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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
素晴らしき高校生活と恋の始まり編
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8 甘い罠にご注意ください

 学校一か。何かで1番になるなんて程遠い世界だ。考えてみれば、かけっこでさえ1着になったことはない。

 それに比べて里沙はどうだ。小学校、中学校では女番長と言えど、学校一強い、恐い女だった。そして高校では学校一の清楚な美少女。

 この感情はなんだろうか。昔はよく一緒にいた里沙がこんなに遠い存在だったとは。嫉妬ではないと思いたい。


 などと考えながら俺は部長とゲームをしていた。

 最近よく考えてしまう。悩みとは言わないが、夕立のゲリラ豪雨で雨が降ってくるかの如く、俺の心に降り注ぐ。


「また俺の勝ちだな」

「あっ」

「どうした? 突然弱くなったぞ」

「ちょっと考え事をしてまして」


 SF研究部に入部してから数週間経ったが、俺は部長とゲームをすることが日課となっていた。

 柚子先輩は相変わらずサボテンと話したり、学内の草むしりをしたりしている。まるでボランティア部だ。

 里沙と笹川は仲が良くなり、一緒にお菓子を食べたり、ガールズトークをしている。

 この他にも色々と遊んでいるが、大体の時間をそうやって過ごす。

 そして、SF研究部は緩い部活であるため絶対参加というわけではない。

 柚子先輩、笹川は来ない時がある。なんと、部長でさえも来ない時があるのだ。

 今の所、入部してから絶対に参加しているのは、俺と里沙ぐらいだ。



 そろそろ俺も嵐ヶ丘高校での生活に慣れ始めてきた頃合だ。

 俺がクラス内で話すのは主に秋葉であり、彼女とのお昼ご飯は習慣となっている。他に話すのは、笹川と委員長の山内ぐらいだろうか。

 ただ、体育の授業で他のクラスメイトと連携が取れるぐらいには、俺もクラスに馴染んできている。

 相変わらず、里沙からは結構な頻度でサークルのメッセージが届く。

 律儀に返信している俺がいることも事実だ。


 朝の登校に関して言えば、家を出たタイミングで里沙に会う。タイミングをずらせば避けられるのだが、なぜか俺たちはそうしない。

 そして、駅前あたりで倉持と合流する。

 下校はSF研究部の皆んなで駅まで一緒に帰り、そこからは里沙と帰る。

 何だかんだそれなりの高校生活を送れているな。



 そんなある日の登校中、里沙が問いかけてきた。


「そういえば宏介は何を研究するか決めたのかしら?」

「うーん。まだだ。里沙は?」

「私もまだ。何でもいいって言われると困るわね」

「そうだな。確か文化祭って10月だろ? 今は6月の終わりだからまだ時間がある。じっくり決めればいいと思う」

「そうね……」


 そう、俺たちは何を研究発表するか悩んでいた。里沙の言う通り、何でもいいと言われれば中々決まらないものである。


 そんな俺たちの悩みを吹き飛ばすかのように倉持が俺と里沙の肩を叩き、会話に入ってきた。


「おっはようー!!」

「うーっす」

「おはよう。今日は一段と元気ね。何かいいことでもあった?」

「聞いてよ! 昨日雑誌見てたらさぁ」


 倉持はそう言うと鞄から女子向けのファッション雑誌を取り出した。

 そして、あるページを開いた。


「これ! 見てみて。めっちゃ美味しそうじゃん!」


 そこに載っていたのは俺たちの最寄駅である『嵐ヶ丘』から一駅、『一護宮』という駅の近くに有るスイーツ屋の記事だった。


「あ、美味しそう!」

「でしょー。でさ、今日の放課後さっそく行かない? 里沙の部活って絶対参加じゃないんでしょ?」

「そうだけど……」


 倉持は俺の方を見ると、何かを思いついた顔をした。


「そうだ! 宏介君も一緒にどう?」

「え!? 俺!?」

「うん! 駄目かな?」


 俺は突然の誘いに、困っていた。男友達なら何ともないが、相手は女子だ。しかも両手に花である。

 それに、スイーツ屋なんて文字どおり甘美な響きの花園に足を踏み入れていいんですか!?


 憧れの状況であるが、勇気が出せないでいた。いざとなったら恥ずかしい。


「え……ええと……」

「迷ったら行く! 嫌そうじゃないし、決定ね!」


 半強制的に倉持に決められたが、正直助かった。


「じゃあ放課後に校門前に集合で!」


 こうして、俺たちは3人で初めて放課後に遊ぶこととなった。



 そして、来る放課後。

 一応、笹川に俺と里沙が今日は不参加であることを伝え、校門に向かった。

 そこには既に里沙と倉持、2人の姿があった。


「遅かったわね」


 里沙は開口一番、俺にそう言った。

 俺も急いできたつもりだったが、里沙たちはもっと早かった。


「早いな! それと勘弁してくれ。お前たちとは一階分差があるんだ」


 倉持はいてもたってもいられない様子だった。


「早く行こうよ。今日1日、あのパンケーキのことしか考えられなかったんだから」

「うふふ。咲ったら。休み時間もずっとその話ばかりだったわね」

「どんだけ好きなんだよ」

「私のスイーツにかける情熱は誰にも負けない!」


 と宣言している彼女だが、はっきり言ってスタイルは良い。

 なぜ太らないか不思議だな。


 そうして合流してから倉持の先導の元、スイーツ屋へと向かった。

 女子2人と電車に乗り、隣駅に遊びに行くという状況に少しドキドキしている。

 今まで味わったことのない感覚に、俺は少し罪悪感を覚えた。

 他の男子たちの一歩先を行ったような気がして、優越感だったり、申し訳なさを感じる。

 ああ、女神様! 俺はこの上なくリア充です。よくこんな男に微笑みを向けて下さいました。感謝します!


 俺たちがスイーツ屋に到着すると、運良く空いているようだった。


「雑誌には行列ができるって書いてあったけど、ちょうど良かったね」

「運がいいわ。早く入っちゃいましょう」


 さっと店内に入り、店員さんに案内され、席に着いた。

 メニューを見るが、どれも甘ったるそうなパンケーキが目白押しだ。そりゃそうか。スイーツ屋だもんな。甘いものは好きな方だと思うが、どれもお腹に溜まりそうだ。


「私はこの雑誌に載ってた『ベリー甘いイチゴパンケーキ』にする!」

「私は『恋する乙女のチョコパンケーキ』にするわ」


 メニューの名前を読み上げるのが恥ずかしいんですが。


「俺は……『さわやかビーチのソーダパンケーキ』にしようかな」


 後味がさっぱりしそうなものを選んだ。


「あ! 3人とも違うね。せっかくだし食べ合いっこしようか」


 マジ!? 女子と食べ合いっこ!? それは許されるんですか!?


「ちょっと、咲! 宏介もいるのよ」

「えー、いいじゃん。友達だったら平気だって。あ、それとも恥ずかしいのかな?」

「べ……別に昔から知ってるんだし、今更恥ずかしいとかないけど……」

「けど?」

「もう、いいわ! 食べ合いっこしましょう!」


 夢みたいだ。まるで俺も乙女になってしまったかのような錯覚を覚えた。

 存分にパンケーキを味わうわ!



 パンケーキを注文し、待っている間に里沙はお手洗いへと席を立った。


 そして倉持は、急に神妙な面持ちになり俺に問いかけてきた。


「ねぇ、宏介君」

「なんだ?」

「里沙って元ヤンでしょ? 私知ってるの。嘘じゃないよ」


 驚天動地。

 倉持のその真面目な顔と目つきはハッタリでないことを示している。

 ここはどう返答すべきか。

 おどけて「ばらすぞ」なんて言っていた自分がいるが、いざこうなると胸の奥が締め付けらるようで全身から血の気が引いているのが分かった。

 それは、俺と里沙だけの秘密のはずだった。実際に目の前に、しかも近いところにそれを知る人物がいるとは。

 俺はその受け入れがたい現実に戸惑いを隠しきれなかった。


続く

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