政権交代
続きです。
色々ととっ散らかってしまった印象ですが、一先ずこういう決着になりました。
もっと簡潔に、上手く表現出来る様にしなければ・・・。
時代の転換期には、大きな争いがつきものである。
それは、旧来のシステムや考え方からの脱却に伴う、ある種の儀式の様なモノかもしれない。
古来より、日本においても、大きな歴史の転換期には必ず争いがあった。
そして、それに伴う新技術の開発、あるいは伝来した新たなる技術を上手く活用した者達が、後の歴史の勝者となっていったのである。
分かりやすい例が、織田信長の鉄砲隊であろう。
彼は、種子島に伝来した火縄銃を上手く活用し、天下への道を切り開いていったのである。
まぁ、彼自身は、結果的に天下への道半ばでこの世を去る事となったが、後の人々に与えた影響は計り知れないモノがある。
しかし、当然だが、そうした技術と言うのは、当初は懐疑的に見られるモノなのである。
後の我々は、その有用性を知っているからこそ不可思議に思う事もあるが、当時の人々の感覚で言えば、得たいの知れない、しかも、弓矢に比べても遥かに連射性の劣る物であったが故に、そんなオモチャを実際の命が懸かった戦に活用するなど、思いも寄らなかった事だろう。
事実、現代の連発が可能な拳銃ですら、近接戦では単純なナイフの方が優位な場面も存在する。
某赤い人も言っていたが、当たらなければどうという事はないのである。
しかし、そこからは、所謂先見の明とか、想像力、人間や動物の心理も関連するのだが、多人数での戦、多数の火縄銃を想像してみると、これは一気に評価が変わる。
数を揃えた火縄銃は、遠距離からの恐ろしい脅威に早変わりするのだ。
しかも、その得たいの知れないモノだからこその恐怖心が、更に兵達の動揺を誘う事だろう。
当時の雑兵は、農民からの数合わせだったり、身分の低い者達で構成されていた。
つまり、身も蓋もない事を言えば忠誠心もなければ練度も低く、更には学がないのである。
学がなければ、火縄銃の事も、その特性や弱点も分かる筈がない。
つまり、得たいの知れない道具が、まるで呪いの様に自分達を次々と葬っていくのだ。
そうなれば、当然部隊は瓦解する。
いくら戦上手な武将であろうと、兵がいなければ戦いにすらならない。
結果として、そうした事が次々と重なり、歴戦の雄達が次々と敗退していったのである。
これは、ある意味情報戦に敗北した結果なのである。
どれだけ優れた道具でも、見る者の想像力が劣っていればただのオモチャになるし、見る者の想像力が優れていれば強力な兵器となる。
これらの事は、アキトがこの世界に送り出した新発明や新技術に飛び付いた者とそうではない者とに通じるところがあった。
さて、しかし、現代に近付けば近付く程、実際に血で血を洗う争いからは遠ざかる訳だが、しかし争い自体が無くなった訳でもない。
企業同士の技術競争やシェア争いがそれに成り代わっていった訳だが、アキトが意図してか意図せずしてか仕掛けた争いも、そうした類いの争いだった訳だ。
現代の社会では、巨大な資本を有する企業が、国や社会、人々を支配していると言っても過言ではないだろう。
とある地方都市では、とある企業の大きな工場があり、その土地に暮らす住人の大半がそこやそれらに関連した仕事に就いて生活基盤を得ている、なんて話もある。
また、とある地方都市では、とある企業の大型デパートが進出して、地元の小さな店舗の客を軒並み掠め取られてしまう、なんて現象も起きている。
地元のお店の人々からすれば堪ったものじゃないが、それもある種の生存競争であった。
これと同様に、アキトの実業家としての数々の業績は、人々の雇用の創出と生活水準の向上に寄与している。
つまり、いつの間にかロマリア王国は、経済面の重要な部分をアキトに掌握されていたと言う事になるのだ。
当然であるが、どれほど権力を握ろうと、どれほど身分が高かろうと、もちろん多少影響を与える事は出来るが、自分の持っていない資本までをも自由に扱える訳じゃない。
実際、日本の過去の支配階級たる一部の武士も、実際は裕福な商家よりも随分質素な生活を送っていた事例も珍しくないし、時代劇にありがちな“お代官様”・“越後屋”のあれこれも、つまりは私腹を肥やしたいが、さりとて自分では稼ぐ方法を知らない事を意味しているのかもしれない。
そして経済面が多方面に重要なファクターとなる事は、もちろんこの世界でも同じ事だ。
アキトに見限られればロマリア王国の経済は破綻する、とまでは行かないまでも、順調に成長していた経済活動はストップする事となるだろう。
人は、一度生活水準を上げると中々元には戻れないものだ。
そうなれば、事情を知らない国民からは政府に対して不満の声が挙がり、最悪暴動、あるいは、本当の意味で政変が起こる事も予測される。
そうなれば、ロマリア王国の国力は一気に衰え、結果として国として機能しなくなり、他国に吸収される形で国が消滅する事が現実的に起こり得るのである。
それが分かっているからこそ、マルセルムらは決起した訳だし、もうすでに決着が着いているからこそ、アキトに微塵も焦りはないのである。
アキトの持論、事前準備の差が、ここで明確に現れた形であったーーー。
◇◆◇
とつとつと語られるアキトの功績と、それと対比される我等の不甲斐なさ。
それを語るのは、私が一番信頼している重鎮であるマルセルム公と、そして我が息子、ティオネロ皇太子であった。
始めは驚き戸惑い、軽く裏切られた気持ちすらあったが、流石にここまでの事を言われれば、私とてすでに自らが“王”の座に居座る意味がない事を悟っていた。
いや、むしろ私が“王”の座にいる事は、ロマリア王国にとって最早害悪でしかないだろう。
いつの間にか、人々を惹き付ける魅力を備え、輪の中心に君臨するティオネロ皇太子を見つめ、そんな事を何処か他人事の様に私は考えていたのだった。
ふと私は、我が妻・エリスから後に聞いた、もう一人の我が息子を引き取っていった『忘れられた神』・アルメリアの言葉を思い出していた。
ー貴女はもう1人の我が子を立派に育てなさい。『英雄』の友人に相応しい『王』とする為に。ー
王、そうティオネロ皇太子の事を、彼の神はすでに王と位置付けていたのだ。
つまり、すでにあの時点で、彼の神の中では、ティオネロ皇太子が王となる未来が予期されていた事となる。
当然それは、いつかはそうなるだろうと私も考え、その言葉の意味を特に気にも留めなかったのだが、事ここに至り、私はハッと気が付いた。
ー『英雄』が現れたら、ティオネロに『王位』を譲れ。ー
そう、暗に示唆していたのではないか?、と私は思い至ったのだ。
そう考えると、色々と合点がいった。
確かにティオネロはまだ若い。
一応、成人を過ぎたとは言え、それだけで海千山千の魑魅魍魎が蔓延る政界ではマトモにやり合えるとは誰も考えていなかった事だろう。
私もその一人だ。
それ故に、私の補佐をさせながら少しずつティオネロの成長を促していたのだが、親がなくとも子は育つとはよく言ったもので、ティオネロはすでに知らぬ間に一端の男に成長していたのだ。
いや、あるいは、私の存在が彼の成長を阻害していたのか。
いずれにせよ、アキトの存在がティオネロに良い影響を与えたのは間違いないだろう。
ならば、老害がいつまでも“王”の座に居座る必要もないだろう。
私の腹は決まった。
・・・しかし、我が血族ながら、聞けば聞くほどアキトの功績はとんでもなかった。
いや、もはや彼を我が一族の者と言うのはおこがましい事かもしれない。
アキトは、故モルセノ司祭や『忘れられた神』・アリメリア曰く、この世界を救う『英雄』だ。
その片鱗を、すでにまざまざと見せ付けられた形だ。
しかし、どう育てれば、これほどの傑物を生み出す事が出来るのだろうか?
私は、そんな益体もない事をボーッと考えるのだったーーー。
・・・
マズいっ!
非常にマズいっ!!!
マイレンは、マルセルムらの登場に、びっしりと脂汗を流し、焦りに焦っていた。
マイレンからしてみれば、今回の件は簡単なお仕事である筈だった。
泥人形騒動を収束させた英雄と、一部界隈では有名だった『リベラシオン同盟』を見定め、使える様なら国へと取り込み、そうでなければ、適当にその旨味だけ掠め取る算段だったのだ。
しかし残念ながら、アキトは彼の手に負える様な人物ではなかった。
いや、それどころか、値踏みされていたのは実は自分達の方だったのだ。
その事を、実は自身保身の為には人一倍頭の回るマイレンはすでに悟っていた。
ガーガーと色々と文句や難癖をつけたのも、実際は自分が生き残る活路を見出だす為の時間稼ぎだったのである。
しかし、いくら考えても、上手い手が見付からずにいた。
当たり前である。
この場に至る前に、すでに勝敗は決していたのだから。
故に、この場でいくら考えても、活路など見出だせる筈もないのだ。
いや、選択肢はまだ残されている。
素直にアキト(『リベラシオン同盟』)に従う事だ。
そうすれば、少なくともロマリア王国や国民にとっては悪い事にはならないだろう。
自分達を除けば、であるが。
マイレンの自身に関わる洞察力はそれなりに優れていた。
その事から考えると、アキトが自分の様な存在を放置する様な人間でない事を理解してしまったのである。
そうなれば、潔さとは無縁のマイレンが必死に抵抗をするのは当たり前の話であろう。
例えその結果、アキト(『リベラシオン同盟』)との関係性に亀裂が入ろうとも、何よりも自分の立場を守る事が先決だった訳だ。
その思惑は、ある種成功していた。
アキトは、やると言った事は本当にやる。
マルク王やマイレン、その他名門貴族達がNoを突き付ければ、アキトは本当にロマリア王国抜きで『三国同盟(仮)』を推し進めた事だろう。
それは、マイレンにとっては自分の立場を(一時的に)守る事なので、ベストな選択肢であった。
もっとも、中・長期的に見れば、悪手も悪手だったが・・・。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。
マルセルムらが、決起したからだ。
マルセルムらからすれば、『三国同盟(仮)』の不参加は、あってはならない事態だろう。
現金な話、『リベラシオン同盟』に投資してきた事が無駄になると考える者も中にはいるが、それ以上に、政治・経済・軍事と、様々な観点からもアキト(『リベラシオン同盟』)との関係性に亀裂を入れる訳にはいかないからだ。
見えている者達にとって、それは自身の身の破滅、ひいてはロマリア王国の終焉を意味するのだから。
そうならない為にも、アキトがヒーバラエウス公国に旅立った時に、マルセルムとジュリアン、ガスパール、オレリーヌらはアキトが戻るまでの間にロマリア王国の根回し・地ならしを完了させる予定だった。
が、その結果は芳しくなかったのだ。
半数以上の貴族家からは支持を集める事に成功したが、頭の固い、腰の重い者達は、そもそも聞く耳すら持たなかったのだから。
しかし、案外人とはそんなモノだ。
みんながみんな、先が見えるほど優秀ではないし、情報に聡い訳でもない。
それでも、時間を掛ければ口説き落とす事も出来たかもしれないが、マルセルムもジュリアンらも想定以上に早く、アキトが帰還してしまったのである。
まだまだマルセルムやジュリアンらは、アキトの非常識ぶりを何処か甘くみていたのだ。
しかし、これはマルセルムらに非はない。
ヒーバラエウス公国へと旅立ち、食糧問題やその他諸々の事情に解決の道筋をつけるだけでも、本来ならば軽く十数年の時を必要とする事だろう。
マルセルムはともかくとして、ジュリアンらはアキトの非常識ぶりを多少知っていたので、アキトならばそれを数年で、下手すれば二、三年で解決してくると考えていたのだが、それでもまだまだ見積もりが甘かった。
まさか、一年も経たずにアキトが帰還しようとは、誰も考えていなかったのである。
もちろん、泥人形騒動を受けて、その危機的状況にアキトも慌てて駆け付けたと言う事情もあるのだが。
時間切れだ。
マルセルムらはそう考えた。
泥人形騒動のおりに、アキトと『リベラシオン同盟』が派手に活躍してしまった。
それは、王都・ヘドスの住人の知るところであったし、時間が経てば、国民全てがアキトと『リベラシオン同盟』の活躍を知る事となるだろう。
そんな者達に対して、ロマリア王国の上層部が動かない筈がない。
下手に無視を決め込めば、ロマリア王国の上層部が国民の反感を買う事態になるのだから。
故に、アキトとマルク王の接触は既定路線となっていた。
そこで、アキトが何かしらのアクションを起こす事も想像に難くない。
その結果如何では、ロマリア王国にとって、最悪なシナリオを引いてしまう事もありえた。
最早、なりふり構わず動くしかマルセルムらには残された道はなかった。
それが、マルク王に対する反逆、ある意味政変と言う形になってしまったのである。
もっとも、その性質上、実際に武力を行使するまでもなかったが。
何故ならば、すでにアキトの手によって決着がついていたのだから。
経済を介した資産や人心の掌握。
これまでの活動に対する評価と、泥人形騒動が決定打となって高まったアキトや『リベラシオン同盟』への国民の高い支持。
その派生ではあるが、アキトや『リベラシオン同盟』が独自に築いた他国との繋がり。
これらの事を総合して考えれば、損得勘定に優れた貴族達がどちらにつくのが得かは、これは最早火を見るより明らかだ。
しかし、ここで下手に国を割る訳にもいかない。
そこで、マルセルムらは、マルク王からティオネロへと王位を譲渡させる事で、この件を収束させようとしたのである。
以前にも言及したが、ロマリア王国の内閣(政府)は、マルク王に近しい者達で構成されている。
もちろん、元老院の承認は必要だが、よほどの事情がない限りほぼそのまま採用される事が通例となっていた。
そこを逆手に取って、マルク王を退陣に追い込めば、必然的に内閣(政府)も解散と相成る。
その事を狙ったのである。
もちろん、マルセルムにとっては、これは苦渋の決断だった。
この行いは、長らく仕えてきた王を裏切る行為に他ならないからだ。
しかし、本当の忠臣であれば、ここで動かない事の方がもっとありえない事だ。
もし、ここでマルセルムらが動かず、アキトとロマリア王国の関係性に亀裂が入れば、後の歴史家に嗤われるのはマルク王だ。
ー自身の保身の為に英雄の言葉を撥ね付けて、ひいては自らの立場と国を失った愚かな王だった。ー
そんな不名誉な一説が、記されてしまうかもしれない。
ならば、
ー自らの力量不足を痛感し、潔く王位を譲った。ー
と記された方が、まだ心証は良いだろう。
そして、それはロマリア王国にとっても最善の手でもある。
後は、マルク王の決断次第だ。
ーお願いですから、大人しく王位をティオネロ皇太子殿下に譲渡して下さい。ー
マルセルムは、半ば祈る様にそう考えながら、とつとつと退陣の必要性を説くのだったーーー。
◇◆◇
これは最早政変ですらない。
ウチは、場違いながらもちょいちょい口を挟みながらそんな事を考えていた。
改めて旦那はんはとんでもない御方だった。
まさか、その武力や知性だけでなくて、政治的手腕や経済的知識すら網羅しているとは、トコトン底知れぬお人である。
しかも驚くべき事に、旦那はんはまだ14、5の少年だ。
いや、若いのはその見た目からも分かっていたが、それよりも重要なのは、その歳になる前の段階からそれらを身に付けている、ってところである。
でなければ、これほどの下地を作り上げる事など不可能なのだから。
ウチも、それなりに早熟な方だったが、それとは旦那はんは根本的に違う様な気がする。
まぁ、だからこそ『英雄』なんて御大層な称号で呼ばれているのかもしれないが。
もし仮に、旦那はんが人生二回目って言われても、ウチは不思議に思わんかもしれんなぁ~。
ふと、事の成り行きを見守っていた旦那はんと目が合った。
旦那はんは、人差し指を口元に近付ける仕草をする。
ドキッ!!!
い、いや、その仕草も非常に絵になるのだが、それ以上にウチは、今考えていた事を見透かされた様でビックリしてしまったのだ。
ーヒミツ。ー
そう言われた様な気がしたのだ。
だから、この胸の動悸もそれに関するモノで、それ以上の意味はない、と思う。
決して、旦那はんに見とれていたんではないでっ!!??
・・・ウチは誰に言い訳しとるんやろか?
ま、まぁ、しかし、これ以上ウチが何か茶々を入れる必要もないかもしれん。
ジュリアンはんやマルセルムはんに言われて、旦那はんへの興味と、トロニア共和国への利益も考慮した結果、この話に協力した訳だが、そんな事しないでも、すでに勝敗は決していた訳だからな。
よく、裏の世界では“カネ、暴力、オンナ”と言うが、これは実は非常に利にかなっているのだ。
暴力で無理矢理従えるか、カネで骨抜きにするか、オンナでなし崩し的に仲間に引き込むか。
歴史的にも、暴力、つまり武力は誰もが考え付く、もっとも簡単な目的を遂げる為の方法論だろう。
国を盗る為にも、他国の領土を簒奪する為にも、これまで散々繰り返して来た事だからな。
しかし、分かりやすい方法論故に、為政者側からしたらそこへの警戒も厳重だ。
故に、よっぽど上手くやらない限り、単純な武力蜂起は逆に悪手になる。
カネで骨抜きにするのは、ある種政治家の常套手段だ。
何をするにしても、カネは必要不可欠だからな。
故に、それをバラ巻く事によって、利害関係で支配する事が可能だ。
しかし、この場合は、カネの切れ目が縁の切れ目と言う様に、常に強大な資本を有する必要性がある難点がある。
オンナ、つまりは、人の感情を利用する人心掌握の方法は、結構バクチみたいなところがある。
上手く行く時は、非常に結束も高まるのだが、逆に不信感などがあれば、内部から瓦解しかねないからな。
これは、ある種世論の誘導に通ずるところがある。
上手く誘導出来れば、民衆を味方につける事が出来るが、下手を打てば今度は扇動者自身に民衆の怒りが向く事になるからな。
とまぁ、この様に、それぞれの立場で皆ベストの選択をする事に躍起になっている訳だが、一番注目すべき点かつ、実際は見過ごしがちなのは、『胴元』に成る事である。
もっともこれは、普通の世界では意図的に成る事は不可能に近い。
狭い世界、裏の世界では、ギャンブルなどの主催者、つまりは場の仕切りをする者の事を『胴元』と言うが、普通の世界では、それはハッキリとしていない。
もちろん、人によっては、それを権力者であると捉える者達もいれば、人によっては、それを資産を有する者達と捉える者達もいる。
場合によっては、人々を惹き付ける魅力を備えた人物や団体かもしれない。
故に、限りなく正解に近いと言う理由から、人々は権力者、それに類する人物や団体に成ろうと夢見る。
だが、旦那はんがやってのけた様に、それを根本的に覆す事も可能だったのだ。
もちろん、本来はそんな事は不可能に近い。
ルールそのものを掌握してしまうなどとは。
一体、旦那はんの頭の中はどうなってるのだろうか?
ますます旦那はんへの興味は尽きへんわーーー。
・・・
どうやら、決着がつきそうだなぁ~。
僕は、マルク王の表情を眺めながら、そんな事を考えていた。
ふと、視線を感じて、僕はチラッとそちらを窺うと、ヴィーシャさんと目が合った。
多分彼女、それとグレンさんもだが、は、マルセルムさんらに依頼されて協力しているのだろう。
彼女達にとってはロマリア王国の話ではあるが、今後の事を見据えるのであれば、彼女達的にもロマリア王国の『三国同盟(仮)』参加は利のある話だ。
いやらしい話、ロンベリダム帝国やライアド教(ハイドラス派)に対する牽制にも使えるし、ヒーバラエウス公国、ロマリア王国、トロニア共和国(とエルフ族の国、鬼人族の一部など)との国交が正常化すれば、経済活動も活発になる。
つまり、ここで恩を売っといて損はないのである。
まぁ、これは僕自身、ヒーバラエウス公国の政変騒動に関与した思惑に似通っている事だろう。
とは言え、最早大勢は決していた。
これ以上、彼女が泥を被る必要もないだろう。
そう考えて、僕はこれ以上煽る事もないと、シーっとジェスチャーをする。
それに彼女はビックリした表情をした後、何やら真っ赤な顔をしながらコクコクッと頷いていた。
・・・少しそのリアクションは気になるが、まぁ、どうやら僕の思惑は伝わった様なのでスルーする事としようーーー。
◇◆◇
「更に言えばっ・・・!」
「しかし、それはっ・・・!」
「もうよい・・・。双方、矛を収めるがよい。」
「マ、マルク王っ!?ま、まさかっ・・・!!??」
「おおっ・・・!!!」
最早、その場はアキトとダールトン、ドロテオとの謁見の場から、急遽開催された討論会の様相を呈していた。
実際に暴力を行使した武力蜂起ではなかったが、これがマルセルムらによって行われた現体制に対する反逆なのは明らかだ。
マルク王やマイレンら、現体制側からしたらまさに“寝耳に水”と言う状況であっただろう。
しかし、何事もそうであるが、そうなる予兆は何処かにあったのだ。
現体制側の人々は、それに気付かなかった、あるいは気付きながらも放置したのだ。
ヴィーシャも指摘していたが、国の上層部がそんな状態では、すでにジャッジする事もなく一発退場であろう。
時は刻一刻と変化している。
人々は、常にそうした変化に適応していかなければならないのだ。
それが出来ない者達に、しかもそれが国の上層部ともなると、そんな者達に国を任せておけないと考えるのがある種道理であろう。
その結果が、今まさにマルセルムらが説明し現体制の退陣を迫っている状態であった。
しかし、急にそんな事を言われても(実際は急ではないのだが)納得出来ないのが人と言うものだ。
故にマイレンの様に、とにかくごねてどうにかならないかと考える者達がいるのが実情だ。
何かに違反したり、ルールを逸脱した者達が、とにかく罰から逃れようと必死に抵抗するのに似た心理作用であろう。
故に、最終的に武力行使(強制措置)も必要になってしまうのだが。
だが、残念ながら最早結論は覆らないところまで来ている。
いや、まだ選択肢は残されているが。
武力による抵抗だ。
しかし、それは悪手も悪手でもある。
勝ち目のない争いをしても、希望の芽は残っていない。
最悪、命を落とす事すら想定される。
その前に、マルセルムらからしたら、マルク王に決断して欲しいのだった。
ロマリア王国のトップの決断だけが、唯一この場の混乱を収める方法であった。
そして、それが分からないほどマルク王も愚かではなかった。
言い争いを続けていたマイレン側とマルセルム側を言葉で制し、重々しく、しかし、静かに次の言葉を告げる。
「余、ロマリア王国の現君主であるマルク・ロマリアは、王位をティオネロ皇太子に譲渡する事とする・・・。」
「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」
それは、この場では最善の手であったが、しかし、時節を読みきれなかった、あまりにも遅い決断でもあったーーー。
誤字・脱字がありましたら、御指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非、よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々御一読頂けると幸いです。




