79 再会 to the love song
黒坂先輩、いや、由香は俺たちを舐めるように見るとニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「へ〜。あの里沙がねぇ……」
これはまずい。俺は平静を装っていたが内心バクバクですよ。
そして、由香は里沙の肩を軽く叩き、こう続けた。
「ま、積もる話もあるけどまた今度な!」
た……助かった。
由香は何かを悟ってくれたのか、過去について特に触れることはなかった。
第一関門突破だ!
「まさか由香とこんなところで再会するなんて……」
「俺もびっくりした」
「それは私も一緒だって〜。超懐かしい!」
安心したのも束の間、柚子先輩が深掘りをしてきた。
「3人はどんな関係なの?」
由香は少し間を開けて当たり障りのない答えをしてくれた。
「ん〜。幼馴染ってやつかな」
秋葉の体がピクリと反応した。
そう。実は何を隠そう、もう1人のご近所さんだったのだ。
里沙より1年ぐらい早く転校してしまったが、由香は俺たちの家の向かいに住んでいた。
本当におかしな話だ。世界は狭い。
引っ越して離ればなれになったと思いきや、こうしてまた再会している。
別に桃園の誓いを結んだ覚えもない。
そして1番気がかりなのは、昔の里沙の性格の形成は由香に一因があることだ。
つまり、俺からすると恐怖の対象というわけだ。
ちなみに名前を呼び捨てにしているのは、本人の希望があってのこと。
「昔は2人の家の向かいに住んでいたんだけど、途中で転校しちゃった」
「そうなんだぁ。奇跡の再会だね」
「私は嬉しいぞ!」
今度は俺の肩を軽く叩き、こう続けた。
「昔みたいにまた仲良くしような! ししし!」
その無邪気な笑みの裏にどんな意味が込められているのやら。
そう考えるとゾッとしたが、ちくしょう、昔より大人びた顔つきに少しときめいてしまった自分が悔しい。
色々聞きたいことはあったが、場所も場所なのでお互いに連絡先を交換すると、由香は校内の練り歩きへと戻っていった。
「なるほどな。歌姫と交流があったとは」
佐々木部長がそう言うと、俺たち1年生は全員頭にハテナマークを浮かべた。
「どうしたお前たち? 何も知らないのか?」
「知らないです」
なぜ由香が歌姫なんて呼ばれているのか、俺も分からなかった。
それは里沙も同じで、笹川と秋葉は尚更だ。
「黒坂の歌は凄いぞ。去年の文化祭では一気に話題を掻っ攫ったからな。アイドルみたいなルックスもあるし、彼女の人気はうなぎのぼりだった」
「そうなると、この高校のアイドルですか?」
「うむ! 歌姫と呼ばれ、ファンクラブも存在する」
ファンクラブか。
確か山内の話だと里沙のファンクラブも存在するとか。
「お前たちも歌を聴きに行けば人気の理由はわかるさ」
「そうですか……」
意外だ。
昔は歌が好きというイメージはなかったが。
やっぱり人って変わるんだな。
「宏くんは黒坂先輩と仲が良かったの?」
秋葉が恐るおそる聞いてきた。
「まあな。もちろん学年は1つ上だったけど、俺と里沙にとって姉みたいな存在だったな」
「ふーん。そうなんだ……」
言わば黒幕か。
由香は表立って気性が荒いということはなかったが、里沙を世に送り出した実績がある。
由香は俺たちの前でのみ、やりたい放題だった。
良い言い方をすれば、俺たちの前では姉御肌だったということだ。
俺はこの奇跡の再会に胸が踊ったのか、胃が踊ったのかよく分からなかった。
続く




