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清楚な幼馴染なんて存在するはずがない!  作者: えすけ
素晴らしき高校生活と恋の始まり編
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7 可愛い子には棘がある

 SF研究部の皆は俺に気づき、挨拶をしてくれた。

 そんな中、何も言わず俺をじっと見つめていたのが里沙だ。

 まるで、文句でもあるかしら? と言っているように見つめてきたのである。


「あれ? 結局入ることにしたのか?」

「そうよ。だって宏介がいるから」


 待て待て。その言い方だと周りがどう捉えるか考えるんだ。

 ほら、佐々木部長と笹川の方を見てみろ。2人とも、あっと何かに気づいたような顔をしているじゃないか。


「え? 鈴木と里沙ちゃんって付き合ってるのか?」

「違う!!」


 俺と里沙はまたハモりながら否定した。


「むっ。そうなのか。俺はてっきり、最初にここへ来た時から恋人同士だと思っていたのだが」


 部長はもっと勘違いをしていた。


「私は宏介と付き合っていません。ただ、彼とは幼馴染で友達というだけです」

「なーんだ。つまんないな」

「なるほどな。そういうことか」


 それが、ちゃんとした弁明になっていたのかどうか分からないが、佐々木部長と笹川の誤解は解けたようだ。

 そして、里沙の真の目的はもちろん俺の監視であろう。


「何はともあれ、関野みたいな美少女がSF研究部に入ってくれて嬉しいぞ!」

「美少女なんてやめてください」


 里沙は照れながらそう言ったが、それも演技だと考えるとゾッとする。



 その後、俺は入部届けを提出すると部長からSF研究部の詳しい説明を受けた。


「さぁ、鈴木も席につくんだ」


 俺は部長に促され椅子に座った。

 そして、部長はなぜか昨日と同じく窓際に立ち、腰に手を当てて話し始めた。


「改めてよろしくな、2人とも。我がSF研究部では何をしてもらってもいい。その辺に転がっているゲームで遊んでも漫画を読んでもな」


 うおお。何て素晴らしい部活なんだ! ってかこれを部活と呼んでもいいのか?


 部長はメガネを直すと片手を挙げ、勢いよく振りおろし、俺と里沙を指差した。


「だが1つ、条件がある。名目上は研究部。何でもいいから年に1度の文化祭で研究発表をすることだ!」


 そりゃそうだよな。何か活動しないと駄目でしょうね。


「研究発表ですか?」


 俺は思わず聞き返した。


「そうだ! 研究発表と言っても研究に関する掲示物を作るだけで良い。それを割り当てられたスペースに貼り付けるだけだ」


 安心したぜ。不特定多数の前で発表とか、勘弁してほしいからな。マジで苦手なんだ。


「何でもいいんですか……?」


 里沙はその漠然とした対象物に少し戸惑っているようだ。


「そうだ。例を挙げると、去年俺は嵐ヶ丘高校付近の町について郷土文化を発表した」


 なるほど。当たり障りのない無難なところだ。


「私は、どのお菓子が一番美味しいかについて研究するぞー!」


 笹川よ。それは研究と言っていいのか? ただの食べ比べじゃないか……。

 まあ、ともかく何でもありってことだな。


「今不在の柚子は……」


 部長が柚子先輩の研究対象を言おうとした瞬間、柚子先輩が部屋に入ってきた。


「お疲れ様ー。遅れちゃった。あ、宏介君も里沙ちゃんも来てくれたんだ!」


 ちゃんと名前を覚えてくれいている! それだけで俺は幸せです。


「はい! 入部を決めました!!」

「これからよろしくね!」


 天使だ。柚子先輩の眩しい笑顔が俺の心の雲を吹き飛ばしてくれる。

 柚子先輩がいるだけで、そこは華やかな空間になる。

 ああ、なんて尊い存在なんだ!


「今日も皆んな元気かなぁ?」

「もちろん元気……」


 柚子先輩は俺の返事を待つことなく、サボテンの並んでいる棚の前まで直行した。

 そして、サボテンに向かって話しかけはじめた。


「今日も皆んないい子だね。あ、昨日よりサボ吉は少し大きくなった? あ、サボ子は相変わらず綺麗だねぇ」


 目眩を起こしたような気がした。

 柚子先輩……? いきなり何をしているんですか?

 里沙の方を見てみると、彼女も戸惑いを隠しきれていなかった。

 苦笑いをしながら柚子先輩を見ている。こいつ、引いているな。

 だが、俺も少し引いてしまったのは間違いない。


「うふふ。サボ夫ったら!」


 柚子先輩は人差し指でサボテンを軽く突いていた。棘が刺さって痛そうだ。


「きゃっ! 今日は機嫌が悪いのね。でもこの痛み、嫌いじゃないよ」


 ひええ。変態がいる。あの天使のような柚子先輩はどこへ行った?

 俺の中の柚子先輩像が一気に崩れ落ちてしまった。


 部長と笹川は特に気に止めるそぶりも見せない。


「部長。柚子先輩のあれ。一体何なんですか?」

「ああ。鈴木と関野は初めてだもんな。柚子は、サボテンを愛している」


 いや、愛してるって……。わけがわからないよ。


「そうだったな。柚子の去年の研究発表はサボテンについてだ。他にも変わった趣味を持っているぞ。草むしりとか、苔の飼育とか。とにかくあいつは学校一の変わり者で有名だ」


 そうだったのか。俺の心は荒波に揉まれているかの如く動揺していた。


 柚子先輩は俺と里沙の目の前まで来ると急に熱く語り出した。


「2人はサボテン好きかな? 今はどの子もまだなんだけど、花が咲くと綺麗なの。あ、あとね、その隅っこで育ててるサボテンなんだけど」


 そう言うと、棚の角に置いてある平たい形をしたサボテンを指差した。


「ノパルっていうサボテンでとても健康にいいの。お腹の調子は良くなるし、美肌効果も期待できるよ」


 ちょっと待て。食べる話をしていないか?

 里沙は美肌効果という言葉に反応している。その反応は危険だぞ。


「うふ。もう少し育ったら2人にも食べさせてあげる」


 うわああ。お気持ちだけで結構です。柚子先輩の初めての手料理がサボテンなんて俺には耐えられません。


 その後も柚子先輩によるサボテン講座が続き、俺と里沙はゲッソリしていた。鳩が豆鉄砲を食らった気持ちが分かったような気がする。


「ははは。楽しそうだな!」


 部長は俺たちの様子を見て高らかに笑っている。

 俺は柚子先輩の見た目と中身のギャップに面食らってしまった。


「もう一度言う! ようこそSF研究部へ!!」


 とんでもない部活に入ってしまった。一気にそう思えてきた。



 部長は俺と里沙の対面に座り、奇妙なことを語り始めた。


「面白いことを教えてやろう。SF研究部には、あるジンクスがあってな。良くも悪くもここには『学校一』が集まる。ちなみに俺は、学校一のオタク」


 そういうことか。だから、この部室にはこんなにも漫画やらゲームが溢れているのか。


「そして、柚子は学校一の変態!」


 柚子先輩は不機嫌そうな顔で部長を見た。


「ごめん。間違えた! 改めて……。柚子は学校一の変わり者!」


 フォローになっていない気がする。

 さっきより不機嫌そうではないが、不服なことに変わりはないようだ。


「もう……!」


 腕を組み、頬を膨らまし、そっぽを向いている。

 柚子先輩はその呼ばれ方を気に入っていないらしい。当たり前だな。

 しかし、このやり取りだけを見れば何て可愛らしいお方なんだ。残念でならない。


「関野はもう決まっている。学校一の清楚な美少女!」

「そんな! そう言ってもらえて嬉しいです。ありがとうございます」


 里沙は清楚な美少女らしく部長に満面の笑みを向けていた。


「おおう。なんて可愛いんだ……」


 部長はその笑顔に少し照れているようだ。片手の甲で顔を多いながら頬を赤らめ、里沙を見ている。


「そして、笹川は学校一の運動神経。この前のスポーツテストではどの種目も学内1位を総ナメしている」


 素直に感心する。だが、なぜ文化部なんだ。その結果ならどの運動部からお声がかかっても不思議ではないと思う。

 俺は笹川に聞いてみた。


「だって運動部って厳しそうじゃん。私はのんびりやりたいのさー」


 お気楽に、マイペースに行きたい派か。中学の頃、バドミントン部をわずか1ヶ月で辞めた俺には共感すべきところがあるな。


 そして、部長はまた俺を指さすと、声を張った。


「さぁ! 残るはお前だけだ! 鈴木は一体何の『学校一』なんだ?」


 俺は……。俺は何なんだ? 特に思い当たる節がない。


「ひょっとしたら、俺は例外かもしれません」


 部長はニヤリと不敵な笑いを浮かべた。


「いいや、そんなことはない。鈴木からは何か不思議なオーラを感じる。今は該当しなくても、そのうち何か当てはまるようになるさ。そういうわけで今後が楽しみだな! ははは!」


 やっぱり俺はとんでもない部活に入ってしまったかもしれない。


続く

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