同窓会にて 1
続きです。
今回は、予告した通り幕間話です。
ーーー
「よぉ、久しぶりだなぁ~。」
「おぅ、本当だなぁ~。」
「元気そうね。・・・お互い、歳は取ったみたいだけど。」
「それは言わない約束だよぉ~、星菜ちゃんっ!」
「中学の同窓会なんて何時ぶりだよ?前に顔を合わせたのが、明人の葬式の時だったから・・・。」
「バッ、おま、空気読めよっ!!!」
「あっ・・・、わりぃわりぃっ!」
夕暮れ時の、日本のとある地方都市にあるホテルの宴会場にて、それなりに着飾った40代そこそこの男女が続々と集結していた。
その中の一部は、アキト、いや、西嶋明人時代の彼と親しい間柄にあった者達の様であった。
どうやら、今日は中学校の同窓会の様である。
「いいわよ、辰巳くん。あれから随分経ったし・・・。それに、私達まで西嶋くんの事を忘れたら、彼が可哀想だわ。・・・チエには酷な話かもしれないけどね?」
「な、何の事かなぁ~、星菜ちゃんっ・・・?」
「三上さん・・・。」
「あら、もう三上じゃないのよ?今は、一之瀬星菜よ?」
「こまけぇこたぁ~、いいじゃねぇ~か、三上ぃっ!ホント、お前と明人は理屈っぽいところで似てるよなぁ~!!!」
「あら、貴方が大雑把過ぎるのよ、藤井くん?けど、そうね・・・。西嶋くんと似てるって言われるのは、その、悪い気はしないわね・・・。」
「・・・やっぱり、星菜ちゃんも西嶋くんの事を・・・。(ぼそっ)」
「・・・佐伯さん?」
「あっ、・・・ううん、なんでもないよっ?」
辰巳浩一。
アキトの中学時代のクラスメイトである。
そして、ともにサッカーで汗を流した部活仲間でもある。
現在は、妻子を持ち、地元の企業に勤めるサラリーマンであった。
藤井拓郎。
アキトの小学校時代からの幼馴染みで、遂には小・中学全てにおいてアキトとクラスが同じであった、言わば腐れ縁でもあった。
中学時代の部活はバスケットボール。
現在は、妻子を持ち、ガテン系の企業に勤める肉体派であった。
一之瀬星菜、旧姓三上星菜。
アキトの中学時代のクラスメイトである。
真面目でやや堅苦しい印象のある女性。
中学時代は学級委員長や生徒会役員を務めていた。
中学時代の部活は吹奏楽部。
アキトとは、学級委員や生徒会の仕事などでも接点があった。
現在は、結婚し、二児の母である。
高橋千恵子、旧姓佐伯千恵子。
アキトの中学時代のクラスメイトである。
やや大人しいめの印象で、中学時代は本人は目立たない部類の女子だと思っているが、実際は身体的特徴の為にそれなりに目立っていた。
アキトとは、直接的な接点はさほどなかったが、星菜などの友人を介して、それでもそれなりに喋る方だった。
中学時代の部活は美術部。
現在は、結婚し、一児の母である。
「しっかし、アイツも何だかんだ言って、お人好しだったよなぁ~。散々人から距離を置いていたにも関わらず、結局、子供助けて逝っちまうなんてよぉ~。」
「・・・えっ?」
「・・・それって・・・?」
「だから、お前はっ・・・。」
「いや、俺だって悲しいんだぜ、浩一?一応、アイツとは、幼馴染みなんだからよぉ~。けど、よく言うだろ?人々の記憶から忘れ去られた時が、ホントに死んじまう時だって。同窓会なんてのは、昔を懐かしむモンなんだから、そこにゃアイツとの思い出も詰まってる。それに触れない方が、何か俺としてはアレだからよぉ~。」
「それは分かるけど、お前はデリカシーってモンをだなぁ・・・。」
「あのっ、ちょっといいっ・・・?」
「ど、どういう事なのっ・・・?」
「・・・あんっ?」
「よぉ、拓郎っ!久しぶりじゃねぇ~かっ!!!おっ、浩一も一緒かっ!?」
「おぅっ、お前啓吾かっ!?」
「随分久しぶりだなぁ~!」
気の置けない間柄だからこそ、そんな言い合いの応酬が始まる。
その会話の一部に、気になるワードがあり、星菜と千恵子はその会話に割って入ろうとしたが、そこに新たな人物の登場に、その会話も中断された。
そこで、同窓会の開会の挨拶が始まったり、彼女達も他の同級生から声を掛けられたりした。
この場に集まっているのは、何も彼らだけではない。
当然ながら、アキトの中学時代の同級生、百人以上が集っているのだ。
いつの間にか、その話題はうやむやになり、四人はそれぞれ友人達との談笑を交わすのだったーーー。
・・・
正式な同窓会は、会場の制約などもあって、せいぜい数時間ぐらいでお開きとなる。
その後は、そこで帰る者や二次会に流れる者に別れる。
その中にあって、浩一、拓郎、星菜、千恵子の四人は、静かめの居酒屋の個室にて、二次会を開いていた。
「いや、二次会はいいんだけどよ。お前ら、他の女子達と一緒じゃなくて良かったのか?」
「それもだけど、旦那さんと子供さんが心配しない?まだそんなに遅い時間じゃないけどさ。」
他の男友達の誘いを断って、拓郎と浩一は半ば無理矢理こちらに参加させられていた。
まぁ、友人達とは連絡先の交換もしているので特に問題ない様子だが。
一般的には40代そこそこになると、家庭も仕事も一先ず余裕が出来る頃だ。
更に、最近のその年代の者達は若々しく、バイタリティーにも溢れている。
事実、浩一も拓郎も、今度ゴルフにでも行こうと約束を交わしていたりした。
「今日は遅くなっても大丈夫だから。それに、今度女子達でお茶会でもしましょうって約束したわ。」
「二人ともゴメンねぇ~。無理矢理付き合わせちゃって。」
「いや、別にいいさ。野郎連中とは、また飲みにでも行きゃいいしよ。」
「だね。女子達とは、中々話す機会もないしな。」
「そんな事すりゃ、女房に勘ぐられちまうよなぁ~。」
「お待たせしましたぁっ~!!!」
そこに、元気よくお酒を持った店員が現れる。
「おっ、来た来たっ!!!」
「二人も、お酒は平気なんだな?」
「まぁ、嗜む程度にはね?」
「私も、そこまでは強くないけど・・・。」
「まぁ、乾杯くらいはいいんじゃね?ヤバかったら、ソフトドリンクに切り換えてもいいしよ。んじゃ、まぁ、再会を祝してっ!」
「「「「カンパ~イッ!!!!」」」」
軽くビールジョッキを合わせると、四人は思い思いに口を付ける。
「っかぁ~!やっぱ、一杯目はビールだよなぁ~!ホテルじゃ、結局ダベってばっかりで、大して飲めなかったしよぉ~!」
「拓郎は顔が広かったからなぁ~。」
「それもあるけど、俺、頭悪かったから、高校は工業系にいったじゃん?だから、中学卒業以降、中々皆と顔会わせなかったんだよなぁ~。」
「そりゃ、俺もさ。別々の高校に行っちゃうと、どうしても疎遠になるモンだよ。そっちで出来た仲間もいる訳だしな。」
「そうね。アレから、もう20年以上経ってるものね。まだまだ若いつもりだったけど、それを考えると、私達も歳を取ったのよねぇ~。」
「もう、星菜ちゃんっ!だから歳の話はやめようよぉ~!」
お酒が入ったからか、少しリラックスした雰囲気で笑い合う。
星菜と千恵子も、彼女達が言うほどお酒には弱くない様子だった。
その後、続々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ちながら、ゆっくりと時間は流れていった。
やはり、同窓会(の延長)と言う事もあり、話題はどうしても中学時代の思い出話に焦点が集まる。
当然、そこにはもう居ない者の話も含まれていた。
「んで、お二人さんが聞きたいのは、明人の事でいいんだよな?」
「・・・。」
「・・・やっぱり分かっちゃうよね?さっき、藤井くんが気になる事を口走っていたから、ちょっと・・・、ううん、大分気になっちゃって・・・。」
「・・・私も星菜ちゃんと同じ・・・。今だから言うけど、さ。私、当時、西嶋くんの事、好き、だったから・・・。」
「「「うん、知ってる。」」」
「・・・ええっ!?み、皆、知ってたのっ!!!???」
おずおずと、当時の淡い思いを告白した千恵子は、その後の間髪入れない三人の返答に驚愕していた。
「そりゃ、あんな事されたら男の俺でも惚れるわ。まぁ、明人は気付いてなかったかもしれねぇ~けどなぁ~?」
「ゴメンね、佐伯さん。俺でも分かってたよ。」
「西嶋くん、結構人気あったもんねぇ~。」
「・・・う、うぅ・・・。」///
「ちなみに、キッカケはやっぱり中2の時の体育祭のアレかしら?」
「う、うん、多分、そう。あの後から、自然と西嶋くんの姿を目で追いかけてたから・・・。」
ちなみに、ここでその体育祭のエピソードを語っておこう。
体育祭と言えば、体育会系の部活動をしている者達の見せ場であり、アキトはもちろん、浩一と拓郎に取っても数少ない活躍の機会であった。
特にアキトの活躍は目覚ましく、学校一と言われた俊足を活かしてチームやクラスの優勝に貢献していた。
ただ、やはり文化系の子達や運動が苦手な子達にとっては、憂鬱な行事でもある様だ。
星菜はともかく、千恵子は、お世辞にも運動が得意とは言い難かった。
しかし、そこに更に学校側は、迷惑な競技を実験的に投入していた。
全員参加のクラス対抗リレーなるモノを加えたのである。
もちろん、メリットもある。
クラスの団結力を高める事や、普段はスポットライトが当たらなかった子達にも、新たな活躍の機会を与えるモノだからである。
事実、生徒側からは、その競技は概ね好評だった。
もちろん、文化系の子達や運動が苦手な子達に取っては、より一層憂鬱さが増した訳だが、学校全体が盛り上がっている中で、中々不満をぶつけられる筈もない。
それに、公平性という観点からも、それぞれのクラスが平等であった。
中には、当然運動が得意な子、運動が苦手な子といる訳だが、それはどこも同じである。
むしろ、戦術的な観点から言えば、順番を如何に工夫するかによって、結果が大きく変わるという面白さもあった。
ちなみに、その競技のアキトのクラスの順番的に言えば、浩一と星菜は最初の方。
千恵子は真ん中らへん。
そして、アキトはアンカー前で、アンカーは拓郎であった。
「ってか、今さらなんだけどさ。いや、確かこれはあん時も議論したと思うんだけど、何でクラス一、いや、下手すりゃ学校一俊足だった明人がアンカーじゃなかったんだっけ?」
「お前忘れたのかよ?明人は100mくらいの短距離は得意だったけど、確か、ウチの中学って、トラック一周が200mだったろ?アンカー以外は半周、つまり100mだったけど、アンカーだと一周、つまり200m走らなきゃならない。途中で失速する可能性があるから、アンカーは勘弁してくれって明人自身が言ったんだよ。それに、アイツ他にも色々頼られてたしなぁ~。」
「あぁ~、そっかそっか。アイツ、別の競技も出突っ張りだったモンなぁ~。そりゃ、体力がもたねぇ~わな。」
「そういう事。」
途中までは、非常にスムーズであった。
各クラスが、入り乱れて、順位が目まぐるしく変化する。
自然と皆盛り上がっていった。
そして、順番が中盤に差し掛かると、とうとうアキト達のクラスがトップに躍り出た。
まだまだ予断を許さない状況だったが、大きなアドバンテージが出来た事は事実であった。
しかし、そこでアクシデントが起こる。
千恵子は、一般社会に出た今でこそ、そこまで目立つ容貌でもなかったが、中学校時分の女子としては背も高く(170cm)、発育も良かった事もあり、自身の身体に対してコンプレックスを抱えていた。
更に、心優しく気弱な性格から、文化系の自分がクラスの足手まといになる事を極端に恐れていたのである。
特に、中学校という、ある種狭い社会では、そこでの結果は後々尾を引く事となるだろう。
そうした数々の要因やプレッシャーが重なった結果、彼女は転んでしまった訳である。
当然、これまでのアドバンテージは白紙に戻り、アキト達のクラスは、一気に最下位にまで順位を落としてしまった訳だ。
恥ずかしいやら情けないならで、泣きそうになりながらも、千恵子はそれでも最後まで走りきり、バトンを次の者へと繋いだ。
しかし、場が盛り下がってしまった事もあり、精神性の幼い中学生が、心無い愚痴や文句をこぼしたとしても、それは仕方ない事だろう。
それが、例え千恵子を傷付ける言葉だったとしても。
だが・・・。
「今でも覚えてるぜ。“よく最後まで頑張ったな、佐伯。後は俺らに任せとけ。”ってな。っかー、カッコいいぜ、アイツはよぉ~!」
「拓郎も勝利の立役者だろ?俺は後で明人に聞いたんだけどさ、“失敗しちゃったけど、それでも最後まで頑張った佐伯さんが笑われたり、からかわれたりする事に、何か無性に腹が立った”、って事らしいよ。」
「アイツ、昔っからそういうトコあったからなぁ~。」
その後も、競技は続行し、他のクラスメイト達もリカバリーを頑張ったが、とうとう最下位のままアキトにバトンが渡った。
誰もが諦めムードの中、そこから圧巻の逆転劇が始まる。
まるでドラマかマンガの様に、アキトは全員をごぼう抜きして、トップに躍り出てみせたのである。
「他のクラスも、当然後半には足の早い奴等を
配置してたのに、よくもまぁそんな事出来たよなぁ~。まぁ、俺は、実際にアンカーでバトンを受け取る側だったから、一位(明人)と二位の間に、それほど差が無かった事は分かってたんだけどよ。」
「だから、お前も凄かったんだよ、拓郎。確かに明人がトップに躍り出たのは事実だけど、それをトップのまま逃げ切ったのはお前なんだからな。」
「あれは忘れられない思い出よねぇ~。私も、あの時は興奮しちゃったからねぇ~。」
「西嶋くんと藤井くん、終わった後にハイタッチしてたもんね。・・・カッコよかったなぁ~。」
「・・・明人が、だろ?」
「・・・まぁ、その、うん・・・。」///
「「「ハハハハハッ。」」」
「で、体育祭が終わった後に、さ。多分皆知らないだろうけど、心配して西嶋くんが声掛けてくれたんだよ。“佐伯さん、怪我してない?大丈夫?”って。」
「「「ほうほう。」」」
「で、私も“大丈夫だよ、ありがとう。それと、ごめんね。”って返したんだ。そしたら、西嶋くんが、“謝る事はないよ。佐伯さんが諦めなかったから、俺達は最後まで走る事が出来た。だから、恥じる事は何もないよ。”って。」
「ヒュッー♪」
「・・・天然ジゴロか・・・。」
「・・・女の敵ね・・・。」
「それから、西嶋くんの事、意識してたんだよね。まぁ、結局思いは伝えられなかったんだけど・・・。」
「まぁ、競争率も高かったモンねぇ~。・・・かくいう私も、少し西嶋くんの事は好きだったんだけど、さ。」
「「えっ!?」」
「・・・。」
「お、おい、初耳だぞっ!?」
「これは、俺も気付かなかったなぁ・・・。」
「ま、まぁ、チエほどじゃなかったからっ!それに、生徒会の時に一緒だったから、その時に、少しだけ、ほんの少しだけ、“いいなぁ~。”って思っただけだしっ!!」
「そっか、西嶋くんと星菜ちゃん、生徒会役員だったもんね。」
お酒の席であるし、もう時効であるからと、星菜も軽く口を滑らせてしまう。
それに、一瞬失敗した、と思いながらアセアセと言い訳をするが、そこはそれ、もうお互いに大人であるから、変な雰囲気になる事もなかった。
まぁ、これが当時に発覚していたら、女子同士の争いに発展していたかもしれないが。
「無理矢理やらされただけだけどね。」
「明人もそんな事言ってたよなぁ~。“部活の時間が減る”って、嘆いてたもんなぁ~。」
「けど、何だかんだ言ってしっかり生徒会も務めていたわよ?」
「アイツ、何だかんだ完璧超人だったからなぁ~。勉強もスポーツも、何でもござれ。ま、女子の扱いは、俺の方が上だったけどなっ!」
「はいはい、流石は中学時代から彼女持ちは違いますよねぇ~。」
「藤井くんも、西嶋くんとは別ベクトルで人気があったもんね。気さくで話しやすいから、男女、先輩後輩関係なく友人も多かったみたいだし。」
「まぁねぇ~。」
「フフフッ、そんな性格が正反対な二人が幼馴染みってのも、何か変な縁だよね。」
「・・・確かに。」
ハハハハハッ、と笑い合う。
そして、一旦場が落ち着いたところで、星菜が本題を切り出した。
「そんな西嶋くんが、何で人から距離を置く様になったの?もちろん、私とチエが知ってる西嶋くんは中学時代までだし、その後の人生で色々あった事は想像に難くないだけど、さ。」
「普段は面倒くさがり屋で、そこまで口数の多い方じゃなかったけど、それでも温かくて、いざとなるとちょっと熱くて、そして何より優しい西嶋くんのイメージじゃないよね・・・。」
「「・・・。」」
うつむく浩一と拓郎は、しばし無言でお酒のグラスをもてあそんでいた。
ややあって、拓郎がポツリッと呟いた。
「この二人には知る権利があるかもな・・・。アイツも逝っちまったし、もう時効だろ・・・?」
「・・・そう、だな・・・。まぁ、今更知ったところで、どうって話でもないしな・・・。」
訳知り顔で頷き合う浩一と拓郎。
この二人は、それなりに事情を知っている様だ。
「始めに言っておくけど、今更こんな事知ってもあんま意味ないぞ?アイツはもういないし、アイツのイメージが崩れるかもしれん・・・。思い出を思い出のままにするなら、聞かない事をオススメするぜ?」
「それに、俺達もそこまで詳しい訳じゃないからね。明人は自分の事はあまり多くは語らなかったし・・・。」
念押しをする二人を見やり、星菜と千恵子は顔を見合わせた。
ややあって、星菜はおずおずと先を促す。
「別に構わないわ。私達も、もう大人だし、家庭を持つ身よ。興味本意である事までは否定しないけど、一時でも好きだった男の子の、その後が少し気になっただけだし、今更何があると言う訳でもないわ。藤井くんも言った様に、西嶋くんは、もういない訳だし、さ。」
「西嶋くんには申し訳ないんだけど、自分達の気持ちの整理をつけたい、ってのが本当のところかも、ね。」
「「・・・。」」
自嘲気味にそう呟く千恵子に、しかし、浩一も拓郎も咎めはしなかった。
現実的に、西嶋明人という存在は、この世界からは居なくなっている。
けれど、彼らは違う。
今でも、この世界で生きる者達なのである。
一般的に、葬式と言うのは、故人を送る儀式であると同時に、残された者達の心を癒す儀式でもある。
これは、故人を偲ぶ事も同様で、それによって、故人と関わりのあった者達が、各々の気持ちに整理をつける事でもあるのだ。
同窓会というちょうどよい機会、更に事情を知っている様子である浩一と拓郎の存在もあって、何となく宙ぶらりんな気持ちに決着をつけられるのではないかと、星菜と千恵子が考えたとしても、それは無理からぬ事であろう。
それに、お酒も入っている訳であるし。
ガシガシと頭を掻いた拓郎は、ポツポツと語り始めた。
「そうだな・・・。どこから語るか・・・。俺自身、アイツとは高校の頃から少し疎遠になっちまったしなぁ・・・。」
「俺から話すよ。明人とは、高校までは一緒だったし。」
言い淀む拓郎に、浩一が助け船を出した。
「明人が人と距離を置くキッカケとなったのは、さ。人から裏切られたから、なんだよね・・・。」
そうして、アキトの異常性の一端が語られ始めるーーー。
誤字、脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非、よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々御一読頂けると幸いです。