予言されていた未来
続きです。
一つだけ言い訳を。
あくまでリスペクトです。
ーアキトが『王都』・ヘドスに到着するしばらく前ー
「チッ!マジで化け物揃いかよっ、『リベラシオン同盟』の連中はっ!!これほどの戦力が一ヶ所に集まってるとか、ゲームバランスおかしいだろっ!!!これが実際の『ゲーム』だったら、絶対調整ミスで叩かれるぞっ!!!」
『神の眼』を眺めながら、男はブツブツと不満を漏らしていた。
そこには、アイシャ達の活躍により、徐々に『泥人形』達の数が減らされていく光景が映し出されていたのである。
「それに、この女は厄介だな・・・。私の『異能』を妨害する何らかの手段を持っている様だ・・・。」
忌々しそうにエイルを見つめながら、男はそう更なる感想を漏らしていた。
「・・・クククッ、だが、私個人の『霊能』による『術儀』までは妨害出来ない様だな・・・。今後の為にも、少し数を減らしておきたいからな・・・。」
男は、ヴァニタスの忠告をすっかり忘れ、目の前の『ゲーム』に夢中になっていた。
これは、色々な理由があるのだが、それはまた後述するとして、しかし、まだまだ男は『リベラシオン同盟』、そしてアキトの存在を甘くみていた。
男が『印』と『呪文』を唱えると、『神の眼』には召喚を妨害された筈の『泥人形』が再び凄い勢いで発生し始める。
それに、驚愕した様なアイシャ達の表情を眺め、男は思わず悦に浸ってしまっていた。
「ハハハハッ、果たしてどこまで持ちこたえる事が出来るかなっ!?」
若干当初の方針とはずれてしまっていたが、男は気にする事もなく悪役よろしく、そう呟いていた。
男以外誰もいないその場所にて、男の嫌らしい笑い声だけが静かに木霊するのだったーーー。
◇◆◇
「ふぅ~。結構数を減らせたんじゃないかなぁ~?」
「エイル殿のお陰で、『泥人形』が新たに発生しなくなった事が大きいですね。」
「数は多いけど、『泥人形』はボクらとしては戦り易い相手だからねぇ~。こりゃ、ダーリンが出張るまでもなく決着が着くんじゃないかなぁ~?」
体力も気力も十分なアイシャ達は、『泥人形』達を瞬く間に殲滅していった。
エイルのメンタルケアが上手く機能した結果であるが、それ故に、リサはそう軽口を叩いてしまうのだった。
「いやいや、リサ殿。それは『ふらぐ』と言うモノですよ?最後まで油断をしてはいけません。」
「・・・ティーネ・サンノ言ウ通リデスネ。ドウヤラ、私ノ『妨害』ガ通用シナイ『技術体系』ガ感知サレマシタ・・・。」
などと言っていたら、エイルがそうポツリッと呟き、リサは頭を掻いた。
「・・・えっ、あれっ、ボクのせい・・・!?」
「そんな訳ないでしょっ!?『術者』が何らかの手段で『泥人形』達の発生方法を変えたんだよっ!!!」
最速で『フラグ』を回収してしまったか、などとアキトみたいな事を考えたリサはそうバツの悪い顔をするが、アイシャがそうツッコミを入れつつ、目の前で起こっている事をそう予測した。
「アイシャ・サンノ意見ヲ肯定シマス。薄々勘付イテイマシタガ、オソラクコノ『術者』ハ、『異世界人』デアル可能性ガ高クナリマシタネ。コノ世界の『技術体系』ナラバ、私ノ力ガ通用スルハズデスカラ・・・。」
「『異世界人』っ!?と、言う事は、今回の襲撃を裏で操っているのは、『ロンベリダム帝国』と言う事になりますねっ!!」
「マダマダ断定ハ出来マセンガ、ソノ可能性モアリマスネ。モチロン、『異世界人』ガ個人デ、アルイハ別ノ勢力ト結託シテイル可能性モアリマスガ・・・。」
そう冷静に分析するティーネとエイルに、アイシャはどうするのか問い掛ける。
「それで、どうしよっか?」
「私ノ『妨害』ガ効カナイ以上、オ父様ニ対応シテ頂ク必要ガ生ジテシマイマシタ。故ニ、オ父様ガ到着サレルマデハ、コレマデ通リ、ヒタスラ殲滅ヲ繰リ返スシカアリマセンネ。コレマデノ発生事例ヲ鑑ミレバ、ソロソロ『術者』ガ“弾切れ”ヲ起コシタトシテモ不思議ハアリマセンガ、ソノ『術者』ガ『異世界人』デアルト仮定スルナラバ、ソレモ望ミ薄ダト思ワレマス。」
「結局ダーリンの手を煩わす事になっちゃうんだねぇ~。」
「ソレモ適材適所、臨機応変デスヨ、リサ・サン。オ父様ノ『敵』ハ一筋縄デハイカナイ相手デスカラ、コウイウ事モアルデショウ。私達ハ、ソノオ父様ガスムーズニ行動出来ル様ニサポートスレバ良イノデスヨ。ソレニ、オ父様ノ『気配』モ、モウスグ側マデ来テイマスノデ、時間稼ギト言ウ意味デハ私達ノ役割モ無駄デハアリマセンデシタ。オ父様ガ到着サレルマデ、コノ場ヲ死守スル事ヲ考エマショウ。」
「うんっ!」「OKっ!」
「了解ですっ!では、ユストゥス達にも再び合流して貰いましょうっ!」
そう今後の方針が決まると、アイシャ達は一旦休憩を挟んだユストゥス達と再び合流するのだったーーー。
◇◆◇
「見えたっ!」
〈『王都』・ヘドスに到着か・・・。お~お~、とんでもない数の敵襲だなぁ~。〉
〈あれは・・・、おそらく『泥人形』っスね。ただし、この世界のモノとは大分違うみたいっスけど・・・。〉
「ならば、この件には『異世界人』が関与している可能性がありますねぇ~。」
『ヒーバラエウス公国』の『首都』・タルブから、おおよそ3時間前後。
僕(達)はようやく(?)『ロマリア王国』の『王都』・ヘドスへ到着していた。
んで、今はヘドスの現状を確認すべく、ヘドス上空から地上の様子を眺めていたところなのだが・・・。
〈んで、どうするんだ、アキト?〉
「う~ん。これだけの数をチマチマ殲滅していたら時間が掛かってしまいますよねぇ~。かと言って、『広域殲滅魔法』はヘドスの住人や仲間達、建造物なども巻き込んでしまいますから論外ですし・・・。ここは一つ、『幻術系魔法』を応用してみますか・・・。」
〈ほう・・・。〉
〈・・・いつの間にそんな案を思い付いたんスか・・・。〉
半ば呆れた様に呟くアルメリア様の声が頭に鳴り響いた。
どうやらお二方共、僕の考えを読んだ様だ。
・・・何かおかしかったかなぁ~?
これも、『領域干渉』や『結界術』の応用な訳だし・・・。
(その発想力が異常だって話なんスけどね・・・。)
(まぁ、アキトには今さらの話よ。)
(そう、っスね・・・。)
今度の『念話』は僕にも内容が分かったぞっ!
いや、具体的な内容は分からんが、何だか呆れられた事だけは伝わってきたからなっ!!
「っつー訳ですから、お二方にも力を貸して貰いますよぉ~。」
〈了解。ま、今の俺らは、アキトの『守護霊』や『式神』みてーなモンだからな。〉
〈御主人様の命令に従うっスよっ!〉
「はぁ、よろしくお願いいたします・・・。」
っつか、自分よりも遥かに“位”ってか、“格”や“次元”すら上の従者ってもの不思議な話なんだがね・・・。
などと、セレウス様とアルメリア様との関係に少しばかり悩んでいると、大きな建物に避難している人々の姿が目に映った。
あれは、ヘドスの『宮殿』の広場かな?
通常ならば、おそろく『空中庭園』として『宮殿』勤めの人々の憩いの場となっているところだろう。
それを、一般に解放しているんだろうな。
っつか、よくよく考えてみれば、僕はヘドスをじっくり訪れたのは、今回初であったかもしれない。
わりと素通りする事が多かったからなぁ~。
〈何やら揉めている様だなぁ~。〉
〈まぁ、こんな状況下なら仕方のない事っスけどねぇ~。〉
「しかし、幼女、もとい子供を怯えさせるとはどういう了見だっ!『泥人形』の後は、あの連中にお仕置きをしてやろうかっ・・・!!!」
〈ま、まあまあ。落ち着けって、アキト。ほらほら、そんな顔してると、あのお嬢ちゃんもますます怯えちまうぞ?〉
「おっと、これは僕とした事がっ・・・!」
ニコッ。
セレウス様に指摘されて、慌てて微笑みを浮かべる僕。
幼女、もとい子供は世界の宝だからね、仕方ないね。(*´ω`*)
(前々から思っていたっスけど、アキトさんは、ロリコン(?)、なんスかね?)
(いや、そういうんじゃないよ。アキトは子供を性愛の対象として見ている訳じゃないからな。ただまぁ、色々あって、まだまだ物事の善悪をハッキリ区別する前の子供の無邪気さや純粋さを、どこか羨ましく思ってんのかもなぁ~。『前世』も含めて、アキトの『力』っつーのは異常だったから・・・。)
(ああ・・・。ある程度になってくると、アキトさんの存在を疎ましく思ってしまうって事っスか・・・。そこへ行くと、子供はそうした者達も純粋に羨望の眼差しで見ますからねぇ~。)
(そういう事。)
ふむ、今度の『念話』は分からんかったが、まぁ、子供(幼女)の前ではそれも些細な事よ。
さて、んじゃ、気合を入れて、やってみますかっ!!!
と、思ったのも束の間、何やら、またしても『宮殿』の方が騒がしくなった。
なんじゃいっ!!
人がテンションを上げていたところに水を差しおってからにっ!!!
〈ああっ!子供(幼女)が『宮殿』の外壁の上にっ!!〉
〈どうやら、アキトをよく見ようとしてるみたいだなぁ~。〉
「そんなノンキな事言っとる場合かぁっーーー!親御さんは何しとんねんっ!っつか、構造上の欠陥じゃねっ!?」
〈元々子供(幼女)が入る事は想定していないしなぁ~。しかも、子供(幼女)ってのは夢中になると周りが見えなくなるからなぁ~。〉
〈ああ、木の上に上ったはいいけど、降りられなくなった、みたいな?〉
うむ、この二人は放っておこう。
っつか、よくよく考えてみれば、今現在はこのお二方は『顕在化』していない訳だから、『物質世界』に干渉出来なかったっすね、てへぺろ。
しかし、悪い事は連鎖反応を起こすモノで、そこに『泥人形』の群れが外壁に体当たりを仕掛けていた。
多少揺れる程度で、頑丈に造られた外壁が破られる事はなかったが、しかし、揺れによって子供(幼女)のバランスを崩す事には成功した様だ。
「キャアォォォォッーーー!!!」
「いやぁぁぁぁっーーー!!!」
真っ逆さまに子供(幼女)は『宮殿』の外壁から『泥人形』の群れに向けて落ちていった。
この高さでは、下に叩き付けられたら助からないだろうし、万が一助かったとしても、『泥人形』の群れに襲われてしまうっ!
間に会うかっーーー!?
否っ!
間に合わせるんだよォーーーッ!!!
◇◆◇
ー自分は、もっと出来ると思っていた。ー
これが、今現在の『ロマリア王国』の第一皇太子、ティオネロの率直な心情であった。
『ロマリア王国』の第一皇太子として生を受け、将来的には『ロマリア王国』を背負って立つ事を義務付けられたティオネロは、同世代の者達に比べて、非常に優秀な少年へと成長を果たしていた。
これは、高度な『教育』を施された環境にも由来するのだが、本人の資質や思いに寄るところも大きかった。
そもそも、ティオネロが物心ついた頃の『ロマリア王国』は、『貴族派閥』の台頭と『ライアド教』の干渉によって、ティオネロの父、マルク王、ひいては『ロマリア王家』の権威は衰退の一途を辿っていた。
その反骨精神ではないが、ティオネロはこう考えていた訳である。
ーぼくが『ロマリア王国』を救うんだっ!ー
それは、ある種子供っぽい単純な思考であったかもしれないが、その思いと環境が合致した結果が、今現在のティオネロを作り上げていったのである。
また、何の因果か、母親であるエリス王妃に幼い頃に読み聞かせて貰っていた『英雄譚』に憧れを抱き、実際に『ロマリア王国』で噂になり始めていたアキトの話を聞いて、仮想ライバルではないが、その人に負けないくらいの男になろうと努力を繰り返していた。
これについては、エリス王妃とアルメリアがかつて交わした約束、ティオネロを『英雄』の友人とする為、つまり、『英雄』に並び立てる人物にするべく、エリス王妃が働き掛けた結果であるのだが・・・。
しかし、残念ながら現実はそう簡単ではなかった。
いくらティオネロが優秀とは言え、それは一般的に見た場合であって、流石に色々と規格外のアキトと比べるのは酷と言うモノだが、この世界の上位レベルの『使い手』達や権謀術数に長けた『狸親父』達相手では、まだまだ力不足な感は否めなかった。
また、『為政者』としてもマルク王の域には到達しておらず、悪い表現で言うならば、今現在は何もかもが中途半端な状況なのであった。
もっとも、年齢を鑑みれば焦る必要は全くない。
誰しも伸び悩む時期が訪れる訳であって、そこから自身の強み、専門分野を開拓していく段階に入ったと言うだけなのだから。
しかし、それはティオネロにとって我慢のならない事であった。
少年特有の、堪え性がないと表現すれば良いのか、早く結果を出したい、大成したいと焦りを募らせてしまったのである。
もっとも、マルク王はそんなティオネロの心情を見抜いており、より多くの経験を積ませる為にも、自分の執務を補佐させて、新たな段階を踏ませている状況であった。
ティオネロは確実に力をつけ始め、周囲にもマルク王の後継者として徐々に認められていたのであった。
しかし、そこへ来ての『泥人形』の襲撃事件であった。
ティオネロは、今回の事で自身の力不足を痛感していた。
いや、これに関しては相手が一枚上手なだけである。
『ロマリア王国』、どころか偶然居合わせていた『トロニア共和国』からの使者や、『エルフ族』からの使者、それの知識を総動員しても、なお目の前に起こっている事を解決する目処が立たなかったのだから。
ティオネロにだけ責がある訳では、当然なかった。
だが、ティオネロは自分ならもっと上手く事を運べると思い込んでいたのである。
しかしその結果は、目の前の住人達の反応であった。
ティオネロは、その心無い暴言の数々に半ば呆然としてしまった。
ー自分は、人々を鎮める事すら出来ないのか・・・。ー
ティオネロの心には、そうかすかに絶望の色が差し込め始めていた。
しかし、そこに一筋の『光』が突如として現れる。
それは、幻想的な光景だった。
おおよそ、人間とは思えない程の神秘的な容姿を身に纏い、他を圧倒する存在感を放ち、通常では考えられない『魔法技術』によって、『光』は『王都』・ヘドスの空に現れたのだから。
『光』はヘドス上空に止まると、自分に微笑みかけた、様に見えた。
ー心配いらない。ー
ティオネロには、そう言った様に聞こえたのだった。
ふと我に返り周囲を見渡すと、一時は暴動が起こる事すら懸念されていた広場では、先程の自分と同様に、避難した住人達が『光』の存在に呆気に取られていた。
ティオネロはハッとして気付いた。
これは、人心を纏め上げるチャンスだと。
『光』が何者かは知らないが、ティオネロは不思議とこの者が悪い存在ではないと瞬時に判断していた。
であれば、そのチャンスを最大限活かすのが、今現在の自分に課せられた使命ではないか、と思い至ったのである。
そう思い立ちティオネロは口を開こうとするが、そこへ、耳をつんざく様な絶叫が木霊する。
「きゃあああああっーーー!あ、貴女、何してるのっ!!??」
その声を辿ると、一人の女性が『宮殿』の外壁を見上げていた。
さらにその視線を辿ると、幼い少女が木々をスルスルと登り、外壁のてっぺんに立つ姿が目に映った。
おそらく、あの『光』をもっとよく見ようとしたのであろう。
子供の好奇心と言うものは、時に信じられない事を仕出かすものである。
これはマズい。
あの高さから落ちたら、例え大の大人でも大ケガは免れないだろう。
子供であれば、逆に大人よりも柔軟性に富んでいるとは言え、最悪死んでしまう可能性もあった。
すぐさまティオネロは、自身の周囲に侍る部下達に子供の救出を指示しようとした。
が、そのタイミングで、あろう事か『防衛隊』を抜けた一部の『泥人形』達が、『宮殿』の外壁に体当たりを敢行していたのである。
もちろん、その程度で『宮殿』の外壁はビクともしないし、外壁を破られ『宮殿』の中に侵入される心配などなかったのだが、どうもタイミングが悪かった。
外壁のてっぺんに立つ子供にとっては、ただでさえ足場が不安定な状況だ。
そこに、体当たりの振動がモロに影響して、子供はバランスを崩して足を滑らせてしまった。
「キャアォォォォッーーー!!!」
「いやぁぁぁぁっーーー!!!」
母親とおぼしき女性の絶叫と、幼い少女の悲鳴が重なる。
クソッ!!
再び、ティオネロは己の無力さを呪った。
スローモーションの様に『泥人形』の群れが蠢く地上目掛け、幼い少女が落下する様子をただただ目で追い掛ける事しか出来なかったのだから。
しかし、『光』は違った。
キュッと厳しい顔付きに変わり、持っていた杖を足で器用に操ると、間一髪空中で幼い少女をキャッチする事に成功していたのである。
「「「「「おおっ~~~!!!!!」」」」」
それを目撃した住人達は、そう感嘆の声を上げていた。
奇跡の救出劇を間近に見ていた彼らが、状況を一瞬忘れるのも無理はない。
そのまま『光』は、優しく抱き止めた幼い少女を母親のもとに送ると、次いでティオネロに対して言葉を投げ掛ける。
「ティオネロ皇太子殿下っ!並びに『宮殿』で働く皆さんっ!!ヘドスの住人達の避難への御尽力、感謝致しますっ!!!後は我らにお任せ下さいっ!」
「あ、貴方はっ・・・!?」
ティオネロは、間近に『光』を眺めながら、震える声でそう呟いた。
「私は、『リベラシオン同盟』のアキト・ストレリチアと申します。今は時間がありませんので、これにて失礼します。また、改めて御挨拶させて頂きたいと思います。」
「っ!!??!?」
短く言葉を交わすと、『光』は再びヘドス上空に舞い上がっていった。
ー・・・彼が、あの『ルダ村の英雄』かっ!ー
『光』の名を聞き、ティオネロはそう記憶を掘り起こしていた。
彼が噂通りの人物ならば、彼に任せておけばもう心配はいらないだろうと、ティオネロは謎の安心感を感じていた。
それは、広場に集まった住人達も同じ様子だったのだろう。
中には、幼い少女を救われた母親らしき女性の様に、『光』に祈りを捧げる者達すらいた。
ここから先は、もはや『神話』や『伝説』の領域だ。
ティオネロは、その一部始終を見逃さない様にと、ただ夢中で『光』を目で追っていた。
その『光』の胸元には、『希望の首飾り』がかすかに煌めいていたーーー。
・・・
それを目撃していたのは、何もティオネロや広場に集まった住人達だけではなかった。
『ロマリア王国』の最終的な責任者であり、この『宮殿』の主であるマルク王と、その妻で王妃であるエリスも揃ってそれを目にしていたのである。
「あ、あれはっ、まさかっーーー!!!」
「で、では、あの方が、私達のっーーー!!??」
アキトの胸元に煌めく『希望の首飾り』と、エリスがマルク王を通じてアルメリアに託され、今まさに手元で光輝いている『希望の首飾り』の模造品とを交互に見やり、かつてのアルメリアの言葉を思い出していた。
「・・・かつての『予言』の通りだ。“15年後、ヘドスの街に1人の若者が現れるでしょう。その若者は、この『希望の首飾り』を身につけています。”だったか・・・。その名の通り、この状況において、正に“希望の光”となって現れたのかっーーー!」
「っーーー!!!」
様々な思いが重なり、マルク王は興奮した様に呟き、エリスは感涙に咽び泣いていた。
まぁ、ぶっちゃけて言ってしまうと、これはただの偶然である。
そもそも、アルメリアのその『予言』はそれっぽい事を適当にでっち上げた話であったし、アキトも一応普段から『希望の首飾り』を身に付けていたが、アクセサリー類は行動の邪魔になる事もあるので、それも服の下に隠れていた。
ただまぁ、子供(幼女)を助けた拍子に胸元が露出したのか、何の因果か『希望の首飾り』も表に出てしまった訳なのだが。
これも、アキトの持つ『事象起点』の影響なのかもしれない。
そのマルク王達が見守る中、アキトはヘドス上空で強大な『魔法陣』を展開していた。
そして、『ロマリア王国』の、いや、この世界の新たなる『神話』の一ページが更新される事となるーーー。
・・・
「あ、あれが、私達以外にこの世界に引っ張り込まれた『異世界人』、かっ!?」
『神の眼』に映し出されたアキトを見て、男は呆然と呟いていた。
ヴァニタスとの会話では、アキトが現れた時点で男は直ちに撤退する様な口振りだったが、そんな事はすっかり忘れ、ただただアキトの姿を目に焼き付けていた。
これは、アキトが男が諦めた“理想の体現者”だったからだが、その事により、男は一手失敗する事となった。
いや、もしかしたら男にとってそれは、ある種成功なのかもしれないが・・・。
そうこうしている内に、マルク王達も、いや、『王都』・ヘドスに住まう者達は軒並みその日、アキトのいる空を眺めていたかもしれないが、アキトが発生させた強大な『魔法陣』が男の目に飛び込んできた。
「な、なんという強大な『霊力』っ・・・!!!い、いや、まて、あの光はっ!!!???も、もしかして、彼はあれほどの『神霊』を従えている、と、言うのかっ・・・・・・!!!???」
生唾を飲み込み、乾ききった口の中を無理矢理動かして、男はそう呟いた。
これは、『霊視』の可能なこの男だけが正しく認識出来た事だった。
アキトの周囲には、『半実体化』したセレウスとアルメリアが寄り添っていたのである。
無論、二人(二柱)の今現在の『神霊力』は、『神の座』にいた事より大分衰えているが、それでも人一人が従えられる類の存在ではない。
それを、男はそう正しく理解していたのであった。
目の前で起こっている事は、もちろん他の者達も同様に神秘的な光景だっただろうが、“そちら側”の専門家である男にとってはもっと信じられない光景であった事だろう。
それに、男の知的好奇心が刺激されたとしても不思議はない。
「・・・認識を改めないといけないですね・・・。彼は、私を含めて他の『異世界人』とは、根本的に“レベル”が違う様だっ・・・!!!」
男はそう呟き、目の前で起こっている『奇跡』を、興奮しながら食い入る様に見つめるのだったーーー。
◇◆◇
「ふぅ~~~!ギリギリでしたねぇ~!!」
〈うむ。あのお嬢ちゃんに怪我はなかった様だな。〉
〈いやぁ~、大事にならなくて良かったっスねぇ~。〉
僕は、『宮殿』の外壁から足を滑らせて落ちてしまった子供(幼女)を助け、母親のもとに送り返した後、それを誤魔化す感じにティオネロさんらに何事か喚いて、ようやくヘドス上空に逃れていた。
・・・いや、だって何か恥ずかしいじゃん?
颯爽と現れてヘドスの危機を救うつもりが、子供(幼女)を助ける事は、まぁ、世界の摂理だからまだ良いとしても、それでドヤ顔してても何かカッコ悪いし・・・。
(変なトコでこだわるやっちゃなぁ~。後、ブレんなぁ・・・。)
(まぁ、アキトさんは永遠の『厨二病』を発症しているっスからね。彼なりの理想のプランがあったっスよ。)
(颯爽と現れて危機を救い、そして、また颯爽と去る、ってか?いや、気持ちは分からんではないけど・・・。)
(まぁ、ヘドスはマルク王のお膝元っスからね。この世界の血縁上では、アキトさんは『ロマリア王家』に連なる者っスから、そこに対して気恥ずかしい思いもあるのかもしれませんよ?)
(・・・家族、か・・・。)
(あっ・・・、すいません、セレウス様・・・。)
(あ、いや、何、今さら気にする事はねぇよ。俺も、そこまで繊細な男じゃないしな・・・。)
(・・・。)
「あのぉ~、『念話』中に申し訳ないんですけど、そろそろ始めますよぉ~。」
例によって、『念話』をしている事を感じた僕は、状況的にそれを遮り、お二方に準備は良いか御伺いを立てる。
いや、時間がないもんでね?
〈おお、悪い悪い。いつでもOKだっ!〉
〈私もっスよっ!〉
「了解っ!んじゃ、いきますよっ!!アルメリア様は、情報処理とサポートをお願いしますっ!!!」
〈了解っスっ!〉
「セレウス様は、『神霊力』を『術式』にっ!!」
〈いいですともっ!〉
〈・・・何か、ルビおかしくないっスか?それと、隕石降らせてどうするっスかっ!『王都』が壊滅しちゃうじゃないっスかっ!!〉
「〈いやぁ~、ついノリで・・・。〉」
いやいや、ゲーマーなら一度は言ってみたいセリフなんすよ・・・。
まぁ、普通に生きていたら言う機会は一生ないんだろうけどね。
呆れた様にそうツッコむアルメリア様に言い訳(?)しつつ、僕はお二方を『半実体化』させた。
お二方とは、『心』で繋がっているので、細かい打ち合わせが必要ないのがありがたい。
何せ、現場の状況が分からなかったので、情報不足は否めない。
故に、現場で素早く判断するしかなく、行動もスピード感が大事になってくるからな。
状況確認→情報解析→作戦立案→作戦説明→実行
簡易的な行程としても、これらが必要になってくる訳だが、それをお二方なら秒で理解してくれるからな。
などと考えつつ、僕らは大規模な『魔法陣』を展開させた。
あっ・・・、それは良いけど、この『術式』に何て名前をつけよっか?
いや、ぶっちゃけるとただの『幻術系魔法』の応用なんだけど、やっぱりそれっぽい名前があった方が、何かカッコ良いし・・・。
〈変な事に悩んでないで、さっさと『発動』して下さいよっ!〉
などと思い悩んでいると、アルメリア様に軽く叱られてしまった。
・・・ええい、とりあえずこれで良いかっ!
「【神々の波動】っ!!!」
カッ!!!
僕が言霊を乗せると、その瞬間、大きな光がヘドスの街を覆い尽くした。
うん、この感じは成功したっぽいなぁ~。
目映い光に視覚を奪われたヘドスの人々が、ようやく視界が回復した時に見たモノは、あれほど猛威を振るっていた『泥人形』達が跡形もなく消え去った光景であったーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非、よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々御一読頂けると幸いです。