レポート 1
続きです。
9万PV感謝!
今後ともよろしくお願いいたします。
後、作中に某方言っぽいモノを使うキャラが出てきますが、なんちゃって方言なので、生暖かい目で見て頂けると幸いです(言い訳)。
一応、そうしている理由も存在しますので・・・。
◇◆◇
「おおっ・・・!!!」
「き、奇跡だっ・・・!!!」
「化け物共が浄化されていくっ・・・!?」
「ありがたや、ありがたや・・・!!!」
『宮殿』の広場に避難していたヘドスの住人達は、目の前で起こった光景を目撃し、口々にそう呟いていた。
ティオネロもその意見には賛成だった。
突如として現れた『ルダ村の英雄』が発生させた謎の眩くも柔らかく心地よい光に包まれたと思ったら、あれほど大量に存在していた『泥人形』達が、一瞬にしてかき消えてしまったのだから。
どういう『原理』でそうなったのか、はたまた『ルダ村の英雄』が何をしたのかまでは分からなかっただろうが、人々は直感的に、この奇跡は突如として現れた『ルダ村の英雄』が引き起こした事だと、何となく理解していた。
先程までは暴動寸前まで追い詰められていた住人達の精神状況も、その光を受けてすっかり落ち着きを取り戻しており、心穏やかな表情で、中には『神』でも崇める様に、『ルダ村の英雄』に対して祈りを捧げる者、手を合わせて拝む者などがチラホラと目に付いていた。
ティオネロもしばらくアキトの動向をボーッと眺めていたのだが、ハッと自身の立場を思い出していた。
何が起こったのかの詳細を確認し、安全確保・確認しなければならないのだ。
そうしなければ、避難させていた住人達に対して状況を説明する事も、家に帰す事もままならない。
今や、地上へと消え去った『ルダ村の英雄』は、先程自ら『リベラシオン同盟』を名乗っていた。
まずは『リベラシオン同盟』へ問い合わせて、状況の説明を求めるべく、ティオネロは急いで踵を返すのだったーーー。
・・・
「あいかわらずやなぁ~、主さんはっ・・・。あっという間に問題を解決しちまったよ・・・。俺らのこれまでの苦労は何だったんだろうか・・・?」
颯爽とアキトが現れ、アッサリと『泥人形』を消し去った事で、若干の疲労感もあいまってそう脱力気味にユストゥスは愚痴を溢していた。
ユストゥスの心情を代弁するなら、“もう全部主さん一人でいいんじゃないかな?”、ってところだろう。
もちろん、そんな事はないのだが。
「まぁ、気持ちは分かるけど、そう言うなって。問題が早期に解決するのは良い事だろう?」
「そうそう。とりあえず僕らとしては、『十賢者』様や『トロニア共和国』の使者の方々に被害が出なくて良かったと考えようよ。」
そのユストゥスの力ない言葉に、心情としては分かるジークとハンスも、苦笑しながらそう慰めるのだった。
「けれど、それでも大分被害が出てしまいましたね・・・。」
「メルヒー。それはワタシタチがきにやむひつようはないよー?じぶんのみはじぶんでまもる。これは、しぜんのせつり、だいちのおきてだからねー。」
とは言え、それなりに甚大な被害を被った街並みを眺めながら、メルヒはそう悔しそうに呟くが、それを少しおねーさんのイーナがそう諭した。
冷たい様だが、それがその人の運命なんだと割り切る必要がある。
当たり前だが、流石のメルヒ達とて、全ての人々を救える訳じゃないし、この騒動は人為的に起こされた事ではあったとは言え、自然災害などにおいても、最終的な生き残るチャンスと言うのは、各々の判断に委ねられたモノなのだ。
一瞬の判断が生死を分ける事は実は良くある訳で、その『選択肢』に失敗したからと言って、誰かが都合良く助けてくれる、なんて事は極々稀である。
故に、人々は常に自分や家族を守れる行動を心掛けるべきだし、その判断は他人に委ねていいものでもないのだ。
それは、己自身の自己責任であり、同時に生存する権利でもあるのである。
当たり前だが、生きる事とは、誰かに与えられるモノではなく、自身で勝ち取るモノなのだから。
故に、それはメルヒ達が責任を追うべき事でも、感じるべき事でもないのである。
「・・・イーナの言う通りだね。何が悪かったかを反省するのももちろん大事だけど、やって良かったと思える事を積み重ねた方が精神衛生上健全だよ。・・・よっ、と。皆、お疲れ様~!」
その話が聞こえていたのか、ヘドス上空からユストゥス達を発見したアキトは、そう言いながら地上に舞い降りたのだった。
「あ、主様っ!」
「おー、おかえりなさーい。」
「ユストゥスも、そういじけるな。お前達の力なくしては、そもそも守るべき『王都』が、僕が辿り着く前になくなっていた可能性もあるんだからさ。」
「・・・う~すっ・・・。」
「主様、ユストゥスはもっと主様のお力になれなかった事を悔しがっているだけですから、どうかお気になさらずに。」
「まぁ、自分の手に追えないと判断したからこそ、すぐに主様に応援を要請した訳ですが・・・。」
「そういった意味では、ユストゥスも大人になりましたね。」
「そのキタイどおりー、あるじさまがアッサリモンダイをカイケツしたから、ウレシイようなー、ナサケナイようなー、そんなかんじになってるだけだもんねー。」
「ちょ、う、うっせーよ、お前らっ!」
「あっ、アキトぉ~!」「主様っ!」「ダーリンっ!」「オ父様ッ!」
バツの悪そうな表情を浮かべるユストゥスに、ジーク達がそうフォローしつつからかう。
少し暗くなっていた雰囲気を、そうやって払拭し、いつもの調子に戻っていたところで、少し離れていたアイシャ達も合流した。
「アイシャさん達も御苦労様。お陰で、大分被害も抑えられたと思うよ。」
アキトにそう言葉を掛けられると、アイシャ達は三者三様に照れた表情を浮かべていた。
エイルは、表情を変える機能が備わっていないので、あいかわらず無表情だったが。
「さて、『泥人形』達の発生は阻止出来た訳だけど、まだまだ事態は落ち着いていないからね。僕は、一旦ダールトンさん達に状況を説明して、『リベラシオン同盟』を介して各方面に情報を流して貰うから、悪いが皆はこのまま生存者の確認に協力してやってくれ。ああ、それとエイルは確認したい事があるので、僕に付いてきてくれ。ついでに、ダールトンさん達にも紹介しておきたいしね。っつか、ユストゥス達とは顔合わせは済んだのか?」
「うん、一応ね。あまり時間的余裕もなかったから、簡単になっちゃったけど。」
今後の活動を指示しながら、ふと疑問に思った事をアキトが確認した。
それに対して、エイルではなく、アイシャがそう応える。
「そう。ま、この状況ならそれも仕方ないね。また、改めて顔合わせをする機会を設けるから、その時に改めて紹介するよ。んじゃ、今言った通りに皆は動いてくれ。」
「りょ~か~い。」
「ほーい。」
「「「「「「はっ!」」」」」」
アキトがそう締め括ると、アイシャ、リサ、ティーネ達はそう返事を返した。
それにアキトは満足そうに頷き、エイルに目を向ける。
「じゃ、行くぞ、エイル。」
「了解シマシタ、オ父様。」
◇◆◇
『王都』・ヘドスの中心地には、『ロマリア王家』の住まいであり、また政治・経済・軍事などに関わる最重要拠点である『宮殿』があり、それを取り囲む様に、所謂高級住宅街であるところの『貴族街』が存在していた。
ここには、『領地』持ちの『大貴族』の『王都』での別宅や、『領地』を持たないものの『爵位』を持ち『王家』に仕える、半ば官僚化した『宮廷貴族』達の邸宅が数多く存在した。
その中の一角、やや『貴族街』の外れに当たる場所に、『リベラシオン同盟』の拠点はあった。
『リベラシオン同盟』は、今や『ノヴェール家』だけでなく、数多くの『貴族』達も出資する大きな『組織』となっており、特にティーネ達を介した『エルフ族の国』や『トロニア共和国』との外交的な窓口として、その存在感を大きくしていた。
そして、今現在では、『リベラシオン同盟』の拠点であると同時に、まだ正式には国交の回復していない『エルフ族の国』や『トロニア共和国』の、非公式ながら簡易的な『大使館』としての役割も担っていた。
そこには、『リベラシオン同盟』の盟主のダールトン・トーラスと戦術顧問のドロテオ・マドリッド、外部理事であるジュリアン・フォン・ノヴェールの姿があった。
「ふむ・・・。どうやら我らが『英雄』が帰還した様ですね・・・。」
「もう俺ぁ、アイツが何しても驚かねぇーですよ・・・。」
「ハハハハハッ。まぁ、お気持ちは分かりますよ、ドロテオ殿。」
アキトとすでに面識があり、その数々の非常識っぷりに慣れている(毒されている?)ダールトンとドロテオ、ジュリアンは、その奇跡の光景を眺めながらも、そうノンキな会話を繰り広げていた。
だが、生憎この場には、まだアキトの非常識っぷりに耐性のない人物も居合わせていた。
「あ、あれが、ティーネの主様にして、ナートゥーラ様の予言した『英雄』殿の力なのかっ!何と神々しいお姿かっ・・・!!!」
何処かティーネを彷彿とさせる銀髪をたたえた、老戦士の風格を持つ初老の男性がそう呟いた。
彼は、ティーネの祖父にして、『エルフ族の国』の『十賢者』の一人であるグレンフォード・ナート・ブーケネイアその人であった。
『リベラシオン同盟』の活躍の末、『ロマリア王国』の『エルフ族解放』も落ち着きを見せ、その賠償を含めた本格的な外交交渉をするべく、『エルフ族の国』があるエルギア列島より『ロマリア王国』を訪れていたのであった。
もちろん、その傍らには『エルフ族の国』の『外交使節団』も同行している。
それと、もう一人。
「な、なんやなんや、あのけったいな『光』はっ!?はぁっ!!??あんなにぎょーさんおった『泥人形』が消しとんどるやないのっ!!!一体、何がおこったっちゅーねんっ???」
似非関西弁を話す妙齢の美女。
その容姿は何処か狐を彷彿とさせる、と言うか、実際にその頭にはケモ耳を携え、そのお尻にはソワソワと忙しなく動く本物の尻尾が備えられていた。
彼女は、『トロニア共和国』からの使者にして、『獣人族』(その中でも『妖狐族』と呼ばれる種族)のヴィーシャ・フックス。
こちらも、『ロマリア王国』と『トロニア共和国』との国交回復の為に、たまたま『ロマリア王国』を訪れていたのであった。
もちろん、グレン同様、ヴィーシャにも付き従う『外交使節団』がいたが、こちらは『トロニア共和国』の国色を反映してか、多種多様な種族で構成されていた。
「ああ、御心配には及びません、グレン様、ヴィーシャ様。あれは我が『リベラシオン同盟』のアキト・ストレリチアが引き起こした現象ですから。これで、今回の騒動も一先ず収束に向かう事でしょう。」
「大事な御客様であるあなた方に何事もなく済んでホッとしておりますよ。あなた方に何かあれば、『ロマリア王国』の名誉のみならず、外交上の大きな失点に成りかねませんでしたからね。」
そのダールトンとジュリアンの言葉に、ある程度事情を理解していたグレンとヴィーシャは、少し落ち着きを取り戻していた。
「やはり、『英雄』殿でしたか・・・。」
「ほぉ~、アレがメルヒはんやイーナはんが言っとった『ルダ村の英雄』はんかいな・・・。実際に見ると、とんでもない存在やなぁ~。」
グレンは、解放した『エルフ族』を介してティーネ達からの情報を得ていたが、ヴィーシャも、『エルフ族』以外の解放した『他種族』を受け入れる過程で、一時的に出張していた事もあるメルヒとイーナと面識があり、彼女達を介して色々と伝え聞いていたのである。
もちろん、各々独自の秘密の『情報源』も持ってはいるのだが・・・。
「しっかし、収束したわええけど、ナニモンが絡んでおったんかねぇ~?『泥人形』なんつー、失伝しつつある技術を持ち出した以上、タダモンではない事は明らかやろうけど・・・。あ、どうもおおきに。」
ヴィーシャは、自身の動揺を落ち着ける為に一旦席に腰を落ち着けると、侍女さんが用意したお茶をすすりながら、そう疑問を投げ掛けていた。
それに同調したグレンも、円卓の一席に腰掛け相槌を打った。
「うむ、すまんな。・・・しかし、存外特定は難しくないのではないだろうか?失伝しつつある『魔法技術』を用いた以上、『魔法技術先進国』である何処か、と言う可能性が高くなろう?」
「・・・まぁ、十中八九『ロンベリダム帝国』、やろうなぁ~。・・・しかし・・・、」
「・・・証拠がない、ですよね?」
「「っ!!!???」」
そこに、『泥人形』騒動をとりあえず片付けたアキトがエイルを伴って入室してくる。
今現在では、アキト達は『リベラシオン同盟』の中でも独立した存在とは言え、アキトが『リベラシオン同盟』にとって重要な人物である事には変わりない。
それ故、他国の重鎮が訪問中とは言え、アッサリと顔パスでこの場に来る事が出来たのであった。
「失礼。要らぬ横やりを入れてしまった様ですね。」
「あ、いや、それはええんやけど・・・。」
「も、もしや、貴方様が・・・!」
「やあ、アキトくん。お疲れ様。」
「おう、アキト。見事だったぜっ!!・・・ところで、そっちの娘は、新しいコレかい?」
「いやいや、ドロテオ殿。そんな訳がないじゃないですか?大方、アキト殿の新たなお仲間でしょう。」
「ただいま報告の為に戻りました、ダールトンさん、ドロテオさん、ジュリアンさん。そちらのお二方は、前に聞いていた『トロニア共和国』と『エルフ族の国』の使者の方々ですね?はじめまして。アキト・ストレリチアと申します。」
・・・
「あ、あんたはんが『ルダ村の英雄』はんでっかぁ~。えろう、なんと言うか、別嬪さんやなぁ~。」///
「は、はぁ・・・?」
『泥人形』騒動を一応収束させた僕は、エイルを伴って『王都』・ヘドスにある『リベラシオン同盟』の拠点を訪れていた。
いや、今後の事や立地的な事を鑑みると、現在ではここが『本部』と言っても差し支えないだろう。
目的は、ここにいるだろうダールトンさんらに『泥人形』騒動の件を報告し、それを各方面に知らせて貰う為である。
いくらか緊急的案件とは言え、僕がいきなり『宮殿』に突っ込んで事情を説明する訳にはいかないからね。
下手すれば、不審人物として拘束されちゃうだろうし。
ま、先程は子供(幼女)が絡んでいたからアレだったけど・・・。
それはともかく。
しかし、そこにはダールトンさん、ドロテオさん、ジュリアンさんの他に、二人の人物の顔もあった。
もっとも、僕らは『通信石』による“定例報告”によって、ある程度の情報共有をしている。
その中に、近々公式に『ロマリア王国』、『トロニア共和国』、『エルフ族の国』の国交正常化に関する協議が予定されていた事を僕はすぐに思い出していた。
その事から、おそらく、このお二人は『トロニア共和国』と『エルフ族の国』の使者だろうと当たりを付けたのだが・・・。
その予測と共に自分の自己紹介をすると、返ってきたのは先程の言葉であった。
いや、別嬪さんってなんやねんっ!?
わしゃ男じゃい!
それとも、長い髪もあいまって、『他種族』の方には女性に見える事もあるのだろうか・・・?
などと、割としょーもない事で思い悩みながら、そう発言したケモ耳の女性を改めて観察した。
見た目的には、20代前半と言ったところか。
怪しげな口調とは裏腹に、中々侮れない出来そうな雰囲気を漂わせている美女であった。
・・・うん、タイトスカートがよく似合いそうだね!(゜∇^d)
「な、なんやのん、おにーさん。ウチの事ジロジロ見たりして・・・。まさか、ウチに惚れたんやないやろなぁ~?」
うん、いや、確かに美人さんだし、もろタイプなんだけどね・・・?
ケモ耳・尻尾付きの風変わりだけど知的な美女と出会えるとか、僕は『前世』でどんな『徳』を積んだのだろうか?
いや、僕は『前世』の事は覚えてるのだが・・・。
「あっ、これは失礼しました。『獣人族』の方を間近に見たのは初めてだったものですから・・・。御不快な思いをさせてしまったのなら謝ります。」
などとくだらない事を考えながらも、初対面の女性相手にマジマジと眺めてしまった事を僕は元・社会人として謝った。
その言葉に、ケモ耳女性は、ピクッとかすかに耳を動かした。
「なんやぁ~。けったいな生きモン見てビックリしとっただけかいなぁ~。」
「・・・???何の話でしょうか?綺麗な毛並みだなぁ~、とは思いましたが・・・。」
「・・・・・・・・・はっ???」
「フム。オ父様、ソノ発言ハ“セクハラ”ニナリマスヨ?」(忠告)
「あっ、そうなのっ!?失礼しました。そう言った意図はなかったんですが・・・。」
「イエ、知リマセンケド・・・。オ父様ハ“ケモ耳”萌エ、ト・・・。」(メモメモ)
「いや、知らんのかいっ!っつか、突然何の話してんの、エイルっ!?」
ずっと静かに黙っていたと思ったら、エイルがそんな事をのたまった。
誤解、と言いたいところだが、残念ながらエイルは僕と“リンク”で繋がっている。
それ故、ある程度は僕の趣味嗜好は分かってしまうのだった。
いや、だって、『オタク』だったら、ケモ耳美少女・美女に憧れるモンじゃん!?(極論)
え、ケモ耳男子はどうかって?
はて、知らない子ですねぇ~?
などと、更にくだらない事を考えながら、僕はその若干微妙になってしまった空気を払拭すべく(誤魔化すべく?)、話を進める事とした。
「コホンッ!そ、それで、ダールトンさん。こちらの方々はっ・・・?」
「あ、ああ。お二方共、アキトくんの予測通り『エルフ族の国』と『トロニア共和国』の使者の方々だよ。こちらの『エルフ族』の男性が、ティーネさんのお祖父様で、『エルフ族の国』の『十賢者』のお一人であるグレンフォード・ナート・ブーケネイア様。『エルフ族の国』の代表者として、今回、協議の為に『ロマリア王国』を訪問されている。」
「ああ、貴方がティーネ、失礼、エルネスティーネさんのお祖父様でしたかっ!お噂はかねがね伺っておりました。改めまして、アキト・ストレリチアです。」
「グレンフォード・ナート・ブーケネイアです。グレンで結構。私も、貴方様のお噂はティーネやイーナ達から聞いておりました。ですが、実際にお会いして感じましたが、どうやらお噂以上の御仁の様だ。今後共、ティーネ達をよろしくお願いいたします。」
「いえいえ、こちらこそ、エルネスティーネさん達にはいつもお世話になりっぱなしでして・・・。」
そうダールトンさんに紹介されながら、僕とグレンさんはお互い深々とおじきをする。
う~ん。
やはり、『エルフ族』は長命で美男・美女揃いの『種族』なのだと改めて思い知らされる。
グレンさんも、実年齢は100歳近いティーネのお祖父様だと言うのに、見た目的にはまだまだ50代そこそこのナイスミドルであった。
更に容姿だけでなく、老戦士の風格を漂わせつつ、知的な雰囲気も併せ持った人物だった。
カッコいいオジサマとか、憧れちゃうなぁ~。
「お話し中に申し訳ないが、こちらの方をご紹介しても?」
「ああっ!」
「これは失礼した。」
共通の知り合いがいる事もあって、軽く世間話に花が咲きそうになっていたタイミングで、ダールトンさんがそれを遮った。
もうお一人の女性を、軽く蚊帳の外にしてしまったのだから、これは叱られても仕方がない。
何処かソワソワとした様子の『獣人族』の女性を見やりながら、軽く僕は罪悪感を覚えていた。
気を取り直して、ダールトンさんに、改めてご紹介を再開する様目線で促した。
「こちらの『獣人族』の女性が、ヴィーシャ・フックス様。『トロニア共和国』の『使節団』の代表を務めておいでだよ。」
「ヴィーシャ・フックスですぅ~。ヴィーシャで結構ですわぁ~。なかようしたって下さいなぁ~。よろしゅう。」
「改めてまして、アキト・ストレリチアです。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
ダールトンさんに紹介されると、パァッと明るい表情になり、ニコニコと僕と握手を交わすヴィーシャさん。
若干顔が赤いが、緊張でもしてるんだろうか?
そんな感じにも見えないが・・・。
「・・・流石ノ“天然ジゴロ”、デスネ、オ父様・・・。(ボソッ)」(諦め)
「・・・ん?何か言ったかい、エイル?」
「イエ、何モ・・・。」(しれっ)
「???」
にこやかにヴィーシャさんととりとめのない雑談を交わしていると、エイルがボソッと何事か呟いた。
僕は、生憎“某難聴系主人公”ではないのだが、その言葉は流石に聞き取れなかった。
・・・なんじゃろか?
「さて、とりあえず顔合わせも済んだところで、アキトくんの報告を聞こうか。ああ、お二方も今回の件にはお知恵を拝借しているから、事の経過を知る権利がある。そこは心配いらないよ。」
ダールトンさんがそう仕切り直すと、僕らはようやく本題に入る事が出来た。
「ええ、それは存じております。それに、もしかしたら、お二方、いえ、『エルフ族の国』や『トロニア共和国』の使者の方々が訪問中のタイミングで騒動が起こった事を鑑みれば、この騒動の首謀者の狙いはその辺も関わってくるのかもしれませんし・・・。関係を悪化させる事を狙ったのかもしれませんし、お二方にも関係する話なのはまず間違いないでしょう。」
「まぁ、そらそうやろなぁ~。もちろん、悪いのはここを襲った連中には違いないが、それを守りきれなかったっちゅ~事になれば、『ロマリア王国』に対する不信感や疑問を持つ切っ掛けになるやろうし・・・。」
「そこから鑑みれば、我らが訪問のタイミングで事が起こった事は、偶然ではありえないだろうな。」
先程とはうってかわって、ヴィーシャさんとグレンさんはキリッとした各々の代表者の顔となってそう相槌を打った。
「そうです。しかし、それを仕組んだのは、『ロンベリダム帝国』ではないかもしれません。いえ、無関係とも言い難いのですが・・・。」
「も、もしかして、アキトくんっ!今回の首謀者の情報を掴んだのかいっ!!??」
「ええ、まぁ・・・。もっとも、物的証拠があるか、と言われれば、答えはNOなのですがね・・・。」
その僕の言葉に、皆さん呆気に取られていた。
まぁ、それはそうだろう。
僕はチート的な能力(って言っても『限界突破』を果たしたからこそ使用可能となったモノだが)、『千里眼』によって様々なモノが見る事が出来る。
具体的には、霊的証拠などと言った『物理法則』とは別の視点である。
逆に言うと、『魔法』に関する事は、特にこの世界においては、大半が『物理現象』に則ったモノであるから、『魔素』の扱いに長けた者ならば、『魔素』を介して“痕跡”を辿る事が可能である。
その過程で、“周波数”ではないが、そうした波長の様なモノを特定して、『妨害』やある程度の『追跡』をする事も可能なのである。
しかし、『霊能』に関する事は、この世界の『魔法技術』とは全く別の『技術体系』であるから、“そちら側”に精通していなければ、対抗する事も追跡する事も困難であろう。
これが、エイルが『魔法技術』によって発生させていた『泥人形』には対応出来たが、『霊能力』に切り換えられた瞬間に対応が不能となった事の要因である。
もちろん、エイルも『アストラル』に深い関わりを持つ存在だが、彼女自身はまだまだ“そちら側”の造詣は深くないからなぁ~。
「あえて名前は伏せさせて頂きますが、『泥人形』を発生させていた者は、噂の『神の代行者』の一人であると判明しました。」
「な、なんとっ・・・!」
「『神の代行者』っちゅーと、あの、『テポルヴァ事変』のおりに活躍した連中の事やんっ!やっぱり『ロンベリダム帝国』が絡んでるっちゅー事やなっ!?」
僕は、あえてキドオカさんの名前と、『異世界人』と言う“ワード”を伏せつつそう伝えた。
いや、ダールトンさんやドロテオさん、もしかしたらジュリアンさんは伝え聞いてるかもしれないが、流石に事情を知らないだろうグレンさんとヴィーシャさんの手前、『異世界』や『異世界人』に関わる事を話してしまうと、色々とややこしい事になるからな。
まぁ、いずれはお二方にもお知らせする事もあるかもしれないが、現時点では秘密にしておいた方が良いと僕は判断したのである。
それに、こちらの世界での通り名であるところの『神の代行者』と言う名前で呼んだ方が理解も早いだろうし。
「いえ、『神の代行者』達が『テポルヴァ事変』のおりに『ロンベリダム帝国』へと協力した事は事実でしょうが、それすなわち『神の代行者』達が『ロンベリダム帝国』に与する者達であると考えるのは、やや早計だと思われます。それに、今回の件では、先程も言いましたが証拠がありません。そんな状況下で、『ロンベリダム帝国』へと抗議したところで、それは悪手でしょうね。場合によっては、名誉を傷つけられたとして、争いに発展する可能性もありますからね。」
「なんやぁ~、歯痒いなぁ~!」
「・・・だとすると、再び襲われる可能性もあると?」
ヴィーシャさんは焦れた様にそう述べるが、グレンさんは冷静にそう呟いた。
「いえ、それはおそらくないでしょう。『情報源』や方法は明かせませんが、今回の首謀者に僕が辿り着いた事は、首謀者本人には気付かれていません。故に、彼が調子に乗って再び攻めてくる可能性は否定しませんが、それを操っている者は、薄々勘付いているでしょう。僕の“情報網”に引っ掛からないと言う事は、その人物は相当な力の持ち主であり、なおかつ、かなり慎重な性格である可能性が高い。故に、少なくとも僕がヘドスにいる間は、これ以上ちょっかいを掛けてこないでしょうね。むしろ、僕としてはちょっかいを掛けてきてくれる方が、一網打尽に出来て有り難いんですけどね?ま、その期待は薄いですけれど。」
「「・・・!!!」」
僕が薄い笑いとプレッシャーを漏らすと、ヴィーシャさんとグレンさんがピシッと固まった。
いや、怖がられるつもりはなかったんだけど、僕もこちら側の『ロマリア王国』、っつーか、仲間達のいる場所に手を出されて、少し腹が立っていたのかもしれない。
「ま、いずれこの“ツケ”は払ってもらいますので、今回はあなた方に怪我がなかった事で良しとしておきましょう。被害に遭われた皆さんには、大変申し訳ないのですが、ね・・・。」
とは言いつつ、どうしても論理優先で考えてしまう自分は、相当な人でなしであると自覚しつつ、僕はそう首謀者の件を締め括るのだったーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非、よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々御一読頂けると幸いです。