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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
混迷するハレシオン大陸
165/383

獅子身中の虫

続きです。


今回は、付き合う人はよく選んだ方が良いというお話。



◇◆◇



ーさて、みんなはアキト殿の話を聞いて、どう思った?ー


ホブゴブリン達に促されて、各々に割り当てられた部屋へと姿を消したティア達は、その後、少し落ち着いたタイミングで、『念話』、彼女達の場合は『TLW(ゲーム)』時の通信手段の一つであった『DM(ダイレクトメッセージ)』を用いて、お互いの意見交換をする事にした。


もちろん、すぐそばに彼らはいる訳だから、集まって話をしても何ら問題はないのだが、アキトの手前、それを嫌ったという側面もある。

ティア個人としては、アキトに対して思うところはないが、他の者達、特にアーロスはアキトを毛嫌いしている印象だったからである。

故に、コソコソと集まって協議している場面を目撃され、それをアキトに咎められる、あるいは何らかのトラブルに発展する可能性を危惧して、また、シュプール(ここ)がアキトのホームである事も考慮した上で(何らかの方法によって盗聴されている可能性も考えた上で)、密談には最適であった『DM(ダイレクトメッセージ)』を使用していたのである。


まぁ、もっとも、それはティア達の考え過ぎであり、難しい選択を迫っているアキトとしては、ティア達が相談をしていたとしても何ら問題視する事はなかったが。

だが、アキトに聞かれるかもしれないと考えた上では、仲間達の本音が聞けない可能性もあったので、結果としてはその選択は間違っていなかったが。


(ちなみに余談ではあるが、例え彼らのある意味専売特許である『DM(ダイレクトメッセージ)』とは言え、神性の域に達しているアキトや、そもそも“カミサマ”であるルドベキアであれば、それさえも盗み聞く事は造作もないのだが、彼らのプライバシーを考慮して上で、今回はそれをしていなかった。)


ーとても信じられねぇ~。アイツが俺らを騙そうとしてんじゃねぇ~の?ー


アーロスはそう断言した。

いや、アーロス自身、アキトが元・『異世界人(地球人)』である事や、ルドベキアがとんでもない存在である事は認めているものの、それとこれとは話が別で、アキト達が自分達を騙そうとしているのではないかと疑って掛かっていたのである。


ーですが、彼らの話は信憑性があります。様々な点で、辻褄が合う、と言うか・・・。ー

ーおそらく、彼らの発言は本当なのでしょう。ですが・・・。ー

ー全ては明かしていない、か?ー

ー・・・ええ。ー


他の者達は、アーロスの意見を一部否定しながらも、アキトが全てを明かしていないのではないか、と疑念を抱いていた。

しかし、ティアはそれは何ら不思議な事ではないとも考えていた。


当たり前の話として、いくら同郷とは言え、情報を全て開示する事などあろう筈がない。

それは、ある種交渉や折衝の基本でもあるからだ。

情報や条件を小出しにしながら、相手に決断や譲歩を迫る。

なるほど、アキト・ストレリチアという人物は、交渉事に関しても、それなりに心得がある事が窺い知れた。


ーそれについては、儂も否定はせん。しかし、それはむしろ当たり前の話でもある。いくら儂らとアキト殿が同じ『異世界人(地球人)』であるとは言え、それすなわち味方であるとは限らないからな。故に、その中で言える範囲の情報をアキト殿は開示しただけに過ぎぬと儂は理解しておる。ー

ーまぁ、それはそうなのでしょうがね・・・。ー


出会い方が悪かった事もあり、どうもティア以外のアーロスとN2、ドリュースはアキトに不信感を持っている様だ。

好意的に解釈するティアに対して、言葉には出さないが、その端々に言い知れぬ否定的な感情が見え隠れしていた。


ハァ、とティアは頭を抱えた。

ティア個人としては、アキトに合流するのがもっともベストな選択肢であると考えていたのだが、仲間達の意見はどうも違う様だと察したからである。


ーまぁ、どちらにせよ、無駄足、とまでは言いませんけど、あまり成果はありませんでしたよね。ー

ーだな。帰れる方法はあるけど、死んじまうだけ、って事だからな。まぁ、本当かどうかは怪しいが。ー


だが、ティアは、同時に少し安心もしていた。

特にアーロスが、アキトに対する反発からとは言え、自暴自棄になり、ある種の“自殺”を選択しそうにない、と窺い知れたからである。


ーでは、結論としては・・・。ー

ー言うまでもないよ、ティアの姐さん。別の方法を探すまでさ。幸い、アイツらがその方法があるかも、って言っていた訳だし、ここで“帰還”を選ぶなんて真似はしないさ。それだと、何かハメられたみたいでムカつくしな。ー

ーまぁ、ここで帰る選択肢はないよね。ー

ーそうですね。ー


答えはアッサリ決まった。

いや、アキトが意図した様な、所謂この世界(アクエラ)に生きる覚悟を持っての選択ではなく、言わば消去法の様な選択肢ではあったが。


ーうむ。ならばそうしよう。明日、儂からアキト殿に儂らの意向を伝える事としよう。ー

ーうっす、任せるぜ、ティアの姐さん。ー

ーはい。よろしくお願いします。ー

ーええ。了解しました。ー


思いの外短い意見交換だったが、結論が出た以上、これ以上『DM(ダイレクトメッセージ)』を繋いでいる必要はない。

ティアの言葉を最後に、誰ともなくその通信はフェードアウトするのだったーーー。



・・・



人の世の中には、(チカラ)も才覚も、優れた頭脳も備わっているのに、時流に乗れずに、あるいは読みが外れて、歴史の中にうずもれてしまう者達も多い。

のちの歴史家達は、何故そうした者達は、愚かな選択肢を選んだのか、何で簡単な答えに辿り着かなかったのか、と疑問に思う事があるかもしれない。


例えば、勝ち馬に乗らず、敗者側についた者達にそう感じる事が多いかもしれない。

あるいは、誤った政治判断に対してそう感じる事もある。

しかし、それは“答え”を知っているからこその疑問でもある事を、我々は忘れてはならない。

あるいは、敗者側(そちら側)につかなければならない事情や義理があった事も考慮しなければならない。


アキトの発言は、少なくとも間違った事は何一つ言っていない。

だが、それを正しいか正しくないかを判断するのは、あくまでその()()()()の人間である。

その()()()()の人間が、そうした情報が正しくないと判断すれば、それはその者達にとってはそれが()()なのである。


ティアは、その明晰な頭脳から、アキトの発言や行動が正しい解答である事を理解していた。

だが、残念ながら彼女は、仲間達の意向を尊重し、自身の考え方を飲み込む判断をする。

それが、彼女の優しさであり、同時に甘いところでもあった。

こうした気質は、彼女の生い立ちに関連する。



・・・



ティアこと、浅岡雫(あさおかしずく)は、所謂“引きこもり”であった。

これは、彼女が幼い頃より(もちろん、今現在の彼女達やアキトほどではないにしても)他の者達に比べて優秀だった事が逆に災いした結果である。


身体能力については人並み程度であったが、やや内向的な性格だった事もあり、幼い頃より本に囲まれた生活を送っていた。

その結果、大人顔負けの幅広い知識や、論理的に物事を考える思考力、つまり、明晰な頭脳が築かれていったのである。


ただ、これは何にでも当てはまる事ではあるが、特に日本においては、突出した才能は集団から弾かれてしまう傾向にあった。

もちろん、それは周囲、特に家族や学校関係者が比較的革新的な考え方を持っていればその限りではないが、残念ながら雫の周囲はガチガチの保守的な考え方を持つ者達ばかりであったのである。


そうでなくとも、子供社会では、突出した才能は攻撃対象になりやすい。

これは、感情や精神がまだ未熟である事もあって、嫉妬ややっかみを上手くコントロール出来ないからでもあった。


ただ、面白い、というのは適切ではないが、それも才能の方向性にもよる。

例えば、身体能力方面の才能だった場合は、結構受け入れられる可能性が高い。

足の早い者、何らかのスポーツに突出した才能を持つ者は、むしろ子供社会ではヒーロー的な扱いを受ける事も多いし、それを伸ばしてあげようと、家族や学校関係者も協力する事は珍しい事ではなかったりする。


ただ、頭脳関連、頭の良さ、というのは、かなり厄介なのである。

これは、家族や学校関係者、すなわち()()に対して、反抗している様に周囲に映ってしまうからである。


当たり前の話ではあるが、例え()()と呼ばれる者達であっても、完璧ではないし、むしろ凡ミスとも言える間違いも犯すし、案外子供っぽいところも存在するモノである。

それに、なまじこれまでの人生経験もあるところから、変な自尊心(プライド)や常識に凝り固まってしまう傾向にもある。


しかし、これは同じ立場、()()であるからこそ分かる事でもあり、子供にとっては、自身の周囲の()()は絶対的な存在でもある。


そんな()()に対して、それは間違っている、とか、その考え方は前時代的である、とか指摘する子供がいれば、それは厄介極まりないであろう。


もっとも、先程も述べた通り、その周囲の()()達が革新的で柔軟な思考力を持っていれば、またその後の展開も変わったかもしれないが、残念ながら雫の場合はそうはならなかったのである。


こうした事が重なって、雫は()()からは厄介者扱いされて、子供達からは、権威者である()()の空気を悪くする存在として、集団から弾かれる結果となったのである。

歴史的観点からも、先程述べた通り、(チカラ)や才覚、優れた頭脳があろうとも、結局はその才能を見出だすのは他者の仕事である。

どれ程優れた才能を有していても、それを周囲に認められなければ、それはないのと同じ事なのである。


さて、こうした経緯もあって、雫は周囲から孤立し、段々不登校気味になってしまっていったのである。

子供の(チカラ)では、この現状を変えるのはかなりの難問であろう。

それもあって、雫は現実逃避的な観点からも部屋に閉じこもりがちになり、マンガ、アニメ、ゲームなどの二次元、所謂“オタクコンテンツ”に傾倒していったのである。


ただ、やはり雫はただ者ではなく、出席日数はともかくとして、成績は極めて優秀であり、“引きこもり”であるとは言え、ネットを駆使して、独自に稼げる方法も開拓していたのである。

流石に、家族としては世間体もあって“引きこもり”をどうにかしようと苦心したのであるが、世間一般の青春とは異なるだろうが、成績に関しては文句のつけようがなく、家庭に未成年者としては過ぎるほどの生活費を納められれば、何も言えないのが実情であった。

これは、雫が彼女自身で掴んだある種の“居場所”であった。


そして、そんな雫に、運命の出会いが待っていた。

それが、世界初のフルダイブ用『VRMMORPG』・“The Lost World~虚ろなる神々~”との、そして、冒険者ギルド・『Lord of The Lost World』との出会いであったのであるーーー。



以前にも言及したかもしれないが、人というのは、多かれ少なかれ、英雄願望や変身願望があるものである。

今の自分とは全く異なる人生を歩んでいたらどうなのか?

そうした事を、チラリとでも考えるモノなのである。


そして、それは現状に不満を持っている者達ほど、その欲求は強くなるモノである。

そんなある種の願望と、この『TLW(ゲーム)』はカッチリハマっていたのである。


今更述べるまでもないが、RPG(ロールプレイングゲーム)とは、ゲームソフトのジャンルの一つで、ストーリー性とプレイヤーの演じる(role)キャラクターの成長を特徴とするゲームジャンルの事である。

大抵の場合は、プレイヤーは何らかの使命を帯びたキャラクター(『主人公』)を操作して、問題の解決に乗り出す事となる。


一方のMMORPG(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム)、すなわち「大規模多人数同時参加型オンラインRPG」は、その名の通り多人数が同時に存在するので、従来の様な同一の『主人公』は存在せず(もちろん、場合によってはNPCキャラがその役割を担う事もあるが)、各々が全く別の存在として“世界”に介入していく事となる。

まぁ、ある意味ではプレイヤー一人一人が『主人公』ではあるが、またある意味では、プレイヤー一人一人がその“世界”を形作る背景とも成り得るのも特徴の一つであった。


さて、従来のMMORPGでも、仮想現実とは言え、そこに人間社会が形成されている以上、その“世界”には()()()の様な人間関係が存在する。

それが、“フルダイブ”ともなると、それをよりリアルに体験する事が可能であり、正しくもう一つの“世界”、もう一人の自分を作り出す事が可能であった訳である。

ゲーマーがそれに食い付かない筈はないし、()()()に不満を持っていても、その“世界”ではヒーローになる事が可能である事もあり、『TLW』はコアなヘビーユーザーだけでなく、ライトユーザーにも大いに受けて、一種の社会現象ともなるほどの大成功を収めた訳であった。


雫も、『TLW(それ)』に大ハマりした一人であった。

彼女は、先程も述べた通り、家庭や学校から弾かれた存在である。

そんな彼女が、()()()とは別の“世界”に惹かれるのは、これはある種必然であろう。

そして、更には、彼女のその明晰な頭脳は、その“世界”でも遺憾なく発揮する事が出来た訳である。

いつしか彼女は、他のプレイヤーから一目置かれるほどの存在へと成り上がっていった。


そんな折、彼女の噂を聞き付けたタリスマンから、のちに『攻略系ギルド』の一角であり、『トップギルド』の一つに数えられる事となる冒険者ギルド・『Lord of The Lost World』に勧誘(スカウト)され、雫もそこに参加する事となるのだった。


誰が言ったか、MMORPGはある種のサークル活動、部活的な側面がある。

ああでもないこうでもないと議論を重ね、実際に失敗や成功を重ねて、段々と攻略を重ねていく。

それは、雫にとっては、人生初となる、誰かとの共同作業であった訳だ。


そうした苦楽を共にした者達に対して、人は親しみを感じていくモノである。

特に雫は、()()()でそうしたコミュニティを築けなかった者の一人である。

故に、『LOL』は彼女にとっての青春の一ページであり、人一倍『LOL』に思い入れがあり、ある種の“居場所”として執着する様になっていったのである。



ただ、どんなものにも終わりがある訳で、『TLW』のサービス開始から約10年近く経過し、後発のタイトルもどんどん発表されてくると、段々と『TLW』も過疎化が進んでくる。

これも、一つの時代の流れだと感じていた雫は、それを残念に思いながらも、どうにか受け止めていた訳である。


そこへ来ての、『LOL(仲間達)』との最後のお祭りをタリスマンが企画したと連絡を受けて、彼女は一にも二にもなく、その話に飛び付いた訳である。

ただ、その選択は、彼女の人生を大きく左右する事となった。

何故ならば、ハイドラスやルキウスの企みによって、仮想現実(ゲーム)ではなく、本当の本物の異世界(アクエラ)にアバターごと飛ばされる事となったからであるーーー。



・・・



元々明晰な頭脳を持つ雫は、その『異世界転移』を早い段階で半信半疑ながらも受け入れていた。

そして、それを『LOL(仲間達)』と共に、どうにか乗り越えようとしていた訳である。


ただ、残念な事に、ここに来て、雫のコミュニケーション能力の不足、と言うよりは人生経験の不足とも言うべきモノが仇となってしまう。

あるいは、雫と仲間達との『LOL』への思い入れの差、温度差みたいなモノを、彼女が真の意味で理解していなかったのかもしれない。


この世界(アクエラ)に来た当初は、まだ『LOL(仲間達)』との絆は健在であった。

まぁ、それは、見知らぬ“世界”、未知の現象に対する不安から、見知った『LOL(仲間達)』と寄り添う事で、ある種の安心感を得たいという防衛本能の様なモノだった。

実際、この世界(アクエラ)に来た当初は、『LOL(彼ら)』の関係性は良好であった。


だが、長らくこの世界(アクエラ)に関わる様になると、仮の姿(アバター)やカルマシステムの影響、そしてもちろんこの世界(アクエラ)の住人達との交流などによって、徐々にその絆に陰りが見え始める。


これまで何度となく言及したが、『LOL(彼ら)』は確かに仲間ではあるが、しかし、当たり前の事ながら個人個人は全く別の考え方を持っている。

それを飲み込む事が出来るならば、まだ一緒にいる事も出来るのだが、主義・主張が相反するならば、それは最終的には関係の破綻になりかねない。


そんな折に、『テポルヴァ事変』を経て、『LOL(彼ら)』の考え方の違いが浮き彫りとなった。

ある種、この世界(アクエラ)()()を受け止め、この世界(アクエラ)で生きる事、第二の人生を生きる決意を固めたアラニグラ、ククルカン、キドオカらが、『LOL』を離脱する意向を固めたのである。


これは、別にアラニグラらが『LOL(仲間達)』を裏切った訳ではない。

むしろ逆で、考え方が違うのに無理してまで一緒にいれば、先程も述べた通り、いつか『LOL(仲間達)』と衝突、その関係が決定的に破綻する可能性を考慮して、あえて『LOL(仲間達)』と距離を置こうとしたのである。


こうした判断は、普通に生きてきた者達ならば、普通に出来る事、起こり得る事でもある。


だが、残念ながら雫は、そうした経験が不足していたのである。

いや、彼女も頭では理解していた。

アラニグラらを無理に引き留めたところで、結果はあまり良いモノではない事も。

しかし、前述の通り、彼女にとって『LOL』というのは、初めて関わったコミュニティであり、大切な“居場所”として執着する様になっていた。


だが、アラニグラらの主張も理解出来た。

場合によっては、『LOL』そのものが空中分解する恐れもあったのだから。

それは雫としても本意ではない。


故に、彼女はここで一計を案じる。

『LOL』を『LOA』に再編し、ある種仲間達との関係をリセットしようとしたのである。

彼女にとって大事なのは、『LOL』という“器”ではなく、その中にいる仲間達との“絆”が一番大事だったからである。


こうして、仲間達との関係性は微妙に変わってしまったモノの(アラニグラ、ククルカン、キドオカは正式な『LOA』のメンバーではなく、あくまで外部協力者としての立場を取り、タリスマン、ウルカは立場を明確にせず、一旦保留という立場を取る。正式に『LOA』に所属しているのは、ティア、エイボン、ドリュース、N2、そして、最近になってアーロスがここに加わったのである。つまり、実質的には半数のメンバーが脱退した事となる。)、仲間達との“絆”は継続出来た、と()()()していたのである。


だが、その結果は雫の思いを嘲笑うかの様に、ウルカの裏切り、タリスマンのルキウスへの傾倒、そして更にはアーロスらの暴走を招く事となる。

先程も言及した通り、雫は頭は良いが、その反面特に人間関係の機敏を真に理解していない。

そうした事を経験してきていないのである。

故に、人は計算通りには行かない、という()()()()()()を計算に入れておらず、しかも、その解決策、案外簡単な事であるが、時にトラブルを頻発する者とは距離を置くとか、見限るという事が出来なかったのであるーーー。



◇◆◇



ーなぁ、ドリュース、ちょっと相談があるんだけどよ。ー

ーん?どうしたんだい、アーロス?ー


ティア達との意見交換の為の『DM(ダイレクトメッセージ)』の後、アーロスは個人宛の『DM(ダイレクトメッセージ)』をドリュースに送っていた。

その事に少し違和感を感じたドリュースは、怪訝そうな声色でアーロスに返事を返した。


ーいや、ちょっと思い付いた事があってよ。っつっても、ティアの姐さんには言えない事なんだけどよ・・・。ー

ー・・・ふむ。ー


ドリュースは曖昧に相槌を打つ。

だが、これが所謂“内緒話”である事は理解していた。


ーそれで?ー

ーさっきはティアの姐さんの手前、別の方法を探すって言ったけど、正直なところドリュースはその事をどう思う?ー

ーう~ん、正直かなり難しいとは思うよ?彼らも言っていた様に、『失われし神器(ロストテクノロジー)』は確かにとんでもない(チカラ)を秘めているみたいだから、帰れる可能性は高いだろうとは思うけど、それが見つかっていない、って言うんじゃ~ねぇ~。ー

ーだよなぁ~・・・。けど、俺は、ある事に気付いちまったのよ。ー

ーん?何をだい?ー


要領を得ないアーロスに、とりあえずドリュースは自分が思っている事を正直に述べた。

それにアーロスは同調したが、しかし、一転して“良い事を思い付いた”、みたいな声色で自慢気にドリュースに自身の発見を報告する。


ーいやいや、結構簡単な事なんだよ。多分、アイツが意図してあえて言わなかったんだと思うぜ。俺らを仲間に引き入れる為に、な。ー

ーえっと、つまり?ー


毛嫌いしているわりには、先程会話していた影響なのか、アキトの様な遠回しの言い方をするアーロス。

それに、ドリュースはさりげなく先を促す。


ーああ、悪い悪い。つまり、アイツがこっちの世界(アクエラ)に来たと話していた逆の方法を試せばいいんだよ。ー

ーあっ、そ、そうかっ!彼は僕らと違い、ハイドラス(カミサマ)(チカラ)こっち(アクエラ)に来たと主張していた。って事は、逆もまた然りって事だねっ!?ー

ーそうさっ!!!ー


世紀の大発見の如く、自慢気にアーロスは頷いた。


ーそれなら、わざわざ『失われし神器(ロストテクノロジー)』も捜索しなくて済む。しかも、彼らには“カミサマ”の仲間までいるんだし、僕らを送り返すのは簡単な話だったんだね。けど、どうしてその方法を彼らは提案してくれなかったんだろ?ー

ーんなもん、さっきも言ったけど、俺らを無理矢理仲間に引き入れる為だろ?ー

ーあぁ~・・・。ー


彼らの解釈は、ハッキリ言って間違いだらけである。

そもそも、ルドベキアも明言していた通り、本来“カミサマ”が人の世に介入する事自体イレギュラーなのである。

まぁ、介入しまくっているハイドラスもいるのだが。


もちろん、彼らを本来の所属の世界、つまり地球に送り返さなければならない事情はあるものの、それも、これは話の流れ的にアキトもルドベキアも明言していなかったので彼らは知り得ない情報だったが、実際にはとてつもないエネルギーを要する。

実際、“魂”の形態としてこちらの世界(アクエラ)にアキトを喚び出したハイドラスでさえ、随分神霊力(しんれいりょく)を消耗したくらいだ。

元の肉体を再現して“魂”を送り返す、あるいは、仮の姿(アバター)のまま彼らを送り返す事は、ルドベキア達ならば可能かもしれないが、それではコストが掛かり過ぎてしまう。

そんな事せずとも、彼らの心情はともかくとして、(元々はルドベキアとのリンクだったが)向こうの世界(地球)の“カミサマ”とのリンクを通じて、彼らの“魂”のみを送還する方法がある以上、それ以上をアキトらに求めるのは不可能であった。


まぁ、そうしたややこしい事情はともかく、何にでも当てはまる事ではあるが、世の中は“等価交換”が原則である。

タダで彼らを送り返してくれる事など、あろう筈がないのである。


しかし、彼らはそんな()()()()にすら気付いていなかった。

いや、あるいは自分達に()()()()()()()にしか解釈していないのである。

だがこれは、何も彼らだけが特別浅はかなのではなく、向こうの世界(地球)こちらの世界(アクエラ)の“いい大人”と呼ばれる者達でさえ、そんな罠に陥ってしまう事がよくある。


ーだからよ、アイツらに頼むのは無理だろうし、とりあえずここでは一旦さっき言った通り、別の方法を探すって事でお茶を濁すんだ。んで、ロンベリダム帝国に帰ったら、ライアド教に頼むってのはどうだ?ー

ーなるほど・・・。元々は“カミサマ”なんて眉唾だと思っていたけれど、ルドベキアって人や、あの謎の少年がいる以上、ハイドラスって人も実在する可能性があるね。ー

ーそ。ー


それによって、ハイドラスからどんな要求をされるかも想像が付かないのだが、残念ながら彼らにはその考えはなかった様である。


ーOK、分かったよ。僕も協力しよう。ー

ーそうか、サンキューな。だが、ティアの姐さんには内緒だぜ。ぜってぇー止められると思うし。それと、N2さんにはさぁ~・・・。ー

ーあぁ~、ウルカさんか・・・。了解、了解。これは今のところは二人だけの秘密にしておこうか。ー

ーだな。ー


そんな感じに、アーロスとドリュースの密談が終わる。



彼らと距離を置けなかった、あるいは見限る事の出来なかったティアがどうなるのか、そして、彼らのこの判断がのちにどういう結果になるのか、それは今は、まさしく神のみぞ知る事であったーーー。



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