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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
混迷するハレシオン大陸

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魔法銃

続きです。



N2にとっては残念な事に、これはウルカがハイドラスから神託を授けられ、N2に対して仕掛けた“ハニートラップ”であった。

ではどの様な思惑があってN2が狙われたのであろうか?

その狙いと流れを見ていこうーーー。



まず、アキトの情報をあえて流出させたのは、単純な親切心とか仲間意識から来るモノではなく、『異邦人(地球人)』の意識をアキトに集中させる意図があったのである。

ウルカがククルカンに情報提供し、狙い通りアキトの情報は『異世界人(地球人)』同士で共有され、その末でティア達がアキトに会いに行く流れになった。


そうなれば、その下準備に追われる事となる。

当然だ。

旅をするのであれば、その事前の下調べや資金や装備を準備しなければならないし、その者達が不在の間の仕事などの代行をする者達に引き継ぎをしなければならない。

“はい、では行ってきます。後はよろしく。”とは()()()にはならないモノだ。

ここら辺は、向こうの世界(地球)にて某かの職業に就いている者達と同様である。


その点では、比較的自由が効く冒険者と言う立場を持っていれば、まだ何も考えずに旅立つ事が可能かもしれないが、残念ながら、そうした立場を持つアラグニラ、ククルカン、キドオカ、それとついでにタリスマンはすでにスケジュールが埋まっていた。

故に、必然的にその役割は、ティア、エイボン、アーロス、ドリュース、N2のいずれかが務める事となる。

もっとも、N2だけは彼の持つ特殊な事情から除外される事は、そちらも当然計算済みであった。


結果、ティア、アーロス、ドリュースが赴く事に決まった訳だが、アーロスとドリュースはともかく、ティアはロンベリダム帝国での内政にも深く関わる立場であるから、即座に行動を起こす事は叶わない立場だ。

それ故、各所への根回しやエイボンへの引き継ぎをする必要性に迫られる訳である。

これが、ハイドラスの最初の狙いであった訳だ。


その間、N2への注意は逸れる事となる。

ただでさえ、仲間達の間でもN2の境遇は厄介なモノだった。

もちろん、N2に対する同情の余地はあるものの、N2の外見を変える事は出来ないし(いや、もし仮に『TLW(ゲーム)』時同様に、『UIユーザーインターフェイス』、ここではプレイヤーが操作可能なアバター(自身)の『ステータス』、あるいは『メニュー画面』などであるが、を操作して、オプションなどでキャラクタースキンの変更などを選択出来れば可能であったかもしれないが、残念ながらこちらの世界(アクエラ)では今のところそれらを呼び出す事は不可能であった。)、またN2に対する差別意識は、ロンベリダム帝国(この国)の常識や文化的な事と密接に関わる事であるから、その観点からも状況を解決する為の根本的な方法がなかった。

それ故、もちろん仲間達も、某かの働き掛けは出来るモノの、それ以上は進展も望めないので、次第にある意味こちらの世界(アクエラ)の住人同様に、N2を避ける様になっていた。

それはそうだろう。

もし顔を合わせれば、N2から現状に対する愚痴や不満をぶつけられる可能性は高く、かと言ってそれを打開する術もないのだ。

“いや、気持ちは分からんではないけど、そんな事、俺(私)に言われても・・・。”って感じである。

ここら辺は、人間の心理作用であろう。


そこに(てい)よく、N2を避けていても不自然ではない()()(仕事が忙しいとか、準備や根回しに奔走しているなど)があれば、結果は火を見るよりも明らかだ。

こうして、N2は一時的に孤立する状況になってしまったのである。


こうなれば、人を騙す事は簡単だ。

人は周囲から孤立し、精神的に孤独を感じている心理状況の時には、正常な判断力や思考力が著しく低下するモノだ。

その末で、何かにすがってしまう事も往々にしてある。

実際、そうした状況を()()()に作り、ライアド教布教の下地を作る事を得意としているハイドラスからしたら、この程度の仕掛けを作る事は造作もない事だった。


そして、そこに満を持してウルカが登場。

似た様な境遇、理由はそれぞれ異なるが、周囲から孤立、心理的に孤独を感じている者同士、N2はウルカに親近感を覚える。

そして、その末で肌を重ねる。

心理的な隙に加え、男性としての欲求を満たされたN2は、完全に油断した状態となる。

これで“ハニートラップ”は完成だ。


後は、本来であれば、某かの情報を奪う、行動をそそのかす、あるいは強要する事によって工作員や協力者へと仕立て上げるのが“ハニートラップ”の常套手段だが、幸か不幸か、ハイドラスの目的はこの時点ですでに達成されていた。

そう、N2が持つ装備である“魔砲”を奪い取るのが、ハイドラスの真の狙いだったのであるーーー。



・・・



もちろん、単純に装備を強奪してしまえば、ウルカが疑われるのは想像に固くない。

それはそうだろう。

仮にN2の装備が紛失した場合、その容疑は唐突に接近してきたウルカに向けられる事になる。

もっとも、ハイドラスに再依存し、もはや仲間達と決定的に関係が決裂したとしてもウルカは気にしなかったかもしれないが、道徳的観点とは別の意味で、まだまだ色々と利用価値のある『異邦人(地球人)』達との関係を壊すのは勿体ないと考えていたハイドラスの思惑により、単純な装備強奪は選択肢から除外されていた。

実際に、ティアらがウルカに疑いの目を向けていたが、しかし同時に確かな証拠がある訳でもなかったのである。


では、どの様にウルカはN2の装備を奪い取ったのだろうか?

答えはかなり単純である。

()()()()()()()()()()()()()()()()


これは高度な情報化社会である向こうの世界(地球)では、かなり一般的にも認知されている手法の一つであると同時に、もっとも警戒すべき犯罪行為でもある。

向こうの世界(地球)の技術的に優れた国や組織においては、わざわざ現物を入手しなくとも、データ、つまり設計図などの詳細な情報を手に入れる事によって、他者の確立した技術を模造(コピー)する事はそこまで難しくないモノだ。

実際に、紛争などで相手から鹵獲(ろかく)した兵器や武器などを解析・分析する事で、自分達も同様の技術を獲得する事が可能であるし、企業活動においても、競争相手の企業の営業上・技術上の秘密情報を入手する事によって、自分達も同じ様な営利が可能となるなどの事例が存在する。


もちろん、大半の場合はそれらは犯罪行為に該当する。

故に、それらに対する対処法や防衛手段はそれぞれ練っているのだが、人々の心もシステムも完璧ではないから、今現在においてもそうした技術の流出などは後を絶たないのであるが。

まぁ、それはともかく。


もっとも、それをするには、紙面上の情報を入手する、電子上のデータを入手する必要性があり、写真や記憶媒体など(USBメモリーなど)が必須となるが、残念ながらこちらの世界(アクエラ)においては、そうした技術はまだまだ一般的ではなかった。

逆に、それが故に、ある意味ではそこに関する危機意識が薄い傾向にあるとも言える。

すなわち、現物さえ奪い取られなければ、模造(コピー)される恐れが極端に低かったのである。

そこに、油断があった。


今現在のこの世界(アクエラ)になくとも、過去には向こうの世界(現代地球)すら凌駕する技術力を持った『古代魔道文明』が存在した以上、また、『異邦人(地球人)』を実際にこちらの世界(アクエラ)に召還した驚異の技術である『失われし神器(ロストテクノロジー)』(『召還者の軍勢』)がある以上、そうした事に適した『失われし神器(ロストテクノロジー)』があったとしても何ら不思議はない。


そして、ハイドラスは信者に長い年月の中で収集させていた『失われし神器(ロストテクノロジー)』の一つである『神器複製(フェイカー)』を密かに隠し持ち、それを今回ウルカに使用させたのである。

神器複製(フェイカー)』とは、構造物の『複製品(レプリカ)』を作る事が可能な『失われし神器(ロストテクノロジー)』であり、向こうの世界(地球)におけるスキャナーと3Dプリンターの機能を併せ持った様なアイテムの事である。

これによって、N2のオリジナルの装備を強奪する事なく、そのデータと『複製品(レプリカ)』だけを入手する事が出来たのであった。

己の手札を相手に悟らせる事なく、相手に何もさせぬままに目的を遂行する。

なるほど、ハイドラスはかなりの策士である様だ。


とは言え、データと『複製品(レプリカ)』があれど、流石にすぐにそれを再現し、扱う事は出来なかった。

何故ならば、“魔砲”はあくまで『TLW(ゲーム)』のアイテムであり、その所有者であるN2も、扱う事は出来てもその詳細な情報や理論を理解している訳ではないからである。

それ故、その解析・分析の結果、某かの改造を施さなければ、こちらの世界(アクエラ)の住人では扱う事すら出来ないと判明したのである。



・・・



“魔砲”とは、砲撃系の魔法を用いたファンタジー作品における銃の類型である。

もっとも、“魔砲”はかなり最近のファンタジー作品に見られる様になった概念だ。

何故ならば、これはファンタジー作品においては、ある種の()()であったからである。


もちろん、魔法と科学を融合させた様な世界観を持つ作品ならば、一種の魔法科学の結晶としてあっても不思議ではないアイテムだったが、生憎『TLW』は、王道の“剣と魔法のファンタジー”をコンセプトに設計され、“中世ヨーロッパ風”の世界観を舞台にしているので、この“魔砲”はその世界観を壊しかねないアイテムであった。

例えるならば、中世の時代背景に、近代兵器を持ち込む様なモノだ。

逆にそうした事を逆手に取って、ある種の無双状態を楽しむコンセプトの作品も存在するが、事ゲーム作品においては(もちろん製作者側の思惑にもよるが)、ゲームバランスを崩壊させる可能性が高く、途端にヌルゲーになる危険性がある設定はリスクが高く、忌避される可能性が高い。

難易度が高過ぎるゲームは、コアなゲーマーにはウケるかもしれないが、ライトユーザーには受け入れられないかもしれないし、ヌル過ぎると、ライトユーザーにはウケるかもしれないが、コアなゲーマーにはウケないかもしれない。

ここら辺は、バランスが難しいのである。


とは言え、実際にN2がそのバランスブレイカーになりかねないアイテムを所持しているのは、これがある種の隠し要素、やりこみ要素の一つだったからである。


『TLW』にはやりこみ要素として、非常に入手困難な武器や装備、アイテムやスキル、職業(クラス)が存在する。

以前にアラグニラやエイボンが所持していた『魔女の祝福』もその一つであり、アーロスが所持している職業(クラス)である『竜騎士(ドラゴンナイト)』もそれに該当する。


で、このN2が所持している“魔砲”は、かつて神々が所持していた『神器(アーティファクト)』と言う設定であり、所謂『神話級(ゴッズ)』に該当する装備なのである。


『TLW』の公式設定によると、武器・防具類のレアリティは、


一般級(ノーマル)・・・店等で普通に売られている武器や防具。普通に作る事が出来る。


稀少級(レア)・・・モンスターからドロップできる装備品の最低ランク。便利な効果を持つ装備品が多い。


特殊級(ユニーク)・・・そこそこ強いモンスターなどから手に入る。戦う際に有利な効果を持つものが多い。


秘宝級(トレジャー)・・・強いモンスターや、ダンジョン内に存在する宝箱などから手に入る。強力な効果を持つ。


伝説級(レジェンド)・・・強いモンスターの中でも低確率でドロップしたり、難易度の高いダンジョンの宝箱などから手に入る。強力な効果を複数持つ。


神話級(ゴッズ)・・・強いモンスターの中で超低確率でドロップしたり、超高難易度のダンジョンの宝箱等で手に入る。持つ人間が少ないため、効果が良く分かっていない。


に分類され、下に行くほど入手困難となる。

もちろん、課金などでも入手可能なのだが、排出率はかなりシブく、相当にハマっている者達でなければ、途中で匙を投げる事も珍しくないのであった。


もちろん、レアリティの高い装備類を持っていれば、攻略が非常にスムーズになるのは間違いないが、別に持っていなくとも攻略する事自体は可能であった。

要するに、N2の持つこの“魔砲”は、ある種の運営側の遊び心で実装されたネタ装備であり、入手率や排出率が極端に低いが故に、『TLW』の世界観そのものを壊す様な代物ではなかったのである。


そして、N2はこれを偶然入手する事が出来た超幸運なプレイヤーの一人であり、武器の効果が強い事もさる事ながら、他のプレイヤーに対する優越感から、好んで使用していたのであった。


(余談だが、『異邦人(地球人)』達はこうした武器・防具類、アイテム類を多数所持していたのだが、今現在は最後に実際に身に付けていた武器・防具類、アイテム類以外は()()()()()が不可能になっている。

これは、先程も言及した『UIユーザーインターフェイス』、ここでは『ステータス』、あるいは『メニュー画面』などであるが、を操作して、アイテムストレージ、つまりはデータ上に収納していた各種武器・防具類、アイテム類を取り出す事が出来なくなっていたからである。

それ故、こちらの世界(アクエラ)では自分の所持している物などは自分で普通に管理しなければならない。

逆に言うと、アイテムストレージと言う、ある種の亜空間収納と言う方法が使えないので、当然ながら誰かに自分の所持している物が奪われるリスクも存在すると言う訳なのであった。)


さて、だが、先程も述べた通り、N2はこの“魔砲”を実際に扱う事は可能であったが、それがどの様な理屈で作用するのかは知り得なかった。

これは、他の『異邦人(地球人)』達も同様で、こちらの世界(アクエラ)の魔法技術の様に体系化されている技術とは異なり、『異邦人(地球人)』達の使用する技術、魔法、スキルは正確に体系化されているモノではなかったからである。

まぁしかし、これは当たり前の話であり、『異邦人(地球人)』達が使用する技術、魔法、スキルは、あくまで『TLW(ゲーム)』の設定に由来するモノであり、すなわち、自分達で長い修練の末に獲得したモノではないからである。

故に、理論もへったくれもなく、ただ使()()()だけなのである。


ここら辺は、ある意味では向こうの世界(現代地球)の数々のアイテムと通じる点であった。

例えば、一般のユーザーは、パソコンやスマホ、その他家電の()()を理解している者の方が稀であろう。

しかし、それでも問題なく使用する事は可能であり、もちろんある程度勉強すれば何となくシステムを理解する事も出来るかもしれない。


しかし、それらを改善・改造、あるいは開発する為には、更に高度な専門的知識が必要となり、当然ながら一朝一夕で身に付く様なモノではない。


N2はこの“魔砲”を、『異邦人(地球人)』の持つ異能力、すなわち、『TLW(ゲーム)』時の技術、魔法、スキルを現実世界(アクエラ)でも使用可能、と言う能力の為に問題なく使用する事が出来るが、先程も述べた通りこちらの世界(アクエラ)の住人ではN2と同様の使用方法は真似出来ず、自ずとこちらの世界(アクエラ)の魔法技術を基礎に新たなる理論を確立しなければならない。


それを理解していたハイドラスは、ウルカがN2から奪った“魔砲”の『複製品(レプリカ)』を、ニルを介してロンベリダム帝国(この国)の魔法技術における権威であるランジェロと『メイザース魔道研究所』に持ち込ませ、その研究と改造を依頼していた。


そして、ランジェロらはこちらの世界(アクエラ)の魔法技術を用いて、“魔砲”の超簡易版、“魔法銃”の開発にこぎ着けたのであったーーー。



□■□



「何やら面白い見せ物があるそうだな、ランジェロよ?」

「ハッ、それはもうっ!きっと陛下も、お気に召す事間違いなしでありましょうっ!!」

「ふむ・・・。」


そのランジェロの自信に満ち溢れ、興奮した様子を冷静に眺め、ルキウスも少なからず期待感を持っていた。



天才かつ超人的なところがあるルキウスであるが、とは言え流石に全てを一人でこなせるほど万能でも化け物染みた体力の持ち主でもなかった。

故に、独裁者でありながらも、政務や財政、軍務や魔法の研究などと言った分野では、それぞれ信頼出来る部下達に委任している部分が多々あった。


以前にも言及したが、ルキウスの部下達はルキウスに対する忠誠心が強い。

何故ならば、ルキウスはある種の能力至上主義者であり、身分の高い低いではなく、能力の優劣で人を見るからである。

これは、能力は優れているのに、身分によってこれまで自分に見合った仕事を与えられなかった者達としては、歓迎すべき事態だった。

そうした者達は、その機会を与えてくれたルキウスに感謝すると共に、成果を挙げれば挙げるほど更に重用される様になると言う恩恵まで与えられる。

ある種の立身出世が、自らの能力と努力によって形になる社会形態となったのだ。

そんなルキウスを感謝し、忠誠を誓うのも無理からぬ話であろう。


もっとも、こちらも以前から言及しているが、こうした事を快く思わない者達もいる。

それは、身分によってこれまで既得権益を独占していた貴族達である。

ルキウスに言わせれば、それはナンセンスな事だ。

これまでと同じ扱いを受けたかったら、自分達も能力を磨き、成果を挙げれば済む話だからである。


とは言え、そう簡単に行かないのが人の世の常である。

そうした者達は、能力的にはそう大した事はなくとも、その権力や影響力はバカには出来なかったりする。

故に、為政者によっては、そうした者達とも上手くバランスを取る者もいるが、生憎ルキウスはそうした者達のご機嫌を伺うほど優しくはなく、かつ非効率的な考えの持ち主ではなかった。

その末で、そうした者達は強制的に排除され、残っている貴族達は、ルキウスの意向に則って、上手く時流に乗れた者達であった訳である。

まぁ、それはともかく。


そんな事もあり、ルキウスは部下達と定期的に会合を開いていた。

部下達に任せているとは言え、最終的な決定権はルキウスにあり、成果や状況を見定めて、大筋の流れを決定するのはルキウスの仕事だ。

しかし、それとは別に、緊急の案件や大きな成果があった場合、定例報告を待たずに、すぐにルキウスへと報告される事も多い。


今回のランジェロとルキウスの面会も、そうした事例の一種であったーーー。



ランジェロに促され、ルキウスが赴いた先は、イグレット城(ルキウスの居城)に併設された、ロンベリダム帝国(この国)の近衛騎士団や魔法士部隊が訓練に用いている広場であった。

研究員であるランジェロとはそこまで接点のない場所であり、ルキウスは少し意外な印象を受けていた。


「少し意外だな。お主がこの様な場所に余を連れてこようとは・・・。」

「まぁ、普段ならあまり関わりのない場所ですからな。しかし、新たなる()()を御披露目する為には、室内では些か都合が悪いのですよ。それ故、騎士団や魔法士の皆さんにお願いして、訓練所の一部を間借りさせて貰っているのです。」


フットワークの割と軽いルキウスであるが、やはり立場もあって訓練所に直接降り立つ事はしない、と言うか出来ない。

あくまで訓練とは言え、訓練所ではいつ事故が起きても不思議ではない。

それ故に、一国の最重要人物が、そこを自由に闊歩されては、ルキウスはよくとも、他の者達にとっては困った事となる訳だ。

ルキウスに侍る護衛や取り巻きが、要らぬ神経を使わなければならないからである。

それを重々承知しているルキウスは、訓練所の全体を見渡せる高い場所に併設された、近衛騎士団や魔法士部隊の訓練の様子をルキウスが視察する為の観覧席、言わばVIPルームに素直にランジェロと共に移動していた。


軽い雑談を交わしながら、ルキウスが豪華な席に腰掛けると、前置きもそこそこに、ランジェロは部下の研究員達に合図を送る。

これは、ルキウスが無駄を嫌う事をランジェロが承知しての事であった。

実際、ランジェロは、その研究オタク特有の早口&長々とした説明をして、ルキウスを辟易させた経験が何度となくある。

そんな事で重用し、信頼しているランジェロをルキウスが冷遇する事はないが、まぁ、忙しい身分のルキウスを(おもんばか)ったランジェロの判断であった。


興味深げにルキウスが注視する中、騎士団が弓の訓練や魔法士部隊が魔法の訓練に用いる射撃用の的が備え付けられた射撃場にいたランジェロの部下の研究員達が、見慣れぬ筒状の道具を構えて均等に並んだ。

・・・騎士や魔法士を使うのではないのか?

と疑問を感じてルキウスがランジェロに質問する前に、その場にかなりの()()が鳴り響いた。


ドパンッーーー!!!!!


「っ!!!???」


慌てて意識を射撃場に戻すと、先程まで研究員達の対面に存在していた的が()()()()()()()()()()

一瞬何が起こったのか分からなかったルキウスだが、次々と射出される様子をしげしげと眺め、ようやくその全容を朧気ながらに察していた。


「ふむ、なるほど・・・。おそらく、あの筒状の道具から何らかの方法で飛翔体を射出し、的を粉々に砕いているのだな?発想としては、弓やスリングショットの発展系と言った感じか。しかし、その威力はそれらの比ではないな。」

「流石のご慧眼ですな、陛下。」

「世辞は良い。見れば誰でも分かる事だ。しかし、その内部の機構は余にも想像がつかんな・・・。どの様にして、あれほどの破壊力を得ているのだ?」

「それは結構単純でございます。“風”の(チカラ)を込めた魔石を内部に組み込んでいるのですよ。」

「何っ!?しかし、あの中には魔法使いではない者も・・・。うむ、そうか。彼の『生活魔法(ライフマジック)』とやらを応用したのだな?」

「流石は陛下。お耳が早いですな。さよう、彼の『生活魔法(ライフマジック)』から着想を得て、あの“魔法銃”に組み込んでいるのですよ。しかし残念ながら、私達ですら『生活魔法(ライフマジック)』の詳細は解明出来ておりませんので、それに近い理論を強引にねじ込んだのですが・・・。それ故、あの“魔法銃”の欠点としては、魔石が劣化しやすく、定期的に交換する必要が生じる事ですな。『生活魔法(ライフマジック)』は、半永久的、とまでは言いませんが、私達の用いる理論よりも遥かに耐久性に優れているのですが・・・。」

「ふむ・・・。お主でも再現出来んとはな・・・。その『生活魔法(ライフマジック)』を生み出した者は、よほどの天才と見える。」

「口惜しいですが、その通りだと思います。もっとも、その根底には、我々が体系化した『刻印魔法』の存在がありますから、ある意味では『生活魔法(ライフマジック)』はそれらの発展系である事は間違いありませんがね。」

「それは、あまり自慢にならんだろうに・・・。」


ヴィアーナなどの今現在のこの世界(アクエラ)の一般的な魔法使いや魔術師が用いる『刻印魔法』、すなわち、『詠唱魔法』などのマニュアル方式に対して、オートマチック方式とアキトが呼んでいる技術は、元々は魔法技術先進国であるロンベリダム帝国が開発したモノであった。

これは、今やこの世界(アクエラ)においては主流になりつつある。

何故ならば、『詠唱魔法』に比べて速射性に優れているからである。


今更議論するまでもないが、“早さ”とは様々な場面で大きなアドバンテージとなる。

『詠唱魔法』は応用範囲が広いと言う利点があるが、一方で印や詠唱と言うプロセスが必要な欠点も存在する。

その点、『刻印魔法』は、応用範囲こそ『詠唱魔法』には劣るが、印や詠唱を必要とせず、“早さ”に優れているのである。


もちろん、一概には言えないが、事戦場においては、手数において圧倒的に優位な『刻印魔法』は非常に重宝する。

単純な話、相手を先に倒した方が勝者だからだ。

それ故、様々な属性を使用可能であり、その威力においても優れている『詠唱魔法』の使い手よりも、速射性に優れる『刻印魔法』の使い手の方が時として優位な事もあるのだ。


実際、ロンベリダム帝国は、『刻印魔法(それ)』を上手く用いた戦略を得意とし、強国とも呼ばれるに至っている。

この世界(アクエラ)においては、ロンベリダム帝国が、この『刻印魔法』の第一人者である事は間違いないだろう。


「しかし見事だ、ランジェロよ。この“魔法銃”と言ったかな?は、魔法士()()()()()()使用が可能なのであろう?」

「ハッ!その通りでございます。」

「うむうむ。魔法士部隊にひけを取らない効果に、弓矢を遥かに越える威力。これで、ロンベリダム帝国(我が国)はますます頑強になった訳であるなっ!」

「お褒めに与り恐悦至極に存じます。」

「しかし、見てしまえば、理解してしまえば単純なモノであるが、何故これほど優れた武器がこれまで存在しなかったのか・・・。」

「ふむ・・・。まだ発見されていない『古代魔道文明』時代には存在したかもしれませんが、魔法使いの立場からの考察でよろしければ、おそらく、自分達の優位性を確保する為に、あえて秘匿していたのではないかと愚行致します。単純な構造ではありますが、その心臓部は魔法技術が必要になりますからな。もっとも、魔法技術とは異なる方式が発見される可能性もありますが・・・。」

「ふむ。それは中々興味深い見解であるな・・・。なるほど、いかにもありそうな理由であるな。・・・では、“魔法銃(これ)”は、お主らが自力で辿り着いたのであるな?」

「あ、いえ、それが・・・。」

「ん?何かあるのか?」


満足のいく見せ物に、ルキウスが饒舌になって質問を繰り返していると、ランジェロは途端に口ごもった。

それにルキウスが訝しげな表情を浮かべていると、ややあってランジェロが口を開く。


「実は陛下。“魔法銃(これ)”の()()はニル殿より贈られたのでございます。」

「ニルが・・・?」


と、すると、ライアド教はこれほどの武器を今まで隠し持っていたのだろうか?

・・・やはり油断出来んな。

などと瞬時に思考を巡らすルキウスだったが、続くランジェロの言葉にその耳を疑った。


「ええ。何でも、『異邦人(地球人)』の一人から盗んで(拝借して)来たそうで・・・。」

「な、何だとっ!!!???」



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