91 ゴーインエンジョイ
次の更新は2/14(水)です。
占い女子が淡々と秋葉の結果を告げる。
「押してダメならもっと押せ。引けば最後。あなたの道は閉ざされてしまう。希望の道はまだいくつも広がっているでしょう」
秋葉はその占いを食いつくような表情でしかと聞いていた。
そして、その意味を理解したようだった。
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
圧倒的な感謝。
秋葉は俺の方を見ると、興奮した様子で堂々と宣言した。
「宏くん……! 私まだまだ頑張るから! 絶対に私のものにしてみせるから!」
俺のことになると、周りのことが気にならないみたいで、教室内に響き渡る声だった。
突然の恋愛宣言に他の人たちも驚く中、織田が一番驚いていた。
「ええ!? 2人ってどういう関係!?」
織田は俺と秋葉を交互に、未知の生物に出会ったときのように何度も見てきた。
「そっかー。春奈は知らないもんな。鈴木のたらし伝説」
「嘘。鈴木って最低な野郎だったんだ」
笹川は人聞きの悪い言い方でもって、織田に誤解をさせた。
「待て待て。俺はたらし野郎でも何でもない」
「はぁ……。君ってやつは」
山内まで、やれやれといった感じで肩をすくめた。
この展開、何度経験すれば済むの!?
「宏くんはたらしじゃないよ」
「そうだ、秋葉からも何とか言ってやってくれ」
元はと言えば、お前があれほど堂々と宣言したからだ。
責任を取ってもらおう。
「私が宏くんを好き……ううん……愛してるだけ。宏くんが全然振り向いてくれないのは、私の努力がまだまだな証拠かな」
ナンテコッタ。
余計に俺が最低の男に聞こえてしまう。
「えぇ……。鈴木……」
織田よ。汚物を見るような目はやめてくれ。
「違うから! いや、秋葉の言っていることは違わないかもしれないけど、俺の好きな人は……!!」
危ねぇ! 俺も宣言してしまうところだった。
必死に誤解を解こうとしていた俺は、力が入り、気づくと織田の両腕をガッチリと鷲掴みしていた。
織田は俺から顔を逸らし、わざとらしくこう言った。
「へ〜。鈴木って結構強引な男なんだ。秋葉さんを目の前にして迫ってくるなんて。私、強引な人に弱いんだよね……」
織田は意外にも頬を赤らめていた。
ああもう。織田は何をしでかすか全く読めない!
俺は慌てて、手を離す。
「鈴木! 春奈まで手にかけるとは、やるなぁ!」
「そんなつもりじゃない!」
秋葉は俺の袖をギュッと掴むと、自分の方に力強く引き寄せた。
「宏くんは渡しません」
「ズキューン! 秋葉さんも可愛い!! 今度は秋葉さんに惚れちゃいそう……」
織田はまた頬を赤らめていた。
こいつ……。ひょっとして何でもいけるクチか?
「それより鈴木。さっき『俺の好きな人は……』って言ったよね」
笹川は俺の突かれたくないところを、逃さないように突っ込んできた。
「あー……。言ってない」
「絶対言った。それで、好きな人って誰なんだ〜?」
笹川はニヤニヤしながら俺のことを指でつついてきた。
こそばゆいから手を止めるんだ。俺は女子の攻めに弱いぞ。
「おほん! イチャイチャするのはその辺にして次に行こうか」
「えー。せっかく鈴木とコミュニケーションしてたのにー」
助かったぜ、山内。
彼の先導の元、俺たちは占いの館を出て、少し早めの昼食をとることにした。
あ、そういえば俺だけ占ってもらってないぞ。
俺たちは、嵐ヶ丘高校文化祭名物、通称食べ歩きロードへ向かった。
外で食べ物の屋台がいくつも開かれている。まるで、夏祭りのようだ。
いざ現場へ到着すると、けっこな人で賑わっていた。さすが名物。
しかし、この屋台群。すべて業者に依頼しているのである。
それでいいのか嵐ヶ丘高校。せめて生徒たちでやるべきでは?
「う〜ん! 美味しい!」
いつの間にか笹川だけ、屋台のど定番、チョコバナナとリンゴ飴を手にしていた。
「甘い匂いがするー。何食べよっかなぁ」
秋葉と織田も目を輝かせながら雰囲気を楽しんでいる。
もっとこう、ガツンといきたいな。
男の屋台といえば、焼きそばかたこ焼きか、焼き鳥も捨てがたい。
「何食べる?」
隣でキョロキョロしている山内に尋ねる。
「そうだね。アレなんかどう?」
山内が指差す先には、イカの姿焼きの屋台があった。
渋すぎるぜ。普通、高校の屋台でイカの姿焼きなんて売りますか?
山内と一緒にとりあえず近くまで行ってみると、香ばしくて食欲を唆る香りが漂ってきた。
女子勢がベビーカステラに夢中になっている間に、俺と山内はイカを食すことにした。
運良く列が途切れたので、素早く購入し、立ち食いをするために屋台から離れたところに退いた。
すると、偶然にも華愛子先輩が同じくイカを頬張っていた。
「あ、どうも」
「おや、偶然ですね。今日は彼女さんと一緒じゃないんですね」
「里沙は彼女じゃないですよ」
「おやおや、私は関野さんのことを彼女だなんて一言も言ってませんよ」
ドキッ! 華愛子先輩の鋭い指摘に、俺はイカを持ったまま間抜けにも固まった。
「なるほど。鈴木君はやっぱり関野さんのことが好きなんだね」
「それは……!」
「否定しないね……。大丈夫。僕は応援しているよ」
「キャー。私もです! 早くステキな写真を撮らせてくださいね」
そうか。2人とも恋の味方になってくれるのか。素直に嬉しいね。
俺はイカと一緒に、仲間のエールも噛み締めた。
華愛子先輩のような女子がイカの姿焼きを豪快に食す姿には、突っ込むこともなく、昼食タイムが終わった。
この文化祭。どこで誰に出くわすか、油断も隙もない。この先も、まだまだ長そうだ。
続く




