78 思い出の歌姫
次の更新は1/19(金)です。
美術部のブースの隣には写真部のブースがあった。
俺は華愛子先輩の作品を探すべく、ブース全体にくまなく目を通した。
すると、見覚えのある人物の写真が1枚、額縁に入れられ丁寧に飾ってあった。
夕日をバッグに屋上で撮影された里沙の写真だ。
あの時、俺と一緒にいた場面ではない。いつの間に撮り直しをしていたのだろうか。
遠くを眺め、微笑を浮かべたその美少女はまるで映画のように美しい。
女優か……。演技が上手ければ、トップ女優までのぼりつめそうだ。
俺はスマートフォンを取り出して、こっそりと里沙の写真の写真を撮った。
華愛子先輩にお願いして複製してもらってもいいかな。
いやいや。絵も写真もそうだが、俺がストーカーみたいになっているじゃないか。
冷静になれ。正気を取り戻すんだ俺。
その時、俺を元の世界に戻すかのように大きめの鼻唄が聞こえた。
綺麗な声で「ふんふふーん」と俺の頭をくすぐる。
思わず声の出所を確認してしまうほど透き通った歌声だった。
その声の主は大広間に面した廊下をゆっくりと、周りを見渡しながら歩いていた。
手には『ライブ! 28日15時〜』と書かれている。
宣伝か。看板を持って校内を練り歩いているというわけだ。
SF研究部の輪に戻ると、里沙が問いかけてきた。
「どこに行ってたの?」
「ああ。ちょっとその辺に。ところで、写真撮り直したのか?」
「何で知ってるの?」
「今そこで見た」
「秘密にしておいたのに」
「何で秘密にするんだよ」
「だって……」
俺たちの会話を裂くように、鼻唄の女子がこちらにやってきた。
SF研究部は全員そちらに気をとられた。
「柚子だ〜! 何やってるの?」
「あ! 由香! ちょうど展示の準備が終わったところ」
「へ〜。今年もサボテンかな?」
よくご存知で。
どうやら、柚子先輩の友達みたいだ。
「その看板、明日の宣伝か?」
「そうだよ。絶対見に来てくれよな!」
どうやら佐々木部長とも仲が良いらしい。
俺たちは柚子先輩の催促の元、それぞれ自己紹介を済ませた。
鼻唄の女子は柚子先輩の友達で黒坂先輩という名前だ。
眺めのツインテールが特徴的で、地声は可愛らしい声をしている。
「よろしく! というわけで、みんなも見に来てくれよな!」
「はい!」
俺は勢いよく返事をすると、黒坂先輩はハッとした顔をした。
その後すぐに満面の笑みへと変わった。
「久しぶりだね、宏介! 里沙!」
「「あ!!」」
俺と里沙もその瞬間はっきりと思い出した。
「どうしたの? 知り合い?」
柚子先輩が興味津々に聞いてきたが、それは他の皆んなも一緒だった。
俺たちは思い出したが、思い出すということは昔のことを頭に浮かべること。
つまり、里沙の過去を知っているということだ。
今回の場合、倉持とは違い直接的にはっきりと知っている。
まさかのピンチ到来。こんなところで、なんてことないタイミングでバレてしまうのか?
バレたところでどうなんだ?
という疑問はあるが、本人が望まないうちは秘密にしておくのが良い。
俺と里沙は何も言えず、黒坂先輩の次の言葉に構えていた。
頼む! 願わくば何も言わないでくれ!
続く




