国際的異種間結婚への道 1
続きです。
予告した通り、幕間話です。
「いかぁーんっ!いかん、いかん、いかぁぁぁぁーーーんっ!!!」
その日、ロマリア王国の王都・ヘドスの一部地域にて、けたたましい絶叫が響き渡っていた。
その絶叫を聞き付け、周囲の住人達は怪訝そうな顔をしながら急いで通りに出たり、窓を開けて様子を窺っていた。
まぁ、つい最近まで、『泥人形』騒動などという恐ろしい出来事があった後の、ただでさえ少しナーバスになっている時期にこれである。
ヘドスの住人達が、多少敏感になったとしても、それは決して不思議な事ではないだろう。
結論から言うと、これは別に大した事ではなかった。
いや、彼ら当事者にとっては大問題だったかもしれないが、周囲の住人達にとってはあまり関係のない、大迷惑極まりない騒動だった訳である。
まぁ、その原因が、残念ながら僕の仲間達が発端となっていたのは、大変遺憾ではあるのだがーーー。( ̄▽ ̄;)
◇◆◇
話は一旦、新たにヴィーシャさんを仲間に加えた僕らが、シュプールにて彼女に本格的な訓練を施す前の時間にさかのぼる。
僕らはその時、王都・ヘドスにあるトロニア共和国とエルフ族の国の臨時大使館にもなっている『リベラシオン同盟』の本部施設にお世話になっていた。
ここで、一旦ややこしい政治的・人事的な話を整理しておこう。
以前の非合法かつ義賊的な行為をしていた頃の『リベラシオン同盟』とは異なり、今現在の『リベラシオン同盟』は公式に認知された組織である。
それと同時に、今現在ではある意味微妙な立場に立たされてもいる。
と、言うのも、その存在意義が微妙に薄れてしまっているからである。
そもそも『リベラシオン同盟』の発足事由は、表向きはロマリア王国の腐敗の根絶と、(他種族も含めて横行していた)『人身売買』の根絶の為である。
しかし、その真の狙いは、三国同盟の布石とする事であり、そもそも『人身売買』云々というのも、僕がティーネ達からロマリア王国の裏側で密かに囚われていたエルフ族を解放するのに協力して欲しいと依頼された事が発端となっている。
以前にも言及したかもしれないが、当初の僕は、ライアド教やハイドラスと事を構えるつもりは毛頭なかった。
故に、ティーネ達の依頼を請け負った当初は、エルフ族だけを解放して回る事のみを考えて行動を起こしていたに過ぎないのであるが、その過程で『パンデミック』や、それをライアド教(ハイドラス派)が人為的に引き起こしていた事、それには古代魔道文明時代の遺産であるところの『失われし神器』を悪用されていた事などが発覚した事によって、ライアド教を放っておく事が(個人的に)出来なくなったので、最終的には本格的に腰を落ち着けてこの問題に取り組む事としたのである。
とは言え、何度となく言及してはいるが、ライアド教は少なくともハレシオン大陸では最大の規模を誇る一大宗教団体である。
更には、その本拠地であるロンベリダム帝国は、ハレシオン大陸屈指の強国でもある。
そんなところに、いくら当時もそれなりに力を身に付けていたとは言え、個人や少数の集団で打倒を目指したとしても、それはとてもじゃないが現実的な話ではない。
故に、この活動と平行して、自分達の味方となる陣営を口説き落とす為に、その二つの御題目を掲げて活動を始めたのであった。
そして、その目論見は、ロマリア王国の上層部が世代交代する事によって、ついに結実した。
ロマリア王国、ヒーバラエウス公国、トロニア共和国の三国と、エルフ族の国、鬼人族の一部部族を加えた『ブルーム同盟』の発足によって。
いくらライアド教やロンベリダム帝国とは言え、複数の国から成る組織の影響力は無視出来ない。
これは、場合によっては己の立場を脅かす要因となるかもしれないからである。
こちらとしても、この三国に加えた、他の複数の国も更に味方に付ける用意がある。
そうなれば、更にその影響力は無視出来なくなるだろう。
で、まぁ、そうした流れを嫌って、ロンベリダム帝国も周囲から孤立するのを避ける上でも、周辺国家郡を懐柔する方向へ舵を切っている様だ。
数には数で。
これは戦いの基本でもある。
まぁ、そうした事情はともかくとして。
んで、いよいよ国という大きな枠組みに携わる者達が参入した事によって、大きな影響力を与えたとは言え、基本的に平民の集まりである『リベラシオン同盟』の役割も終わりに近付いた訳である。
もちろん、その二つの御題目が達成された事も一つの理由ではあるのだが。
いや、場合によってはロマリア王国、ないしは『ブルーム同盟』が暴走をするのを防ぐ上で、監視機関として存続させる事は可能かもしれないし、あるいは、その活動を他国へと幅を広げる方向も有りなのだろうが、どちらにせよ、その中身やそこにいる人材は大きく変化する事になるだろう。
ちなみに、『リベラシオン同盟』の盟主であるダールトンさん、戦術顧問であるドロテオさんは、そのまま同組織に留任しているのだが、『リベラシオン同盟』の最大出資者にして、『リベラシオン同盟』の運営にも大きく関わっていたノヴェール家のジュリアンさんは、最終的には『ブルーム同盟』に移籍する事となった。
これは、彼の立場が“貴族”だからである。
今現在のロマリア王国においては、貴族だ平民だという階級制度は急速に見直される風潮にある。
これは、僕やダールトンさん、ドロテオさんなど、『リベラシオン同盟』に関わっていた多くの平民がその能力を示したからである。
その末で、閉塞していたロマリア王国に風穴を開けた功績によって、先祖伝来の立場によるモノではなく、個人の能力によって人々を導く役割を持たせるシステムへと移行しようとしていたのである。
とは言え、それもまだ始まったばかりの試みである。
急激な変化には軋轢を生む訳で、やはり貴族達からの反発もあり、いきなり貴族制度を廃止する事は得策ではないし、それに平民達も、ダールトンさんらが特殊な事例なのであって、大半の人々はそこまで高度な教育を受けて来ていない。
大きな組織を運営する、人々の生活や人生を左右する立場に立つ以上、無知な者を上に立たせる訳にはいかないという事情もあるのである。
その点、貴族達にはその下地が元々備わっている。
まぁ、優秀かどうかはその個人にもよるが、やはりこの点は大きいのである。
もちろん、貴族と平民の、所謂“教育格差”を是正する動きは見え始めているので、将来的には、ロマリア王国でも、貴族や平民の区別なく、優秀な者達ならば、重要なポストを任される事もあるだろう。
しかし、現時点では、平民の立場では、重要なポストに就く(就かせる)事は難しいのが実情なのである。
その点、ダールトンさんとドロテオさんは(まぁ、自分達で立ち上げた組織であるから当たり前の話なのであるが)、『リベラシオン同盟』という複数の国からも一目置かれている組織の中枢を担っている人物である。
だが、先程も述べた通り、新たに立ち上げた『ブルーム同盟』においては、もちろん参加する事は可能だが、彼らに何らかの立場に与える事は慎重にならざるを得なかったのである。
で、その代わりではないが、『ブルーム同盟』の議長役、つまり実質的なトップは、『リベラシオン同盟』にも協力し、更にはロマリア王国にも長年に渡って貢献してきたマルセルム公が就く事となった。
彼の功績を考えれば不自然な人事ではないだろう。
もちろん、『ブルーム同盟』は、ある意味国の枠組みを越えた組織であるから、そのトップが何処かの国と繋がっているのはあまりよろしくない。
いや、マルセルム公はロマリア王国出身であるし、ロマリア王国の大貴族でもあるので、その点はどうしようもないのだが、マルク王からティオネロ王へと世代交代をしたのを契機に、少なくとも彼はロマリア王国の政界を引退している。
それに、『ブルーム同盟』が軌道に乗る、あるいは参加国が更に増えれば、議長役を選挙によって選出する事もあるかもしれないので、これはある意味では暫定的な措置でもある。
これについては、(上記の点も考慮した上なのかは定かではないが)今のところ他の参加国からも異論は出ていないので、とりあえずは問題ないのだろう。
一方、ロマリア王国から『ブルーム同盟』に派遣される、所謂“国連大使”的な役割として、その立場にはジュリアンさんが任命される事となったのである。
こちらも、人選としては申し分ないだろう。
ジュリアンさんは、ロマリア王国の若手貴族筆頭でもあるし、今やロマリア王国の政治にも強い影響力を持ち、更には『リベラシオン同盟』の一員として、ロマリア王国の世代交代にも深く関わった人物でもある。
本来ならば、そのままティオネロ新王の側近として、ロマリア王国の政治の中枢に食い込んでいく事も可能だったかもしれないが、もちろんロマリア王国の運営も非常に重要ではあるが、『ブルーム同盟』は、その役割的にも更に大事となってくる。
それに、新たに立ち上げた組織である以上、若手に託した方が、何かと柔軟に対応してくれるだろうという思惑もあったのかもしれない。
そうした訳で、ジュリアンさんは、『リベラシオン同盟』から離れ、『ブルーム同盟』へとある意味移籍する形になったのである。
で、そんな感じに他の『リベラシオン同盟』に関わった者達の人事が様変わりする中、長年僕の従者を務めてくれていたティーネ達も、それぞれの役割を持たされる事となったのである。
当たり前の話ではあるが、ティーネ達の所属はあくまでエルフ族の国である。
僕の従者となったのも、エルフ族の解放を依頼すると同時に、それに協力する為、かつエルフ族の国との連絡役としての側面が大きいかった。
実際、メルヒやイーナは、僕らとの活動の傍ら、トロニア共和国やエルギア列島にあるエルフ族の国に赴く事も多かった。
エルフ族の望みであったロマリア王国に囚われていたエルフ族解放が終わり、更にはロマリア王国との協議が済んでしまえば、彼女達の役目も終わり、という訳である。
実際、僕やダールトンさん、ドロテオさんなどはエルフ族の国を代表してグレンさんからこれまでの功績を称えた感謝状や金品を贈られている。
まぁ、ある意味利害が一致して行動を起こしたに過ぎないのだが、これは言わば形式上の事でもある。
それを断る事は大人としてはありえない事でもあるので、そちらに関しては素直に受け取っておいた。
つまり、この時点で、ある意味彼らエルフ族との“契約”が切れた事と同義なのである。
それと同時に、あくまでエルフ族の国所属であるティーネ達も、他の役目に就く事になる。
いや、ティーネについては僕についてくる事を強く望んだし、エルフ族側も何らかの思惑があったのかそれを容認したが、ジーク、ハンス、ユストゥス、メルヒ、イーナはエルフ族側に復帰する事となったのである。
まぁ、そのままエルフ族の国に帰還する事なく、グレンさん預かりのまま、今度はグレンさんの従者として活躍しているので、本当に別れた訳ではないのだが。
ちなみに、エルフ族側の外交使節団の代表を務めていたグレンさんは、そのまま、『ブルーム同盟』のエルフ族の国からの“大使”を務める事となっている。
そこから考えると、ジーク達の実力を鑑みれば、今後は『ブルーム同盟』の傘下となるだろう治安維持部隊に参加する可能性は高いだろう。
『ブルーム同盟』は、あくまで他国(まぁ、ここでは主にロンベリダム帝国であるが)に干渉する為の、合理的かつ現実的な手段であるが、それには外交的カードとしての武力も必要になってくるからね。
とまぁ、そんな感じに僕らの関係も様変わりした訳ではあるが、僕らの友情や仲間意識が変わる事はない。
それに、信頼する彼らが、僕らがカバー出来ない部分を担ってくれるのならば、これほど安心な事もないだろう。
さて、そんな風に、ある意味以前に比べて環境的に落ち着いた彼らは、ここでとある行動に出たのである。
それが、ジークとフィオレッタさん、ハンスとリオネリアさん、ユストゥスとヴィアーナさんの婚姻話だったのであるーーー。
・・・
「なんやグレンはんっ!けったいな声出してっ!!」
「どうされたのですか、お爺様っ!!!」
「一体何事ですっ!?」
「なんだなんだっ!?」
けたたましい絶叫を聞き付け、僕らはその声の出所に次々と集結していた。
が、そこには興奮した様な、厳しい表情を浮かべて荒い息をついているグレンさんと、その前にバツの悪そうな表情を浮かべて並んでいるジークとフィオレッタさん、ハンスとリオネリアさん、ユストゥスとヴィアーナさんの顔触れを認識すると、皆何かを察した様な表情を浮かべていた。
やれやれ、やっぱりこうなったか・・・。
僕はそんな事を考えながら、双方の間を取り持つのだった。
「まあまあ、少し落ち着いて下さいよ、グレンさん。」
「フゥフゥッ・・・!こ、こりゃアキト殿に皆さん。す、すいません、お騒がせをしてしまい・・・。」
「いえいえ、まぁ、何となくグレンさんが興奮した理由は分かりますから、謝られる事ではありませんが・・・。」
こちらにすがる様な目線を飛ばしてくるジーク達に軽く頷きながら、そうグレンさんを宥める僕。
「・・・その口振りですと、アキト殿も事情は知っておいでなのですね?」
「はぁ、まぁ、一応。察するに、ジーク達とフィオレッタさん達の婚姻に関するお話ですよね?」
「・・・ええ。」
その僕の言葉にグレンさんが頷いた瞬間、その場に集まっていた女性陣(ティーネ、メルヒ、イーナを除く、アイシャさん、リサさん、エイル、ヴィーシャさん)が、にわかに色めき立っていた。
「そうなんだぁ~!いよいよだね、フィオレッタさん、リオネリアさん、ヴィアーナさん!!おめでとぉー!!!」
「「「あははははっ・・・。」」」
「そっかそっか。いよいよジークさん達も身を固める決心がついたんだね?(ウンウン)」
「オオ~!オメデトウゴザイマスッ!」(祝福)
「なんや、めでたい話やんか。それなのに、何をそんなに騒ぎ立てる必要があるんや?・・・いや、待てよ・・・。ふむ、なるほどなぁ・・・。」
「いやいや、確かにおめでたい話なのですが、これには中々難しい問題が絡んでいまして・・・。」
「そ、そうだった!と、ともかく、私は断固としてその婚姻には反対だぞっ!!」
アイシャさん達の迫力に一瞬呆気に取られていたグレンさんは、僕の言葉にハッとして、厳しい口調でジーク達を睨んだ。
「ええっ~!?なんでそんな意地悪言うのぉ~、グレンさぁ~ん?」
「そうだよぉ~。それに、今やそれなりに立派にやってるけど、ジークさん達の性格を考えると、身を固めた方が絶対良いとボクは思うけどなぁ~?」
「オ父様、コレガ俗ニ言ウ、“オ父サンハ許シマセンヨッ!”トイウヤツデスカ?」(勘違い)
「ちゃうわっ!」
「あ、いや、その・・・。」
アイシャさん達の剣幕に戸惑うグレンさん。
うん、ただでさえ、女性を敵に回すのは、我々男性にとっては分が悪いからな。
しかし、これはグレンさんの言い分も分かるので、とりあえず助け船を出しておこう。
「まあまあ、アイシャさん達も一旦落ち着いて。とりあえず、僕から説明するからね。」
パンパンと手を叩いて、若干混沌としたその場を、僕は収めるのだったーーー。
・・・
とりあえず落ち着いた面々を一旦椅子に座らせて、僕は説明を開始した。
ちなみにこの場には、当事者であるグレンさん、ハンス達とフィオレッタさん達の他に、グレンさんの絶叫を聞き付けて集まった、僕、アイシャさん、ティーネ、メルヒ、イーナ、リサさん、エイル、ヴィーシャさん、ダールトンさん、ドロテオさん、それと、今現在は『ブルーム同盟』に籍を置く事となったジュリアンさんの顔もあった。
おそらく、引き継ぎか何かの用事で立ち寄っていたのだろう。
その皆の顔を見回しながら、僕は静かに説明を開始した。
「さて、まず大前提として、何もグレンさんも意地悪からジーク達とフィオレッタさん達との婚姻に反対している訳ではありません。むしろ逆です。グレンさんは、ジーク達やフィオレッタさん達の今後を慮って、あえて苦言を呈しているのですよ。」
「あぁ~、アキト。いきなり話の腰を折って悪いが、俺にはグレンの旦那が、ジークさん達のお相手が人間族のフィオレッタさん達だからこそ、頭ごなしに反対している様に思えるが・・・。」
話し始めてすぐに、ドロテオさんからそう意見が出る。
「ええ、確かにそれも理由の一つです。しかし、事はそう単純な話ではありません。」
「と、言うと?」
しばらく黙っていたダールトンさんが、僕の言葉の続きを促した。
「確かに現状のこの世界では、異種族間の婚姻は極めて珍しい事例だと言えるでしょう。しかし、かつてのこの世界では、もちろん珍しい事例である事には変わりありませんが、そうした例もない事はなかったのですよ。」
「ほぉ~、そうなんですねぇ~。」
「いや、けどその話はおかしくねぇ~か?ロマリア王国は、まぁ、色々あって分からなくはないが、トロニア共和国じゃ、人間族も他種族も入り交じって生活してんだろ?それなら異種族間の婚姻があったとしても、何らおかしな話じゃねぇ~だろ?」
「それについては、僕も詳しい事は知りませんが・・・、ヴィーシャさん。おそらくですが、トロニア共和国でも、異種族間の婚姻はあまり上手くいっていないのではないですか?」
「確かに、ドロテオはんの言う通り、トロニア共和国では異種族間の婚姻もない事はないんやけど、旦那はんの言う通り、そのほとんどが上手くいっていないのが実情や。そんな事もあって、色んな種族が暮らすトロニア共和国やけど、婚姻に関しては同族間にて行うのが、ある種の暗黙のルールになっとるわ。」
「それは何故ですか?やはり価値観や文化の違いによるモノなのでしょうか?」
「いえ、ジュリアンさん。その理由は、まぁ、そうした背景もあるのでしょうが、一番の理由は、子宝に恵まれないからなのです。」
「なんや、旦那はん。よう知っとるなぁ~。」
まぁ、この世界の古代魔道文明も含めて、歴史的資料を調べたりするのは、僕の趣味みたいなモノだからね。
今では他種族との交流が途絶え気味なこの世界の国々ではあまり知られていない事なのだが、以前にも言及したと思うが、人間族以外にも人間族に近しい外見、遺伝情報などを持つ他種族である鬼人族、ドワーフ族、エルフ族、獣人族という存在が実際に存在するこの世界においては、異種族間で結ばれる事例があったとしても何ら不思議な現象ではない。
ただ、何故か、例えば鬼人族×ドワーフ族などの様な、他種族同士では子孫を残せないのである。
つまり、人間族と他種族間のみ、子孫を残せる可能性があるのだ。
だが、ここでも問題が存在した。
基本的に、人間族に比べれば、他種族の方が基本スペックは上なのである。
そうした事も関係するのかは分からないが、人間族と他種族間のカップルから生まれる子供は、虚弱体質であったり短命である例がほとんどの様なのである。
今現在の向こうの世界においては、婚姻に関しては多種多様になっているので、場合によっては子供をあえて作らない選択をするカップルもいるかもしれないし、あるいは同性同士で結ばれるカップルも存在するし、それでも仲良く生活を送る事が出来るかもしれないが、この世界における婚姻とは、すなわちもっとも基本的な目的としての子孫を残す意味合いが強い。
“子は鎹”ということわざもある通り、逆に子宝に恵まれない状況であると、夫婦生活がギクシャクしてしまう事も往々にしてある。
それ故に、現状のこの世界では、異種族間の婚姻は知らず知らずの内に禁忌となっていったのである。
ただし、歴史的な英雄や偉人と呼ばれるほどの一般レベルを遥かに超越した人間族であれば、その辺の問題をクリアする事が可能であった。
実際に、鬼人族、ドワーフ族、エルフ族、獣人族の中には、そうした人間族の血が混じっている家系もある様だ。
ただ、仮に上手く子孫を残す事に成功したとしても、その子供は母体側の種族を継承するみたいなのである。
つまり、例えば父親が人間族で、母親が鬼人族であった場合、子供は鬼人族となるのである。
それだと、純粋に血筋を残す事は可能かもしれないが、同族を残す事が出来ない事もあるので、いずれにせよ、当人同士が良くとも、周囲から強く反対されるケースもあるのである。
「なるほどなぁ~。フィオレッタさん達は優秀だが、確かにアキト達レベルには到底敵わない。つまり、子孫を残せない可能性の方が高いって訳か・・・。」
「それに、同族を残せないとなると、特にエルフ族にとっては非常に大問題となります。ただでさえ、エルフ族の出生率はあまり高いとは言えないのですが、ジーク達は今やエルフ族にとっては英雄レベルの存在です。そんな優秀な男性を、エルフ族が放っておくなどありえない話です。本来ならば、すぐにでもエルフ族側としては、ジーク達と有力な血筋のエルフ族の女性との婚姻話を進めたいのが現状でしょう。」
「うむ。実際にエルフ族の国では、そうした話も進んでおります。当然ながら、これはジーク達も承知している事です。」
婚姻は、もちろん当人同士の気持ちが大事ではあるが、家の問題や種族の問題などが絡む以上、そう望んでなくとも役割を果たす必要性もある。
実際、所謂政略結婚など、高貴な家柄に生まれた人々は、その後の人生がある程度決まっている事も往々にしてある。
まぁ、端から見れば、自由や人権が侵害されている様にも見えるのだが、その一方で贅沢な暮らしが約束されている事もあり、そこら辺も一長一短なのである。
ジーク達については、エルフ族の中ではそこそこの家柄の出身だそうだから、元々はそうした話とは縁遠い立場だったのだが、先程も述べた通り、僕らとの任務やトレーニングの結果として英雄レベルの使い手となっているし、エルフ族解放の立役者でもあるので、功績としても間違いなく英雄レベルの存在なのである。
そうした存在は、まぁ、一般的には分からない苦労を背負わされる事となる訳で、これについてはジーク達もある程度は覚悟していた事だろう。
「それに、もう一つ大きな問題として、エルフ族の寿命の問題もあります。」
「あっ・・・。」
「そうか・・・。」
「なるほど・・・。」
そう、他の種族は、人間族とそう大差ない平均寿命なのであるが、エルフ族のみ、非常に長命な種族なのである。
ジーク達ですら、すでに100歳を越えており、まぁ、エルフ族から言えばその年頃はまだまだ若手でしかないのだが、他の種族からすればすでに生まれてから亡くなっている年月なのである。
もし仮に、ジーク達とフィオレッタさん達がめでたく結ばれたとしても、確実に死に別れる事となる。
大切な人を失うのは、どの種族であっても非常に悲しく苦しい事である。
ならば、諸々の事情も考慮して、人間族は人間族同士、エルフ族はエルフ族同士で結ばれた方が良いのではないか、とグレンさんがある種の親心から反対意見を出したとしても不思議な話ではないのである。
あるいは、以前に少し聞いた覚えがあるが、グレンさんも過去に何かしらの経験があったからこそ、そう助言しているのかもしれないが。
「それは、仕方ないかもしれませんね・・・。」
「「「・・・。」」」
ティーネ達は、もとよりそうした事が分かっているからこそ、否定も肯定も出来ずに口をつぐんでいたのだ。
その場には、ある種の諦めムードが漂いつつあった。
「・・・さて、ではそうした問題点を踏まえた上で、ジーク達とフィオレッタさん達の婚姻を周囲にどう納得させるかなのですが・・・。」
「「「「「「「「・・・・・・・・・はっ?」」」」」」」」
だが、続く僕の言葉に、グレンさん達は一瞬何を言っているのか分からなかったのか、あんぐりと口を開けて驚いていた。
まぁ、話の流れ的には、この婚姻話を無かった事にする流れだっただろうからな。
「あれ?僕は一言も、ジーク達とフィオレッタさん達の婚姻に反対などと言っていませんよ?(ニヤリ)」
しかし、僕にとっては、大事な仲間達の人生の一大事なのである。
それを、たかがその程度の問題で諦めさせる事など、あろう筈がなかったーーー。
誤字・脱字がありましたら、御指摘頂けると幸いです。
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