タルブ政変~あっけない幕切れ~
続きです。
◇◆◇
「・・・・・・はっ???」
「・・・な、なん・・・、だとっ・・・!!!」
「「「「「っ!!!」」」」」
いやぁ~、大急ぎでその『身分』を手配したんすよ。
今回の件の、『切り札』とする為に、ね。
元々、今現在の『ロマリア王国』は、『ノヴェール家』や『リベラシオン同盟』の尽力により、『国内掌握』はほぼ済みつつあった。
それに、そもそも僕らが『ヒーバラエウス公国』を訪れた理由も、『食糧問題』の解決や『鉱石類』の取引についてや、『ヒーバラエウス公国』の特殊な『魔法技術』との『技術提携』を求めてである。
つまり、非公式ながらも一種の『事前交渉』の為でもあったのだ。
それを、急遽公式のモノにしただけの事。
まぁ、その為に、皆さんにはかなりご無理を言ったんですけどね・・・。
「先程から、アキト殿達を部外者であるとか、『ロマリア王国』の『間者』であるとか、非常に失礼な発言ですよ?それに、私と我が妹が『ロマリア王国』と『内通』しているとか、親しげな様子とか、むしろ当たり前の話なんですよ。もちろん、『ロマリア王国』側からの『外交使節団』・『本隊』が首都・『タルブ』入りした際には、皆さんにも正式に『発表』される運びになっておりました。それらに関する様々な事を『貴族院』で『議論』をする為にもね。しかし、その『事前準備』として、君主である父上や『大公家』の者が、その『先遣隊』と面会して、『顔合わせ』をしたり、『事前協議』をしたり、様々な便宜を図ったりするのは当然の事でしょう?もっとも、その場で勝手な『密約』を交わした、などという事はありませんがね。」
「「・・・!!!」」
まぁ、知らない(知られない様にした)のだから無理もないが、絶句とは正にこの事だな。
まぁ、この件がなければここまでする必要もなかったのだが、彼らを有無を言わさず黙らせる為には、僕らの『身分』を明確にしてしまうのが、もっとも手っ取り早かった。
ただの『冒険者』であれば、『ロマリア王国』の『間者』だ事の、『内政干渉』だ事の言われても中々反論のしようがないが、これが正式な『外交使節団』の一員となれば、これらを全てクリア出来る。
『戦争』をするかしないかはともかくとしても、どちらにその『要因』があったかによっては、『周辺国家』への『心証』も大分違う。
正式に『ロマリア王国』から派遣された『外交使節団』に手を出すなど、『ロマリア王国』に格好の『口実』・『大義名分』を与える事になるのである。
それに対して何もしなければ、『周辺国家』も『ヒーバラエウス公国』の対応を批判する事になるだろう。
故に、グスタークさんらの僕らに対する数々の『妨害工作』も、ひいては『ロマリア王国』に対する『敵対行為』となってしまう為、グスタークさんらを糾弾する事は、むしろ『ヒーバラエウス公国』側としてはやらなければならない事に早変わりする訳だ。
まぁ、『政治的』な事は面倒だから、正直この手は使いたくなかったんだけどね。
「皆にはまだ内密にしておったのだが、私ももちろん『ヒーバラエウス公国』の行く末を案じておったのだ。私が不甲斐ないばかりに、『ヒーバラエウス公国』の『意見』が割れる事となってしまったからな。しかし、昨今『ロマリア王国』でも大きな転換期を経て、その『魔法技術』も大きく様変わりしたのだ。知っている者も多いだろうが、『ロマリア王国』の『魔術師ギルド』が発表した『生活魔法』が登場した事によってな。これは、非常に便利な代物なのだが、その為には大量の『鉱石類』が必要となる。もちろん、『ロマリア王国』は非常に豊かな土壌を持っているが、『地下資源』に関しては『ヒーバラエウス公国』とは比べるべくもない。となれば、当然『鉱石類』もそれ相応に『高額』になってしまう。それは、『生活魔法』の普及には大きなネックとなった。そこで、『ロマリア王国』側から打診を受けていたのだ。『ヒーバラエウス公国』が抱える『食糧問題』を解決する事を条件に、『ヒーバラエウス公国』との『交易』の再開、要は『ヒーバラエウス公国』が潤沢に抱える『地下資源』を売って欲しい、とな。皆も承知の通り、『ヒーバラエウス公国』と『ロマリア王国』は、一応の『不可侵条約』を結んではいるが、長らく国交が途絶えた状態が続いておった。そこへ来ての、この話だ。何らかの“裏”があるのではないかと、水面下で『事前交渉』をしながら、『情報』を集めておったのだよ。」
「「っ・・・!!!」」
「「「「「っ!!!」」」」」
今まで口を閉ざしていたアンブリオさんが、そう『議員』達に説明した。
“筋書き”はこうだ。
先程も言及したが、そもそも僕らが『ヒーバラエウス公国』を訪れたのも、『食糧問題』の解決や『鉱石類』の取引についてや、『ヒーバラエウス公国』の特殊な『魔法技術』との『技術提携』を求めてであった。
・・・と、言うのは実は『ロマリア王国』や『ノヴェール家』に対する『建前』であり、本当の『目的』は、『ヒーバラエウス公国』に数多く眠る、『古代魔道文明』時代の『遺跡類』が僕らの本命であった。
『ライアド教・ハイドラス派』との水面下での『争い』を有利に進める為には、『失われし神器』をより多く所有した方が優位なのは今さら言うまでもないだろう。
まぁ、単純に僕の個人的な趣味って意味合いも強いのは否定しないけどね。
故に、ディアーナさんと邂逅したのも、ある種必然と言えば必然だったのだ。
その『建前』を完遂する前に、軽く『ヒーバラエウス公国』の『遺跡類』の調査をしようと考えた矢先に、偶然『暗殺未遂』を受けたディアーナさん達と出会う事となったからである。
まぁ、これももしかしたら『事象起点』の『力』かもしれないがな。
実際には、モルゴナガルさんが仕掛けた『偽』の『暗殺計画』だった訳だが、それによって僕らは、『ヒーバラエウス公国』の“事情”に深く関わる事となった訳である。
しかし、当初は僕もこの件を、何処か楽観的に考えていた。
それは、これまでの『経験則』から、今現在の僕らの『力』であれば、例えどんな手を使われようとも、それら一連の“事件”を、解決する事はそんなに難しくないと考えていたからであった。
そもそも、『ロマリア王国』の人間である僕らが、『ヒーバラエウス公国』の“事情”に深入りするのは憚られたって事もある。
実際、途中まではそれで上手くいっていたし。
だが、セレウス様とアルメリア様からの『情報』から、この一連の“事件”が一筋縄ではいかない事を僕は悟った。
僕らが求めていた『失われし神器』、いや、『古代魔道文明』末期の、ある意味“生き証人”とも言える『魔道人形』・エイルが、偶然にも発見され、ニコラウスさんの手に落ちたからである。
更に、それを知ったハイドラスが、この件に『血の盟約』のメンバーと、『ハイドラス派』の『協力者』である『異世界人』までをも投入して来た。
やるべき事が増え、更にその『難易度』が一気に増してしまった訳である。
そこで、僕は“やり方”を変えた。
それまでは、何処か他人事で、もちろん、『ヒーバラエウス公国』の事は、本来ならば『ヒーバラエウス公国』の者達で処理した方が良いと言う事もあって、積極的に関わる事とよしとしなかった訳だ。
しかし、事は『ヒーバラエウス公国』だけの事にとどまらなくなってしまった。
故に、僕は僕の持てる『力』を全力で駆使して、本腰を入れてこの件を終結させる事にした訳である。
『ロマリア王国』の『外交使節団』の一員であると言う『身分』も、その一環であった。
元々僕は、この世界や『ロマリア王国』の『政治』に対して深く関わるつもりはなかった。
これは、元々持っている僕の『価値観』、まぁ、『政治的』な事に関わるのは正直面倒くさい、という事もあるのだが、ハイドラスとの因縁や、『ハイドラス派』との事、僕の持つ『英雄の因子』の事もあり、『アキト・ストレリチア』という存在が、ひとつところにとどまれる『立場』にない、という“事情”もあった。
『血の盟約』のメンバー達や、『異世界人』が関わる可能性の高い『失われし神器』“争奪戦”には、少なくとも『S級冒険者』クラスの『実力者』が必要である。
『リベラシオン同盟』も大きくなり、遂には『ノヴェール家』や『ロマリア王国』の後ろ楯を得たとは言え、それでもこの世界の『生ける伝説』とさえ呼ばれる『S級冒険者』クラスの『人材』が、そこら辺にゴロゴロ転がっている訳もない。
となれば、当然その“争奪戦”に携わる者達は、僕らをおいて他にいない訳である。
ひとつところにとどまれない人間が、重要な『ポスト』に就く訳にはいかない。
それでは、当然ながら『組織運営』が滞ってしまうからである。
故に、当初より、僕は重要な『ポスト』をダールトンさんらに任せてきたという経緯があった。
何も、『政治的』な事が面倒くさいからといって、全て丸投げしていた訳でもないのである(棒)。
今回の『外交使節団』の一員である、という『身分』も、正直結構ギリギリのラインであった。
先程も述べた通り、僕らはいつ居なくなるとも分からない『立場』だ。
『ハイドラス派』や『異世界人』達が、本格的な動きを見せれば、僕らが出張って行かなければならないからである。
故に、本当の『外交使節団』の『本隊』が派遣されるまでの“繋ぎ役”として、『先遣隊』の代表という『ポスト』を無理矢理ねじ込んだ訳である。
もっとも、向こうの世界の『外交交渉』においても、『国』のトップたる『首相』や『外相』が正式な『調印』・『調停』などを結ぶ前に、『外務省』が水面下で『外交官』を派遣して『事前交渉』をしたり、段階が上がって『局長』級の者達が『事前合意』する事はよくある事である。
故に、この『外交使節団』の『先遣隊』というのも、あながち不自然な存在でもないのだ。
それに、やるべき事はしっかりやっているし、『建前』の方の任務も完遂している。
リリさんとの『共同開発』とは言え、『ヒーバラエウス公国』の『食糧問題』の道筋となる『農作業用大型重機』の『開発』には、すでに成功している。
その関連で、すでに僕は『ヒーバラエウス公国』が持つ特殊な『魔法技術』、『増幅魔法』を習得しているし、それだけにとどまらず、リリさんが提唱した『魔素結界炉』の『知識』も手に入れた。
『グーディメル子爵家』の協力を得て、『農作業用大型重機製作プロジェクトチーム』を結成したし、その『プロジェクト』が軌道に乗るまでの措置として、『ロマリア王国』から『食糧輸送』をする事や、まだ明言していないが、その関連で『鉱石類』の『輸出』についても、『グーディメル子爵家』との“繋がり”もあって、そちらの『交渉』もスムーズに運ぶ事だろう。
『ヒーバラエウス公国』の君主であるアンブリオさんや、『大公家』の人間であるドルフォロさんやディアーナさんとの面識も得た。
後は『外交使節団』・『本隊』に『引き継ぎ』をしっかりすれば、いい感じにやってくれる事だろう。
一方で、本当の『目的』であった、『失われし神器』、正確には、『魔道人形』であるエイルも、ニコラウスさんから奪還出来たし、『ハイドラス派』からの刺客である『血の盟約』のメンバーと、最大の脅威である『異世界人』の“干渉”も退けた。
今回の“争奪戦”は、悪いが僕らの勝利である。
まぁ、出来れば今後も勝たせて貰うつもりだけどね?
そして、その最後の“仕上げ”として、『ヒーバラエウス公国』の『不穏分子』であるグスタークさんやシュタインさん率いる『主戦派』や、ニコラウスさんという真の『黒幕』の排除に協力している訳である。
ここまで深く関わったのだし、ここで全て“御破算”にされるのはこちらとしては目も当てられない。
故に、乗りかかった船ではないが、一応の決着まで見届けるつもりなのである。
「そうとは知らず、我が弟とシュタイン候はアキト殿達に様々な『妨害工作』を行ってしまったのです。『ヒーバラエウス公国』の『政変』を企てた程度ならば、もちろん重大な『反逆行為』ですから、それ相応の『罰』は与えねばなりませんが、『ヒーバラエウス公国』の『御家騒動』として内々に、穏便に『処理』する事もまだ可能でした。私も血を分けた実の弟を処罰する事は心苦しいですからね。しかし、『ロマリア王国』の、しかも『外交使節団』の一員であるアキト殿達に手を出してしまったとあっては、当然、これを放置する訳には参りません。下手すれば『外交問題』ですし、『ヒーバラエウス公国』と『ロマリア王国』の今現在の微妙な関係を鑑みれば、これまでの『事前交渉』は全て水の泡と消えて、何の旨味もない『戦争』に突入していた可能性すらあるからです。先に手を出してしまったのは『ヒーバラエウス公国』ですから、『周辺国家』の『心証』も最悪でしょう。そんな四面楚歌の中で、『戦争』をするメリットも、またその余力も『ヒーバラエウス公国』にはありません。故に、速やかに我が弟らを処罰する事によって、この件を『手打ち』としなけれはならないのですっ!!!」
「「「「「っ!!!」」」」」
「そ、そんなっ、バカなっ・・・!わ、私も『大公家』の人間だぞっ!?なのに、そんな話は一言も聞かされていなかったっ・・・!!!デタラメを言っているのではないのかっ・・・!!!???」
「それは当たり前だろう、グスターク?お前は『主戦派』寄りの人間だ。いくら『大公家』の人間とは言え、これは『外交交渉』を基本とする『事前交渉』だ。『ロマリア王国』とて事前に『情報』くらい集める。ならば、『主戦派』に『妨害』される可能性があるのに、『主戦派』寄りの人間にわざわざ知らせる者はおらんだろう?我々は言わずもがなだしな。」
「ぐっ・・・!!!」
グスタークさんだけでなく、『貴族』達にも内密にしていた、と言う事にしているのは、先程のアンブリオさんの説明の通りだ。
『ロマリア王国』の“裏”を探ると同時に、『ヒーバラエウス公国』の者達からの『妨害工作』を警戒しての措置だ。
『政治』に携わる者ならば、それくらい分かりそうなモノだがな。
いや、あるいはそれだけ追い詰められている、と言う事かもしれないが。
「わ、我々は『リベラシオン同盟』には、別に何もしてはおらんぞっ!!!」
狼狽えたシュタインさんは、そんな事をのたまう。
いや、そういう話じゃないんだよねぇ~。
「正確には、何も出来なかった、でしょう?結果的に何もなかったからといって、この件は、はい、そうですか、と言う事には行きませんよ?あなた方も『政治』に携わる人間ならばよく分かっている筈だ。言うなれば、あなた方は体の良い『スケープゴート』なんですよ。この件を終息させる為の、ね。もっとも、それは『冤罪』でもなんでもなく、あなた方に全て非がある。『ヒーバラエウス公国』を盗る事に目が眩み、基本的な事を見逃しましたね。結局は、『権力者』と言えど、『ヒーバラエウス公国』の『国益』に反するならば、それはその『国』にとっては厄介者でしかない。突き詰めて言ってしまえば、『権力者』は『責任者』なんですよ。“何か”あった場合に『責任』を取るからこそ、我々は『権力』を享受する事が出来るんです。その事を忘れてしまってはいけませんよ?」
「「っ・・・!!!」」
今度こそ、グスタークさんとシュタインさんは項垂れた。
長々と語って来たが、ここへ来てようやく心が折れた様である。
やれやれ、ようやく片付きそうだなーーー。
◇◆◇
「これはっ・・・、どうやら『決着』が着きそうですわね・・・。」
「そうだねぇ~。けど、ごめんねぇ~、ディアーナさん。色々と黙っていて・・・。」
当初は混乱していたディアーナも、アイシャらと合流してからは、今回の件の“裏側”の説明を受けながら事の経緯を見守っていた。
その傍らには、バツの悪そうな感じのアンブリオがいるが、『議員』達の手前、何でもない風を装っていた。
「いえ、私とて『政治』に関わる者。アキト様には深いお考えがあって黙っていた事は理解しておりますわ。それに、アイシャ様達の説明を受けながら事の経緯を見守っていたおりましたが、全てを私が知っていたら、確かに些か“不自然さ”が際立っていたかもしれませんわ。お恥ずかしながら、私は『腹芸』が得意ではありませんし。」
「それも、別に悪い事ではありませんよ、ディアーナ殿。要は『適材適所』ですよ。民衆や他の『貴族』達が貴女に求めている事は、そうした『政治家』然としたディアーナ殿ではなく、『知性』や『慈愛』を兼ね備えた『等身大』のディアーナ殿です。無理に自分を“何か”の『型』にはめる必要はありません。もちろん、ある程度の体裁を保つ必要がある事は否定しませんが、それにとらわれ過ぎてしまうと、“歪み”が生じてしまいますからね。その結果がドルフォロ殿や、グスターク殿なのだそうです。もっとも、ドルフォロ殿は、その『呪縛』から解き放たれましたが。」
自嘲気味にそう呟くディアーナに、ティーネはそうフォローした。
その言葉に、ディアーナは大きく目を見開いた。
アンブリオも、その言葉には興味深そうに聞き入っていた。
「それはっ・・・、我が身につまされるお言葉ですわね・・・。それも、アキト様が?」
「ええ。ですが、確かにこれは主様からの受け売りではありますが、私もそう感じています。と、言うのも、これは今までお話しておりませんでしたが、私も、そして、まぁ、リサ殿はまた違いますが、アイシャ殿も、それぞれの『種族』では、それなりに『立場』がありますからね。」
その言葉に、ディアーナとアンブリオはハッとした。
『ヒーバラエウス公国』では、『ロマリア王国』とは違い、そこまで深い『他種族』に対しての忌避感はないが、さりとて、『ドワーフ族』以外の『他種族』はやはり珍しかった。
故に、ディアーナも、そしてアンブリオも、アイシャ達の“事情”に突っ込んだ話をする機会はなかった。
しかし、『英雄』と呼ばれる存在の側にいる者達が、名もない者の筈もない。
表現は悪いが、『力』ある存在には、それに取り入ろうとする者達がいるモノだ。
それは、先程のディアーナの言葉ではないが、『政治』に関わる者ならば察しがつくだろう。
もちろん、アキトとアイシャ達の『信頼関係』を間近に見ていたディアーナには、その『出会い』が悪いモノではなかった事も想像がついただろうが。
「あれっ?そういえば言ってなかったっけ?じゃ、改めまして。私は『鬼人族』の『アスラ族』族長・ローマンの子、アイシャ・ノーレン・アスラと申します。」
「・・・族長のご息女っ!?」
「なんとっ!!!」
「えへへぇ~、そうだよぉ~。まぁ、私って、基本ガサツだから、気付かなかったと思うけどねぇ~。」
あっけらかんとそう述べるアイシャに、ディアーナとアンブリオは妙に納得していた。
ディアーナ達がアキト達に感じていた“違和感”の『正体』に、そのアイシャの様子から朧気ながらも気が付いたからである。
「それでは、私も。改めまして。私は、『エルフ族の国』の『最高意思決定機関』、通称『十賢者』が一人、グレンフォード・ナート・ブーケネイアが孫娘である、エルネスティーネ・ナート・ブーケネイアと申します。」
「『エルフ族の国』の『最高意思決定機関』っ!?」
「その一人の孫娘か・・・。つまり、『ヒーバラエウス公国』における『貴族院』の『議員』に相当する方の血縁者、と言う訳だな・・・。」
それは、アキト達が、何処となく『高貴』な感じがするのに、何処までも『自然体』である事だった。
「えぇ~、この順番で自己紹介するのなんかヤだなぁ~。ボクん家なんて、アイシャちゃんやティーネさんに比べたら大した事ないし・・・。コホンッ、では改めまして。私は、『ドワーフ族』にて、代々『鍛治職人』を営んでおります、『シュトラウス家』の末娘、リーゼロッテ・シュトラウスと申します。僭越ながら、私は『英雄』の『専属』を仰せつかっております。」
「リサ様はあの『シュトラウス家』のご息女なんですかっ!!!???」
「な、なんとっ!!!???『金属加工技術』に優れた『ドワーフ族』。その中でも、とりわけ秀でた者に贈られる『称号』である『偉大なる達人』を数多く輩出する、あの『シュトラウス家』かっ!!!噂では、最近前人未到の三代揃っての『偉大なる達人』の『称号』を授けられたと聞き及んでいるが・・・。」
「へぇ、ハインツ義兄さん、とうとうやったんだねぇ~!」
「ああ、リサちゃんのお姉さんと結婚した人だっけ?」
「プレッシャーもあったでしょうに・・・、見事なモノですねっ!」
その『高貴』さの『正体』は、今の本当の自己紹介から合点がいった。
それは、むしろ当たり前だったのだ。
アイシャは、『鬼人族』の『代表者』の娘。
ティーネは、『エルフ族』の『名門貴族』(相当)の血縁者。
リサも謙遜してはいるが、彼女の家も『ドワーフ族』の『鍛治職人』からしてみれば、正に『名門』中の『名門』だった。
三人が三人共に、その『種族』を代表する者達の血族なのである。
もちろん、本人達の『実力』も、すでにディアーナとアンブリオは把握していた。
それらを合わせて鑑みれば、『増長』、とまではいかないが、それにふさわしい『態度』を、知らず知らずの内に取ってしまいそうなモノである。
これは以前にも言及したが、人の“考え方”や“価値観”は、『立場』や『環境』、または周囲の者達の存在によって、容易に姿を変えるモノなのである。
これが、所謂“同調”であり、どれだけ『自己』をしっかり持っていても、その影響からは逃れられない。
何故ならば、人は『群れ』で生きるからだ。
『群れ』の一員である以上、必ず“誰か”と関わる事になる。
その『関係性』の中で、人はいくつもの『仮面』を使い分ける事となる。
例えば、本来の自分。
家庭での自分。
仕事場での自分。
学校での自分。
友人達の中の自分。
恋人の前での自分、などなど。
これは、至極一般的な事である。
しかし、多くの『仮面』を使い続けてしまうと、時として“本来の自分”を見失ってしまう事も起こりうる。
そこまで行かないまでも、『人間関係』に疲れる事や、言い様のない居心地の悪さを感じる者達も多いのではないだろうか?
それは、結構当たり前の話なのだ。
人は、その『立場』や『役割』に引っ張られる事があるからだ。
よく、「『立場』は人をつくる」、なんて言葉があるが、実はそれには続きがある。
「『立場』は人をつくるが、成長する人とダメになる人に分かれる。」
「『立場』は人をつくる」、と言うのは、『役職』や『リーダー』に据える事によって、責任感が生まれて成長する、と言う類のポジティブな言葉だ。
しかし、何事にも表があれば裏もある様に、人によっては、それが仇となる事もある。
その続きである「成長する人とダメになる人に分かれる」と言うのは、前者が責任感が生まれて成長する様になる、言わば『立場』にふさわしい人になろうと『努力』するのに対して、後者はその『立場』に胡座をかいて、成長を、言わば『努力』を怠る様になる事である。
総じて言える事は、どちらもその『立場』や『役割』に引っ張られている、と言う事でもある。
これは、悪い事ではないのだが、しかし、時として“本来の自分”を見失う事の要因ともなりうる。
その最悪の結果として、『立場』や『権力』が“全て”となって、それに固執してしまうグスタークやシュタインの様な人間を生み出してしまう事も起こりうるのである。
「ですが、私達は主様と一緒にいる時は、“本来の自分”を見失う事もありません。何故なら、主様には『本質』を見る目が備わっている為、私達もそれぞれの『立場』を演じる必要がないからです。確かにそれぞれの『立場』も自分の一部ではありますが、『自分自身』ではありませんからね。」
「っ・・・!!!」
「っ・・・!!!」
そのティーネの言葉に、『立場』を演じる機会の多いディアーナとアンブリオは、深く感じ入るのだった。
何事にもおいても、大事なのは『バランス感覚』である。
『立場』や『役割』と、“素”の『自分自身』を混同しない事。
それを、アイシャ達はアキトから、そして、アキトは、自身の『前世』から学んでいたのだったーーー。
誤字、脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々、御一読頂けると幸いです。