タルブ政変~情報機関~
続きです。
当初のコンセプトとして、単純なテンプレ展開をあえて外していこうと試みていたのですが、書けば書くほど、『冒険譚』と言うよりは、『政治物』って感じの色合いが強まってしまいましたね(笑)。
まぁ、主人公が元・おっさんなら、そうなるんじゃないかと考えた次第ですが、そこら辺のバランスも取りながら続けていきたいと思いますので、引き続きお付き合い頂けると幸いです。
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アキト・ストレリチアは、所謂普通の『物語』の『登場人物』達とは一線を画した『精神性』や『考え方』を持っていた。
かつてはアキトも、所謂『冒険物』の『キャラクター』達が織り成す『物語』を、“カッコいい”と思って憧れていた部分があった。
『マンガ』・『アニメ』・『ゲーム』においても、『主人公』やその『物語』の『登場人物』達が、某かの苦難や敵対する者達の妨害などを乗り越えて成長し、最終的に『目的』、大抵は“『平和』な世を手にする”と言ったモノが多いが、に向かって邁進していくのを、手に汗握って見守っていたモノである。
また、かつてアキト自身がやっていた事もあって、所謂『スポーツ物』、まぁ、『サッカー』を含めた様々な『ジャンル』を、『二次元』・『三次元』に関わらず見るのも好きだった。
当然、その中には、『現実』ではありえない『現象』なんかを(まぁ、これは、『冒険物』の『キャラクター』達にも言える事なのだが)、ツッコミを入れつつ楽しんでいたのだ。
しかし、“物事を斜に構えて見るのがカッコいい”と言う、所謂『厨二病』の時期を経て、社会人として働く様になってからも、彼は、『オタク』としてあいかわらずそうした『コンテンツ』を愛していたが、しかし、当然そこに彼自身の『経験』が加わってくる訳で、昔の彼とは別の“視点”からそうしたモノを見る事が時折あった。
すなわち、何故この人達は争っているのだろうか?、と言う単純な疑問であった。
『スポーツ物』なら、まだその『戦う理由』は明確だ。
“万年地方大会一回戦敗退からの脱却”とか、“全国大会出場”とか、“全国制覇”とか、『戦う理由』はそれぞれ違うだろうが、そこに向かっていく過程にそれぞれ『ドラマ』があるし、何より、その『根底』には、その『スポーツ』が好きだと言う『想い』があるだろう。
だから、『登場人物』達が、その事を競い合う事に特には“違和感”がない。
しかし、『冒険物』ならば、所謂単純な『バトル物』ならばまだしも、その中の『要素』として『戦争』が関わってくると、“大人”ならではの観点から、何故その『世界線』の“大人”達は“紛争”を事前に回避しようと努力しなかったのか?、と言う事に単純な疑問を感じる様になったのである。
まぁ、これは、『視聴者』の年齢によって、感情移入する『キャラクター』や“視点”がそれぞれ変わると言う、ある種の『物語』の“深み”にも繋がるのであるが。
もちろん、『主人公』や『登場人物』達自らが望んで“紛争”を始める事は非常に稀だろう。
どちらかと言うと、“巻き込まれる”事が多いかもしれない。
だから、アキトが感じている“違和感”は、何故“大人”達がそんな“無能”なのだろうか?、と言う点だった。
もちろん、『メタ』的な観点からは、そうしなければ『物語』にならないだろう、と言う意見もあるだろう。
『現実』においても、“大人”達が様々な『不祥事』を起こして、『芸能人』、『企業』の『上層部』、『政治家』などの人々が、連日連夜の様に『謝罪会見』などをしている事を鑑みれば、“大人”を信用出来ない、と言うのもある意味無理からぬ事であるかもしれない。
しかし、案外大抵の“大人”達と言うのは、目立たないだけでそれほど“無能”と言う訳でもない。
アキト自身、そうした“大人”の一人であったから、『物語』の様に、何の“前触れ”もなく“紛争”が起こってあたふたするとか、子供達を前線に送って何もせずに傍観している、と言う“大人”にはどうしても“違和感”を感じてしまったのである。
もちろん、ただの『フィクション』である事は理解しているのだが。
実際の向こうの世界を取り巻く情勢も、蓋を開けるとそれほど『平和』でもないのだ。
『政治的』・『経済的』・『軍事的』に様々な“思惑”を持った諸外国が存在し、ニュースなどでも、『世界』はそれほど『平和』でもない事を、大抵の者達は知っているだろう。
しかし、大半の者達は、それが自分達の身近な問題とは意識していない。
それは、“大人”達が、『水面下』で人知れず尽力しているからである。
故に、特に現代日本においては、子供達が戦火に巻き込まれる事態とはなっていないのである。
アキトは、その事をしっかりと理解していた。
そして、何の因果か、アキト自身、『異世界アクエラ』に『異世界転生』を果たす事となった。
この世界は、向こうの世界とは様々な点で『法』が違う。
しかし、その『根底』にあるモノまでは変わらないので、『前世』の『記憶』を持ったまま『転生』する事となったアキトが、『魔獣』や『モンスター』、あるいは『犯罪集団』に対する『武力行使』ならばともかく、『国』や『宗教団体』に対しては『武力』ではなく、ある意味『正規』の『方法』である『根回し』、所謂『交渉』や『折衝』を重視する様になっていったのは、ある意味当然の流れであろう。
“戦って勝つ”のは、非常に分かりやすいが、しかしその反面、その後に多くの問題を孕んでいる事は歴史を見れば明らかであろう。
ただの『物語』ならばそれも“有り”だろうが、現実の『人生』においては、その後も『ストーリー』が続く訳である。
“大人”としての『精神性』も持つアキトが、面倒でもそうした単純な『争い』を『選択』をしないのは、むしろ当然の事なのであるーーー。
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「ニッ・・・!?あっ、いや、どなたかな、そちらの方は?」
一瞬、思わず名前を口走りそうになったグスタークさんは、すんでのところでそれを回避し、知らぬ存ぜぬを貫く事にした様である。
まぁ、そうするしかないだろう。
生憎、“この場”を用意した以上、グスタークさん達に『逃げ道』など最早ないのであるが、それは理解が及ばないだろうしな。
「彼らは『証言者』ですよ。我が弟らが企んだ、一連の『政変』を『証明』する為の、ね。」
そんなグスタークさんの様子を、嘲笑する訳でもなく、憐れむでもなく、真っ直ぐ見据えるドルフォロさん。
その発言に、グスタークさんと『主戦派』の『貴族』が、キッとニコラウスさんとモルゴナガルさんを睨み付けた。
ー裏切ったなっ!!!???ー
多分、そういう心情なんだろう。
まぁ、モルゴナガルさんに関しては、あなた方が“裏”から手を回していたので、彼がこちらに寝返ったのは、むしろ自分達の行いの報いなんですけどね?
まぁ、本当はそれだけでもないのだが。
しかし、ニコラウスさんはそうではない。
彼の場合は、完全に『自己保身』の為である。
それ故に、グスタークさん達に睨まれたとしても、それは仕方のない事だろう。
まぁ、だからこそ、ニコラウスさんは“この場”に来る事を拒んだ訳だが。
「さて、それでは『役者』は全て揃いました。これから“謎解き”を開始致しましょう。」
「「「「「っ・・・!!!???」」」」」
ドルフォロさんは、辺りを見渡すと、そんな事を宣言した。
ドルフォロさんには、所謂『推理物』で言うところの、『探偵役』をお願いしている。
これは、『ロマリア王国』側の人間である僕がやる訳にはいかないのはもうお分かりだとは思うが、彼が『ヒーバラエウス公国』の第一公太子であり、なおかつ確かな『発言力』を持つ人物だったからである。
もちろん、アンブリオさんかディアーナさんにでもお願いしても良かったのだが、君主からの発言となると、皆さんに忖度が働いてしまう可能性もあるし、ディアーナさんは『腹芸』が上手くないので除外させて貰った。
当然ながら、『公太子』や『公女』の『立場』からは、ドルフォロさんとディアーナさんにも同様の忖度が働く可能性があるが、それでも、『権威者』からよりはまだマシだろう。
ここら辺は、『メタ』的な観点、かつ個人の意見ではあるが、『推理物』では、大抵の場合『探偵役』が『権威者』ではないのは、読者含めて、様々な者達がツッコミを入れやすいからではないだろうか?
実際の『警察』は、それほど“無能”ではないが、もし仮に『権威者』が“無能”であったとして、そしてその者がメチャクチャな『推理』を披露したとしても、冷静にツッコミを入れられる者がどれだけいるだろうか?
『警察』も人間だ。
自分を悪く言う者を笑って許せる『精神』は、中々持ち合わせていないだろう。
しかも、『推理物』では大抵の場合が“極限状態”だ。
『武器』なり『逮捕術』なりを持つ人物を批判する事によって、その人物から不興を買う事はなるべく避けるべき事態だろう。
もしかしたら、助けて貰えない可能性もあるのだから。
また、通常の『警察組織』においても、『捜査本部』の『権威者』が、見当違いの『捜査方針』を打ち出したとしても、それに対して反対意見を入れられない事が往々にして起こりうる。
何故なら、『狭い社会』の中では、“人間関係”を悪くすれば、『出世』も見込めなくなるし、何より『居場所』が無くなってしまうからである。
まぁ、これは『警察組織』に関わらず、様々な『集団』が潜在的に抱える問題点ではあるが。
故に、何でそんな事が起きたのか?、って端からはツッコミが入りそうなお粗末な『不祥事』が起こるのだろう。
これも、ある種の『同調現象』・『同調圧力』が生み出す負の『現象』である。
今回の場合も同様である。
まぁ、先程も述べた通り、『公太子』や『公女』の『立場』はあるものの、ぶっちゃけ『権限』上では『貴族院』に列席している『議員』達と変わらない『立場』だ。
故に、ある種『論理的』に納得しなければ、『議員』達の信頼を得る事も難しい。
逆に言うと、これは先程の例にも挙げた『探偵役』もそうだが、『権限』がないからこそ、その『論理』だけが『焦点』となるのである。
『推理』がしっかり出来てこそ、『探偵役』は『探偵役』足りうるのである。
ま、あくまで僕の意見ではあるけどね。
「さて、何処から語りましょうか?やはり、『ヒーバラエウス公国』の“裏”で起こった、我が妹の『暗殺未遂事件』からでしょうか?」
「「「「「っ!!!!!?????」」」」」
ザワッと“この場”の者達がざわめいた。
それはそうだろう。
これは自画自賛になってしまうが、『暗殺未遂事件』の『詳細』は、表に出回らない様に注意したからな。
もちろん、『ヒーバラエウス公国』の『貴族』達の間で、まことしやかにそうした“噂話”が出ていた事は僕も承知している。
それを密かに『リーク』した者が“誰か”も。
「結論から申しますと、『暗殺未遂事件』の『実行者』は、こちらにいらっしゃるモルゴナガル卿でした。卿は、我が妹の『暗殺計画』を実行に移し、あわや我が妹の命は風前の灯と言う所まで追い詰められましたが、そこに偶然通り掛かったのがアキト殿達なのです。彼らの助太刀を得て我が妹は助かり、共に居たリリアンヌ嬢の計らいもあって、アキト殿達、モルゴナガル卿共々、『グーディメル子爵家』に匿われる事となったのです。」
「ちょ、ちょっと待って下さい、ドルフォロ公太子殿下っ!私も“噂話”程度は聞き及んでいましたが、しかし、それが事実であった事は、今初めて知りましたっ!では、何故、ディアーナ公女殿下はそれを公にしなかったのですかっ!?『公女暗殺未遂事件』が本当ならば、それは『ヒーバラエウス公国』に対する、明確な『反逆行為』でしょうっ!!??」
「そ、そうだっ!!!隠し立てするのがいかにも怪しいっ!!!何かやましい事でもあるのかっ!?あるいは、そんな事、初めから無かったのではないのかっ!!??」
お~お~、『主戦派』の『貴族』、確かシュタインさんと言ったか?、も必死だねぇ~。
疑問を呈した『貴族』に便乗して、分かりやすい『印象操作』を口にするとはねぇ~。
まぁ、そんな反応は想定内だが。
「卿やシュタイン候の仰る事はもちろんでしょう。しかし、逆に聞きます。『ヒーバラエウス公国』の『貴族』から命を狙われた『立場』の人間が、他の『ヒーバラエウス公国』の『貴族』達を信用出来るとお思いか?私はそうは思えません。少なくとも、確かな『情報』が集まるまでは、雲隠れするのが普通でしょう。下手をすれば、再び命を狙われるとも限りませんからね。あなた方も、仮に同じ『立場』だったとしたら、そうするのではないですかな?」
「・・・た、確かにっ・・・!!!」
「くっ・・・!!!」
誰が『敵』で誰が『味方』かも分からない状況で、それを公にする事など通常考えられない。
訴え出た相手が『敵』である可能性も考えられるからだ。
それに、命を狙われた以上、また同じ事が起こらないとも限らない。
ならば、そうした確かな『情報』が集まるまでは、自身の命を守る為にも、身を隠すのは当たり前の話だろう。
「それと、先程のシュタイン候の発言は不適切です。我が妹の『暗殺未遂事件』は確かに起こった事。『証拠』も『証言者』もいるのですよ?それを、命を狙われた我が妹自身があたかも『虚偽』を言っているかの物言い。皆さんもしっかり覚えておいて下さいね?」
「なっ・・・!?」
思わず口走った『発言』が、そのまま『言質』となる事もある。
『失言』には気を付けた方が良いですよぉ~?
まぁ、そう仕向けたのは僕らだけどね?
「では、ここで、我が妹の命を狙ったモルゴナガル卿の『意見』を聞いていきましょう。よろしいかな、モルゴナガル卿?」
「ええ、もちろんです。」
一見すると、『探偵役』と『犯人役』が談笑しているかの様な軽い感じだが、その反面“この場”の『緊迫感』は増した様な感じがした。
まぁ、『大公家』の人間を狙った人物が堂々と“この場”に立っているのだから、その反応も分からなくはないがな。
「モルゴナガル卿が我が妹の『暗殺計画』を実行に移した。これは事実に相違ありませんね?」
「ええ、ええ、私が公女殿下のお命を狙いました。」
「「「「「っ・・・!!!???」」」」」
悪びれる様子もなく、アッサリと『自供』したモルゴナガルさんに、“この場”の皆さんがざわつく。
中には、その事に“違和感”を感じる者達もいるだろうが、ちゃんと意味があるから、もうちょっと待ってね?
「何故、その様な恐ろしい『企て』を?」
「そうですねぇ。端的に申しますと、私の『目的』の為には、公女殿下の存在が邪魔だった、と言うところでしょうか?御存知かどうかは分かりませんが、私の本当の『派閥』は『主戦派』ですからねぇ。もっとも、私の『目的』に即していれば、『派閥』は何処でも構わなかったのですがねぇ?」
『主義』や『主張』を軽んじる発言に、にわかにモルゴナガルさんに『悪感情』が高まる。
流石は、『ヒーバラエウス公国』で『コウモリ』と揶揄される人だけの事はある。
「その『目的』とは?」
「何、つまらない事ですよ。自分の『地位』を更に押し上げようとした。ただ、それだけの事です。」
あっけらかんと、自分の『野望』の為だったと述べるモルゴナガルさん。
その発言に、顔をしかめる『議員』達。
しかし、彼らも『政治家』である以上、『損得勘定』で動くのは当たり前の話で、そうした意味では彼らもモルゴナガルさんとそう大差はないのだが。
まぁ、実際に手を下すかどうかの違いは存在するだろうがね?
しかし。
「それは嘘ですね。本当はそう見せ掛けて、我が妹の命を、いや、『ヒーバラエウス公国』の“内紛”を事前に阻止しようとしていたんだ。違いますか?」
「「「「「・・・へっ!!!???」」」」」
「・・・えっ!!!???」
「・・・ふむっ?」
「っ!!!・・・はて、何の事やら・・・???」
「惚けても無駄ですよ、モルゴナガル卿。こちらにはアキト殿がいる事をお忘れなく。」
「・・・はぁ~・・・。参りましたねぇ~・・・。」
大どんでん返しの展開に、“この場”の『議員』達、ディアーナさん、アンブリオさんも訝しげな表情を浮かべていた。
先程の件から、グクタークさんとシュタインさんも下手な発言を避けるべく口をつぐんでいたが、同様に、いや、それ以上に驚愕の表情を浮かべていた。
自分達が初めから騙されていた事を、ここに来て初めて理解したからである。
これは、ニコラウスさんも同様である。
まさか、操っていると思っていた相手に出し抜かれていたとは、『演出家』としては認めたくない事だとは思うけどね?
「・・・英雄殿、いつお気付きになられたのですかな?」
『小悪党』の『仮面』を脱ぎ捨てたモルゴナガルさんは、人をくった様な、人を小馬鹿にした様な態度は鳴りを潜め、『紳士』然とした本来の彼の『顔』で僕に声を掛ける。
「最初から、と言えればカッコいいのですが、『グーディメル子爵邸』にて、拘束されていた貴方の『精神』に『侵入』した時に初めて気付きました。貴方の『精神防壁』は中々強固でしたから、一筋縄ではいきませんでしたけどね?」
「ふむ、『精神』に『侵入』、ですか・・・。普通ならば、そんな事は不可能だと一笑に付すところですが、貴方が冗談を言うとも考えづらい。やれやれ、とんだ御方を相手に回してしまった、と言う事ですね。」
「ど、どういう事ですかっ!?公女殿下のお命を狙いながら、それは公女殿下のお命を守る為だったっ!?いや、『ヒーバラエウス公国』の“内紛”を事前に阻止する為だったと言うのはっ!!!???」
混乱した様子で、『議員』の一人がドルフォロさんに問い掛ける。
心情としては、“この場”の人達全員の意見を代弁した形である。
「『政治』とは、複雑怪奇だとお思いでしょうが、その『根底』にあるモノは、結構単純なんですよ?ただ、それらの“思惑”が複雑に絡み合ってしまっていて、分かりにくくなっていますがね?」
う~ん、ドルフォロさんは遠回しな言い方が好きな方なんだろうなぁ~。
興が乗ってしまうと、ついついいらん事まで言いたくなっちゃうんだよねぇ~。
上手い事を言いたくなると言うか、説教くさくなると言うか。
いや、まぁ、これに関しては僕も他人の事は言えないんだけどね?
しかし、“この場”の皆さんの心情を代弁するなら、はよ、説明せいやっ!、ってところだろう。
そんな『空気』を察してか、ドルフォロさんも説明を再開した。
「こほんっ、ま、まず、『前提条件』として、モルゴナガル卿の『出身母体』である『貴族家』から考えていきましょうか?モルゴナガル卿の生家は、何処か御存知ですか?」
「それは『ザルティス伯爵家』でしょうっ!それがどうかしたのですかっ!?」
当たり前の事を聞かれて、若干イライラした様子の『議員』の一人。
「その通り、『ザルティス伯爵家』です。では、その“成り立ち”は御存知で?」
「・・・“成り立ち”?いえ、そう言えば存じ上げませんね。自分の『家』の“成り立ち”ならば、聞かされた事がありますが・・・。」
「まぁ、それはそうでしょう。よほどの“事情通”でなければ、流石に『他家』の詳しい歴史を知る機会はそうはないですからね。では、お教えしましょう。『ザルティス伯爵家』は、元は初代君主であるヘンリー陛下に仕えた『騎士』・アーロン殿が、その褒賞として、『ザルティス』の姓と、『貴族』の『爵位』を拝命したところから始まります。アーロン殿は、ヘンリー陛下に重用され、信頼も厚かったそうです。」
「・・・ふむ。」
『国』が成立する過程で、元々『騎士』、あるいは『戦士』が、後々の『貴族家』の“祖”となる事はよくある事だ。
まずは、『国』を盗る為には、『武力』が重要な『要素』になってくるからである。
当然ながら、『トップ』は尽力した者達には、それ相応の褒賞を与えなければならない。
『トップ』の『心意気』に惚れ込む事はあるかもしれないが、さりとてそれでは腹は膨れない。
よく『主従関係』なんて言うが、それも突き詰めて言ってしまえば、ただの『雇用関係』である。
当然ながら『契約』や『等価交換』の原則、言うなれば、『労働』に対する『報酬』がキッチリ支払われなければ、誰も人は着いてこないのである。
そんな当たり前の事を怠って、消えた『為政者』や『企業』も枚挙に暇がないが。
ま、それはともかく。
「しかし、それだけならば、割とよくある話です。“この場”にいらっしゃる『議員』の皆さんの中には、『ザルティス伯爵家』と似た様な“成り立ち”の『家』の者達も多い事でしょう。」
「・・・確かに。」
「しかし、『ザルティス伯爵家』には、他の『貴族家』にはない、とある『密命』、『役割』が代々受け継がれておりました。」
「・・・『密命』っ!?」
コクリッと頷きながら、ドルフォロさんの説明は続いていく。
「先程述べた『ザルティス伯爵家』の“祖”となった『騎士』・アーロン殿は、質実剛健の気性の持ち主で、君主であるヘンリー陛下を諫める事も多かったとか。公式には、それがもとでヘンリー陛下は、アーロン殿を冷遇する様になったと伝えられていますが、実際はむしろ逆。君主に対して臆せず物申す事を気に入り、密かに彼に国内外の『監視役』を命じられたのです。元々『ヒーバラエウス公国』の“成り立ち”を鑑みれば、様々な『勢力』からの“干渉”は想定されましたからね。ま、ヘンリー陛下がそこまでお考えだったかは分かりませんが。」
「「「「「な、何とっ!!!」」」」」
言うなれば、『ザルティス伯爵家』は、所謂『情報機関』、現代日本で言えば『公安』の様な『役割』を与えられたのである。
「もちろん、これは、『他国』からの“干渉”を防ぐ『役割』も担いますが、一方で『ヒーバラエウス公国』の他の『貴族家』を『監視』する事ともなりますから、ある意味では『大公家』と距離を取り、『嫌われ者』を演じなければならない側面もあります。アーロン殿は、冷遇された様に見せ掛ける事で、モルゴナガル卿は、『コウモリ』と揶揄される『道化』を演じる事でその点をクリアしていたのですよ。」
「「「「「っ!!!」」」」」
彼を小馬鹿にしていた人達は、それが『演技』であった事を知らされ、バツの悪い顔をモルゴナガルさんに向けた。
モルゴナガルさんからしたら、むしろ騙されてくれないと困る訳で、特段気にした風でもなかったが。
実際、モルゴナガルさんの『演技力』は相当なモノだった。
もちろん、元々セレウス様が『英雄神』、『武神』、『戦神』と言う『立場』や『役割』を司る『神』である事や、セレウス様自身の『神霊力』が低下(ま、それでも幾分か回復してきたのだが)していた事もあるが、パッと見ただけではモルゴナガルさんの『精神』の『根底』を覗き見る事が叶わなかったくらいだ。
いやいや、いくら『情報』、言わば『知』を司る系の『神』ではなかったとは言え、『神性』をだまくらかすとは、とんでもないモノである。
実際僕自身も、そうとは知らずにモルゴナガルさんと彼の部下達を排除してしまったしなぁ~。
それ故、『人間種』が騙されたとしても、それは致し方のない事であろう。(言い訳)
いえ、ほんっとにすんませんでしたっ!!!orz
「さて、モルゴナガル卿の『役割』は御理解頂けたと思いますが、彼は『監視役』の他に、『調整役』も担っているのです。これは、元々は『密命』に含まれていませんでしたが、昨今の『ヒーバラエウス公国』の事情を鑑みて、彼が独自に判断した事でしょう。」
「本当によくお分かりになりましたね。『ザルティス伯爵家』の『役割』上、その『密命』は当の『大公家』の方々でさえ知らぬ事だと言うのに。」
「私もアキト殿に知らされるまでは気付きもしませんでしたよ。しかし、よくよく考えれば納得出来る点が多々あります。貴方が『コウモリ』と揶揄されるほど様々な『派閥』を行き来していたのも、“表向き”は上手い事立ち回って甘い汁をすすろうとしている様に見えますが、実際には各『派閥』を密かに『監視』する為だったのです。更には、一つの『派閥』が『力』を持ち過ぎない様に『調整』していた。事実、我が妹の件があるまでは、『ヒーバラエウス公国』の『国内バランス』は一定に保たれていた。では、何故そんな『役割』を持つモルゴナガル卿が、『公女暗殺計画』などする必要があったのでしょうか?」
「ふむ、なるほど。・・・『主戦派』の台頭だな?」
ドルフォロさんの言葉を静かに聞いていたアンブリオさんが、そう答えを述べる。
それに、ドルフォロさんも頷く。
「その通りです、父上。」
「どういう事ですか?」
訳の分からぬ『議員』の一人は、そう疑問を述べた。
「先程も述べた通り、モルゴナガル卿が『調整』していたので、本来ならば『国内バランス』が崩れる事はない、筈でした。しかし、ある者が“干渉”した事により、皆さんも御存知の通り、『ヒーバラエウス公国』では『主戦派』の勢いは増してしまったのです。このままでは『主戦派』が“暴走”する可能性もあった。しかし、その場面で頭角を現したのが、我が妹でした。我が妹の“活躍”は今更皆さんに述べるまでもありませんが、しかし、我が妹はやり過ぎてしまった。いつしか『反戦派』の『旗印』として祭り上げられ、我が妹を次期君主へと『擁立』する動きまで出てくる始末。当然、『主戦派』と、その“裏”にいる者としては我が妹は目の上のたんこぶとなった。このままでは我が妹を排する『力』が働くのも時間の問題でした。そこで、モルゴナガル卿が一計を案じたのです。モルゴナガル卿が『実行者』を演じる事で、我が妹が死んだ事にして、安全を確保。それと同時に、『主戦派』の“裏”にいる者を浮き彫りにしようとしたのです。」
「「「「「な、なんだってっ・・・!!!」」」」」
「それに、“表向き”は『コウモリ』を演じていたモルゴナガル卿は、『実行者』としてはうってつけの人材でした。少なくとも、どの『派閥』が我が妹の命を狙ったのかはうやむやに出来るし、しかも切り捨てるのも容易だ。まぁ、これはモルゴナガル卿の計算通りでしたがね?もっとも、先程述べた通り、流石のモルゴナガル卿も、アキト殿達が偶然介入する事となる事は想定外でした。結果、モルゴナガル卿は拘束される事となってしまいましたが、その『役割』を知らず知らずの内にアキト殿達が引き継ぎ、『黒幕』を浮き彫りにする事に成功したのですよ。それが、ここにいる我が弟、シュタイン候、そして、真の『黒幕』であるニコラウスの三名だったのですっ!!!」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
誤字、脱字などありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非、よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々、御一読頂けると幸いです。