タルブ政変~契約~
続きです。
今回は難産でした。
調子が良い時はサクサク進むんですけどね。
まぁ、それでも物語の進行は、自分で言うのも何ですが、かなり遅い方だとは思いますが(笑)。
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「さて皆様。色々と疑問はおありでしょうが、我が弟らの『企て』は、皆様にも御覧頂いた通りです。彼らは、あろうことか、父上、アンブリオ大公をその手にかけ、私と我が妹をありもしない“疑惑”をでっち上げる事によって、『権力』の中枢から引き離し、あわよくば『排除』・『追放』し、『君主』の『座』を簒奪。その後、『ヒーバラエウス公国』の民達をも巻き込んだ『ロマリア王国』への『侵略戦争』を開始しようとしていたのですっ!『ロマリア王国』との『不可侵条約』を反故にしてね。」
「で、デタラメだっ!!!し、『証拠』はあるのだろなっ!!!???」
『ヒーバラエウス公国』の『貴族院』の『議会』にて、『議員』達や、君主であるアンブリオさん、彼ら二人の妹であるディアーナさん、そして、僕ら『リベラシオン同盟』が注視する中で、ドルフォロさんとグスタークさん兄弟二人による『論戦』が展開されていた。
端から見た分には、本来の彼に覚醒を果たした(立ち返った?)ドルフォロさんの方が、その凛々しい顔立ちや『カリスマ性』に満ち溢れた“立ち居振舞い”から優勢に見えるが、グスタークさんの発言ももっともであろう。
グスタークさんやシュタインさんは、まだ気付いてもいないだろうが、彼らが『ヒーバラエウス公国』の『権力』を握った場合どうなるか、あるいは、その『内心』の“思惑”も、全てこの場の皆さんに見て貰った訳だが、それでも理解出来ない『事象』・『現象』故に、皆さんも自分の見たモノが本物なのかどうか、判断がつかないだろうからな。
まぁ、それはやっている本人(僕)も、正直分かってない部分もあるので、いくら実際起こった事とは言え、『現実感』のある“白昼夢”を見ていた様に、全てを信じられないのも無理はないが。
だがしかし、それも当然折り込み済みだ。
『証拠』があった方が分かりやすいのは、向こうの世界もこの世界も同様だからな。
「『証拠』?」
「そ、そうだっ!私が『陰謀』を目論んだ『証拠』、それに兄上やディアーナが『ロマリア王国』と繋がっていない『証拠』だっ!!!」
言っている内に勢い付いて来たのか、グスタークさんは、優位を取ったかの様に、再び余裕の表情を浮かべていた。
それは、もしかしたら『虚勢』なのかもしれないが、確かにその『論法』は的を射ている。
前半はともかく、後半の『証明』は確かに難しい。
これは、時に『悪魔の証明』とも例えられるのだが、要するに、“有る事”は『証明』出来ても、“無い事”を『証明』する事は困難を極めるからである。
例えば、今回のドルフォロさんとディアーナさんに向けられた“疑惑”に絞って考えてみよう。
確かに、ドルフォロさんもディアーナさんも、『リベラシオン同盟』と繋がっているので、『ロマリア王国』の『関係者』と繋がっている事は、ある意味『事実』であろう。
もっとも、『リベラシオン同盟』本体はともかく、僕らはすでに『リベラシオン同盟』とは一線を画した『独立部隊』であるから、僕らが『ロマリア王国』の回し者である、と言うのは的外れであるが。
しかし、まぁ、これは客観的に見ればあまり関係のない話だろう。
それに、実際に『怪文書』とは言え、グスタークさん達は、ドルフォロさんへの“疑惑”の『補強』としての『証拠』を出している訳だ。
それらを合わせて考えると、ドルフォロさんとディアーナさんが、『ロマリア王国』と『共謀』した“疑惑”も成り立つ訳である。
それ故、ドルフォロさんとディアーナさんが、『陰謀』を企んでいないと『証明』する事は、困難を極める。
ならば、別のアプローチから切り崩せば良いだけの事である。
「どうだっ、出来ないだろうっ!?実際に、そこに『ロマリア王国』の者達が居る訳だしなっ!!!」
「・・・いや?もちろん出来るが?」
「・・・はっ・・・?」
勝ち誇った顔をするグスタークさんに、ドルフォロさんはさもありなんと頷いた。
「よろしいかな、アキト殿?」
「ええ、いつでも準備出来ていますよ。」
「分かりました・・・。確かに、私や我が妹が『ロマリア王国』と『共謀』していない事を『証明』する事は難しいでしょう。ですが・・・。」
チラリと此方に合図を送ったドルフォロさん。
それに僕は応え、新たな『登場人物』を“表舞台”に立って貰う事にした。
「エイル、ヘルヴィさん、よろしく。」
「ハイ、オ父様ッ!」
「はいはぁーいっ!」
「こ、こらっ、離せっ、離さんかっ、13号っ、バカ侍女っ!!!」
「やれやれ、どうやら“出番”の様ですかねぇ?」
そこに現れたのは、ニコラウスさんを拘束した『魔道人形』・エイルとダールトンさんの所の侍女であるヘルヴィさん、それと『暗殺』された筈のモルゴナガルさんだった。
「その我が弟が『根拠』としている『怪文書』がでっち上げられた物であった事は『証明』出来ます。」
□■□
時は、一旦僕とエイルが『異世界人』と『ハイドラス派』の手の者と思われる女性二人から逃げ延びた場面に遡る。
“古典的手法”である『光』による『目潰し』であるが、それ故にそれを完全に防ぐ事は意外と難しい。
僕自身も、『旧・ルダ村』の『パンデミック』時に、『血の盟約』のニルから『目潰し』を食らって、致命的なミスを犯した経験がある。
いくら『気配察知スキル』があるとは言えど、やはり人は『視覚』からかなりの割合で『情報』を得ているからな。
それに加えて、僕の『気配遮断スキル』は、すでに『人間種』の限界をとうに越えているし、『魔道人形』であるエイルには、そもそも『気配』と呼ばれる、言わば『生体反応』が存在しない。
故に、僕達は結構アッサリと『強敵』達から行方を眩ます事に成功していた訳である。
余談だが、『異世界人』と『ハイドラス派』の女性二人がエイルを『追跡』出来ていたのも、単純にエイルを遠巻きに『監視』し、エイルが動き出した事を確認してから、エイルを視認しながら『追跡』していたに過ぎない、と推察出来る。
つまり、『視覚情報』が頼りだった訳である。
まぁ、それ故に、逃亡が比較的容易だった訳だ。
彼女達に、『アストラル』を『感知』出来る『能力』だったり、『魔素』を応用した所謂『センサー』の類を所持していれば、また話は変わったかもしれないけどね。
ま、それはともかく。
「・・・助太刀、ニハ、感謝、シマス・・・。・・・デスガ、貴方、ハ、何者、デショウ、カ・・・?」
上手く逃げおおせた僕と『魔道人形』は、首都・『タルブ』のとある大きな建物の屋上で、距離を置きながら対峙していた。
まぁ、彼女からしたら、突然介入した僕を警戒するのも無理はない話である。
僕は、おもむろに被っていた『仮面』とマントを脱ぎ捨てる。
もちろん、彼女がニコラウスさんのもとにあるのも、また、その『支配権』をハイドラスに奪われるのは僕にとって都合が悪い、っつか、『ヒーバラエウス公国』の人々にとっても、また、この世界の人々にとっても、悪い事になってしまう為、僕の味方に引き込むつもりでいるが、そうは言っても、彼女自身は悪しき存在ではないし、彼女にも『意思』がある訳だから、有無を言わさず無理矢理、と言うのは僕の『趣味』ではなかった。
故に、『交渉』と言う、ある種『正式』な方法を試みるべく、その第一段階として『素顔』を晒してみた、と言う訳である。
もっとも、『交渉』に失敗した場合は、強制的にでも『支配権』を奪う事も視野に入れてはいるが。
「ッ!!!???」
「はじめまして、『古代魔道文明』が生み出した『魔道人形』さん。僕の名前はアキト・ストレリチアです。貴女とは、『交渉』をする為に、手前勝手ながら助太刀させて頂きました。」
「・・・凄マジイ、レベル、ノ、『マテリアル』、ト、『アストラル』、ヲ、感知ッ・・・!!!・・・信ジ、ラレマ、センッ・・・!・・・『データ』、ニ、アル、『神々』、ニモ、迫ル、レベル、デスッ・・・!・・・貴方、ハ、本当、ニ、“人間”、デスカッ・・・!?」
何か、『魔道人形』から“人間”である事を疑われたんですが・・・。( ̄▽ ̄;)
・・・僕、泣いていいよね?(TДT)
ま、冗談はともかく。
「それがお分かりなら話は早い。僕は、貴女の『目的』を理解しています。完全なる『人工霊魂』の『完成』を目指している。言わば、『生物』が生来備えている完全な『アストラル』を持つ事が貴女の『最終目標』、ですよね?」
「ッ!!!・・・何故、ソノ事、ヲッ・・・!!!???」
生憎、彼女には表情を変える様な『機能』は備わっていない様だが、その声色から、驚愕している『雰囲気』は伝わってきた。
案外、『感情』に関しては、かなり“豊か”なのかもしれないな。
「今の所、『情報源』は明かせません。ですが、“答え”にはならないかもしれませんが、僕は『古代魔道文明』の『研究家』でもありますからね。」
「・・・ナルホド・・・。」
それで、多少納得したのか、そう呟きながら頷いてみせた。
リリさんの『肩書』を、勝手に拝借した形だが、これに関しては全くの嘘ではないからな。
「それで、ここからは『相談』なんですが、僕と『本契約』を交わす気はありませんか?先程貴女が指摘した通り、僕の『アストラル』ならば、貴女自身の『最終目標』に適していると思うんですが。」
「・・・確カ、ニ・・・。・・・『再スキャン』、開始・・・。・・・完了・・・。・・・貴方ガ、『適合者』、デ、アル、可能性ハ、100%、デアル、ト、認メマス・・・。・・・シカシ、残念、ナガラ、私ハ、スデニ、『仮契約』、トハ、言エ、『契約』、ヲ、交ワシテ、イマス・・・。・・・『契約』、ノ、重複、ハ、本機、ノ、『人工霊魂』、ニ、多大、ナ、『悪影響』、ヲ、発生、サセル、恐レ、ガ、アリマス、ノデ、結論、ト、シテ、ハ、貴方、ト、『契約』、ヲ、交ワス、事、ハ、不可能、デス・・・。」
そう僕が提案すると、彼女はしばしの逡巡の末に、そう結論付けた。
通常ならば、ここで『交渉決裂』となるであろう。
もっとも、僕には、それをどうにかする事は可能なんだけどね。
それに、彼女がそう断った事に対して、僕はある種の安堵感を覚えていた。
どうやら、『魔道人形』の『開発者』、あるいは『開発チーム』は、『契約』の何たるかをしっかりと理解している様だからだ。
いや、もしかしたら、彼女自身が自ら学び得た事かもしれないが。
そもそも『契約』と言うのは、僕らが思っている以上に重い意味合いを持つ。
通常の『経済活動』でも取り交わされる事の多い、この『契約』であるが、意外とその『契約書』、あるいは『契約内容』を端から端まで熟読する者はあまりいないのではないだろうか?
もちろん、マトモな相手や『企業』であった場合は、それが『消費者』の『不利益』に繋がる事はなかなか無いが、それが仮に悪しき相手や『企業』であった場合は、それが『消費者』の『不利益』になる事も多い。
例えば、明らかに法外な金利を吹っ掛けているのにも関わらず、それをよく読まずに、あるいはそれを承知の上で『契約書』にサインする者達もいる。
もちろん、『法』の上では、その『契約』は無効となる事も多いが、大抵の場合は、莫大な借金を抱える事となったり、その末で“身売り”をする事となった、なんて話もありふれている訳だ。
それは、当然こちらの世界であっても、向こうの世界であっても変わらない。
もちろんこれは、そうした『契約』を悪用する者達が当然一番悪いのではあるが、サインをした側も、それぞれ事情や状況もあったのかもしれないが、最終的には己の『無知』が招いた結果でもある。
まぁ、若干厳しい言い方だけどね。
何度となく言及しているが、究極的には、自分の身を守る事が出来るのは、自分自身しかいないのである。
僕らは、その事を忘れてはいけないのだ。
さて、ここまでは『物質的』な内容の『契約』の話であったが、ここからは『アストラル』を含む『精神的』な『契約』の話である。
『悪魔』との『契約』にも代表される様に、『精神的』な『契約』の場合は、『魂』とか、『生命』が重要な『キーワード』になってくる。
例えば、有名なメフィストフェレスなどはその代表例として挙げられるが、これは己の『魂』と引き換えに、『願い』や『望み』を叶えて貰おうとするモノである。
『魂』と言うのは、これは以前にも言及したが、言わば強力な『霊的エネルギー』であるから、『悪魔』と呼ばれる『高次』の存在にも、それを手に入れる事は当然メリットがある訳だ。
故に、そうした『契約』、あるいは『取引』が成立する訳である。
この様に、『契約』とは、『物質的』な“金銭”に限らず、『精神的』な、目には見えない物も『対象』になりうるのである。
話を元に戻そう。
『契約』とは、言わばある種の『約束』の事とも言える。
だが、当然それを勝手に破棄してしまう者達もいる訳だ。
様々な事情や状況もあるだろうが、僕はそうした“裏切り”をする者達を、敵であろうと味方であろうと基本的に信用しない事にしている(もちろん、その『契約内容』が不当であった場合は、その限りではないが)。
そうした者達は、より『条件』の良い話が目の前に転がり込めば、また簡単に“裏切る”からだ。
まぁ、ある種『契約』、あるいは、『約束』の持つ“重み”を理解していないのだろう。
ま、それはともかく。
今回、彼女は、より『条件』の良い話を提示されたにも関わらず、首を縦には降らなかった。
それは、『契約』、あるいは、『約束』の持つ“重み”を理解している事の、何よりの証左である。
こうした者ならば、逆に味方となった場合は非常に心強い。
少なくとも、“裏切り”の心配をしなくて済むのだからな。
「それは残念です・・・。」
「・・・。」
僕がそう告げると、『交渉決裂』したと考え、彼女の緊張した『雰囲気』が伝わって来た。
「では、その貴女が交わしている『契約』を“解除”する方法があるとしたら、どうですか?」
「・・・ハッ・・・?・・・貴方、ハ、何、ヲ、言ッテイル、ノ、デショウ、カ・・・?・・・『契約』、ヲ、“解除”、スル事、ハ、『契約者』本人、ガ、ソウ望ム、カ、『契約者』本人、ノ、『生命力』、ガ、尽キル事、デシカ、出来マセン、ヨ・・・?・・・第三者、デアル、貴方、ニハ、不可能、デスガ・・・。」
そこに、別アプローチから再度『交渉』を再開した僕に困惑しながらも、彼女はそう言葉を返した。
「それが出来るんですよ。貴女は『縁切り』をご存知ですか?これは『高次』の存在である『神々』や、一部の『人間種』の『限界』を越えた者達のみが可能とする、世の『理』に介入する『力』の事ですが、僕にはそれが可能なのです。」
「・・・エラー・・・。・・・『データ』ニ、該当、スルモノ、ガ、アリマセン・・・。」
「まぁ、無理もありません。これはある種の『世界』の『修正力』に該当する『力』ですからね。ですが、これならば、貴女から『契約』を破棄する事にはならない。それに、貴女の今現在の『契約相手』であるニコラウスさんの『状態』を鑑みれば、悪くない話だと思いますよ?貴女もお気付きだと思いますが、ニコラウスさんの『寿命』、あるいは『存在力』は尽きかけているんですよね?元々、彼にはその『素養』、貴女の言葉を借りるならば、『適合者』になれるレベルに達していない。にも関わらず、その事にも気付かずに貴女との『契約』を継続している。まぁ、その事により、彼には『死後』にも大変な目に遭う事は確定した訳ですが、これは彼の自業自得でしょう。ここで問題なのは、その後、貴女はどうするか、です。」
「・・・ソ、ソレハッ・・・。」
「残念ながら、その時に都合良く貴女の周囲に『適合者』がいるとも限りませんよね?見たところ、貴女の『機能』は、長い年月修理や調整をしてこなかった事により、かなり劣化が進んでいる様だ。もちろん、ニコラウスさんとの『生体リンク』と、貴女自身に搭載された『自己修復機能』によって、最低限の『機能』は回復している様ですが、それにも流石に限度があるでしょう。」
「・・・。」
「『アストラル』に加え、僕らならば、『古代魔道文明』の『遺産』である貴女の修理や調整が可能となります。先程も申し上げた通り、僕は『古代魔道文明』の『研究家』でもありますからね。」
畳み掛ける様に、僕は彼女にとってのメリットを提示していく。
「・・・何故・・・?」
「はい?」
「・・・何故、貴方ハ、私、ノ、説得、ヲ、試ミテ、イルノ、デショウ・・・?・・・貴方、ノ、言葉、ヲ、借リルノ、ナラバ、貴方、ニハ、『縁切り』、ニ、ヨッテ、私、ト、マスター、トノ、『リンク』、ヲ、強制的、ニ、切ル、事、ガ、可能、ナノ、デショウ・・・?・・・ソウシタ、方、ガ、話、ハ、簡単、ダト、思ワレマス、ガ・・・?」
彼女は、ポツリッとそう疑問を呈した。
まぁ、彼女の出自は少々特殊だからなぁ~。
「いやいや、貴女は『意思』を持つ存在でしょう?確かに、その出自は我々『人間種』とは異なっているでしょうが、ただの『道具』ではないのですから、その本人の『意思』を問うのは当たり前の話でしょう?」
「・・・ッ!!!???・・・」
確かに、彼女は、言うなれば『道具』かもしれない。
しかし、そこに『人工霊魂』、不完全ながらも『アストラル』があるならば、ただの『道具』ではなく、“一個の人間”として接するべきだ、と言うのが、僕の『オタク』的矜持なのである。
いいよね、ロボッ娘ってっ!!!(゜∇^d)!!
『オタク』としては、是非とも仲間に加えたい『種族(?)』の一つだが、
「いいからこっちこいっ!!!ぐへへ・・・。」
と言うのは、流石にちょっとねぇ~・・・。
それ故、僕の感覚からしたら、『正式』な『交渉』によって、彼女の『ヘッドハンティング』をしているに過ぎない。
より『条件』が良い話を提示するのも、後顧の憂いをなくす事もその為だ。
しかし、彼女からしたら、そんな事を言う奴の方が特殊なのだろう。
まぁ、僕が言うのも何だけど、『オタク』ってのは、ちょっと変わっているからね。
ポカーンッとした『雰囲気』を醸し出していた彼女は、その後、思わず吹き出したのだった。
「・・・アハハハハッ・・・!・・・アァ、『グランドマスター』・・・。・・・マサカ、貴女、ガ、『予言』、シテイタ、存在、ガ、私、ノ、目ノ前、ニ、現レル、ナンテッ・・・!!!」
・・・『グランドマスター』?
彼女の『開発者』の事だろうか?
いや、あるいは、『高次』の存在である『神々』の誰かか・・・?
いやいや、しかし、彼女を生み出した『古代魔道文明』は、『神々』とは対立する『立場』だった様だしなぁ~。
彼女の出身母体である『魔道兵量産計画』は、『古代魔道文明』の末期に、『古代人』達が『神々』に対抗する為に『計画』されたモノの様だし、やはり『開発者』の事だろうかね?
などと『答え』の分からない事を考えてもキリがない。
とにかく、よく分からんが、何だか“流れ”はよさそうなので、僕は彼女の『意思』を再度問う事にした。
「・・・それで、いかがでしょうか?」
「・・・私、ハ・・・。」
・・・
『ロボット工学』における、ある種の永遠の『命題』。
それが、『ロボット』の『人権』を認めるかどうか、と言う事であろう。
人類は、有史以来、幾多の『道具』を生み出して来た。
『石器』から始まり、『コンピュータ』に至るまで。
しかし、それは、あくまで『道具』であって、そこに『意思』が介在する事は無かったのである。
・・・本来ならば。
しかし、『付喪神』の例にもある様に、『道具』が『意思』を持つと考える『思想』が古来より存在した。
そして、現在では、『人工知能』の登場により、それは現実的な問題として立ちはだかる事となった訳である。
『ロボット』を『人間』と同じ様に扱うべきか否か。
大半の者達にとっては、それは否定的な考えを持つ事が多いだろう。
『フランケンシュタイン・コンプレックス』の例にもある様に、被造物が造物主たる人間に牙を剥くのではないかと言う、潜在的な恐れが存在しえるからである。
『人工知能』を取り扱う『SF』作品などにおいても、人類に対して反逆するモノも多い。
単純に、今現在の人間の作り出した『コンピュータ』では、『ロボット』が『人間』と同じ様に、複雑な『思考』をする事は難しい、と言う問題もある。
それ故、『人間』に近しい『容貌』にした『ロボット』、あるいは『魔道人形』と言えど、あくまで『人間』が使役する『道具』の一つでしかない、と言う考え方を持つのも、ある種道理であろう。
そうした方が、色々と精神衛生上良いからだ。
事実、エイルも、過去の『開発者チーム』の者達からも、また、ニコラウスからも、あくまで『道具』として接してこられた。
これは、冷たい様だが、ある種彼らの方が普通なのである。
しかし、エイルには、向こう世界の『人工知能』とは異なり、『人工霊魂』、言わば不完全ながらも『アストラル』が存在するので、そうした扱いに、“不満”、あるいは“悲しさ”を感じていたのである。
言うなれば、彼女はその『身体的機能』はともかく、『精神的機能』においては、『人間』と全く変わらない『意思』や『自我』、『感情』を持っている訳である。
誰からも『自己』を認めて貰えないのは、それは“悲しい”だろう。
・・・『人間』ならば。
しかし、そんな問題を簡単に飛び越えて、彼女を“一個の人間”として認めてくれる者が現れたのだ。
それが、彼女の口にしていた『グランドマスター』であり、『オタク』的思考を持ち、『アストラル』にも精通しているアキトだった訳である。
さて、人間の社会でも同じ事であるが、不当な待遇に不満を持っていた者が、自身が活躍出来て、しかも『自己』を認めてくれて、更に待遇まで良い新たな『雇用先』が現れれば、その後どういう結果になるかは、ここで語るまでもないだろうーーー。
誤字・脱字がありましたら、ご指摘頂けると幸いです。
ブクマ登録、評価、感想等頂けると幸いです。是非、よろしくお願いいたします。
また、もう一つの投稿作品、「勇者の師匠は遊び人っ!?」も、本作共々、御一読頂けると幸いです。