タルブ政変~畏れを知る者と知らぬ者~
続きです。
5万5千PVを越えましたっ!
皆様には感謝を。
あいかわらず、更新頻度は遅い作品ですが、引き続きお付き合い頂けると幸いです。
その後、エイルとの『交渉』中に『異世界人』の女性から干渉を受ける事となったのだが、その詳細は後に語る事として、どうにか無事にエイルとの『本契約』を交わした僕は、それを経て初めてニコラウスさんと直接顔を合わせる事となった。
「ええい、離さんかっ、13号っ!主の命が聞けないのかっ!?バカ侍女っ!貴様も裏切ったのかっ!!??」
「ノー、ニコラウス・サン。貴方ハ元々私ノ『仮契約者』ニ過ギマセン。何故ナラ、貴方ハ元々『適合者』デハ無カッタカラデス。最初ニ私ハ、貴方トノ『契約』ハ、一時的ナモノニ過ギナイトオ伝エシタ筈デスガ?」
「裏切るも何もないですよねー?別に貴方に忠誠を誓った覚えはありませんしー。それに、ある種“執事”や“侍女”が“主人”の行いを諫めるのは、結構普通の事なんですよー?貴方は、自分以外の者達を、ただの下僕であるかの様に考えている様ですがー。」
「・・・は?」
「ああ、ニコラウスさん、無駄ですよ。残念ですが、彼女の『正式』なマスターは、」「オ父様デスッ!!!」「お、おう。お父様(?)は、僕です。ニコラウスさんとの『リンク』もとっくに切れていますのであしからず。」
「な、何だとっ!!!???」
僕は今、エイルとヘルヴィさんの手引きによって、ニコラウスさんとの対面を果たしていた。
ヘルヴィさんは、本来はダールトンさんの侍女さん、今現在は『ロマリア王国』の王都『ヘドス』に『リベラシオン同盟』本体も『拠点』を移しているので、そこに詰めているダールトンさんらのサポートに従事している筈なのだが、セレウス様とアルメリア様の『情報提供』を受けた僕が、急遽『ヒーバラエウス公国』に呼び寄せたのである。
と言うのも、ヘルヴィさんにニコラウスさんの所に『潜入』して貰う為であった。
以前にも言及したが、現在、僕ら『リベラシオン同盟』の『独立部隊』にして、『冒険者』パーティー・『アレーテイア』は、深刻な人手不足に陥っていた。
当初の予定では、ここまで大事になる事を想定していなかったので、少人数でも問題なかったのだが、『ヒーバラエウス公国』の『政変』が画策されている事を知った僕は、どうしても対応の取れなかったニコラウスさんの動向の『監視』を、彼女に依頼したのだった。
もちろん、本来ならば、ヘルヴィさんがいくら“普通”の侍女さんではないとは言え、『実力』的には、今現在の僕らとは大きくかけ離れている。
故に、『実力』的な事を考えると、ハンス達を応援に呼んだ方がもっと良かったのだが、生憎彼らには、“『ロマリア王国』と『エルフ族の国』”や、“『ロマリア王国』と『トロニア共和国』”の『仲介役』・『折衝役』を任せている関係で、自由に身動きが取れない状況だった。
『リベラシオン同盟』と『ノヴェール家』を始め、その他数多くの『ロマリア王国』の『貴族家』を味方につけたとは言え、それでも長らく隔てられた『種族』の“壁”を乗り越えるのは容易ではない。
故に、『エルフ族』の『立場』から間に立つ存在は必要不可欠だったのである。
まぁ、本来は、『十賢者』の内の一人の孫娘に当たるティーネがその『役割』に就くべきなのだが、彼女が僕に着いて行くと頑として譲らなかったので、ハンス達にそのお鉢が回ってしまった、と言う経緯もあるのだが・・・。
ハンス達には、何か“御礼”を考えてあげないといけないよね・・・。
そんな訳で、白羽の矢が立ったのがヘルヴィさんだった訳である。
元々、この世界では、『トーラス家』や『ノヴェール家』にも見られたが、『貴族家』や『資産家』、『権力者』や『裏社会』においても、身の回りの世話をする者、あるいは、家長を代行する存在として、“執事”や“侍女”を雇う事はよくある事なのである。
それ故、ヘルヴィさんも何の違和感もなくニコラウスさんの所に『潜入』を果たす事が可能だったのだ。
僕らには大きく劣るとは言え、彼女の『実力』は、この世界の一般的なレベルから考えれば、破格の『能力』を有していたので、これもある意味結果オーライであった。
ニコラウスさんと顔を合わせるのは、これで初めてであるが、その五体不満足な様子もさる事ながら、随分『身体的』にも『精神的』にも、不味い事になっている事が一目で分かった。
まぁ、それも本人の自業自得ではあるんだが。
「それに、逆に感謝して欲しいくらいですよ?貴方は『魔法技術』をしっかり学んでこなかったからか、『契約』や『等価交換』の原則を全く理解していない。いや、普通は通常の『経済活動』でも知り得る事なんですけどね?」
「それが何だと言うんだっ!!!」
「いやいや、だから『等価交換』ですよ。何かの“代償”を支払う事によって、何かを“得る”事です。『売買契約』においての基本でしょ?“欲しい物”があったら、それと同価値の“金銭”等を支払う必要がある。『魔法技術』で言えば、起こしたい『現象』に見合う『術式』を選択した上で、『魔素』と言う『エネルギー』を支払う。『魔素』を扱う為には、『魔法技術』を学ぶ“時間”と“研鑽”と言う“代償”を支払う必要がある。何でもそうですけど、『結果』は簡単には手に入らないモノなのですよ?では、彼女を扱う“代償”とは何でしょうか?」
「はぁっ・・・???」
コイツは何を言っているんだろう、って顔だな。
まぁ、ニコラウスさんの“生い立ち”は調べた。
彼は、そうした事全てを『魔眼』と言う『特殊能力』によって“踏み倒して”来た様子なので、それにピンと来なかったのかもしれないなぁ~。
まぁ、例え知らなくとも、『支払い義務』は生じるんだけどねぇ~。
「彼女は『古代魔道文明』の『技術』によって生み出された存在です。御承知かどうかは知りませんが、『古代魔道文明』は、『現代技術』より遥かに進んだ『技術力』を持っていました。『魔道技術』、『魔法技術』においても同様です。ですが、彼女はその中でも更に異質な存在でして。完全なる『自我』・『人格』を備えた存在となるべく、『人工霊魂』をその身に宿しているのです。」
「???」
うむ、ためだこりゃ。
ニコラウスさんには、『理論』と説いても理解が得られそうにないな。
ならば、端的に『結論』だけ伝える事にするか。
「まぁ、分からないのならば仕方ないですが、貴方は彼女と『仮契約』を結ぶ際に、また彼女を実際に動かす際に、彼女との『契約料』、あるいは『使用料』と言うモノを支払う『義務』が生じたのです。貴方には、“金銭”を支払った覚えもなければ、彼女を自分の物だと勘違いしてるが故に、そんな『義理』はないと考えてるかもしれませんが、こればかりは“踏み倒す”事は不可能ですよ?」
「さっきからゴチャゴチャと何を言っているんだ、貴様はっ!?俺が一体何を支払ったって言うんだっ!!!」
「貴方の『生命力』ですけど?」
「・・・はっ?」
「正確には、貴方の『霊力』とか、『存在力』、『オーラ』、『気』とも呼ばれるモノです。彼女は、そうしたモノを『吸収』、あるいは『学習』する事によって、自身の持つ『人工霊魂』を『成長』させているのです。また、彼女の『機能維持』の為にも必要不可欠なんですよ。残念ながら、貴方は彼女が言うところの、『適合者』、まぁ、僕らで言うところのある一定の『レベル』に達していなかった故に、『生命力』、言うなれば『寿命』を支払う事となった訳です。本来の『適合者』ならば、『生体リンク』を繋げる事によって、同様にそうしたモノを『吸収』される事となる訳ですが、貴方の様に『生命力』や『寿命』が枯渇する事はありません。これは少し難しい話になるのですが、僕らはそうしたモノを常に『供給』されている状態にあるからで、自身の『生命力』や『寿命』にまで話が及ばないからなんですけどね?」
「・・・な、何を、バカな、事を、言ってっ・・・!」
「『仮契約』を交わす際に、彼女に“警告”を受けていた筈ですけど、貴方はそれを『無知』故にスルーして、彼女の『所有者』となる『結果』だけ求めたんですよ。身に覚えがあるでしょう?」
「っ!!!???」
~~~
「っ!!!???」
「・・・完了・・・。生命機能、ノ、停止、ノ、危険、ハ、ナクナリ、マシタ・・・。」
「お、お前が助けてくれたのかっ・・・?」
「・・・イエス、マスター・・・。・・・『生命リンク』、ヲ、応用、シテ、マスター自身、ノ、『アストラル』、ヲ、用イテ、治療、ヲ、施シマシタ・・・。タダシ、マスター、ノ、レベル、デハ、多用、ハ、厳禁、デス・・・。」
「???・・・よく分からんが、その『マスター』とは何だ?」
「・・・私、ト、『生体リンク』、ヲ、繋イダ、『契約者』、ノ、呼称、デス・・・。・・・ソノ、呼称、ガ、気ニ入ラナケレバ、呼称、ノ、変更、モ、可能、デス・・・。」
「『契約者』・・・?俺がお前の“主人”と言う訳かっ・・・!?」
「・・・イエス、マスター・・・。タダシ、コノ、『契約』、ハ、一時的、ナ、モノ、デス・・・。・・・マスター、ノ、レベル、ト、『アストラル』・『マテリアル』、共ニ、既定ライン、ニ、達シテ、」
「ああっ、細かい事はいいっ!よく分からんからなっ!ただ、俺がお前のマスターになった。それで間違いないんだなっ!?」
「・・・イエス・・・。」
「っしゃあっ!ツイてるぜっ!じゃあ、質問だっ!お前、アイツを何とか出来るかっ!?」
~~~
「そ、そんなっ、ま、まさかっ・・・!?」
ニコラウスさんは、何かを思い出した様だな。
「『契約』を交わす際には、その“警告”、あるいは“注意点”はしっかり確認すべきですよ?どんな『不利益』が生じるかも分からないのですから。まぁ、本来当たり前の話なんですがね?しかし、貴方が知ろうが知るまいが、『契約書』に『同意』した以上、『支払い義務』が生じた訳です。彼女は、それを『徴収』したに過ぎません。まぁ、結果的に貴方はとんでもない『負債』を抱える事になりましたけどね?貴方ももう、薄々はお気付きなのではないでしょうか?普通は、『生命力』や『寿命』と言っても、『精神的』な『概念』故に、『肉体面』に影響が及び事はあまりないのですが、貴方はそれが急速な『老化』と言う“形”で表面にまで影響が出ている。よほど、彼女を『酷使』した『証拠』でしょうね。」
「っ!!!???」
ニコラウスさんは、慌てて自身の顔をまさぐった。
彼の“本来の年齢”がいくつかは知らないが、今現在の彼の“外見年齢”は、少なくとも60歳を越えているだろう。
彼はその『事実』に、ようやく気付いた様である。
「そ、そんなバカなっ・・・!!!」
もちろん、この世界にも『鏡』は高価だが存在する。
ニコラウスさんの『資金力』ならば、それを持っていても不思議ではないだろう。
では、何故彼はその『事実』に今まで気付かなかったのだろうか?
答えは簡単だ。
目を逸らしていたからである。
これは、所謂『心理的』な作用なんだが、例えば、元々非常に美しい顔立ちをした女性がいたとしよう。
その女性は、自身の持つ容姿に絶対の『自信』を持っていたのだが、それが何らかの要因で(『事件』や『事故』などによる火傷や損傷などによって)失われる事となった場合、その女性はその後すぐに『鏡』を見る事が出来る様になるだろうか?
答えは否である。
これは、ある種『自尊心』や『アイデンティティ』喪失に関する事柄であるから、当然一概には言えないのだが、その人の『精神性』によっては、自分の周囲の『鏡』と言う『鏡』を全部叩き壊すだろうし、そうでなくとも、無意識的に『鏡』からは遠ざかろうとする『心理』が作用するだろう。
何故なら、『鏡』を見る事によって、“かつての自分”と、“今現在の自分”を否が応にも比べる事となる、言わば『現実』を思い知らされる事となるからである。
もちろん、人によっては、時と共にその『ギャップ』を受け入れる事が出来る者もいるのだが、最悪の場合は、その『ギャップ』、『現実』を受け入れられずに自ら命を絶とうとする者もいるだろう。
この様に、急速な“変化”を受け入れる事は、並大抵の事ではないのである。
さて、ではニコラウスさんはどうだろうか?
先程も述べた通り、彼の“生い立ち”は調べた。
彼は、某か問題が立ちはだかる度に、『魔眼』と言う『特殊能力』に依存してきた。
もちろん僕も、『精神論』や『根性論』を今さら振りかざすつもりは毛頭ないし、逆に僕は時に“逃げる”、と言う『選択肢』に対して肯定的な意見を持ってはいるが、それでも人は、時に『現実』に“立ち向かう”、あるいは“向き合う”事が必要な事はあるだろう。
『魔眼』の『能力』は強力過ぎるが故に、今までそれでどうにかなってしまった。
『魔眼』は奪われた様だが、その『経験』は、彼の中に残る訳である。
『現実』と“向き合う”のではなく、『現実』を“歪めてきた”彼が、五体不満足となった自身をじっくりと『観察』するだろうか?
答えは否であろう。
故に、彼は他者に指摘された事で、ようやくその『事実』に気付いた、と言った所なのだろう。
「後、追い討ちをかける様で申し訳ないのですが、貴方の『負債』は、それだけに留まりません。」
「・・・な、に?」
半ば茫然自失の体になったニコラウスさんに、僕は更なる『事実』を無慈悲に突き付ける。
「先程も述べた通り、貴方の『生命力』や『寿命』は、エイルに支払う事となったので、貴方のこの世界での“生”は、そう遠くない未来に終わりを迎えるでしょう。」
「う、嘘だっ!!!」
「まぁ、信じられないのは無理もありませんが、本当です。むしろ、まだ“生”があるのは、僕が彼女の『正式』なマ、ごほんっ、お、お父様(?)になったからで、貴方が交わしていた『仮契約』を“上書き”したからですよ?だから、先程も述べましたが、逆に感謝して欲しいくらいなんですよ。」
「嘘だ、嘘、だ、ウソダッ・・・。」
「いやいや、この程度で狂わないで下さいよ。貴方の『負債』はまだまだ終わりませんよ?むしろ、ただ“死ねる”のならば、貴方にとっては幸せなくらいです。」
「・・・・・・はっ・・・ハハハッ!」
「先程彼女の『人工霊魂』の話をしましたが、それと同様に、この世には『霊魂』や『魂』と言ったモノが、一般的には認知出来ませんが確かに存在します。その中には、『悪霊』や『生霊』、まぁ、正確には『残留思念』と言うモノなのですが、も存在します。」
「・・・・・・。」
う~む、反応しなくなったけど、『ポーション』は効いてる筈だよね?
チラリッとヘルヴィさんを見やると、彼女はOKサインを出していた。
なら、ただショックを受けてるだけだろうか?
「ちゃんと話を聞いておいた方が貴方の為だと思いますが・・・。まぁいいや。この『思念』ってのは、中々厄介な代物でしてね。通常ならば、『人間種』を含めた『アストラル』、『霊魂』とか『魂』と言ったモノですね、を持つ存在は、“死後”に『世界』の『根源』へと還っていくのです。その後“浄化”を経て、再び新たな『生命』としてこの世界に帰ってくるのです。言わば『魂のサイクル』、『輪廻転生』の『概念』ですね。ところが、『人間種』の様な高度な『知性』や『感情』、『精神』、つまり『心』を持つ存在は、そう簡単にはいきません。」
「・・・・・・・・・。」
「ところでニコラウスさん。貴方は『悪』とは何だと思いますか?」
「・・・・・・・・・・・・は?」
うんうん、ちゃんと反応が返ってきたな。
「だから『悪』ですよ、『悪』。まぁ『結論』から言えば、『人間種』が『定義』する『悪』など、この世に存在しませんけどね?確かに貴方も『人間種』の『尺度』で推し測ると『悪』、『悪党』かもしれませんが、『世界』や『自然』の『尺度』から言えば、貴方の行いは『悪』とは言えません。何故なら、『自然界』では『生存競争』が日夜繰り返されているからです。彼らは“生きる”為に『縄張り』を持って他者を排し、他者を殺して補食し、子孫を残している。我々『人間種』から見れば、時に『自然』とは『残酷』だとは思いますが、それが『弱肉強食』ですからね。」
「・・・そ、そうだっ、その通りだっ!『弱肉強食』っ・・・!!!そうだよ、弱い奴が悪いんだっ・・・!騙される方が悪いんだよっ・・・!!!」
おや、急に勢いが戻ったな。
別に彼を擁護した訳じゃないんだけど。
多分、『自己弁護』の格好の“ネタ”だったんだろうが・・・。
まぁ、勘違いでも、話を聞いてくれるならば別にいいけど。
「ですから、『自然界』には『悪』は存在し得ません。では、何故『人間種』は、それほどまでに『悪』を忌避するのでしょうか?」
「・・・は?」
「『人間種』も、言わば『自然界』の一部ですよね?ならば『弱肉強食』は世の常。『暴力』を持って、他者から『土地』なり、『食糧』なり、『金銭』なり、『女』なりを奪ったところで、特に問題はないと思いませんか?」
「そ、それは、『道徳』とか、『理性』、『常識』などと言うつまらない考えに凝り固まっているからだろうっ!?」
「中々良い解釈ですね。確かにそうした側面もあるかもしれません。『人間種』は基本的に“群れ”で生活をします。『魔獣』や野生動物なども、高い『社会性』を持つ者達は、独自の『ルール』を築く事が往々にしてあります。『序列』による『階級』などがそれに当たりますが、『社会』の安定、言うなれば『法』や『秩序』を保とうする働きが作用するのかもしれませんね。」
「まぁ、弱い“生き物”は群れるものだからなっ!強者に搾取される事とも知らずに、なぁ~?」
おっ、いい感じの『ゲス顔』に見せてくれたなぁ~。
けど、そんな単純な話じゃないんですよねぇー。
「それも一つの解釈としては有りでしょう。しかし、『本質的』には違います。何故、『人間種』は、他者への“殺傷”や、悪事を『禁忌』視するのか?それは『怖い』からですよ。」
「はぁっ!?『怖い』っ!!??アハハハハッ、それは他者を殺す事がかっ!?それとも、他者に逆襲される事がかっ!!??」
「どちらもあるでしょうが、ここでは後者ですね。」
「アハハハハッ、ビビってるって事かぁ~!!!???だから、弱者に甘んじているんだよっ!!!」
「ええ、それは『怖い』でしょう?他者へのそうした行為は、“死後”も苦しむ事となるのですから。」
「・・・はぁっ???おいおい、何処の『宗教』の話だよっ!俺は、その手の話にはこりごりしてんだけどよぉ~?」
「いえいえ、そうした『抽象的』・『道徳的』な話ではありません。もっと『具体的』な『現象』の話ですよ。」
「・・・・・・は?」
「ですから、『現象』ですよ。ここで先程の話と繋がってきます。先程も述べた通り、『人間種』を含む『アストラル』を持つ存在は、“死後”に『世界』の『根源』へと還っていくのですが、『人間種』の様な高度な『知性』や『感情』、『精神』、つまり『心』を持つ存在は、そう簡単にはいきませんと言いましたね?それは、まぁ、普通の一生を終えた者達にはあまり見られないのですが、他者から“殺傷”された者、悪事によって被害を被った者は、それを引き起こした者に対してほの暗い『感情』、言わば『憎悪』や『怒り』を感じるからですよ。」
「なんだ、そんな事かっ!!!そんなの当たり前の話だろうっ!?けど、それは弱い奴が悪いのさっ!!!」
「そうですね、当たり前の話です。だからこそ、普通の『精神』を持つ人々は、そうした行為を『禁忌』視するのです。『根源的』にそうした『現象』を識っているからですね。まぁ、中には貴方の様に、そこから“逸脱”してしまう人もいるんですがね?」
「それは俺が強者だからだろっ!?」
クククククッと下卑た笑いを浮かべるニコラウスさん。
いやぁ~、ここまで勘違いが過ぎると、いっそ清々しいなぁ~。
「いえいえ、違いますよ。あなた方の様な方々は、何処か“壊れてしまっている”だけです。先程も言いましたよね?その『現象』は“死後”も続くんですよ?もちろん、それを受ける『対象』は、被害を被った人達ではなく、それを引き起こした者達です。ここで、先程の『残留思念』や『思念』の話に繋がってきます。先程も述べた通り、『人間種』を含む『アストラル』を持つ存在は、“死後”に『世界』の『根源』へと還っていくので、被害を被った人達は、『憎しみ』や『怒り』、『憎悪』に囚われる事なく『魂』の安寧が待っています。」
「・・・おいおい、さっきと言ってる事が違うじゃねぇ~かっ!!!」
「そうですね。確かに矛盾している様に聞こえるでしょう。しかし、それは早合点ですよ?個々の『霊魂』や『魂』と、『悪霊』や『生霊』、つまり『残留思念』や『思念』は“別物”だからです。」
「ったく、小難しい話をよくもペラペラとまぁ・・・。」
「別に難しくもないんですが・・・。『残留思念』、あるいは『思念』と言うのは『世界』に複写された『想い』そのものです。言わば、個々が持つ『霊魂』や『魂』の一側面が増幅してしまったモノですね。それらは、元々の『霊魂』や『魂』からは独立したモノであるから、本来の『霊魂』や『魂』が“死後”に『世界』の『根源』へと還ったとしても、“この世界”に留まり続けてしまうのです。そうした『残留思念』、あるいは『思念』は『想い』の“カタマリ”ですから、時に暴走し、『霊災』や『心霊現象』を引き起こす事があるのですよ。これが、所謂『悪霊』や『生霊』と呼ばれるモノの『正体』ですね。」
「はぁ~・・・、で?」
付き合いきれんとばかりに、なげやりな返事を返すニコラウスさん。
「本当にお分かりではないんですね。それらは“この世界”に留まり続けてしまうと言いましたよね?つまり、『システム』的に、それらを“浄化”、あるいは“祓う”方法が無いのです。正確には、そうした『専門家』、言わば『霊能力』に特化した存在が、今現在のこの世界にいなくなってしまったのですが。では、放置されたそれらは様々な『霊災』や『心霊現象』を引き起こす訳ですが、最終的にそれらは“何処”に向かうと思いますか?ヒントは、それらが『想い』の“カタマリ”である事です。」
「・・・はっ?・・・何を、言ってっ・・・!?」
「そう、その『起点』になった者、つまり、貴方が引き起こした行いの場合は、全て貴方に向かってくるのです。これは、少し難しい話になりますが、『悪霊』とか『生霊』と呼ばれるモノも、自分達が歪んだ存在である事を無意識的に自覚しているからです。ですから、最終的には“浄化”されて、『システム』の中に戻ろうとするのですね。しかし、先程も述べた通り、今現在のこの世界にはそうした事が出来る『専門家』が不在なのです。まぁこれは、『魔法技術』が一時失われた余波なのですが、それ故、『システム』的に“浄化”されようと、誰かの“死後”の“浄化”に便乗する“形”で目的を果たそうとするのです。つまり、貴方は“取り憑かれている”のですよ、現在進行形で、ね。」
「・・・は、ハハハハハッ、子供騙しの作り話で、俺をビビらそうとしたって・・・。」
「貴方をビビらせてどうするんですか?全てただの『事実』ですよ。さて、それで貴方はそれらの『負債』を抱えたまま、もうすぐ“死”を迎える訳ですが、おそらく貴方が想像しているよりも、とてつもない苦難が待っていると思いますよ?“死後”、貴方は“取り憑いた”者達を鎮める為に、彼らが味わって来た『苦痛』を、貴方は『追体験』する事となるからです。そうした事を理解する事によって、ようやく彼らの『魂』が鎮まるのですね。『霊魂』や『魂』は、『精神的』なモノですから、『肉体』と違い、“死”と言う『概念』がありません。貴方は、永遠にも近い『苦痛』を味わう事によって、ようやく“赦される”のですね。けれど、それも自業自得。貴方が行ってきた事の『結果』に過ぎません。」
「・・・う、嘘だっ!!!」
「まぁ、別に無理に信じる必要はありませんけどね?ただし、僕にはそれらをどうにかする事が出来る、と言ったら貴方はどうしますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
「別に貴方がどうなろうと僕の知った事ではないのですが、こちらにも色々と“都合”がありましてね?『ヒーバラエウス公国』で『内乱』が起こる事はなるべく避けたいのですよ。それらを『効率的』に収束させる為には、貴方にご協力頂いた方が、より『合理的』だと判断しました。それ故、こうして貴方とお話をしている訳ですよ。別に断って貰ってもこちらとしては不都合はありませんけどね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・それで、貴方はどうしますか?」
「いやぁー、アキトくんノリノリだなぁー。これじゃどっちが『悪役』か分からないですねぇー?」
「ソンナオ父様モ素敵デスッ!」
「あらら、すっかりアキトくん色に染まってしまいましたねぇー?」
僕とニコラウスさんの、緊迫したやり取りを端から眺めながら、エイルとヘルヴィさんはそんなのんきな会話を交わしていたのだったーーー。
誤字、脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非、よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々、御一読頂けると幸いです。