逆鱗 2
続きです。
アキトの登場は年明けにありそうですね(笑)。
という事で、一足早いですが、良いお年を。
来年も、ゆる~くお付き合い頂けると幸いです。
◇◆◇
〈ふ~む。其方の操る“術儀”とやらは、中々エゲツないのぅ~。〉
「そうですか?私の御先祖様達が、超常の存在に対抗する為に必死に編み出した術なのですがねぇ~?」
一方その頃、ティアの留守を守る形でロンベリダム帝国内に留まり、エイボンと共にルキウスらの動向やらを監視し、牽制やら介入などに務めていたキドオカが、ソラテスとそんな会話を交わしていた。
どうやらソラテスは、アスタルテと同様に、アラニグラ達の行動を観察していた様である。
もっとも、ヴァニタスに『神の眼』を返したキドオカは、以前の様に遠方の出来事を観察する事は出来なかったーーー、訳ではなく、実は限定的ではあるが、彼も遠方の出来事を見聞きする事が出来たのである。
それ故に、キドオカとソラテスは、全く同じシーンを見る事が可能だったのである。
(ちなみにその方法とは、パリスの部下の男に付けた“式神”の眼を通して、遠方の状況を確認する、といった手法であった。
方法論としては、信仰心の強い信者の眼を通して情報を収集しているハイドラスに近いだろう。
誰かに“式神”を付けなければならない、更には“式神”と感覚、ここでは視覚や聴覚となるだろうが、を同調させなければならない、という手順があるので、流石に『神の眼』の様な自由度はないものの、それでも、特に遠方での事象を視認する術に乏しいこの世界においては、重宝する技術である事には変わりないであろう。)
〈いや、確かに其方のいう妖怪や悪霊の様な超常の存在には、『肉体』は存在せんからな。『アストラル体』や『霊体』であるそれらの存在に効率良くダメージを与えるならば、『霊魂』の力を直接用いた方が良いのは分かる。〉
「でしょう?」
〈しかし、それは必ずしも超常の存在にだけ影響を与えるモノでもあるまい?今見た様に、物理的に存在する人間種を殺める事すら出来るのだからな。〉
「・・・まぁ、それについても否定はしませんよ。“呪い”とは、元来人が人に行う事ですからね。もっとも、私も好んで使用する事もありませんがね。今回も、依頼人が望んだから手助けしただけに過ぎませんし、私個人が、彼女に恨みを抱いてる訳ではありませんからね。」
〈だからエゲツないと言っておるんじゃがなぁ~・・・?〉
「・・・。」
実際、ソラテスの発言は正しい。
この場合、キドオカは殺人幇助をしたのと変わらないからである。
まぁ、ハッキリ言って、『霊能力』という、物理的証拠のない現象においては、キドオカが罪に問われる可能性は皆無である。
もっとも、(向こうの世界であれ、この世界であれ)捜査当局が『霊能力』や『霊魂』の力について深い見識を持っていればその限りではないが、残念ながらこの世界においても『霊能力』や『霊魂』の力は一般的な技術ではない為に、彼が関わった事を特定する事はほぼ不可能であるが。
もっとも、キドオカからしたら、自分が直接手を下した訳ではないから罪の意識など皆無である。
言ってしまえば、彼は武器を作り、それを提供しただけに過ぎない。
その武器を使い、何をするのかは、その使用者が決める事だ。
その結果として、仮に殺人が行われたとしても、それは彼の関知するところではない。
こちらの世界で例えるならば、ドニやリサなどの『鍛治職人』の作った武器が、悪意ある者によって殺人に使用され、その責任が『鍛治職人』にまで及ぶのと同じ様なモノだ。
ハッキリ言ってナンセンスであり、あくまでその武器を悪用した者が悪い、というのが世間的にも一般的な解釈であろう。
もっとも、キドオカはその武器が悪用される恐れがある事を承知の上だったのだが、彼の価値観から言えば、結局それを悪用した者の責任である。
残念ながら、キドオカはそうした特殊な『霊能力』を持つが故に、向こうの世界においても、裏の仕事を受けざるを得ない事も多かったのだ。
彼がどれ程の力を持とうとも、国家や大規模な組織に個人や小さな組織が敵う筈もない。
そうした影響からか、彼にもある程度の良心や一般常識はあるものの、何処かドライでシビアは感性を持たざるを得なかった事情も存在するのである。
(ここら辺は、今現在の『異世界人』達が置かれている立場と似た様なモノだった。
もっとも、今現在の『異世界人』達の力であれば、国家や大規模な組織を相手取っても対抗出来るほどの力量を備えているが、それでも武力はともかく、物資や食糧などの事を考えれば、やはり少人数の集団では不利である事は変わらない。
故に、表面上は『異世界人』達も、ロンベリダム帝国やこの世界の勢力に対して反抗する意思がないのである。)
とは言え、ソラテスも別にそれを責め立てるつもりでそう発言した訳ではない。
彼も、やはり一般人とは一線を画した価値観を持っているし、神々が必ずしも人間種の味方ではない事も関係するかもしれない。
〈まぁ、我は其方を責め立てる訳ではない。しかし、其方の“術儀”であれば、ハイドラスにも十分対抗出来たのではないかと思ってのぅ~?〉
『アストラル体』や『霊体』そのものに直接ダメージを負わせる事が出来るキドオカの術ならば、ハイドラス、引いてはソラテスも含めた神々にも対抗出来たのではないか?と、ソラテスはある意味牽制を含めてそう言葉を紡いだ。
「ああ、その件ですか?ハハハハッ、それこそそんな事は不可能ですよ。確かに、私の“術儀”は超常の存在に対抗する手段ではありますが、そうした存在にも、ピンからキリまでありますからねぇ~。私が相手取る事が出来るのは、せいぜい格の低い小物程度ですよ。強力な妖怪や悪霊なんかには、文字通り、私個人では手も足も出ません。神と呼ばれる存在になんか、とても敵う筈もない。ですから、私もソラテス様に御協力頂いている訳ですし。」
〈ふむ。で、あるか・・・。〉
「ええ。」
ニコニコとそのソラテスの懸念をやんわりと否定するキドオカ。
ーふむ。何処まで本当の事やら・・・。まぁ、『肉体』という枷がある以上、確かに人間に我々ほどの出力が出せる筈もないが、こやつ、まだ隠し球を持っていそうだしのぅ~。だが、まぁ、使う分には、極めて優秀な駒である事には変わりない、か。せいぜい、我の復活までは、利用してやる事にするかの。ー
そんな事を考えながら、ソラテスは再びアラニグラ達の様子を見やるのだったーーー。
◇◆◇
一方アラニグラとサイファスは、しばらくニナの死を悔やんでいた。
時間にしたら、ほんの数分程度であったが、彼らの体感では、かなりの時間が経っている様にも感じられた。
その間、マルコやコーキン、パリス、そしてニナに直接手を下したパリスの部下の男ですら、ジッと押し黙っていた。
まぁ、そこら辺は、それぞれが頭の中で様々な考えを巡らせていたからであるが、パリスの部下の男だけは、先程自身に向けられたアラニグラからの殺気に完全に萎縮してしまったからであった。
ふと、アラニグラとサイファスが、ニナの遺体を丁寧に横たわらせて、静かに立ち上がった。
そのまま、無言でパリスの部下の男のもとへと歩み始める。
ーーーゾッとした。
それは、誰の感情だったのだろうか?
いや、もしかしたら、アラニグラとサイファス以外のその場にいた者達が全員感じた事かもしれない。
誰がどう考えても、二人がこの後何をしようとしているのか、簡単に想像が付くだろう。
何せ彼らは、自身の仲間を傷付けられるどころか、その命を奪われてしまったのだ。
ーーー報復。
そう考えるのが、自然な流れであろう。
だというのに、誰も身体どころか、口すらマトモに動かせない状態だった。
これは、二人から発せられるプレッシャーや殺気といったモノからか、はたまた、極度の緊張状態からかは定かではないが。
だが、そんな中にあって、何とか無理矢理身体を動かした者が、この場に一人だけいた。
誰あろう、マルコであった。
「あ、あいや、待たれよ、アラニグラ氏、アルカード氏っ!!!」
「・・・何でしょう、マルコ閣下?」
先程の友好的な態度とはうってかわって、もちろん一定の礼儀は弁えているものの、冷たい視線をマルコに向けたアラニグラとサイファス。
そのプレッシャーに、背中に冷や汗をかきつつ、マルコはどうにか口を動かした。
「お、お二方は今から何を為さろうとしたのですかな?」
「・・・言わずともお分かり頂けると思いますが、そうですね。報復、でしょうか?」
「ヒッ・・・!」
分かりきった事ではあったが、その事がアラニグラの口からハッキリ示されると、その場の温度を更に低下した様にも感じられる。
その事からむしろそれが当然、と言わんばかりのアラニグラとサイファスの覚悟が感じ取れる。
ー二人は、本気である。ー
そう、その場にいた者達は確信出来た。
だが、マルコからしたら、それはとても許容出来ない行為だった。
もちろん、すでにロンベリダム帝国側の人間が、ダルケネス族側に手出しせてしまった状況であるから、二人が怒り狂うのも無理はない。
しかし、ここでやり返してしまっては、話がこじれにこじれてしまう。
政治的観点から言えば、和解の道を残す為にも、ここはお互い一旦引く場面である。
そう、マルコは冷静に考えていたのである。
「いけません、いけませんぞ、アラニグラ氏、アルカード氏っ!お二方の気持ちは分かりますが、ここは一旦冷静になって下されっ!!もし仮に、この場でお二方がその者を殺めてしまった場合、もはや引き返せなくなるのですぞっ!?」
「じゃあ、黙ってその野郎を見過ごせ、ってんですか、マルコ閣下っ!!!こっちは、仲間が殺られてんだよっ!!!」
「そ、そうは申しておりませんっ!ですが、それは我々の側でやるべき事であって、お二方が介入しては、もはや言い訳が立たなくなってしまいます。そうなれば、戦争は避けられないモノとなるでしょうっ!!!」
「「っ!!!」」
戦争、という言葉が出ると、アラニグラとサイファスも一瞬たじろいだ。
だが、頭に血が上っている状態では、冷静な判断力が低下していたのか、再び歩を進めようとする。
「こ、この通りです、アラニグラ氏、アルカード氏っ!!!」
「「っ!!!???」」
が、マルコの次の行動によって、二人はその動きを制止した。
ーーー何と、マルコは土下座をしたのであった。
「戦争となれば、様々な人々を巻き込む事になりますぞっ!それこそ、おびただしい数の人々が犠牲となるのですっ!!」
「それはっ・・・!」
・・・その通りである。
その場合、当事者や軍属はともかくとして、全く関係ない一般市民まで巻き込む事となる。
それは、ダルケネス族を預かる族長であるサイファスとは言え、そして、ロンベリダム帝国とダルケネス族を仲介した立役者のアラニグラとは言え、その者達の一存で決めていい事柄ではないだろう。
まして、ここで暴走して、パリスの部下の男を討つなど、ただの自己満足でしかない。
その果てに、戦争を引き起こしてしまったとしたら、戦犯以外のなにものでもないのだ。
マルコは、ソラルド領の現領主である。
つまりは、ソラルド領一番の権力者であるーーー、と同時に、ソラルド領に住んでいる者達全ての生命や財産を守る義務を持つ責任者でもあるのだ。
一般的な貴族のイメージから言えば、前半部分はともかく、後半部分をおそろかにする様なイメージを持つかもしれないが、まぁ、そうした権力者がいるのもまた事実であるが、マルコはその事をキチンと弁えている人物である。
故に、マルコは、二人の暴挙を見逃す事は出来なかったのである。
「ですから、ここは一旦引いて下されっ!必ずや、お二方、いや、ダルケネス族側の気持ちに報いる事をお約束します故、どうかっ・・・!!未来の芽を潰さぬ為にも、どうかっ・・・!!!」
「「・・・・・・・・・。」」
傍目から見たら、大の男が土下座をして懇願する様は、滑稽で情けなく見える事だろう。
だが、マルコのこの行為は立派以外のなにものでもなかった。
政治家は、冷酷なほど冷静でなければならない。
また、所謂“人の命”も、数値として捉える必要もあるのだ。
一人の為に百人を危険にさらすのと、百人を守る為に一人を犠牲にするのと。
そのどちらがベターな選択肢か?
それを、冷静に、冷酷に判断出来なければならない。
アラニグラやサイファスの様に、感情の赴くままに行動する者達には、とてもじゃないが務まらないのである(まぁもっとも、そうした未熟な政治家もかなり多いのだが。それに、時と場合によっては、そうした者がリーダーの方が良い場合もあるので、一概には言えないのだが)。
マルコの行動に揺り動かされたのか、はたまた自分達の行動の結果を鑑みたのか、フッー、と深いため息を吐いて、サイファスはポツリと呟いた。
「・・・我々の集落に戻ろう、アラニグラ殿。」
「・・・サイファス?」
一方のアラニグラも、やや冷静さを取り戻したのだが、やはりこうした状況に慣れていない事もあり、やや訝しげな表情でサイファスを見やる。
「マルコ閣下がここまでおっしゃっているのだ。閣下の面子の為にも、ここは引こう・・・。それに、ニナをこのままにもしておけんしな・・・。」
「・・・ああっ・・・。」
意図せず放置してしまったニナの事を思い出すアラニグラ。
彼女の為にも、彼女の家族の為にも、彼女を一刻も早く集落へ帰してやる事の方が先決だと思い至ったのである。
「と、言う訳ですから、残念ながら今回の協議は一旦中止とさせて頂きます。この続きは、この件が済んでから、と言う事で・・・。」
「え、ええっ、もちろんですともっ!この件は、キッチリ我々の方で方を付けておきますぞっ!!」
その言葉を聞き、マルコは内心ホッとしつつ、この件は自分が預かると請け負った。
そのマルコの言葉に、かすかに頷いたサイファスとアラニグラは、ニナの遺体を抱き抱え、ダルケネス族の従者らを従えて、その場を去っていったーーー。
・・・
「さて、お主、とんでもない事を仕出かしてくれたなっ・・・!」
「・・・へっ!」
「貴様っ!」
しばらくして、マルコは土下座を止め、パリスの部下の男をギロリッと睨み付ける。
それに、サイファスとアラニグラという圧倒的強者がこの場を去った事に若干の余裕を取り戻したパリスの部下の男は、横柄な態度でそう反応する。
それに、マルコの部下は、憤りを見せるが、
「良い、ただの虚勢であろう。この者には、もはや何も出来ないのだからな。」
「はんっ!果たしてそうかなっ!?」
マルコの安い挑発に乗ってしまうパリスの部下の男。
この事から、彼が本当に大した事のない小物である事がマルコには分かってしまった。
だが、得てして、こういう小物の方が、物事を悪い方向へ誘ってしまうモノなのである。
「ふむ、あまり私をナメるなよ、小僧?」
「はぁ~ん・・・?ガハッ!!!ゴホッゴホッ!!!」
「・・・そんなものは序の口だ。お主には、裏も含めてじっくり話を聞く事としよう・・・。連れていけっ!」
「「ハッ!!!」」
道化を演じていない今のマルコが、本来の為政者としてのマルコであった。
それを見誤ったパリスの部下の男は、マルコへのナメた態度を、マルコの部下の拳によって、有無を言わさず理解させられる。
ようやく怯えの表情を浮かべたパリスの部下の男であったが、今更理解しても遅いのだ。
そのまま彼は、何処とも知れず連行されていった。
「さて、パリスくん。君の部下がとんでもない事を仕出かした訳だが、それ故に君も軟禁させて貰おう。」
「な、何故ですっ!」
「それはもちろん、君が彼の上役だからさ。故に、もし仮に今回の件に君が関わっておらずとも、君には一定の責任がある・・・。そんな事は常識だと思うがね?」
「ぐっ・・・!」
次いでマルコは、パリスもマルコの部下や冒険者ギルド職員に拘束させた。
マルコは元々、のらりくらりと悪事に手を染めながらも、様々な事情で野放しになっていたパリスを失脚させる意図もあって、今回の協議に臨んでいた側面もある。
まぁ、当初の意図とは全く予定が違ってしまったが、結果としてはパリスの拘束と軟禁に成功した事になる。
・・・まぁ、それは決して喜ばしい事態ではなかったが。
「そうだな・・・。パリスくんは重要参考人だが、当事者ではない。故に、彼の部下とは分けて考えねばならんだろう。彼の屋敷に連行の後に、監視を付けて自由を制限すべきだろうな。」
「ハッ、了解致しましたっ!」
「くそっ、汚い手で触るなっ!俺を誰だと思っているっ!!」
マルコがそう暗に述べると、マルコの部下は心得てるとばかりに素早く対応した。
もはや余裕のなくなったパリスは、連行されながら本来の傲慢な態度が滲み出てしまっていたが、それに驚く者はこの場にはすでにおらず、ギャーギャーと騒ぎ立てるパリスを無視しながら、強引に連れ出されていった。
その場に残されたのは、マルコとコーキンの二人となる。
「フゥッ~・・・。」
人がいなくなると、マルコは深い溜め息を吐いた。
それに、コーキンは何とも言えない表情で声を掛ける。
「マルコ閣下・・・。」
「ああ、オーガス氏もご苦労だったね。」
疲れた表情でそう答えるマルコ。
それにコーキンは、自分は“この人を見誤っていた”と、内心では自分を恥じる。
まぁ、コーキンも面と向かってそんな事は言わないのだが。
「とんでもない事になりましたな・・・。」
「ああ・・・。幸い、アラニグラ殿とサイファス殿が引いてくれたお陰で、決定的な話にはならなかったが、それも今後の我々の対応如何ではどう転ぶか分からんからな。」
「ええ・・・。しかし、奴の狙いは何でしょうか?ハッキリ言って、場をいたずらに混乱させただけの様にも思えますが・・・。」
「それは私にも分からんよ。奴の発言だけを切り取ってみれば、所謂“私怨”である可能性は否定出来んが、決めつける事も出来んだろう。単独犯の様にも見えるが、奴が使用した“魔法銃”は、奴程度の輩が個人で入手する事はほぼ不可能に近いだろうからな。」
現場に残された重要証拠である“魔法銃”をマルコは示し、そう推論を述べる。
「そういえば、コレは何なのですか?おそらく武器なのでしょうが、私もこんな物を見たのは初めてで・・・。」
「それはそうだろうな。私も、正直詳しく知っている訳ではないが、“魔法銃”の存在は耳にした事はある。おそらくこれは、“魔法銃”という武器で、魔法の力によって飛翔体を飛ばし、遠く離れた者を殺傷する事が可能な代物、らしい。考え方としては、弓矢などに近いが、それに比べても扱いが容易な様だ。実際、奴程度の使い手が、身体能力においては遥か上を行くダルケネス族に傷を負わせた事からもそれは明らかであろう。・・・強力な武器だな。」
「そんな物がっ・・・!」
今更語るまでもないが、情報は重要である。
当然その事を理解しているマルコは、独自の情報網を持っていたのである。
「それと、これは他言無用で頼みたいのだが、一部の噂では、皇帝がこれを開発させ、密かに生産、量産させているという話もある。それと平行して、“魔法銃”を専門に扱う兵士を教育させている、という噂も、な。」
「な、何ですってっ!?」
「シッー、声が大きい。」
もっとも、マルコをしても噂程度の信憑性しかない情報を取得するのがやっとな程度である。
当然ながらそれは、相手にとっても情報が漏れる事は痛手であるから、それらを厳重に管理しているからである。
まぁ、とは言え、いくら箝口令を敷いたところで、人の口に戸は立てられないので、そうした情報がある程度流出する事もしばしばあるが。
「ああ、すいません・・・。では、奴の裏には、ロンベリダム帝国の思惑がっ・・・!?」
「それも分からん。だが、何らかの関わりがある事は否定出来ないだろうな。何せ、言わばロンベリダム帝国の最新兵器を、地方の町長の小間使いでしかない男の手にあったのだからな。」
「何とっ・・・!」
ロンベリダム帝国の上層部が関わってくるとなると、この事件の背景が複雑になる。
それが確定したら、マルコはともかくとして、もはやコーキンの手には余る話となるだろう。
「まぁ、まだ確定ではないがな。とにかく、この件は慎重に調べる必要がありそうだな。その一方で、ダルケネス族への対処も鑑みると、そう時間は掛けておれんし・・・。難しい話になりそうだ。」
「・・・。」
コーキンも、マルコの献身により、多少の時間的猶予が得られた事は理解していたが、一方で、元・冒険者としてはどちらかと言うとダルケネス族の立場に近いコーキンからしたら、このままアラニグラとサイファスが黙っている事もありえない事を同時に理解していた。
冒険者は、ある意味暴力を生業としている職業だ。
上位レベルの冒険者ならば、やはり多少政治的な立ち回りは理解しているし、そういう風に立ち回る者達も多いのだが、根本的には腕っぷしで解決するのが冒険者という職業である。
故に、こちら側の調査などに時間を掛ければ掛けるほど、向こう側が焦れて、いつ武力行使してきたとしても不思議な話ではないのである。
だと言うのに、この背景にあるのが、もしかしたらロンベリダム帝国の上層部の陰謀かもしれないとなれば、話は更にややこしくなる。
苦虫を噛み潰した様な表情のマルコに、コーキンを薄ら寒いモノを感じるのだったーーー。
誤字・脱字がありましたら、御指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。よろしくお願いいたします。