表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
恋のあらし吹く文化祭編
95/177

90 照れ屋な乙女ん

次の更新は2/11(日)です。

 俺は促されるまま里沙の隣から立ち上がり、秋葉と並んだ。

 メイドと執事が横並びになった図の完成である。

 女子がメイドなら、男子は執事っぽい格好をしている。こういう出し物は雰囲気が大事だからということで、俺たちもそれっぽい格好しているわけだ。


 秋葉がテーブルの上に置かれたお菓子と飲み物に向かって、ハートを模した手を構えた。俺は見よう見まねで同じポーズを取る。


「えー!? 何々〜? 2人ともどうしちゃったの?」


 倉持が興味津々に質問をしながら、カメラをポケットから取り出した。

 まさかこんなポーズを撮るのではないだろうな。

 文化祭のノリでやっているが、後から思い出すと恥ずかしいヤツじゃないか。


「ご主人様の料理が美味しくなりますようにー」


 はぁ……。やるしかないか。


「「萌え萌え〜キュン」」


 秋葉の可愛らしい声の裏にボソリと静かに、俺の少し低い声をのせた。

 その瞬間、案の定、倉持はカメラで俺たちの勇姿を捉えた。

 もうどうにでもなれ。いっそのこと、ネットでばら撒いて、今話題の萌え萌え高校生として一世を風靡すればいい。


「何て言ったの? よく聞き取れなかったわ。もう一回お願い」


 鬼か! もう一度やれと言うのか!

 しかも、里沙以外はニヤニヤしている。

 恐らく里沙は、初めて聞く謎の言葉を聞き取れなかったのであろう。

 彼女に悪気はない。その証拠にほら、とても純粋そうな顔でこちらを見ているではないか。

 俺たちを辱めようなんて微塵も思ってないはずだ。


 皆の衆よ。俺の立場をわかってくれ。これは可愛い可愛い幼馴染の願いを叶えるべくやるのであって、俺の女装めいた趣味ではないからな。


「よく聞いておくんだ。ご主人様の料理が美味しくなりますように〜」


 今度は俺が出囃子を担当した。


「萌え萌え〜キュン!」


 あれ!? 秋葉も一緒にやってくれないの!?

 秋葉は俺の隣でクスクスと笑っていた。

 酷すぎるぜ……。秋葉は俺の羞恥心に満ちた様子を楽しんでいるに違いない。

 俺は顔が熱くなり、耳まで赤くなっているのが鏡を見ずとも分かった。


「萌え……?」


 里沙はまだ言葉の意味がわかっていないようだ。


「そう。萌え萌え……キュンだ」

「萌え萌えキュン?」

「お……おう」

「ふふふ。何それ。ふふふ。おかしくてしょうがないわ」


 やっとの事で里沙は意味を理解し、涙目になるほど笑っていた。

 ははは……。そこまで笑ってもらえるなら本望さ……。


「あはは。もう一回やってよ」


 今度は倉持が笑いながら、絶対にからかいながら、頼んできた。

 誰がもうやるものか。


「もうやらん!」


 俺の断りに対し、里沙が冷たい目で見てくる。

 何だその目は。とにかく、絶対に、萌え萌えキュンなんてもう言わないからな。

 他の友達も顔を合わせて、クスクスと笑っていた。

 穴があったら入りたいとは、まさにこのことだ。



 午前11時。なんとかメイド喫茶の当番を乗り切り、晴れて自由の身となった。

 まさか、自分の案がここまで自分を追い込むハメになるとは。

 里沙たちが帰った後は、皆んなの温かい視線を受けながら調理場へ戻ったが、俺は無言でやり過ごした。

 この一件で、俺は本物のメイド喫茶の店員さんを尊敬するようになった。

 さすがプロ。彼女たちは堂々としており、俺みたいに生半可な気持ちでは怒りの鉄槌が下されるだろう。


 さて、どこから攻めようか。

 制服に着替え直し、廊下で皆んなが揃うのを待つ。

 俺と山内は早々に着替え終わり、文化祭のパンフレットを眺めていた。


「ここに行ってみようよ」

「ん? 占いの館……。行ってみるか」


 占いとは、これまたベタだな。

 まあ女子も一緒だからいいかもしれない。

 そう、結局俺は、山内と秋葉と笹川、織田と一緒に回ることになった。

 内心、飛び回るほど嬉しい。文化祭を男女数人で謳歌できるとは、まさに青春、悔いなしですぜ。

 実は昨日、寝る前にベッドの上で転げ回ってたのは内緒の話。


「お待たせー」


 秋葉たちも着替え終わり、バタバタとやって来た。

 準備完了。占いの館へ行くことを告げると、快諾された。

 場所は3年生の教室、少し歩く必要がある。


 いつもより人通りの多い廊下を進み、占いの館前に着くと、普段来ることがない場所に少しワクワクした。

 教室の扉の上には、『占いの館』と、紫の背景に白い字でそれっぽく書かれている。

 扉を開けると、幾つかブースが設けられており、俺たちは人の並んでいないブースに向かった。


「こんにちは」


 まずは山内が爽やかに挨拶をする。


「こ……こんにちは!」


 魔女のような服装をした女子が照れながら山内に挨拶を返す。

 彼女が座る前の机に置かれた水晶が、彼女のトキメキを代弁するかのごとく反射した。


「まずは、僕から占ってもらおうかな」

「はい……!」


 占い師役の女子は、水晶の上に両手をかざした。

 そして数秒すると、結果を話し出した。


「見えます……。あなたの未来が見えます」


 本当か? 特に水晶玉に変化はないぞ。というか、これは水晶ではなくガラスか何かだろう。


「あなたの知らないところで、出会いがいくつも生まれるでしょう。時には結ばれ、時には解け、最後に残るは途切れ途切れの傷んだ糸だけ。解れを直すためには、沈黙を貫くべし」

「ふーむ。僕にはよく分からないな」


 なるほど。この一節は、彼女ができても、残念な野郎だということに気づいた女子が離れていくということを表してるみたいだ。

 この占い、的を射ている。俺は、占ってもらうことが楽しみになった。

 続いて笹川、織田と占ってもらったが、特に当たり障りのない結果となった。


 そして、次は秋葉である。果たしてどういう結果が出るのやら。

 俺は自分のことのように、占い女子の発言を今かと待っていた。

 たかが占い、されど占い。まるで、星座占いや夢占いに夢中になり、その結果に一喜一憂する乙女の気分だ。

 しつこいようだが、俺に女装めいた趣味はないぞ。


続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ