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『英雄の因子』所持者の『異世界生活日記』  作者: 笠井 裕二
幕間 続・アキトを巡る人々
142/382

それぞれの夢 1

続きです。



◇◆◇



※テオの場合



「テオはさ、この先どうするんだ?」

「あん?急にどうしたん?」


ドルフらと別れてからの帰りの道すがら、改めてレイナードは幼馴染み(友人)の今の率直な意見を聞いてみる事とした。


「あ、いや、元々テオはさ、『狩人(ハンター)』になるのが“夢”だった訳だけど、それが今は形は違うが『狩人(ハンター)』系の冒険者になったワケじゃんか。それでとりあえず目標は達成した訳だけど、その先の展望とかってあるのかなぁ~、ってさ、つい気になっちゃったんだよね・・・。」

「あぁ~、さっきのアーヴィンさん達の話か・・・。」


納得顔でテオは頷いた。


「・・・やっぱ、レイナードは他の街や国に行ってみたいって思ってるのか?」

「・・・正直、よくわかんねぇ。元々俺は、騎士や憲兵になるつもりだったからな・・・。」

「あぁ~・・・。」


幼馴染み故に、テオはレイナードのかつての“夢”をよく理解していた。

しかし、諸々の事情から、結局その“夢”は果たされずに終わった。

レイナードがある意味目標を見失って、心情的に宙ぶらりんな状態である事もテオは理解していたのである。


それ故、ある種の不安感からか、あるいは己に対する発破とする為かは分からないが、改めてレイナードが幼馴染み(友人)達の今度の展望を聞いて、自身の今後の参考にしようとしているのかもしれないとテオは当たりをつけていた。


「テオはどうなんだよ?他の街や国へ行ってみたいと思うのか?」

「・・・正直、そういう気持ちはあるにはある。何だかんだで、俺らはルダの街(この街)周辺の“世界”しか知らないしな。その()の“世界”がどうなってんのか、見てみたいって気持ちはあるな。」

「っ!!!」


そんな訳でテオは、レイナードの迷いも朧気ながらに察しながら、何かの参考になればと自分の正直な意見を言う事にした。


「じゃ、じゃあさっ・・・!」

「けど今は、さ。そうした事にそれほどの魅力は感じてないのがホントのところだな。それよりも、今は『魔獣の森』周辺を守っていきたいと思ってるぜ?」

「・・・えっ・・・?」



アーヴィンが言っていた事も、ある意味事実だ。

例えば、これは向こうの世界(現代日本)においてもよく見られる傾向であるが、若者が都会に憧れて、進学や就職を機に都会に移り住む事はよくある事である。

しかし、この世界(アクエラ)では、大半の人々は生まれた土地から移動する事は滅多にない。

これは、モンスターや魔獣、盗賊団などの脅威がある事はもちろんなのだが、もっと単純な話として、大抵の場合は生まれた時から将来の職業が決まっていて、具体的には家業を受け継ぐのが基本であるからだ。


以前にも述べた通り、この世界(アクエラ)では向こうの世界(地球)ほどの高度な発展を遂げていないので、その職業選択の自由度もそこまで高くはない。

それ故、特にこの世界(アクエラ)に多い農業従事者の子供は、そのまま農業従事者になるし、商家の子供は商人に、職人の子供は職人に、貴族の子供は政治家や軍属などとして活躍する事となる。


もちろん、それが絶対ではないが、基本的にそれ以外の“生き方”を知らない訳だし、何よりも高度な教育を受けられない環境もあって、そうせざるを得ないのが実情なのである。


ただ、そうは言っても、例えば親から受け継ぐ土地などには限りがある訳で、仮にその家に子供が多かった場合は、その遺産を巡って争う事もあるだろう。

基本的には、その家の長子が財産を受け継ぐ事が基本ではあるのだが、場合によってはそれを分割して子供に分け与えるケースも存在する。


そうした背景もあって、わざわざ血族で争う事もないと言う事で、次男以降が冒険者に流れていく事も多いのである。

これはこれで、人生の転機、先程の例の通り、まだ見ぬ土地へと移り住むチャンスとなる訳だから、案外そうした若者達は特に不満もなく、場合によっては、率先して冒険者に成りたがる者達も多いのであった。


さて、話を戻そう。

しかし、そうは言っても、全ての若者が都会に憧れる訳では当然ない。

家業を継ぐのとは別に、自分の生まれ育った土地を守りたいとか、その地域に貢献したいと言った理由で、その土地に留まるケースも存在するのである。


テオが、正にそれに該当した。


「実は『狩人(ハンター)』系の冒険者ってさ、一つの拠点、一つの森に留まる事が多いんだぜ?これは、一言に“森”って言っても、それぞれ特色が違うからなんだが、それに、同じ『狩人(ハンター)』系でも、もっと『賞金稼ぎ(バウンティーハンター)』寄りだったり、『探索者(シーカー)』寄りだった場合は各地を転々とする事もあるんだけどな?」

「そ、そうなのかっ!?」

「ああ。」


魔獣やモンスターを狩る事を生業としている『狩人(ハンター)』系の冒険者ではあるが、以前にも述べた通り、実際には必要以上の殺傷をしないのである。

これは、“森”の生態系や自然環境への配慮からである。

こうした事からも、本来『狩人(ハンター)』は、“森”と人間の仲立ちをしたり、“森の番人”としての側面を持っている事が窺える。


もっとも、これも以前から述べている通り、『狩人(ハンター)』は“冒険者”としての職業の中に吸収されていった歴史があるので、本来の『狩人(ハンター)』達が持っていた考え方、自然崇拝や自然に対する畏敬の念を失ってしまって久しい。


その末で、『狩人(ハンター)』は魔獣やモンスターを狩りまくる者達の事であると勘違いされたり、先程のテオの発言通り、『賞金稼ぎ(バウンティーハンター)』系の冒険者や、『探索者(シーカー)』系冒険者を『狩人(ハンター)』系冒険者と一区切りで捉えられてしまう事もよくあるのだ。

場合によっては、密猟者を混同してイメージしてしまう事もある。


さて、それでテオはと言うと、これはやはりユストゥスら“森の民”たるエルフ族の影響を色濃く受けた為もあるが、また、『魔物の心(モンスターズハーツ)』に目覚めた事も一因だろうが、本来の意味での『狩人(ハンター)』に近いスタンス、『魔獣の森』周辺を守護しつつ、その中から自然の恵みを頂いたり、生態系のバランスの保護、自然環境の保護、森を荒らさない様にと他の冒険者達への注意換気、場合によっては、マナーの悪い冒険者や密猟者、『掃除人(ワーカー)』の排除を自発的に行う“森の番人”として生きていきたいと考えていたのであった。



「そんな事考えていたのか・・・。」

「まぁ、恥ずかしくって、お前達にも話したことなかったんだけどな・・・。」


“夢”を語るのは、決して悪い事ではないが、同時にこの年代の若者が仲間や家族に打ち明けるのは気恥ずかしい思いもあった。

それ故に、テオもこの事は今まで仲間達にも話した事はなかったが、迷っている様子のレイナードの参考にでもなればと、今回思いきって話してみたのである。


「いやいや、恥ずかしがる必要なんてないじゃんっ!素敵な“夢”だと思うよっ!!それに、今のテオなら全然不可能な“()”じゃないし・・・。」

「・・・(うんうん)。」

「ありがとう、バネッサ、レイナード。まぁ、そんな訳で、俺はこの先もルダの街に留まろうと思ってんだよ。」


ガチムチ系イケメンになったにも関わらず、子供っぽい表情で恥ずかしがるテオにバネッサはそうフォローしつつ、今現在のテオの実力から言えば、全然不可能な事ではないと意見を述べる。

それに、レイナードも首を縦にふって同調してみせた。


「けど、まぁ、案外臨時講師はその目的に遠くないし、収入も良いから、時々なら色々教えるのも有りかなぁ~とは思ってる。今回、偶然にも臨時講師の件を受けてみて改めて気付いた事ではあるんだけど・・・。」

「あぁ~、確かにそれは有りだな。」

「うんうん、なるほどぉ~。」


冒険者を育成する意味合いの強い『冒険者訓練学校』に集まる訓練生達は、言うなればまだまっさらな状態だ。

そんな者達に、“森”の危険性やマナーなどを教える事によって、既存の冒険者達とは一線を画した考え方を伝える事が可能だ。

これは、すでにある程度の実力や常識を持つ冒険者達にそうした事を諭して回るより、遥かに効率が良い側面もあった。


「テオも色々な考えてんだなぁ~。」

「まぁ、焦る事ないって、レイナード。今後の事はじっくり考えればいいさ。」

「・・・ああ、サンキュー。」


最後にそんな言葉で締めくくり、三人はそれぞれの帰路に着いたのだったーーー。



◇◆◇



※ケイアの場合



「ハァハァハァッ!も、もう、勘弁してくれませんかねぇ・・・。」

「うっぷ、おえっぷっ・・・!」

「諦めんなよっ!諦めんなよっ、お前らっ!!」

「どうしてそこでやめるんだっ、そこでっ!!もう少し頑張ってみろよっ!」

「ダメダメダメッ!諦めたらっ!周りのこと思えよっ、応援してる人たちのこと思ってみろって!」

「もっと熱くなれよっ!!熱い血燃やしてけよっ!!」

「人間熱くなった時がホントの自分に出会えるんだっ!」



「・・・なんぞ、アレ・・・?」

「さ、さぁ・・・?」

「・・・何か、懲罰代わりの“特別訓練”だって言っていたけど・・・。」

「あ、ケイア、おはよぉ~。」

「いやぁ~、俺も止めたんだけど、ウチのゴドウェル(脳筋)と『元・ムスクルス(教官連中)』がノリノリでよぉ~。」

「あ、イドリックさん、おはようございまぁ~す。」


翌日、レイナードとバネッサが『冒険者訓練学校』に赴くと、そこには併設された運動施設にて、ガチムチ集団から某太陽神の様な熱血指導を受けるオックスとラッセルの姿があった。

それを遠巻きに眺めたレイナードとバネッサが呆れていると、幼馴染み(友人)の少女と『デクストラ』のメンバー・イドリックがそこに合流したのだったーーー。



『冒険者訓練学校』は、拠点を王都・ヘドスに移した関係で、今は誰も使う事のなくなった『リベラシオン同盟』がかつて本部兼施設として利用していた建物を流用していた。

ここは、かつて『他種族』以外の人身売買の目的で捕らえられ、後にアキトらの手によって解放された人々が滞在し、治療や療養、心身のリハビリや社会復帰を促していた場所でもあった。

それ故に、意外なほど『冒険者訓練学校』の施設として適した条件となっていたのである。


滞在する為の宿泊施設が整備されており、それはそのまま訓練生達の宿舎へと転用が可能だし、訓練中の怪我や病気、カウンセリングを受けられる施設も完備。

身体のリハビリの為に屋内施設や運動施設が整備されており、社会復帰を促していたところから、座学に適した“教室”の様な場所まであるのだ。

更には、ダールトンらが執務室として使用していた棟が別棟に併設されていて、そこはそのまま教官や臨時講師達の“職員室”として機能していたのである。


その事実に気付いたドロテオは、最初からアキトが『冒険者訓練学校(それ)』を想定した上で『リベラシオン同盟』の本部兼施設を造らせたのではないかと疑ったほどだ。

まぁ、当然ながらそれはただの偶然なのだが、どちらもある種の『職業訓練所』に似通った意味合いを持っていた事から、重なった部分、類似する部分があったのはただの偶然でもなかったのである。


ちなみに、ドルフもそうなのだが、『元・ムスクルス』と『デクストラ』のメンバー・ゴドウェルは、同じ肉体至上主義者(脳筋)同士、非常に馬が合っていた。

もちろん、どちらもただの脳筋(バカ)ではないのだが、己の肉体を作り上げる事にある種の快感を感じている者達からしたら、『冒険者訓練学校』の存在はある意味理想的な環境であった。

まぁ、巻き込まれる訓練生()としてはたまったものではないだろうが・・・。


更にちなみに、ドルフの判断で、規律やルールから逸脱したオックスとラッセルは、一応厳重注意で事を済ませたのであるが、そうした事をするのは元気が有り余っている証拠だとして、ゴドウェルと『元・ムスクルス(教官連中)』が結託して、彼ら二人に“特別訓練”と称して熱血指導を施しているのだった。

これに関しては少々やり過ぎな感も否めないが、ある種の“懲罰”でありつつも、基本的な身体能力の向上にも寄与するので、後々冒険者となった時にも活かせる事もあって、ただの“しごき”と言う訳でもないのである。


ただまぁ、とてつもなくキツい事には変わりなく、夕べのディナード達の言葉以上にオックスとラッセルは、改めて己の行動を後悔し、それを眺めていた他の訓練生達も、自分はああはあるまいと、ある種の抑止力となるのであった。

まぁ、そこまでゴドウェル達が計算していたかは定かではないが。



「なるほどねぇ~。」

「まぁ、分からなくはないかな?」

「まぁ、あの二人には気の毒だが、言ってしまえば自業自得だし、長期的に見ればむしろ良い方に働くだろうしな。それに、彼らもそこまで無茶はせんだろ。」


そのイドリックの言葉通り、地獄のマラソンと筋トレをやり遂げて死んでいるオックスとラッセルに、ゴドウェル達(脳筋達)は賛辞の言葉を贈っていた。


「ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ・・・。」

「ヒューッ、ヒューッ、ヒューッ・・・。」

「よくやった、よくやったぞっ!!!」

「頑張る姿に感動したぞっ!!!」

「どうだっ、気持ちいいだろっ!?」

「筋肉が喜んでいるのではないかっ!?」

「これで、お前らもマッスル同盟の一員だっ!」


いや、しばらくそっとしといてやれよ、と思いつつ、レイナード達はそれを尻目に教官や“臨時講師”が使用している『職員棟』に足を向けるのだったーーー。



・・・



「そう言えばさぁ~、ケイアは将来的にはヴィアーナさんと一緒で、王都に行っちゃうの?」

「えっ・・・!?う~ん、そうだねぇ~・・・。」


夕べの顛末を知らないケイアは、バネッサから急にそんな事を聞かれて一瞬驚いたものの、しばし考え込んでいた。



今現在のケイアは、元々はアキトの『監視者』として『魔術師ギルド』より派遣されていたヴィアーナ(後に和解し、ヴィアーナはアキトらの協力者となった)の正式な弟子となり、レイナード達と共に『冒険者訓練学校』の“臨時講師”を務めているものの、レイナード達とは違い『魔術師ギルド』から派遣されている、という(てい)となっている。

元々ケイアは、『魔法使い』であった母・ケイラの指導を受け、魔法技術の一つである『詠唱魔法』による『マニュアル方式』をある程度納めていたので、『魔術師ギルド』が採用している『刻印魔法』による『オートマチック方式』への応用も非常にスムーズだった為、ヴィアーナも呆れるほどにあっという間にそちらの方も吸収してしまったのであった。


とは言え、ここら辺は最近は明らかに大幅に改善している傾向にあるとは言え、いきなり他から来た人間を「はい、では貴女は明日から『魔術師』として一人前ですよ。」とは流石に『魔術師ギルド』側も認められない訳で、客観的にみればすでに一人前の『魔法使い』・『魔術師』ではあるものの、ケイアはヴィアーナの弟子かつ彼女の“預かり”という形に一応落ち着いたのである。

ここからは、所謂貢献や功績を重ねて、徐々に自らの存在を認めさせていく段階であり、更には『魔術師ギルド』側も、少しずつ今までの体質を改善していく段階なのであった。


さて、ではそんなケイアが何故『()()()訓練学校』に派遣されているかというと、これはアキトの助言(アドバイス)があったからである。


以前の『魔術師ギルド』は、『魔法技術』喪失の歴史的教訓から、『魔法技術』の他への流出を恐れて秘匿し、その技術は『魔術師』や一部特権階級の者達が扱える程度であった。

しかし、『リベラシオン同盟』(正確にはアキト)と『技術提携』を結び、新事業である『生活魔法(ライフマジック)』を世に送り出してからは、むしろ積極的にそれを売り出す方向にシフトしていた。

まぁ、ここら辺は現金な話、せっかく一部の技術を公開するのだから、『魔術師ギルド』側としても是非とも利益を上げたいという思惑もあったのだが。


しかし、これはどんな事でも同じなのだが、()()()()()()()がすぐに世間に受け入れられるかと言うと、実はそうでもない。

新技術が開発され、それが実用化へと向かい、更にはコスト面を抑えた製品版が発売されたとしても、しっかりとした“広告”を打っていなければ売れる物も売れない、なんて事はザラである。

残念ながら、『魔術師ギルド』、と言うか、この世界(アクエラ)の大半では、まだまだ“広告”の重要性は理解が及んでいないのが現状であった。

そもそも、“広告媒体”が限られていると言う事もあるのだが。


そこで、アキトが目を着けたのが、冒険者や商人達であった。

そもそも『生活魔法(ライフマジック)』は、非常に利便性の高い道具となりうるが、価格設定としては一般市民には少々ハードルが高かった。

これは、それに使用されている魔法技術の『パテント料』や単純に部品が高い事もあって、どうしてもコスト面を抑える事が出来なかった為だ。

(もっとも、国交が正常化しつつある『ヒーバラエウス公国』や『トロニア共和国』との貿易が本格化すれば、少なくとも部品の値段分は安くなる可能性はあるが。)

ただし、それを使いこなせればそれに見合う価値がある訳で、新しい物に敏感な一部の冒険者や商人は、特にそうした“広告”を打ち出さなくとも、こぞって『生活魔法(ライフマジック)』を買い求めていた。

つまり、言い方はアレだが、(てい)よく宣伝をしてくれる者達がすでにいたのである。


“口コミ”は向こうの世界(地球)でも重宝する“広告”の形態の一つであり、テレビやインターネット、新聞などの“広告媒体”が存在しないこの世界(アクエラ)でも十分に効果が期待出来る手法だ。

事実、一部の冒険者や商人が買い求めてからは、売上が伸び悩んでいたが、その後、しばらくするとちょこちょこ売上が増えていっていた。

ここら辺は、最初に買い求めていた冒険者や商人達が実際に使用している様子を方々で見る事によって、それが宣伝効果になったからである。

ただ、数値上の伸びを考えると、ロマリア王国(この国)に普及するまでにはそれなりに時間が掛かるだろうし、それが他の国へと波及するには更なる時間が掛かるだろう。

そこで、アキトは更に一歩踏み込んで、『生活魔法(ライフマジック)』の具体的な活用方法を教えてはどうかと提案したのである。


道具の使用方法を実際に示す事で、広く世間一般に向けて購買意欲を刺激する手法はいくつかある。

例えば“実演販売”や“テレビショッピング”がこれに該当する。

他にも、例えば“パソコン教室”や“スマートフォン教室”などもこれに近しいかもしれない。

より具体的な使用方法や利便性が理解出来たり体験出来れば、人は購買意欲をそそられるモノだ。

その手始めとして、冒険者の卵を集めた『冒険者訓練学校』にて、『生活魔法(ライフマジック)』の活用法を教える事を『魔術師ギルド』側も了承したのだった。


ここら辺は、前述のテオの発言と似通った部分も存在するのだが、これから各方面で活躍する事が期待される訓練生達に教える事によって、将来的なお客さんになる事を期待するのと同時に、先程の例の通り、それが各方面で人目につけば、更なる購買層が広がると言う期待感もある。

テレビやインターネット、新聞などの“広告媒体”が存在しない中で、更には既存の冒険者達に一々教えて回るよりかは、限定的な期間とは言え、一ヶ所に集まっている訓練生達にターゲットを絞る事はコスト面から考えても現実的な一手と言えるだろう。


もちろん、ある程度の普及が進めば、資金面で余裕も出てくるだろうから、先程の“パソコン教室”や“スマートフォン教室”の様なモノを開催する事も可能になってくるだろうが。


とまぁ、そんな事から、実験的に『冒険者訓練学校』に集った訓練生を対象に、『生活魔法(ライフマジック)』の活用法を伝える“臨時講師”としてケイアは『魔術師ギルド』から派遣される事となったのである。



「将来的にはそうなる、のかな?一応、今の私は『魔術師ギルド』の一員だからね。ただ、おそらくだけど、『生活魔法(ライフマジック)』普及に向けて、各地に派遣される事となると思うし、今はまだまだ限定的だけど、将来的にはロマリア王国(この国)に広く魔法技術を普及させていきたいって“夢”もあるんだよねぇ~。」

「へぇ~。」

「っ!!!」


期せずして幼馴染み(友人)の今まで聞いた事のなかった“夢”をレイナードは耳にし、しばし考え込んでいた。


余談ではあるのだが、アキトがルダの街を離れる事が分かった時に、ケイアはアキトに自分の気持ちを告白していた。

もちろん、ケイアにはその思いが受け入れられない事は何となく察していたが、ある種のケジメかつ、気持ちの整理をする上での行動であった。

実際、アキトはケイアの告白を丁重に断り、ケイアはフラれる事となった。

ここら辺は、アキトの特殊性や関係性の近さが仇となってしまったが上の事だ。


アキトは『前世』の記憶を持っているので基本的な精神年齢が高く、幼い頃より知っているレイナード達を、幼馴染みとしてはもちろんだが、何処か親戚の子供みたいに見ている節があった。

バネッサ同様に、ケイアも人目を引くほどの美しい女性として成長したのだが、そうした事情から、アキトからしたらケイアを恋愛対象として見れなかったのである。


こうしてケイアの初恋は残念な結果に終わったのだが、それで今まで培ってきたモノがなくなる訳ではない。

幼馴染みとしての関係とは別に、ケイアとアキトを繋いでいたもう一つの共通点である魔法技術を、ケイアは更にのめり込んでいく事となった。

ここら辺は、男性も女性も変わらないかもしれないが、恋愛が上手くいかなかったから、もう一つの自分を動かす原動力である“夢”や仕事に打ち込んでいくのと似通った事かもしれない。


こうした事もあって、元々そうした素養があったのかもしれないが、ケイアは仕事の出来る知的な女性として知られる様になっていた。

もし仮に、ここで初めてアキトと知り合っていたら、アキトの好みもあってまたケイアとの結末も別のモノとなっていたかもしれないが。

まぁ、それはともかく。


そんな訳で、今現在のケイアは『生活魔法(ライフマジック)』の更なる普及や、将来的には魔法技術自体を広く普及させたい“夢”が存在していたのである。


レイナードは、テオ同様にケイアの“夢”に触発されて、己の中で更なる炎が燃え上がっている事を自覚していたーーー。





















「見ろよ、またレイナードさん、美女二人に囲まれてやがるぜっ・・・!」

「マジかっ!?かっー、羨まし、妬ましいぜっ!!!」


更に余談だが、レイナードがオックスなどの一部の訓練生から何処か冷たく当たられていたのは、彼のキャラクター性もさる事ながら、単純な嫉妬心もあった。


と、言うのも、やはり冒険者はその危険性の高い職業故に、どうしても女性の比率が少なくなってしまう傾向にあった。

もちろん、それは訓練生も同じである。

もっとも、『冒険者訓練学校』は、まだ“現場”に出る段階ではないし、新たなる教育と言う観点から、女性の訓練生もいない事はないのだが、それでも比率としては男性が大半を占めるのが現状である。


そんな女性と縁遠い立場の、それも年頃の男子からしてみれば、バネッサとケイアは非常に魅力的な女性であった。

実際、彼女達に密かに憧れている訓練生は多い。

そんな環境下で過ごしている彼らからしてみれば、親しい関係性のレイナードと(端から見れば)イチャついていれば、嫉妬の炎に燃え上がってしまうのも無理からぬ話であろう。


イケメンは敵だっ!!!(*`Д´)ノ!!!

リア充爆発しろっ!!!(*TДT)ノ!!!


って感じである。

レイナードとしてはとんだとばっちりだが、まぁ、それもある程度の集団になると、仕方のない側面もあるのだろうーーー。



誤字・脱字がありましたら、御指摘頂けると幸いです。


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