同窓会にて 2
続きです。
祝7万5千PV!
御覧いただいた皆様に感謝を!
今回は、主人公の主人公たる『異常性』、あるいは『英雄性』を表現してみました。
そうした“何か”を受け入れられたからこそ、偉人や英雄は歴史に名を残せたのだと僕は考えています。
では、そうでなかった場合はそうした人々が送る人生とは?
と言う事が、発想の原点ですね。
上手く表現出来ていれば良いのですが・・・。
ーーー
((・・・何だ、そんな事か。))
浩一の意を決した告白を、星菜と千恵子はそう軽く受け止めていた。
むしろ、ある種、彼女達の目からは完璧超人の様に映っていたアキトの、そうした“人間くささ”を感じた事で、少しだけ安心したと言っても過言ではないかもしれない。
浩一と拓郎の様子から、もっと重い事情でもあったのではないか?と、勝手にあれこれ想像していた事もある。
故に、人からの裏切りが理由で人から距離を置く様になったのかと、軽く納得しかける。
それに関しても、ただ付き合いが悪くなったぐらいのニュアンスで捉えたのかもしれない。
これは、大人であれば、大抵の人間が多かれ少なかれ直面する人間関係に関わる事だろう。
彼女達二人ももう40代そこそこであるから、人間関係については多少なりとも経験をしてきている。
故に、そう判断したかもしれない。
しかし、事はそんな単純な話では、当然なかった。
「俺と明人はさ、同じ高校に行ったんだけど、アイツ、一年生の途中で、サッカー辞めたんだよね。知ってるかどうか知らないけど、ウチの高校、それなりにスポーツが強いところで、けど、サッカー部はそこまででもなくてさ。けど、俺らと同時期に、サッカー業界では結構有名な監督が俺らの高校に就任しててさ。知ってるかな?あの有名な〇〇さんって選手を見出だした監督なんだけど・・・。」
「〇〇さんって、日本代表にも何度も選ばれたあの〇〇さんっ!?」
「スポーツに疎い私でも知ってるよぉ~!!!」
「そう、その〇〇さんの恩師が俺らの監督だったんだよ。もちろん、一番凄いのは〇〇さん自身だけど、その才能を伸ばした監督やコーチ、家族の支えが重要なのは今更言うまでもないよな?んで、その監督の就任から、俺らの高校のサッカー部は、徐々に力をつけ始めていたんだよ。その頃に俺らが入った訳。」
「「ふんふん。」」
「・・・。」
「明人はさ、これも知ってるかどうか知らないけど、ウチの地方のサッカー関係者には、結構有名な選手だったんだよね。俊足で、何でもこなすオールラウンダー。アイツ個人としては、司令塔ポジションが自分には向いてるって言ってたけどな。で、当然アイツの才能を監督も目をつけた。まだまだ当時は中学レベルに毛が生えた程度だったけど、高校に入ってその監督から指導を受けて、メキメキと頭角を現していったんだよね。後でコッソリ聞いた話だけど、監督は明人がプロにもなれると思ってたみたいだよ?実際、俺らが二年か三年の頃には、全国も視野に入れていたみたいだしな。」
「けど、そんな西嶋くんは一年生の途中で辞めちゃったのよね?サッカーに飽きたって事かしら?」
そこに、星菜の指摘が入る。
「・・・最初は、俺もそう思っていた。実際明人も、“もっと青春を謳歌したくてさぁ~。”とか、言っていたからな。けど、真相は別にあったんだよ。アイツは、サッカーを辞めざるを得なかったんだよ。」
「・・・何があったの?怪我、って雰囲気でもなさそうだけど・・・。」
「・・・。」
浩一は、少し目線を落とし、酒を一気に煽った。
そして、悔しさを滲ませた様に、言葉を絞り出した。
「・・・嫉妬ってヤツだよ。さっきも話したけど、そんな訳もあって、サッカー部の練習は厳しくってさ。結構辞めるヤツも多かったんだよね。それこそ、明人が誤魔化した様に、高校生活を謳歌したいヤツもいた。だから、俺も明人の嘘を見抜けなかったんだな。いや、これも言い訳かな。正直、俺はそういうヤツらを少し見下していた面が当時あったのは事実だ。厳しい練習に根を上げたんだと思ってたんだな。軽い優越感もあったのかもしれない。何をしても敵わなかった明人に、勝る部分が自分にもあったんだ、ってな。けど、俺なんてまだ可愛いモンだったんだ。」
「「・・・。」」
「・・・。」
「知ってるか?よく“女の嫉妬は恐ろしい”って言うけど、男の嫉妬の方が見苦しくて恐ろしいんだぜ?そうやって辞めた連中の中にはさ、結構上手くてそこそこ有名なヤツもいたんだぜ?けど、元々素行が悪くて協調性がなかったから、すぐにサッカー部も辞めて、それどころか高校すらフェードアウトしたんだよ。んで、才能があって、皆からの評判も良かった明人に嫉妬をして、理不尽な恨みを抱いたんだ。まぁ、そこら辺は理屈じゃないんだろうけどな?」
「・・・えっ?じ、じゃあ、もしかしてっ・・・!?」
そこまで浩一が語ると、何かを察した様に、星菜が声を上げた。
「今でもそうだけど、部員が問題行動を起こすと、部全体が公式大会出場停止になる事があるだろう?それを良い事に、ソイツは悪い仲間とつるんで明人を貶めようとしたんだよ。もちろん、明人は被害者側だったけど、それが下手にマスコミとかに嗅ぎ付けられると、センセーショナルな事件として、面白おかしく記事をでっち上げられる事は想像に難くないだろ?まがりなりにも、ソイツも元・部員で、現・部員との軋轢が生んだ暴力事件として、当然サッカー部全体に影響が出かねない。もちろん、ソイツらはその後補導されて、その後はどうなったかは知らないけど、その責任の一旦が明人にものし掛かった訳だ。で、部全体に迷惑を掛ける訳にはいかないって事で、明人はサッカー部を去る事にしたらしい。監督は強く引き留めた様だけど、学校側は問題を大きくしたくなくて、それを容認したんだとさ。恥ずかしい話、俺達サッカー部は、その事実を知らないまま、問題なく公式大会にも出場していた訳さ。けどそれは、明人の犠牲の上に成り立っていた事なんだよ。」
「「「・・・。」」」
信じられないと星菜と千恵子は目を見開いた。
今でこそ大人であるから、そうした裏事情があるだろう事は理解出来るが、もちろん納得いく事でもない。
言うなれば、大を活かす為に、小を切り捨て問題解決を図ったのである。
学校側から言えば、アキトは直接的には悪くなくても、そうした問題行動の要因の一つに、アキトがいた事は事実。
となれば、当然アキトに対して遠回しに圧力が掛かった事も想像に難くない。
そして、アキトはそれに気付かないほど鈍感ではなかった。
結果として、アキトが身を引く事で、その一連の事件に幕引きがされた訳である。
人から裏切られたとはそういう事かと、星菜と千恵子は、己の浅はかな想像を恥じる。
事態は、ただの人間関係にとどまらず、より深刻な大人達の裏切りも含んでいたからである。
それならば、人間不信になったとしても少しもおかしくはない。
しかし・・・。
「後でその事実を監督から聞かされた時に、俺は明人に、自分の思いも含めて謝ったんだよ。けど、アイツはそれを笑って許容したんだよなぁ~。“他にやりたい事も見付かったから、サッカーを辞めた事に後悔はあるけど、それも仕方なかった。縁がなかったと思って諦めるさ。”ってさ。」
「「・・・・・・・・・はっ???」」
「なっ?やっぱそうなるよなっ?アイツ、ちょっとおかしいんだよっ!普通そんな事があったら、少しは歪む筈なのに、何事もなかったかの様にケロッとしてんだよ。」
「ど、どういう事っ!?そ、それがキッカケで人間不信になったんじゃないのっ!?」
「(こくこくっ!)」
「いや、その後も普通に高校生活をエンジョイしてたよ?バンドやったり、バイトしたり、勉強したり・・・。高校の半ばには、暴走族に轢かれるトラブルもあったけど、特に大きな怪我もなかったし・・・。まぁ、本人が言うには、“そういう連中と僕は相性が悪いみたいだ。”って事らしいけど。」
「「え、えぇっ~~~!?」」
もはや、星菜と千恵子は軽いパニック状態であった。
これがアキトの異常性の一つ。
言わば、『主人公属性』であった。
これは、先程の体育祭のエピソードも含めたモノであるが、まるで物語の登場人物の様に、歴史上の偉人の様に、その場の(自分にとって、ではなく、全体にとっての)最適解を、自分の心情や理屈抜きに瞬時に選び取ってしまうのである。
もちろん、これも『英雄の因子』の『能力』、『事象起点』の一旦でもあった。
しかし、西嶋明人時代には『英雄の因子』の『能力』も、基本的にデフォルトの『能力』、『九死一生』しか、しかも微弱にしか発現していなかったのであるが、それでも『英雄の因子』の『能力』は、知らず知らずの内に西嶋明人時代のアキトにも影響を及ぼしていたのである。
もちろん、本人にその自覚はなかったが、その『能力』が、不完全な『主人公属性』となって現れていたのである。
「じゃ、じゃあ、何がキッカケで人間不信になったのっ!?女性関係?それとも、金銭トラブルかしらっ!?」
「さっきから、お前ら何言ってんだ?明人は人間不信になんかなってねぇ~ぞ?いや、正直そう言いたい気持ちは分かるんだけどよ?」
「「・・・・・・・・・はぁっ!?」」
星菜と千恵子の気持ちも分かる。
普通なら、そんな経験をすれば少なくともトラウマになるだろう。
そうでなくとも、知らず知らずの内に不満を溜め込み、精神や性格が歪んでしまうモノである。
しかし、アキトには一般的な常識が通用しない。
どこまでもマイペースで、何が起こっても揺るがないのである。
先程の『主人公属性』の影響からか、『悪堕ち』や『復讐心』からは、ある意味もっともほど遠い『精神性』を持っているのだ。
「じゃ、じゃあ、人と距離を置くキッカケってのはっ!?」
「普通なら、自分が傷付きたくなくて、そうなると思うよな?けど、アイツの場合は逆だ。周囲を傷付けたくなくて、距離をおいたんだよ。」
「「・・・・・・・・・???」」
もはや、星菜と千恵子には理解不能だった。
しかし、だからこそアキトは独りを選んだのであるが。
先程、星菜も指摘した通り、アキトには女性関係でも通常ならトラウマレベルになる経験があった。
アキトは、千恵子や星菜の例からも分かる通り、それなりにモテる方だった。
本人は、女性関係には敏感であるつもりだが、客観的には鈍感の部類に入るので、自分はモテる方ではないと思っていたが。
そんな彼にも、お付き合いをした女性は何人かいた。
しかし、皆同じ理由でアキトから離れていってしまった。
すなわち、“自分がいなくても平気なんだな。”、“自分は必要ないんだな。”と、言う事である。
向こうの世界でも、デタラメなスペックを持つアキトだが、この世界においても、かなりのスペックを持っていた。
もちろん、本物の“天才”ほどの才があった訳ではないが(『英雄の因子』を開花させていなかった為)、有り体に言えば、何でもそつなくこなせてしまったのである。
まぁ、実際には結構抜けたところもあるのだが、それは彼と同程度か彼以上の才を持っていれば見えてくる、と言う『前提条件』がつく。
高スペックな彼氏なんて素敵じゃない、と、人々は口々に言うだろうが、恋愛事においては、それも必ずしも良い結果をもたらさない事も往々にしてある。
言わば、お相手の女性が疲れてしまうのである。
これは、恋愛だけでなく、親子関係や兄弟関係、友人関係など、先程のアキトを貶めようとした者にも共通する事であるが、どうしても人間であるから、比較されてしまうのである。
先程の恋愛関連で言うと、最初はお相手の女性も高スペックの彼氏をゲットしたと喜ぶだろうが、徐々に周囲から比較される様になってしまう。
何とか良い女性、アキトに釣り合う女性を演じる訳だが、それにも限界がある。
ここで、アキトに隙でもあれば、まだお相手の女性の心にも余裕と言うか、バランスみたいなモノが取れる訳だが、それも、表向きには出てこない。
それ故、女性は疲れはててしまう訳である。
中でも極めつけだったのが、結婚すら意識した女性に、手酷い裏切りにあった事だろう。
彼女の言い分だと、“アキトと一緒にいると息が詰まる。何をするのも全てアキトが決めて、そしてそれは全て正しかった。けど、それでも私は自分で自分の生き方を決めたかった。”との事だ。
一見無茶苦茶な理論だが、それは感情の問題である。
例えば、親の決めたレールに子供が反発する様に、いくらそれが結果的に正しかろうと、人は自分の道は自分で決めたいモノなのだ。
もちろん、アキトが意図的に普通の人間関係において、主導権や優位性を取る事はなくとも、それは結局他者がどう感じるかだ。
「決定的だったのは、親父さんとの事だろうな。これは、オフレコで頼みたいんだが、実は明人の親父さん、自殺してんだよな。身内の恥を晒す事になるからって、俺らを含めた少数にしか明人も明かしてないんだけどさ。」
「「・・・・・・・・・えっ!?」」
衝撃の事実に、またもや星菜と千恵子は固まってしまった。
それが本当だとすると、それこそ人生が狂うレベルのトラウマであろう。
「何でも、親父さんは、明人と違って、結構なダメ親父だったみたいなんだよな。いや、人の親捕まえてそんな事言いたくはないんだけどさ。酒や女、ギャンブルでトラブルを起こす事も、昔からちょくちょくあったみたいなんだ。んで、明人が社会人として働き始めてからしばらく経った時、またしても親父さんがトラブルを起こした。ヤバイ事業に首を突っ込んで、結局下手を打ったらしい。まぁ、それ自体は、明人が何とかしちまった様なんだが、流石に堪忍袋の緒が切れたお袋さんが離婚を切り出した様なのさ。所謂、熟年離婚ってヤツだな。んで、結局離婚する事になったらしいんだが、その年代のオッサン連中ってのは、普段は威勢の良い事言ってても、いざって時は弱いらしくてなぁ~。目に見えて弱ってったらしい。何度か自殺未遂も起こしたらしいぜ?家族は、当然お袋さんの味方だから、親父さんも立つ瀬がない。けど、そこで明人が、俺が面倒見るって言ったらしいんだ。けど、明人の必死の説得も無駄足に終わったらしいけどな。」
「まぁ、親父さんにも親父さんなりの自尊心があっただろうから、何とも言えないんだけど、多分明人の迷惑になりたくなかったんじゃないのかな?」
「・・・かもな。けど、俺ぁあん時の明人の表情が忘れられねぇ~よ。“結局、人ってのは、自分がそうだって思わない限り、どんな言葉も無意味なんだな・・・。”ってさ。寂しそうに呟いていたよ。」
「なるほど、ね・・・。それで、もしかしたら、そのお父様の事も、西嶋くんの『異常性』が仇になったかもしれないと彼が考えた訳、か・・・。で、これまでの経験から、自分にそのつもりはなくとも、知らず知らずに周囲に悪影響を与えるかもしれないと考えて、最終的に彼は、人から距離を置く様になった、と言う事ね?」
「・・・多分な。まぁ、今や結局真相は闇の中、だけどな?・・・どうだい?幻滅したか?」
拓郎の言葉に、星菜と千恵子は戸惑ってしまった。
「西嶋くんは、何も悪くないのにっ・・・!」
「・・・確かに、話を聞く限りじゃ、西嶋くんに非はなさそうだけど、それは結局、私達が当事者じゃないから言える事かも、ね・・・。」
星菜の言葉に、千恵子はうつむいてしまう。
二人も、それは何となく感じていたからだ。
と言うのも、星菜も千恵子も、すでに配偶者を持つ身だからである。
客観的にみれば、二人の旦那さんは、アキトのスペックに比べたら大分落ちるだろう。
当然、多少なりとも、旦那さんに対して二人も思うところはあるかもしれない。
しかし、それでも二人の“身の丈”や“価値観”には合っていた。
少なくとも、多少の不満はあれど、窮屈な思いをしなくても良い程度には、結婚生活は上手くいっていた。
だが、仮に二人のお相手がアキトだった場合、二人のストレスは半端じゃないだろう。
「明人の存在ってのはさ、多分、強力な光みたいなモンなんだよ。遠くから眺める分には、“希望”足りうるかもしれないけど、近付き過ぎると、自分の影を色濃くする。それは、自分の矮小さだったり、力不足だったりを浮き彫りにしてしまうから、結果的には“苦痛”や“絶望”にもなっちゃうのかもな。俺も、少しはその気持ちが分かるし、さ。」
「「「・・・。」」」
四人は、今はもうこの世界にはいない大切な友人の生前の苦労を慮ったのだったーーー。
当たり前の話であるが、大きすぎる力は、時に人に福をもたらす反面、時に不幸をもたらす事もある。
アキトをアキト足らしめているその『英雄の因子』は、同時にアキトを蝕む“呪い”にもなっていたのである。
しかも、不幸な事に、アキトはその『英雄の因子』をこの世界では最期まで開花させる事も、制御する事も出来なかったのである。
その末で、アキトは向こうの世界に飛ばされる事となった訳である。
もっとも、仮にアキトが、セレウスの介入を受けなかったとしても、後天的に開花してしまっていたアキトの『霊能力』によって、今よりももっと悲惨な人生を送っていた可能性もある。
そういった意味では、ハイドラスの介入があったとは言え、アキトの『英雄の因子』を受け入れ易い土壌のある向こうの世界の方が、アキトにとっては生きやすい『世界』なのかもしれないーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂ける幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非、よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々御一読頂ける幸いです。