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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
恋のあらし吹く文化祭編
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86 ロマンティック叶えたい

次の更新は2/3(土)です。

「お腹もいっぱいになったし、そろそろ帰りますか」


 俺がどうしようか迷っていると、由香は解散を宣言した。

 

「えー? もう帰っちゃうの?」


 亜子は寂しそうに、そう大きな声で言った。


「明日は朝早いからな」

「そっか。明日だもんね文化祭」

「うん。亜子も聴きに来てくれるよな?」

「何を?」

「私の歌だよ。今バンドでボーカルやってるの」

「そうなんだ!! 絶対行く!」

「15時に体育館ね。見に来てくれるかな?」

「いいとも!」


 明日28日は土曜日で亜子も中学校は休みのため、観にくることが可能だ。

 俺たちの文化祭は一般公開もするためお客さんの数はそこそこあるらしい。


 俺たちは由香を見送ると、リビングに戻りテレビをつけた。

 お笑い芸人がドヤドヤと騒ぐバラエティ番組を横目に、亜子が由香と再会した余韻を噛み締めていた。


「そっかぁ……由香姉もお兄ちゃんたちと同じ高校かぁ……」

「まだ夢を見ているみたい……。本当に人生って不思議ね」

「全くな……。……ってお前はさも当然のように馴染んでいるな」


 里沙はまだ帰らずに俺の家に居座っていた。


「当たり前でしょ。これはお隣さんの宿命よ」


 宿命ですか……。

 まあ迷惑ではない。むしろ嬉しいから御構い無く。


「俺はいいけど、おばさんたちが心配しないか?」

「今更何言ってるの? ここも私の家みたいなものよ」


 確かにそうだ。

 今から何分もかけて帰るわけでもない。徒歩数秒で終わる。

 壁に穴を開けたらいつでも話せる空間の出来上がり。

 この距離感、もはや親戚のような家族のようなものだ。



 亜子がお風呂に入りに行くと、里沙はソファからテーブルの所の椅子に移った。

 そして俺も手招きをされ、里沙の向かいに座らされた。


「それじゃあ今から明日の打ち合わせね」

「打ち合わせ……?」

「そう! 嵐ヶ丘高校の七不思議の一つ、祭りの後の願い事よ」

「何だそれ?」

「聞いたことがないみたいね。体育館裏にお地蔵さんがあるのは知ってる?」


 体育館裏か……。

 里沙に連行されたことはあるが、お地蔵さんなんてあったかな?


「知らないな」

「あまり有名ではないから仕方ないわね。簡単に言うと、文化祭の日の夕方にお地蔵さんにお願い事をすると、願いが叶うらしいの」

「可愛らしいジンクスだな」

「これには条件があって、男女のペアで行かないとダメみたい」

「なるほど。それで俺と一緒に行こうと?」

「そうよ!」


 里沙はそういうジンクスめいたことを信じないと思っていたが、子どもっぽく可愛らしいな。


「へー。ロマンチストだな」


 俺はからかうようにニヤリとした。


「いいじゃない! 私はそういうの、好きなんだから」

「否定はしてないだろ? 別に構わないが、俺でいいのか?」

「だって……こんなこと宏介にしか頼めないわ」


 里沙の言葉に俺はドキりとした。

 俺にしか頼めないって、どういう意味が込められているのだろうか。


「でも、他のみんなも流れで来るだろうな。特に秋葉とか……」

「それは許されないわ。男女のペアで行かないとダメなの。大勢で行ったらダメ」

「そ……そうか。じゃあ策を考えないと」


 里沙の執念は恐ろしい。たかがジンクスだが、俺はその気迫に圧倒された。

 これは……恋の試練……!?


「2人で行くのはいいとして、他にもペアはいると思うんだが……。その、カップルとか……。見られても大丈夫か?」

「それは構ってられないわ。周りの目を気にしたら負けね」


 高校一の美少女と2人きりでそこにいる。

 その噂は瞬く間に広がるだろう。もはや避けて通れない。

 でもさ、噂が立っちゃえばいいんじゃないかな。

 里沙が好きなんだから、俺にとっては好都合。

 その後のことは、まさしく後の祭りである。

 事実、俺と里沙が付き合っていると思っている人も多い。

 あれ? これって、里沙がどう思っているのか分からないが、俺にとっては最高の状況じゃないか!


続く

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