神々の復活
続きです。
今回から新章に突入します。
この作品としては珍しく、バトル展開多めでお送りする予定です。
『天空神ソラテス』に反旗を翻した『大地神アスタルテ』は、徐々に『天空神ソラテス』を追い込んでいった。
これは、母たる『大地神アスタルテ』を慕う生命が多かった事もあるのだろうが、再三に渡る『天空神ソラテス』の行いに、多くの生命達が『天空神ソラテス』に対して反感を持っていた事にも由来するのだろう。
その頃には『天空神ソラテス』に対する『信仰心』も地に落ち、『大地神アスタルテ』の提唱する『計画』は、成就まで後一歩のところまで来ていた様だ。
そこへ来て、『天空神ソラテス』は苦渋の決断を下した。
『異界』より、新たなる『神々』を召喚しようとしたのである。
その時現れたのが、『知恵の神ハイドラス』と『英雄神セレウス』の『双子神』を始めとした『新しき神々』であった。
事情を理解した『双子神』は、この愚かな『古き神々』達から、アクエラの生命達を切り離し、『古き神々』を封じようとした。
『双子神』曰く。
「神代の時代はもはや終焉を告げたのだ。ならば父たる者の“支配”も、母たる者の“庇護”も、子らにとってはただの足枷に過ぎぬ。真に子らを思うのであれば、“自由”こそ与えるべきであろう。」
「然り。ただ子らの行く末を“見守る”。それすら出来ないのであれば、汝らは速やかに消え去るべきであろう。」
そう、『天空神ソラテス』と『大地神アスタルテ』の“在り方”を否定した『双子神』は、神代の時代の終焉を宣言し、『古き神々』の排除を決定したのである。
ここに、長きに渡る『古き神々』である『天空神ソラテス』と『大地神アスタルテ』、それに『新しき神々』との三つ巴の争いが始まったのであるーーー。
~中略~
結論から言えば、『天空神ソラテス』はアバリア海の底に封じられ、『大地神アスタルテ』は、双月の片割れ、『惑星アクエラ』の衛星『ルトナーク』に封じられた、と文献には記されている。
これは、『古き神々』の『神性』から鑑みても、滅する事が難しかったからだと推察される。
紆余曲折を経たものの、『古き神々』が『惑星アクエラ』の基礎を形作ったのは確かな事実であり、例え滅したとしても、その『信仰』の根底が消える事はありえないからである。
いや、場合によっては、『始祖神』たる『古き神々』を滅してしまった場合、全く別の『信仰』と結び付き、得体の知れない存在に変質してしまう可能性すらあった。
それは、『惑星アクエラ』の未来を委ねられた生命達にとっては、新たな脅威となりうるかもしれない。
故に、『新しき神々』は『古き神々』を封じる事を余儀なくされたのかもしれない。
(余談ではあるが、『天空』を冠する『天空神ソラテス』が“海の底”に、『大地』を冠する『大地神アスタルテ』が“天空の星”に封じられたのも、おそらくその真逆の『属性』、すなわち『相剋』によるものだと推察出来る。)
『神話』とは、すなわち教訓めいた事柄を示すとともに、今日に生きる我らに対する戒めともなっているものである。
私の独自の解釈ではあるが、これらの“創世記”から始まり、“神々の争い”、“神々の黄昏”、そして“人類史への移行”へと繋がるこの一連の『物語』は、我らに対する何らかの『メッセージ』であるのかもしれない。
それが、『神々』からのものなのか、『古代人』からのものなのかは、定かではないがーーー。
ー哲学者カザンの『失われし原初神話の考察』から抜粋ー
☆★☆
〈・・・ここは・・・?〉
「・・・・・・・・・おおっ!これは『お母様』っ!!ようやくお目覚めで御座いますか!!!」
衛星『ルトナーク』の月面上にある『人工物』、衛星『レスケンザ』にあった『神殿』に似通った構造物の中で、彼女は目覚めた。
それにいち早く気付き、虚空より少年が現れ、彼女に言葉を投げ掛ける。
〈・・・そなたは、・・・はて、誰であったか・・・?〉
「んん~~~?嫌だなぁ~。僕ですよ。ヴァニタスですって!」
〈・・・ヴァニタス・・・?・・・はて・・・?〉
「(ありゃ~。これは不完全な『覚醒』だったかなぁ~?それとも、彼女の方の意識が占有している状態かなぁ~?まぁ、ぶっちゃけどっちでも良いっちゃ良いんだけどねっ!)」
瞬時に思考を巡らせたヴァニタスは、ややあって改めて彼女に名を告げる。
「記憶が混乱されている様ですね、『お母様』。では、改めて名乗らせて頂きます。私は、貴女様の従僕、ヴァニタスに御座います。」
〈・・・ふむ。すまんがとんと思い出せん、・・・が、うっすらそなたの存在は覚えている様だ。事情は把握しておらんが、そなたの様子からわらわの帰還を守っておった様だな?うむ、大儀であった・・・。〉
「勿体無い御言葉。従僕として、当然の事をしたまでで御座います。」
〈うむ・・・。ところでそなたに尋ねたいのだが・・・。『英雄神セレウス』様は、今、何処にいらっしゃるのだ?〉
「・・・それは・・・。」
☆★☆
一方その頃、『惑星アクエラ』の深海の底にて。
『ハレシオン大陸』の遥か東南に位置するアバリア海と呼ばれる海の底にて、一人の男の姿があった。
「ふむ、これは非常に興味深いですね。これほどの深海にあって、なお、原形を留めているとは・・・。見たところ、通常の木材と然程変わらない素材で出来ている様ですが、これも『古代魔道文明』の『失われし技術』によるモノでしょうか・・・?いやいや、それにしても些か・・・。」
ブツブツと呟く男は、完全に全身をローブによって覆い隠し、その正体を窺い知る事は出来なかった。
その男の目の前には、強大な大型の木造船が横たわっていた。
いや、木造船と言うには些か形状が特殊ではあるが、男の発言通り、水中と言う環境下である事も考慮しても、水性生物の存在や微生物、深海の水圧などを合わせて鑑みれば、ありえないほど損傷もなくそれはそこに在り続けていた。
それどころか、うすぼんやりと“バリア”にも似た“膜”がそれを覆っている様にも見える。
仮に、これをアキトが知れば、全てをすっ飛ばしてでもそれの研究や解明に没頭する事請け合いである。
ただ、幸いと言うべきか、アキトにとっては残念ながら、アキトがこれの存在を知る事はなかったが。
「彼の発言を信じるならば、これで“内部”に進入する事が出来る様だが、果たして・・・。」
しばらく木造船付近を捜索した男は、出入口らしきモノがない事に改めて気付き、懐から“何か”の道具を取り出した。
「っ!!??」
すると、その道具はかすかな光を放ち、その光が男を包み込んだ。
木造船もそれに呼応する様に反応を示し、スーッと男をその“内部”へと透過させた。
「い、いよいよもって、得体が知れないですね・・・。」
しばらく、その現象に呆気に取られていた男だったが、自らの“目的”を思い出し、“内部”を散策する為に、その歩を進めていった。
“内部”は、男にはよく分からない構造物で溢れていた。
ただ一つ確かなのは、この木造船は、その機能をおそらく失ってはいない、と言う事だけであった。
しばらく散策すると、男は突如としてありえない光景を目の当たりにする。
海の底であり、なおかつ、木造船の“内部”だと言うのに、広大な大自然が広がっていたからである。
「・・・なんとっ・・・!!!???」
これには男も面食らった。
自分は、夢でも見ているのだろうか?
いや、知らない内に、自分は“あの世”に迷い込んだのではないか?
などと、益体もない思考に耽っていると、ここに来てようやく男にも理解出来そうな構造物を発見する。
「あれはっ・・・!」
それは、『神殿』に似通った構造物であり、“誰か”の住居、あるいは霊廟を示す物だと見てとれたのである。
それにやや早足で駆け寄ると、男はここが“目的”の場所であると理解した。
「ふむ、ここまでは彼の発言通りだが、私に彼の御方を起こせるのかどうか・・・。」
などと呟くが、男の声色には何かを確信した様な力強さがあった。
『神殿』に似通ってはいるが、そこには何らかの装飾品も金銀財宝もなかった。
流石に今現在のこの世界、いや、現代の向こうの世界であっても、これほどの深海から物を運び出す事はおろか、到達する事すら難しい事を鑑みれば、誰かが意図的に運び出した事は考えづらい。
故に、結論としては、そこには最初からそれらの『神殿』や霊廟にありがちな物が一切無かった事が窺える。
しかし、“何か”を祀っていた事は事実の様だ。
いや、場所柄を鑑みれば、封じ込めた、が正解なのだろうが。
男が踏みいった、おそらくこの『神殿』の中心部には、棺がある訳ではなかった。
この世界や向こうの世界の様な、何かしらの『祭壇』がある訳でもなかった。
ただ、謎の球体上の物質が浮かんでいるだけだった。
しかし、男は、ここが“目的”の中心地である事を肌で理解していた。
「・・・。」
ゴクリッと生唾を飲み込むと、男は無言でその球体上の物質に、この木造船の“内部”に進入した時と同様に、“何か”の道具をかざした。
すると、チリチリとした感覚を覚え、その球体上の物質が震えるのが目に入った。
「・・・うぐぅっ、や、やはりとんでもない『霊力』だっ・・・!!!」
突如として発生したその膨大なエネルギーの奔流に、少しばかり後悔した様な素振りを見せた男だったが、すでに賽は投げられている。
身動きをとる事も出来ずに、男はただ堪え忍ぶ事しか出来なかった。
そんな時間が、唐突に終わりを告げる。
男の体感的には非常に長い時間だったのだろうが、客観的にはものの数分の出来事である。
その球体上の物質がピシリッと音を立てて崩れたのである。
〈・・・・・・・・・。〉
その中から、半透明な人形の“何か”が顕れたのであったーーー。
・・・
「・・・・・・・・・。せ、成功、した、のか・・・。」
男は、空中に漂う“それ”を眺めながら、ひとりごちた。
〈・・・・・・・・・?〉
しばらくすると、“それ”は某かの違和感を感じたのか、軽く身動ぎをした。
じっと、その様子を眺めていた男は、“それ”のまぶたがゆっくりと開くのを見た。
〈・・・・・・・・・おおっ・・・〉
感嘆の声を上げたそれは、次いで男の姿を視認した。
〈・・・よもや、再び『現世』に舞い戻ってこようとはっ・・・!・・・ふむ、察するに、其方が我を目覚めさせたとみえるが・・・。〉
「そ、その通りに御座います。」
“それ”の存在感に圧倒されるも、男は何とか乾ききった唇を動かし、そう応えた。
〈・・・ふむ、大義であった。しかし、今だ我が『神霊力』は微々たるものよの。彼奴等め、この様な場所に封じただけでは飽きたらず、念入りに我への『供給』を遮断し、更には我が『神霊力』まで四散させていようとは、な。後少し遅ければ、我が存在も『根源』へと還るところであったぞっ・・・。〉
“それ”は何かを思い出した様に、忌々しそうにそう呟いた。
男は、そのプレッシャーに背中に嫌な汗を感じていたが、それを意識外に押し出すと、“それ”と再びコンタクトを取ろうとした。
が、その前に、“それ”が行動を起こした。
〈幸い、其方は中々の『力』を持っていると見える。あまり好ましい方法ではないが、今はそんな事を気にしている状況ではなかろうな。そういう訳だから、我の真の『復活』の為に、其方の身体を明け渡せ。〉
「っ!!!」
有無を言わさず“それ”は、男の身体を乗っ取ろうとした。
男は、“それ”の行動に、一切の反応が出来なかったが、しかし、その行動は無意味に終わる。
バチンッと、拒絶する様に、“それ”は男の身体から弾かれたのである。
〈ぬっ・・・!?『抵抗』しただとっ・・・!!??〉
「お戯れを、『天空神ソラテス』様。私の身体など乗っ取ったところで、あまり意味はありますまい?」
内心、男はバクバクとした心臓の鼓動を誤魔化しながら、どうにか余裕の態度を演じる事に成功していた。
〈・・・ほう。我の事を知っているのか・・・。少しばかり、其方に興味が湧いたぞ。我を『抵抗』した事も含めて、な。〉
ジロリッとソラテスは男に視線を向ける。
それに気圧されながらも、男は内心安堵していた。
どうやら、今現在の状況では、男の方がソラテスよりも優位な状況である事が確認出来たからだ。
〈黙っとらんで、何か申せ。わざわざこの様な場所にまで来たのだ。其方には某かの“目的”がある事は分かっておるぞ。〉
ようやく話を前に進められそうだ。
男はそう思った。
「“目的”・・・。そうですね。私の“目的”は貴方様を完全に『復活』させる事に御座います。」
〈・・・ほう?それは中々に興味深い話よの。・・・ならば、何故我との『同化』を拒む?〉
「それは簡単に御座います。それだと、効率的ではないからですよ。」
男の真意を探る様に、ソラテスは男を睨み付ける。
それを男は、今度は本当の意味での平常心で受け流した。
〈・・・続けろ。〉
「はい・・・。確かに私は、自分で言うのも何ですが、人間にしては中々の『力』を持っていると自負しております。しかし、『始祖神』にして『高次』の存在である貴方様に比べたら、それも微々たるものでしょう。それでも、私を乗っ取れないほど『弱体化』した貴方様にとっては、多少の糧にはなるでしょうが。」
〈何だ、分かっておるではないか。ならば、何故我に己が身を差し出さない?〉
「先程も申し上げた通り、効率が悪いからで御座います。あなた方『高次』の存在は、『信仰』を介してエネルギー、この場合は、先程の貴方様の発言から『神霊力』、を得ている様子ですが、私を乗っ取った場合、その方法が使えなくなるでしょう。」
〈ふむ、こちら側の事情にも詳しいとは恐れ入ったぞ。其方、何者だ・・・?〉
「だだの『霊能力者』で御座いますよ。私自身は経験がありませんでしたが、私の先祖は『神々』にお仕えしていた事も御座いますれば・・・。」
〈ほう、巫の血筋の者か・・・。それならば、ある程度は納得出来るか・・・。〉
「もちろん、先祖伝来の知識もありますが、私自身が学んだり、研究したりした末での結論なのですが・・・。その様子ですと、当たらずとも遠からず、と言ったところでしょうか?」
〈もちろんそれは言えん。〉
「・・・でしょうな。しかし、そういうものとした前提でお話を続けますが、先程も述べた通り、私を乗っ取った場合、この場合は『依代』と表現した方が適切なのでしょうが、貴方様の完全なる『復活』の為には、それ相応の時間を要してしまうでしょう。何故ならば、私を介して『信仰』を集めなければならなくなるからです。」
〈それは特に問題ない。我にとっては時間はさほど重要ではないからな。〉
「いえいえ、それですと私が困るのですよ。確かに貴方様には、『寿命』と言う『概念』は適用されないのでしょうが、私達人間には、当然ながら『寿命』が存在しますからな。」
〈ふむ・・・。しかし、この状態でも、それは同じ事だぞ?我の『神霊力』の低下から鑑みても、今現在の『現世』に置いては、我への『信仰』が殆ど途絶えている事は明白だ。おそらく、これも彼奴等の『策謀』によるものだと思われるが、な。ならば、我と『同化』すれば、あるいは『永遠』となれるかもしれんぞ?〉
「・・・それも魅力的な提案ですが、そんな事をせずとも、貴方様の『神霊力』を回復する手段があります。」
〈ほう・・・?〉
男の言葉に興味をそそられたのか、ソラテスは目線で男に先を促した。
「意外と簡単な手段ですよ。言うなれば、あなた方の活動するエネルギー、すなわち『神霊力』は、人々の精神エネルギーをもととしている訳です。ならば、『信仰』だけでなく、逆に『畏れ』からもエネルギーを抽出する事は可能なのではないでしょうか?」
〈なんだ、そんな事か・・・。少々失望したぞ。確かに、方法論としてはそれも“アリ”だろうが、その場合、我の『属性』に多大な影響を及ぼす。『畏れ』とは、すなわちマイナス方面の感情であるから、それを取り込んだ場合、我の『属性』もそちら側に傾いてしまう。その場合、我の“有り様”が『荒御魂』や『悪魔』や『妖怪』などの方向に変質してしまう事になるから、我の完全なる『復活』からはほど遠くなってしまうわ。・・・それとも、其方の“目的”は、我を『破壊神』に祀り上げる事かの?〉
「いえいえ、滅相もない。私の“目的”は絶対なる『秩序』の確立ですよ。ならばこそ、貴方様に『復活』して頂きたいのです。貴方様は、ある意味この世界の唯一無二の『支配者』なのですから。」
〈ふむ・・・。まぁ、それに関しては否定はせん。この世界を形作ったのは我であるからな。しかし、ここで更なる疑問が増えたわ。ならば何故、『信仰』も途切れ、半ば消え去っておった我を其方が選んだのか・・・。あまり言いたくはないが、今現在のこの世界には、そうした存在も居るだろう?ならば、先にそちらにアプローチするのが話は早いのではないか?〉
忌々しそうに呟くソラテスであったが、現状を冷静に分析し、受け入れる度量はある様だ。
男は、ソラテスの言葉にさもありなんと頷いた。
「簡単で御座います。私は、むしろその存在を打倒したいと考えているからです。」
〈・・・・・・ほう?〉
その言葉に、ソラテスは更に興味深そうに男を見やった。
「その存在の名は、『至高神ハイドラス』。貴方様にとっても、因縁深い相手ではありませんか?」
〈ふむ、彼奴か・・・。確かに、彼奴の才覚から鑑みれば、我に成り代わってこの世界の『支配者』となる事も可能だろう・・・。が、新たな疑問も浮かぶのう。彼奴等の“目的”から鑑みると、ハイドラスの奴が、この世界の新たな『支配神』となる事も考えられん。それに、セレウスの奴がそれを黙っているのも、更に考えられんが・・・。〉
「申し訳御座いません。それに関しては、私も答えを持ち合わせておりませんので・・・。今現在のこの世界では、過去に関する文献、特に『神々』に関するモノは、意図的に隠されたか抹消されておる様ですからな。私が貴方様に至ったのも、単なる偶然で御座いますから。」
〈ふん、なるほどの・・・。我が封印されている期間に、何かあったのだろうが、それを示す『資料』は排除されておる訳か・・・。我も、今の『神霊力』では、自力で調べる事も出来ん。故に、今現在の『情報』から判断するしかない、か。まぁ、それは追い追い明らかにしていくとして、まずは其方の手段とやらの続きを聞こうかのう?〉
「はっ。通常ならば、先程述べた通り、『信仰』からエネルギーを抽出するのが望ましいのでしょう。しかし、『畏れ』の方が、もっと簡単に、より早くより多くのエネルギーを抽出する事が可能ですが、それですと、先程貴方様が述べた通りの事が起こり得ます。ここら辺は、一口にエネルギーと言っても、それが人々の精神エネルギーから成っているものですから、そうした制約があるのでしょう。では、それをプラスもマイナスもない、単純な“エネルギー結晶”へと変換が可能であれば、どうでしょう?」
〈・・・っ!?それを可能とした、と言うのかっ!?〉
男の言葉に、ソラテスは驚愕を露にした。
「如何にも。もっとも、私が確立した理論ではありませんので、どの様なプロセスを経て“エネルギー結晶”に至るのかは存じませんが、これならば貴方様のご懸念もクリアとなるのではないでしょうか?」
〈それが事実なら、確かにその通りだ・・・。プラスでもマイナスでもないエネルギーであれば、我の『属性』に影響はない。・・・そこまで言うのであれば、其方はその“エネルギー結晶”を入手した訳であるか?〉
「ええ、ここに。」
男が取り出したそれは、拳大ほどの宝石の様な結晶体であった。
見た目的にも美しいそれは、美術品としても非常に価値が高そうであるが、しかし、その真の価値を知る者にとっては、そんな程度の代物ではなかった。
〈おおっ・・・!?確かに、かなりのエネルギーを感じるぞ・・・。すでに、かなりのエネルギーを回収しておるのか?〉
「ええ。と、言っても、これは私の“協力者”から譲り受けたものなので、どの様な手段でエネルギーを回収したのかは存じ上げませんが・・・。」
〈ふむ。〉
ここに条件は出揃った。
ここからは、所謂『交渉』の段階であった。
「それで、いかがでしょうか?」
〈ふむ・・・。“エネルギー結晶”を寄越す代わりに、我に其方の“目的”に協力せよ、と?〉
「まぁ、要約すればその通りですが、利害は一致していると愚考致しますが?」
〈ふん、中々食えん男よの・・・。何処まで知っておるのかも気になるところではあるが・・・。〉
「いえいえ、私など、あなた方『高次』の存在から比べたらちっぽけな存在ですよ。だからこそ、『至高神ハイドラス』を貴方様に打倒して頂きたいのです。私では到底かなわない事ですが、貴方様であれば可能で御座いましょう?その為でしたら、貴方様の手足となって働く事も厭わない所存です。貴方様の『神格』から鑑みれば、この程度のエネルギー量では全快にはほど遠いでしょうからな。」
〈(ふむ・・・。確かに、このエネルギー量では、我の全盛期には遠く及ばん。しかも、ある程度『神霊力』が回復したとて、『信仰』のない状態では“顕在化”は自滅行為だしな。いすれにせよ、我の手足となる存在は必要、か・・・。まだまだ色々隠していそうな胡散臭い男ではあるが、中々に使えそうでもある、か・・・。それに、ある程度『神霊力』が回復すれば、我にとってはこの男の排除は造作もない事・・・。とりあえず、しばらくは様子を見てみるかの・・・。)〉
〈ふむ、話の大筋は理解した。其方の話に乗ってやろう。〉
「おおっ!有り難き幸せっ!!」
男は、床にひざまずき頭を垂れた。
それに、ソラテスは胡乱げに眺めながら、そういえば、と男に声を掛ける。
〈して、其方の名は何と申す?〉
「そうですな。私の事は、『隠』、とでもお呼び下さい。」
〈『隠』・・・?名は明かせぬか?〉
「はい、いえ。ご気分を害されたのならば申し訳ないのですが、我が一族の風習で、『真名』は家族以外には明かせぬのです。それが、例え『高次』の存在であっても・・・。」
〈ふむ、中々に面白い風習を持っておる様だの。良い。ならば『隠』よ。今現在の『現世』の話をもっと詳しく聞かせるがよい。〉
「はっ!!!」
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非、よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々御一読頂けると幸いです。