87 オープン・ザ・メイド喫茶
次の更新は2/5(月)です。
文化祭当日。
いつもより少し早めに家を出ると、この日は一人で登校した。
里沙は俺より早めに出たようで、玄関のところで待ってみたが、出てくる気配がなかったので、不審者だと思われないうちにマンションをあとにした。
教室に入り、皆が揃うと、メイド喫茶の最終打ち合わせが行われた。
開店は10時から。俺はその時間に当たる当番に入っている。
午前中はお客さんもそこまで多くないだろう。
基本的な構成はシンプル。女子がメイド役で男子が食事の用意をする。
俺含め、ほとんどの男子が女子のメイド姿を拝みたいだけになっている。
開店前。
午前当番の女子たちがメイド服に着替え終わり、締め出されていた教室に再び入ると、当番の男子たちからは歓声が上がった。
「ちょっと男子! エロい目で見ないでよ!!」
気の強い女子から釘を刺される。
しかし、欲望に素直な男子たちは御構い無しだ。
その普段とは違った、絶対領域を持つメイドたちをこれでもかというぐらい目に焼き付けている。
俺の近くにいた秋葉がボソッと俺に話しかけてきた。
「宏くん……どうかな……?」
「似合ってると思うぞ。さすが秋葉だな」
「えへへ。ありがとう」
もはやメイド服の説明はいるまい。
コスプレ喫茶で働いていたという箔が付いているからか、秋葉が他の誰よりも輝いて見えた。
「うわー! これがメイド服か!」
俺たちのすぐ後ろで笹川と織田が一緒に騒いでいた。
笹川はさながら洋風メイドといったところか。
どこかのお屋敷で働いているような勢いだ。
開店10分前。
山内が号令をかけると、各自持ち場についた。
受付係が廊下を確認すると、割と人が歩いているらしい。
予想とは反して、朝から忙しくなりそうだ。
女子たちも、クラスメイト以外の誰かにメイド姿を見られるのが恥ずかしいのか、ソワソワしている。
俺は簡易的なカーテンで仕切られた、調理場で山内と話していた。
調理場と言っても、飲み物とお菓子を紙コップと紙皿へ移すだけの場所である。
男子にとっては、実に簡単なお仕事だ。
「まるで桃源郷だね」
「桃源郷……?」
「そう。この素晴らしい眺め。最初はメイド喫茶もどうかと思ったが、いいものだ」
「なんだ。山内も好きなんだな」
残念なイケメン(俺命名)山内はカーテンの隙間から客席の方を覗き、不気味な笑みを浮かべた。
他の男子は、その姿を見て若干引いている。
「ほら、鈴木君も一緒にどうかな?」
「いや……遠慮しておこう」
確かにいくら見ても興味は尽きないが、変態と思われても嫌だからな。
山内よ。お前がやるからこそ、爽やかさでカバーされている。
きっと女子たちも山内に見られるのは嫌じゃないはずだぜ。
「ふぅ……。開店したね」
どうやら時間が来たようだ。
「いらっしゃいませ! ご主人様!」
開店直後、お客さんが数人、入ってきた。
メイドたちのまだ慣れない、挨拶が聞こえてきた。
続く