エルシー誕生
いつものように、キーボードを叩く葉山陽平。
その背後に、魔の手が襲う。
数時間後、浩介の大学の研究室にて。
「なるほど、電気代がかかり過ぎて妹さんにボコられてここまで逃げて来たと。」
「そうなんだよ、まったく。兄に嫁ができなくてもいいのかあいつは。」
(現実の嫁を探す選択肢はないのかよ。)
ジト目で陽平を見つめる浩介。
「それより、外出したがらないお前がよくここまで逃げて来れたな。大丈夫なのか?」
色々突っ込みたい気持ちを抑えつつ、話題を振ってみた。
「ああ、こんなこともあろうかと、嫁サーバーのデータ通信方法を改良してスマホのアプリで起動できるようにしといてよかったなー、本当。」
自慢気に陽平はスマートフォンを取り出すと浩介に画面が見えるように頭上へと掲げた。
画面上には、手を振る可愛らしい女の子が写っていた。
「まったく陽平はいつも急なのですよ。」
「…なあ、陽平。一つ、聞いてもいいか。」
「あ、何だ?」
「あ、じゃねえよっ!エルシーがどうして自由自在に喋ったり動いたりしてるんだ!」
エルシーは陽平のスマホの画面上から研究室のパソコンの画面上に移動してはアイコンに隠れるような素振りを見せる。
「昨日思いついたプログラムでな、自動学習しながら自己判断、自己決定する方式を採用してみた結果だと思うんだが。俺にも分からん。ただ、問題があってだな。」
「問題?」
「オマケで自己修正・改変するような機能を盛り込んだ結果、訂正も停止も受け付けなくてなー。」
「また私に変なことすると、ゆ、許さないよ!」
教授のパソコンから声が聞こえた。
「と、言うわけだ。昨日いろんな奴が書き加えた所為で俺の理想の嫁からかなりかけ離れてるから、データを書き変えてみたんだが、数秒で元に戻る。」
「なるほどね。って納得できるか!」
ブツブツと小言が尽きない浩介に陽平が告げる。
「さっそくで悪いんだが、手伝ってもらうぞ。エルシーのデータは、この大学のサーバー上にある嫁フォルダにある。そのデータがどこまで改変の修正範囲にあるか調べたい。手当たり次第に探るぞ。」
「また勝手に。まあ、とりあえずやってみるさ。」
そう言って浩介はカタカタとスクリプトを打ち込む。
するとエルシーの身体が光り出し、メイド姿になった。
「どうだ、陽平。ナイスデザインだろ!」
「浩介、わかってないな。嫁はメイド服じゃなくで、エプロンだろ。」
するとエルシーの服が消えて裸エプロンになった。
「何するんですか!全く!」
エルシーの怒鳴り声が響くと、エルシーの周りが光り出し、初期設定の服装に戻った。
「なるほど、数秒間はデータの改変が影響するが、エルシーの意思で元に戻ると。」
「なら、エルシーが好むものであれば改変できる可能性があるってことか。待てよ、そもそもオレの理想の嫁なのに好みって何だ?」
「じゃあ、エルシーの好みを調べればいいんだよな。あれ、データがコンパイルされてるな。ソースが分からないと何もわかんねぇ。えーと、最後にエルシーのパーソナルデータを改変した人物を検索してみよう。…と、あった。」
浩介がサーバーへ接続したアドレスから検索をかける。
「該当するのは、みぽりん3号だ。こいつに会って直接コードを教えてもらえれば糸口が見つかるかも。」
すると、名前を見てからフリーズしている陽平がいた。その後奇声をあげる。
「うぇ!?マジか。はあ〜、参ったな。奴は苦手なんだ。」
「なんだ?そんな驚いた感じ、変だぞ。知り合いか?」
陽平は嫌そうな顔を浮かべながら答える。
「知り合いと言うより、有名人だな。」
陽平が促した方向にあるテレビに映る黒髪の女性。今話題のスーパーモデル美穂鈴サンゴ(みほすずさんご)その人である。
「な、な、な、何ぃーー!?」
「浩介、何でそんな驚いて、ああ、俺らの世界じゃあこっちの方が有名だったか。久保田美穂ー」
その名前を聞いて驚いていた浩介が冷静になる。
「全国高校ロボットコンテスト3年連続チャンピオンーそんな彼女が…何で?お金なかったの?」
浩介は、天然である。
「まあ、会えばわかるよ。」
浩介の天然を嘆き悲しむ陽平であった。