Noと言える元・日本人
続きです。
本作の主人公の特徴としては、すでに大人としての経験や精神性を持っていますので、あまり葛藤や迷う事は少ないです。
そこら辺が、上手く表現出来ていれば良いのですが
・・・。
◇◆◇
僕が懐から取り出したのは、『精霊の眼』であった。
『精霊の眼』は、これは以前にも言及したが、向こうの世界で言うところの『ワイヤレスカメラ』に該当する物だ。
本来ならば、映像を撮る側かつ送信する側と、映像を受信する側とで二つセットになって初めて意味のある物となるが(映像を記録しておく媒体、磁気テープやメモリーカードに該当する物がまだない為)、今回取り出したのは受信側の『精霊の眼』だけである。
まぁしかし、これは一種のカモフラージュだから、これでも問題ないのである。
僕の能力と魔法によって、当時の映像を再現するつもりだったのだが、それだけではまるで僕が怪しげな術で皆さんを騙している様な誤解を与えかねない。
なので、その現象が『魔道具』、あるいは『失われし神器』が引き起こした現象かの様に見せ掛ける事で、客観的事実であると強調する為に、手持ちの『精霊の眼』を利用させて貰ったのである。
・・・まぁ、これも一種の詐欺かもしれんが、細かい事は気にしない事としようーーー。
~~~
「こんばんわ。初めまして、貴方がニルさんですか?」
「どうもこんばんわ。・・・おや、どこかでお会いしましたかねぇ?」
~~~
僕は今、皆さんにニルとの出会いのシーンをお見せしていた。
「な、何だ、これはっ!?」
「これは、この『魔道具』に記録された映像です。『パンデミック』前夜に実際に起こった事が目の前に映し出されているのですよ。」
・・・嘘である。
これは、僕の記憶を再現した映像だ。
だが、ここではそれは些細な問題だ。
これが実際に起こった事である事は、間違いなく事実であるからな。
「・・・むっ!?この者はっ!!??」
「おや、心当たりがお有りですか、マルク王?」
「う、うむ。『ロマリア王国』における『ライアド教』の最高責任者であった、モルセノ司祭の訃報を知らせた人物だ。その後も、何度か顔を合わせた事があったが、いつの間にかいなくなっていたな・・・。」
あぁ~、モルセノ司祭。
いましたねぇ~、そんな人も。
確か、僕がまだ子供(っつか赤ん坊だったけど)の頃に『ロマリア王家』の寝所にまで押し掛けた人だったっけ?
英雄を確保しようとして、アルメリア様に邪魔されたんだよねぇ~。
後で聞いた話だと、そのモルセノ司祭は英雄の確保に失敗した責を負わされて、処分されたとか何とか。
まぁ、状況から考えると、このニルが処分を実行したのだろうが。
「御存知なら話は早い。何を隠そうこの者が、旧・『ルダ村』の『パンデミック』を引き起こした張本人ですよ。」
「な、なにっ!?」
「まぁ、しばらく続きを御覧下さい。」
~~~
「いえ、先程も言いましたが、初めましてですよ、ニルさん。もしかしたら、貴方は僕を知っているかもしれませんけどね?」
「ほう?と言うと・・・?」
「僕は、アキト・ストレリチア。『英雄』、と言った方が分かりやすいですかね?」
「っ!では貴方がっ!?」
「やはりご存じでしたか。『至高神ハイドラス』に聞いたのでしょうか?まぁ、いいや。僕にも事情がありましてね。貴方が強奪した『失われし神器』と『研究資料』を回収に来たのですよ。ついでに、貴方の拘束も。」
「・・・。やはり主の仰った通り、警戒して正解でしたね。しかし、感付かれていましたか・・・。」
ニルは、ハンス達の気配を察知したのか、少し諦めた様に言う。
「優秀な『お友達』もいるのですねぇ。これでは逃げられそうもないですねぇ。」
「僕としては、大人しく捕まってくれるとありがたいのですが・・・。そうも、いかないようですねっ!」
ニルは、予備動作無しで『暗器』を投擲した。
しかし、僕も予測はしていたので愛用の杖で迎撃した。
それと同時に、ニルは『フラッシュ』の『魔法』を展開した。
『フラッシュ』は、『ライト』の応用技で、閃光の『魔法』である。
瞬間的に、爆発的な『光』を発する事で、相手の視界を奪う目眩ましの『魔法』である。
だが、これは自身もその『魔法』の『影響』を受ける。
当然だが、『ゲーム』と違い、『アクエラ』では『魔法』の効果が『敵』にしか及ばない、なんて事はなく、所謂『フレンドリーファイア』は注意するべき点なのだ。
ニルは、しっかりと目を防御している。
僕も、咄嗟に目を瞑る事に成功したが、瞼の裏からでも凄まじい光量が僕を襲う。
この数瞬の時は、戦闘の最中では致命的である。
しかし、ニルは攻撃する事訳でも、逃げる訳でもなかった。
それもその筈。
僕も、視界が若干奪われたが、『気配』の察知は可能だし、攻撃を捌く事も可能だ。
こういう時の『対策』として、色々な『訓練』を積んでいる(アルメリア様は、あれでも結構厳しいからなぁ)。
そして、ハンス達の存在も大きい。
少し離れて包囲網を形成して貰ったので、『フラッシュ』の『影響』も軽微だ。
ニルは、逃げたくても逃げられない状況だった。
「やはり、逃げられそうもないか。・・・主よ、お許し下さいっ!」
しかし、今回の場合は僕の認識が甘かった。
いや、知識が足りてなかった、と言うべきか?
『失われし神器』の『力』を、知らず知らずの内に、この『世界』の現在の基準で考えていたのだ。
『古代魔道文明』の『遺産』は、僕の予想より遥かに高度で厄介な代物だった。
多数の『モンスター』と『魔獣』に囲まれながら、僕はそう思った。
「こ、これはっ!?」
「『失われし神器』・『召喚者の軍勢』の効果ですよ。本当はこんな所で使いたくはありませんでしたが、ここで捕まるワケにもいきませんのでねっ!」
『アクエラ』には、所謂『召喚魔法』は存在しない。
『異世界転生』や『異世界転移』と言ったモノと同様に、途方もない『エネルギー』が必要だからである。
一時的に『エネルギー』、つまり『魔素』を蓄積する『技術』もあるにはあるが、とても実用に耐えられるレベルではない。
しかし、『失われし神器』には、それが可能だったのだ。
「主様っ!お引き下さいっ!」
「ちっ!仕方ない、撤退するっ!!」
「いえ、少しお待ち下さい、『英雄』殿。」
ニルは、歪んだ笑みを浮かべ、そう静止をかけた。
「なんですかっ!?」
「いえ、こちらも離脱する前にご忠告をと思いましてねぇ。残念ながら、この『召喚者の軍勢』は、まだ実験が上手くいっていなくてねぇ。有り体に言えば、『制御不能』なんですよ。つまり、この『モンスター』や『魔獣』達は、現在『暴走状態』なんですねぇ。私や貴方達なら切り抜ける事も可能でしょうが、近隣の村や街の人達では、どうでしょうかねぇ~?」
「な、なにっ!?」
「誤解しないで下さいよ?私も不本意なんですから。ただ、この混乱に乗じて私は逃げさせて貰いますが、私を追っていたら多数の人達が被害に遭われると思いますよ?まぁ、先程も言いましたが、ご忠告ですよ。」
「くっ!!」
「それでは・・・。もう、お会いしない事を祈りますよ。」
ニルは、最後にそう告げながら、牽制の『暗器』を投擲。
僕に、ではなく『モンスター』や『魔獣』に向かって。
その事により、『モンスター』達の攻撃性が刺激されたのか、僕達に向かって攻撃を加えようとしてくる。
『モンスター』達に気を取られ、ニルの姿を見失う。
これだけの『気配』の中では、彼の『気配』のみを追う事はもう不可能だ。
完全にしてやられた。
「くっ!みんなっ!離脱するぞっ!僕に続いてくれっ!!」
「「「はっ!!!」」」
~~~
「こ、このおびただしい数の『モンスター』や『魔獣』は何だっ!?」
「いや、何だと申されましても・・・。これが旧・『ルダ村』を襲った『パンデミック』ですけど?」
「こ、今回の『泥人形』共にも相当な脅威を感じたが・・・。」
「じ、実際に見ると、こ、これほどの絶望感だと言うのかっ・・・!」
ああ、そういう事ね。
この世界では、『モンスター』や『魔獣』は一般的にも我々人類にとっての身近な脅威であると認識されているが、大半の人々は、これほどの大群をその目で実際に見る機会はそう多くないだろうからな。
しかし、身近な分だけ、その恐ろしさもよく分かっている筈だ。
故に、伝え聞いた事ではない、実際の映像を見ると、その絶望感も半端ないって事だろう。
ちなみに、今回の『泥人形』に関しては、逆に未知故の恐ろしさはあれど、『モンスター』や『魔獣』ほどの恐怖感はなかったのかもしれない。
少し嫌な話だが、『泥人形』は、所謂“生物”ではないので、術者の命令によって、殺傷される危険性はあるのだが、捕食される恐れはないのだ。
一方の『魔獣』や『モンスター』は、“生物”故に、捕食される恐れがある。
自らが喰われる可能性があるのはもちろん恐ろしいが、身近な家族や友人が喰われる可能性があるのも恐ろしい。
『パンデミック』の真の恐ろしさは、むしろこの精神的かつ生物的な忌避感が根底に存在するのかもしれない。
「と、まぁ、こうした経緯で、旧・『ルダ村』周辺を襲った『パンデミック』は引き起こされた訳です。先程も、マルク王が発言しましたが、このニルと呼ばれた人物は『ライアド教』の関係者です。それも、末端などといった存在ではなく、ある意味もっとも『ライアド教』の中心に近い人物。皆様はお聞き及びではないかもしれませんが、『血の盟約』と呼ばれる『至高神ハイドラス』直属の組織の一員です。」
「ち、ちょっと待ってくれ、アキトっ・・・!話が色々と複雑過ぎて、余は頭が混乱しておるぞ・・・。」
「そ、そもそも、『至高神ハイドラス』は、こう言っては何だが、その、架空の存在ではないのですか・・・?あ、いや、何を信じるかは人それぞれですから、それに対して何か言うつもりはないのですが・・・。」
僕の口から語られる情報に翻弄されて、マルク王は、早くもキャパシティオーバーとなっていた。
まぁ、これら一連の流れは、所謂この世界の一般常識を覆す事実が多数含まれているからなぁ~。
この世界に長く生きていればいるほど、それを受け入れる事は困難さを伴うだろう。
年齢的に年若く(っつか、今現在の僕と同い年)、良い意味で固定概念にまだまだ染まりきっていないティオネロ皇太子は、マルク王に成り代わって、そこに言及してきた。
まぁ、そう思うのは当然だよねぇ~。
僕も、もし向こうの世界で、所謂『神々』が実在すると仄めかされれば、とても信じられそうにないからなぁ~。
「ティオネロ皇太子殿下の御質問に答えますと、あえてハッキリと申し上げますが、実在します。もちろん、大半の人々には認識さえ出来ないほどの『高次の存在』ではあるのですがね・・・。それ故に、その『声』が聴こえる者は、信者からは崇め奉られ特別視され、『ライアド教』から距離を置いている者達からしたら眉唾な話となる。まぁ、それは宗教である以上、仕方のない側面もありますがね・・・。」
どよっ、とその場がざわめき立つ。
信心深い者達ならばともかく、政治的背景から『ライアド教』を利用していた『ロマリア王国』の大半の貴族にとっては、それは信じ難い事実であった事だろう。
『ライアド教』に傾倒していた者達にとっても、それはそれで信じ難い事であろうが・・・。
「とは言え、一言に『神々』、すなわち『高次の存在』だからと言って、必ずしも我々人類の味方とは限りません。『神々』の中には、自然災害を司る『神』もいますしね。『至高神ハイドラス』は、比較的人類に近い関係、人類に寄り添った関係にありますが、実はその裏にはとある“思惑”が隠されているのです。」
「“思惑”・・・?」
「簡単です。“贄”ですよ。具体的には、様々な者達の『信仰心』を集める事。それによって、『至高神ハイドラス』は、この世界の唯一無二の存在に成ろうとしているのです。」
どよっ、と、再びその場が騒然となる。
情報量が多くて混乱しているところ申し訳ないが、こちらとしては都合が良いので。このままのこちらのペースでやらせて貰いますよぉ~。
「もっとも、これに関しては私もとやかく言うつもりはありませんでした。『宗教』と言うのは、一種の『精神安定装置』であって、その中心に祭り上げられているのが『至高神ハイドラス』なだけですからね。ある種の『需要』と『供給』。それが信者達の心の拠り所であるなら、どんな『宗教』を信じようが、誰に傾倒しようが構わないのですよ。真っ当に誰にも迷惑を掛けなければ、ですがね?」
「あっ・・・、もしやっ・・・!?」
「そう、お気付きの通り、実際の『ライアド教』、とひとくくりにするのは失礼かもしれませんので、ここではあえて『ハイドラス派』としますが、は、実は詐欺の様な『マッチポンプ』を繰り返していたのですよ。今見て貰った記憶映像も、私達の妨害がなければ、この『失われし神器』を用いて何処かで適当に“事件”をでっち上げ、それを『ハイドラス派』自らが解決に導いた事でしょう。この様にして、非常に効率的に『ハイドラス派』は『信仰心』を集めていたのですよ。」
「そ、それだっ!お前達がどの様な経緯でその『ハイドラス派』の事実に至ったかは知らんが、お前達が余計な手出しをしなければ、旧・『ルダ村』の『パンデミック』も起こり得なかったのではないのかっ!?」
「「「「「た、確かにっ・・・。」」」」」
おやおや、自分の“思惑”通りにいかなかったら、今度は僕を排除しに掛かるとは・・・。
マイレンさんは、本当に分かりやすい人だなぁ~。
「それに関しては否定しませんが、状況はもっと悪化していた可能性もありますよ?自分達の力を誇示する訳ではありませんが、もし『ロマリア王国』の何処かで、私達の預かり知らぬところで、『パンデミック』が起こっていたとしたら?それが、もし貴方の『領地』で起こっていたとしたら?貴方は、今と同じセリフを吐けますか?“余計な手出しをするな”と。」
「っ!!!」
「「「「「っ!!!」」」」」
「今回の事にしてもそうです。本来ならば、どんな脅威が起ころうと、それは各々の持つ力で乗り越えなければならない事です。その為に、戦力を増強したり、兵士達の訓練を施したり、装備を整えたり、あるいは、事前に情報を収集したりする。そうして脅威の芽を事前に潰す事が、ある種究極の防衛ではないでしょうか?旧・『ルダ村』の『パンデミック』にしても、今回の『泥人形』騒動にしても、もし私達がいなかったら、あなた方がこの場にいなかった可能性すらある。だからこそ、そんな力を持つ私達を『ロマリア王国』に取り込もうとしたのでしょう?しかし、それが断られると、今度はその者達に対して、“お前らが余計な事をしたからこうなった”?ナンセンスですね。責任転嫁も甚だしい。貴方と今彼に便乗した者達は、御自身の“役割”をしっかり自覚出来ていないと見える。」
「さ、先程から黙って聞いていれば無礼なっ!我々が何者か分かっているのかっ!?」
「ただの『代表者』でしょう?なまじ『権限』を与えられているから勘違いしがちですが、『政治家』と言うのは、『国民』の為にある存在なのですよ?私の持論ではありますが、ある意味、あなた方は『ロマリア王国』で一番底辺の存在です。」
「・・・その言葉は、流石に聞き捨てならんぞ、アキト?」
「いえいえ、マルク王も気にされるポイントがずれていますよ?これは紛れもない事実です。例え話をしましょうか?あなた方は、『自然界』を見た事がありますか?」
挑発的な言葉に、この場の一部の貴族とマルク王はヒートアップしていた。
ダールトンさんとドロテオさんは、もはや生きた心地がしないだろうが、すんませんねぇ~。
まぁ、事のついでに『ロマリア王国』の為政者達に、少々強引ではあるが『意識改革』を促そうかと思いましてね?
このままでは、あまりに『ロマリア王国』の国民達が不憫でねぇ~。
「『自然界』がどうしたと言うのだっ!?」
「おやおや。ヒントを与えているのにお気付きではないとは・・・。良いですか?『自然界』、野生動物と言うのは、基本的に自身で全て解決するのです。食糧を確保するのも、寝床を用意するのも、外敵と戦うのも、子育てに関しても、全てです。まぁ、中には、高い社会性故に、人間と類似した現象、他者から様々な物を奪う者達もいますがね?古来の人々と言うのも、その点は近いところがありました。所謂『狩猟』によって生活基盤を持っていた時代ですね。部族、あるいは家族単位で団結して狩りをする。もちろん、そこには様々な役割分担があったのですが、ここでの立場の上下は、単純に“強い者”、“狩りの上手い者”がトップに立っていたのです。」
「「「「「・・・」」」」」
「ところが、『狩猟』から『農耕』へとシフトチェンジすると、様々な事に変化が見られました。安定して食糧を確保出来る事となった為、他の事に割く時間的余裕が生まれたのですね。もちろん、食糧の安定確保に伴い、人口も爆発的に増えました。それ故に、それを管理・運用する役割がより一層重要になったのです。これが、文化や文明、そして政治体制の始まりですね。」
「そんな事は常識であろうっ!それがどうしたと言うのだっ!?」
「そう常識です。なのに、高度な社会基盤や文明を持つに至り、人々はその常識すら忘れてしまった。先程も申し上げた通り、あなた方『政治家』と言うのは、この管理・運用する立場です。言うなれば、人々から預かった『財産』を、人々に成り代わって運用しているに過ぎません。ただの『代表者』と言ったのはその為です。しかし、それが何時しか、強大な『権限』を持つに至った。たかが、他人から『財産』を預かっているに過ぎない者達が、ですよ?」
「「「「「っ!!!」」」」」
「もちろん、これは集団生活をする上で必要な措置でした。人々から預かった『財産』を運用する事によって、インフラ整備を整えたり、外敵に備えた戦力を増強したり、そうやって、集団、組織、国として成り立っていったのですから。ところが、もちろん、あなた方『政治家』全員がそうだとは言いませんが、いつしかそれを自身の力であるかの様に錯覚し始める。先程も申し上げた通り、これはあなた方が国民から預かっている『財産』ですから、本来ならばあなた方が自由に出来るモノなど何一つないにも関わらず、です。仮に、この場でこの『権限』を剥奪されたら、生きていける者達は皆無でしょう。」
「そ、そんな事はっ・・・!」
「・・・ありませんか?貴方は農耕を出来ますか?貴方は狩りが出来ますか?戦う力は?他者に頭を下げて教えを乞う器量は?確かに、ある程度は『資産』や『魔法』の力はあるかもしれませんが、『資産』は使えば無くなりますし、『魔法』も使える事と使いこなせる事は全くの別問題です。それこそ、現在の生活水準を臨機応変に変えていかなければなりませんし、その場で求められるモノが常に変わっていきます。あなた方は、それに適応出来るでしょうか?“外の世界”は案外厳しい世界ですよ?」
「「「「っ・・・!」」」」」
「なればこそ、あなた方は自覚するべきだ。謙虚に誠実に居るべきです。あなた方は、国民に支えられているからこそ、その立場にあり、だからこそ、国民の為に尽くす義務があるのです。私がある意味で、あなた方を『ロマリア王国』でもっとも底辺の存在であると言ったのはこの為ですね。」
「「「「「「「「「・・・。」」」」」」」」」」
うん、別にここまで言うつもりは無かったのだが、何だか痛烈な批判になってしまったなぁ~。
まぁ、元々僕はその意味も分からずにふんぞり返っている方々が好きじゃないから、その気持ちが思わず出てしまったのかもしれない。
・・・まぁ、いいか。
「・・・失礼、話が少し逸れてしまいましたね。とまぁ、あなた方が国内で権力争いをしていた一方で、この世界やハレシオン大陸は、着実に“誰か”の侵略を受けていた訳ですよ。それが、目に見えないモノであったとしても、すでにその争いに巻き込まれていた訳ですね。では、あなた方の取り得る選択肢は何でしょうか?一つは、何も知らないフリをして、いつの間にか『ロンベリダム帝国』や『ハイドラス派』に支配されている道ですね。『ロマリア王国』の水面下で好き勝手にやっていた事実さえ目を瞑れば、それはそれで幸せかもしれません。『パンデミック』やフロレンツ候などの悪い貴族の方々を操っていたのは、実は『ハイドラス派』なんですけどね。何故そんな事をするのかは簡単で、人々の心理としては、国が安定していた場合、よほど信心深い者達でない限り『宗教』に傾倒する事はまずあり得ないからです。逆に言うと、人心が乱れている時こそ、人々は心の拠り所を求めてしまうのです。まぁ、それが悪いとは申しませんが、私は自分の人生を他人に譲り渡す事など、御免被りますけどね。」
「お前はっ・・・!」
「・・・はい?」
しばらく黙っていたマイレンさんは、絞り出す様に呟いた。
「お前はっ、いや、お前達はっ、それほどの力を持ちながら、我らを、いや、『ロマリア王国』の国民を見捨てようと言うのかっ!?」
何かと思えば、今度はこちらの良心に訴え掛ける手段に出てきたか・・・。
まぁ、普通ならば、そこは躊躇する場面なんだろうが・・・。
「はい、見捨てます。」
「なっ・・・!?」
「「「「「「「「「「っ!!!???」」」」」」」」」」
僕の予想外の躊躇ない返答に、マイレンさんを始め、その場の大半の皆さんが絶句した。
「いえ、より正確に言うならば、戦う気がない人の面倒まで見切れないのですよ。先程も申し上げた通り、そして当たり前の話として、生存する為には日々戦い続けなければならないのです。もちろん、個々に出来る事は違いますし、実際に何かと戦えとまでは申しませんが、そうした気概のない人々は、私は助けるつもりはありません。」
「「「「「「「「「「っ!!!」」」」」」」」」」
これが、よく陥る罠なのだ。
特に、過度な力を持った者、かつ比較的善性の者達がそうなる可能性がある。
僕自身、この世界に来て、想像以上に力を身に付けた時に陥ったのだが、その時はアルメリア様に諭されたが。
誰かを助けたいとか、守りたいと思う気持ちはとても尊いものだが、同時に傲慢でもある。
少し話は違うかもしれないが(それに僕自身には経験のない事だが)、親が子を思う気持ちに似ているかもしれない。
例えば、過保護な親ほど、子供に対して過度に干渉するモノだ。
痛い思いをさせたくない。
嫌な思いをさせたくない。
こうして、過度なバリアで子供を守ろうとするのである。
これ自体は、大なり小なり子を持つ親ならば、そうした思いがあるのは当然だと思う。
しかし、当たり前の話として、本当に子供を思うのならば、むしろ積極的に試練を課した方が良いのである。
何故ならば、こちらも当たり前の話として、親の方が子供より確実に早く亡くなるからだ(もちろん、病気や事故などの例外もあるが)。
で、あるならば、子供が一人で生きていける様にするのが、真の教育であり、親の務めと言うモノだろう。
もちろん、過剰に厳しくする必要はないが、人は、基本的に経験として学んでいくものであるから、どういう事をすれば自分が痛い思いをするのか、他人が痛い思いをするのか。
どういう事をすれば自分が嫌な思いをするのか、他人が嫌な思いをするのか。
そうした、事柄を経験(失敗も含めて)させるチャンスを与えるべきなのである。
確かに、僕は力を持っているし、『英雄』の称号や役割を持っている。
しかし、だからと言って、全てを守れるとは思っていないし、そこまで傲慢でもないつもりだ。
当たり前の話だが、最終的に自分を守れるのは自分だけなのだから。
実際、僕の仲間達や『リベラシオン同盟』の関係者にもそうしたスタンスを貫いている。
仲間達は自分達を守れる様に己を鍛えているし、例え戦闘が出来なくとも、組織として他勢力と渡り合える様に成長しつつある。
そうした気概を持つ者達には、僕も出来る限りの応援をするが、そうでなければ、僕はすでに見切りをつけると決めている。
それを僕は、『ロマリア王国』の上層部や国民にも、意識して貰いたいのである。
あなた方は、自分の未来を自分で切り開きますか?
はい ←
いいえ
誤字・脱字がありましたら、御指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非、よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々御一読頂けると幸いです。