93 いざ開幕
次の更新は2/19(月)です。
開始まであと数分。
俺は、右隣の里沙と話をしていた。
「あの由香がこんなに人気なんて嘘みたいね」
「ああ。でも、何だか自分のことのように嬉しいな」
「そうね。変な感じ」
由香は、俺たちにとって友達以上の存在であることは間違いない。
数年間会っていなかっただけで、確かな繋がりはある。
遅かれ早かれ、結局俺たちはこうして出会う運命なのさ。
本当、2人とも変わってくれたようで、助かったぜ。
……。でも、里沙と由香が傍若無人、やりたい放題のままだったら?
俺は犬のような扱いを受け、パシリにされているのか?
とびきり可愛い美少女2人の犬……。
それはご褒美……?
いやいや、変な想像は止そう。
俺は新たなる境地を開いてしまう前に、究極生命体のように考えるのをやめた。
体育館のステージは幕で閉じられていたが、その奥から微かに音が聞こえてきた。きっとスタンバイしているのだろう。
こちら側とあちら側、景色の見え方はどう違うのか。
「そういえば、俺たちは由香の公式ファンクラブらしいぞ」
「どういうこと? しかもらしいって?」
「由香が認めたファンということらしい。俺が1号で里沙が2号、亜子が3号だ」
「何で私が1号じゃないのよ」
「俺の方が認められてるってことかもな」
「何よそれ。後で由香に掛け合っておくわ」
「俺は譲らないぜ」
「けち」
里沙は頬を膨らまし、そっぽを向いてしまった。
その頬をツンツンしてやろうか。それは、セクハラ案件か。
俺は里沙の顔をじーっと見つめることにした。
「……。何? そんなに私の顔が面白いの?」
「何でもない」
「もう……! 何なのよ」
ふふふ。少しからかってみたくなっただけだ。
本当にお前は可愛くなったよ。
「イチャイチャしておるな」
左隣に座る佐々木部長が割り込んでくる。
「イチャイチャしてません」
里沙はキッパリと断言した。
「ところで鈴木。この高校にはあるジンクスがあることを知っているか?」
「ジンクス……?」
俺はわざとらしく知らないふりをしたが、まさかあの願い事の件か?
部長は、俺にだけ耳打ちするようにボソリと教えてくれた。
「知らないのか。文化祭が終わった後、男女のペアで体育館の裏にあるお地蔵さんのところへ行くと恋愛成就できるそうだ」
何ですと!? 里沙が言っていたこととは、少し違いがありますね。
「そ……そうなんですか……」
「ああ。ぜひ彼女と行ってみてくれ。俺はお前たちがこの後居なくなっても、何も言わない」
部長は、噂好きのおばさんのようにニヤニヤしていた。
まさにこのライブの後、行く予定だったのに。
変なことを聞いてしまったな。
「2人で何をコソコソと話したの?」
「ちょっとな……」
「教えてよ」
「今度な」
「けち」
そんなこんなで、里沙とやり取りをしていると、すぐに時間はやってきた。
体育館の照明が暗くなり、館内のざわつきも一気になくなった。
『会場にお集まりの皆さま、大変お待たせいたしました。ただいまより、当校軽音楽部のバンド、ブルー・フル・ブラッドによる演奏を開始いたします』
アナウンスが体育館内に響くと、すぐさま歓声が沸き起こった。
そして、ブザーの音と共に、幕が開く。
ステージの上には、ロックな衣装に身を包んだ由香を含む、4人のメンバーが立っていた。
続く




