不安
続きです。
本編の中に、ちょうど時事ネタっぽいものが入ってしまいましたが、特に含みのある表現ではありません。
しかし、人によっては気分を害する可能性も御座いますので、あらかじめご注意頂けると幸いです。
◇◆◇
〈・・・おやおやぁ~?大分聞いた話と違う様だけどぉ~?〉
「ヴァニタスさんか・・・。別に良いだろ?私とアンタは確かに『協力者』ではあるが、私はアンタの指示に従う義理はない。・・・私は私の判断で勝手にやらせて貰うと、最初に伝えておいた筈だが?」
〈・・・それは別に構わないけど、僕も最初に伝えた筈だよ?『ロマリア王国』、ってか、アキトくんを下手に刺激しない方が良いよ、ってさ。〉
「確かに聞いたけどな。そもそも彼はまだ『ロマリア王国』に戻ってすらいないじゃないか。彼は本当に警戒すべき相手なのかい?私にはそうは思えんのだがね。」
〈目に見える情報でしか判断出来ないのは、人間の悪いところだねぇ~。そういった意味だと、君もまだまだ『人の領域』を逸脱出来ていないのかなぁ~?〉
「・・・何が言いたいんだ?」
〈いやいや、だだの忠告だよ。君の目的はある程度果たしたんだから、早々に撤退する事をオススメするよ?藪をつついて蛇を出す必要はないさ。何事もほどほどが一番だね。〉
「ふん、ご忠告どうも。心配されなくとも、彼が出張ってきたら、さっさと撤退するさ。別に私も、彼と戦り合いたいわけじゃないからな。」
〈・・・まぁいいけど、ね。〉
スッとヴァニタスの気配が消えると、男は嘲る様に笑った。
「フッ。『トリックスター』や『扇動者』を気取っているわりには、肝の小さい事よ。こんな離れた場所にいる私に、彼が何を出来ると言うんだ。私の痕跡を一切残していないって言うのに・・・。」
そう呟くと、男はヴァニタスから譲り受けた『神の眼』に再び目を凝らした。
「まぁ、確かに彼とその仲間達の武力は目を見張るものがある。少なくとも、私達『異世界人』と同程度のレベルはありそうだ。ウルカさんからの情報では、彼は私達と同じ『異世界人』と言う事だが・・・。」
『神の眼』には、男が召喚した『泥人形』を易々と倒しているハンス達の姿が映し出されていた。
「しかし、それでも持っている『駒』は私達の方が強い。ヴァニタスさんは、何をそんなに警戒しているのかねぇ~?」
クククッと笑う男のその手には、現在進行形で『負のエネルギー』を集めている“エネルギー結晶”が握られていたーーー。
◇◆◇
「チッ、倒しても倒しても、キリがないぜっ!」
「大都市の市街地戦が、こうも戦り難いとは、な。」
「市民の誘導に手間取るからな。逆に、敵方からしたら、何処を攻撃してもダメージになる。」
「かぁ~、えらい面倒な事だなぁ~。これを仕掛けてる奴は、きっと陰湿で根暗なヤローに違いねぇっ!」
「いやいや、案外頭の回る奴だろう。まぁ、人の嫌がる事をする、って意味では、ユストゥスの意見も分からなくはないが・・・。」
「おい、お前らっ!喋ってないで、手を動かせっ!!」
「ワタシタチはー、あるじさまにルスをまかせられてるんだぞぉー?」
軽口を叩いてはいるが、アキトの仲間である『エルフ族』のユストゥス、ハンス、ジーク、メルヒ、イーナは物凄い勢いで『泥人形』を駆逐していた。
それもその筈、ユストゥス達の今現在のレベルは、エキドラスとの稽古を経て“レベル500”に至っていた。
まぁ、もっともそれ以上、アキトと違い、彼らが『限界突破』の『試練』を突破する事は出来なかった訳だが。
しかし、正に、名実共にこの世界の歴史に名を刻むほどの領域に到達していたユストゥス達であるが、とは言え、その『実力』も状況によっては十全に発揮出来ない事もある。
今回の襲撃は、『王都』・ヘドスの都市部で起こっている。
当然そこには、そこに住む人々や建造物で溢れかえっている訳である。
であるから、防衛側としては、まず人命を最優先に考えなければならないのだ。
これは、『倫理観』とか『人道的』とか『正義感』から来るものでもあるのだが、もっと極論を言うと、ハッキリ言って行動の邪魔になるからである。
これは、所謂『災害』時にも言える事だが、理想論を言えば、何か危険が迫った際には、その地にいる住人達には素早い避難して貰えると、行政側などからしたら非常にありがたいのである。
何故なら、一々救出する手間が省けるからである。
もちろん、様々な理由によってそれは不可能に近い訳だが、その為に、全体としての行程、あるいはその後の復興に遅れを生じる事がしばしばある。
しかし、被害を最小限に留める事が出来れば、その後の行動はスムーズに済む。
何度となく言及しているが、自分の命を守れるのは自分だけである。
ならば、野生動物の危機管理能力を見習って、時に脱兎の如く逃げる事も必要なのである。
一個の人間が、自然災害や大群に勝てる訳がないのだから。
それと同様に、敵襲が来た場合は、非戦闘員は素早く逃げる事が求められるが、しかし、それも上手くは機能しないものだ。
我先にと逃げ惑い、二次的な被害が拡大したり、パニックになったり、一部では暴動や略奪が起こったりと、人間の心理は複雑怪奇なのである。
で、それでは『防衛部隊』も思う様に行動出来ないので、それらを処理、良い言い方で言うと『人命救助』をしつつ、邪魔にならない場所へと誘導して、“場”を確保しなければならない訳である。
そうした意味では、特に市街地の『防衛戦』は、防衛側からしたらやりにくい事この上ないだろう。
特に、今回の『泥人形』襲撃事件は、敵が散発的に発生する為に尚更である。
逆に言うと、攻める側としては、市街地戦は効果が絶大な訳である。
通常であれば、特にこの世界では『航空技術』が発達していない事もあって、都市部にこれほどの『襲撃部隊』が入り込んでくる事はまず不可能だ。
どれ程注意深く行動しても、何処かの時点でそうした『襲撃部隊』の姿は露見する訳であるから、当然ながら、そうと分かれば即座に排除に乗り出すからである。
それ故、都市部に入られる事など、相当な『軍事力』が無ければ不可能であり、ある意味では各国の『首都』と呼ばれる場所は、一番安全であるのが常識なのである。
しかし、今回の襲撃に利用されている『泥人形』によって、その常識は覆されてしまった。
何故ならば、『泥人形』達は、通常の『襲撃部隊』とは異なり、何の前触れもなくその“場”に発生するからである。
これが、マルク王達が頭を抱えていた要因であり、その情報収集を急がせた理由でもあるのだが、事前に予測出来ない故に、防衛を更に困難なものとしているのである。
「わぁ~てるよっ!」
「しかし、『泥人形』か・・・。以前に主様からご教授を受けた事があるが・・・。」
「ああ、そのお陰で駆逐自体は特に問題ない。私達はもちろん、他の者達も、上手く対応出来ている様だな。」
「しかし、流石にその大元には辿り着けんぞ。主様曰く、『泥人形』を造り出す『技術』は、所謂『呪術』に近しいそうだから、『現代魔法』では『術者』の追跡が不可能に近いとおっしゃっていたな。」
「ワタシタチも、『マホウ』のセンモンカじゃないからねぇー。」
「それは、大半の『魔法使い』や『魔術師』も同じだぜ?主さんが言うには、『魔法』という『技術』自体は利用出来ても、『魔法』という『理論』自体を理解している事の方か稀らしいからよ。俺達が操る『精霊魔法』も、俺達はその『理論』にはそう詳しくないからな。」
「まぁ、『精霊魔法』は『エルフ族』なら、感覚的に利用出来るからな。もっとも、僕らは御母堂様や主様のお陰で、ある程度の『理論』はご教授頂いているが・・・。」
「『魔法関連』に関わる知識や理論体系は千差万別だからな。流石に全部は覚えきれんぞ。主様達が特殊なのさ。」
「案外、と言うのも失礼だが、主様はあれで結構な勉強家でいらっしゃるからな。あれほどの知識を得ても、更なる知識を求める。我らを見習わなければならんな。」
「まぁー、あるじさまのばあいは、ほとんど“ゴシュミ”ってカンジだけどねぇー。」
イーナのツッコミにユストゥス達は苦笑いを漏らした。
『泥人形』とは、向こうの世界では、マンガやアニメ・ゲームでもわりとお馴染みの存在である。
その元となったのが、ユダヤ教の伝承に登場する自分で動く泥人形。
神話や伝説によっては、石や金属で作られたものも登場する。
『ゴーレム(Golem)』とは、ヘブライ語で『胎児』の意味。
作った主人の命令だけを忠実に実行する召し使いかロボットのような存在。
運用上の厳格な制約が数多くあり、それを守らないと狂暴化する。
額にemeth(真理)と刻まれているが、最初のeの文字を消すとmeth(死)となり崩壊する有名な対処法がある。(某百科事典より抜粋)
過程としては異なるが、この世界の『泥人形』も、向こうの世界の伝承に近い性質を持っている。
とは言え、やはり歴史的経緯の違いにより、様々な相違点は存在する。
この世界の『泥人形』は、これはすでに言及した通り、“失われた『魔法技術体系』”に分類される為、その詳しい情報も分かってはいない。
しかし、『魔道人形』とはコンセプト的に似通っている為、『魔道人形』の原型となったのはまず間違いない。
しかし、『魔道人形』とは、その『完成度』と言う意味で、『泥人形』は非常に劣っていた。
これは、使われている『AI』、言わば『人工知能』の『完成度』が低い為である。
自立式、と言う事は、それを動かす“何か”が必要である。
それが、現代地球では『プログラム』だったり『人工知能』となる訳だが、向こうの世界の伝承やこちらの世界では『霊魂』を利用するのである。
『霊魂』と言っても、そこまで上等なものではない。
何故なら、『霊魂』を理解する為には、非常に高度な『アストラル関連』の知識を求められる為に、普通の人間には理解が及ばないからである。
とは言え、これは向こうの世界でも同様だが、そうした『アストラル界』や『スピリチュアル界』などとのチャネリング能力を持つ者、所謂『シャーマン』や『霊能力者』(場合によっては、ここに『超能力者』も該当するが)の存在によって成り立つ宗教や宗教現象として『シャーマニズム』が起こり、原始的宗教・原始的政治形態の一形態として人々を導く役割を担う事がある。
つまり、この世界においても、『霊魂』をある程度理解していた能力者が存在した過去がある訳である。
そこから派生した『技術体系』の中に、『呪術』、所謂『霊能』に特化した『技術』が存在した。
そうした『技術』から生み出されたのが、こちらの世界の『泥人形』の起源なのである。
とは言え、そうした能力者達も、『アストラル関連』の深遠には到達出来なかった。
これは、『人の領域』を越えられなかったからで、『限界突破』の『試練』に打ち勝てなかったからである。
アキトはそれをクリアしたが、本来であれば、長い『修行』と『精神修養』を経て、ようやく『悟りの境地』に至れるかどうかであるから、アキトが特殊なだけで、この世界の者達が劣っていると言う事ではない。
もっとも、それに限りなく近付いた者は、多少なりとも居た様であるが。
まぁ、それはともかく。
話を元に戻すと、そうした事もあり、『泥人形』に使用された『霊魂』は、比較的制御のしやすい『精霊』や『雑霊』がベースとなっている訳である。
だが、そうなると、『自立思考』が薄弱となり、複雑な命令を理解出来ないのである。
先程、『胎児』云々と述べていたが、そのレベルの『理解度』しかないと言う事である。
それ故、『術者』が常に命令を出し続けなければならず、また、能力者でなければそもそも操る事すら不可能であった為、いつしか廃れていってしまった訳である。
『現代魔法』にも通ずる話だが、結局『技術』と言うものは、万人がある程度使えてこそ普及するものなのである。
さて、しかし、今回の事件の『泥人形』は、向こうの世界の伝承がベースになっている。
故に、先程述べた通り、額にemeth(真理)と刻まれているが、最初のeの文字を消すとmeth(死)となり崩壊する有名な対処法があるのだ。
それをアキトから聞いていたユストゥス達は、それを実行し、実際に効果がある事を確認している。
その情報は、速やかに『ロマリア王国』内の関係各所に共有される事となったので、多少の被害はあれど、駆逐自体はわりとスムーズにいっていたのである。
もっとも、それ以上の情報となると、先程言及した通り、『アストラル関連』に関わる知識が必要な為、ユストゥス達を始め、『ロマリア王国』の誰もこの『泥人形』達を操っている大元、『術者』に到達出来ずにいたのであるがーーー。
「ふぅ~。いつまでこんな襲撃が続くのかねぇ~。」
一旦、『泥人形』達の襲撃がやんだタイミングで、一息吐きながらユストゥスはそう愚痴を溢した。
「そうだな・・・。我らはともかく、他の者達は、この散発的な襲撃に体力的にも精神的にも限界を迎えつつある。」
「何時不満が、あるいは、均衡が崩れてもおかしくない状況だな。」
「かと言って、私達では『術者』を突き止める事は出来そうにないし、な。」
「いちおう、チュウイしてみてたけどー、それっぽいヒトもまわりにいなかったしねー。」
「だとすると、『王都』にはいない可能性も考えられるな。そうなりゃ、流石にお手上げだぜ。」
う~む、とユストゥス達は頭を抱えた。
ただの襲撃ならば、今現在のユストゥス達ならば解決は簡単である。
しかし、敵の正体も掴めないのでは、流石にお手上げ状態であった。
「しかし、主様に連絡はついたのだろう?」
「正確には、アイシャ殿にだが、な。それも、何だか雑音が酷くって、正確に情報が伝わったかも怪しいモンだが。」
「だが、それでも主様ならば、こちらの異変に勘付くだろう。そうなれば、一挙に解決する事も可能だろう。」
「そう、だな・・・。」
「それまではー、あるじさまのルスをがんばってまもろー!」
「ああ。」「だな。」「うん。」「もちろんだ。」
『限界突破』を果たし、『神性の領域』に足を踏み入れたアキトならば、この『泥人形』襲撃事件の『首謀者』を特定する事が可能だ。
それを理解しているユストゥス達は、アキトの帰還を信じて、気合を入れ直すのだった。
と、そこへ、
「ま、また出たぞぉっーーー!!!」
「な、何だ、あの数はっーーー!!!???」
「お、終わりだっ・・・。『王都』は、もう、終わりだっ・・・!!!」
マルク王やティオネロの元に届いた知らせの様に、おびただしい数の『泥人形』が次々と発生していった。
「おいおい、奴さんもいよいよ本気かね・・・!?」
「本気で『王都』を落としに来たかっ!?」
「やらせねぇ~よっ!『王都』には、『十賢者』様もいらっしゃっているのだからなっ!!」
「『トロニア共和国』の方々もなっ!ようやく、『三国同盟』に漕ぎ着けられそうなのだっ!!」
「ここがショウネンバだぞー!ヤローども、キアイいれろー!!」
「「「「応っ(ああっ)!!!」」」」
◇◆◇
「ひぃ~、流石にキツいなぁ~。」
「大丈夫、リサ?一旦休憩入れよっか?」
「そうですね。朝から走り通しですし、ヘドスまでは後若干あります。ヘドスの状況が分からない以上、一旦休憩を入れて、体調を万全にしておく方がベターでしょう。」
「そうだねぇ~。じゃあ、あそこの木陰で休憩しよっか?」
「異議なしっ!」「了解です。」「ワカリマシタ。」
アキトより一足早く『ビーバラエウス公国』の『首都』・タルブから、『ロマリア王国』の『王都』・ヘドスに向かっていたアイシャ達は、後少しばかりでヘドスに着くタイミングで、一旦の休息を挟む事とした。
これは、リサが若干ツラそうにしていたのを、アイシャ達が慮った結果であった。
リサは、アイシャ達よりアキトと出会うタイミングが遅かっただけに、今現在のエイルを含めたアキトの仲間達の中でただ一人“レベル500”に至っていなかった。
もっとも、すでに『S級冒険者』の一つの目安である“レベル400”はとうに越え、この世界トップクラスの『使い手』の一人である事は間違いないが・・・。
とは言え、元よりリサは『鍛治職人』かつ『魔工師』であり、言わば『生産職』を主な生業としており、『鬼人族』の『戦士』であるアイシャや、『エルフ族』の『武人』であるティーネ達所謂『戦闘職』よりも、身体能力の面で劣っているのも無理はない。
いや、リサも『ドワーフ族』としての、頑強な身体の持ち主ではあるが。
ちなみに、アイシャも『サブ職』として『細工師』などの生業を持っているが、『メイン職』はあくまで『戦士』である。
リサも『サブ職』として『戦士』を持っているが、『メイン職』はあくまで『鍛治職人』、『魔工師』であり、そこに若干の差があった。
更にちなみに、エイルは元より『兵器』として産み出された『魔道人形』であるから、今現在はその機能が十分に回復していないとは言え、アイシャ達に着いていく事自体は造作もない事であった。
「ぷはぁっ~!!生き返るぅっ~~~!!!」
「ゴクゴクッ・・・。アキトの『体力回復ポーション』は飲み口もスッキリしているから、単純な水分補給にも適しているよねぇ~。」
「主様曰く、飲みやすさにこだわったそうですよ?何でも、主様の世界の“スポーツドリンク”なるモノを再現してみたとか何とか・・・。」
「・・・あいかわらず、変なところでこだわるよねぇ~、アキトは・・・。いや、結構重要な事だけども・・・。」
「はぁ~~~。何だか気が滅入ってきちゃったなぁ~~~。」
「ん?どうしたの、リサ??」
「いやね。今の話もそうだし、皆に若干遅れてる事も含めて、ね。最近思うんだよねぇ~。ボク、本当にダーリンに着いてっていいのかなぁ~って。それこそ“従者”って事ならさ、メルヒさんでもイーナさんでも良い訳じゃん?まぁ、ハンスさん、ジークさん、ユストゥスさんはまたアレなんだけど、さ。」
リサは、身体能力的に自分がアイシャ達に劣っている事を若干気にしていた。
それが、今回の事で改めて浮き彫りとなり、そこまで深刻なものではないものの、疲れもあって、若干弱気に今まで思っていた事を愚痴っぽく溢してしまったのである。
それに、アイシャとティーネは困った様な表情を浮かべていたが、エイルはズバリとその言葉を斬って捨てた。
「・・・リサ・サン。貴女ハ、“オバカサン”、デスカ?」(困惑)
「な、なんだとぉっ~~~!」
無表情な中にも、若干困惑したエイルの雰囲気が印象的であった。
流石にそれにリサも、本気で怒った訳ではないが、反射的に言葉を返した。
「ちょっ、エイルっ!?」
「な、仲間割れはっ・・・!!!」
そこにすかさずアイシャとティーネがフォローを入れるが、続くエイルの言葉に押し黙ってしまった。
「リサ・サンガ、モチロンアイシャ・サンヤティーネ・サンガ、オ父様ノ周囲ニ居ル事ハ、他ナラヌオ父様ノゴ判断デス。皆サンハ、オ父様ノゴ判断ヲ否定スルノト言ウノデスカ?」(疑問)
「「「っ!?」」」
「・・・タダ、リサ・サンノ仰ル事モ、分カラナクハアリマセン。オ父様ハ、何デモオ一人デ出来テシマワレル方デスカラ。自分ノ存在ニ対シテ、不安ヲ感ジタトシテモ、ソレハ無理ハアリマセン。デスガ、忘レテハイケマセン。オ父様ト言エド、オ一人デ出来ル事ニハ、限界ガアルノデス。」(力説)
「それは・・・、確かにそうだね・・・。」
「・・・ええ、主様御自身も、その事は常日頃から仰っておいでです。」
「・・・けど、ボクの力なんて、皆に比べたら大した事ないし・・・。」
一度表に出してしまった弱音を、口ごもりながら続けて言葉にするリサ。
しかし、これは考え様によってはある意味良い傾向だ。
本当の意味で、アイシャ達を“仲間”だと、“家族”だと思っているからこその甘えであるからだ。
「ソレハ違イマス、リサ・サン。力トハ、何モ『武力』ニ限定スル必要ハナイノデス。先程モ言イマシタガ、オ父様ガ本気ヲ出サレレバ、我々ハ必要デハナイホドノ力ヲ有シテイマス。ソレコソ、『世界征服』スラオ一人デ可能カモシレマセン。貴女ガ劣等感ヲ抱イテイルアイシャ・サンヤティーネ・サンノ力スラ、オ父様ニトッテハ大シタ力デハナイカモシレマセン。シカシ、オ父様ハソンナ貴女方ヲ、側ニ置ク事ヲ、良シトシテイマス。ソレハ、貴女方ノ存在ガ、オ父様ニトッテ、カケガエノナイモノダカラデス。」(力説)
「な、何でそんな事がエイルに分かるんだよぉっ!」
「前ニ言イマシタヨネ?私ハオ父様ト“縁”デ繋ガッテイル、ト。」(再確認)
「「「あっ・・・!!!」」」
そのエイルの言葉に、三人は顔を見合わせた。
「ソレ故ニ、アル程度ノオ父様ノオ考エヲ、私ハ読ミ取ル事ガ出来ルノデス。オ父様ハ、コレハオ父様ノ悪イ癖デスガ、アマリゴ自分ノ感情ヲ表ニ出ス事ガアリマセン。デスカラ、皆サンガ不安ニ感ジル事モアルデショウガ、ソコハ“娘”デアル私ガフォローヲシテオキマショウ。」(使命感)
「あはははは~・・・。」
エイルの言葉に、アイシャは苦笑いを溢していた。
アキトの癖については、アイシャにも心当たりがあったからである。
「マズ、アイシャ・サンデスガ、ソノ身体能力ト事『近接戦闘』ニオイテハ、オ父様モ絶対ノ信頼ヲ寄セテオイデデス。デスガ、ソレ以上ニ重要ナノハ、貴女ノ明ルイ性格デス。皆サンヲマトメル、アルイハ繋ゲルソノ“ムードメーカー”トシテノ素質ヲ、オ父様ハ好マシク思ワレテオイデデス。」(慈愛)
「な、何か改めて言われると恥ずかしいなぁ~。」///
「ティーネ・サンノ事ハ、ソノ『武人』トシテノ冷静ナ観察力ト隠密能力ヲ高ク買ッテオイデデス。デスガ、同時ニソノ生真面目デ融通ノ効カナイ性質ヲ懸念シテモオリマスネ。モット、気楽ニ接シテクレテモ良イノニ、ト言ッタ感ジデショウカ?シカシ、凛トシタ美シサヲ好マシク思ワレテオイデデス。」(慈愛)
「そ、そうですか・・・。これでも、結構気を付けているのですが・・・。しかし、う、美しさ、ですか・・・。えへへっ・・・。」///
「ソシテ、リサ・サンデスガ、オ父様ハ、リサ・サンヲ尊敬シテオイデデス。」(力説)
「そ、尊敬っ!?ダ、ダーリンが、ボクをっ・・・!!??」
「エエ。基本的ニオ父様ハ、職人サン、所謂『生産職』ノ方ヲ“リスペクト”シテイルノデス。コレハ、自分ニハナイモノヲ創造スル方達ダカラデスガ、ソノ中デモ特ニオ父様ハ、リサ・サンノ事ヲ尊敬シテイルノデス。御自身ノ境遇ニヘコタレズ、未知ノ『世界』ニ飛ビ込ンデ、遂ニハ立派ナ『鍛治職人』・『魔工師』トナリ、オ父様ノ愛用ノ杖、『ルラスィオン』ヲモ完成サセマシタ。ソレニ、単純ニリサ・サンノ容貌ガオ好ミト言ウノモアリマスガ。可愛クテ、働キ者ノ“トランジスグラマー”トカ、嫁力高スギダロッ!!!」(憤慨)
「あれっ!?何か個人的な敵意を感じるけどっ!!??」
「気ノセイデス。」(しれっ)
「けど、『鍛治職人』として、アキトの役に立ってるのは本当だよねぇ~。これは、リサにしか出来ない事だし。」
「確かに・・・。主様も『モノ作り』をなさいますが、その時には、リサ殿の意見をよく聞いている印象です。時には、アイシャ殿にも、ですが・・・。」
「ソノ通リデス。『武力』ダケデナク、皆サンニハソレゾレ長所ガアルノデス。ソノドレモガオ父様ニハナイモノ。ソレヲオ父様ハ認メ、貴女方ヲ側ニ置ク事ヲ良シトシテイルノデス。ムシロ、貴女方ハソノ事ヲ誇リニ思ウベキデスネ。ソレハ誰ニデモ出来ル事デハナイノデスカラ。」(総論)
「そっか・・・。」
「・・・はいっ!!!」
「うん、そうだねっ・・・!!!」
そのエイルの言葉に、三人娘は力強く頷いた。
そうこうしている内に、随分時間が経っていた。
休息と会話によって、体力も気力も十分に回復している。
「サテ、少シハ不安モ解消サレタデショウカ?コレカラオ父様ノ要請ニ従イ、大キナ仕事ガ待ッテイル訳デスガ。」(確認)
「うん、気力十分だよっ!」
「はい、何時でもいけます。」
「うん、その、ありがとう、エイル・・・。少し元気出てきた。」
「ソレハ結構。デスガ、ソノ前ニ一ツ“アドバイス”デス。オ父様ハ、先程述ベタ通リ、少シ悪イ癖ガアリマス。ナノデ、タマニハ皆サンモ“ワガママ”ヲ言ッテ、オ父様ニ要望ヲ伝エテモ良イカモシレマセンヨ?ソレハ、貴女方ダケノ特権デアルト私ハ考エマス。」(提案)
「うぅ~ん。それはそうかもねぇ~。アキトは私達の事を大事にしてくれてるけど・・・。」
「あ、主様に“ワガママ”など、お、おこがましいのではないでしょうか・・・?」
「けど、言わないと分かんないかも、ね。んじゃ、ボクは一日デートして貰おうかなぁ~?そういえば、『ルラスィオン』の対価も払って貰ってないしねぇ~。」
「あ、ズルいっ!それに、『ルラスィオン』の対価は払ってたでしょっ!?」
「金銭じゃなくって、誠意って言うか、さ。」
「なら、私もっ!」
「わ、私は、その・・・(ゴニョゴニョ)。」
「ホラホラ皆サン。私ガ言イ出シタ事デスガ、今ハアマリ時間ガアリマセンヨ?ソレハマタ落チ着イテカラニシテ、『王都』・ヘドスニ向カイマショウ。」
「うんっ!」「了解っ!」「OK!!」
こうして、新たにエイルを仲間に加えた事で、アキトが今まであまり出来なかったアイシャ達のメンタルケアが可能となった。
それによって、彼女達の小さな不安や不満などが、逆に大きな原動力へと変わる事となったのだが・・・。
これも、アキトの持つ『事象起点』の影響なのかもしれないーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非、よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々御一読頂ける幸いです。