89 スパイスなガールズ
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高校一の美少女のお出ましにメイドたちに緊張が走った。
誰もが案内役をためらい、ピリッとした空気が流れる中、秋葉は調理場へ逃げ込んできた。
「どうした?」
「だって……関野さんの友達が大勢いるから……」
そうだ。最近は色々と積極的すぎて忘れがちだが、秋葉の本質は恥ずかしがり屋だ。
「恥ずかしいのか……」
「う……うん……」
顔を赤くしてモジモジしている秋葉を、他の男子たちは下品な目で見ている。
ここにいる方が恥ずかしいと思うのは俺だけだろうか。
秋葉は、カーテンの隙間から様子を伺っていた。
俺は客席の方へ出ようか迷っていると、笹川が現れた。
どうやら、笹川が案内をして注文を受けたようだ。
「アップルティー5本と、お菓子の盛り合わせお願い! あと鈴木!」
「……俺!?」
なぜだか普通の注文に、俺の名前が紛れ込んでいた。
「里沙がご所望だよ」
「はいはい……」
俺は色々な不安を抱えながら里沙たちの座る席へと向かった。
クラス一同が固唾を飲んで見守る。
「おう。よく来てくれたな」
「ふふ。楽しそうでいいわね」
倉持が里沙の隣で手を振り、他の友達もぺこりと会釈をしてきた。
俺も営業スマイルで手を振り返す。
「秋葉さんのメイド姿も拝みに来たけど、いないの?」
「あー、恥ずかしいって」
「照れ屋さんね……」
俺は調理場の方へ振り返ってみたが、相変わらず、隙間から覗いているだけだった。
やれやれ。呼びに行ってやるか……。
調理場へ一旦戻ろうとしたが、倉持の一言によって引き止められた。
「宏ちゃんも座りなよ!」
倉持は里沙の隣を指差している。
彼女たちが座っているのは6人掛けの席で、残り1席、里沙の隣が空いている。
「店員だからそういうわけには……」
「いいから、いいから!」
俺が躊躇っていると、里沙も催促をしてきた。
「宏介、座りなさい」
だから、俺は犬か。言っておくが俺にそんな趣味はないぞ。……たぶん。
教室内を見回すと、クラスメイトたちは顎で「座れ」と合図をしていたので、しょうがなく座ることにした。
これはサボっているのではなく、接客の一環だ。
里沙の隣に座ると、対面に見ず知らずの女子たちを迎えることになった。
うう……。緊張する。
「あなたが鈴木君……? 里沙からよく聞いているよ」
そう語りかけてきたのは俺の真正面に座る女子だった。
「ちょ……ちょっと!」
里沙はまずそうな顔をして彼女を制止する。
だが、止まらない。
「男の子の話になるといつも鈴木君の話ばかりだよね」
「「「ねー」」」
倉持含め、他の女子たちが賛同する。
「仲が良い男子なんて、宏介ぐらいしかいないのよ!」
「きゃあ。特別な存在ってこと?」
「もう……!」
俺は、ガールズトークに巻き込まれながら、どう反応して良いのかわからず、途方にくれた。
すると、先まで隠れていた秋葉が注文の品を持ってやって来た。
恥ずかしさはどこへ行ったのやら、満面の笑みだ。
「ご注文の品です! ご主人様!」
「あ! 秋葉ちゃん!」
倉持が全身を舐め回すように秋葉を見る。
変態オヤジそのものだ。
「うーん! 激かわじゃん!」
「あ……ありがとう……」
やっぱり本心は恥ずかしいみたいだ。
秋葉の顔は、少し赤くなった。
秋葉は注文の品をテーブルの上に置くと、俺の肩を人差し指で叩いて合図をしてきた。
「一緒にやらなきゃ……」
「え!? マジで俺もアレやるの!?」
「うん……」
まさか、俺も魔法をかけることになるとは……。
できればご遠慮願いたいが、秋葉の目は許してくれないようだ。
続く