魔獣やモンスターなんかも多く生息しているっスからね。上位の実力者ならばともかく、並の信者達は、生き抜くのも大変な場所っス。綿密な捜索など、とても不可能っスよ。けれど・・・。〉
「そこで、“戦争”って訳ですね?ロンベリダム帝国の軍事力ならば、“大地の裂け目”に生息する魔獣やモンスターに対抗する事が出来る。少なくとも、数を減らす事は可能でしょうからね。」
〈その通りっス。〉
「ふむ・・・。」
その混乱に乗じて、ハイドラスは『エストレヤの船』を手に入れる目論見、って事か・・・。
と、なると、ロンベリダム帝国や“大地の裂け目”の獣人族達は、ハイドラスに良い様に踊らされている、って訳だな。
元々“大地の裂け目”には、僕もこれまで目にしてきた古代魔道文明時代の資料の数々から、様々な遺産が残されている可能性が高かった。
それ故に、ルドベキヤ様からロンベリダム帝国やハイドラス派が『異世界人』達から銃のデータを奪い、“魔法銃”を産み出したと情報提供を貰った時点で、そうした遺産を彼らの手に渡さない為にも介入する気満々であった訳だ。
まぁ、実際には、僕の予測を遥かに越える速度で“戦争”状態に近付いていたのは大きな誤算だったが、なるほど、ハイドラスには、“大地の裂け目”に古代魔道文明時代の遺産があるかもしれない、って情報ではなく、確実に“有る”と分かっていたからこそ、素早く動く事になった訳か。
先程も述べた通り、元々彼らに古代魔道文明時代の遺産を渡すつもりはないが、それがラ○ュタ、もとい、『エストレヤの船』であるならば、なおさらロマンの分からん連中にくれてやるつもりは毛頭ない。
まぁ、正直、『エストレヤの船』がどの程度の強力な力を有しているかは不透明だが、アルメリア様がわざわざ懸念を伝えてきた以上、またハイドラスが狙っている以上、僕の想像以上の力がある事は確定的だろう。
例によって、流石にその詳しい詳細は教えて貰えないだろうが、ね。
そうでなくとも、単純に強力なステルス機能を備え、航空技術の発展していないこの世界においては、制空権を支配出来る『エストレヤの船』はとてつもない脅威となるだろう。
『エストレヤの船』から大きな岩を落とすだけでも強力な武器になるし、逆に地上からは、『エストレヤの船』に対抗出来る手段はほぼ皆無なのだ。
まさに“航空優勢”。
『エストレヤの船』を手にすれば、今現在のこの世界を支配する事が、夢物語でなく、現実的に可能となるのだ。
どちらにせよ、ハイドラスにだけは絶対に渡してはならんなぁ~。
さて、どうするか・・・。
いや、方針自体は決まっているのだが、その具体的な内容の方に、僕は頭を悩ましていた。
・・・・・・・・・。
「・・・ちなみにモニターしているって事は、この施設なら『エストレヤの船』の詳しい座標が分かる、って事ですよね?」
【もちろんです、マイマスター。】
しばし考えた後、僕はその事実に思い至った。
強力なステルス性能を備えている割に、ここのスクリーンやモニターには、『エストレヤの船』の姿をバッチリ捉えている。
って事は、この施設ならば、『エストレヤの船』の現在地を正確に割り出す事が出来るのではないか、と思ったのである。
「・・・なら話は簡単じゃないですか、アルメリア様。」
それに、セージが心なしか自慢気に肯定した事で、僕は拍子抜けした様にアルメリア様にそう確認する。
〈仰りたい事は分かりますが、確かにアキトさんならば、『エストレヤの船』を直接捉える事は可能っスよ?けど、そう簡単にそれを許すと思いますか?〉
「あっ・・・、やっぱり迎撃システムか何かでもあるんですかね?」
が、アルメリア様が首を横に振り否定した事で、僕もその可能性に思い至った。
〈その通りっス。正規の手続きを踏まない手段によって『エストレヤの船』に侵入しようとした場合、当然ながら迎撃システムが作動します。また、『エストレヤの船』を破壊する事は出来ません。いえ、正確には破壊してはならないっスね。まぁ、私達は『制約』によって干渉する事自体不可能っスけどね。〉
「・・・破壊してはならない?それってどういう・・・?」
〈・・・すいません、お答え出来ないっス。〉
「むぅ・・・。」
いつもの『制約』かな?
・・・まぁ、仕方ないか。
けど、これで納得も出来る。
ぶっちゃけると、『エストレヤの船』がどれほど強力な代物であろうと、古代魔道文明時代の歴史的付加価値があろうと、現代に生きる者達の脅威となるのであれば、破壊しておいた方が安全の筈である。
なのに、『エストレヤの船』が現代においても現役で飛び続けているって事は、アルメリア様達でさえ、『制約』によって『エストレヤの船』に手出し出来なかったのだろうし、仮にアルメリア様の使徒となった者達がいたかどうかは知らないが、もしいたとしたらその者達も同様だった、という事になる。
その理由は明確ではないが、破壊してはならない、ってのが、一つのポイントだろう。
もしかしたら、『エストレヤの船』を破壊する事によって、大きな厄災が起こるのかもしれないしな。
自爆装置がついてる、とかね。
また、そのアクセスポイントが“大地の裂け目”にあるそうだが、そちらにもアルメリア様側は手出ししていない状況の様だ。
こちらも、何からの理由あるのかもしれないが、やはり一筋縄ではいかないのだろう。
かと言って、いたずらに放置する事も出来ないので、この『地下室』を使って監視していたのだろう。
先程も述べた通り、『エストレヤの船』が人の手に渡れば、まぁ、良い未来は想像出来ないからねぇ~。
〈まぁ、そんな事もあって、仮に『エストレヤの船』を手中に収めるのであれば、確実に“大地の裂け目”に存在するアクセスポイントを押さえなければならないって訳っスよ。〉
「ふむ、なるほど・・・。」
上手くハイドラスを出し抜けたらラッキー、とは思ったのだが、結局は正攻法しかないって訳ね・・・。
「・・・ドウサレルノデスカ、オ父様?」(疑問)
「そうだねぇ~・・・。」
話が一段落した事を察してか、ずっと黙っていたエイルがそう問い掛けてきた。
まぁ、先程から述べている通り、元々ハイドラスに古代魔道文明時代の遺産をくれてやるつもりはない。
ラ○ュタを彷彿とさせるロマンの塊である『エストレヤの船』なら、尚更である。
が、現状では、まぁ、まだ決定的な差ではないものの、ハイドラスに、行動においても情報においても一歩リードされている感は否めない。
それに、ハイドラスの情報源がどの程度の精度かも不透明だ。
それなのに、こちらが出遅れている事は、少々、いや、かなりの不安要素となるだろう。
で、あるならば、こちらもなりふり構っていられる場合ではないだろうなぁ~・・・。
「・・・『異世界人』達にも手伝って貰いますか。」
〈・・・。〉
【・・・。】
しばし考えた後、僕はそう呟いた。
使える手札は何でも使うのが僕の流儀である。
「・・・悪イ顔ヲシテイマスヨ、オ父様?」(ドン引き)
「う、うっさいわっ!」
「・・・デスガ、良イオ考エダト思イマス。自分達ダケデ難シイノナラバ、躊躇ナク別ノ手段ヲ使ウ・・・。汚イナサスガオ父様キタナイッ!」(絶賛)
「・・・それって褒めてる?」
「・・・半分ハ。」(目そらし)
「じゃあ、残りの半分はっ!?」
「・・・。」(ピィ~♪︎)
エイルは下手な口笛を吹く。
っつか、案外器用だなぁ、『魔道人形』なのにっ!!!
などというやり取りをしながらも、こんな風に方針が決まった訳である。
ティアさん達には申し訳ないが、巻き込ませて貰おう。
それに、ロンベリダム帝国周辺で巻き起こっている以上、彼女らにとっても無関係な話ではないだろうしね。
まぁ、後は、彼女達を巻き込む為の屁理屈だな・・・。
【あぁ~、ところでマイマスター。私の存在をお忘れではありませんか?】
そんな事に考えを巡らせていると、若干蚊帳の外にしてしまったセージが、おずおずとそう話し掛けて来た。
「あぁ~、ごめんごめん。忘れていた訳じゃないんだけどねぇ~・・・。で、どうしたの?」
【いえいえ、この施設はすでにマイマスターに所有権が移っているのですよ?ですから、正式に契約をして頂きませんと・・・。】
「・・・へっ?そーなの??」
・・・そういえば、『資格者』がどうの、って言っていた気がするなぁ~。
〈あぁ~、言い忘れていたっスね。以前の所有権は私が管理していたっスけど、私の『生体端末』が消滅した時点で、セージの所有権は空白のままになってるっスよ。〉
「ほうほう。」
〈んで、今回アキトさんが所有権をゲットしたって訳っスね。まぁ、所有権を放棄しても構わないんスけど・・・。〉
【・・・それはあまりオススメしませんよ?御覧頂いてる通り、私の情報収集・分析能力は、きっとマイマスターのお役に立つ筈です。】
「う~ん・・・。」
確かに、この施設とセージが有用なのは疑い様がない事実だろう。
今は、『エストレヤの船』を監視している事しか分からないが、他にもそのサポート能力は様々な事に応用が効きそうだしね。
それに、下手に誰かにこの施設とセージの所有権を奪われても厄介だ。
まぁ、それはかなり困難であろう事はすでに理解しているが、だとしても、可能性はゼロではないからね。
所謂、抜け道や裏ワザがあったとしても不思議ではないし。
故に、正式にこの施設とセージを僕が所有するのは規定路線ではあるのだが、ただ、懸念もある。
「まぁ、契約をするのは構わないけど、セージの言う情報収集・分析能力を、どう利用すれば良いんだい?まさか、この施設にわざわざ戻って来なきゃならない、って事はないよねぇ~?」
そうなのだ。
これからロンベリダム帝国周辺へと赴く事が決定している僕としては、移動出来ないだろう施設である事がネックなのである。
そうなれば、宝の持ち腐れ感は否めない。
まぁ、牽制やセキュリティの観点から、先程も述べた通り、所有する事は規定路線なのだが。
だが、僕の口振りから分かる通り、それを解決する手段がある事をほぼ確信していた。
【もちろんです、マイマスター。この『端末』をお持ち頂ければ、この施設から遠く離れたとしても、この施設の機能を使う事が可能です。】
「ほうほう。」
・・・やっぱりね。
向こうの世界でも、現場に立つ者達に情報を送り手段は結構あるのだ。
古代魔道文明時代の技術力ならば、その程度出来るだろうと思っていたのである。
「ならば問題なさそうだね。じゃ、正式に契約させて貰うよ。」
【了解しました。】
こうして、また新たなる問題も増えつつも、僕は心強い味方をまた一人(?)仲間に加える事となったのであったーーー。
誤字・脱字がありましたら、御指摘頂けると幸いです。
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