アキトのフリーダムプレゼンテーション
続きです。
普段主に使用していたスマホがお亡くなりになり、パソコンでなんとか投稿しています。
いつもと環境が違いますので、何かあればそのせいだと思って下さい(笑)。
「・・・以上の事から、此度の貴殿らの活躍は誠に素晴らしい限りである。よって、『リベラシオン同盟』には褒賞として褒賞金と盾の授与、ならびに、此度の件で特に活躍を果たしたアキト・ストレリチア殿には、『騎士』の称号を与える事とする。」
荘厳な空間にて、その場を取り仕切るマルク王の近衛騎士団団長の声だけが朗々と鳴り響いた。
本来ならば、『ロマリア王国』の祭事等は、実質的に国のNo.2であるマルセルム公爵が取り仕切る事が通例となっていたが、今回の『リベラシオン同盟』、ならびにアキトの謁見では、出席者としてマルセルム公爵も、マルク王側の立場として参列している。
それ故、その代行をマルク王の信任の厚い近衛騎士団団長が務めているのであった。
その言葉を受けたアキトが、その場に集まった者達からの注目を集めながら、かすかに顔を上げ、そしてハッキリと宣言した。
「謹んでお断り申し上げます。」
「「「「「「「「「「・・・・・・・・・は?」」」」」」」」」」
アキトの予想外の言葉に、その場に集まった者達は、誰もがポカーンッと呆気に取られてしまった。
・・・残念ながら、アキトには世間一般の常識が一切通用しないのであるーーー。
◇◆◇
数日後、宮殿の謁見の間では、マルク王やティオネロ皇太子、マルセルム公爵やジュリアン侯爵、マイレン侯爵などと言った、『ロマリア王国』を代表するそうそうたる顔触れが一堂に会していた。
その対面には、ダールトン・トーラス、ドロテオ・マドリッド、そしてアキト・ストレリチアの三名の姿もあった。
ただし、『泥人形』騒動の折りに、実際に現場で活躍したアキトの仲間達の姿はなかった。
これは、大人数で押し掛けてはマズイと言う事情もあるのだが、アキトの仲間達が『他種族』である事も考慮しての事だった。
今現在では、表向きは『ロマリア王国』でも、『他種族』に対して表面的には友好的に接しているが、その根底には、根強い『差別意識』がまだまだ存在していたからである。
もっとも、アイシャ、ティーネ達、リサらの活躍を目の当たりにした民衆の間では、急速に『他種族』を受け入れる空気が流れていたが、『差別意識』と言うものは、そう簡単に無くなるものでもないのだ。
ここら辺は、長いスパンを掛けて是正していく部分であろう。
『イメージ戦略』や『リベラシオン同盟』が推進している『三国同盟』が形になれば、そう遠くない内に、『ロマリア王国』にも『他種族』がその辺を行き交う光景が現実のものとなるかもしれないが、今はお互いの事を考慮すれば、公の場に姿を現す段階ではないだろう。
場合によっては、お互い嫌な思いをするだけであるし。
まぁ、それはともかくとして。
「なぜ、こんな事に・・・。」
「まあまあ、ダールトンさん、いや、盟主殿。ここまで来たら腹をくくりましょうや。流石にマルク王の名で呼び出された以上、我々も無視する訳にもいかんでしょう?まぁ、この場に集まったそうそうたる顔触れに緊張する事は重々承知しておりますが・・・。」
「これからは、ダールトンさん達にはこの方々とも渡り合って貰わなければなりませんので、その為の予行練習だとでも考えて下さいよ。」
「簡単に言ってくれるね、アキトくんは・・・。」
「静粛にっ!これより、マルク王から御言葉を賜りますっ!」
ヒソヒソと会話するアキトらを、その場に集まった有力貴族らも遠巻きに見定めながらコソコソと会話を交わしていた。
しかし、マルセルム公爵の一言により、それらは瞬時に沈静化したのだった。
「うむ・・・。まずは、そなたらにわざわざ集まって貰った事に感謝を述べよう。それと、『ロマリア王国』の代表として、我がお膝元・ヘドスの住人を助け、我が軍団に助勢して貰った事にも、重ねて感謝を述べる。そなたらの活躍がなければ、『ロマリア王国』の被害は今よりも更に甚大なものとなっていたであろう。此度のそなたらの活躍、誠に大義であった。」
シンッと静まり返った謁見の間にて、マルク王のその言葉だけが静かに響き渡った。
これは、人によったら最大の賛辞であり、歓喜に震えたとしてもおかしくない言葉だろう。
実際、ダールトンとドロテオからしたら、マルク王は雲の上の人であり、その人からの言葉に、嬉しい気持ちも存在していた。
もっとも、緊張感の方が先に立ってしまっていたのはご愛嬌といったところだが。
「も、勿体無い御言葉。身に余る光栄でありますっ・・・。!」
カラカラになった喉から、何とか絞り出す様にダールトンはそう返答した。
ダールトンからしたら、元は『ルダ村』の村長から始まり、『ルダの街』の町長兼『リベラシオン同盟』の盟主(今は長男に家督を譲っているので、実質的には『リベラシオン同盟』の盟主の仕事に専念しているが)と、平民としてはありえない程の激動の人生を経て、今や『ロマリア王国』のトップから直接声を掛けられるに至っていた。
そのダールトンに、緊張するな、と言う方が土台無理な話であろう。
もっとも、そうした態度は、列席した者達からはある種好意的に受け取られていた。
緊張した面持ちも、その絞り出した様な返答も、マルク王や貴族らの威光に圧倒されての事だろう。
そう受け取ったからである。
ダールトンならば、御しやすい。
そうした、政治的な判断もあったのかもしれないーーー。
・・・
やれやれ、やはりダールトンさんにはこの役割は荷が重過ぎたかなぁ~?
いや、能力的にも人格的にも、ダールトンさんほどの逸材は中々いないのだが、彼は良い意味でも悪い意味でもこの世界、いや、『ロマリア王国』の典型的な住人だからである。
そこへ行くと、ある種“自由”の象徴でもある、元・冒険者であったドロテオさんの方が、場の空気に呑み込まれていない印象を受けた。
まぁ、そこら辺もどちらが良いとか優れてる、と言う訳ではないが。
それに、この二人が共に『リベラシオン同盟』にいるおかげで、ある種バランスが取れているところもあるしなぁ~。
ダールトンさんからしたら、その思惑や政治的背景は別としても、『ロマリア王国』のトップから直接声を掛けられる事は、名誉かつ光栄な事に他ならないだろう。
僕で言えば、向こうの世界の天皇陛下や総理大臣にお声を掛けられる様なモノだろう。
そんな方に、自分達の功績なんかを認められたら、それは天にも登る心地だろう。
だが、だからと言って、思考を停止して良いものでもない。
もっとも、『リベラシオン同盟』自体は、彼らの思惑に乗る事は吝かではないのでまだ良いが、僕個人としては、一国に縛られる訳にはいかんからなぁ~。
だから、僕としては、そんな事も想定して、すでに対策を打っていた。
故に、僕には微塵も迷いはなかった。
「・・・以上の事から、此度の貴殿らの活躍は誠に素晴らしい限りである。よって、『リベラシオン同盟』には褒賞として褒賞金と盾の授与、ならびに、此度の件で特に活躍を果たしたアキト・ストレリチア殿には、『騎士』の称号を与える事とする。」
「謹んでお断り申し上げます。」
「「「「「「「「「「・・・・・・・・・は?」」」」」」」」」」
いや、空気読めよと言われましても・・・。
「き、聞き間違えかな・・・?さ、差し支えなければ、アキト殿、何と答えたのかもう一度お聞かせ願えないだろうか・・・?」
いやぁ~、すんませんねぇ~、司会の人。
大役を任されているのに、失敗しましたでは心証が悪いだろうけど、これは向こう側のミスであるから、僕は言葉を覆すつもりはない。
・・・彼には後で、何か胃に良い物を贈っておこう。
「はい。ですから、謹んでお断り申し上げます、と申し上げました。」
ザワザワッ。
当然ながら、その場は混乱した様子でざわめき立っていた。
ダールトンさんは真っ青な顔をして、ドロテオさんも厳しい顔付きをしている。
お二方には、事前に僕の意向を知らせていたのだが、いざその場面になると、やはり不安なのだろうか?
ホンマ、すんません。
「皆の者、静粛にっ!・・・して、アキトよ。何故その様な結論に至ったのだ?」
「き、貴様っ!マルク王の顔に泥を塗るつもりかっ!」
マルク王の言葉と共に、何か知らんオッサンがわめいていた。
いや、知らんし。
「はい。そのお話は大変光栄で名誉な事ですが、私には荷が重過ぎると存じます。故に、大変恐縮ですが、お断りさせて頂く事としました。」
「ふむ・・・。」
「・・・と、言うのは表向きの理由です。本当は、そのお話が、私の意に沿わないからでもあります。」
「・・・何っ・・・?」
殊勝な言葉でお茶を濁す事も出来るが、相手からしたら、何としても僕に『爵位』を与えたい事だろう。
だから、その程度の理由では、何かと言い含めて、僕に『爵位』を押し付けようとするだろう。
おそらく、向こう側には、『リベラシオン同盟』と共に僕を国の一部に取り込みたい思惑があるからな。
故に、僕は空気を読めないと言われようと、完膚なきまでにハッキリしっかり断る事にした。
流されても、良い事は何もないからね。
場合によっては、お互い不幸になる可能性すらあるし。
ちなみに、この世界の『騎士』の称号と言うのは、軍人には軒並み与えられる称号でもある。
この世界の大半の軍人と言うのは、平民出身者が主だ。
(もっとも、管理職クラス以上になると、逆に貴族出身者ばかりであるが。)
しかし、治安維持や防衛の観点から、一定の権限を与えられるべき存在でもある。
平民が平民を取り締まったりする事は不可能ではないが、そこには確実に反発があるからな。
故に、国の権威の後ろ楯が必要となる。
かと言って、貴族側からしたら、大きな権限を与えられてしまうと、今度は自分達の不利益に繋がる。
将来的に、平民出身者に自分達の席を奪われないとも限らないからである。
そこで考案されたのが、公・候・伯・子・男の下位に当たる『騎士』の称号であった。
ここら辺は、向こうの世界とそう大差ないかもしれない。
もちろん、細かい違いは存在するのだが。
『騎士』とは準貴族であり、世襲権を持たない一代限りの称号である。
これによって、平民の上位に位置しながらも、権力的には貴族未満と何とも曖昧な存在になったのである。
もっとも、平民の出世コースとしては、『騎士』は実質的に最高位であり、『騎士』に憧れる男性も多い。
場合によっては、貴族の子女に気に入られ、婿養子として貴族入りする者も存在する。
まぁ、そこら辺のハードルはやはりかなり高いがね。
更にちなみに、『騎士』の中でも、上位の者ともなると、貴族や王からも一目置かれる者もいる。
こちらもハードルは高いが、華々しい功績を挙げれば、『騎士』から貴族になる者もゼロではなかったりする。
ここら辺も、『騎士』が、特に平民男性から人気の高い理由でもあった。
んで、僕の場合はと言うと、僕は軍人ではないが、僕の功績的にも僕を縛る上でも、何とか『爵位』を与えられないかと向こう側は苦心したんだろう。
とは言え、いきなり貴族入りをしてしまえば貴族達の反発を免れない訳で、故に平民に与えられる最高位の称号を与える事でとりあえず決着したのだろう。
行く行くは、貴族と言う“餌”をちらつかせて、僕を『ロマリア王国』の内部に取り込みたい思惑があるんだろうけど・・・。
「まず、前提条件として、これは『契約』や『人事』の話です。先程そちらの方が、マルク王の顔に泥を云々と仰いましたが、それならば、この場に至る前に事前に私に話を通しておくべき事でしょう。『騎士』の称号を受け入れると言う事は、私が正式に『ロマリア王国』に仕える事を意味します。それとも、この称号は、所謂『名誉称号』に当たるのでしょうか?ならば、これは私の早合点ですから、訂正し謝罪致しますが・・・?」
「ああ、いや、そういう訳ではないが・・・。」
この称号の授与が、何の効力もない『名誉称号』であれば、受け入れる事も吝かではない。
しかし、それを認めてしまえば、向こう側としては僕を取り込む事が不可能となってしまうので、マルク王も言葉を濁した。
「でしたら、当然受ける受けないは私の自由だと考えますが?」
「な、大変名誉ある事なのだぞっ!しかも、権限まで与えられると言うのにっ・・・!」
「当然、私としても大変光栄ではありますが、それとこれとは話が別です。私は、残念ながら『ロマリア王国』に仕えるつもりはありませんので。」
キッパリと言い放つ僕。
これには、この場の皆さんは困惑していた。
まぁ、向こう側としては、称号の授与を断られるなんて思っていなかったのだろう。
それも分かる。
しかし、何に価値を感じるかはその人個人によって違う。
残念ながら、僕は貴族になる事も(まぁ、この場合は準貴族だが)、権力を持つ事も特段興味はないのだ。
「な、何と無礼なっ!ええい、コヤツをたたっ斬れっ!」
「いやいや、これは穏やかではありませんね。段取りをミスったのはそちら側でしょう?相手にも都合があるのですから、全てこちらのせいにしないで頂きたい。そもそも、事前に調整しておけば、この場で揉める事もなかったのです。王の顔に泥を塗る事も、ね。まぁ、もっとも、この場で発表する事で、なし崩し的に受け入れさせる予定だったのでしょうが・・・。」
「よさんか、マイレン卿っ!・・・アキトも、わざと挑発するのは止めてもらえまいか?」
おや、やはり分かっていたか。
人間、予定を狂わされるとイライラするモノだからな。
それによって、この一連の流れを画策した者達を浮き彫りにしようとした狙いもあったのだが、まぁ、事前調査の通りか。
「おや、気付かれてしまいましたか。これは失礼しました。」
「も、申し訳ございませんっ!」
しれっと僕は矛を収める。
マイレンと呼ばれたオッサンも、ぐぎぎっと僕を睨み付けながら、マルク王に謝罪の言葉を口にした。
「うむ・・・。では、改めて問うが、『リベラシオン同盟』の褒賞の件と、アキトの称号の件はこれを断る事で良いのだな?」
「いえ、私に対する称号の件はそれで結構ですが、『リベラシオン同盟』への褒賞はそちらとお話下さい。厳密には、私はすでに『リベラシオン同盟』の人間ではありませんので・・・。」
「なに・・・?」
「お聞き及びかは存じませんが、確かに『リベラシオン同盟』はこちらにいるダールトンとドロテオ、そして私が立ち上げた組織ですが、私はすでに独立し、籍を抜いております。故に、『リベラシオン同盟』に関しては、盟主であるダールトンとお話されるべき事でしょう。」
「その様な報告は受けておらんが?それに、お主は『リベラシオン同盟』によく出入りしているそうではないか。」
「宮殿にも常時お勤めの方達の他にも、出入り業者はいるかと思われます。例えば、商人さんとか職人さんですね。ある意味関係者ではあるかもしれませんが、別にその方達を直接お雇いになっている訳ではありませんでしょう?仕事上の相手。その様なモノとお考え下さい。今の私は、いち『冒険者』です。ですから、私の無礼に対して『リベラシオン同盟』をやり玉に挙げるのは御門違いです。先程の例でいくと、出入り業者が問題を起こしたとしても、それを使用していただけの宮殿、すなわち王に責任が行くのと同じ事ですよ?それとも、王は自分と関係のない事例にまで責任を取られる素晴らしい博愛の精神をお持ちで?」
「い、いや、流石にそれはないが・・・。」
軽く牽制を仕掛けると、マルク王はそう言葉を濁した。
それはそうだろう。
自分の部下がやらかした事ならば、責任者であるマルク王にも責任が及ぶ可能性もあるが、出入り業者がやらかした事までは責任を負えないだろう。
ここは、しっかりと言質を取っておこう。
「でしょう?さて、ではそもそも『リベラシオン同盟』とは何なのか、僕の役割とは何なのかを御説明しましょう。そこがクリアになっていないと、皆様も色々と納得がいかないでしょうからね。では、『リベラシオン同盟』創設の経緯から・・・。」
そのまま僕は、マルク王を始めとした御歴々の方々に、“プレゼンテーション”を開始した。
空気を読めないと言われようと、場違いだと言われようと、僕は止めるつもりはない。
場が混乱している内に、こちらにとって有利な条件を提示する。
これは、一種の『心理戦』・『情報戦』なのだから。
「そもそも今現在の『リベラシオン同盟』と、設立当初の『リベラシオン同盟』では、その趣旨が異なります。設立当初の『リベラシオン同盟』の目的は、私がとあるスジから依頼された『ロマリア王国』に存在していた『奴隷』達を解放する事でした。皆様も御承知の通り、当時も『奴隷』は公式的には違法でしたが、実際には裏で存在していたのですよ。まぁ、これに関してはフロレンツ候を始めとした悪い貴族の皆さんの関与が原因でしたけどね。もっとも、彼らはすでに裁かれている訳ですが・・・。」
「ちょ、ちょっと待てっ!さも当たり前の様に言っているが、何故何の権限も持たないお前達がそんな事をする権利があるのだっ!そのとあるスジが何処かはおおよそ想像がつくが、ならばそれは正式に『ロマリア王国』に交渉すべき事だろうっ!?」
おや、何とか気持ちを落ち着かせたマイレンと呼ばれたオッサンが復活した様だ。
僕の“プレゼンテーション”に噛み付いてきた。
「そんな事出来る訳ないじゃないてすか。当時の『ロマリア王国』の中央政権は、『権力争い』の真っ直中でしたからね。しかも、『貴族派閥』側が優勢だった。公式に交渉したとしても、軽く無視される事が簡単に予測がつきます。更には、そこで僕らが動かないと言う選択肢もありえませんでした。こう言ってはなんですが、交渉が上手くいかなかった場合、『戦争』すら起こっていた可能性もあるのです。まぁ、その結果はおそらく『ロマリア王国』が勝つ事は予測出来ましたが、まず間違いなく国力は低下して、場合によっては『ロマリア王国』は他国に吸収された可能性すらあった。『ロマリア王国』が無くなる事は、私としても都合が悪かったのもありますが、そうした意味では我々は『ロマリア王国』の危機をすでに一度救っていたのですよ?」
「「「「「「「「「「っ!!!」」」」」」」」」」
その事実に、皆さん目を見開いて驚いていた。
それはそうだろう。
もし、僕らが『リベラシオン同盟』を創設し、非合法ながらも『エルフ族』の『奴隷』を解放していなければ、最終的には彼らの立場は無かったのだから。
『ロマリア王国』が無くなれば、貴族とは言え、ただの人。
吸収された先で、都合良く似た様な立場になれる筈もないのだから。
「そ、それはただの机上の空論だろうっ!?」
「まぁ、そう言われてしまえばそうですが、世の中は相互関係によって成り立っていますので、そうなった可能性は十分にありえますよ?自分達がその立場にある事を、当たり前だとは思わない方がよろしいかと存じます。」
「っ!!!」
「それに、所謂“グレーゾーン”をお咎めになられるのならば、ここにいる大半の方々もお裁きになる必要があります。政界に生きる者ならば、世の中綺麗事だけではない事はご理解頂けてると思いますが、一応御忠告までに。」
「「「「「「「「「「っ!!!」」」」」」」」」」
こっちも、ただでやられるつもりはないので、暗に牽制しておく。
あんまり相手を見くびらない方が良いですよぉ~?
「さて、では話を続けますが、それには今回の件の裏にあった事もお話しなければなりませんね。そうやって、徐々に解放が進み、影ながら『ロマリア王国』の膿を排除していった訳ですが、これはとある国に対抗する為の布石でもありました。その国が何処かなどは皆様には言わずともお分かりかもしれませんが、近年着実に勢力を拡大していた『ロンベリダム帝国』ですね。もっとも、私達の狙いはその“裏”。『ライアド教』、もっと言えば『ハイドラス派』の勢いを削ぐ事でしたが。」
「『ロンベリダム帝国』だとっ!?」
「それに『ライアド教』・『ハイドラス派』だとっ!!??」
「アキト。そなたは我々を大きな争いに巻き込むつもりかっ!?」
「間違っていますよ、マルク王?すでに巻き込まれているのです。しかも、もちろんそれは私が画策した事ではありません。皆様は、旧・『ルダ村』で起こった未曾有の『パンデミック』は覚えておいででしょうか?」
『ロマリア王国』をハレシオン大陸の二大勢力との争いに巻き込むつもりか、と激昂したマルク王を軽く宥めて、僕は話を続ける。
「・・・もちろん覚えておるとも。千とも万とも言われる『モンスター』の大軍が押し寄せてくる事など、我が国の記録にもない事態だったからな。・・・そういえば、その時に活躍した『ルダ村の英雄』の噂を聞いた事があったが・・・。」
「あ、それは僭越ながら私の事です。もちろん、ダールトンやドロテオを始めとした、様々な人々の力を結集した結果ですが・・・。」
「御託や自慢話は良いっ!それが何だと言うのだっ!!!」
「おや、これは失礼。では、この事実は御存知で?一応、こちらとしても世間の皆様が混乱しない様にと配慮した結果伏せていたのですが、それは人為的に起こされた事件であったと。そして、それは『ライアド教』の者の手によって引き起こされた事であると。」
「な、なん・・・だとっ・・・!!!???」
うん、まぁ、知らないよねぇ~。
マルク王を始めとした御歴々の戸惑いの表情を眺めながら、僕は思わぬ形で『リベラシオン同盟』や『ノヴェール家』のセキュリティの高さを実感してしまった。
「な、何をデタラメをっ!し、証拠はあるのかっ!?」
うん、何かやたらとこのマイレンのオッサンは僕に突っかかってくるな。
まぁ、彼の思惑を事前に潰してしまった訳だから、気持ちは分からなくはないけど。
しかし、証拠。
証拠、ねぇ~。
下手人であるニルは取り逃がしているし、その『パンデミック』を引き起こした『失われし神器』・『召喚者の軍勢』も同様だ。
故に、唯一の証拠と言えば、僕らの目撃証言だけである。
まぁ、ダールトンさんやドロテオさん、それに『ノヴェール家』の方々は、その後の状況から、僕らの話が事実であると確信するに至っているが、それが皆さんにも通用するかはかなり微妙だなぁ~。
ちょい、裏テク使いますかね・・・。
「どうしたっ!?やはり、証拠など何もないのだろうっ!?マルク王!この者は、『ロマリア王国』を唆し、『ロンベリダム帝国』との関係ばかりか、『ライアド教』との関係すら悪化させようと企んでおるのですよっ!」
「う、うぅむ・・・。」
「早合点は止めて貰えませんか?証拠ならありますよ、ここにね。」
僕は、懐からとある『魔道具』を取り出すのだったーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非、よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々御一読頂けると幸いです。